ミスタリス王国の王女、
エルザ・スタイリッシュ。

彼女は確かにそう言った。
俺は少しの沈黙の後やっと状況を掴めた。
ここは言葉を選ばなければ死ぬ。
そうか、そういう事か。
俺がエルザにタメ口で話している時、
やたらとメイドさんたちの目が光っていたのは、
こいつ王女に馴れ馴れしくしやがって…という意味だったのか。

「あの、エルザこれは一体どういう-」




後ろで待機しているメイドさん達から殺気を感じた。
こ、怖い…言葉を選ばないとマジで死ぬかもしれない。
と、思っているとエルザが発言した。

「よい、お前ら。私は気にしてなどいない」
「はい、かしこまりました」
「……エルザ王女よ、それで例の母の呪いの件なんですが…」
「よいよい!いつもの友達の話し方でよい!」
「そうですか?ならエルザ-」



「ひっ」

また殺気だ。
もうやだ早く帰りたい。
レイラもさっきからずっと無言だ。
体がガクガクと震えている。

「……はぁ、お前ら下がれ。お前らが居ると話が進まん」
「しかし-」
「んん~?」
「…はい、かしこまりました。では、失礼致します」
「うむ」

エルザの鋭いメンチならぬ、
眼光でメイド達は王室を出ていった。

「いやぁ、すまない!これでやっと気軽に話せるな!ハッハッハ!」

全然気軽に話せるわけがない。
あんたが王って事実は何も変わっていないじゃないか。
と言いたい気分だった。

「……それでエルザ殿下、母親の呪いの件ですが-」
「んん~?なんだって?よく聞こえないぞ?」
「いやだから殿下、呪いの件ですが-」
「んーーーーー?」
「あああああもうだから!呪いの件だってば!」
「ハッハッハ!すまない、それでいい!堅苦しいのは無しだ!」

この王はいちいち難しい。
だが、王にタメ口なんていいのだろうか。
俺は昔、母さんが教えてくれた父さんの首が飛びかけた話を思い出した。

***

『父さんは昔ね、首が飛びかけたのよ~?』
『どうして?』
『ある国の王様にタメ口聞いちゃってね、ほらあの人あんな性格でしょ?筋肉しか頭にないような人だから王と気づかなくてそれで首が飛びかけたのよ~あはははは』
『父さんはそれでどうなったの?』
『ある騎士がフォローしてくれてね、王様もそこまで気にしていなかったから何事もなく済んだわ』
『父さんすごいね!』
『でしょ~?騎士さんが居なければ父さん居ないから、アスフィちゃんも居なかったのよ~?騎士さんに感謝しないとね』
『騎士さん!ありがとー!!えへへ』

***

懐かしいなぁ。
騎士が居なかったら俺がいないとか結構怖い発言していたが、母さんはそれでも楽しそうに、懐かしむように話しくれた。
そんな母さんが大好きだった。
俺は必ず母さんの目を覚まさせる。

「王…エルザの耳にはこの街の全ての情報が入ってくるんだろ?」
「ああ!もちろん!……プライベートは入ってこないぞ!?」
「もう分かってるってば。なら教えてよ、この街に『解呪』できる才能を持つ人がいるかどうか」
「……残念だが、この街には居ない。すまない」
「やっぱりそうなんだ。ならなんでここに連れてきたの?出会った時その場で教えてくれても良かったのに…」

そうだ。別にわざわざ王室まで来る必要は無いはず。
それなのにここまで連れてきた理由。

「……王として僕達に用があるんだね?」
「…流石アスフィ鋭いな、だがその通りだ。あの時の私の身分はあくまで騎士団副団長としてのエルザだ」

エルザは俺たちをここまで案内する。
それが彼女の計画だったのだ。
そして真の目的は-

「私は君達と出会う前に、凄まじく身の毛がよだつ大きな力を感じた。その方向は君達が居た場所だ。恐らくレイラが言っていた、怖カッコイイというヒーローだと思うのだが、私はそいつの正体が知りたい」
「……」

レイラは黙っていた。
一言も喋らずただじっと下を向いていた。

「でもレイラの話ではそいつはもうどっか行ったって…」
「だから私はそいつを探したい。その為には目撃者であるレイラ、君が必要なのだ」
「……」
「君はなにも答えてくれそうには無いみたいだな」
「レイラだってあの時怖い思いをしたんだ!覚えてなくて当然だよエルザ」
「果たして本当にそうだろうか」

エルザは正直者で空気が読めない女だ。
しかしそれと同時に鋭い勘をもつ女でもあった。
エルザは大人になっても友達である。
…それは今は関係ないか。

「……レ、レイラは」

レイラは王に…エルザに発言した。
俺たちはレイラが「覚えてない」と発言するのだろうと思っていた。だが違った。

「……覚えてます。レイラはあの時確かに見ました」
「ほう?今になって発言する気になったのか…してどんな奴だ」
「……闇魔法を使っていました。確か服装は黒の上下です」
「なるほど…ふむ、そうきたか……分かった」
「レイラ覚えていたんだね」
「……うん」

レイラはどこか気まづそうな顔でそう答えた。
対してエルザはニヤリと悪そうな顔を浮かべていた。

「分かった、ありがとうレイラよ」
「いえ」
「私は…ゴホンッ、エルザ王女としてお前たちに命ずる」

エルザは大きく派手な王の椅子から立ち上がり、
真っ赤なマントを翻し威厳あるオーラを漂わせる。
今まではとは雰囲気が変わり、再び王としての風格を感じた。
これが王…俺はそう感じたと同時に嫌な予感がした。

「我は、お前達を騎士団に入隊させる!」
「え?」
「え?」

俺とレイラは全くおなじ声が出た。
そして嫌な予感は的中した。


---


俺たちは騎士団に入隊することになった。
半ば強制的に。

「ねぇアスフィ……どう?似合う?」
「うん!すごく可愛いよ!流石レイラだね!」

騎士団の装いを纏うレイラ。
今までの素朴な一式黒の服も似合っていたが、
これもまたいい。白を基調としたドレスに近い。
それでいて動きやすそうな服。
騎士団といえば、エルザのような鎧をイメージしていたが。

「アスフィもカッコイイね」
「そうかな?あんまり実感がないよ…ははは」

田舎育ちの俺は自分がこんな服を、、とおもっていた。
実際今までの服装は田舎育ち丸出しの茶をベースにした服装だった。母さん曰く、髪色に合わせて見たとのこと。
俺は母さんと同じこの髪色が嫌いではなかった。
故に田舎育ち丸出しの今までの服装割とすきだった。
あと動きやすいし。ショートパンツ。

「なんか動きにくいよこれ…」

「ハッハッハ!似合っているぞ!アスフィ!」

エルザはそう答えてくれた。
まぁ似合っているならいいかと思った。
俺も案外チョロい男なのかもしれない。
レイラは白を基調とした装いだか、俺は逆に黒だ。
黒のスーツに近いもの。俺はこの初めて着る服装に違和感が隠せなかった。

「……ほんとに似合ってる?」

今から騎士団としての初クエストが始まる。

「今回依頼のあったクエストは、魔獣討伐だ」
「魔獣?大丈夫なのそれ」
「アスフィはレイラが守るから安心して」
「問題ない!私がいる!私はこう見えてもこの国で1番強い!」

本当にこう見えてだよ。中身が伴ってないよ。
大人とはいえない……どちらかというと精神年齢子供だ。

「それでどんな魔獣なの?」
「ワイバーンだな。ワイバーンが村を襲っているとの事だ。
推奨ランクはA級だ。この国の冒険者は最高でB級だから騎士団団長か、副団長である私しか行けないのだ!」
「……なら団長がいけばよくないそれ?」

そう答えた俺に対してエルザは一瞬真顔になった。

「……団長は忙しい。よって!私が行く!そして君たちも付いてくる!以上!!」

俺たちに何も言うなと言わんばかりに会話を終わらせた。
本当に大丈夫なのだろうか。
不安しかない初クエスト……それもA級という高難易度クエストが始まった。クエスト……というより同行なのだが。