「終わりだよ」
クモが怯んだ隙にルフォンは後ろに回り込んでいた。
ナイフをクモの腹に突き立てると一気に引いて、大きく切り裂く。
緑色の血が飛び散ってルフォンの頬にかかるが構わずナイフをしっかりと引ききった。
「流石でございます」
最後の最後まで油断は禁物。
瀕死の状態であるがまだクモは死んでいない。
ヴィッツは炎をまとう剣を大きく振り上げると一息にクモを真っ二つに両断した。
「ひぃぃ……アイツら何者だよ……」
これまでクモを怒らせないようにしてきた山賊のリーダーはひたすらに怯えていた。
勝てない相手、勝てても被害が大きそうだから手を出してこなかったのにルフォンとヴィッツは2人で簡単にクモを倒してしまった。
あれなら洞窟の中でも良かったのではないかと思うけれど、溶解液がイェミェンに落ちれば狭い洞窟の中では毒が発生するかもしれなかったので結果的にも外に出て正解だった。
山賊のリーダーは機会を伺って逃げようと思っていたのにそんな時間も隙もなかった。
あんな相手に戦いを挑んでいたのだと思うと背筋が冷たくなる。
敵わないのも当然だと己の愚かさを痛感する。
「さてと話の続きとまいりましょうか」
クモの死体も持っていけば冒険者ギルドで買い取ってくれそうだけど今はそんなことしていられない。
クモの魔石だけを取ってヴィッツが死体を燃やして山賊のリーダーに向き直る。
「お、俺の命を助けてくださいますか?」
山賊のリーダーはもはや抵抗は無駄だと悟り、地面に平伏する。
「正直に話せば考えましょう」
「こ、ここを管理しているのは大領主だ! 俺たちはたまたまここを見つけて、毒草だなんて知らなかったんだが大領主がここを管理するなら犯罪行為は見逃してやるって……」
「大領主とはサキュロプジャン様のことですか?」
「そ、そうだ!」
予想通りすぎて何の感想も浮かんでこないとヴィッツは小さくため息を漏らした。
ここら一帯はダンジョンが近い。
ということはちゃんと領主が管理している可能性が高い。
なのに山賊がいて、毒草を育てているなんておかしな話であると分かっていた。
こんなお粗末な山賊がバレずに活動できるはずがない。
ましてイェミェンのような特殊な毒草を育てているなんて話はまずあり得ない。
そうなると何かしらの後ろ盾があることは簡単に推測できた。
こんなことをできる後ろ盾も限られているので導き出せる答えとしてはここを管理している領主であるプジャンが関わっていることである。
「こんなことになっちまったことがバレたら俺も消される。お前らの目的はあの毒草なんだろ? じゃあもう目的は果たされたんだから俺もずらかってもいいよな?」
「好きになさい。もう2度とこんなことしないのがあなたの身のためですよ」
「あ、ありがてぇ! 足を洗って真っ当に生きることにするよ!」
本当に足を洗うなんてこと信じられたものではない。
けれども今はこの山賊のリーダーを連れて行って突き出す時間がないから逃すのである。
ぺこぺこと頭を下げて山賊のリーダーは逃げていく。
ギリギリまで切り捨てるか迷ったけれど案内もしてくれたし一度だけチャンスを与えることにした。
「もっと山の中を駆けずり回ることになるかと思いましたが早めに用が済みましたね」
「見つかってよかったね」
「量は確保しましたし……」
ヴィッツは洞窟の入り口から火の魔法を中に放つ。
イェミェンに火がついて燃え広がっていく。
「プジャン様が関わっているならあまり良いことでもないでしょうからそのままにはしておけません。煙を吸い込んでは危険なので行きましょうか」
「これで薬の材料は揃いそう?」
「あとはすぐに使わなければいけないものを除いて準備はできております。すぐに使わねばいけないものも入手は難しくないので揃ったも同然でございます」
「やった! これでクゼナちゃんを助けられるね!」
「……ありがとうございます」
「なにが?」
「領主様やクゼナ様を助けようとしてくださいましてでございます」
「友達だからね」
「言うほど友達だからで他人を救おうとしてくれる人はいないものなのですよ」
「でもいるにはいるでしょ? 私とリューちゃんはね、友達なら全力で助けるの!」
「そのようには存じております。けれどやはりそうであってもありがたいことはありがたいのです。この私に出来ることはルフォン様に感謝致すことぐらいですので、言わせてください。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
ヴィッツはこれまで神に祈ったことが一度もない。
血人族の神にもその他大勢の神のどれにもである。
祈ったり、あるいは感謝を捧げることで何かが変わることなんてないのだと思っていた。
けれどもルフォンやリュードとの出会いはまさしく神の導きであるとヴィッツにも思えた。
2人にも感謝をするのだけれどラストに良い出会いをもたらしてくれたことは幸運とだけで片付けるにはあまりにも運が良すぎる。
初めてヴィッツもラストが熱心に祈っていた血人族の神様に感謝をしたのであった。
クモが怯んだ隙にルフォンは後ろに回り込んでいた。
ナイフをクモの腹に突き立てると一気に引いて、大きく切り裂く。
緑色の血が飛び散ってルフォンの頬にかかるが構わずナイフをしっかりと引ききった。
「流石でございます」
最後の最後まで油断は禁物。
瀕死の状態であるがまだクモは死んでいない。
ヴィッツは炎をまとう剣を大きく振り上げると一息にクモを真っ二つに両断した。
「ひぃぃ……アイツら何者だよ……」
これまでクモを怒らせないようにしてきた山賊のリーダーはひたすらに怯えていた。
勝てない相手、勝てても被害が大きそうだから手を出してこなかったのにルフォンとヴィッツは2人で簡単にクモを倒してしまった。
あれなら洞窟の中でも良かったのではないかと思うけれど、溶解液がイェミェンに落ちれば狭い洞窟の中では毒が発生するかもしれなかったので結果的にも外に出て正解だった。
山賊のリーダーは機会を伺って逃げようと思っていたのにそんな時間も隙もなかった。
あんな相手に戦いを挑んでいたのだと思うと背筋が冷たくなる。
敵わないのも当然だと己の愚かさを痛感する。
「さてと話の続きとまいりましょうか」
クモの死体も持っていけば冒険者ギルドで買い取ってくれそうだけど今はそんなことしていられない。
クモの魔石だけを取ってヴィッツが死体を燃やして山賊のリーダーに向き直る。
「お、俺の命を助けてくださいますか?」
山賊のリーダーはもはや抵抗は無駄だと悟り、地面に平伏する。
「正直に話せば考えましょう」
「こ、ここを管理しているのは大領主だ! 俺たちはたまたまここを見つけて、毒草だなんて知らなかったんだが大領主がここを管理するなら犯罪行為は見逃してやるって……」
「大領主とはサキュロプジャン様のことですか?」
「そ、そうだ!」
予想通りすぎて何の感想も浮かんでこないとヴィッツは小さくため息を漏らした。
ここら一帯はダンジョンが近い。
ということはちゃんと領主が管理している可能性が高い。
なのに山賊がいて、毒草を育てているなんておかしな話であると分かっていた。
こんなお粗末な山賊がバレずに活動できるはずがない。
ましてイェミェンのような特殊な毒草を育てているなんて話はまずあり得ない。
そうなると何かしらの後ろ盾があることは簡単に推測できた。
こんなことをできる後ろ盾も限られているので導き出せる答えとしてはここを管理している領主であるプジャンが関わっていることである。
「こんなことになっちまったことがバレたら俺も消される。お前らの目的はあの毒草なんだろ? じゃあもう目的は果たされたんだから俺もずらかってもいいよな?」
「好きになさい。もう2度とこんなことしないのがあなたの身のためですよ」
「あ、ありがてぇ! 足を洗って真っ当に生きることにするよ!」
本当に足を洗うなんてこと信じられたものではない。
けれども今はこの山賊のリーダーを連れて行って突き出す時間がないから逃すのである。
ぺこぺこと頭を下げて山賊のリーダーは逃げていく。
ギリギリまで切り捨てるか迷ったけれど案内もしてくれたし一度だけチャンスを与えることにした。
「もっと山の中を駆けずり回ることになるかと思いましたが早めに用が済みましたね」
「見つかってよかったね」
「量は確保しましたし……」
ヴィッツは洞窟の入り口から火の魔法を中に放つ。
イェミェンに火がついて燃え広がっていく。
「プジャン様が関わっているならあまり良いことでもないでしょうからそのままにはしておけません。煙を吸い込んでは危険なので行きましょうか」
「これで薬の材料は揃いそう?」
「あとはすぐに使わなければいけないものを除いて準備はできております。すぐに使わねばいけないものも入手は難しくないので揃ったも同然でございます」
「やった! これでクゼナちゃんを助けられるね!」
「……ありがとうございます」
「なにが?」
「領主様やクゼナ様を助けようとしてくださいましてでございます」
「友達だからね」
「言うほど友達だからで他人を救おうとしてくれる人はいないものなのですよ」
「でもいるにはいるでしょ? 私とリューちゃんはね、友達なら全力で助けるの!」
「そのようには存じております。けれどやはりそうであってもありがたいことはありがたいのです。この私に出来ることはルフォン様に感謝致すことぐらいですので、言わせてください。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
ヴィッツはこれまで神に祈ったことが一度もない。
血人族の神にもその他大勢の神のどれにもである。
祈ったり、あるいは感謝を捧げることで何かが変わることなんてないのだと思っていた。
けれどもルフォンやリュードとの出会いはまさしく神の導きであるとヴィッツにも思えた。
2人にも感謝をするのだけれどラストに良い出会いをもたらしてくれたことは幸運とだけで片付けるにはあまりにも運が良すぎる。
初めてヴィッツもラストが熱心に祈っていた血人族の神様に感謝をしたのであった。