「あぁぁ〜暇すぎるよ〜」「うるせぇ、大人しくゲームしてろ」「ひど!これでも私、女の子なんですけど〜」「知らん、僕の部屋で、僕のベッドに無防備に寝転がりながらゲームをしている女子がどこにいるか!」「だって、幼馴染だし?」「そんなことが許されるのは恋愛シュミレーションゲームか、恋愛小説か、漫画のどれかだ。現実には許されない。」「これだからオタクは…」そう言ってわかりやすくため息をつく彼女は燈原 水月だ。小学校から今の高校まで、一緒にいる幼馴染である。運が良いのか悪いのか、小中+高2の計8年と少しの間、同じクラスの隣の席、席替えをしても僕を中心とした前後左右斜めのどこかに必ず居て、隣接しているのである。そんな僕には…悲しいかな、生まれてからこの瞬間まで彼女なんていたこと無い。だからだろうか。こいつが家に入り浸って居る。世界中の男子諸君よ。今、僕の状況が羨ましいと思っている君たちよ。いざこの空間になると喋る事が無くなり、気まずくなるぞ。全く以て、羨ましい状況ではない。さて、そんな事はさておき、先程から水月がうるさいのでそろそろ返事をしておくか。「――ねぇ、聞いてるー?」「すまん、聞いてなかった。」「私と遊ぼう?って言ってるのー」「いや、僕今本読んでるし」「そんなにその小説面白いの?」「面白いぞ、ずっと読んでいられる。」「そんなに読んでたら本に穴が開くよ」「開かねぇよ、どんな理屈だ。」そんな言い合いをしていた時だ。「雷の音…だよね?」「そうだな」「夕立かなぁ」「かもな、急いで帰ったほうがいいかもだぞ?」「君はこんなにか弱い女の子を暗くて雨の降っている外を一人で歩かせるの?」「誰がか弱い女の子だ。たった一人で学校の問題を解決し、校則を変えたやつが何を言ってやがる」「それはそれ、これはこれだよ〜」「そもそもだ。僕の家と水月の家は隣だろ。歩いて1分かからない距離だろ?」「私、10分かかりますキリッ」「水月はペンギンか!」「カタツムリとか、亀とか言わないあたり、日向君優しいよね」「るせぇ」「じゃあさ、雨が止んだら大人しく帰るよ」「そうしてくれ」「だからさ、その間、お話しようよ」「まぁ、僕も水月と話ししてたら本を開くのも面倒くさくなっちゃったしな、良いぞ」「やったね、」「なんの話をするんだ?」「じゃあね、アレ」そう言って水月が指を指す。その先を見ると、小さな白い花瓶の中に1輪、紫色の花が生けてあった。「……」「やっぱり、静かになるんだね」「あれは…」「関係してるんでしょ?君が話したがらない本当の家族の話、そして、過去の話と。」「……。」「私は、11年間、君と一緒にいた。でも、君の家族と会えたのはつい最近の事。君の家に来れたのも、ね。だから、君の家の事をよく知らない。」そう、学校でいじめられていても、こいつには隠していた。陰湿な虐めで、隠せるいじめだったからだ。家の事もまた然り。だからこそ、悩んだ。今話すべきなのか、否か。こいつは今、僕に話すか否かを聞いていr…違う。こいつのこの目は違う。あの、校則を変えるために校長に向けたあの目と同じ、“その覚悟があるのか、ないのか”それを聞いている目だ。「僕は…」僕にはその覚悟は無い。それでも、こいつなら…こいつにならば話しても良い。心のどこかでそう感じているのも事実。その刹那、手に温かな感触があった。「少しずつで良い。私に話してくれないかな?」そう言いながら水月が僕の手を握っていたのだ。「分かった、話すよ…。」そう言って、僕は話しだした。あの夜から始まった決して綺麗ではない話を。「あの日も、こんな土砂降りの日だった」