――こうして、結果が張り出された。
五百人は受験者がいたのだが、紙には三十名前後の名前しか書かれていない。私は祈る気持ちで、上から名前を見ていった。メリッサ・ローウェル、メリッサ・ローウェル――……「あ!」
私は思わず声を上げた。頬が紅潮していくのが分かる。嬉しくて涙ぐんだ。
二十三位のところに、私の名前があったのだ。三十二位が最下位であるから、下から数えた方が早いが、合格は、合格だ。嬉しさのあまり飛び上がってから、私は次の受験日について先生から聞き、その足で、いつもの公園へと向かった。
するとベンチに座り、正面のテーブルへと視線を落としているロイドがいた。蒼いマフラーを巻いている。いつもは私が声をかけられる側だから、なんとなく不思議な気持ちになったが、思わず駆け寄り私は笑顔で声を放った。
「ロイド! 受かったわ! 合格よ!」
振り返ったロイドは、目を見開き息を呑むと、初めて見るちゃんとした笑顔を浮かべて立ち上がった。
「よかったな!」
「ええ! 貴方のおかげよ! ちゃんと『喪失を乗り越えて前に進む』と書いたわ!」
「そうか」
ロイドがニコニコしている。私は、合格したことも嬉しいが、その笑顔を見られたことも、本当に嬉しくなった。
それから、はたと気づいて、ロイドを見た。
「一ヵ月後に次の試験があるの。実技よ!」
「そうか、そうだな」
「それも、普通の魔法を使うのとは違うの?」
「ああ。膨大な魔力を持っていれば力業で乗り切ることも不可能では無いが、基本的には魔力量が多くても少なくても平等にこなせる試験となる」
「ロイドの時はどんな感じだったの?」
「……俺の時は、早食い競争のような形態だったな」
「どういう事?」
全くイメージがわかず、私は首を捻った。
「大盛りのパスタを、ひたすら魔法空間に収納するというテストで、魔法空間の構築と、なるべく大きな、あるいは多数のフォークの具現化魔法とを駆使して、パスタを巻き取り空間に放り込んでいった。その速度や、フォークの数やサイズ、扱い方、魔法空間の構築で結果が決まった」
「ロイドはどうやってクリアしたの?」
「……俺、は……巨大な魔法空間自体がパスタを吸い込むようにして、0.5秒でパスタを全て消失させた。フォークは使わなかった」
「え? 魔法空間って……あの魔法空間よね? みんなが作れる、小さな収納空間。容量って、指輪が入るくらいの。中のものは消したりできるけれど……?」
「……自慢ではないが、俺はそこそこの魔力量があるんだ」
「なるほど! 力業で乗りきったって、貴方の自己紹介だったのね!」
「っ、ま、まぁ、そうなるな……」
ロイドが目を伏せ言いたくなかったような顔をしたので、私はそれ以上は追求しなかった。
「けれど、どうやって対策したらいいのかしら?」
「毎年必ず、具現化魔法は取り入れられていると聞くから、その訓練をしたらいいんじゃないか?」
「そうなのね! ありがとうロイド! 今日からは、具現化魔法を教えてくださる?」
「……は?」
「ロイドは私の先生だもの! お願い致します!」
私は笑顔で、ロイドの腕を抱きしめた。すると困惑した顔をしてから、ロイドが呆れたように頷いた。
「仕方ないな……」
こうしてこの日から、私はロイドに具現化魔法を習い始めた。
精神を集中させ、脳裏に魔法陣を描き、まずは林檎を取り出す練習をした。
だが、これが中々上手くいかない。
「しっかりとイメージするんだ。形、色、それだけじゃ無い、香り、味、全てだ」
「わかったわ!」
半月が経過した頃、なんとか形になってきた。
本日も練習を終えて、私はロイドを見る。現在では、ロイドはほぼ毎日来てくれる。
すると目が合い、まじまじと見据えられた。
「ロイド? どうかしたの?」
「あ、いや……そんなに、『あの人』に会いたいのかと思ってな」
「ええ。私、本当に愛しているの。会いたくてたまらないのよ」
「……そうか。名前は?」
「え?」
「俺は同じ学院に通っているわけだから、たとえば――たとえば、だが。少しはその相手のことが、俺も分かるかもしれないし、知らない相手でも調べることが出来ると思ってな」
「名前は秘密よ。いいの! 私は、自分で頑張って会いに行くんだから!」
「そうか」
無表情で小さく頷いたロイドは、それ以上は私に聞かなかった。