雌鶏を二羽捕まえて、これで合計六羽の鶏が牧場で暮らすことになった。
 いや、ヒヨコを合わせると十羽か。

「産卵したばかりの二羽はしばらく卵を産まないらしい」
「え、そうなの?」
「といっても、有精卵を産んだかららしいんだ。無精卵の時は関係ないってさ」
「じゃ、新しく来た雌鶏は、定期的に産んでくれるのね」
「そういうこと」

 しばらくしたら、毎日十分な卵がとれるだろう。

「ユタカさん。今度町に行ったら卵料理をいろいろ見てみたいです」
「見る?」
「はい。それで作り方をお店の方に教えて貰えたらもっといいのですが」

 あぁ、なるほど。
 そうしたらこれからいろんな卵料理が食べられそうだ。
 楽しみだなぁ。


 
 

「なんで?」

 鶏ゲットから五日後。
 牧場の一角で草がぼーぼーになっていた。

 確かに全体的に、スキルを使った雑草の種をばら撒いたけど、生えすぎじゃないか?
 
『ココッコココ』
「え? あ、ちょっと待ってくれ。通訳連れてくるから」

 急いでアスを探すが、いない……。
 あぁ、そうだ。今日はフレイの所に遊びに行ってるんだった。バフォおじさんはアスがフレイの所に行くまでの護衛だし。

 お、そうだ。

 下の層に戻って、渓谷の方へと向かう。
 外へと出る渓谷は川になってしまったから、今ではベヒモスが開けてくれた穴で出入りするようになった。
 だが外にまではいかない。
 断崖に開いた穴の手前に、ワームたちの新しい住居がある。

 ワームたちの元の住居は、川が出来たことで浸かってしまった。
 全身が濡れるのを嫌がるから、こっちに住居を移したって訳だ。

「ユユ~。なぁ、鶏の通訳できないか?」
『んー? チキンホーンたちのぉ?』
「そう。アスもバフォおじさんもいなくてさ、何喋ってるかわからないんだ」
『いいよぉ』

 ユユを連れて鶏牧場へ。
 向かう途中、ふと思った。

 鶏って……ミミズ食べてたよな!?

 だ、だだ、大丈夫か?

 いや、あいつら捕まえに行くとき、ユユたちも来ていたじゃん。
 がおぉって言いながら追いかけてたよな。

「ユ、ユユ。鶏、怖くないか?」
『え? どうして?』
「いや、その……鶏って、ミミズを食べてたし」

 というと、ユユは首を傾げた。

『ぼくミミズじゃないし、チキンホーンは鶏じゃないよ?』
「そ、そうだよな」
『それにぼくの方が大きいし』
「あ、なるほど」

 鶏は体高一七〇センチほど。ユユは進化して縮んだが、それでも四メートルを少し超えている。
 ユユの方が圧倒的に大きいんだった。

「そういや、チキンホーンって名前らしいけど、ホーンって言ったら角だろ? あいつら角がないけど、なんでホーンって付いてるんだろう」
『うぅん、ぼくもチキンホーン見たの初めてだし、名前もおじさんが教えてくれただけだからよくわかんない』

 わかんないよなぁ。

 牧場に到着して、ユユに通訳を頼む。
 で、分かったことは――

「けい……ふん……」
『だから草がいっぱい生えてるんだって。ぼくたちと同なじだねぇ』

 どう同じかっていうと、糞が肥料になるってことだ。
 そうだよ。鶏の糞って肥料じゃん。

 こいつらは普通の鶏と違って、ちゃんと決めた場所でしか糞をしないそうだ。
 そして猫のように土と一緒にザッザと混ぜる。こうするとこで土の養分になると知っているからだ。
 土が肥えれば草の成長もよくなる。
 草の成長が良ければ味もよくなる。
 おいしい草ばんざい!

 だそうだ。

「そうか。有機肥料になるんだ。じゃ、下の畑にも撒けば」

 土が肥えて、自然栽培にも一役買えるんじゃ!

 雨が降るようになったから、本格的に自然栽培を開始しようと考えている。
 いや、実際やっているんだけど、雨だけじゃ土は肥えない。
 腐葉土作戦で多少はよくなっているだろうけど、鶏糞肥料があればもっとよくなるだろう。

「糞、分けてくれないか?」
『ココ。コッコココ』
『交換条件だって。拉致される前に住んでいた森に木の実が欲しいんだって』

 ら、拉致って……。
 いや、うん、ごめん。拉致ったかも。

 木の実ってどれだろうと思って、どんぐりや栗、クルミを見せてみた。
 どんぐりと栗は木の種があって、クルミの種は町で買ったものだ。

 で、この三つではないと。

『もっとみずみずしくって、小さな粒がいっぱいくっついてるんだって』
「みずみずしくて小さな粒? 色とかは」
『えっと……』

 雄鶏がその辺をうろうろして、何かを咥えて戻って来た。小さな花を咥えているな。

『このお花の色なんだって』
「濃い紫か……もしかして」

 これか!
 と思って、インベントリからある果物の種を取り出す。
 それを成長させて、実際に見せた。

『ココココ』
『それだってぇ』

 通訳がなくても分かる。
 鶏たちが一斉に集まって来て食べだしたからな。

 鶏ってぶどう食べるのか。知らなかったな。
 
 そして交渉が成立し、糞を分けてくれることになった。