数日後。
俺は着替えを済ませると、若干重い足取りで廊下を歩き、食事を食べに向かう。
流石にあんなことがあったせいで、もう顔を合わせたくもないんだよな~。
ただ、まだ俺はフィーレル家の人間だ。故に、フィーレル家の人間としての行動は取らなくてはならない。
面倒だよな。貴族って。
そんなことを思いながら、俺は扉を開けて中に入ると、侮蔑の目をする父と母――ガリアとミリアに形式だけの挨拶をしてから席に向かう――かに思えたが、冷たい声で「待て」とガリアに言われ、俺は立ち止まった。そして、ゆっくりとガリアに視線向ける。
「これから1か月。お前に魔法の家庭教師をつける。出来次第では以後もつけるが、悪いようならそれで終わりだ」
忌々しいものを見るかのような目で俺を見つめながら、ガリアはそう言った。
なるほど。ダメ元だが、一応魔法の素質も見ておこうって魂胆か。まあ、例え1か月だけでも、得られるものは多いだろうから、普通にこれはありがたい。
「ありがとうございます。父上」
俺は心が全くこもっていない礼をすると、再び席へ向かい、腰を下ろした。
その後、いつも通り朝食を食べ終えた俺は、自室に戻った。そして、暫く待っていると、コンコンと扉が叩かれた。
お、どうやら魔法の家庭教師とやらが来たようだ。どんな人が来たのだろうか……?
「入っていいよ」
すると、ガチャリと扉が開き、1人の女性が中に入って来た。
黒系のローブを羽織り、右手で杖をつく、赤髪ショートヘアーの若い女性だ。
彼女はやや緊張した様子で一礼すると、口を開く。
「本日より魔法をお教えすることになりました。フィーレル侯爵家魔法師団副団長のエリーと申します」
「はい。僕の名前はシン・フォン・フィーレルです。短い期間になるかもしれませんが、よろしくお願いします」
そう言って、俺はエリーさんにぺこりと頭を下げる。
へ~この人が僕に魔法を教えてくれるのか。割と親しみやすそうだし、いいんじゃないかな?
すると、エリーさんはどこか驚いたように目を見開く。
「その年で、凄く礼儀正しい……あ、すみません。では、まず初めに現在の魔力容量と魔力回路強度を測りたいと思います」
そう言って、エリーさんはテーブルまで歩いてくると、その上に金属製のプレートと水晶を置く。
あ、これ本で見たことあるわ。
金属製のプレートのやつは魔力回路強度っていうのを測る道具で、魔力回路強度は高ければ高いほど、より強力な魔法が使える。
そして、水晶は魔力容量を測ることが出来る道具で、魔力容量が多ければ多いほど、魔法を沢山使える。
5歳ではまだ大したことは無いだろうが、それでも今の魔力容量と魔力回路強度で、最終的にどの程度にまで成長するかは結構予測できてしまう為、この測定は結構重要な意味を持っている。
ただ、もしこの測定が良かった場合、ガリアとミリアが手のひら返ししてくる可能性が結構高い。正直それは……ごめんだ。
この前の一件で、俺あの2人のことが嫌いになった。より優秀な人を後継ぎにしたいと思う気持ちは分からなくもないが、だからと言ってあれはないだろ。
と、言う訳でこの測定はちょっと手を抜くとしよう。幸いなことに、その方法は熟知している。
「では、まずは魔力容量を測りましょう。そちらの水晶に手をかざして、魔力を込めてみてください。体の中からぐっと何かを出すようなイメージをして下されば、自然とできます」
「分かりました」
俺は頷くと、手を伸ばして水晶に右手をポンと置く。そして、魔力を少しずつ込めていく。
すると、水晶の中に浮かび上がってきた1という数字が、2、3、4……とどんどん増えていくのが見えた。
5歳の平均魔力容量は10だったので、それよりも1だけ下の9になるように調整しよう。
そう思い、俺はだんだんと力を緩めていく。すると、上昇していた数字が6でピタッと止まってしまった。
おっと。力を緩め過ぎた。もう少し強くしないと。低すぎると、マジで虐待されそうだからな。
俺は魔力を込める力を少し上げる。だが、1上がって7になるだけ。そこで止まってしまった。
あ、あれ? これそこそこ力入れてるよ? この調子だと本気でやっても10行くか怪しいんだけど……
高いことを期待していた魔力容量が平凡っぽいことにさっと顔を青ざめさせるが、深く息を吐いて心を落ち着かせると、今度は全力で魔力を込める。
すると、8、9、10……と上がり、11で完全に止まった。
「11……で止まったわね。平均ぐらいだから、悪い数字じゃないわよ」
結果を見たエリーさんは砕けた口調で褒める……と言うよりは励ますように言う。
俺、そんなに残念そうな顔してたかな?
まあ……うん。平均か。
最低位だった祝福と比べれば全然いいよ。
ただなぁ……もうちょっと高くてもバチは当たらないと思うんだけどな~
まあ、しゃあない。これで頑張るしかないか。
「では、次は魔力回路強度を測ります。このプレートを両手で持って、今と同じように魔力を込めてね」
「分かりました」
俺はエリーさんから金属のプレートを受け取ると、両端を掴み、魔力を込める。今回は最初から本気だ。
すると、金属プレートに彫られた紋様が淡く光り出したかと思えば、その上にホログラムのように数字が浮かび上がってきた。
その数字は……9。
5歳の平均はこっちも同様に10だから……うん。こっちは微妙に平均行ってないね。
あー予想はしてたけどさ。ちょっとこれはあんまりだろ……
やべぇ。流石に泣きそう。
すると、俺の感情を敏感に察知したのか、エリーさんがおろおろしながら俺を宥め始める。
「だ、大丈夫だよ。9は全然悪い数字じゃないから。基本的な魔法は全て使えるようになるレベルだから、安心していいよ。世の中には、これが低すぎて、一切魔法が使えない人も結構いるからさ。だから泣かないで」
「だ、大丈夫です。使えるだけでも全然嬉しいです」
うん。そうだよ。使えるだけでもありがたいんだよ。
折角異世界に来たのに、魔法が使えないなんて言われたら絶望ものだろ?
それに比べたら、俺はむしろ幸運なんだよ。
うん。そうなんだ。俺は幸運なんだ。
よし。魔法が使えることに感謝しながら生きよう。
こうして、俺は何とか平凡な測定結果を受け入れるのであった。
俺は着替えを済ませると、若干重い足取りで廊下を歩き、食事を食べに向かう。
流石にあんなことがあったせいで、もう顔を合わせたくもないんだよな~。
ただ、まだ俺はフィーレル家の人間だ。故に、フィーレル家の人間としての行動は取らなくてはならない。
面倒だよな。貴族って。
そんなことを思いながら、俺は扉を開けて中に入ると、侮蔑の目をする父と母――ガリアとミリアに形式だけの挨拶をしてから席に向かう――かに思えたが、冷たい声で「待て」とガリアに言われ、俺は立ち止まった。そして、ゆっくりとガリアに視線向ける。
「これから1か月。お前に魔法の家庭教師をつける。出来次第では以後もつけるが、悪いようならそれで終わりだ」
忌々しいものを見るかのような目で俺を見つめながら、ガリアはそう言った。
なるほど。ダメ元だが、一応魔法の素質も見ておこうって魂胆か。まあ、例え1か月だけでも、得られるものは多いだろうから、普通にこれはありがたい。
「ありがとうございます。父上」
俺は心が全くこもっていない礼をすると、再び席へ向かい、腰を下ろした。
その後、いつも通り朝食を食べ終えた俺は、自室に戻った。そして、暫く待っていると、コンコンと扉が叩かれた。
お、どうやら魔法の家庭教師とやらが来たようだ。どんな人が来たのだろうか……?
「入っていいよ」
すると、ガチャリと扉が開き、1人の女性が中に入って来た。
黒系のローブを羽織り、右手で杖をつく、赤髪ショートヘアーの若い女性だ。
彼女はやや緊張した様子で一礼すると、口を開く。
「本日より魔法をお教えすることになりました。フィーレル侯爵家魔法師団副団長のエリーと申します」
「はい。僕の名前はシン・フォン・フィーレルです。短い期間になるかもしれませんが、よろしくお願いします」
そう言って、俺はエリーさんにぺこりと頭を下げる。
へ~この人が僕に魔法を教えてくれるのか。割と親しみやすそうだし、いいんじゃないかな?
すると、エリーさんはどこか驚いたように目を見開く。
「その年で、凄く礼儀正しい……あ、すみません。では、まず初めに現在の魔力容量と魔力回路強度を測りたいと思います」
そう言って、エリーさんはテーブルまで歩いてくると、その上に金属製のプレートと水晶を置く。
あ、これ本で見たことあるわ。
金属製のプレートのやつは魔力回路強度っていうのを測る道具で、魔力回路強度は高ければ高いほど、より強力な魔法が使える。
そして、水晶は魔力容量を測ることが出来る道具で、魔力容量が多ければ多いほど、魔法を沢山使える。
5歳ではまだ大したことは無いだろうが、それでも今の魔力容量と魔力回路強度で、最終的にどの程度にまで成長するかは結構予測できてしまう為、この測定は結構重要な意味を持っている。
ただ、もしこの測定が良かった場合、ガリアとミリアが手のひら返ししてくる可能性が結構高い。正直それは……ごめんだ。
この前の一件で、俺あの2人のことが嫌いになった。より優秀な人を後継ぎにしたいと思う気持ちは分からなくもないが、だからと言ってあれはないだろ。
と、言う訳でこの測定はちょっと手を抜くとしよう。幸いなことに、その方法は熟知している。
「では、まずは魔力容量を測りましょう。そちらの水晶に手をかざして、魔力を込めてみてください。体の中からぐっと何かを出すようなイメージをして下されば、自然とできます」
「分かりました」
俺は頷くと、手を伸ばして水晶に右手をポンと置く。そして、魔力を少しずつ込めていく。
すると、水晶の中に浮かび上がってきた1という数字が、2、3、4……とどんどん増えていくのが見えた。
5歳の平均魔力容量は10だったので、それよりも1だけ下の9になるように調整しよう。
そう思い、俺はだんだんと力を緩めていく。すると、上昇していた数字が6でピタッと止まってしまった。
おっと。力を緩め過ぎた。もう少し強くしないと。低すぎると、マジで虐待されそうだからな。
俺は魔力を込める力を少し上げる。だが、1上がって7になるだけ。そこで止まってしまった。
あ、あれ? これそこそこ力入れてるよ? この調子だと本気でやっても10行くか怪しいんだけど……
高いことを期待していた魔力容量が平凡っぽいことにさっと顔を青ざめさせるが、深く息を吐いて心を落ち着かせると、今度は全力で魔力を込める。
すると、8、9、10……と上がり、11で完全に止まった。
「11……で止まったわね。平均ぐらいだから、悪い数字じゃないわよ」
結果を見たエリーさんは砕けた口調で褒める……と言うよりは励ますように言う。
俺、そんなに残念そうな顔してたかな?
まあ……うん。平均か。
最低位だった祝福と比べれば全然いいよ。
ただなぁ……もうちょっと高くてもバチは当たらないと思うんだけどな~
まあ、しゃあない。これで頑張るしかないか。
「では、次は魔力回路強度を測ります。このプレートを両手で持って、今と同じように魔力を込めてね」
「分かりました」
俺はエリーさんから金属のプレートを受け取ると、両端を掴み、魔力を込める。今回は最初から本気だ。
すると、金属プレートに彫られた紋様が淡く光り出したかと思えば、その上にホログラムのように数字が浮かび上がってきた。
その数字は……9。
5歳の平均はこっちも同様に10だから……うん。こっちは微妙に平均行ってないね。
あー予想はしてたけどさ。ちょっとこれはあんまりだろ……
やべぇ。流石に泣きそう。
すると、俺の感情を敏感に察知したのか、エリーさんがおろおろしながら俺を宥め始める。
「だ、大丈夫だよ。9は全然悪い数字じゃないから。基本的な魔法は全て使えるようになるレベルだから、安心していいよ。世の中には、これが低すぎて、一切魔法が使えない人も結構いるからさ。だから泣かないで」
「だ、大丈夫です。使えるだけでも全然嬉しいです」
うん。そうだよ。使えるだけでもありがたいんだよ。
折角異世界に来たのに、魔法が使えないなんて言われたら絶望ものだろ?
それに比べたら、俺はむしろ幸運なんだよ。
うん。そうなんだ。俺は幸運なんだ。
よし。魔法が使えることに感謝しながら生きよう。
こうして、俺は何とか平凡な測定結果を受け入れるのであった。