「もしかして、ポーラも樹木医なのかい? そんな若いのに立派だねぇ」
「あ、いえ、違うんですっ。私はルイ様のメイドなのですが、【言霊】というスキルがありまして……」
話の流れからか、樹木医と勘違いされてしまった。
マルグリットさんにも、【言霊】スキルについて説明する。
詩を詠うと願った通りの現象が……と話すと、大変興味深く聞いてくれた。
「……そんなスキルがあるんだねぇ。あたしも初めて聞いたよ」
「ですので、もしかしたら私の力で古代樹が救えるかもしれません。ルイ様の大切な樹は……守ってあげたいです。……ルイ様の大事なものは、私にとっても大事なものなので……」
「「ポーラちゃん(さん)……」」
エヴァちゃんとアレン君は、目をうるうるとさせながら私を見る。
呟いたのは、私の素直な気持ちだった。
ルイ様はただ仕える人ではない。
優しくて尊敬できる、とても素晴らしい人なのだ。
私が言っても、しばらくルイ様は何も書かなかった。
もしかして、失礼だったかな……。
樹木医でもない私が余計はことを言ってしまったかもしれない。
徐々に確信みが強くなり、慌てて謝りの言葉を述べる。
「も、申し訳ございませんっ、出過ぎた真似を……! 私に樹の状態などまるでわからないのに……! マルグリットさんが言うくらいなら、もうダメなんですよね」
〔いや、謝る必要はまったくない〕
頭を下げた目線の先に、ちょうどルイ様の魔法文字が浮かんだ。
いつもよりわずかに角が丸い文字で、そう書かれている。
「ル、ルイ様……?」
〔自分のことのように真剣に、君の他人を想う気持ちはとても素晴らしい〕
「こんな良い子がメイドだなんて、あんたは幸せ者だね」
ルイ様もマルグリットさんも、私のことを褒めてくれた。
じわじわと心が温かくなる。
「ポーラちゃんの優しさで胸がいっぱいになっちゃったよ……」
「僕も見習わなければいけませんね。」
『お前は本当に良いヤツだ……。フェンリルにもこんなヤツはなかなかいない……』
エヴァちゃんとアレン君はほろりとハンカチで涙を拭き、いつの間にか、ガルシオさんまで瞳をうるうるさせていた。
優しい人たちに囲まれて、私は本当に幸せ者だ。
〔では、一度古代樹を見に行こう〕
「あっ、すみません、ルイ様……まだお掃除の残りがありまして……」
急いでいたので、掃除道具も片付けずに来てしまった。
道具を出しっぱなしにするのは、心がちょっと痛い。
集めた落ち葉や花びらなども、風が吹いたら飛んでいっちゃうかも……。
「心配しないで、ポーラちゃん。私たちがやっておくから」
「掃除より古代樹の方を優先してください」
『フェンリルの箒捌きを見せてやるよ。我ながらうまく使うんだ』
三人は力強く言ってくれるけど、さすがに申し訳ない。
自分の仕事は、最後まで自分でやらなければ……。
心の中で葛藤していたら、ルイ様が伝えてくれた。
〔いや、君たちも来なさい。せっかくだからみんなで見よう〕
「「ありがとうございます、ルイ様(辺境伯様)!」」
『ルイのくせに気が利いているじゃないか』
〔うるさいぞ、ガルシオ〕
ルイ様の後に続き、私たちは森を進む。
方角としては北の方だ。
十五分ほども歩くと、巨大な広場が現れた。
この辺りだけ草木が刈り取られている。
そして中央には、天を衝くほどの大きな樹がそびえる。
高さは30mほどで、幹の太さは最低でも6mはありそうだ。
こんな立派な樹は、今まで見たことがない。
しかし、植物が芽吹く季節だというのに葉っぱは一枚もなく、枝は細々としており今にも折れそうだった。
樹木医でなくても、命が尽きそうな気配をひしひしと感じる。
〔これがアングルヴァン家に代々伝わる古代樹、“久遠の樹”だ。見ての通り、半年ほど前からかなり弱っている。私もあらゆる回復魔法を使ったのだが、どれも劇的な効果がなくてな……。対応に苦慮しているところだ〕
「なんだか……すごく辛そうです。見ているだけで胸が締め付けられてしまいます」
「あたしの薬とルイの魔法で、どうにか生き永らえているのさ」
“久遠の樹”は大木なのに、風に揺れるたび折れそうで不安になってしまうほど弱々しい。
よく見ると樹皮の表面は細かくひび割れており、自然にポロポロと崩れる。
樹は喋らないものの、その辛さは痛いほどよくわかった。
ルイ様の大事な古代樹……。
私が絶対に元気にさせてあげるからね、と心の中で語りかける。
「ルイ様、もしよろしかったら……ご両親との思い出をお話ししてくださいませんか? 【言霊】スキルに活かしたいのです」
〔ああ、もちろんだ。私は生まれてすぐ、両親に連れられ“久遠の樹”に挨拶を交わした。そうするのが、アングルヴァン家の習わしだからだ〕
ルイ様は過去の思い出を伝えてくれる。
仕事で家を開けがちなご両親に変わって、それこそ親代わりに成長を見守ってきてくれた……、傍にいるだけで孤独を忘れられた……何より“久遠の樹”を見るたび、今は亡きご両親を思い出すと……。
そのどれもが尊い思い出で、“久遠の樹”の状態を思うと涙が出そうになりながら、胸の中に大事にしまった。
「マルグリットさん、古代樹の状態はどれくらい悪いのでしょうか」
「正直、生きているのが不思議なくらいだね。もうほとんど死にかけの状態さ。今日明日死ぬことはないだろうけど、二週間先はどうかわからないよ……」
私の質問にマルグリットさんはとても厳しい表情で答える。
ルイ様との話を合わせて、しばし頭の中で考える。
今までも、【言霊】スキルで枯れそうなお花や植物を復活させたことは何度もあった。
でも、今回は歴史ある古代樹だ。
もっと細かい知識や情報を得てから、詩を書いた方がよさそうかな……。
効果がなかったらそれこそ意味がない。
「あの、ルイ様。一度、お屋敷に戻って詩を考えさせていただいてもよろしいでしょうか。詩の精度を上げるために、古代樹の歴史など一通り勉強したいのです。もちろん、急いで作りますが」
〔ああ、構わない。むしろ、力を貸してくれてありがとう。私もできる限りの協力をする〕
「ありがとうございます。全身全霊で頑張ります」
――ルイ様の古代樹は絶対に救う。
心の中で強く決心すると、自然と拳を固く握り締めていた。
「あ、いえ、違うんですっ。私はルイ様のメイドなのですが、【言霊】というスキルがありまして……」
話の流れからか、樹木医と勘違いされてしまった。
マルグリットさんにも、【言霊】スキルについて説明する。
詩を詠うと願った通りの現象が……と話すと、大変興味深く聞いてくれた。
「……そんなスキルがあるんだねぇ。あたしも初めて聞いたよ」
「ですので、もしかしたら私の力で古代樹が救えるかもしれません。ルイ様の大切な樹は……守ってあげたいです。……ルイ様の大事なものは、私にとっても大事なものなので……」
「「ポーラちゃん(さん)……」」
エヴァちゃんとアレン君は、目をうるうるとさせながら私を見る。
呟いたのは、私の素直な気持ちだった。
ルイ様はただ仕える人ではない。
優しくて尊敬できる、とても素晴らしい人なのだ。
私が言っても、しばらくルイ様は何も書かなかった。
もしかして、失礼だったかな……。
樹木医でもない私が余計はことを言ってしまったかもしれない。
徐々に確信みが強くなり、慌てて謝りの言葉を述べる。
「も、申し訳ございませんっ、出過ぎた真似を……! 私に樹の状態などまるでわからないのに……! マルグリットさんが言うくらいなら、もうダメなんですよね」
〔いや、謝る必要はまったくない〕
頭を下げた目線の先に、ちょうどルイ様の魔法文字が浮かんだ。
いつもよりわずかに角が丸い文字で、そう書かれている。
「ル、ルイ様……?」
〔自分のことのように真剣に、君の他人を想う気持ちはとても素晴らしい〕
「こんな良い子がメイドだなんて、あんたは幸せ者だね」
ルイ様もマルグリットさんも、私のことを褒めてくれた。
じわじわと心が温かくなる。
「ポーラちゃんの優しさで胸がいっぱいになっちゃったよ……」
「僕も見習わなければいけませんね。」
『お前は本当に良いヤツだ……。フェンリルにもこんなヤツはなかなかいない……』
エヴァちゃんとアレン君はほろりとハンカチで涙を拭き、いつの間にか、ガルシオさんまで瞳をうるうるさせていた。
優しい人たちに囲まれて、私は本当に幸せ者だ。
〔では、一度古代樹を見に行こう〕
「あっ、すみません、ルイ様……まだお掃除の残りがありまして……」
急いでいたので、掃除道具も片付けずに来てしまった。
道具を出しっぱなしにするのは、心がちょっと痛い。
集めた落ち葉や花びらなども、風が吹いたら飛んでいっちゃうかも……。
「心配しないで、ポーラちゃん。私たちがやっておくから」
「掃除より古代樹の方を優先してください」
『フェンリルの箒捌きを見せてやるよ。我ながらうまく使うんだ』
三人は力強く言ってくれるけど、さすがに申し訳ない。
自分の仕事は、最後まで自分でやらなければ……。
心の中で葛藤していたら、ルイ様が伝えてくれた。
〔いや、君たちも来なさい。せっかくだからみんなで見よう〕
「「ありがとうございます、ルイ様(辺境伯様)!」」
『ルイのくせに気が利いているじゃないか』
〔うるさいぞ、ガルシオ〕
ルイ様の後に続き、私たちは森を進む。
方角としては北の方だ。
十五分ほども歩くと、巨大な広場が現れた。
この辺りだけ草木が刈り取られている。
そして中央には、天を衝くほどの大きな樹がそびえる。
高さは30mほどで、幹の太さは最低でも6mはありそうだ。
こんな立派な樹は、今まで見たことがない。
しかし、植物が芽吹く季節だというのに葉っぱは一枚もなく、枝は細々としており今にも折れそうだった。
樹木医でなくても、命が尽きそうな気配をひしひしと感じる。
〔これがアングルヴァン家に代々伝わる古代樹、“久遠の樹”だ。見ての通り、半年ほど前からかなり弱っている。私もあらゆる回復魔法を使ったのだが、どれも劇的な効果がなくてな……。対応に苦慮しているところだ〕
「なんだか……すごく辛そうです。見ているだけで胸が締め付けられてしまいます」
「あたしの薬とルイの魔法で、どうにか生き永らえているのさ」
“久遠の樹”は大木なのに、風に揺れるたび折れそうで不安になってしまうほど弱々しい。
よく見ると樹皮の表面は細かくひび割れており、自然にポロポロと崩れる。
樹は喋らないものの、その辛さは痛いほどよくわかった。
ルイ様の大事な古代樹……。
私が絶対に元気にさせてあげるからね、と心の中で語りかける。
「ルイ様、もしよろしかったら……ご両親との思い出をお話ししてくださいませんか? 【言霊】スキルに活かしたいのです」
〔ああ、もちろんだ。私は生まれてすぐ、両親に連れられ“久遠の樹”に挨拶を交わした。そうするのが、アングルヴァン家の習わしだからだ〕
ルイ様は過去の思い出を伝えてくれる。
仕事で家を開けがちなご両親に変わって、それこそ親代わりに成長を見守ってきてくれた……、傍にいるだけで孤独を忘れられた……何より“久遠の樹”を見るたび、今は亡きご両親を思い出すと……。
そのどれもが尊い思い出で、“久遠の樹”の状態を思うと涙が出そうになりながら、胸の中に大事にしまった。
「マルグリットさん、古代樹の状態はどれくらい悪いのでしょうか」
「正直、生きているのが不思議なくらいだね。もうほとんど死にかけの状態さ。今日明日死ぬことはないだろうけど、二週間先はどうかわからないよ……」
私の質問にマルグリットさんはとても厳しい表情で答える。
ルイ様との話を合わせて、しばし頭の中で考える。
今までも、【言霊】スキルで枯れそうなお花や植物を復活させたことは何度もあった。
でも、今回は歴史ある古代樹だ。
もっと細かい知識や情報を得てから、詩を書いた方がよさそうかな……。
効果がなかったらそれこそ意味がない。
「あの、ルイ様。一度、お屋敷に戻って詩を考えさせていただいてもよろしいでしょうか。詩の精度を上げるために、古代樹の歴史など一通り勉強したいのです。もちろん、急いで作りますが」
〔ああ、構わない。むしろ、力を貸してくれてありがとう。私もできる限りの協力をする〕
「ありがとうございます。全身全霊で頑張ります」
――ルイ様の古代樹は絶対に救う。
心の中で強く決心すると、自然と拳を固く握り締めていた。