14
「今大会で見事優勝! 金メダル! みんなが声を上げ、血を沸き立たせ応援する声をその足に乗せ地を掛ける、今注目の女子陸上競技で、長距離の選手さ!」
「……」
「すまなかったから、そんな目で見ないでくれ」
じっと見つめてくる妻の視線に耐えられず、そう懇願する。
(ちゅう秋が言っていたのを真似しただけなのになぁ)
何故僕が冷ややかな視線を受けなければいけないのか。少々不服だが、仕方がないのかもしれない。元々、彼の真似はあまり評判が良くないことの方が多いのは知っている。
口を尖らせる僕に、妻が笑う。その笑顔が見れただけでも良しとしようじゃあないか。
「何か食べたいものはあるかい?」
「うーん、そうですね……。暑いですし、さっぱりした冷たい物がいいです」
「冷たい物かぁ」
何かあるだろうかと案内所の女性へ問い掛ければ、髪を一つに括った彼女はにこやかに老舗の場所を教えてくれた。思ったよりも近い場所にあるその店は、柿の葉を使ったお寿司を名物としているようで、それはそれは大変人気なのだとか。
「お寿司かぁ。いいねぇ、お前はどうだい?」
「ええ、美味しそうだと思います」
「そうか。ならばその店にしよう」
僕はウンウンと大きく頷いて、案内所の女性に礼を告げる。ついでにいい土産屋を数店舗聞くと、カウンターの端に置いてあった温州みかんのジュースを二本買って僕たちはその場を後にした。「土産は帰りに買うとしよう」と話し合い、教えてもらった店へと足を進める。
春とはいえ、じりじりと太陽の光が僕たちを照り付ける。風が少ない町は、思っていたよりも暑い。
「こりゃあ、君と同じように帽子を被ってくりゃあよかったなぁ」
「だから言ったでしょう? 春は陽射しが強いんですよ」
「もう少し風があると思っていたんだが……いやはや、君には敵わんな」
「そう言って。私の言うことなんか聞いたことないでしょう」
「そんなことはないさ! 僕はいつでも君の話を聞いているよ!」
「ふふっ、冗談ですよ」
「なんと。こりゃあ一本取られた!」
他愛もない話を交わしながら、妻と並んで街を歩く。頭上から降り注ぐ桃色の花びらは、春の陽気を受けて楽しそうにくるくると回っていた。
「すごい桜の木だ! 満開だな!」
「ふふっ。そうですね。でも、まだ七分咲きくらいだそうですよ」
「何だって? それじゃあこれからもっと綺麗になっていくのか?」
「ええ。二週間後には満開の予定だとか」
「今大会で見事優勝! 金メダル! みんなが声を上げ、血を沸き立たせ応援する声をその足に乗せ地を掛ける、今注目の女子陸上競技で、長距離の選手さ!」
「……」
「すまなかったから、そんな目で見ないでくれ」
じっと見つめてくる妻の視線に耐えられず、そう懇願する。
(ちゅう秋が言っていたのを真似しただけなのになぁ)
何故僕が冷ややかな視線を受けなければいけないのか。少々不服だが、仕方がないのかもしれない。元々、彼の真似はあまり評判が良くないことの方が多いのは知っている。
口を尖らせる僕に、妻が笑う。その笑顔が見れただけでも良しとしようじゃあないか。
「何か食べたいものはあるかい?」
「うーん、そうですね……。暑いですし、さっぱりした冷たい物がいいです」
「冷たい物かぁ」
何かあるだろうかと案内所の女性へ問い掛ければ、髪を一つに括った彼女はにこやかに老舗の場所を教えてくれた。思ったよりも近い場所にあるその店は、柿の葉を使ったお寿司を名物としているようで、それはそれは大変人気なのだとか。
「お寿司かぁ。いいねぇ、お前はどうだい?」
「ええ、美味しそうだと思います」
「そうか。ならばその店にしよう」
僕はウンウンと大きく頷いて、案内所の女性に礼を告げる。ついでにいい土産屋を数店舗聞くと、カウンターの端に置いてあった温州みかんのジュースを二本買って僕たちはその場を後にした。「土産は帰りに買うとしよう」と話し合い、教えてもらった店へと足を進める。
春とはいえ、じりじりと太陽の光が僕たちを照り付ける。風が少ない町は、思っていたよりも暑い。
「こりゃあ、君と同じように帽子を被ってくりゃあよかったなぁ」
「だから言ったでしょう? 春は陽射しが強いんですよ」
「もう少し風があると思っていたんだが……いやはや、君には敵わんな」
「そう言って。私の言うことなんか聞いたことないでしょう」
「そんなことはないさ! 僕はいつでも君の話を聞いているよ!」
「ふふっ、冗談ですよ」
「なんと。こりゃあ一本取られた!」
他愛もない話を交わしながら、妻と並んで街を歩く。頭上から降り注ぐ桃色の花びらは、春の陽気を受けて楽しそうにくるくると回っていた。
「すごい桜の木だ! 満開だな!」
「ふふっ。そうですね。でも、まだ七分咲きくらいだそうですよ」
「何だって? それじゃあこれからもっと綺麗になっていくのか?」
「ええ。二週間後には満開の予定だとか」