『――アニソンのバラエティー番組を観てましてね。かの、変身時スッポンポンになる女性が主人公の――』
やや乾燥した秋晴れの午後。
メリーアンを供連れに邸を抜け出し、とある神社にやって来た。
銀杏が鬱蒼と茂り、日中でも薄暗い。
近所の猫が集う、その名に銀杏を冠した社。
ここに、「違いの分かる」老猫がいる。「ろうびょう」でも可。
オグラ名誉会長――皆から親しみを込めてそう呼ばれる、大柄な黒猫だ。
「ああ、蜂蜜の閃光、てやつかい」
会長が愉快そうに笑う。
「ハ●ーフラッシュ! ハ●ーフラッシュ!」
『あれ、「お尻の小さな女の子」て歌うでしょ? どういう事です?』
「さて。当時の流行りかどうか……オイラは安産型がいいねぃ」
『私もです』
会長は生粋の江戸っ子だ。
彼との談笑は、実に心地好い。
ゴールデンハンマー。意味不。
『もうすぐイチョウも真っ黄っきですな』
「カンガエルナ! カンジロ!」
「そりゃ「アチョー!」だねぃ。李●龍に謝んなメリーアン」
「キキイッパツ!」
「一年は早いねぃ」
『そういえば会長。例の女性は、その後どうなりました?』
「うむ……」
夏の間、この社でよく逢い引きをしている中年のカップォがいた。
だが夏も終わりに近付いた頃には、女の方が独りで訪れることが多くなった。
「とりま、不倫だったんだろねぃ」
『ですか』
「ツグナイ! ツグナイ!」
会長がメリーアンに微笑んだ。
徐にこちらへと向き直り、
「秋の扇だねぃ」
『秋の扇?』
《男の愛を失った女、の例え。扇は夏に重宝されるが、秋には必要とされなくなることから。→中国の故事》。
『なるほど、深い。さすがMr.宅●便。私はてっきり、事件かと』
「否定できねぃな」
仄かに、そんな匂いを嗅ぎとったと感じたのだが……。
私はこれでも、「禁じられたマ●コ」――じゃない、「科●研の女」で学習したつもりだった。
あの男の顔に浮かんでいた、黒い焦燥の陰……。
見間違いないではなかった、はず。
私は思わず鳴いた。
『我々は必ず! ホシを挙げりゅッ!』
「それ違うヤツだねぃ。噛んでるしー」
「ソウサイチカチョー! ソウサイチカチョー!」
『あ! そっち?! チョー恥ずかしー』
所詮、井戸端会議だ。
他愛のない妄想で勝手に盛り上がるだけ。
だが、こんな一時も我々畜生には必要なのだ。
断じて、好きな時に餌を啄み、喚いているだけの生き物ではない。
「……一年は早いねぃ」
会長はまた、しみじみ繰り返した。
そりゃ繰り返すさ。
多分、大事なコトだ。
やや乾燥した秋晴れの午後。
メリーアンを供連れに邸を抜け出し、とある神社にやって来た。
銀杏が鬱蒼と茂り、日中でも薄暗い。
近所の猫が集う、その名に銀杏を冠した社。
ここに、「違いの分かる」老猫がいる。「ろうびょう」でも可。
オグラ名誉会長――皆から親しみを込めてそう呼ばれる、大柄な黒猫だ。
「ああ、蜂蜜の閃光、てやつかい」
会長が愉快そうに笑う。
「ハ●ーフラッシュ! ハ●ーフラッシュ!」
『あれ、「お尻の小さな女の子」て歌うでしょ? どういう事です?』
「さて。当時の流行りかどうか……オイラは安産型がいいねぃ」
『私もです』
会長は生粋の江戸っ子だ。
彼との談笑は、実に心地好い。
ゴールデンハンマー。意味不。
『もうすぐイチョウも真っ黄っきですな』
「カンガエルナ! カンジロ!」
「そりゃ「アチョー!」だねぃ。李●龍に謝んなメリーアン」
「キキイッパツ!」
「一年は早いねぃ」
『そういえば会長。例の女性は、その後どうなりました?』
「うむ……」
夏の間、この社でよく逢い引きをしている中年のカップォがいた。
だが夏も終わりに近付いた頃には、女の方が独りで訪れることが多くなった。
「とりま、不倫だったんだろねぃ」
『ですか』
「ツグナイ! ツグナイ!」
会長がメリーアンに微笑んだ。
徐にこちらへと向き直り、
「秋の扇だねぃ」
『秋の扇?』
《男の愛を失った女、の例え。扇は夏に重宝されるが、秋には必要とされなくなることから。→中国の故事》。
『なるほど、深い。さすがMr.宅●便。私はてっきり、事件かと』
「否定できねぃな」
仄かに、そんな匂いを嗅ぎとったと感じたのだが……。
私はこれでも、「禁じられたマ●コ」――じゃない、「科●研の女」で学習したつもりだった。
あの男の顔に浮かんでいた、黒い焦燥の陰……。
見間違いないではなかった、はず。
私は思わず鳴いた。
『我々は必ず! ホシを挙げりゅッ!』
「それ違うヤツだねぃ。噛んでるしー」
「ソウサイチカチョー! ソウサイチカチョー!」
『あ! そっち?! チョー恥ずかしー』
所詮、井戸端会議だ。
他愛のない妄想で勝手に盛り上がるだけ。
だが、こんな一時も我々畜生には必要なのだ。
断じて、好きな時に餌を啄み、喚いているだけの生き物ではない。
「……一年は早いねぃ」
会長はまた、しみじみ繰り返した。
そりゃ繰り返すさ。
多分、大事なコトだ。