「納得いかねぇ」
 額に傷のある男は、苛立ちながら少し離れた場所に座る男を横目で見た。
「殺せるなら殺したいっていうのは、最初から話していたことだろう?」
 男はフッと笑うと、茶をすする。
「そりゃあ、そうだけど……やり口の話しをしてるんだよ」
 傷のある男は吐き捨てるように言った。

 二人はいつもの茶屋にいた。
 日は暮れかけており、店主は店の奥に行ったまま戻ってくる様子はない。

「そもそもどうして突然殺すことになったんだよ! 様子を見るんじゃなかったのか!?」
 傷のある男は、額の古傷を乱暴に引っ搔いた。
「声が大きいよ」
 男は飄々とした口調で言った。
「様子は今まで見てきただろう? あの方が面白がって生かしておいたっていうのもあるけどさ」

「じゃあ、どうして突然……」
 傷のある男の言葉に、男は苦笑した。
「さぁね。あの方が考えることは俺には理解できないよ」
 男は肩をすくめた。
「やり口は、仕方ないさ。その方法じゃなきゃ殺せないんだから。正直、おまえが正面からいったってキツいだろう? 相討ちくらいの覚悟でいかないと、おまえの方が殺されてしまう」

「そうだけど……それにしたって悪趣味だろ……」
 傷のある男は眉をひそめる。
「あの方の悪趣味は今に始まったことじゃないさ。いいじゃないか。この方法なら失敗したところで、こちらに損はない」
「そりゃあ……そうだけど……」
 傷のある男は、片手で顔を覆いうつむいた。

 男は横目で傷のある男を見つめる。
「おまえ、同情しているだろう? あの男に」
 男の言葉に、傷のある男は顔を覆っていた手を下ろし顔を上げた。
「別に……そんなんじゃねぇよ……」
 傷のある男は目を伏せる。

「おまえだって最初は、変に生かすよりいっそ殺してやった方がいいって言ってたじゃないか? 今あの男がちょっと人間らしくなってきたからって、生かしてやりたくなったのかい?」
 男は妖しく微笑みながら聞いた。
「そんなんじゃねぇって……」
 傷のある男は目をそらしながら、口を開く。
「さっきも言ったけど、やり口が問題だって言ってるだけだ……」
「それならいいけどさ」
 男はにっこりと微笑んだ後、静かに目を閉じた。
「なぁ、考えてみなよ……俺たちの仕事で今まで悪趣味じゃなかったことなんて逆にあった? 人間の弱さや脆さにつけ込んで内側と外側から壊すのが俺たちの仕事だろう?」
 男はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、そろそろ行くよ。いろいろ根回ししないといけないからね」
 男は傷のある男に近づくと、軽く肩を叩いた。
「あんまり考えすぎるなよ」
「うるせぇ」
 傷のある男は、男の手を払いのける。

「フフ……、じゃあまたね」
 男はそれだけ言うと片手をあげて茶屋を後にした。

 傷のある男は片手で顔を覆うと、ゆっくりと息を吐く。
「わかってるよ、そんなこと……」
 誰もいない茶屋で、呟くその声だけが虚しく響いた。