「今時綺麗な国の方が珍しいけどよ、こんなドロドロした国も珍しいよ」
特殊な価値観に加えて、黙認された男奴隷と男奴隷を競わせる貴族の遊びまである。
ウロダが世界の国々の内情に精通している人ではないけれどこんな国はそうそうあるものではないと断言してもよい。
他にも何人か乗せられているのでそれぞれ簡単な身の上話をしたり、自己紹介したりをする。
合法奴隷と違法奴隷が半々といった感じで残りの人はみな細い感じの人であった。
移動が続くがリュードたち奴隷は何もしない。
当然野営などの時間もあるわけだがそうした準備にも駆り出されることはない。
手伝おうとするとむしろ座っていろと怒られてしまう。
首輪にある効果は魔力を抑制し、魔法を使わせないだけであるので身体能力や意識に制限をかけられはしない。
抵抗する意志を持てることはもちろん首輪ではそれを止めることができない。
作業に参加させて何か武器になるものを隠し持たれたり、魔力が使えなくてもいいからと逃げられでもしたら嫌なので何もさせないのだ。
一生魔力を使えなくてもいいからと覚悟できる人は多くないと思うが万が一の可能性も警戒はしておく。
「何もしない……というのも暇だな」
リュードは首輪を触る。
何かの金属で出来た首輪は小さい鍵穴があるだけでなんの変哲もないように見える。
指を突っ込んで内側を触るとザラザラとした感触がある。
少しデコボコとしていて、よく触って確かめてみると内側に魔力を抑制する効果を発揮する魔法を刻んであるようだった。
壊せないものでもなさそうだとリュードは思う。
少しばかり無茶すれば首輪を破壊して魔力を取り戻すことができそうではある。
問題となるのは逃げるべきタイミングの方である。
リュードの格好は未だに上半身裸。
金も武器もない。
戦いにおいては魔力が戻れば魔法が使えるので最悪武器がなくても構わないが、上半身裸でお金がないとただのヤバいやつになってしまう。
この国で上半身裸の男がそこらをうろついていたら逮捕でもされてしまう。
他の国でもギリギリアウトになりかねない。
せめて体を隠せるものか服でも欲しい。
何というささやかな願いだろうか。
そしてもう1つは地理的な情報がないことが問題である。
普段も特別立ち寄る国内の地形を頭に叩き込むことはなく地図を見て移動しているのだが、トゥジュームは通り過ぎるだけのつもりだったので余計に地図の記憶が薄い。
ルフォンたちは今どうしているか。
多分探してくれていると思う。
ただ見つけることも楽なことではない。
とりあえず逃げたところでルフォンたちとは合流することも難しい。
今いる場所も分からなければ地形に関してはかなり記憶がおぼろげで、どこに逃げるかも分からなければルフォンたちの居場所も分からない。
逃げられないのではなく、逃げた後の計画を立てられないから逃げない。
「ルフォン……ラスト……」
ルフォンたちのことを考えると寂しさや懐かしさを感じる。
ルフォンの作ってくれる温かい料理がまた食べたい。
奴隷に出されるのはウバとウバの連れた私兵が食べ終わった後の残りになる。
食事を出してもらえるだけありがたいのだけど具もないスープでは口寂しさも感じてしまう。
「食事出るだけでもありがたいと思わなきゃな……」
わびしく奴隷で身を寄せ合って食事を食べる。
奴隷は全部で五人。
本当は六人いたけれど筋肉奴隷がリタイアしたまま帰ってこなかったのでこのまま五人でいくのだろう。
リュード、トーイ、ウロダの他の奴隷の一人は合法奴隷で低ランクの冒険者だった人、もう一人は人攫いに攫われた奴隷でどこかで使用人をしていた人らしい。
正直なところ動けそうな人はウロダぐらいだとリュードは思う。
奴隷で蜂起して兵士たちを制圧することはほとんど無理である。
奴隷がそんなことをして失敗すれば次はない。
筋肉奴隷がどうなったのか末路は知らないが自由放免とはいかないだろう。
無理に行動を起こす時ではない。
何もしなくていいなら楽だし大人しく従っておく。
でも分かりやすく無遠慮に監視をされていては気が休まらないなとリュードはスープを一気に飲み干した。
何もしない、何もさせてもらえないまま、馬車に揺られること数日が経った。
何もすることがないので話題すらもなくなり無言でみな方々をただ見つめる。
「これは……よくないな」
古びた看板が窓から見えた。
マヤノブッカと書かれた看板に都市の名前が見えて、ため息混じりにつぶやいた。
この都市の名前はリュードも知っていた。
行きたいところを地図上でピックアップするのと同様に行きたくないところ、避けるべきところもピックアップをする。
マヤノブッカは行きたくないところ、あるいは避けるべきところとしてリュードはピックアップしていた。
どうしてマヤノブッカが避けるべきところであるのかというとマヤノブッカという都市は治安が最悪なのである。
マヤノブッカは緩衝地帯に存在する都市であった。
複数国の間に存在していて明確な支配者が存在せずにどの国にも属さない無法地帯となっている。
どの国からもアクセスがしやすく、攻めやすくて守りにくい地形でありながら便利な位置にあるために戦争のたびに支配者が変わった。
結局マヤノブッカはどの国でも簡単に手を出せてしまうために手を出せなくなってしまったのである。
特殊な価値観に加えて、黙認された男奴隷と男奴隷を競わせる貴族の遊びまである。
ウロダが世界の国々の内情に精通している人ではないけれどこんな国はそうそうあるものではないと断言してもよい。
他にも何人か乗せられているのでそれぞれ簡単な身の上話をしたり、自己紹介したりをする。
合法奴隷と違法奴隷が半々といった感じで残りの人はみな細い感じの人であった。
移動が続くがリュードたち奴隷は何もしない。
当然野営などの時間もあるわけだがそうした準備にも駆り出されることはない。
手伝おうとするとむしろ座っていろと怒られてしまう。
首輪にある効果は魔力を抑制し、魔法を使わせないだけであるので身体能力や意識に制限をかけられはしない。
抵抗する意志を持てることはもちろん首輪ではそれを止めることができない。
作業に参加させて何か武器になるものを隠し持たれたり、魔力が使えなくてもいいからと逃げられでもしたら嫌なので何もさせないのだ。
一生魔力を使えなくてもいいからと覚悟できる人は多くないと思うが万が一の可能性も警戒はしておく。
「何もしない……というのも暇だな」
リュードは首輪を触る。
何かの金属で出来た首輪は小さい鍵穴があるだけでなんの変哲もないように見える。
指を突っ込んで内側を触るとザラザラとした感触がある。
少しデコボコとしていて、よく触って確かめてみると内側に魔力を抑制する効果を発揮する魔法を刻んであるようだった。
壊せないものでもなさそうだとリュードは思う。
少しばかり無茶すれば首輪を破壊して魔力を取り戻すことができそうではある。
問題となるのは逃げるべきタイミングの方である。
リュードの格好は未だに上半身裸。
金も武器もない。
戦いにおいては魔力が戻れば魔法が使えるので最悪武器がなくても構わないが、上半身裸でお金がないとただのヤバいやつになってしまう。
この国で上半身裸の男がそこらをうろついていたら逮捕でもされてしまう。
他の国でもギリギリアウトになりかねない。
せめて体を隠せるものか服でも欲しい。
何というささやかな願いだろうか。
そしてもう1つは地理的な情報がないことが問題である。
普段も特別立ち寄る国内の地形を頭に叩き込むことはなく地図を見て移動しているのだが、トゥジュームは通り過ぎるだけのつもりだったので余計に地図の記憶が薄い。
ルフォンたちは今どうしているか。
多分探してくれていると思う。
ただ見つけることも楽なことではない。
とりあえず逃げたところでルフォンたちとは合流することも難しい。
今いる場所も分からなければ地形に関してはかなり記憶がおぼろげで、どこに逃げるかも分からなければルフォンたちの居場所も分からない。
逃げられないのではなく、逃げた後の計画を立てられないから逃げない。
「ルフォン……ラスト……」
ルフォンたちのことを考えると寂しさや懐かしさを感じる。
ルフォンの作ってくれる温かい料理がまた食べたい。
奴隷に出されるのはウバとウバの連れた私兵が食べ終わった後の残りになる。
食事を出してもらえるだけありがたいのだけど具もないスープでは口寂しさも感じてしまう。
「食事出るだけでもありがたいと思わなきゃな……」
わびしく奴隷で身を寄せ合って食事を食べる。
奴隷は全部で五人。
本当は六人いたけれど筋肉奴隷がリタイアしたまま帰ってこなかったのでこのまま五人でいくのだろう。
リュード、トーイ、ウロダの他の奴隷の一人は合法奴隷で低ランクの冒険者だった人、もう一人は人攫いに攫われた奴隷でどこかで使用人をしていた人らしい。
正直なところ動けそうな人はウロダぐらいだとリュードは思う。
奴隷で蜂起して兵士たちを制圧することはほとんど無理である。
奴隷がそんなことをして失敗すれば次はない。
筋肉奴隷がどうなったのか末路は知らないが自由放免とはいかないだろう。
無理に行動を起こす時ではない。
何もしなくていいなら楽だし大人しく従っておく。
でも分かりやすく無遠慮に監視をされていては気が休まらないなとリュードはスープを一気に飲み干した。
何もしない、何もさせてもらえないまま、馬車に揺られること数日が経った。
何もすることがないので話題すらもなくなり無言でみな方々をただ見つめる。
「これは……よくないな」
古びた看板が窓から見えた。
マヤノブッカと書かれた看板に都市の名前が見えて、ため息混じりにつぶやいた。
この都市の名前はリュードも知っていた。
行きたいところを地図上でピックアップするのと同様に行きたくないところ、避けるべきところもピックアップをする。
マヤノブッカは行きたくないところ、あるいは避けるべきところとしてリュードはピックアップしていた。
どうしてマヤノブッカが避けるべきところであるのかというとマヤノブッカという都市は治安が最悪なのである。
マヤノブッカは緩衝地帯に存在する都市であった。
複数国の間に存在していて明確な支配者が存在せずにどの国にも属さない無法地帯となっている。
どの国からもアクセスがしやすく、攻めやすくて守りにくい地形でありながら便利な位置にあるために戦争のたびに支配者が変わった。
結局マヤノブッカはどの国でも簡単に手を出せてしまうために手を出せなくなってしまったのである。