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「今大会で見事優勝! 金メダル! みんなが声を上げ、血を沸き立たせ応援する声をその足に乗せ地を掛ける、今注目の女子陸上競技で、長距離の選手さ!」

「……」

「すまなかったから、そんな目で見ないでくれ」

じっと見つめてくる妻の視線に耐えられず、そう懇願する。

(ちゅう秋が言っていたのを真似しただけなのになぁ)

何故僕が冷ややかな視線を受けなければいけないのか。少々不服だが、仕方がないのかもしれない。元々、彼の真似はあまり評判が良くないことの方が多いのは知っている。

口を尖らせる僕に、妻が笑う。その笑顔が見れただけでも良しとしようじゃあないか。

「何か食べたいものはあるかい?」

「うーん、そうですね……。暑いですし、さっぱりした冷たい物がいいです」

「冷たい物かぁ」

何かあるだろうかと案内所の女性へ問い掛ければ、髪を一つに括った彼女はにこやかに老舗の場所を教えてくれた。思ったよりも近い場所にあるその店は、柿の葉を使ったお寿司を名物としているようで、それはそれは大変人気なのだとか。

「お寿司かぁ。いいねぇ、お前はどうだい?」

「ええ、美味しそうだと思います」

「そうか。ならばその店にしよう」

僕はウンウンと大きく頷いて、案内所の女性に礼を告げる。ついでにいい土産屋を数店舗聞くと、カウンターの端に置いてあった温州みかんのジュースを二本買って僕たちはその場を後にした。「土産は帰りに買うとしよう」と話し合い、教えてもらった店へと足を進める。

春とはいえ、じりじりと太陽の光が僕たちを照り付ける。風が少ない町は、思っていたよりも暑い。

「こりゃあ、君と同じように帽子を被ってくりゃあよかったなぁ」

「だから言ったでしょう? 春は陽射しが強いんですよ」

「もう少し風があると思っていたんだが……いやはや、君には敵わんな」

「そう言って。私の言うことなんか聞いたことないでしょう」

「そんなことはないさ! 僕はいつでも君の話を聞いているよ!」

「ふふっ、冗談ですよ」

「なんと。こりゃあ一本取られた!」

他愛もない話を交わしながら、妻と並んで街を歩く。頭上から降り注ぐ桃色の花びらは、春の陽気を受けて楽しそうにくるくると回っていた。

「すごい桜の木だ! 満開だな!」

「ふふっ。そうですね。でも、まだ七分咲きくらいだそうですよ」

「何だって? それじゃあこれからもっと綺麗になっていくのか?」

「ええ。二週間後には満開の予定だとか」