【悲報】TS英雄の苦悩〜なんでこうなった⁉︎オレは早く元の姿に戻りたいんだ‼︎『いえ、師匠はそのままの方が可愛いですよ♡』〜《TS美少女爆誕編》

 この世界グラバディウスの中央に位置するセリュウガ大陸に、リュコノグルと云う国がある。
 かつて……そう約二十五年前、この国を救った英雄と云われた聖剣士がいた。
 その聖剣士は、ハルリオン・ヴェグス、二十歳。元々この城の兵士である。
 ハルリオンは、国を襲った黒龍族を倒した。そのため英雄と云われるようになったのである。
 その後ハルリオンは、兵士長となり更に業績を上げていく。そんな中、弟子も数人できた。

 それから二十五年後ハルリオンは、一部の弟子や仲間と任務を遂行するため城をでる。
 しかしその後ハルリオンが、なぜか城に戻ることはなかった。
 一緒に向かった弟子や仲間の証言では、任務を完了させたあと行方不明になったという事だ。
 それを聞いた国王は、ハルリオンを探させる。だが……未だに、探し出せずにいた。

 ★☆★☆★☆

 ここはリュコノグル国内にあるセルギスの森。そしてその森の中に家が、ポツンと一軒だけ立っている。
 その家の周囲は開拓されていて、小さいながら畑があった。それと家の脇には、稽古をするための場所もある。
 その場所には少女が居て、木の剣を持ち稽古をしていた。
 その剣さばきは見事なほどである。まるで実戦を経験したことがある者のような、凄い剣の扱い方だ。
 稽古を終えるとその少女は、近くにある木の椅子に股を広げ腰掛ける。

 「ふぅ〜、今日はこれくらいにしとくか。そろそろ、アイツらがくる頃だしな」

 そう言いその少女は、遠くをみつめた。
 その声は、可愛らしい。だが口調は、男のように乱暴な感じだ。
 見た目は十五歳の少女。しかし残念ながら中身は、四十五歳のオッサンである。
 そうこの少女は、元リュコノグル国の兵士長ハルリオンだ。
 赤混じりの銀色の長髪を後ろで縛っている。丸くて大きな瑠璃色の目で、笑うと特に可愛い。身長は約百六十センチだ。
 因みに現在、ハルリア・アルパスと名乗っている。

 (あれから二ヶ月も経つのか。たく……どうしたもんか。未だに慣れねぇ。ああ……こんな体じゃ、女にモテねぇよなぁ。野郎が寄って来ても、興味ねぇし。
 クソッ、あの時……油断さえしなきゃ。まさかこのオレが、あの女狐にハメられるとはな)

 そうハルリオンは、依頼者であるルセレナ・セリュムと云う女性に騙されたのだ。
 討伐の任務を完了したあと弟子や仲間と近くのカザビアの町にある宿屋に泊まった。
 その日、弟子や仲間たちと酒場で飲み食いする。そこにルセレナが居て、ハルリオン達に話しかけた。
 そうルセレナは話を聞いていたため、ハルリオンたちが城の者だと知ったからだ。
 そしてハルリオン達は、ルセレナから依頼を頼まれる。
 その依頼とは、この町の近隣の山の洞窟に住む三つ目鬼の討伐だ。
 だがハルリオンは、最初その依頼を断る。
 しかしルセレナに兄の仇をと泣きつかれたため了承した。
 その後ハルリオンたちは、ルセレナと共に近くの山の洞窟へと向かう。
 ハルリオンたちは苦戦するも、なんとか三つ目鬼の討伐を成功させる。
 するとルセレナは、三つ目鬼が護っていた宝の一個をハルリオンに渡した。だがそれは、ルセレナが予め用意していた物だ。
 それを受け取るとハルリオンは、ルセレナから中身を開けてみてと進められる。
 最初ハルリオンは、別の場所で開けると言った。
 だがルセレナは、中身がみたいとせがむ。
 弟子や仲間にもみたいと言われ、渋々開けてみる。
 すると魔法陣が展開され、虹色の光が放たれた。
 その光はハルリオンを覆い包んだ。ハルリオンは苦しさのあまり頭を抱え蹲る。
 弟子や仲間たちは、何が起きたのかと呆然と佇んでいた。
 その間ルセレナは、全ての宝物を異空間に放り込むと魔法を使いこの場から消える。
 その後ハルリオンを覆っていた光が消えた。
 弟子と仲間たちは目の前に居るハルリオンの姿をみて驚く。そして、何度も目を凝らしみる。
 そうそこには可愛い少女が一人、頭を抱え蹲っていたからだ。
 弟子と仲間たちはその少女、ハルリオンに問いかける。ハルリオンなのかと……。
 最初ハルリオンは、弟子や仲間たちが何を言っているのか理解できなかった。だが自分の姿をみて絶叫し気絶する。その後、弟子や仲間たちに介抱してもらった。
 そして意識が戻るとハルリオンは、この姿じゃ城に戻れないと頭を抱える。
 それならと弟子のひとりであるルミカ・クライグが、ある提案をしてきた。そう元に戻るまでの間、ルミカの家で管理しているセルギスの森にある空き家で暮らしてはどうかと。
 そういった経緯でハルリオンは、ここで暮らすことになったのだ。

 そして現在、ハルリオンは大欠伸をしたあと目を閉じる。その後、しばらく眠っていたのだった。
 「……師匠〜起きてください。ヨダレが出てますよ〜」

 そう言い三つ編みツインテールで緑髪の女性は、ハルリオンの肩を揺する。

 この女性はルミカ・クライグ、十八歳。ハルリオンの弟子だが、その中でも一番若い。

 ハルリオンはルミカに起こされ大欠伸をして目覚めた。

 「ふあぁ〜、やっと来たかルミカ。ん? 来てるのは、お前だけか」
 「うん、そうみたい。それはそうと師匠、股を開いて座る癖……まだ治らないんですか?」
 「治らない……って。これは病気じゃない。それに長年の癖は、流石に直らん」

 そうハルリオンが言うとルミカは、ハァ〜っと息を漏らし呆れた表情になる。

 「まあ、いいですけど……」

 そう言いルミカは、辺りを見回した。

 「それにしても、師匠は凄いですねぇ」
 「ん? 何がだ」
 「何って……。あんなに酷く荒れてた土地がですよ、今じゃ綺麗になって畑や稽古場まで。それも、たった一人で……。そんなの誰も真似できませんので」

 ルミカはそう言うと、ハルリオンを覗き込んだ。

 「誰もできない、か。どうだかな、それはやる気の問題じゃないのか」
 「どうでしょうか。そうは、思いませんが」

 そう言いながら薄紫で短髪の男性がハルリオンとルミカのそばまでくる。

 この男性はカールディグス・ルビア、二十三歳。ハルリオンの弟子であり部下だ。
 このカールディグス、イケメンなのだが……性格に難あり。

 カールディグスはハルリオンの前までくると一礼した。

 「おはようございます。兵士長……いえ、ハルリア様。プッ……」

 そう言ったはいいが、おかしくなり笑い転げてしまう。

 「カール!! いい加減にしろ! オレだってこんな姿、嫌なんだからな」
 「あ、申し訳ありません。ですがそう言われても……あの兵士長と今の姿が、余りにも結び付かなくて」

 また笑いそうになりカールディグスは、自分の口を両手で塞いだ。

 「ハァ〜、まぁいい。それで今日は、お前たち二人だけか?」
 「そうみたいですね。それか、あとからくるのかも」

 そう言うとルミカは、周囲の森をぐるりと見渡す。

 「うわぁぁあああー、くるなぁぁぁああああ~……」

 そう叫びながらピンク髪で短めのツインテールの女性が、ハルリオンたちの方へ猛スピードで向かってくる。

 「ふぅ~、一番うるさいのが来たみてぇだな」
 「ええ、ハルリア様……そうみたいですね」
 「それにしても……メイミルは、いつも賑やかですね」

 そうルミカが言うとハルリオンとカールディグスは、呆れ顔で頷いた。

 このピンクの髪の女性はメイミル・セルビノズ、二十歳。ハルリオンの弟子である。
 どちらかと言えば年齢よりも、かなり見た目が若い。
 そして一番うるさくて、厄介ごとを持ってくるのもメイミルだ。

 ハルリオン達の方に向かいながらメイミルは、大声で泣き叫んでいる。

 「ちょっとぉ~、みてないで助けてってばぁ~」

 それを聞きハルリオンは立ち上がり、メイミルの背後へ視線を向けた。

 「ありゃあ、フレイヤウルフだな。だが、なんでメイミルを追いかけてんだ?」
 「師匠、本当ですね。フレイヤウルフは、刺激しなければ襲ってこないはずですが」
 「ルミカの言う通りです。大方、メイミルがフレイヤウルフを刺激したのでしょう」

 そうカールディグスが言うとハルリオンとルミカは、ハァーっと息を漏らす。

 「しょうがねぇな」

 ハルリオンはそう言うと、めんどくさそうな表情で頭をかいた。その後、鋭い眼光でフレイヤウルフを睨みみる。そして腰に差している剣の鞘を左手で持つと、右手を柄に添えた。
 そのままの体勢でハルリオンは、フレイヤウルフに向かい駆け出す。そして走りながら剣を抜き、すかさず切先を左に向け構える。
 するとフレイヤウルフに目掛け即座に剣を右へ振り、素早く刃を上に向け斬りつけた。
 フレイヤウルフはハルリオンに斬られて、バタンと血を流し地面に倒れる。
 そばでみていた弟子たちは、余りにも速いためハルリオンの動きを捉えることができなかった。

 「ふぅ〜……やっぱり、この体だと動きが若干鈍い。それに、身長のせいで狙いがズレるな」

 そう言いながらハルリオンは、剣を鞘に収める。するとメイミルを、キランッと目を光らせ鋭い眼光でみた。

 「あーえっと……師匠? もしかして、怒ってます……よねぇ。その顔は……ハハハハ……」
 「ハァ〜……まぁいい。それで、なぜ追いかけられてた?」
 「えっと……ですね。途中で……」

 そうメイミルが言いかけると……。

 「これは、申し訳ない」

 そう言いながら水色の長い髪の男性が、ハルリオン達のそばへと近づいてくる。

 「誰だ!?」

 ハルリオンはその水色の長い髪の男を警戒し剣を構えた。
 それと同時に、ルミカとカールディグスも身構える。

 「いえ、私は怪しい者じゃありません」

 そう言い水色の長い髪の男性は、武器をおさめてくれと促した。

 「怪しくねぇ、って。じゃあ、なんでここにいる?」

 そうハルリオンに問われ、水色の長い髪の男性は訳を話し始める。
 ハルリオン達は水色の髪の男の話を聞いていた。

 この男の名はロイビノ・セジブ、二十五歳。リュコノグル国の王立騎士養成学園の教師である。
 因みに騎士養成学園とは、その名の通りなので……やっぱり説明を省く。

 そして、ロイビノが説明し終える。

 (ロイビノか、名前と噂ぐらいなら聞いたことがある。騎士としては、かなりの手柄を立ててたはずだ。最近、名前を聞かないと思っていたが……教師にな)

 そう考えたあとハルリオンは口を開いた。

 「なるほど……騎士学校の教師か。そんで、迷子になったペットのバットキャットを探すため森に入った」
 「はい、檻籠から逃げ出し森に……。それで、みつけたまでは良かったのです。まさかバットキャットが、フレイヤウルフを攻撃するとは思いもよらず」
 「確か……その時アタシが通りかかって剣で攻撃したの。そしたらね、攻撃して来たんだよ。酷いよね」

 そう言いメイミルは、プクッと頬を膨らませる。

 「……それで逃げてたってことか。てかなぁ、酷いじゃねぇだろう! フレイヤウルフは、攻撃した相手を襲う……前に教えたはずだぞ」
 「てへ……そうでした。アハハハ……」
 「ハハハ、じゃねぇ。ハァ、まぁいい。それで、そのバットキャットは?」

 そうハルリオンが問うとロイビノは、来た道を振り返り森の方を指差す。

 「恐らく、まだ森の中に居ると思うのですが」
 「まだ……って!? 探さないとまずい。バットキャットは、魔物や魔獣よけとしてペットにもなる。だが、元々魔獣だ。それに魔獣や魔物をみると攻撃するだろう」
 「ええ、そうですが大丈夫でしょう。気が済めば、私の所に戻って来ますので。それよりもお嬢さん、若いのに物知りですね。学園に招待したい……ただ、言葉遣いが難点かなぁ」

 そう言いロイノビは、至って冷静である。

 「随分と余裕だな……て、いうか。オレがどんな話し方しようと、お前には関係ないだろう!」
 「いえ、そんなに可愛らしいのに……言葉が汚いのはもったいないと思いますよ」
 「か、可愛い……。オレは、別に……」

 そうハルリオンは言いかけた。
 するとカールディグスは、ハルリオンの目の前に立ちロイノビを凝視する。

 「これはハルリア嬢が、とんでもない失言をしてしまい申し訳ありません。そうそう……僕は、カールディグス・ルビアと申します」
 「これはこれは、ご丁寧に……。それで彼女とは、どういったご関係かな?」

 そう言いながらロイノビは、カールディグスをジト目でみた。

 「ハルリア嬢は、僕の婚約者ですよ。ですので、手を出さないでください」

 それを聞いたハルリオンは、否定しようとする。だがルミカに口を塞がれて、メイミルに体を押え込まれ阻止された。
 しかしなぜかハルリオンは、二人を払い除ける訳でもなく……却って喜んでるようだ。

 (……まぁいいか。それに、ずっとこの体勢のままで居たいんだが)

 こんなことを考えてるとも知らずルミカとメイミルは、更に体を使いハルリオンを押え込む。
 ハルリオンの脳内は……やはり敢えて言わないでおこう。

 「し、ハルリア。今は黙っていた方がいいかと」
 「そうそう……ルミカの言う通りですよ。カール様に、何か考えがあるのかもしれませんし」
 「う、ううっん――……(わ、わかった――……)」

 そう言いハルリオンは頷いた。
 二人は言っていることを理解していない。だが、頷いたためハルリオンを解放する。

 「ほう、婚約者ねぇ。そうは、みえませんが」
 「みえないとは? そもそも、それはどうでもいいこと」
 「確かに……そうですね。ですがハルリアさんには……是非、我が学園に来て頂きたい!」

 それを聞きカールディグスは、ジト目でロイノビをみた。

 「それは騎士候補生としてですか?」
 「ええ、勿論です。実は、女騎士団を強化したいと。そのためハルリアさんに入って頂きたいのですよ」

 そうロイノビが言うと、ハルリオンは呆れ顔になる。

 「オレが入って強化できるとも思えんが。女騎士候補生か……」

 そう言うとハルリオンは思い考え始める。

 (女ばかりか……野郎よりはマシだな。それに、見放題か……)

 そう脳裏に浮かべるとハルリオンは、ニタアッと笑みを浮かべた。

 「ハルリア、どうしたのですか? いきなり笑ったと思ったら、ヨダレが出てますけど」

 そうルミカに言われハルリオンは、慌てて手でヨダレを拭う。

 「いや、なんでもない。それよりも、学園に行く件……」

 そうハルリオンは言いかける。

 「いえ、イケません! ハルリア嬢には、これから我が屋敷に来て頂き……花嫁修業をして頂くのですから」

 そう言いカールディグスは、顔を赤らめた。

 「な、何を言って!?」

 ハルリオンがそう言うもルミカとメイミルに口を塞がれる。

 「それはそれは、ですがハルリア様はまだ十五歳ぐらいにみえます。ですので、礼儀指導なども学園で行えますが」

 そうロイノビに言われカールディグスは、返す言葉に困った。
 その後もカールディグスとロイノビの言い合いは続く……。
 そしてそれをハルリオンは、呆れながら聞いていたのだった。
 あれからハルリオンは、しばらくカールディグスとロイノビの言い合いを聞いていた。だが段々と、イライラしてくる。
 流石のルミカとメイミルも、呆れて来ていた。

 「いい加減にしろっ! カール、お前の気持ちは分かった。だが悪い、その気はない。それとロイノビ、学園の件は考えさせてくれ」

 そうハルリオンに言われカールディグスは青ざめる。

 (……あの顔はマジだ。絶対に勘違いされてる。だけど……まぁあとで、ちゃんと理由を話せば大丈夫だよな)

 そう思いカールディグスは、気を持ち直した。

 「分かりました。あーそうそう、もし学園に来て頂けるのでしたら……これを渡しておいた方がいいですね」

 そう言いながらロイノビは、バッグから紙を一枚とり出してハルリオンに渡す。
 ハルリオンはその紙を受け取り、隅々まで目を通した。

 「これ……なるほど、候補生の中途募集か」
 「ええ、そのための試験を一ヶ月後に行います」
 「……試験なぁ。どんなことをする?」

 そうハルリオンは問いかける。

 そうハルリオンは聖剣士で兵士だが騎士でも貴族でもない。だが本当なら功績からすれば、騎士になれたのだ。でもハルリオンは、兵士のままでいいと拒んだのである。
 因みに騎士は貴族が主で、だいたい養成所を出ている。中には貴族じゃない者もいるが希だ。

 そう聞かれロイノビは、待ってましたとばかりに説明し始める。

 「試験の内容は、女性と男性で違います。実技とペーパーテストまでは同じですが。女性の場合は、礼儀作法が加わりますので」
 「そうか……細かい内容とかは?」
 「流石にそこまでは教えられません。試験は平等に行われますから」

 そうロイノビに言われハルリオンは、考えながら募集の紙へと目線を向けた。

 「……ん? 教師の募集も同時にしてるのか」
 「あーそうですね。新しくクラスを増やすらしいです。なんのためにかは、分かりませんが」
 「教師!? それって、年齢とか制限はあるのですか?」

 そうルミカに聞かれロイノビは頷く。

 「年齢は、十八歳以上の男女。実績があれば有利。ですが、採用試験での成績次第になりますね」
 「面白そう! ねぇ、私たちも試験受けない?」
 「メイミル、安易に応えないでください。まだ、どうするのかも決めてないのですから」

 そうカールディグスに言われてメイミルは不貞腐れる。

 「教師の採用試験は難しいですよ。騎士か兵士の経験がないと厳しいかと」

 そう言いロイノビは、見下すようにカールディグスをみた。

 「それなら大丈夫だろう。この三人、一応は王国の兵士だ」

 ハルリオンがそう言うとロイノビは驚き三人をみる。

 「まさか……この三人が? そうはみえないが、所属はどこですか?」
 「コイツら三人、兵団第一部隊に所属している」

 そう言いながらハルリオンは、三人を順に指差した。
 ルミカとメイミル、カールディグスは素性をばらされ気まずい表情になる。

 因みに隊での立ち位置は、カールディグスが副隊長でルミカとメイミルは兵士見習いだ。

 それを聞きロイノビは、三人に興味を持ちみる。

 「ほう、第一部隊ですか。確かあそこは、聖剣士ハルリオン様の隊。そういえば、行方不明と聞いていますが?」
 「あ……そっちのことは、分からん。そうなのか?」
 「ハルリア……そうそう、言ってませんでしたね。今、探しているんですよ。どこに行っちゃったのかなぁ……兵士長はっ?」

 そう言いカールディグスは、ジト目でハルリオンをみた。

 「まだみつかって居ないのですか。ああ……一度、会って話をしたかったのですが。……残念です」

 それを聞きルミカとメイミル、カールディグスは笑いを堪えている。
 その後ロイノビの元にバットキャットが戻ってきた。するとロイビノは、バッドキャットを檻籠の中に入れる。そして話を終えるとロイノビは、ここを発っていった。
 それを確認するとハルリオン達は、ハァーっと息を漏らし安堵する。

 「やっと帰ったな。さて、どうする?」
 「そうですね。とりあえずは、家の中で話をしませんか」

 それを聞きハルリオンとルミカとメイミルは頷く。
 そして四人はその後、家の中で話し合ったのだった。
 ここはハルリオンの家の中。そんなに立派とは言えないが、男性の部屋と思えない程に綺麗に整頓されている。

 ――意外と綺麗好きらしい。

 現在この家の客間では、ハルリオン、ルミカ、カールディグス、メイミル、四人が椅子に座り話し合っていた。

 「うむ、どうする?」
 「そうですね……師匠が学園入りするのは、余りいいと思えません」
 「ルミカ、なんでそう思う?」

 そうハルリオンが問うとルミカは、真剣な表情になる。

 「恐らく師匠は、礼儀作法以外……全てクリアするでしょう。それはいいですが……学園に入ったとして、師匠に付いてこれる者などいないと思います」
 「……なるほど、そうかもしれんな。だが、それは手を抜けばいいんじゃないのか?」
 「ハルリオン様、そんなことができるんですか?」

 そうカールディグスに聞かれハルリオンは考えた。

 「そうだな……意識していれば大丈夫だろう」
 「ですが、師匠にそんなことできるとも思えないけど」
 「あのなぁ……メイミル。オレだって、そのぐらいはできる!」

 ハルリオンがそう言うと三人は、ジトーっと疑いの目でみる。

 「……まあそれはいいとしても。男性ではなく女性として、誤魔化すことができるのですか?」
 「カール、そっちの心配か。確かに、難しいだろうな。だが……」
 「難しいですね。ですが、それは私たちでカバーできるかもしれません」

 そうルミカが言うと三人は、不思議に思い首を傾げた。

 「どうカバーできると? できるとすれば、僕たちが……あーそういう事ですか。学園で誰かが見張っていれば、なんの問題もありませんね」
 「カール、そういう事。でもそれには……」
 「アタシたちが、教師の採用試験に合格しなきゃってことだよね……ルミカ」

 それを聞きハルリオンは青ざめる。

 「……お前たち、本当に教師になるきか?」
 「当然です。師匠を野放しにする訳には、いきませんので」
 「そうそう……それに、師匠が居ないとつまらないしね」

 そうカールディグスとメイミルに言われハルリオンは、ハァーっと溜息をついた。

 「それはいいが、城の方はどうする? オレは、この姿だから問題ない。だがお前たちは、許可をもらわなきゃならないはずだ」
 「そうですね……まぁ大丈夫でしょう。兵士長が留守の間、第一部隊に仕事はありません。兵士長を探す任務以外には、ですがね」
 「カール……そうか。だが……それでも、許可が下りるとも思えん」

 そう言いハルリオンは三人をみる。

 「まぁそれは、とりあえず許可をもらってからにしましょう。それと……師匠が、本気で試験を受けられるのであればです。難関が一つありますよ」
 「難関? ルミカ、それって……」
 「師匠の言葉の使い方と姿勢など、諸々と直さなければなりません」

 そうルミカに言われハルリオンは、ゾッとし青ざめた。

 「……そうだな。仕方ねぇ……まだ約一ヶ月もある。その間に、身に付ければいいんだろ!」

 そうハルリオンがいうと三人は、ウンウンと頷く。
 その後しばらく話したあと四人は、解散する。
 それからルミカとカールディグス、メイミルは城に赴き教師になるための許可と紹介状をもらう。
 そしてその後ハルリオン達は、一ヶ月後の試験のために各々修行をしたのだった。
 ここはリュコノグル国の城より南東側。そこには王立騎士養成学園がある。その学園の門前にある開けた場所には、試験の受付をするためのテントが張られていた。
 そのテント付近には、ハルリオン……いや、ハルリアとルミカとカールディグスとメイミルがいる。

 そうあれから約一ヶ月、四人は試験を受けるため必死に苦手な物を特に克服するべく修行した。

 そして今日、四人は受付をするためここにくる。

 因みにハルリオンは、女性用で騎士用のオレンジ色が混ざった白い服を着ていた。スカートのため慣れないのか、ぎこちない歩き方だ。
 そして、ルミカ、カールディグス、メイミル、三人も騎士の正装をしている。

 現在、四人は話をしていた。

 「いよいよですね。ハルリア、ボロだけは出さないでくださいよ」
 「ルミカ、そ……そうですわね。気をつけますわ……ほほほ……」

 それを聞きルミカとカールディグス、メイミルは本当に大丈夫かと思いハルリアをみる。そして、額から一滴の汗が落ちた。

 「ハルリア様、試験の時は僕たち居ませんので……手を貸せません。心配ですが……本当に大丈夫かなぁ」
 「カール様、師匠……じゃなかった、ハルリアなら大丈夫。アタシは信じてるよ!」

 メイミルは純粋無垢な眼差しでハルリアをみる。

 「……メイミル、オレ……いえ、ワタシよりも貴女の方が心配ですわよ」
 「えーアタシは、大丈夫です。結構、演技は得意なんですよ」

 それを聞いた三人は、ジト目でメイミルをみた。

 「まぁそれは、いいとして。そろそろ受付をしないと」
 「ああ、ルミカ……そうですわね」

 そうハルリアは言い受付の方に視線を向ける。
 そして四人は、受付へと向かった。

 ★☆★☆★☆

 ここは教師採用試験の受付所。ルミカとカールディグス、メイミルは順番に並び待っている。
 そしてルミカの番になり、書類を受付の男性に渡した。

 「はい、確認をさせて頂きますね」

 そう言い受付の男性はルミカの書類を隅々まで目を通す。

 「まさか!? 王立魔法学園を首席で卒業した……あのルミカ・クライグさんですか?」
 「あーそうだったかしら? ハハハ、ハ……」

 そう言われルミカは、困った顔になる。そうまさか、自分のことを知ってる者が居るとは思わなかったからだ。

 「やっぱりそうですよね。実は、ルミカさんと同じ学園に居たんですよ。学年は、僕のが上ですけど」
 「そうなんですね。ですが、今は……」

 ルミカは気まずそうに、キョロキョロと周囲を見渡した。
 するとカールディグスとメイミルが、ジト目でみている。

 (これは……あとで色々聞かれそうだなぁ。ハァ~……)

 そう思いルミカは溜息をついた。

 「フムフム……今は兵団第一部隊にですか……凄いですね」

 悪ぶることなくそう言い受付の男性は、ニコニコしている。

 「あ、ありがとうございます。それよりも、後ろで待っている人が居ると思いますので」
 「あーすみません、そうですね。それでは、受験番号の腕章をお渡しします。これを試験の時に付けて来てください。それと試験は、明後日となりますので」

 そう言われルミカは頷き、五番と書かれた腕章と試験の注意事項などが記載された書類を受け取った。

 「分かりました。それでは、失礼いたします」

 ルミカは軽く頭を下げるとこの場を離れる。
 そしてその後ルミカは「さっきの場所で待っています」と、カールディグスとメイミルに言い向かったのだった。
 ルミカが受付を終え次はメイミルだ。
 受付にメイミルは、書類と紹介状を渡した。

 「メイミル・セルビノズ、二十歳……兵団第一部隊所属。んー……」

 そう言うと受付の男性は、メイミルを疑いの目でみる。

 (えっと……まさか、バレてないよね?)

 メイミルは何かを隠しているようだ。

 「本当に、二十歳ですか?」

 そう言われメイミルは、胸を撫で下ろす。

 「はい、間違いなく二十歳です!」
 「……まぁ紹介状もありますし、問題ないでしょう。では、これを……――――」

 そう言い受付の男性は、六番の腕章と書類をメイミルに渡した。
 それを受け取るとメイミルは、後ろに居るカールディグスの方をみる。
 するとカールディグスは、口を塞ぎ笑いを堪えていた。

 「ムッ、カール様!?」

 それに気づきメイミルは、プクッと頬を膨らまし怒っている。

 「あーごめんごめん、プッ……」
 「まぁいいです。あとがつっかえてますよ」
 「そうだな……」

 そう言いカールディグスは、受付の方へ向かう。
 それを確認するとメイミルは、ルミカが待つ場所に向かい歩きだした。

 カールディグスは書類と紹介状を受付に渡す。
 それをみた受付の男性は、驚き立ち上がり直立し頭を下げる。

 「これは、兵団第一部隊の副隊長カールディグス・ルビア様。お噂はかねがね聞いております。まさか……貴方のような方が、我が学園の教師試験を……」
 「あーえっと、今仕事がなくてね。偶々みつけたから、やってみようかと」

 そう言いカールディグスの額を一滴の汗が流れ落ちた。

 「なるほど……色々あるのですね。分かりました……頑張って下さい」

 受付の男性はそう言い椅子に座ると、七番の腕章と書類をカールディグスに渡す。
 それを受け取りカールディグスはルミカ達が待つ場所に向かう。
 その場に居た者は、目で追うようにカールディグスを見送る。

 (ハァ~、予想はしてたけど……視線が痛い。それも、なんでみてるのが男なんだ? まぁいいかぁ……)

 そう思いながらカールディグスは、周囲をみないように身を縮め歩いていた。

 ★☆★☆★☆

 一方ハルリアは、生徒の試験受付の方にいる。そしてその場で書類に記載していた。それを受付にみせる。
 受付の女性は、隅々まで目を通した。

 「確認させて頂きます。ハルリア・アルパス、十五歳、剣術が得意……――――……師匠ハルリオン・ヴェグス…………。エエェェェエエエエー!?」

 そう言い受付の女性は、驚き仰け反る。

 「あーえっと……これは、本当なのでしょうか?」
 「あ、ええ……ですが師匠は行方不明らしくて」

 そう言いハルリアは、悲しい表情で俯いた。因みにこれは、流石に演技である。

 「なるほど……そうなのですね。分かりました……それが本当かどうかは、試験で分かりますので。それでは、受験用の腕章と書類をお渡しします。あと試験は明日ですので」

 そう言い受付の女性は、十九番の腕章と書類をハルリアにわたした。
 複雑な気持ちになりながらハルリアは、それらを受け取る。

 (これでいい……下手に隠しても、分かるヤツは……剣筋で気づく。なら、敢えて誤魔化すより……師匠として書いておいた方がいい。
 それにしても……19……いく……イク……か。まぁ悪くねぇ番号だな)

 そう思いながらハルリアは、ルミカ達の方へと向かい歩き出したのだった。