僕と君と私の世界の物語

 店の中は、キラたちのような「新しい流行を試してみよう」とする星の子たちで賑わっていた。 
 みんなで席に着くと、1人1人オーダーパネルのようなスキャンノートを使って、自分の顔を中心に上半身をスキャンして、今の状態を調べる。そのデータを基に、その人の状態にあった実が提供される。
 星の子が持っている星のカケラと魂のエネルギー情報によって、実の効果も変わってくるらしい。

「ねえ、この実って、何という名前?」
「店名通り、レインボークラッシュかな?」
 ルタの問いかけに、ピアが答える。
「うん。それと、植物の葉からポンポンと実が落ちるから『ポンポンクラッシュ』とも言われているみたい」
 キャミは2人の疑問に答える。
「へえー、そうなんだ」
 アクナは、あまり興味がないという感じで頷く。

「本当にあの実って、無色透明だね」
「うん。透明!透明!」
 カルとポールは、不思議そうだ。
「見た目は氷のように透き通っていて、おまけにひんやりしているな」
 アレスも(どうなってんだ?)という顔をしている。
「だからキラ君、『アイスクリームを食べに行こう』って言ったの?」
 ルタが(ようやく理解した)というように納得している。

「うん、そう。ひんやりしていて、冷たそうだったから」
 ちょっと恥ずかしそうにはにかんだキラを見て
「おっ!テレてる!」
「はにかんだ顔もいいねー」
 アレスと双子たちは、キラをからかって喜んでいる。

「思ったより、大きいよね?」
「本当!両手で持つぐらい大きな玉の実だね」
 ピアとキャミは、他のテーブルのお客の実を見ながら、その大きさに驚いている。

 植物の実の説明文には、以下のように書いてある。
①色や形を変えて、星の子に1番合ったエネルギーを与えてくれる
②星の子が持つ星のカケラと共鳴し、その星のカケラに小さな光子となって溶け込んでいく
③実を取り込む前と後でのデータをスキャンして、体調の変化の様子を記録・保存出来る
④いつでも個人所有のステータスボードで、記録を確認出来る
 この世界の星の子は、器である肉体、意識、オーラ、チャクラなどが、どのような状態なのか自分でチェックし、手当てや調整を行う。
 自分メンテナンス、自己ヒーリング、自己メディテーションなどで、自分の器、意識、オーラ、チャクラのケアを最優先し、創造力を最大限に活用出来るように管理している。
 星の子のいるこの世界では、これが当たり前だ。

「創造力」を最重要とし、1人1人自分の得意で、能力にあった自由な創造力を発揮することが求められる。
 星の子たちの能力は開示されていて、誰でも必要な能力を提供し、お互いの創造力の向上や成長に貢献し合っている。
 そのための器である肉体や、意識、オーラ、チャクラなどの機能ケアや回復サポート向けの商品やお店が充実している。
 誰でも利用でき、その体験をシェアすることで、さらに改善された商品開発への手助けとなるwin-winの関係だ。
 そんな訳で、キラたちも楽しみながら出来る体調管理をしに来たのだった。

 キラたちは、話題の実を食べながら、店内の賑やかさに負けず、お喋りに花を咲かせていた。

「ねえ、今度、アンドロメダ銀河でフェスやるって聞いたけど?」
 ルタが思い出したように言う。
「あー!俺も聞いた!何だか、銀河全体でやるって言ってた」
 アレスも勢いよく話し出す。
「本当⁉︎すっごく大規模じゃない?」
 キャミは、目をまん丸くして驚いている。

「何でも、星狩りをして、クリスタルエネルギーを作り出すとか⁉︎」
 アレスも(確信はない)と言った様子で話す。
「クリスタルエネルギーって何⁉︎」
 ピアは興味津々だ。
「どうやら、叡智が保存されていると噂の古代クリスタルがあって、それを復活させたいんだって」
 カルは詳しい情報を知っているという口ぶりだ。
「へえー。叡智ねえー。そのクリスタルの叡智を何で復活させたいの?」
 ルタも(詳しく知りたい!)という顔をしている。

「黄金の都市?の再建だとか、虹の花の種を見つけて、幻の花を咲かせるとか言ってた」
 ポールもカルと同じく、大体の情報を知っているようだ。
「黄金の都市と虹の花?」
 アクナは急に乗り気になって質問する。
「そう。昔の伝説の話みたいだけど、どこかの星が消滅しちゃうんだって」
 アクナの質問に、ポールが答える。
「星って、たくさん消滅してるじゃん。何がそんなに重要なの?」
 ルタの疑問にカルが答える。
「その星には、幻の花である虹の花が咲く秘密があるって聞いたよ」
「本当!?」
 驚いた女性陣は「秘密って何だろうね?気になる!」と言って予想し合っている。
 みんなの話を聞きながら、キラだけは胸の中がザワザワしていた。

「ねえ、みんなはフェス行くの?」
 キラが聞くと
「行くよー!絶対!面白そうじゃん!」
 そう言って、みんなはフェスの話で盛り上がっている。でも、キラだけは複雑な顔をして、考え事をしていた。

「キラ君、どうしたの?」
 キラの様子を気遣うピア。
「何か悩み事か?キラ?」
 アレスもすぐに尋ねる。
 そう聞かれて、はっと我に返るキラ。
「うん。何でもないよ」
 そう言って、少し表情が硬い笑顔で答えた。

「本当に?何かあるなら言ってくださいね」
 優しくキャミが言う。
「そうだよ、キラ。何か言いたい事があるなら、言えよ」
 アレスの顔には「俺に頼ってくれ!」と書いてある。

 お喋りしていたみんなも、キラの顔を見つめる。
 みんなの顔を見ていたら、答えの出ないことを1人で考えていた自分がおかしく思えた。

「うん。ありがとう、みんな」

(そうだ!今は過去とは違うんだ。みんなが側にいてくれる。みんなと一緒に楽しまないと!って、あれ? 何でみんなと過去にいたって思うんだ?
 何かぽっかりと記憶を忘れている気がする・・・・)

 キラは(大事なことを忘れている気がする・・・・)と思ったが、みんながキラの言葉を待っているので答えた。

「僕は、黄金都市と虹の花について、もっと詳しく知りたいんだ」
 キラの心のざわめきが分からないみんなは、(何だ!そんなことか)という顔をしている。
 でも、すぐにキャミが答える。
「それなら、記憶図書館に行ってみる?」
「ああ、あそこなら色んな情報があるもんね!」
 キャミの意見にカルも頷く。
「何でも、過去から現在、未来までの記憶が全部あるとか⁉︎」
 ルタも(良いね〜!)という顔をして行く気満々だ。

「えー?そうなの?私は行ったことないなー」
 アクナは、興味のないことにはまったく関心がない。
「俺も!何か広そうだし、探すの面倒くさいじゃん!」
 アレスも、手間が掛かることは避けたいタイプだ。
「確かに!それに、いつでも行けるって思うと、案外行かないよね?」
「そうそう!普段は自分のステータスボードで、何でも確認出来るし」
 ピアの意見にキャミが同意している間に、ピアは(行ったことないなー。でも、面白いかも!)と早速、妄想し始める。

「まあ、閲覧不可ってのもあるみたいだし。禁書みたいな?極秘の情報も保存されているって噂だよ」
 何かと情報通のポールが言う。
 それを聞いたルタが
「へえー、それは、どうやって見れるの?」
「記憶の方が選ぶみたいだよ。知るべき人にのみ情報が与えられるらしい」
 何でも知っているポールが答える。
「じゃあ、探しに行っても、見つけられない可能性もあるってことか」
 ポールの言葉に、アレスはちょっと残念そうだ。
「それじゃあ、意味ないかな?」
 ピアも心配そうな顔をしている。
「そんなことないよ。まずは行って、あるかどうか確かめてから次を考えよう」
 ルタは積極的だ。
「それでいい?キラ君?」
 キャミがまとめるように言う。

 みんなが僕のために、協力して案を出し合ってくれている。それが嬉しくて
「うん。分かった。みんなありがとう」

 そう言って食べ終わると、キラたちは記憶図書館へと向かった。
 記憶図書館は不思議な場所だ。
 その場所の中央には、大きな大きな大木と泉があり、その大木を中心として、空間全体に数えきれないほどのドアが浮き上がっている。
 そのドアの向こう側に、記憶が保存されている。出入りは自由で、どのドアを選んでも大丈夫だ。

 この場所にある大木と泉の姿・形は、これまた不思議だ。
 これは「創造の木」と言われ、「はじまりの場所」と呼ばれる創造主がいる所にある大木と非常に良く似ている。
 それもそうだ。 すべて似せて作っているからだ。
 その上、すべてが水で作られていて、無色透明な大木の内部には、透き通った水が流れ、キラキラと光っている。
 
「うわー、すごーい!」
「いっぱいドアがあるねー」
「本当!ありすぎて迷うね!」

 初めて立ち入った記憶図書館の大木と泉とドアに圧倒される。
 みんなは、キョロキョロとあちこちを見渡しながら「すごい!すごい!」と驚嘆している。

「ねえ、この木って不思議じゃない?木なのに水で出来ている?手をかざしても、水に濡れないね」
「うん。すっごく不思議だね」
 ルタの言葉に、キャミも頷く。
「水の中にキラキラと光っているのは何かな?」
 綺麗な物には目がないアクナは、大木に両手をつけ、顔を近付けて見入っている。
「宝石?クリスタルかな?」
「キラキラと光って、綺麗だね」
 ピアもアクナの真似をして、キラキラとした光を見ている。

 大木の上空を見ていたカルが
「ねえ、ねえ、大木から何かが飛び出してくるよ!」
 その声で、みんなが上空を見上げる。
「あー、本当だ!しゃぼん玉?」
 カルの声にポールは指を指す。見上げた大木から、たくさんの丸い玉がぽんぽんと生み出されていく。
「どこまで飛ぶんだ?ドアか?」
 視力のいいアレスがしゃぼん玉を目で追う。
「ドアの中に入ったぞ!」
 アレスの言葉にルタが驚く。
「うそー?何あれ?消えたの?それとも通り抜けたの?」
「あれ、何だと思う?」
「何だろうね?」
 ルタの驚きと同じく、他の女性陣も首を傾げている。

 キラはみんなの声が聞こえていたが、丸い玉を見ていると、自分の体の中の水が反応して、ちゃぷちゃぷと飛び跳ねているように感じた。
「水の記憶」

 その言葉を聞いて、みんながキラの方を見る。
 最初に口を開いたのはキャミだ。
「キラ君、水の記憶って何?」
 そう聞かれても、キラには何で「水の記憶」という言葉を発したのか分からないままだった。
「ごめん。僕にもよく分からない。何でそんな言葉が出てきたのか・・・・」

「いいよ、キラ。分かんないことは、ここで調べればいいんじゃね?」
 アレスが元気付けるように言うと、ルタがすかさず
「へえー、たまにはいいこと言うじゃん!」
「おい!俺はいつもいいことしか言ってない!」
 アレスはルタに食ってかかる。ルタはお構いなしに
「誰が!?余計な発言ばっかりでしょ」
「はっ!?何でだよ?」
 アレスは気に食わないという顔をして言い返す。

「まあまあ、2人とも落ち着いて。喧嘩したら、キラが困っちゃうよ」
 双子たちになだめられ、
「あー、キラ、そんなことないからな。俺は全然怒ってないぞ」
 アレスはすぐにキラの顔を見て、ルタに「お前のせいだ」と声に出さずに言っている。
「キラ君、私も全然怒ってないからね」
 ルタもキラには最高の笑顔を向けながら、すぐにアレスを見て「うるさい!」と返している。
「そうだよ、みんな。今日はキラ君のためにここに来ているんだから。仲良くね!」
 ピアが、アレスとルタの肩をポンポンと軽く叩いてお願いする。
「はーい」
 2人の返事に「しょうがないな」とみんなは笑っている。何だかんだ言って、みんな仲がいい。

 先頭を切って行こうとしたアレスが
「んじゃ、行きますか。って、どうやって行けばいいんだ?」
「ドア浮いてるし」
「だねー、みんなどうしているんだろう?」
 双子たちもアレスと一緒に戸惑っている。

 どうやってドアの方へ行けばよいのか迷っていると
「初めてですか?」
 と声をかけられた。
「はい、そうです」
 と答えると、親切にドアへの行き方を教えてくれた。
「みなさんが持っているステータスボードに、花のマークのアイコンがあります。それをタップして選んで下さい。
 そうすると、足元にそのマークが出てきて、さらに体の周囲が光の幕のようなベールで覆われます。
 次に、あなたが知りたいと思うことを思い浮かべます。そうすると、ドアの中へ移動しています」

「へえー、すごい!」
「何だか、ワクワクするね」
 みんなは説明を聞いて「早く行きたい!」という顔をしている。

「あのー?戻るにはどうしたらいいんですか?」
 心配性のピアが質問する。
「お!いい質問するね」
「俺たちも気になっていた」
 アレスと双子たちも同じことを聞こうとしていた。

「心配しなくても大丈夫。戻りたいと思ったら、すぐに戻って来られますよ」
 その言葉を聞いて、ピアはホッとした顔で
「あー、良かった。安心だね」
「うん。簡単そうだね」
 キャミも心配ないと笑っている。

「あ!それから、1つ注意点があります。
 ドアの向こうには、たくさんの記憶が保存されています。行く人によって、見る記憶は違います。
 それに、自分が望んでも、必ず記憶を見れるとは限りません。記憶の方に意志がありますので」
 その言葉を聞いて「やっぱりそうか」と双子たちは頷いている。

「うーん。じゃあ、お互い見れる記憶はバラバラってことだね」
 双子たちはみんなに向かって言い「でも、俺たちはきっと一緒の記憶を見れる!」と自信満々だ。
「そうだね。何の記憶が見れるか分からないけど、後で集合して、みんなで見たものをシェアしようよ」
 ルタがそう提案すると「賛成!」とみんなの意見が一致した。
 親切に教えてくれた人にお礼を言って、みんなは行き方の確認を始めた。

「じゃあ、今回調べることは、黄金都市と虹の花に関すること。これでいいよね?」
「ああ。とりあえず行ってみて、どんな記憶が見えるのか確かめようぜ」
 ルタとアレスが、テキパキとやることを確認する。

「時間の流れってどうなのかな?人によって、感覚が異なるよね?」
 ピアが心配するのも頷ける。
 この世界は、場所や星の子によって時の流れが異なる。過去、現在、未来は、すべて同時に存在している多次元世界だからだ。

「うーん。どうだろう?」
「時間決めとく?」
 キャミとルタも、初めての場所で決めかねている。
「初めてだから、時間も短めにしておく?」
「だいたい、10分ぐらいってイメージしようか?」
「そうだね。10分ぐらい経ったら戻るって決めようか?」
「うん。そうしよう!」
 女性陣だけで勝手に時間を決めたが、男性陣のアレスと双子たちは「早く行こうぜ!」と時間をまったく気にしていない。
 
 みんなは、さっき教えられた通りにステータスボードから花のマークのアイコンを選び、自分の周囲を光のベールで覆った。

「じゃあ、みんなまた後でね!」
 そう言って、それぞれドアの向こうへと入って行った。
 そこは、想像していたよりも、とてもとても広い空間だった。
 360°見渡すことの出来る球体の中にいるような感じだ。
 窓がないのに中は明るくて、空間全体は穏やかなクリーム色だ。

(何もないなー)とキラが思っていると、突然、空間いっぱいに映画のフィルムのような、1コマずつ切り取った映像が映し出された。
 それは自由に動き回って、映像から音声も聞こえてきた。全部の映像から音が聞こえるので、どれがどの音声なのか分からない。
 キラはびっくりして、圧倒されたようにしばし呆然として、映像を眺めていた。

(この映像は記憶なのか?誰のだろう?)

 この空間に現れた映像は膨大な量で、しかもあちこちに移動しているので、じっくり見ることが出来ない。

(僕が知りたいのは「黄金都市と虹の花」)

 キラが心の中でそう思うと、1つの映像が近付いてきた。その映像と目が合った途端、キラは映像の中に吸い込まれた。

 キラは、映像の全体像を上空から俯瞰して見ている状態で、勝手に流れていく映像には干渉出来ないようだ。


 たくさんの人々が、上空を見上げている。
 みんなの顔は、期待と喜びに満ちあふれている。
 音楽と花吹雪が舞い、人々は笑い合っている。

(何かのお祭りなのか?)

 なぜか上空は強い光に覆われて、はっきりと見えない。


 次に場面が変わったようで、さっきまでお祭りムードだった雰囲気が一変して、今度は、人々が泣き叫びながら逃げ回っている。
 上空には光はなく、真っ暗闇に覆われている。

(何が起きたんだ?)

 どちらの場面も人々の表情は分かるが、なぜか音声が消されたようで、人々の声や周囲の音がまったく聞こえない。

(これじゃ、何も分からない)

 そう思って、もっと近くで見てみようと、人々の方へ近付いて行った。
 すると、人々が、キラの方へと指を差しながら迫ってくる。

 人々の目は鋭く狂気じみた形相で、口々に何かを叫びながら、キラを捕まえようとする。
 そのうちの1人が、キラの腕を力強く握りしめ「お前のせいだ!」と言って、襲いかかろうとした。

 たくさんの人々の手が、キラの体を捕まえようと手を伸ばす。
 キラは、恐怖で体が固まって動けない。
 実際に首を絞められ、苦しく息が出来ない。
「もうダメだ」と思った瞬間、映像の外へと投げ出されていた。