結局ずっと謝れないまま時は過ぎ、文化祭当日になった。
謝るタイミングを読む合間に大溝くんのことを考えていたからかもしれない。
そうでなくても文化祭前の準備で忙しく、心も体も疲れ切っていたのが大きいところだと思うけれど。
以前された大溝くんのアドバイス通り、ごめんの意味を込めて、わかりやすいようリビングのテーブルの上に愛衣の分も合わせて二枚分、入場チケットを置いておいた。
意味が伝わるかはわからない。
来るか来ないかもわからない。
それでも、来てくれますようにと、願いを込めた。
お母さんが学校での私の様子を見に来たのは、小学生の頃が最後だ。
学校で自分の親を探すなんて、子供じみていると思う。
それでも、目は自然と通り過ぎていく人の波を追っていた。
クラスの出し物は人気で、作っても作っても売れるという忙しさだった。
その忙しさの合間に、私はお母さんを探すのに必死だった。
時間は刻々と過ぎていく。
一般開放は十六時までだから、残り一時間を切ってしまった。
クラスに買い物に来るお客さんの中に二人の姿がないか探すけど、全然見つからない。
……やっぱり、来るわけないか。
お母さんも大概だけど、私だってひどいことをたくさん言って傷つけた。
来てもらえなくても、しょうがないことだ。
事情を知っている大溝くんが私の様子を心配そうにうかがっているのが、視界の隅に入ってくる。
たくさん話を聞いてもらったのに心配までかけて、私はどうしようもないな。
一般開放の時間が残り三十分になり、いよいよ私は諦め始めた。
仕方ないと、諦めるのは簡単だ。
でも、諦めてしまった分だけ、それは自分の首を締めると知っている。
でも、こればかりは私の思いだけではどうにもならないことだから、どこかでこの気持ちに折り合いをつけなければならない。
いま教室内にいる人の接客が終わる頃が、ちょうど文化祭の終わる頃合いと一緒だろう。
笑顔の仮面を貼りつけて、震えそうになる声を押し殺しながら接客を続けた。
すると、男子の浮ついたようなはしゃぐ声が廊下の方から聞こえてくる。
「あれ、誰かの保護者?」
「小さい子連れてるよ」
「すごいきれーじゃね? ちょっと派手だけど」
その言葉に、どんな人が来たんだろうと、騒ぎながら教室の入り口を塞ぐ男子たちをかいくぐった。
興味本位でよいしょと廊下へ顔を覗かせる。
「え……?」
ちょうど目の前を颯爽と通り抜けていくのは、まごうことなき私のお母さんだった。
綺麗なつやのある猫毛をなびかせて、白いレースのスカートを揺らしながら歩いていく。
私のクラスがどこなのか、わからないのだろう。
私がどんな出し物をしているのかも、知らないのだろう。
自分の子供のことなのに。
でも、来てくれたという事実に変わりはなくて、私はたったそれだけのことに舞い上がる。
お母さんは右手に愛衣の手を引き、きょろきょろと周りを見回すように歩いて、私を探している様子だった。
けれど、背の高い男子の中に埋もれる私を見つけることはできなかったようで、通り過ぎて行ってしまう。
お母さん、と、声に出して呼べたら。
きっと気付いてくれるのだろう。
だけど、ここまできて、私の足はすくんでしまう。
緊張と嬉しさといろんな気持ちが混じり合って、からからの喉からは声が出そうにもない。
あんなにひどいことを言ったのに、許してもらえるのだろうか。
いやでもお母さんも悪いしと、まるで言い訳を探すように、まだ私は声をかけに行けない理由を探す。
来てほしいと、そう願ったのは私なのに——。
「香坂のお母さん!!!!」
私の真後ろから、バカでかい声が一帯に響き渡った。
周りの空気全部が震えあがっているんじゃないかと思うほど、大きな声。
その声に、一瞬にして辺りは静まり返る。
大溝くんが、私のお母さんを叫ぶように呼んだんだ。
その声に、周りはみんな立ち止まり、何事かと振り返って声の発生源であるこちらを見る。
ただひとりを除いては。
呼ばれた張本人であるお母さんはその場で立ちすくんだまま、こちらを見ようとしなかった。
愛衣の手を握りしめたまま、じっとそこに立っている。
「あっ、おねーちゃんだあ。まま、おねえちゃんいたよ! さがしてたもんねえ。よかったねえ、みつかって」
にこにこと屈託なく笑う愛衣だけが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらこちらに笑顔で手を振り、お母さんの手を振りほどいてこちらに駆けてくる。
そこで周りは『香坂』が私だということ、『香坂のお母さん』が誰なのか、わかったのだろう。
人々が廊下の端に除けはじめ、その結果、私の目の前には一本の道ができていた。
お母さんまで、繋がる道だ。
一度大溝くんに会ったことのある愛衣は、「まえにあったおにいちゃんだよねえ?」としきりに話しかけ、抱っこまでせがむ始末だ。
愛衣を優しく抱き上げた大溝くんが、どんと私の背中を強く押す。
……いつだってそうだった。
大溝くんの言葉や行動が、私に一歩踏み出す勇気をくれる。
振り返ると大溝くんは小さく頷いた。
『行ってこい』と。
彼に押されて前に出た足取りのまま、戸惑いがちにお母さんの方へと着実に向かって進んでいく。
「お母さん、」
周りの視線が体のあちこちに突き刺さる。
目立つことなんてしたくない、そう思っていたのに。
うまくいかないものだな。
「こっち、来て」
俯いたままいまだに私の顔を見ないお母さんの腕を引っ張って、人をかいくぐりながらある場所へと連れ出した。
◇
いつものごとく四階の東階段の踊り場へと連れ出した。
今日は外部の人が出入りするからか、立ち入り禁止の札とロープが張られていた。
そんなものは見なかったことにして、跨いで入ってきたけれど。
階段の上にすとんと腰を下ろすと、お母さんもおずおずとそこに腰を下ろす。
綺麗な白いスカートが汚れてしまうのも厭わずに。
「……あの日のこと、」
謝るって、決めたじゃない。
傷つけたいと思って言ったんじゃないと。
本心なんかじゃない、と。
それでも、ここ数年まともに口をきくこともなかったお母さんに対して面と向かって話すのは、緊張する。
自分自身の話となれば、なおさらだ。
口の中は乾いてぱさぱさで、緊張から握りしめた手のひらに爪が食い込んで痛い。
だけど、自分の心に鞭を打った。
「あの日のこと、ごめんなさい」
そう言うとお母さんはやっと私と目を合わせて、何かを言おうと唇を震わせた。
先に視線を逸らしたのは、私。
「……謝りたかったのは本当。だけど、それよりもっと、言いたいことが、あるの」
視線を落として、これまでの全部を頭に思い浮かべる。
「私いままで、ひとりでずっと頑張ってきた」
掃除も洗濯も、ご飯を作るのも。
愛衣の世話だって、自分の勉強だって、全部。
「でもそれは、私の本当にやりたかったことをひとつずつ諦めて、頑張ってただけだったよ」
わがままを言えたらどれだけ良かっただろう。
幸せだっただろう。
言わずに諦めたものが、いままでいくつあっただろう。
言う時間もなかったし、言っても無駄だとも思っていた。
「お母さんはあのとき、『本当にそれでいいの』って言ったけど、私には選ぶことすらできないんだって、いつも思ってた」
私がやりたいことをひとつもできないのは家のことがあるからで、私をそうさせたのはお母さんでもあるし、言う勇気を持たなかった自分のせいでもある。
言って変わらなくても、『言った』という事実だけでもあれば、少しは違ったのかも、とも思う。
「でも、違うよね。言ったことなんて、なかったよね。あれがしたい、これがしたい、とか。愛衣が生まれてからは」
愛衣のことをかわいがってね。
お母さんのことを助けてね。
言われた通り、そうしてきた。
一番に思うのはいつも家族のことで、自分のことなんて二の次だった。
いつもいつも、そうだった。
「私、本当はいっぱいある。したいこと。進路のことは正直わからない。だって、就職を選ぶのが当たり前だって思って、今まで過ごしてきたから。でも、したかったことは、本当にたくさんあったの。どれも些細なことだけど」
頭に次々と浮かぶそれらを、ひとつずつ口に出していく。
お母さんは黙ったままだけど、私の横顔を見ていることだけはなんとなくわかる。
「百均のやつじゃなく、もう少しちゃんとしたコスメで化粧をしてみたい。ネイルも……、友達にかわいい子がいて、いつも羨ましく思ってたから、してみたいって思ってた」
お母さんから言葉は返ってこない。
じっと聞いていてくれる。
「いつも学校が終わって愛衣を迎えに行って家のことをしてるけど、本当は放課後も、たまには友達と遊んでみたい。休みの日に、外で友達に会ってみたい。そのための時間がほしい」
どれもこれも些細なことだけど、私には到底届かない、夢のようなことだった。
だけど、一番は——。
「それから、もっとお母さんと話す時間がほしい」
話せていたら、こんなことにはならなかったよね。
前はもっともっと、いろんな話をできていた気がする。
なんでもいいんだ。
今日こんなことがあったとか、そういう気軽な、どうでもいい話もしたいんだ。
「……この前は、ひどいことを言って、ごめんなさい」
言いながらだんだんと涙が滲み出てくる。
そんな私を見て、お母さんも泣いてしまったようだった。
隣りからすすり泣く声が聞こえてきた。
しばらくの沈黙の後、お母さんがおもむろに口を開く。
小さく静かに、消え入りそうな声だった。
「お母さんも……、ごめんなさい。いままで詩央ちゃんに甘えて、なんでもかんでも任せきりにしてたよね。お母さんが仕事を毎日できるのも、詩央ちゃんが家のことをやって、愛衣ちゃんのことを嫌がらずに見ていてくれてるからだってこと、いつの間にか忘れてた」
私は黙って静かにお母さんを見た。
今度は私が、お母さんの話を聞く番だ。
「進路のことも、お母さんが選択肢を狭めていたよね。選べるかもしれないものを、選ぼうと思えなくなっていたんだよね。全部全部、そうだよね。本当にごめんなさい。……手、こんなになるまで、毎日頑張ってくれてありがとう。ごめんね……」
私のかさかさの手をふわりと優しく包み込んで、涙ながらに謝るお母さん。
お母さんがこんなに泣いているのを見るのは、はじめてだった。
何度も何度も謝るから、諦めるんじゃなくて許すって意味で、もういいやって、心からそう思った。
あの日から、長かった。
「……もう、いいよ。私も、ごめんね」
約三か月の長い喧嘩は、こうして幕を閉じたんだ。
◇
いつぶりだろう、こんな風にお母さんと話すのは。
これまでの空気が一変して、いまならなんでも話せそうだ。
「本当はね、愛衣のこと、可愛くない、いなければもっと幸せだったんじゃないかって、そう思ったことがあるよ」
そう言うとお母さんは驚いたように目を見開いたけど、そう思わせてごめんねとまた謝った。
謝ってほしかったわけじゃないけれど、聞いてほしかったんだ。
いままでのこと、私がどんな風にすごしてきたのかを。
「だって、半分しか血が繋がらない妹だよ、疎ましくも思うって」
かわいいことに変わりはないけれど。
それでもやっぱり、なんの前触れもなくできた妹の愛衣のことは、何年経っても私にとってはかわいくて、時々たまに憎らしい。
それは変わらず、本心でしかない。
お母さんは長いまつ毛に縁どられた目をまあるくする。
「どうして半分だけなの?」
その言葉に、私は眉根を寄せた。
「え、だってお母さん離婚して、お父さんの顔すら私も見たことないし。……自分で言うのは嫌だけど、私も愛衣も、不貞で生まれた子でしょ?」
私は幸せだったから最初こそ気にしたことがなかったけれど、愛衣が生まれてからはそう思うことがたまにあった。
ゆるいのは頭だけにしてほしい、なんて、心の中で悪態をついたことも何度かあったっけ。
そんな昔のことは忘れていたけれど。
聞く時間もなかったし、いまさら聞くことでもないと思っていた。
けれど、聞くにはいい機会だと思った。
さらに目を開いて驚いた顔をしたお母さんは、少し困ったように笑って口を開く。
「詩央ちゃん、いままでそんな風に思ってたの? それに、そんなにはっきりいう子だったんだね」
「だって、いまさら隠したってしょうがないし。気になることは知りたいって思うよ」
「そうだよねえ……」
ふうとひとつ息を吐いたお母さんは、小さく笑う。
「……詩央ちゃん。お母さん、夜のお仕事やめようと思うの」
唐突に話を変えようとするお母さんを軽く睨みつける。
何でも話せる気がしたのは、私だけなの?
「そうやってはぐらかす気?」
「まあ聞いてよ」
「はいはい」
むっとした子供っぽい表情を見せるお母さんに、仕方ないなと耳を傾ける。
「さっき半分しか血が繋がらないとか言ってたけど、正真正銘血が繋がっているよ。詩央ちゃんのお父さんも、愛衣ちゃんのお父さんも、おんなじ人」
その言葉に、今度は私が目を見開く番だった。
「え、どういうこと……?」
私が狼狽えて聞くと、お母さんはひとつずつ話していく。
学生の頃私を妊娠したそのときの相手、お父さんは、とある御曹司だったそうだ。
本人が隠していたらしく、付き合ってからもそれを知ることはなかったらしい。
「だから、まさか自分が漫画みたいに家のしがらみで、お父さんから引き離されるなんて思ってもなかったの。御曹司だなんて知らなかった。お父さんの家族からは別れるように言われてね。実家とも折り合いが悪くなっちゃって。でも、詩央ちゃんのことは絶対生みたくて。どうしても、許してもらえなくてね。実家からお金だけ渡されてほっぽりだされちゃったの」
その時のことを思い出しているのか俯き悲し気な表情でぽつぽつと語られるそれは、私の想像をはるかに超えていた。
「お母さんの実家ね、お母さんが言うのもなんだけど、まともじゃなかったから。だから、生まれてくる子供にはそんな思いさせないようにって、頑張ってきたつもりだった」
たしかに私は小さい頃、自分の家庭になんの疑問も持たず、ただ幸せに暮らしていた。
お母さんが本当に頑張っていたという証だと思う。
「お父さんの家からは、これで手を打ってくれって、かなりの大金を渡されてね? だから、愛衣ちゃんが生まれるまでは、そのお金で生活してた。もう会わないでくれって言われてたけど、でも、手紙だけ届いてたの。ずっとずっと、お父さんから」
初めて聞かされる真実には現実味がなくて、聞き入ってしまう。
それが本当なら、一冊の本にできそうな物語だと思った。
「……お父さんもお母さんもね、逢引き、って言い方はもう古いのかなあ? 別れた後もどうしても諦めきれなくて。でも、お母さんには詩央ちゃんがいたし、幸せだったし、このままでも全然よかったけど。……会っちゃったら、ねえ? 後はわかるでしょ?」
照れくさそうに言われて、ああそういうことかと納得した。
そして、自分はきちんと愛されて生まれてきたのだと知って、嬉しくなる。
「お父さんね、自分の会社を立ち上げたんだって。……結婚してくれって、言われたよ」
少しだけ恥ずかしそうな、だけど困ったような、何とも言えない顔をするお母さんに、間髪入れずに心からの言葉が漏れた。
「え……っ! すごいじゃん! おめでとう……!」
思わずそう言うと、お母さんは目を潤ませる。
「……詩央ちゃんは、喜んでくれるんだ?」
「当たり前じゃん……!」
好きな人の幸せを願うのは、大人でも子供でもおんなじだ。
親だろうとその子供であろうと。
素直にそう言うと、お母さんは笑った。
「詩央ちゃんも愛衣ちゃんも、すぐに受け入れられないことはわかっているから、少しずつ会う機会を増やしていって、ゆくゆくはって感じ。……これこそまさに、漫画みたいな夢物語でしょ?」
そう言って笑うお母さんは、まるで少女のようだった。
こんな幸せそうな顔ができる『恋』って、すごいものなんだなと改めて思う。
ふと、心に大溝くんが浮かんだ。
——『一般入場の方にお知らせします。開放時間終了まで残り十分となりました。お帰りの準備をお願いいたします。また、生徒につきましては……、』——
校内放送が入り、「お母さんもそろそろ帰らなきゃ。愛衣ちゃんも待ってるし」と、立ち上がる。
それを見て、私も一緒に立ち上がった。
「で、詩央ちゃん。もしかしてさっきの男の子って、詩央ちゃんのこれ?」
急に思い出したかのようにそう言って親指を立てる仕草をする。
……ああ、愛衣にこれを教えたのはこの人だと、瞬時に理解した。
その言葉に照れくさくなりつつも、答える。
「彼氏じゃない。けど、気になってはいる」
最近辿り着いたばかりの答えを、お母さんに言う。
恥ずかしいけれど、聞いてほしかった。
「告白しないの?」
「できるわけないよ。私は可愛くもなんともないし、ただ勉強ができるだけだし」
……手だって、ほかの子に比べたらがさがさでかわいげもない。
思わず、後ろ手に隠した。
「あら、家事育児できて嫁にはぴったりじゃない」
「……お母さんがそれ言う?」
私がそう言って呆れたようにお母さんを見ると、後ろに隠した手をお母さんは優しく取り、自分が愛用しているハンドクリームを優しく塗りこんでくれた。
「これ、高いやつ?」
「ハンドクリームと口紅と、よく着る服だけは、いいやつ買ってるの」
テクスチャーはべたっとしていなくて、クリームを塗りこまれた手は驚くほどしっとりとし、見違えるほど綺麗になっていた。
ぼろぼろの手がこれだけ綺麗になるんだから、高いものもたまに使う分には悪くない。
「詩央ちゃんって、貧乏性よね」
「だって、しかたないじゃん。お金なんて勝手に増えるものでもないし。愛衣の保育料だってそうでしょ? ずっと、節約してきたのは」
「ああ、そうね…そのことだけど。詩央ちゃんや愛衣ちゃんの将来のために、少しは貯金してあるよ」
延長するとその分お金がかかるから定刻に迎えに行くことも、夏休みの間の休園届も、少しでも貯金に回すためだとお母さんは話す。
「でも、そのせいで詩央ちゃんの負担を増やしていたよね。勝手だったよね。ごめんね。詩央ちゃんの時間を、やりたいことを、そうやって奪ってきたことに、お母さんは気付けなかった」
ううん、と首を振る。
私だって言ってこなかったのだから、おあいこだ。
「詩央ちゃん、頑張ってみなよ」
「え……、でも」
「お母さんみたいに、こんな年になるまで好きな人と一緒に暮らせない、想いも伝えられないなんて、そんなさみしい思いさせたくない、それにね、」
一度言葉を区切って、お母さんはまた静かに口を開く。
「大人になってから手に入れられるものは、たくさんあるかもしれない。けれど、『いま』しかできないことって、本当にあるんだよ。いまほしいものを大人になってから手に入れても意味がないものも、いっぱいあるんだよ」
そう言って、お母さんは笑う。
『お母さんに任せなさい』と——。