扉の先には広々とした空間があった。
吹き抜けになっていて、上の階層も確認できる。
メインと思われる場所には、椅子やテーブルが綺麗に置かれていて、貴族が住む邸宅を思わせる。
上でみたものと同じで、薄汚い外観とは似ても似つかない綺麗な内装。
予想外の光景に目を奪われていると、ユイは気づく。
――見られている
この空間に人はいない。
だけど、様々な角度から幾つもの視線を感じた。
興味や関心といった害のないものもあれば、明確な敵意も含まれている。
「おねえちゃん、大丈夫。ボクがいるから」
いつの間にか横にいたアリスがニコリと笑う。
「うん。……頼りにしてるね」
これ以上、立ち止まっていても何もはじまらない。
今度はユイがアリスの前に立ち歩を進める。
しばらく歩くと、丸く囲われたソファーに、一人の男が両手を広げて座り待ち構えていた。
「アンタが新しい『先生』?」
白みがかった金髪からは貴賓を、蒼い瞳からは明確な敵意を感じる。
これまた顔立ちは恐ろしいくらい整っていた。
王家に連なる方々でも見たことない程の容姿だ。
態度、表情、仕草からわかる。
彼は「人」を舐めている、と。
そして、ユイやアリスと同様に首輪がぶら下がっている。
……これは面白いことになりそう。
ユイは彼と目線を合わせる。
「ねぇ、先生って――」
「アル。ユイ様に対してその口調はなに? ……失礼だ。立場を弁えろ」
彼に話しかけようとしたら、アリスが前に出てユイの言葉を遮る。
顔を見るに随分とご立腹だ。
「はぁ? アリス、そいつも首輪付きの悪魔だろ? てことは同族じゃん」
「……違う。ユイ様はボク達の管理人だ。決して対等な立場なんかじゃない」
「それは知ってるよ。まさか、悪魔が新しい『先生』だとは思わなかったけど」
要するに『先生』とはユイのことらしい。
ここで与えられた仕事の表向きな役職が孤児院の先生ということなんだろう。
「だから――」
「まぁ、新しい玩具が首輪付きと知って……、仲良くできそうだなーって思っただけだよ」
「……おい。ボクは弁えろって言ったはずだけど」
アルと呼ばれた男がアリスを睨みつける。
「んだと? そもそも、お前は何様のつもりなんだよ」
すると彼は悪態を吐きながら渋い顔をした。
「ボクは王家からユイ様の側近に指名された」
「だから、なんだよ」
「つまり、お前よりユイ様に近いってことだ。特別な権限を与えられている」
「……それで?」
「今のお前は、ボクでも簡単に殺せるってこと忘れるなよ」
ユイを置き去りにして話は進んでいく。
ここで出張っても収拾はつきそうにない。
他人のことで勝手に喧嘩をする二人を、ユイは眺めることに決めた。
「お前だって前の奴は……」
彼が発言しようとすると、物理的に空気が凍った。
横にいるアリスから冷気が漏れでている。
「ユイおねえちゃんの前でその話はするな」
アリスから発される底冷えするような低い声。
彼は目を見開き驚きを隠せないようだった。