攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。

母の杖を手にした俺とレイラは共に家を出る。
現在おれは12歳、レイラは13歳だ。
まだまだ子供ではあるが、俺たちはあくまで人探し。
冒険者では無い。自ら危険に飛び込む必要は無いだろう。
ということで、魔物や魔獣が居ないとされている裏道を通ることにした。のだが-

いきなり魔獣と遭遇した。
黒の犬型魔獣。頭には青白く光る角が生えている。

「-レイラに任せて」
「なら回復は僕に…って必要ないか」

レイラがあっさりと片付けた。

「僕の出番はなしか~」
「アスフィはヒーラーなんだから当然だよ」

まぁそうなんだけど。
それでもこのままだとレイラばかりに働かせてしまうことになる。

「ヒール」
「ダメージなんて負ってな…うそ、なんだか楽になったよ」
「僕のヒールはスタミナすらも回復させるのさ!えっへん!」
「さすがアスフィだね」

こうして俺たちはお互いに助け合いながら裏道を抜けた。
その道中やはり魔獣はいたのだが、全てレイラが片付けた。
裏道を抜けると広い丘に出た。
俺たちの村は森に囲まれていて、
なかなか見ることが出来ない景色だ。

「きれいだね」
「うん、最高だ」

緑だけじゃない景色がそこにあった。
そういえば、まだ具体的にどこに行くか目的を決めていなかった。

「うーん、どこから行こうか?」
「ここからだとミスタリス王国が近いよ」
「ミスタリス王国?なにそれ」
「アスフィ知らないの?冒険者を数多く排出してる街だよ」
「ならそこに向かおう!冒険者の数だけ母さんの目を覚まさせる才能を持つ人がいる可能性がぐんとあがる!」
「そうだね」

こうして俺とレイラはミスタリス王国に向かうことにした。
ここから歩いていくと2日程で着くそうだ。

「途中野営が必要だね、どうするレイラ?」
「どうするって?」
「食糧だよ。食べ物持ってきてないし…」
「あ」

俺たちは暗くなる前に先に食糧を調達することにした。
だが、俺たちは植物や木の実に詳しくは無い。
つまり毒があるか、ないかが分からないのだ。

「これ食べれるの?」

赤と白の水玉模様のキノコ。
明らかに毒がありそうなキノコだ。

「……ま、まぁ毒があったら僕が治してあげるよ」
「そうだね、じゃあ何でも食べられるね」

毒あり前提で俺たちは適当に食べ物をかき集めた。
そして日は暮れ夜になった。
夜空は星がキレイで流れ星が流れた。

「母さんが目覚めますように…」
「アスフィは母親のこと、大切にしているんだね」
「当たり前さ!家族なんだから」
「そう、だね」

そういえばレイラの両親については聞いたことがなかった。
母親はあの胸が大きくやたら谷間を強調している人なのは分かるが。

「レイラは親と仲良くないの?」
「仲はいいと思う…たぶん。でもうちの母親は父が居ない時に、いつも違う男の人を連れて来るの」
「そ、そうなんだ」

どうやらわけアリみたいだったから、
これ以上何も聞かないことにした。

「そういえば師匠も何度か家に-」
「-ああ!みてレイラ!また流れ星だ!」

俺はだいたい察して話題を逸らした。
あんな父でも父さんだ。威厳というのがあるだろう。
全く父さんは…母さんが浮気日記を付けるのも分かる気がした。俺は再び母さんの日記を思い出しブルった。

「アスフィも女の人が好きなの?」
「もちろん大好き…ゴホンッ!程々に好きだよ」
「ウソツキ。この前えっちなことしたじゃん」

風呂の件だろうか……?
あれは結局見れてもないし触れてすらない!

「し、してない!そんな嘘はやめてもらおう!」
「じゃあ、アスフィはしたくないの?」
「……したくないわけでもない」

何を?とか野暮なことは聞かなかった。
俺は父の血が流れているから大体レイラが言っていることは分かった。

「そうなんだ」

なんだか夜の雰囲気が良すぎてムード変な感じになってきた。
体が暑くなってきた。
レイラは13歳。母親譲りなのか胸もここ数年で大きく成長していた。正直少し触りたいところだが、そんなことをすればレイラに切り殺されかねない。俺は我慢することにした。

「じゃ、じゃあご飯にしようか」
「そうだね」

俺たちは集めてきたあらゆる木の実やキノコを食べることにした。

「あ、火がない」
「アスフィ火は付けられないの?」
「だって回復魔法しか使えないし…」
「木の実はいいけど、キノコは…」

迷ったが取ってきた食糧は8割がキノコ類だった。
木の実だけでは腹の足しにならず結果、生でキノコを食べることになった。

「くそまぢぃ……」
「そう…だね」

もちろん腹を下した。

「『ヒール』」
「あ、ありがとうアスフィ…」
「礼はいいよ。毒は直せても味が不味すぎるから今後は火を通さなくてもいい食糧を見つけよう」
「そう……だね…オエーー」
「『ヒール』!」

毒は直せてもあまりにも不味すぎたのを思い出し、
何回も吐きそうになるレイラだった。
というか吐いていた。

葉っぱをかき集め布団のようにし、
交代で寝ることにした。
見張りをするためだ。

「さ、寒い……」

俺から寝ることになったが、
正直寒すぎて睡眠どころじゃなかった。

「……レイラは寒くないの?」
「寒いけど仕方ないよ」
「ならいい方法があるんだけど…殴らないでね」

俺たちは抱き合うようにして布団、
もとい葉っぱにくるまった。

「少しは暖かくなったけど、見張りはどうするの?」
「僕は多分寝られないからレイラは寝ても大丈夫だよ」
「そう…ならおやすみ」
「……はぁ色々と柔らかくて寝られないよぉ…」
「………………ぇっち」

こうして俺たちは何とか朝まで抱き合って夜を凌いだ。


---


翌朝、起きたら鎧を着たもの達に囲まれていた。

「君たちこんなところでなにをしている」
「えっと、ちょっとキャンプを……」
「親は?」
「居ます」
「なら帰りなさい。ここは危険だ」

どうやら騎士団のようだ。
随分と汚れていて手入れがされてない鎧だな。

「あのー、僕達ミスタリス王国に行きたいんですが」
「なにをしに?」
「……薬を買いに。母が病気で…ミスタリス王国でしか売っていないんです」

俺は咄嗟に嘘をついた。
『呪い』で……とか説明している暇もないと思ったからだ。

「……分かった。連れて行ってあげよう」
「ほんとですか!?」
「ああ。…聞いたなお前たち。この子らをミスタリスまで護衛しろ」

こうして俺たちは護衛されミスタリスまで護衛されることに-


なるはずだった。
俺たちは騎士団の護衛の元、
ミスタリス王国まで行けることになった。

「ありがとうございます、護衛までして頂いて」
「あ…ありがとう、ござ…ございます」
「言いさ…俺の名はハンベルだ。コイツらの…リーダーだ」
「僕はアスフィ・シーネットです。こっちはレイラ・セレスティアです。この子人見知りなので気にしないでください」
「……」

騎士団長ハンベルか。なかなか気が利く良い奴だな。
さすがは王国騎士団だ。

「騎士団の皆さんはこんな所でなにしていたんですか?」
「ん?あぁ~、ちょっと人探しをしていてな」
「人探しですか?実は僕達もなんです」
「そうか、奇遇だな。まぁ俺たちはもう見つけたんだがな」
「そうなんですか!羨ましいです…僕達はこれからでして…」

そんな話をしながら騎士団長と歩いていた。
レイラは相変わらず人見知りを発動しなにも喋らない。
喋らないどころか顔が険しい。
そんなに大人数は苦手なのか。
たしかに、この騎士団は団長ハンベルを含め6人居る。
これ程の人数はレイラは初めてで、緊張しているのだろう。
…とか考えているとようやくレイラが口を開いた。


「……ねぇ、おじさん達。これほんとにミスタリス王国に向かってるの?」

「……嬢ちゃん。勘がいいねぇ」
「アスフィ!!こいつら騎士団なんかじゃ-」
「-動くな。その剣を抜いたらお前の手足を切り落とす」

なんだなんだ?こいつら騎士団じゃないのか!?
ハンベルはレイラの口を後ろから手で塞ぎ、
剣を首元に当てている。

「もう少し人目のつかない離れたところが良かったんだが……仕方ないここらでいいだろう。ここら辺も人はいねぇはずだ」
「おい!レイラを離せ!!」
「ガキは黙ってろ!てめぇに用はねぇんだ……おいお前らそのガキ殺しとけ。俺はこの亜人のガキをたっぷり楽しんでるからよ。俺が楽しんだ後はお前らにも楽しませてやる」
「くっそぉ!騙したなぁ!!ゲスがァァァァァァー!!」
「ガキ?お前の相手は俺たちだ。兄貴の後は俺たちだ…ヒッヒッ!久しぶりの亜人だぜぇ。しかも獣人の娘ときた!楽しみだなぁ!」

こいつらは騎士団ではなかった。
騎士団のフリをした盗賊だった。
鎧が汚れていたのは、
どこかの騎士を襲撃して追い剥ぎでもしたのだろう。
盗賊ならしそうなことだ。

「動くなよぉ~?動いたら手足切り落とすからよ?…にしてもお前なかなか発育がいいなぁ?これは楽しめそうだぜぇ」

レイラがハンベルに抵抗できず衣服を脱がされかけていた。
助けに入りたいが、俺の前には5人の下っ端がいた。

「おまえーーー!!!レイラに手を出したらどうなるか分かってんだろうなぁ!!?殺すぞぉぉぉぉぉ」

俺は人生でここまで怒ったことは無い。
怒りの感情がむき出しになった俺は、
この時のことをあまり覚えていない。




「『ヒール』」

「は?オイオイ俺たちを回復させてくれんのか?
ハッハッハ!!!ありがとよガキ…うっ…ガハッ」

「『ヒール』」

「おいガキぃぃぃぃぃぃテメェ俺に何をしたぁぁぁぁぁ」
「『ヒール』」「『ヒール』」 「『ヒール』」 「『ヒール』」

「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール…」


どんどん口や目から血を吹き出し倒れていく鎧の男たち。
本来対象者の身を淡い光が包み込む『ヒール』だが、
この時の『ヒール』はドス黒いものだったらしい。
これは後に聞いた話だ。

「アス…フィ?」
「な!?お前らぁ!どうした!?ガキ1人に何してんだよぉ!!…ガキテメェの仕業か。どうやらおめェから先に殺さなきゃこの後、楽しめそうにねぇみてぇだな~?」
「アスフィ逃げてっ!!こいつ強いよ!!!」

ザシュ-

「へッ!!ガキが調子に乗るからだ!」
「アスフィィィィィィィィ!!!!」



「『ヒール』」



「な!?確かに腕を切り落とした筈だ!?なんでだ!?たかが『ヒール』みてぇな初級回復魔法で癒せる傷じゃねぇ!!」

「『ヒール』」

「グハッ!!て、てめぇ…ただのガキじゃねぇ…バケモンだ…」

ハンベルは口から血を吐きながらも未だたっている。

「へっ!だがこう見えて俺も剣術の『祝福』を持つ者…ガキなんかにやられてたまるかっ!俺はそいつら雑魚とは違ぇ!『 身体強化(ブースト)』!!死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

ドサッ

アスフィの元々1つだった、2つの体は地面に落ちた。

「どうだ!?真っ二つにしてやった!ギャッハハハハ!これでもう終いだ……さてかなり疲れたんだ。俺を癒してくれよお嬢ちゃん?」

「アスフィィィィィィィィ………そんな……」





「『ハイヒール』」




「な、に?」




死を呼ぶ回復魔法(デスヒール)




ハンベルは倒れた。
力なく、血を吐くことも無く。
ただ、意識を失ったかのようにその場に倒れ死んだ。



そして俺もまた力なく倒れた。

次に目覚めた時おれは柔らかいものと、
柔らかいものに上下から挟まれていた。

「うぷ」
「アスフィっ!!起きた!?」
「レイ、ラ?大丈夫?」
「うん!それよりアスフィこそ大丈夫なの!?」
「え、なにが?」
「覚えて……ないの?」
「えーっと、うん……あッ!!ハンベルは!?」
「……死んだよ。ほらあそこ」
「…レイラがやったの?」
「……なんかね。ヒーローがレイラ達を助けてくれたよ。凄くかっこよかったけど…それ以上に怖かった」
「そうなんだぁ…でもレイラが無事でよかったよ!」
「レイラもアスフィが無事でよかったよ」
「……なんだか僕疲れたからもう少しこの気持ちよさ味わっててもいい?」
「……今日だけ特別だよ」

その後、俺はレイラの膝の上で少しの睡眠を取った。

ーーー

「さて、ミスタリス王国に向かうかぁ」
「もういいの?」
「うん!ありがとうレイラ!お陰で元気になったよ色々と!…またお願いしてもいい?」
「…ダメだよ?」
「だよねっ!!!!」

俺たちは騎士団の死体をそのままにし、
ミスタリス王国へと再び足を動かすことにした。
あいつらのせいで少し距離が遠くなってしまった。
とはいえ、行くしかない。

「やぁ君たちこんなところでなにしてるんだい?」
「またお前らか!!?」
「お、おいおい!敵意を向けないでくれ!…私はミスタリス王国騎士団副団長のエルザだ。エルザ・スタイリッシュだ!」

馬に乗っていた女騎士は馬からおり、
騎士団の称号と一例を魅せ本物だと主張した。
確かに『盗賊(あいつら)』とは鎧の質や気品が違う。
金髪のロングヘアーに光沢のある銀色の鎧。
その左胸には2つの剣が交差する紀章が着いている。


「こ、今度は……本物…だよ……ね?」

レイラは人見知り…いや、今度は本当に怯えていた。
体が震えていたのだ。無理もない。
さっき起きたばかりだからな。

「…うーむ、なるほど。君たちは相当怖い思いをしたようだ。大丈夫だ。私は本物だ、安心してくれ」

とエルザは「ほら」と紀章を見せてきた。
それを見せられても俺たちには本物か確かめる術がないのだが。だが、俺は確かに本物だと心で感じた。

「本物…みたいですね」
「信じてくれてありがとう!良ければ君たちの名前も教えてくれないか?」
「僕の名前はアスフィ・シーネットです」
「レ、レイラ・セレスティア……です」
「そうか!アスフィと、レレイラか宜しくな!」
「違います…レイラ…です」
「ああ、レイラか!すまない!!この通りだ!!」

腰を曲げ謝ってくるエルザ。
後に知ったことだが、このエルザ。正直者で結構有名人らしい。

「だ、大丈夫です…」
「……にしてもシーネットか…どこかで聞いたような??」



「なるほど、それは怖かったな!私を見て怯えるのも無理もない。もう少し私が駆けつけるのが早ければそんなことにはならなかったのだが…」

俺たちはエルザの馬に乗せてもらいながら、
さっき起きた出来事を話していた。

「でも、相手は6人でした。エルザさんでも流石に無理じゃないですか?」
「それはどうかな?その6人を倒した…えっと、
怖カッコイイヒーローが勝てたんだろう?なら私も勝てるさ!」
「ど、どうしてそんなに自信があるん…ですか?」
「……なぜなら私はミスタリス王国で1番強いからなっ!!」
「それにしてもこの馬白くてかっこいいですね」
「そうだろう?名をパトリシアという!仲良くしてやってくれ」

この人は頼れる人だ。
俺とレイラは心からそう感じた。





---

「着いたぞ!ここが我らのミスタリス王国だ!」
「で、でけぇ~」
「そう…だね…」

俺とレイラは見上げていた。
まだ門の前なのに田舎育ちの俺たちは、既に興奮が収まらなかった。

「っ!!」
「エルザ副団長!お疲れ様です!」
「うむ、くるしゅうない」
「は、はい!…ところでそちらの子供達は?」
「私の客人だ。丁重に扱うように!!」

「「はいっ!!」」

2人の門番らしき人物は俺たちに一例し、
俺たちが見上げるくらい大きな門を開けてくれた。

そこに広がっていたのは俺たちが初めて見る光景だった。
噴水があり、着飾った人が大勢いる。
左右には大きな石造りの建物があり、
そしてその中央には門の外からでも見えていた大きな城があった。白の頭頂にはエルザの紀章にもあった剣が交差したシンボルの旗が掲げられていた。

「すげぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「すごぉぉぉぉぉぉぉぉ」

田舎育ちの俺とレイラはほとんど同じ感想だった。

「ハッハッハ!そうだろう!ミスタリス王国はそれなりに栄えている街だからな!」
「…僕たちの町というか村がしょぼく見えます…」
「だね…」
「そんなことは無い!あの辺は空気が美味い!城の中にずっと居るより遥かに気持ちがいい!!」
「そうなのかな」
「そうとも!!そうだ、君たちの目的を聞いていなかったな」
「…僕達人探しをしているんです。母が病で-」



「なるほど。なら城で王に聞いてみるといい」
「え?いきなり王様ですか?」
「お、王様に…あ、あ、会うのはちょっと…」

レイラはものすごく緊張していた。
いや、俺も流石に王様に会うのはちょっと。
そんな気持ちで来て居ないし…。

「そう身構えるな!王は話のわかる人物だ!それに王の耳にはこの王国の全ての情報が入って来る…あ、もちろんプライベート以外ね!」

エルザは嘘は良くないと思い要らぬ言葉を付け足した。

「うーん、ならいってみようかレイラ」
「…アスフィがいくならレイラはついてくよ」
「決まりだな!…にしても君たち仲がいいな!結婚するのか?」
「…」
「…」
「…すまない!私は空気が読めないみたいでな…では城に向かおう!」

エルザの案内の元俺たちは街の中央にある大きな城に向かうことになった。その道中色んな人に声をかけられるエルザ。出会った街の住人からは、

「エルザさん!今日もお疲れさんっ!」

またある着飾った、恐らく貴族と思われるような者からは、

「これは、エルザ様。今日もお疲れ様です」

立場によってどうやら挨拶が違うらしい。
城に向かうまでの道中でこのようなやり取りが何十回も続いた。後ろからついて歩いていた俺たちは気まづくて仕方なかった。
「あ~ども~」

と軽く会釈をし、誰だコイツと思っていそうなそんな表情をされる俺と、

「……」

無言で俯きながら歩くレイラ。
人見知りはしばらく治りそうにないな。
大人になったら治るんだろうか。
大人になった俺は結果が分かっているが。

「すまないな、私はいつも声をかけられるんだ」
「いえ、レイラが萎縮しているくらいなので大丈夫です」
「それは大丈夫なのか?!」
「……」
「はい!平常運転です!」

と返す俺。
俺とエルザは大分仲が良くなった気がする。
友達になれそうだ…そうだ友達申請してみよう!

「エルザさん!僕たち友達になれませんか?」
「ん?もちろん!私は既に友と思っていたが?」
「あ、ありがとうございます!嬉しいです!」
「友達記念といっちゃなんだが、その堅苦しい話し方は辞めないか?私はあまりその堅苦しい話し方が好きではなくてな」
「わか…ったよ。エルザ」
「うん!それがいい我が友アスフィ!そしてレイラよ!」
「……ぁりがとう」

レイラは消えそうな声でお礼を言っていた。

ーーー

「着いたぞ!ここがミスタリス王国の城であり砦だ!」

改めて目の前にすると本当にでかい。
俺たちの家なんかと比べ物にならない。当たり前だが。
まさに王城というにふさわしい大きさと威厳ある建物だ。

「で、でででは、入ろうエルザ!」
「うむ!」
「本当にでかぃ……」

「お帰りなさいませお嬢様」
「うむ!」
「あ~ども~」
「…」

相変わらずのアクションだ。
にしてもレイラをいきなりお嬢様と!
羨ましい!俺もお帰りなさいませご主人様って呼ばれたい!
そう思っていた。

「…ねぇエルザ」
「なんだ?」

俺は耳打ちで聞いてみることにした。

「ここのメイドさん達って男嫌いなの?」
「ん?そんなことは無いと思うが」
「いやだってレイラのことはお嬢様って言うのに、僕の事は無視だよ!?僕だってお帰りなさいませご主人様って言って欲しいよ!」
「…?そうか?なら私が言おうか?」
「いいよ!もうっ!」

俺は1人で舞い上がっていた。
メイドさんが次々と出迎えてくれるからだ。
だけどその度に少し悲しくなる。

「俺もご主人様って言って欲しいなぁ…レイラいいなぁ」
「……」
「ご主人様!こうか?ハッハッハ!!」
「エルザのは要らないよ!!」

そうつい大声でエルザに返すと、
近くのメイド達の視線がギラリと光って気がした。
なんだか背中がゾワゾワした。

「…やっぱりここのメイドさん達、男嫌いなのかなぁ」


そして王の扉の前まで来た。

「いいか?開けるぞ?」
「スーーーーーハーーーーーーーー、よしいいよ!」
「……」

エルザはずっと無言だ。

ガチャッ
ギィィィィィィィィィィィィ


大きな扉を開くとそこにはメイドが真ん中に道を作るように並んでいた。


「「お帰りなさいませ、お嬢様」」


真ん中には2人は座れるんじゃないかと思えるような、
大きくて豪華な椅子があった。
しかし、その玉座には王がいなかった。

「あれ?ねぇエルザ?王様居ないんだけど」
「……?……っ!!」
「ん?王なら居るじゃないか!」
「え?どこどこ?」

と俺は辺りを見回しているがメイドさんと、
俺たち以外誰も居る気配がしない。

するとエルザが急に真ん中を歩きだし、
あろうことかその空白の玉座に座り出した。

「ちょっとエルザ!王様居ないからってダメだって!!」
「……!!」

クイックイッと袖を引っ張るレイラ。

「なに?」
「……お、おぅさま」
「だからどこよ!!」







「王は私だ。エルザ・スタイリッシュ。
それが私の名でありこの国の女王の名前でもある!」


俺は打首を覚悟した。
ミスタリス王国の王女、
エルザ・スタイリッシュ。

彼女は確かにそう言った。
俺は少しの沈黙の後やっと状況を掴めた。
ここは言葉を選ばなければ死ぬ。
そうか、そういう事か。
俺がエルザにタメ口で話している時、
やたらとメイドさんたちの目が光っていたのは、
こいつ王女に馴れ馴れしくしやがって…という意味だったのか。

「あの、エルザこれは一体どういう-」




後ろで待機しているメイドさん達から殺気を感じた。
こ、怖い…言葉を選ばないとマジで死ぬかもしれない。
と、思っているとエルザが発言した。

「よい、お前ら。私は気にしてなどいない」
「はい、かしこまりました」
「……エルザ王女よ、それで例の母の呪いの件なんですが…」
「よいよい!いつもの友達の話し方でよい!」
「そうですか?ならエルザ-」



「ひっ」

また殺気だ。
もうやだ早く帰りたい。
レイラもさっきからずっと無言だ。
体がガクガクと震えている。

「……はぁ、お前ら下がれ。お前らが居ると話が進まん」
「しかし-」
「んん~?」
「…はい、かしこまりました。では、失礼致します」
「うむ」

エルザの鋭いメンチならぬ、
眼光でメイド達は王室を出ていった。

「いやぁ、すまない!これでやっと気軽に話せるな!ハッハッハ!」

全然気軽に話せるわけがない。
あんたが王って事実は何も変わっていないじゃないか。
と言いたい気分だった。

「……それでエルザ殿下、母親の呪いの件ですが-」
「んん~?なんだって?よく聞こえないぞ?」
「いやだから殿下、呪いの件ですが-」
「んーーーーー?」
「あああああもうだから!呪いの件だってば!」
「ハッハッハ!すまない、それでいい!堅苦しいのは無しだ!」

この王はいちいち難しい。
だが、王にタメ口なんていいのだろうか。
俺は昔、母さんが教えてくれた父さんの首が飛びかけた話を思い出した。

***

『父さんは昔ね、首が飛びかけたのよ~?』
『どうして?』
『ある国の王様にタメ口聞いちゃってね、ほらあの人あんな性格でしょ?筋肉しか頭にないような人だから王と気づかなくてそれで首が飛びかけたのよ~あはははは』
『父さんはそれでどうなったの?』
『ある騎士がフォローしてくれてね、王様もそこまで気にしていなかったから何事もなく済んだわ』
『父さんすごいね!』
『でしょ~?騎士さんが居なければ父さん居ないから、アスフィちゃんも居なかったのよ~?騎士さんに感謝しないとね』
『騎士さん!ありがとー!!えへへ』

***

懐かしいなぁ。
騎士が居なかったら俺がいないとか結構怖い発言していたが、母さんはそれでも楽しそうに、懐かしむように話しくれた。
そんな母さんが大好きだった。
俺は必ず母さんの目を覚まさせる。

「王…エルザの耳にはこの街の全ての情報が入ってくるんだろ?」
「ああ!もちろん!……プライベートは入ってこないぞ!?」
「もう分かってるってば。なら教えてよ、この街に『解呪』できる才能を持つ人がいるかどうか」
「……残念だが、この街には居ない。すまない」
「やっぱりそうなんだ。ならなんでここに連れてきたの?出会った時その場で教えてくれても良かったのに…」

そうだ。別にわざわざ王室まで来る必要は無いはず。
それなのにここまで連れてきた理由。

「……王として僕達に用があるんだね?」
「…流石アスフィ鋭いな、だがその通りだ。あの時の私の身分はあくまで騎士団副団長としてのエルザだ」

エルザは俺たちをここまで案内する。
それが彼女の計画だったのだ。
そして真の目的は-

「私は君達と出会う前に、凄まじく身の毛がよだつ大きな力を感じた。その方向は君達が居た場所だ。恐らくレイラが言っていた、怖カッコイイというヒーローだと思うのだが、私はそいつの正体が知りたい」
「……」

レイラは黙っていた。
一言も喋らずただじっと下を向いていた。

「でもレイラの話ではそいつはもうどっか行ったって…」
「だから私はそいつを探したい。その為には目撃者であるレイラ、君が必要なのだ」
「……」
「君はなにも答えてくれそうには無いみたいだな」
「レイラだってあの時怖い思いをしたんだ!覚えてなくて当然だよエルザ」
「果たして本当にそうだろうか」

エルザは正直者で空気が読めない女だ。
しかしそれと同時に鋭い勘をもつ女でもあった。
エルザは大人になっても友達である。
…それは今は関係ないか。

「……レ、レイラは」

レイラは王に…エルザに発言した。
俺たちはレイラが「覚えてない」と発言するのだろうと思っていた。だが違った。

「……覚えてます。レイラはあの時確かに見ました」
「ほう?今になって発言する気になったのか…してどんな奴だ」
「……闇魔法を使っていました。確か服装は黒の上下です」
「なるほど…ふむ、そうきたか……分かった」
「レイラ覚えていたんだね」
「……うん」

レイラはどこか気まづそうな顔でそう答えた。
対してエルザはニヤリと悪そうな顔を浮かべていた。

「分かった、ありがとうレイラよ」
「いえ」
「私は…ゴホンッ、エルザ王女としてお前たちに命ずる」

エルザは大きく派手な王の椅子から立ち上がり、
真っ赤なマントを翻し威厳あるオーラを漂わせる。
今まではとは雰囲気が変わり、再び王としての風格を感じた。
これが王…俺はそう感じたと同時に嫌な予感がした。

「我は、お前達を騎士団に入隊させる!」
「え?」
「え?」

俺とレイラは全くおなじ声が出た。
そして嫌な予感は的中した。


---


俺たちは騎士団に入隊することになった。
半ば強制的に。

「ねぇアスフィ……どう?似合う?」
「うん!すごく可愛いよ!流石レイラだね!」

騎士団の装いを纏うレイラ。
今までの素朴な一式黒の服も似合っていたが、
これもまたいい。白を基調としたドレスに近い。
それでいて動きやすそうな服。
騎士団といえば、エルザのような鎧をイメージしていたが。

「アスフィもカッコイイね」
「そうかな?あんまり実感がないよ…ははは」

田舎育ちの俺は自分がこんな服を、、とおもっていた。
実際今までの服装は田舎育ち丸出しの茶をベースにした服装だった。母さん曰く、髪色に合わせて見たとのこと。
俺は母さんと同じこの髪色が嫌いではなかった。
故に田舎育ち丸出しの今までの服装割とすきだった。
あと動きやすいし。ショートパンツ。

「なんか動きにくいよこれ…」

「ハッハッハ!似合っているぞ!アスフィ!」

エルザはそう答えてくれた。
まぁ似合っているならいいかと思った。
俺も案外チョロい男なのかもしれない。
レイラは白を基調とした装いだか、俺は逆に黒だ。
黒のスーツに近いもの。俺はこの初めて着る服装に違和感が隠せなかった。

「……ほんとに似合ってる?」

今から騎士団としての初クエストが始まる。

「今回依頼のあったクエストは、魔獣討伐だ」
「魔獣?大丈夫なのそれ」
「アスフィはレイラが守るから安心して」
「問題ない!私がいる!私はこう見えてもこの国で1番強い!」

本当にこう見えてだよ。中身が伴ってないよ。
大人とはいえない……どちらかというと精神年齢子供だ。

「それでどんな魔獣なの?」
「ワイバーンだな。ワイバーンが村を襲っているとの事だ。
推奨ランクはA級だ。この国の冒険者は最高でB級だから騎士団団長か、副団長である私しか行けないのだ!」
「……なら団長がいけばよくないそれ?」

そう答えた俺に対してエルザは一瞬真顔になった。

「……団長は忙しい。よって!私が行く!そして君たちも付いてくる!以上!!」

俺たちに何も言うなと言わんばかりに会話を終わらせた。
本当に大丈夫なのだろうか。
不安しかない初クエスト……それもA級という高難易度クエストが始まった。クエスト……というより同行なのだが。
時は少し遡る。



エルザが騎士団入団を命じた

「ええ!なんで?!」
「……意味わかんないよ」

俺とレイラはどうやら騎士団入団を命じられたらしい。
そのあまりの急すぎる展開に俺たちは動揺する。

「私は1度決めたことは覆さない!故に君たちが騎士団に入団することは決定事項だ!」
「いや、そもそも理由を教えてよ」
「……うん」
「ああ!そうだ!忘れていた」

この王女は本当になにがしたいんだろう。

「理由は3つ-」

と、三本指を立て長々と話し始めた。

「まず1つ。私は外に出たい。城は窮屈でたまらん」

なんだよ、ただの私情かよ。
てかそれ俺たちが騎士団に入団するのに関係あるのか?
俺達いなくても外に出てんだろと言いたいところを我慢した。後ろにメイドが居たからだ……。

「2つ。レイラのいう怖カッコイイヒーローを見つけたい。その為には目撃者であるレイラと行動を共にする必要がある」

これはちゃんとした理由だった。
確かに俺もその人物が気になっていた。
だが、まだそれだけでは俺たちは納得できない。
なぜなら俺たちはこの国の騎士団になりにきたのではないのだから。

「そして3つ。せっかく友が出来たのだ!友達と一緒に冒険をしたいじゃないか!」

声高らかにそう宣言するエルザ王女。
3つ中2つが王の私情であった。
そんな高らかな声を聞き付けたのか、
王室の大きな扉が開き1人のメイドが入ってきた。

「いけません!!エルザ様!これ以上、王に外に出られると私達も困ります!仕事が……なにより団長に怒られるんですぅぅぅうぇぇぇぇぇぇん」

いきなり入ってきて泣き出すメイド。

「なんだパパのことか。大丈夫だ。私から言っておく。パパは私の言うことは守るからな!怒るなと言っておく!心配するな!」
「それいつも言ってますけど、全然意味ありませんからぁ~」

また泣き出すメイド。
やはりエルザは度々無断で外出しているみたいだ。
すると今回もそうなんだろう。
外出のプロだな。何回も抜けられるってメイド達のセキュリティが悪いのか、エルザの忍び能力が高いのか。
なんにせよメイドからすると迷惑な話だろう。

「えっと…団長ってエルザの父さん?」
「ああそうだ!エルフォード・スタイリッシュ。それが騎士団団長であり私のパパだ!」

驚きの事実なのは間違いないのだろうが、
メイドが泣いているし、そのメイドを宥めるレイラに、
「お構いなく大丈夫ですいつものことですから」と他のメイドがその泣いているメイドを分かる分かる…と共感し宥める。
はっきり言って現場はめちゃくちゃだった。


「ふむ、少し騒がしいな」
「誰のせいだよ」
「誰だ?」

お前だよ!とツッコミたくなるがメイドがいるから俺はあえてそれ以上何も言わなかった。

「さて、どうだ?納得したか?」
「納得は…できない」
「それはなぜだ?」
「理由は3つ」

俺もエルザが提案してきたように3つに分けて理由を話してやることにした。

「1つ。僕は騎士団に入団しに来たんじゃない。母の呪いを解くために『解呪の才能』を持つものを探しているから」

そして続ける。

「2つ。僕はまだ12歳、レイラは13歳だ。冒険者になれるのは15歳から。冒険に出ることはできない」

そして再び続ける。

「そして3つ。僕はヒールしか使えない。だから騎士なんて器じゃない」

言ってやった。
これは全て本当のことだ。
冒険者になれるのなら俺たちは既に冒険者になっている。
しかし、年齢の都合上なれないからこそ冒険者ではなくあくまで『旅』として人探しをしている最中なのだ。
それを騎士団に入団?冒険者ですら年齢制限があるのに、騎士団入団は年齢制限がないのか?と思った。

「なるほど…アスフィ、君の言い分は承知した。…だが残念だな!先も言ったが私は1度言ったことは覆さない!!」
「な!!?」

エルザは話が通じないやつだった…。

「それに1つ目の話だが、騎士団に入団するメリットがある」
「それはなに?」
「強くなれる。君たちはまだ弱い。少なくとも私より。レイラは騎士団の騎士たちと同等かそれ以上かもしれない。
だがそれでも私より弱い」
「……」
「なんだ?レイラ悔しいか?」
「……べ、別に」

レイラはどうやら気に入らないような顔をだ。
しかし、場をわきまえているのかそれ以上言葉を発さない。

「それに、騎士団に入れば母親の件も探しやすいだろう。騎士団に入れば私とクエストに同行することが出来るし、先も言ったが私の耳にはこの国の全ての情報が入ってくるからな!なにか情報が入れば君に伝えると約束する」

エルザは自信満々に言い放った。
確かにそれは一理ある…。

「そして、2つ目だが確かに冒険者には15歳からという年齢制限がある。騎士団も同様に15歳という制限がある…だが-」

そしてエルザは再び椅子から立ち上がり両手を大きく広げ言い放った。それは今までの話なんてどうでもよくなるくらい大きな発言力。王女エルザ・スタイリッシュにしか発せない言葉だ。


「「そんなもの私の王の権力でどうにでもなる!!!!!」」


無駄に広い王室が一気に静まり返った。


「………それはもう反則じゃん」
「なんとでもいうがいい!!ハッハッハ!!」

その後最後の3つ目についてエルザは言及した。

「最後の3つ目だが、ヒールのみと言ったな」
「ああ」
「なら私を治療してみろ」
「なにを言って-」



ドサッ



エルザの左腕が落ちた。
左腕から大量の血が地面に垂れ流しになっていた。
エルザはあろうことか自ら左腕を剣で切り落とした。
とても正気とは思えない行動に一瞬場が静まり返る。
そして-

メイド達は悲鳴をあげる。
レイラはなにかのトラウマが読みがったのかうずくまって、
口を押えていた。

「おい!なにしてるんだよ!!!」
「こ、これを治してみろ」
「何を言って-」
「早く……してくれ…さすがの私もこの状態が続けば死んでしまう。この王室に『ヒール』を使えるものはいないのだ」
「だったらなんで……」
「私はお前の回復の力を信じているから…」

そう言ったエルザは片足をつき右手で左腕を抑えていた。
足元には大量の血。このままでは本当に死んでしまう。

「バカやろう!!」

俺はエルザの元に駆け寄り、
落ちている左腕を拾い上げ切れた部分に繋げるように……

『ヒール』…じゃだめそうだな。
しかし落ちた左腕を治すなんてそんなことが出来るのだろうか。俺はそんなことを考えていた。初めての出来事に俺も動揺が隠せなかった。

「『ハイヒール』」

エルザの左腕があわい光で包み込まれた。
そして-

「……ふぅ、助かった。ありがとうアスフィ」
「…助かったじゃねーよ!!お前バカなのか!!?俺が切った左腕を治せるなんて保証どこにもないのになにしてんだよ!!馬鹿だよ!お前は大馬鹿者だよ!!!」

俺は言葉遣いがいつもより乱暴になっていた。
俺の怒声は王室に響き渡っていた。
俺が王女を怒鳴りつける声にメイドは…怒らなかった。
メイドも同じくそう感じていたからだろう。
今はメイドたちも安堵している。
失神している者、泣き崩れている者、何かを唱えている者。
レイラはまだ口を押えてうずくまっていた。
俺は怒りが収まらなかった。

「本当にすまない。いや、本当だ。許してくれ。
……こうして人に怒られたのは何年ぶりだろうか…」
「……いやこっちこそすまん。でももう二度とこんなことするな」
「ああ、分かった。誓うよ」

こうしてエルザの奇行もとい、時間にして3分のショッキングな出来事は終了した。



---



「しかし、アスフィ。やはり君猫を被っているな?」
「どうゆうことだよ」
「アスフィ君、『僕』じゃあなかったのかい?」
「!!」
「いやいや、別に君の勝手だ。好きにしてくれて構わないさ!」
「……アスフィ怖かった」
「ごめん、レイラ」

レイラに『ヒール』をかけてあげた。
何とか落ち着いたみたいだ。良かった。

「君の『ヒール』は傷を癒すだけじゃないのか」
「そうだよ。でもだからってもうあんなことは-」
「しないしない、さっき誓っただろ?」

俺は正直トラウマになりかけていた。
この場にいる全員がきっとそうだ。ショッキング過ぎた。
こいつ、エルザは良い奴だそれは間違いない。
しかし、なにをしでかすか分かったもんじゃない。
メイドの日々の苦労が伺える。

「……騎士団入団の件。分かった」
「本当かい!?正直迷惑を掛けてしまったから強制するつもりはなかったんだが…」
「エルザを野に放つ訳には行かない」
「……私を魔獣かなにかと勘違いしているのか??」
「魔獣の方がまだマシだよ」
「ヒドイな!!?」

まあそんなのは建前だ。
本当の理由は-

「レイラを強くしてやってほしい。自分の身を守れるくらいに」
「……なるほど。それはもちろんだ」
「……アスフィ」

俺はまだまだ弱い。
今の俺はきっと魔物や魔獣が出てもレイラを守ることは出来ないだろう。怖カッコイイヒーローが来てくれない限り。
母の件を解決するためにも、レイラにはもっと強くなって欲しい。

「レイラをドラゴンが出ても自分の身を守れるくらいに強くしてやってくれ」
「……善処しよう」
「約束だ」
「ああ!…だが、君はどうする?」
「俺は騎士なんて器じゃない。剣の才能がある訳でもないし」
「イヤ」

ここでようやくレイラがいつものレイラに戻った。

「アスフィが騎士団に入らないなら、レイラも騎士団に入らない!」

そう我儘なんだようちのレイラは。
だけど、その気持ちは嬉しいものだ。

「そう言われても、僕は剣の才能ないしなぁ」
「……師匠の言葉忘れたの?」

ああそういえば言っていたな。
「ヒーラーといえど自分の身は自分で守れるに越したことはないだろう」…だったか。
確かに忘れていた。ココ最近色々あったし何だか昔の出来事のようだ。まぁ実際あれ初めて言われたの5歳の頃だったしなぁ。
昔と言えば昔だな。

「今思い出したよ…分かった。僕も入団する」
「ありがとう!ではこれからよろしく頼む!
アスフィ・シーネット、レイラ・セレスティア!」

こうして俺たちは騎士団に入団することになったのだ。



「そういえばエルザって何歳なの?」
「私か?私は15になるな」
「そうなんだ……って3つしか変わんねぇのかよ!!!」
「うん?そうだが、私を一体いくつだと思っていたんだ?」

エルザは妙に大人っぽかった。
この世界では15歳から大人だ。
つまり大人になったばかりということだ。
それにしてももっと上だと思っていた。
エルザは背丈が高く、スタイルもいい。
胸はレイラの方があるが決して引けを取らないくらいにはある。

「じーーーー。」
「どうした?私の胸になにかついているか?」
「いや、別になにもついてないよ」
「…………アスフィのえっち」

この一件で俺たちは出会った時より仲良くなった。
この一件という言葉で片付けられるような出来事ではなかったかもしれない。あまりにも衝撃的な出来事だ。
だが、お互いがどんな人物なのかはだいたい把握することが出来た。今はそれだけで十分だろう。


この後、『エルザ片腕切り落とし事件』
を聞きつけたエルザパパがやってきた。
前回までのあらすじ!!
エルザが自分の片腕を切り飛ばしたってよ!!馬鹿だよな!!


***


エルザパパがやってきた。
彼の名はエルフォード・スタイリッシュ。
エルザとおなじ金髪だが、髪はかなり短い。
特徴的なのはその筋肉質で大柄な体格とちょび髭だ。

エルザ・スタイリッシュの実の父であり、騎士団団長である。
彼が纏うオーラは凄まじいものだ。只者ではない。
そう思わせるものがあった。
王女エルザとは違った威厳あるものがあったのだ。
娘を見るまでは…。


「エルザちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん」

王室の扉が空いたと思えば開口一番そんな言葉が王室に響き渡った。

「行けませんっ!団長!!娘…エルザ様がお客様とお話中です!!」

メイドがエルフォードをなんとか抑ようとしてはいるが意味はなく、
ズルズルと引きずられていた。

「パパ!?」
「エルザちゃん!!大丈夫なのか!?」
「な、なにが?」

エルザは誤魔化そうと必死だ。
まぁ誤魔化せるわけがないのだが。

「聞いたぞ!エルザちゃん!自分の腕を切り落としたそうじゃないか!だいじょ…う…ぶ……なのか??」

父エルフォードは娘エルザの腕を見るが、
なにも以上がない。たしかに腕がある。

「あれ…?…腕あるじゃん。ちょっとだれー!?嘘ついた人ー!
君か?それとも君か??」

エルフォードは周りにいるメイドに次々と聴取…?している。

「パパ!腕はこの通りなんともないわ!」
「それは良かったんだけど、
どうゆうこと?パバ心配したんだぞ?」

この間、俺達はまだ一言も喋っていない。
というか唐突すぎて把握し切れていない状況だ。
エルザが片腕を切ったかと思えば、父上が出てきたのだ。
状況がめちゃくちゃだ。

「私の腕はここにいるアスフィが治してくれたのよ!」
「ど、どうも、アスフィです…」

やっと紹介された。
紹介が雑な気がするが、それは俺の自己紹介もだ。
正直なんて言ったらいいか分からなかったから。

「…君が娘の腕を治してくれたのか?」
「はい、一応」
「そうかそうか!!それはどうもありがとう!馬鹿な娘ですまない」
「ほんとですよ。勘弁してください」
「んん?」
「い、いやぁ、まぁ治ってよかったです、はい」

自分で馬鹿な娘と言うのはいいけど、
他人から言われるのは嫌なのかよ。
どんだけ親バカなんだこの父親は。

「…エルザちゃん。腕を切り落としたと聞いたが?」
「はいパパ。私は確かに自らの腕を切り落としました」
「しかし腕がある…ん?そこにあるのは血か?」
「…はい。私の血液ですパパ」
「ああああああああエルザちゃんの血ーーーーーー!!!!」

その大量の血にエルフォードはその場で崩れ落ちた。
やかましい男だが、その反応は父として当然のものだ。
少し大袈裟でやかましいが。

「…もう大丈夫です。僕が治しました」
「……ふぅ、君はアスフィと言ったね」
「はい」
「改めて感謝を。まだ名乗っていなかったな」

もうだいたい分かっているから自己紹介は別にいいんだけど。
そう思った。

「パパさんですよね」
「うんうんそうそう…って違う!いや違くないけども!」

キレイなノリツッコミを披露した、
エルフォード・スタイリッシュであった・・・。

「ゴホンッ…改めて自己紹介を。私はエルフォード・スタイリッシュ。ミスタリス王国騎士団団長である。団長として副団長の…娘の危機を救ってくれたこと感謝する」

今更取り繕わなくてもいいのに。
もう初っ端からキャラ崩壊しまくりだよ。
一瞬入ってきた時はすごくオーラがある人物だと思ったのに。
エルザを見た瞬間キャラ崩壊だ。
だが、そのオーラは再び戻った。
俺はそのオーラに威圧された。……強い。この人は。

「パパそのオーラ出すのやめて。みんな脅えるから」
「ああ、ごめんよエルザちゃん……」

メイドはもう立っているものはいない。
それはオーラにあてられたというよりかは、
この短い間に起きた出来事に対してだ。
俺も正直凄く疲れた。

「アスフィよ…君は優秀なヒーラーなのだな。私も冒険者として長い。それ故驚いている。失った腕を治癒させるヒーラーは見たことがない」
「そんなにすごいんですか?」

素直にそう思った。
俺はヒーラーなら治せて当たり前だと思っていた。
まさか落ちた片腕を自分でも治せるとは思わなかったが。

「うむ、完全に切り離された部位を治すヒーラーは噂には聞いたことがある。だがあくまで噂だ。見たことは無い。ちなみにどんな魔法を使ったのかね」
「えーっと『ハイヒール』です」
「!!?」

エルフォードは驚いた顔をした。

「『ハイヒール』だと…?それは私も見たことがある!だが、そんな中級にあたる回復魔法で切断された部位を治せるものなのかね!?」
「アスフィはすごいのよパパ!」

驚くエルフォードになぜかそれを自慢するエルザ。
俺はそれが凄いのかどうかよく分かっていなかったが、
冒険者をして長いというエルフォードが驚いている様子を見てこの時初めて、自分は普通の者とは少し違うと実感した。

「……ア、アスフィは凄いんだよ……」

ようやく口を開いたかと思ったレイラも、
俺の事を褒めだした。

「いやぁ照れるなぁ」
「でね!パパ!私はこのアスフィとレイラこの2名を騎士団に入団させることに決めたの!」
「……君はレイラと言うのか…強いな」

この只者ではないエルフォードが言うんだ。
レイラは本当に凄い。俺も鼻が高い。

「その歳でその強さ、将来が楽しみだ。独学で強くなったのかね」
「……い、いえ違い…ます」
「師匠の名は?」
「レイラの師匠は僕の父です」

俺はエルフォードにそう提言した。

「父の名はガーフィ・シーネットです」
「……ガーフィ……シーネット……シーネットと言ったかね?」
「はい、ご存知ですか?」
「ああよく知っているとも!なるほどあやつが師匠とな。理解したよ」

エルフォードは嬉しそうだ。
そして話を続けた-

「あやつとは昔パーティを組んでいたよ」
「え!?そうなんですか!」
「あの問題児が師匠か……面白いこともあるものだ」

エルフォードが俺の父さんの元パーティ仲間…。
そんなことがあったのか。するとパーティメンバーは母さんを含めた3人だったのだろうか。

「あいつは今は亡き私の父が王の時、無礼を働きよってな」

あ……それって母さんが言っていた父さんがタメ口聞いたとか言うやつか。するとそのフォローしてくれた騎士ってエルフォードのことだったのか!この人居ないと俺は産まれてなかった訳だ。一応感謝しておこう。

「あろうことか私の父にタメ口をききよってな!ハッハッハ!面白いやつだよあやつは!当時の父にタメ口をきけたやつはアイツぐらいだろう」
「お、おじいちゃんは怖い…うん」

エルザは物凄く怖がっていた。
あのエルザが怖がるなんてどんなじいちゃんだったんだ。
だがその当時の王にタメ口をきく俺の父さんもまた凄い。

「エルザが怖がるのも無理は無い。エルザに剣を教えたのは私の父だ。そして私もまたその1人。……本当に父は強かったよ」

懐かしむように話すエルフォード。

「ねぇパパそんな話今はいいの!」
「ええ!?いまからがいい話なのに!?」

まだ続けるつもりだったのかよ。
もうそろそろ休みたいよ…。
レイラの目はもうウトウトしている。

「……立ち寝!?」
「無理もない!レイラは私の血を大量に見てしまったのだから!疲れてしまったのだろう!ハッハッハ!」
「…エルザちゃん。今度やったらパパ怒っちゃうからね」
「……ごめんなさい」

似たもの同士だなこの親子。

そんなこんなで俺たちは騎士団に入団することになった。
騎士団見習いという形だ。

「君達も疲れただろう。部屋を用意する。…はいはーい!君たちそんなとこで寝てないで仕事だよ~!は~い起きて起きて~!!」

パンパンッ!と手を鳴らすエルフォード。
ぐったりしていたメイドたちはその音に過敏に反応しすぐさま立ち上がる。

「はいっ!かしこまりました!」

メイドたち過労死しないだろうか。
よく見るとメイドたちの目にクマがあるようにも見えるし。

「……ここのメイドにだけはなりたくないや」
「……そう、だね」


---


案内された部屋はすごく広いものだった。
部屋であるのにうちの家より広い。
ベッドも2つあり、トイレ、風呂全てがうちの家より広い。

「……なぜガラス張り?」

風呂はなぜかガラス張りだった。

「アスフィ…見ないでね…」
「う、うん!?も、ももちろんだよ!?何言ってるのさ!」
「……」





そう言われて見ないわけが無いのである。
だってだって、俺だって年頃な男の子だもん。
見ない方がおかしいのである。
ガラス張りにされているのは見ろということだろう?
その部屋を案内したということはそういうことだ。

「王も粋な計らいをしてくれるね全く…ありがとう」

俺は人生で尊敬する人ランキングを父さんより上にしようと思った。俺の中の尊敬ランキングは母さんが1位で、2位がゲンじいだ。1位は揺るぎないが2位は結構ぶれる。
父さんの時もあれば、ゲンじいの時もある。
俺のその時の気分次第だ。そして今の2位はエルフォードだ。

「~♪」

さて、ここからが勝負だアスフィよ。
レイラは今お風呂に入っている。しかもガラス張りときた。
見ない訳にはいかないだろう。
レイラは13歳にしてはなかなかに大きいモノをお持ちだ。

「……ふぅ」

呼吸を整えいざゆかん!桃源郷(エリュシオン)へ!

「お、おおおおおおおおお」

レイラの小柄ながらも大きな胸。
その大きな胸から滴る水。

「俺はレイラの膝で眠っていた時、
あの大きなモノで包まれていたのか…」

初めて見るレイラの神秘的なカラダに、
俺は興奮が収まらなかった。
レイラのレイラが文字通り丸裸なのだから。
だがガラス張り故のデメリット。
ガラスが曇って1番見たい大事な部分がよく見えない。

「ああもう!なんであとちょっとなのにーーー!!」


俺は無駄に広い部屋で1人嘆くのであった。
そして再び話はワイバーン討伐に戻る。




ワイバーン討伐クエストへの同行。
俺たちが部屋で休んだあとの次の日だ。

「ワイバーンってどんなの?」
「うむ、あいつらは群れで行動するドラゴンみたいなやつだ」
「え、ドラゴン!?それも群れ!?大丈夫なのそれ」

俺は心配になってきた。
エルザがいくら強いとはいえ、団長…エルザパパが居ない。
あの人無しで大丈夫なのか…。
クエストに向かうメンバーは、

・エルザ
・レイラ
・俺

どう考えても厳しい気がする。
おれはほとんど戦力にならない。
レイラは強いがまだ剣の特訓はしていない。
エルザ曰く、
『実践を見てから剣の特訓をしよう!その方が早い!』
との事だ。
つまり俺達はあくまで見学、同行という事だ。

「そういえばエルザって冒険者になってまだ浅いよね」
「うむ、1年も経っていないな」

15歳になったばかりのエルザ。
冒険者になれるのは15歳からだ。
日が浅いのも当然ではある。それ故に俺は心配なのだった。

「このクエスト推奨ランクA級でしょ?…僕ら戦力ならないよ?」
「心配するな!私はS級だ!」
「……えええええええ」
「……えええええええ」

俺とレイラは当然驚いた。
日が浅いのにS級!?俺の父さんはA級…それよりも上!?
どういうことだよ!?

「S級って師匠より強いよ…」
「うむ、アスフィの父か。確かA級だったか」
「うん、僕の父さんはA級だよ。冒険者歴もエルザより長い」
「……恐らくそれが私が貰った『祝福』だ。あと…お、おじいちゃんの特訓のせいかも…」

エルザはおじいちゃんの話になると弱々しくなる。
どんだけ怖いんだよ先代の王!
しかし、『祝福(さいのう)』はこうも人の人生を変えるのか。
どれだけ冒険者歴が長かろうと、『祝福(さいのう)』の前では意味が無い…のか。

「それでいうとレイラ。君も相当だ。
恐らくだが、しっかりとした実践と訓練を重ねれば、
私と同じくらい強くなってもおかしくは無い」
「……ゃった」
「えーーーいいなぁ、僕は?」
「アスフィは……分からん!ヒーラーはそもそも役割が違う」
「ちぇ」

なんだか俺だけ仲間はずれみたいだ。
たしかにヒーラーは回復するだけだ。
ましてや俺は支援魔法すら使えない。
本当の意味で回復するだけしかできないヒーラー。

「……だがアスフィ、君は他のヒーラーを遥かに凌駕する治癒力を持つ。それは国の宝だ。それはランクなどでは測ることは出来ない」

ヒーラーは評価されにくい。
父が優秀と評価する母さんもそうだったように。

「今回僕達は何もしなくていいの?」
「ああ!見ているだけで構わない!」
「……レイラも戦う」
「いや、君はまだダメだレイラ。ワイバーン個々はBランク相当。私から見るに今のレイラもBランク相当だが、ワイバーンはさっきも言った様に群れで行動する。それ故に推奨ランクはAなのだ」

なるほど、レイラはもうBランク相当なのか。
凄いな。流石うちのレイラだ。
俺はきっとEランクが妥当ってとこか。
もしくは最低ランクのGも有り得る。

そうこうしているうちに目的に着いた。

「えもしかして…飛んでるあれ全部?」
「ああ、そうだ。あれがワイバーンだ」
「……多いね」

ワイバーンの数は20数体は居た。
Bランク相当が20体以上…たしかに推奨ランクAなのは頷ける。

「では見ていてくれ」

そういうとエルザは1人でワイバーンの群れにがいる方へ、
走っていった。

推奨ランクとは、ギルド協会が設定している基準だ。
例えば推奨ランクAなら、
Aランク者が数人いてクエストに行くことになる。
決まりではなく、あくまで死なない為に。
だが、ルールがない訳では無い。
『クエストに1人で行くことなかれ。』
これは冒険者協会が掲げているルールだ。
昔、1人でクエストに向かった冒険者が死亡した事から、
このルールが設立された。

つまり本来なら今回のクエストに行くことはできない。
俺達は冒険者ですらないただの同行者なのだから。
これは実質エルザ1人のクエスト。

ただしそのルールが適用されるのはあくまでA級まで。
S級の冒険者にはそれは適用されない。
なぜなら-



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」




-強いから。


---


エルザは1人でワイバーンの群れを相手にしていた。
支援魔法は一切ない。俺が使えないから当然だ。
だが、エルザは魔法とは違う固有の強化手段を使っている。


「『超身体強化(ハイブースト)』!」


そう唱えた瞬間、エルザのスピードが格段に上がった。
目で追うことが難しいほどに。いや、ほとんどのものは見ることが出来ないないだろう。おれもその1人だった。
ただしレイラを除いて-

「レイラ見えるの?」
「……うん、ギリギリだけどね」

エルザは空高くジャンプし、
空にいるワイバーンをたたき落とした。
まるでハエでも落とすかのように。

「すげぇや……」
「……だね」

エルザは俺たちの想像以上に強かった。
Sランクというのも頷ける強さだ。

剣術の才能に恵まれたものは、
時々魔法とは違う強化手段を得ることがある。
あの盗賊のリーダーも使っていたものだ。
ただしこれは全員が使えるものでは無い。
才能と努力が必要不可欠。

そしてエルザが使っていた『超身体強化(ハイブースト)』は、
盗賊のリーダーが使うものとは次元が違うものだった。
これは彼女固有の『強化技術』だ。



「ふう、いやぁ疲れたよ」
「凄いね!本当に強かったんだエルザ」
「……うん、すごい」
「ハッハッハ!当然さ!私はパパ…団長より強いからね!」

もうそこまで言ったんならパパでいいだろう。

「これで終わり?」
「ああ、全部倒した。後は帰って報告するのみだ」
「……なんかあっけなかったねアスフィ」
「そうだね、参考にならないよこれ」
「そうとは限らない、
レイラには私の動きが追えていたようだが?」
「……うん」

戦闘しながら俺達の様子を伺う余裕まであったのか。
Sランク冒険者はここまで強いのか。
SSの勇者辺りはどんだけバケモンなんだ…?

「さて!帰ろう!」
「これって報酬でるの?」
「……出ないな!!」
「ええーなんで!?」
「……そんなの…おかしい」
「君達は戦っていないからな…」

ぐうの音も出ない。
でも一応危険なクエストに同行したのだから、
なにかしらの報酬は欲しいとこだ。

「……うーん、不満そうだな。ならこうしよう。
ワイバーンを1匹討伐してみよう!」
「ワイバーンを?」
「そうだ!君達2人で協力してね!」
「……で、でもワイバーンはもう居ないよ」
「レイラの言う通りだよ」
「……1匹残しておいたさ」

地面に転がっているワイバーンの死体の山から、
1匹まだ生き残っていた。

「私が君たち用に叩き落としておいた1匹だ!
あいつはもうしばらく飛ぶ力はない。だが、君たちからすれば強敵だろう」

俺達が不満を言うとこまでお見通しだったのな。
どこまでもいってもこいつはエルザ・スタイリッシュだった。

「レイラ、やるよ!」
「…うん、アスフィ」

俺達は戦闘態勢に入る。
ワイバーンも俺たちをターゲットと認識したようだ。
こいつは強い。エルザがバッサバッサと簡単に斬っていたが、
それはあくまでエルザだからだ。
俺達はまだ冒険者ではない。
そんな俺たちからすればワイバーンは一体と言えど強敵であるのは間違いない。

「レイラ…Bランク相当らしいけど…いける?」
「……頑張る、よ」

そして-
ワイバーンが勢いよく突進してきた。
飛べないのになんて速さしてやがる!

「レイラ!」
「…うん!」

ギンッ

レイラのショートソードと、ワイバーンの爪がぶつかり合う。

「う、…押し返せない!!」
「頑張れレイラ!」

レイラとワイバーンがぶつかり合っているのに、
俺は応援ぐらいしか出来ない。
回復魔法しか使えない俺には…。

「どうすればいい…レイラの助けになるには…」
「アスフィよ、君はヒーラーだ。何をすべきなのかは明白だろう」
「何って、回復しか使えないんだよ」

そうだ。回復しか使えないヒーラー。
おれは母さんのように支援魔法を使える訳では無い。

「回復魔法があるじゃないか」
「回復、魔法…ハッそうか!」

俺の『ヒール』はどんなものでも癒せる。
それはダメージだけでは無い。

「レイラ!頑張れ!」
「う、うん……!!」
「『ヒール』!」

レイラの体が淡く光り輝く。

「はああああああああああああ」

レイラは押され気味だったが、一気に押し返し-

「ギャゥゥゥゥゥ」

ワイバーンを斬った。

俺は支援魔法を使った訳では無い。
レイラのスタミナを回復した。
スタミナを回復したレイラと、既にエルザ戦で手負いのワイバーン。消耗戦となればレイラのスタミナを回復すればこっちの勝ちという訳だ。


「流石だ、君達は期待を裏切らないね!アスフィ、レイラ!」
「ま、まぁね…『ヒール』」

俺は自分にヒールをかけスタミナと魔力を回復した。

「……アスフィ、君が『ヒール』で治せないものはなんだ?」
「うーん、分からない」
「……そうか。では、本当に帰るとしよう!」

こうしてワイバーン討伐クエストは無事クリアした。
初めての戦いに勝てた俺は少し嬉しかった。

「まぁほとんどなにもしてないけど…」
「……アスフィのお陰で勝てた…ありがとう」
「レイラ…こっちこそありがとう」
「ハッハッハ!本当に仲がいいな君達は!…あ、そういえば、パパが君たちに相応しい部屋を用意したと言っていたが、どんな部屋だったのだ?私も遊びに行っていいか!?」

エルザよここは王室ではないのにパパと言っているぞ。
副団長の設定はどうしたんだ。

「部屋?……あ」
「……よかったよ。アスフィが大はしゃぎしてた」
「そうか!なら今度私も遊びに行くとしよう!」

エルザが遊びに来る…ガラス張りの風呂……ハッ!
俺は気づいてしまった。

「大歓迎だよ!エルザ!!是非遊びに来てよ!」
「おお!そうか!そんなに歓迎してくれるとは思わなかった!では今度メイド達に隠れてお忍びで行くとしよう!」
「ああ!是非!!あ、お風呂は入ってこないでね」
「ん?ああ!分かった!」
「…アスフィまさか…」
「どうしたのレイラ??早く帰ろう!」
「……うん」

俺はまた新たな楽しみが増えた。
毎日こんな日々が続けばいいのなぁ!
…ワイバーンは嫌だけど。早速今日の夜が楽しみだ!!!
今度こそレイラのレイラを!!

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「アスフィどうした急に」
「早く帰ろう!僕は疲れたから寝たい!」
「君は『ヒール』で回復できるじゃないか」

そんな正論聞きたくない。

「…もう『ヒール』じゃ治せないくらい疲れたんだ!」
「早速君に治せないものが判明したな!ならパトリシアを呼ぼう」
「……また乗れるの?」

どうやらレイラはパトリシアが気に入ったようだ。
たしかにあの白馬は乗り心地がいい。
……あれ?でもパトリシアに乗って来てないよね今回。
どうやって-

「パーーーーーートリーーーーシアーーーーーーーーー」

まさかの原始的な呼び方!!
そんなんで来るわけと思って5分ほど待っていたら-

パカラッパカラッ

白い白馬が走ってきた。

「え、そんなんでくるの?」
「パトリシアは私の相棒だ!私いる所にパトリシア、アリだ!」
「……すごい…」

レイラは感心し、パトリシアを撫でていた。

「では帰ろう!!」
「よし帰ろう!今すぐ帰ろう!」
「……うん!」

それぞれが違う思惑で大はしゃぎし、
白馬でミスタリス王国に帰ることになった。

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