【悲報】TS英雄の苦悩〜なんでこうなった⁉︎オレは早く元の姿に戻りたいんだ‼︎『いえ、師匠はそのままの方が可愛いですよ♡』〜《TS美少女爆誕編》

 「逃げるのですか?」

 そうティオルは問いかける。

 「クッ……逃げる、どうだろうな」

 そう言いタールベは後退した。
 それに対しティオルは剣を構えたまま、タールベとの間合いを詰める。

 「そうはさせませんよ。貴方は私を本気にさせたのですから」
 「なるほど。だが俺は、お前とやり合う気なんかない」
 「はて? 面白いことを言いますね。先に仕掛けたのは貴方だったはず」

 そう言いティオルは、ジト目でタールベをみた。

 「そ、そうだとしても……今はその気がないと言っているんだ!」
 「ほう……なるほどです。それでは話を聞かしてもらえるのでしょうか?」
 「お前……自分で言ってることが、おかしいと思わないのか?」

 そう問われティオルは首を横に振る。

 「そう思いませんが、もともと話をするためにここに来たのですよね?」
 「そうだが……それを本気にしてるのか?」
 「さあどうでしょう。ですが、そういう事ではないのですか?」

 そう言いティオルは、ニヤリと笑みを浮かべた。

 「普通……状況をみれば嘘だって分かるだろうがっ!」

 流石のタールベも苛立ってくる。

 「なるほど、そういう事ですか。では、なぜ嘘をつく必要があるのでしょう?」
 「お前、俺を馬鹿にしてるのか?」
 「いいえ、そうではありません。ただ納得できる発言が聞きたいだけですよ」

 そう言うとティオルは、タールベを凝視した。

 「言葉攻めってことか。だが、何も言うつもりはないっ!」
 「それはおかしいですね。今、話してますよ?」
 「……いい加減にしろっ!!」

 タールベは段々疲れて来たようである。

 「いい加減にするのは貴方の方ですよね? 話を聞かせてくれるという事でしたので私は、ここに来たのですが」
 「だから、さっきも言ったはず。それは……。フゥ―……そもそもお前の目的はなんだ?」
 「最初に言いましたよね……貴方の国のことが聞きたいと」

 それを聞きタールベは振り出しに戻って返す言葉がなくなった。

 「なんなんだ、お前は……。拷問よりも、キツイじゃないかよ」

 タールベは今にも泣き出しそうになっている。

 「そうですか? 私はただ質問しているだけですが」
 「それがキツイと言っているんだ」
 「そうなのですね。それならば話して楽になりましょう」

 そう言いティオルは、タールベを見据えた。

 「お前に話すことなどないっ! そんなことをするぐらいなら……」

 タールベは自決するため薬を飲もうとする。
 警戒していたティオルは、それをみたと同時に素早く動きタールベの口に剣の鞘を銜えさせた。
 その拍子にタールベは地面に押し倒され頭を強打する。
 ティオルはそのままの状態でタールベの生死を確認した。

 「フゥ―、危なかった。ちょっと追い詰め過ぎましたね……気をつけていたのですが」

 そう言いティオルは、タールベの口に布を銜えさせたあと魔法がかかっている縄で拘束する。

 「さて、どうやって運びますか? そうですね……何かで覆い運びましょう」

 そう言いティオルは自分で着ている服や持っていた布で、タールベの拘束を隠した。

 「これでいいでしょう……では行きますか」

 そうティオルは言うと、タールベを抱きかかえる。
 そしてその後、自分が泊っている宿屋へ向かった。
 ここはカンロギの町にある宿屋。そして、ティオルが泊っている部屋だ。
 あれからティオルは、ここにくる。その後、宿の受付に知り合いの体調が悪いので一緒の部屋に泊めたいと告げた。
 それを聞き宿の受付の者は宿帳にそのことを記載する。
 宿の受付の者の了承を得てティオルは、タールベを抱きかかえたまま自分の部屋へと向かった。

 そして現在ティオルは自分のベッドに寝かせているタールベをみている。

 (さてと、どうしましょうか? 恐らく起きても自白しない……こういう時ハルリオン様なら、どうするのでしょう……聞いてみますか)

 そう考えがまとまると便箋を取り出し書き始めた。そのあと書き終えると便箋の後ろに魔法陣を描く。
 そして便箋の魔法陣に手を添え詠唱する。すると便箋が光ったと同時に消えた。

 (これでいいですね。あとはハルリオン様が、どう判断をされるか。それまで私は、この男を見張っていなければなりません)

 そう思いティオルは、タールベのそばまでくる。

 「まだ寝てますね。簡単な治療はしてありますので大丈夫でしょう。ですが目を覚まし暴れられたら面倒。まあ……その時は、また寝かせればいいですか」

 そう言い近くに置かれている椅子に座った。その後、目を閉じ休むことにする。

 ★☆★☆★☆

 ここはハルリアとカールディグスの屋敷だ。
 あれからハルリアはセリアーナとマルルゼノファとシャルルカーナと途中まで一緒だったが家の近くまできたので、また明日と言い別れた。

 そして現在ハルリアは一人、書斎のソファに寝そべっている。

 (……これからどうなるんだ。このまま女の姿なのか? どうせなら女じゃなくて男のまま若返らせてくれればよかったのにな。そうすれば若い女と……)

 そう妄想しながら、ニヤケていた。するとハルリアの真横に魔法陣が展開される。
 その魔法陣は発光して、そこから便箋が現れた。その後、便箋は床に落ち魔法陣が消える。

 「ティオルからか?」

 そう言いハルリアは起き上がり便箋を取った。そして、ソファーに座り直すと便箋に書かれた文字を読んでいく。

 (相変わらず仕事が早いな……いや、運がいいのか。まさか、こんな早くにマールエメスの刺客をみつけ捕らえるとは……。
 だが、そのあとの判断をオレに持ってくるって……。カンロギの町まで、どんだけの距離があると思ってんだ! 指示をだすにも……どうしたらいい)

 そう思い考える。

 「カールは帰ってたな。仕方ない……このことを話すか」

 そう言いハルリアは便箋を持ちカールディグスが居る客間へと向かった。


 ――場所は客間に移る――

 カールディグスはソファに座りテーブルの上にある書類をみていた。

 「……学園から持ってきたのは、これで全部ですね」

 そう言うとカールディグスは、フゥーと息を吐く。
 するとノックされ扉が開いた。そこからハルリアが部屋の中へと入ってくる。
 そしてハルリアは、カールディグスのそばまできた。その後、無言のままカールディグスの真向かいに座る。

 「隊長……いきなり現れて普通、無言で座りますか?」
 「……あ、悪い。少し考えごとをしてたんでな」
 「まぁ、いいですけど。何か用があって来たんですよね?」

 そう聞かれハルリアは、コクリと頷いた。その後、便箋をカールディグスにみせる。

 「便箋? まさか……恋文じゃないですよね!」
 「そんな訳ないだろ! それはティオルからだ」

 そう言われカールディグスは不思議に思いながらも便箋に書かれている文章を読んだ。
 便箋に書かれている文章を読み終えると、真剣な顔でハルリアをみた。

 「……なるほど、ティオルの姿がみえないと思ったら隠密に動いてたのか。それで、よく隊長だと分かりましたね」
 「ああ、最初はオレだと気づかなかったが事情を話しているうちに……ヤット分かってくれた」
 「そうですか。ですが、よくティオルに正体を明かせましたね」

 そう言われハルリアは苦笑する。

 「口が堅くて、このことを任せられるヤツはティオルしかいないと思ってな」
 「確かにティオルなら、地理にも詳しいし腕が立つので……任せられますね。それに、これを見る限り……流石としか言えません」
 「ああ、これを読んで驚いた。だが、ティオルだからできたんだろうな」

 それを聞きカールディグスは頷いた。

 「そうですね。調べさせてたのが、パルキアだけだと思ってただけに驚きましたよ。でも、それは正解だった……相変わらずティオルは凄い」

 そう言いカールディグスは悔しいと思い俯いている。

 「なんで僕が副隊長なんですか? どうみても実績や年齢をみたってティオルが適任なはず」
 「なるほど……まぁそうだろうな。だが、ティオルは表に出るようなヤツじゃない」
 「どういう事ですか?」

 カールディグスは不思議に思いそう問いかけた。

 「アイツの異名を知っているか?」
 「いいえ、聞いたことがありません」
 「そうか……そうだな。仕方ないか……ティオルが表に出なくなったのも、この異名のせいだからな」

 それを聞きカールディグスは首を傾げる。

 「その異名って、なんですか?」
 「アイツの異名は【鬼蛇】だ」
 「……鬼蛇。どうみても、そうはみえませんが……どうしてそんな異名を?」

 そうカールディグスに問われハルリアは思い返した。

 「以前……隣国との戦が起こったことがある。それは、マールエメスと違う国だがな。その時ティオルは、自分流の戦略で敵軍を倒していった」
 「全軍ですか?」
 「いや、自分に向かって来た者だけだがな。だが殺したのは、ホンの一部だ。殆どの敵兵は生気が失っていたらしい」

 それを聞きカールディグスの顔は青ざめる。

 「殺さずに……殆ど捕虜って普通じゃない」
 「そうだな。それにアイツは、どんな時でも顔色一つ変えない……だから何を考えてるか分からん」
 「確かに普段からそうですね。それに怒っている所をみたことがない」

 そうカールディグスが言うとハルリアは頷いた。

 「確かにな。アイツの怒った所を数回みてるが……それも殆どは、オレ絡みだ」
 「……なんとなく想像がつきます。まあ、そのことは置いといて。それで、このティオルから来た手紙をなんで僕にみせたんですか?」

 そう聞かれハルリアは説明する。

 「……そうですね。確かに、その話を聞く限りティオル一人では無理かもしれない。それに指示をだすにしても便箋に書いて送っただけでは伝わらないこともある」
 「そういう事だ。それにカンロギの町まで、かなり距離がある」
 「ええ、ですが僕は学園の仕事を……隊長は学業がある」

 そう言いカールディグスは、ハルリアを見据えた。

 「ああ……だから悩んだ。それで、お前ならどうするかと思ってな」
 「そうですね。ティオルの所に行くのは隊長がいいでしょう。ですが、それをするにも学園長の許可を得ませんと」
 「そうなるな。だがそうなると、すぐにでも向かわなきゃまずいだろ」

 それを聞きカールディグスは思考を巡らせる。

 「そうなると……ここに学園長を呼ぶか。学園長の屋敷に行って許可をもらうしかないでしょうね」
 「やっぱり、そうなるか。それじゃあ、呼ぶしかないな」
 「……隊長、動きたくないみたいですね」

 そう言いカールディグスは、ジト目でハルリアをみた。
 ハルリアはそう言われ苦笑している。
 そうこう話しをしたあと二人は手紙を書いた。それを学園長宛てに魔法で送る。
 そしてその後、ハルリアとカールディグスは学園長がくるのを待ったのだった。
 ここはハルリアとカールディグスの屋敷。
 あれからハルリアとカールディグスは、ここで学園長の連絡を待っていた。

 「思ったよりも遅いな」
 「ええ、そうですね。それはそうと今日マルルゼノファに念押しされましたよ……ハルリア嬢を大事にしてくれって。そうでなければ、いつでも奪うそうです」
 「そうか……それは困ったな」

 そう言いハルリアは苦笑する。

 「どうするんですか?」
 「どうするも、こうするも……体が女でも中身は男だぞ」
 「ですよね。ですが……もし一生、戻れなかったらどうするんですか?」

 そう言われハルリアの顔は青ざめた。

 「流石にそれは嫌だ……どうにかして男の姿に戻りたい」
 「そうですね……みつかればいいですが」
 「ああ、どんなことをしてもみつけてやるっ!」

 それを聞きカールディグスは、クスッと笑っている。
 そうこう話していると二人の眼前に魔法陣が展開され便箋が現れた。
 その後、魔法陣は消え便箋がテーブルの上に落ちる。
 それを確認するとハルリアは便箋を取り読み始めた。

 「隊長……学園長からですよね?」
 「ああ、すぐくるそうだ」

 そうハルリアが言ったあと、ベルの音が聞こえてくる。

 「来たみたいですね……僕がみてきます」

 そう言いカールディグスは立ち上がり部屋を出て外へ向かった。
 その間ハルリアは考えながら待機する。

 (行くのはいいが一番、早く着く方法だと……馬車か。転移の魔法なら早いかもしれん。だが使える者はいない)

 そう思いハルリアは無作為に一点をみていた。
 そうこうしていると部屋にカールディグスとダギル学園長が入ってくる。そして二人は、ハルリアの真向かいに座った。
 その後ダギル学園長に、ティオルから来た便箋をみせる。

 「なるほど……流石は、ティオル(鬼蛇)だな」
 「学園長も、その異名を知ってたんですか?」
 「ああ、上層部では今でも有名だ」

 それを聞きカールディグスは、なるほどと納得した。

 「それはそうと……ハルリオ……いや、ハルリア。この件は、お前の方がいいだろう」
 「オレもそう思ってる。だがカンロギの町までは、かなりの距離だ」
 「確かに、今から馬車を調達するにも時間がかかる。それを考えると馬で行く方がいいだろうな」

 それを聞きハルリアの顔は真っ青になる。

 「いや……そ、それは……無理……だ。ハハハ……」
 「まだ乗れんのか?」
 「ええ、思ったよりも覚えが悪いみたいです。他のことは平気なのに変ですよね」

 そう言われハルリアは苦笑した。

 「だが転移の魔法を使える者はおらんしな」
 「学園長、そうですね。もし可能なら僕が同行しましょうか?」
 「その方がいいか。二人乗せて長距離だと……馬も疲れるが緊急事態だ」

 それを聞きカールディグスは頷きダギル学園長をみる。

 「カールと二人か……」
 「なんか不満なんですか?」
 「いや、なんか嫌な予感がする。他のヤツも連れて行った方がいいんじゃないか?」

 そう言いハルリアは、カールディグスとダギル学園長を順にみた。

 「じゃあ、ルミカやメイミルを連れて行きますか?」
 「メイミルも連れて行くのか?」
 「なんか不満そうな顔だな」

 そうハルリアが問うとダギル学園長は冷や汗をかいている。

 「あーいや、まあ……お前たちが居るから大丈夫だろう」
 「……学園長、もしかしてメイミルのことを知っているんですか?」
 「いや、そういう訳じゃない。ただ……足を引っ張るんじゃないかと思ってな」

 そう言われハルリアとカールディグスは、ダギル学園長を疑いの眼差しでみた。

 「まるで親が子供を心配する態度ですね」
 「そ、そんなことある訳ないだろっ! あんなバカ娘が……あ、いやなんでもない」
 「なるほど……それでメイミルが学園に入れた訳か。おかしいとは思ったが」

 そう言われダギル学園長は苦笑いをしている。

 「まあそれは、あとで聞くことにしましょう。ハルリア嬢が言うように、今はカンロギの町へ向かう者を数名必要という事です」
 「そうだな……ルミカと、仕方ないメイミルも向かわせるか。あとはパルキアも必要か?」
 「ああ、パルキアも居た方がいい。それと他に学園で、すぐに実戦で役に立つ者はいるか?」

 ハルリアがそう聞くとダギル学園長は、コクリと頷いた。

 「それじゃ明日、学園で何人かに声をかける」
 「そうしてくれると助かる。そうだな……ルミカとメイミルとパルキアは、ソイツらとあとから向かわせてもいいだろう」
 「そうですね。じゃあ、僕とハルリア嬢は先にカンロギの町に向かいます」

 そう言いカールディグスは二人をみる。
 そしてその後も、ハルリアとカールディグスとダギル学園長は打ち合わせをしていたのだった。
 ここは王立騎士養成学園にある馬小屋の前だ。辺りは日が沈みかけていて薄暗い。
 そしてこの場所には、ハルリアとカールディグスとダギル学園長がいる。

 あれからハルリアは、ルミカとメイミルに手紙を書き連絡をした。勿論、ティオルにも手紙を送る。その後、旅の仕度をした。
 片やカールディグスも旅立つ準備をする。
 因みに荷物になるため持っていくのは必要最低限の物だけだ。

 現在ハルリアはハルリオフをみていた。

 「……連れて行くなら、コイツがいい」
 「ハルリア嬢……この馬が気にいったみたいですね」
 「ほう……ハルリオフか。コイツは中々人に懐かん馬だが……」

 そう言いダギル学園長は不思議に思い首を傾げる。

 「そうなんですね。ですが、かなりハルリア嬢のことを好きみたいですよ」
 「なるほど……馬にまで好かれるとはな」
 「……オレ人間の女がいい」

 それを聞きカールディグスとダギル学園長は呆れた表情を浮かべた。

 「まあ……それはいいとして、そろそろ向かわなければ」
 「そうだな。少しでも早く着かないと、ティオルが何をするか分からん」
 「……ティオルが何かするとも思えませんが?」

 そう言いカールディグスは、ジト目でハルリアをみる。

 「捕らえた者が目を覚ましたら、その者は地獄をみることになる。生気を失ったら自白が見込めなくなるからな」
 「なるほど、ですね。じゃあ急ぎましょう」

 カールディグスはそう言うとハルリオフを外に連れ出した。
 その後ハルリオフは、ハルリアをみるなり頭をかじる。

 「……頭が馬の尻にみえるのか?」
 「学園長……確かにそれはあるかもしれません」
 「尻……いい加減にしろっ!」

 そう言いハルリアは、ハルリオフの口を思いっきり力を込めて押して自分の頭から剥がした。

 「ハハハ……そうですね」
 「プッ……ヨダレだらけだぞ」

 カールディグスとダギル学園長は我慢できず大笑いする。
 それをみたハルリアは不愉快になった。

 「いい……行くぞ!」
 「そうですね……プッ……」

 その後なんとか堪える。
 そしてハルリアとカールディグスは馬に乗った。

 「それでは行ってきます」
 「ああ、頼んだ。二人の旅を少しの間だが楽しんでこい」

 そう言われカールディグスは一瞬「……」言葉を失う。

 「そうだな。偶には、そう思ってもいいか」
 「ハルリア嬢? 僕はノーマルですからね」
 「ああ……オレもそうだ」

 ハルリアはそう言い、ニヤリと笑みを浮かべる。

 「からかってますね。まあいいです……じゃあ落ちないように手綱を握っててください」

 そう言いカールディグスは自分の手綱を握りハルリオフに走れと指示をだした。
 するとハルリオフは、その指示に従い猛スピードで走りだす。
 それを視認するとダギル学園長は二人がみえなくなるまで見送る。

 (さっき……ハルリオンのあの言葉の意図はなんだ? ふざけて言ったようにもみえなかったが。まさかな……思い過ごしだろう)

 そう思いダギル学園長は、その場をあとにした。
 ――……翌日。

 ここは学園長室だ。この場所にはダギル学園長の他に数名の教師と学生がいる。
 因みに教師は、ルミカとメイミルとパルキアだ。
 それと学生の方は、セリアーナとマルルゼノファとシャルルカーナである。
 そうダグル学園長は、ハルリアと仲がよくて優秀な学生を選んだのだ。……まあ、いつものメンバーになっただけである。

 そして現在ダギル学園長は、ここに呼んだ理由を話していた。

 「ここに来てもらった理由なのだが。元兵団第一部隊の者からカールディグスへ便箋が届いた。そこには……」

 そう言いダギル学園長は淡々と便箋に書かれていたことと、これからやることを説明する。

 「では、その兵士がマールエメスの刺客を捕らえた。それと……その刺客はハルリオン様のことを探って」

 マルルゼノファはそう言いダギル学園長をみた。

 「そういう事だ。それで君たち学生には教師同行の下カンロギの町に向かって欲しい」
 「学園長……どうして学生の私たちまで行く必要があるのですか?」

 そうセリアーナが問うと、ダギル学園長は少し考えたあと口を開く。

 「これは内密に行いたい。それに敵国の動きが気になるのでな」
 「そうなのですね。マールエメスと云えば侵略国家と聞いたことがあります。それと、どうハルリオン様の失踪に関係してくるのでしょうか?」

 シャルルカーナは不思議に思い、そう問いかける。

 「恐らくマールエメスは、ハルリオンを狙っている。いや、ハルリオンは狙われて身を隠してるのかもしれん」
 「恐らくではなく……間違いないと思います。ハルリオン様は狙われたのでしょう」

 そう言いルミカは遠くに視線を向けた。

 「ああ、そうだな。それが事実ならマールエメスは、この国を狙っているという事だ」
 「確かにです。オレもマールエメスの国境付近で、ハルリオン様の生死を聞いて歩いているヤツをみている。ソイツを捕らえようとしましたが、不覚にも逃げられた」

 パルキアはそう言い悔しい表情を浮かべている。

 「そうか……。まあそれは、ティオルが帳消しにしてくれた……気にするな。それよりも、今ならばマールエメスが攻めてこない」
 「そうだけど……ハルリオン様の生死が確認できるまで刺客を、どんどん送り込んでくるんじゃないのかな?」

 そうメイミルが発言すると、ダグル学園長とルミカとパルキアは窓の外へ視線を向けた。

 「天気はいいようだな」
 「そうですね。ですが時期に降ってくるかもしれません」
 「確かにメイミルが真面なことを言ったからな」

 そう言われメイミルは、プクッと頬を膨らませ怒る。

 「あー酷い。それじゃ、いつも真面なことを言ってないみたいでしょっ」

 それを聞きダギル学園長とルミカとパルキアは笑っていた。
 その様子をみていたマルルゼノファとセリアーナとシャルルカーナは、ポカーンっと口を開けている。

 「まあ確かに、メイミルの言うように刺客を送り込んでくるだろう。恐らくハ……カールディグスも、それを警戒して援軍を要請したのだろうな」

 そうダギル学園長は言い目の前の者たちを順にみた。

 「それとこのことは既に王室と上層部にも確認を取ってある」

 ダギル学園長にそう言われ六人は安心し了承する。
 そしてその後もダギル学園長は念入りに確認を取りながら話をしていたのだった。
 ここはリュコノグルの城下町の外でセルアラ草原。周辺には草花が生い茂り風に揺れている。
 ここには、ルミカ、メイミル、パルキア、セリアーナ、マルルゼノファ、シャルルカーナ、三人の教師と三人の生徒がいた。そして、その近くには荷馬車がある。

 あれからルミカ達とセリアーナ達は、ダギル学園長の話を終え各自一旦寮へ戻った。その後、旅の仕度を済ませるとここにくる。
 因みに荷馬車はパルキアが御者として操り、ここまできたのだ。

 そして現在、六人は荷馬車に乗る前に役割分担や色々なことの確認をしていた。

 「みんな揃ったわね。それでは、いくつか確認します」

 そう言いルミカは、この場にいる五人を順にみる。

 「まずは各々の役割です……」

 ルミカは淡々と話を進めていった。
 役割は各自分担で行い、それらを交代でやる。それと御者は扱える者が交代ですることになった。
 そして話し合いと確認が終えると各々荷馬車に乗りこんだ。

 「……よく考えたら、マルルだけ男ね」
 「そういえば、セリアーナの言う通りだわ。でも、私が居るから大丈夫よ」
 「おい、何が大丈夫だって? それに俺は、ハルリアさんだけしかみていない」

 そう言いマルルゼノファは、ムッとする。
 そうこう話しているとパルキアが馬に指示をだし荷馬車は動きだした。

 ★☆★☆★☆

 ここはカンロギの町の宿屋で、ティオルが泊まっている部屋である。
 ティオルはハルリアから来た便箋を再び読み直していた。

 (……なるほど隊長は、カールと二人でここにくるのですね。昨日……発ったという事は早くて明日の朝に着きます。何もなければ、ですが。
 それにしても、あの二人が許嫁同士とは……。咄嗟に考えたにしても……微笑ましい。
 隊長は気づいているのか……どうでしょうね。あの人も、ああみえて狸ですので)

 そう思いティオルは微かに笑みをうかべる。……これは何か知っているようだ。

 (それにしても相変わらず馬に乗れないとは……これから、どうするのでしょうか? まあ、カールが教えているので問題はないですね。
 そういえば……ルミカとメイミルとパルキアもくるのでした。それだけではなく生徒も数名……隊長の予感は当たるだけに何も起こらなければいいんですけれど)

 そうこう考えているうちに心配になってきた。
 そしてその後も、タールベを監視しながら色々と思考を巡らせる。

 ★☆★☆★☆

 ここはリュコノグルの城下町とカンロギの町の間にあるキメルディアの町。と云いたいが、その手前にあるセイレール湖だ。
 ここにはハルリアとカールディグスがいた。因みにハルリオフは縄で縛られ近くの木のそばにいる。

 そしてハルリアは現在、草むらに隠れ吐いていた。
 その様子をカールディグスは離れた所で頭を抱えながらみている。

 「これで何度目ですか?」
 「ゴホッゴホッ…………そうは云うが……。お前の乗り方が荒すぎるからだ」
 「……なるほど、それなら自分で騎乗しますか? それとも歩いた方がいいですかね」

 そう言いカールディグスは、ジト目でハルリアをみた。

 「そ、それは……ハハハ……そうだな。悪かった……乗せてくれ」
 「ハァー……そうですね。もう大丈夫ですか?」
 「ああ、行こうか」

 それを聞きカールディグスは、コクッと頷く。
 そしてその後、二人はハルリオフに乗ると一旦休むためにキメルディアの町へ向かった。
 ここはマールエメス国にあるラーメシア城。そして城の大臣の書斎には大臣カンルギが居て目の前の女性をみていた。

 この女性はハンナベル・ククルセナと云い、ハルリオンを十五歳の少女にしてしまった張本人ルセレナ・セリュムである。

 現在カンルギは椅子に座り机に手を乗せハンナベルと話をしていた。

 「タールベと連絡がとれないだとっ!?」
 「はい、いつもであれば深夜に連絡が入るのですが……」
 「連絡はしてみたのか?」

 そう聞かれハンナベルは、コクッと頷く。

 「何度も連絡したのですが反応がありませんでした」
 「それはおかしいな。タールベは何があろうと連絡をしてくるヤツだ」
 「そうなのです。ですので余りにも変だと思ったのでカンルギ様の指示を仰ぎたいと」

 そう言いハンナベルは、カンルギをみる。

 「うむ……考えたくはないが。タールベは捕まったやもしれんな」
 「やはり、そうですよね。私も、そうは思ったのですが……」
 「もしそうならば警戒した方がいい。まあ、そう簡単にタールベが口を滑らせるとも思えんがな」

 それを聞きハンナベルは、コクリと頷いた。

 「はい、私も思いません。ただ……本当に、タールベが捕まったのであるなら相当に強い者のはず」
 「そうだな。もしもの時は、タールベを始末しろ。それとタールべを捕らえた者もだ。まあこれは、そうだった場合だが」
 「承知しました。では数名の者と調査し行いたいと思います」

 そう言いハンナベルは一礼して、この場を離れようとする。

 「ハンナベル待て、ハルリオンの生死も確認しろ。それと、このことを相手に悟られるなよ」
 「はい、勿論です。それでは……」

 ハンナベルはそう言い部屋を出ていった。
 それを確認するとカンルギは机上の書類をみながら色々と思考を巡らせる。

 ★☆★☆★☆

 ここはキメルディアの町。人の数は町の大きさに比べて、それほど多くない。
 そして、この町の食事処にはハルリアとカールディグスがいる。
 そうあれから二人は、この町にくるなり即この食事処に入った。

 「ハルリア嬢……前から思ってましたが。その体になっても、よく食べますよね」
 「そうか? そうは思わんが」
 「話し方……こういう場では女性らしくしてください」

 そう言われハルリアは、コクッと頷いた。

 「……そういえば、カールは男なのに余り食べませんね」
 「ハァー……これが普通だと思いますよ」
 「そうかしら? もっと食べておいた方がいいと思いますわ。いざという時に力が揮えなくなりますよ」

 ハルリアはそう言い自分の皿からカールディグスの皿に肉をおく。

 「ハルリア嬢……これを食べろと?」
 「勿論ですわ。男ですので、もう少し体格をよくした方がいいかと思いますよ」
 「そうですね……ですが流石に、こんな大きな肉を食べるのは……」

 肉をみたカールディグスは胃がムカムカしてくる。

 「吐かないでくださいね」
 「…………わざとですか?」
 「いえ、心配しているのですよ」

 そう言われカールディグスは、ジト目でハルリアをみた。
 その後、カールディグスはハルリアに肉を返す。それをハルリアは美味しそうに食べる。
 それをみてカールディグスは呆れていた。だが、なぜかこうしていられることを喜んでいるようである。
 そしてハルリアも、いつもより楽しそうにしていた。
 ――……翌朝。

 ここはカンロギの町の宿屋。そしてティオルが泊まっている部屋だ。
 あれからティオルは何度か起きたタールベを薬を嗅がせ眠らせる。その間、仮眠をとったり持って来ていた非常食を食べていた。

 そして現在、椅子に座りティオルは眠っているタールベを監視している。

 (こうも暇だと退屈ですね。どうしましょうか……次に目覚めたら私の話を聞かせるのも面白そうです)

 そう思いティオルは、ニヤリと笑みを浮かべた。

 (隊長とカールは今どの辺りでしょうか? 急いでこっちに向かっていると思いますが……流石に遊んではいませんよね)

 ティオルは不安になってくる。
 そうカールディグスは、そんなことをするタイプじゃない。
 しかしハルリアは偶に頭のネジが外れたようになり羽目を外す。そんな傾向があるからだ。

 (まあカールが居ますし……大丈夫でしょう)

 そう考え再びタールベへ視線を向ける。

 ★☆★☆★☆

 ここはカンロギの町の商店街付近。辺りは行き交う人で賑わっていた。
 ここにはハンナベルが居て街路を歩いている。

 (タールベからの連絡では…………この町に居る、ってことだった。その連絡が最後……)

 そう思考を巡らせながら周囲を見回した。

 (この辺には居そうにないわね。気配も感じないし……。もし捕まっているとして……どこに?)

 そう考え立ちどまる。

 (私なら倉庫ね。でも……そんな誰でも分かるような所に居ると思う? 多分……最も身近で普通なら、その場所には捕らえ置かない……そんな所だと思うのだけど)

 そう思い再び歩き出した。

 ★☆★☆★☆

 ――……午後。

 ここはカンロギの町の宿屋の外である。この場には、ハルリアとカールディグスがいた。
 あれから二人は寄り道をしながら、やっとの思いでこの町に来たのである。そうハルリアが何を思ったか途中の村や町に寄って観光していたからだ。
 だがそれは……まあ、そういう事にしておこう。
 そしてやっとの思いで、この町に辿り着いた。
 因みにハルリオフは、この町の馬置き場にいる。

 ハルリアは宿屋を見回した。

 「大きな宿屋ですわね」
 「そうですね。リュコノグルの城下町でも、ここまで大きな宿屋はみたことありません」
 「そうね。じゃあ行きましょう……あっ、そうだわ。カール……先に行ってて…………買って来たい物があるので」

 そう言われカールディグスは、ハルリアを凝視する。

 「今更、何を買ってくるんですか? それにティオルが待ちくたびれてますよ」
 「ええ……そうね。だけど……これだけは買ってきたいの」

 そう言いながらハルリアは何かに警戒しているようだ。

 「じゃあ……僕も行きます。ハルリア嬢だけでは心配ですので」
 「いえ、カールはティオルの方に行って……心配ですので」
 「…………言ってることが理解できない。だけど……そうですね。確かに僕だけでも、ティオルの所に行ってた方がいいか。じゃあ早く戻って来てくださいよ」

 カールディグスはそう言いハルリアを見据えた。

 「そうね……分かったわ。じゃあ早くティオルの所に行ってあげて」

 それを聞きカールディグスは、コクッと頷き宿屋へと入る。
 それを確認するとハルリアは商店街の方へ歩き出した。
 すると何者かがハルリアのあとを追う。

 (やはりな……)

 そのことに気づくも、ハルリアは知らないフリをしそのまま歩いていたのだった。