守り抜いて、そして最後までドワガルは落ちることがなかった。
しかし国は守れても多くの者が亡くなった。
深い悲しみと真人族への恨みはドワーフを鎖国へと導いた。
魔人族へは直接の恨みなくても戦争は真人族と魔人族の間に起きたものであったので、そうした側面から魔人族への恨みもあった。
長い時間をかけてもドワーフは他種族への不信感を忘れず、真人族への強い恨みはいつしか他の種族全体への不信感になって残った。
つまるところ、黒重鉄を扱えるような職人がドワーフにはいるかもしれないけれど、ドワーフに武器を直してほしいとお願いしても聞き入れてはくれないという話なのだ。
「普通の人ならドワガルに入ることすらできないだろうな。だが我々は違う」
ヴァンはニヤリと笑う。
「血人族はドワーフと交流があるのだ」
血人族は奴隷とされていた他の種族を助けて吸収することで自由と国を勝ち取りティアローザを興した。
奴隷とされていた者の中には少なからずドワーフもいたのである。
真魔大戦が終わり、戦争の影響が落ち着く中でティアローザはわざわざ護衛をつけてドワーフをドワガルに返しまでした。
恨みは忘れない。
けれど受けた恩も忘れない。
ティアローザはドワガルにとって数少ない友好国であったのである。
ヴィッツから黒重鉄なる金属のことを聞いた時ヴァンはすぐにドワーフのことを思いついた。
ドワーフに紹介してほしいとせがんでくる輩は大勢いる。
武器だろうが防具だろうがドワーフ製のものは今や手の届かない貴重なもので誰しもが憧れを持つ。
「我々の紹介なら武器の修繕くらいの融通はきかせてくれるはずだ。自分の足で行ってもらう必要はあるがな。どうだ、これはお礼になるかな?」
「もちろんです!」
ドワーフが存在していることは知っていたので一度会ってみたいとは思っていた。
同時にドワーフたちがどのような態度で他種族を見ているかも知っていたので会うことも厳しいと分かっていた。
このような形でのお礼になるとはリュードも予想しなかったが悪くない話である。
「どう思う、ルフォン」
「うーんとね、私はいい包丁が欲しいかな?」
「賛成みたいだな」
質問の答えとしては一歩先を行き過ぎている。
ルフォンはドワーフの国に行くことを前提にして答えてリュードは思わず笑ってしまう。
以前どこかでドワーフが作った包丁は切れ味の高さとそれが衰えないことで有名だと聞いた。
今の包丁も悪くないけどより良いものがあると聞いたら欲しくなってしまうのは当然のことだ。
「どこにしてもリューちゃんが行くところが私の行くところだからね!」
「分かったよ。でもルフォンの行きたくないところは俺の行きたくないところでもあることは覚えといてくれよ?」
「うん、もちろん!」
自分のことを考えてくれるリュードにルフォンも笑顔になる。
「話はまとまりました。是非ともドワーフにご紹介していただければと思います」
次はどこに行こうか悩んでいたところだ。
これで目的地もできるしちょうどいい。
「そうかそうか。お礼と言っておいてなんだが一つお願いがあるのだ」
「お願いですか? 俺たちにできることなら手伝いますけど……」
お礼としてドワーフのことを紹介するのにそこに加えてお願いするのは不躾なことである。
だがドワーフのところに行くのならとお願いしてみることにした。
「…………」
「……ええと?」
とりあえず聞いてみるだけ聞いてみようとリュードは聞く体勢なのだが、ヴァンはスッと目をつぶって言葉を発さない。
「お願いとは、ラストを一緒に連れて行ってやってくれないかということだ」
「お父様!?」
呼び出されたはいいけど蚊帳の外にいたラストが予想外の言葉に驚いた。
ラストはきっと二人に対する用事が終わったら次に話があるのだと思って寂しそうにリュードとルフォンを見ていた。
話を聞けば聞くほどお別れの時であると寂しさとか悲しさが心を占めて、重たい気分になっていた。
ところがいきなり名前を出されて慌てた。
しかもその内容が内容なだけにポカンとした顔でヴァンのことを見つめている。
「ドワーフたちは警戒心が強いからな。紹介状だけではお礼を果たせるか、どうにも不安でな。血人族の王の娘が来たとあればドワーフでも雑に扱えはしない」
「……それだけではない、ですよね?」
ヴァンの口にした理由が取ってつけたように感じられるのはリュードだけでない。
名前を出されたラストも納得がいっていない顔をしている。
王の娘が来たならドワーフも丁寧な対応をするだろうが、そこまでする理由はなくちゃんとした使者を同行させるのでもよいだろう。
「やはりこれでは納得してくれんか?」
「俺はそれでも構いませんが……」
リュードがラストを見る。
別に嫌ではないのだけどそんな理由で、とは思わざるを得ない複雑な顔をしているラスト。
行かされる本人が納得していない。
「……私は間違っていた。ここで色々なことを学び、大領主として実際の経営も学ぶことによってそれで十分であると考えてきた。けれど今回の事件で思ったのだ。
世の中は広く、思い通りにならないことの方が多い。それでも時には突き進んでいくことは大事であるし、その気概を持つことが大切なのである。そのためには世界をもっと広い視野で見る必要がある」
ゆっくりと息を吐き出したヴァンは本音を語る。
しかし国は守れても多くの者が亡くなった。
深い悲しみと真人族への恨みはドワーフを鎖国へと導いた。
魔人族へは直接の恨みなくても戦争は真人族と魔人族の間に起きたものであったので、そうした側面から魔人族への恨みもあった。
長い時間をかけてもドワーフは他種族への不信感を忘れず、真人族への強い恨みはいつしか他の種族全体への不信感になって残った。
つまるところ、黒重鉄を扱えるような職人がドワーフにはいるかもしれないけれど、ドワーフに武器を直してほしいとお願いしても聞き入れてはくれないという話なのだ。
「普通の人ならドワガルに入ることすらできないだろうな。だが我々は違う」
ヴァンはニヤリと笑う。
「血人族はドワーフと交流があるのだ」
血人族は奴隷とされていた他の種族を助けて吸収することで自由と国を勝ち取りティアローザを興した。
奴隷とされていた者の中には少なからずドワーフもいたのである。
真魔大戦が終わり、戦争の影響が落ち着く中でティアローザはわざわざ護衛をつけてドワーフをドワガルに返しまでした。
恨みは忘れない。
けれど受けた恩も忘れない。
ティアローザはドワガルにとって数少ない友好国であったのである。
ヴィッツから黒重鉄なる金属のことを聞いた時ヴァンはすぐにドワーフのことを思いついた。
ドワーフに紹介してほしいとせがんでくる輩は大勢いる。
武器だろうが防具だろうがドワーフ製のものは今や手の届かない貴重なもので誰しもが憧れを持つ。
「我々の紹介なら武器の修繕くらいの融通はきかせてくれるはずだ。自分の足で行ってもらう必要はあるがな。どうだ、これはお礼になるかな?」
「もちろんです!」
ドワーフが存在していることは知っていたので一度会ってみたいとは思っていた。
同時にドワーフたちがどのような態度で他種族を見ているかも知っていたので会うことも厳しいと分かっていた。
このような形でのお礼になるとはリュードも予想しなかったが悪くない話である。
「どう思う、ルフォン」
「うーんとね、私はいい包丁が欲しいかな?」
「賛成みたいだな」
質問の答えとしては一歩先を行き過ぎている。
ルフォンはドワーフの国に行くことを前提にして答えてリュードは思わず笑ってしまう。
以前どこかでドワーフが作った包丁は切れ味の高さとそれが衰えないことで有名だと聞いた。
今の包丁も悪くないけどより良いものがあると聞いたら欲しくなってしまうのは当然のことだ。
「どこにしてもリューちゃんが行くところが私の行くところだからね!」
「分かったよ。でもルフォンの行きたくないところは俺の行きたくないところでもあることは覚えといてくれよ?」
「うん、もちろん!」
自分のことを考えてくれるリュードにルフォンも笑顔になる。
「話はまとまりました。是非ともドワーフにご紹介していただければと思います」
次はどこに行こうか悩んでいたところだ。
これで目的地もできるしちょうどいい。
「そうかそうか。お礼と言っておいてなんだが一つお願いがあるのだ」
「お願いですか? 俺たちにできることなら手伝いますけど……」
お礼としてドワーフのことを紹介するのにそこに加えてお願いするのは不躾なことである。
だがドワーフのところに行くのならとお願いしてみることにした。
「…………」
「……ええと?」
とりあえず聞いてみるだけ聞いてみようとリュードは聞く体勢なのだが、ヴァンはスッと目をつぶって言葉を発さない。
「お願いとは、ラストを一緒に連れて行ってやってくれないかということだ」
「お父様!?」
呼び出されたはいいけど蚊帳の外にいたラストが予想外の言葉に驚いた。
ラストはきっと二人に対する用事が終わったら次に話があるのだと思って寂しそうにリュードとルフォンを見ていた。
話を聞けば聞くほどお別れの時であると寂しさとか悲しさが心を占めて、重たい気分になっていた。
ところがいきなり名前を出されて慌てた。
しかもその内容が内容なだけにポカンとした顔でヴァンのことを見つめている。
「ドワーフたちは警戒心が強いからな。紹介状だけではお礼を果たせるか、どうにも不安でな。血人族の王の娘が来たとあればドワーフでも雑に扱えはしない」
「……それだけではない、ですよね?」
ヴァンの口にした理由が取ってつけたように感じられるのはリュードだけでない。
名前を出されたラストも納得がいっていない顔をしている。
王の娘が来たならドワーフも丁寧な対応をするだろうが、そこまでする理由はなくちゃんとした使者を同行させるのでもよいだろう。
「やはりこれでは納得してくれんか?」
「俺はそれでも構いませんが……」
リュードがラストを見る。
別に嫌ではないのだけどそんな理由で、とは思わざるを得ない複雑な顔をしているラスト。
行かされる本人が納得していない。
「……私は間違っていた。ここで色々なことを学び、大領主として実際の経営も学ぶことによってそれで十分であると考えてきた。けれど今回の事件で思ったのだ。
世の中は広く、思い通りにならないことの方が多い。それでも時には突き進んでいくことは大事であるし、その気概を持つことが大切なのである。そのためには世界をもっと広い視野で見る必要がある」
ゆっくりと息を吐き出したヴァンは本音を語る。