警備のために正門前に駐在している冒険者達も、僕がここの出身だということは知っていて、冒険者証を見せたら快く門を開けてくれた。
 こういう警備関係の依頼を専門に受ける冒険者達もまあまあいる。性質上迷宮に潜ることは少ないけれどその分、治安維持に貢献してくれているってことで町民達からの評判も上々なわけだねー。
 
「迷宮潜るだけが冒険者の仕事じゃないわけねえ」
「そだねー。レリエさんも迷宮に潜るのがつらいってなったら、こういう護衛とか今日の掃除みたいな、町中の依頼を中心に受けることをオススメするよー。もしくはパーティー運営関係業務につくとかねー」
「運営関係……お金とか事務手続きとかよね。シアンにも一応言ってるのよ、私ってばかつての時代では経理関係の仕事してたみたいだから」
「そうなんだ? すごいよー!」
 
 お庭を通って施設の入り口に向かいながら話す。
 数万年前の古代文明時代の頃のお話を聞けたよー、そっかそっかレリエさんってば、昔はお金関係のお仕事してたんだねー。

 そこから話を聞いていくと、彼女はいわゆる税金とかその辺の書類関係に携わるお仕事をしてたんだとか。だからシアンさんにも、パーティーの金銭面での管理については知識的な面からフォローできるかもーって言ったんだって。
 
 すごいよー! 古代文明の経済知識が新世界旅団には付いてるってことなんだよ、これー。

 オカルト雑誌やファンタジー小説なんかでは、古代文明は極めて高度な社会を築いていて、経済的な面でも今とは比べ物にならないほどに発達していたとされている。
 実際、迷宮から出てくる古代文明関係の資料や遺跡、出土品は今の僕らの文明じゃとてもじゃないけど解明できないくらい隔絶したオーバーテクノロジーが用いられてるものが多いからねー。少なくとも超高度文明だったってことには疑う余地がないって、それはどこの学者さんでも認めてる事実だよー。
 
 そんな発達した文明の金融関係の知識をお持ちのレリエさんが、新世界旅団の財政面にアドバイスしてくれるってのはいかにも心強いよ!
 ……って笑って言ったら、彼女も朗らかに笑ってうなずいて答えた。
 
「それなりに知識があるってのとおぼろげに記憶が残ってるってだけだから、そんなにお役には立てないかもね……まあサクラからもそれなら頼むって言われたし、いざ旅団が発足した際にはひとまず私は財政係ってことになったわ。ちゃんと現代の財務知識も勉強しないとだし、頑張らないと」
「あー……それに加えて冒険者としての訓練もあるし、大変そうだねー」
「むしろそっちよね、私ってば今まで武器なんて握ったこともないし……喧嘩だってしたことないから」
 
 苦笑いしてそんなことを言う彼女は、たしかに戦い慣れは明らかにしてないしなんなら喧嘩なんて見たこともないって感じだ。
 超古代文明、平和なところはとことん平和だったんだねー。さっき聞いたスラムって名前のこの世の終わりといい、場所によって極端すぎるよー。

 なんだか不思議な世界らしかったはるかな昔に思いを馳せつつ、僕らは孤児院の入口にて職員さん呼び出しのベルを鳴らした。清潔な白を基調とした屋内、入ってすぐにある受付カウンターの上に置かれたベルだねー。

 チリンチリーン、と涼し気な音を鳴らせばすぐ、近くの階段から職員さんが下りてきた。僕もよく知る、痩身の中年女性さんだ。
 室内に入ればマントはともかく帽子は脱ぐよ、ここのみんなは"杭打ち"がソウマ・グンダリだって当然知ってるからね。画す必要はないんだよー。
 
「はーい……あっ、ソウマくん! いらっしゃい、また来てくれたのね!」
「はい、また来ちゃいましたー! 院長先生いますかー?」
「ええ、もちろん。今は子供達と。今日はお仕事のお話? それそちらの方は……」
「そんな感じですー。こちらはレリエさん、僕の仲間の方ですねー」
 
 にこやかに話して笑い合い、レリエさんも紹介する。
 普段一人で来訪している僕が珍しく人を、それもこんなに美人でかわいいおねーさんを連れてきたことに職員さんは目を丸くしてたけど……レリエさんがニッコリ笑ってお辞儀をすると、慌ててお辞儀で対応してきたよー。
 
「初めまして、ソウマくんの仲間といいますか……パーティーメンバーのレリエと申します。彼には日頃、お世話になっております」
「ああ、これはご丁寧にどうも。彼が仲間の方をお連れするなんて、この3年間なかったことですから、つい驚いてしまって……」
「…………そう、なんですね」
 
 職員さんの言葉に、どこか面食らうというかショックを受けたように口を閉じるレリエさん。どしたのー?
 こっちをチラッと見て、ちょっと目を細めている。なんか悲しそうにも見えるけど。
 
「レリエさんー?」
「……ううん、ごめん。なんでもないの」
 
 そう言って無理矢理っぽい感じに笑う彼女が、なおのこと変に思える。
 なんだろ?と首を傾げながらも、僕は院長先生までの取次を職員さんに頼むのだった。