「でも俺たちにできることなんてないだろう。なるようにしかならないんだからそんな思い詰めた顔するなよ」
いくら警戒しても事前に相手の動きを知ることはできない。
起こった出来事に対処していくしかリュードたちに方法はないのである。
やるならさっさと手を出して諦めてくれた方が楽になるぐらいにリュードは考えていた。
「そうだけど…………」
ただラストはプジャンが卑怯な手を考える人物であると知っているだけに不安は拭えない。
「話は変わるけどさ、1つ聞いていいか?」
「なに?」
空気が重たくなったので話題を変えてみる。
プジャン云々はまだラストの領地にいるし心配しすぎてもしょうがない。
「ラストは先祖返りって言ってたよな? その、なんかそれが分かる特徴とかあるのか?」
リュードは自分とルフォン以外の先祖返りを知らない。
今のところリュードもルフォンも先祖返りの影響で魔人化した姿の特徴が残ってしまっている。
血人族のことはリュードも良く知らない。
竜人族や人狼族のように魔人化した姿があるのかも知らないのである。
もし魔人化した姿があって、先祖返りの影響があるならそうした特徴があるのかどうか気になったのである。
血人族って言うし魔人化した姿が血が吸いやすくなるように犬歯がニョキッと伸びるとかだったら可愛いなとか思ったり、なんの特徴や兆候もなく先祖返りがあるのかとか本には載ってないので聞けるなら聞きたい。
「えっと、それは……」
ラストがチラリとヴィッツを見る。
「領主様がよろしいのでしたらお教えしてもよろしいと思いますよ」
先祖返りであることをリュードたちに打ち明けはしたけれど、一応他には隠している話となる。
先祖返りかどうか判断できてしまうことを教えてもいいものかラストは迷った。
ダメそうならヴィッツが止めたり咎めるはずだけどむしろ好きに話して良いとお墨付きをもらった。
「うん、血人族は魔人化しても全く別の姿になることはないんだ。でも魔人化はあって、私たち血人族は翼が生えてくるの」
「翼?」
「天使とかそんな綺麗なものじゃないだけどね。それで私なんだけど、先祖返りのせいなのか魔人化しなくても背中にちっさい翼があるんだ」
秘密だから、そして少しだけ恥ずかしいからと声をひそめてラストは秘密を打ち明けた。
「は、恥ずかしいから見せらんないけど、こう背中にちょこんってあるんだ」
ラストの耳がみるみると赤くなっていく。
人に言ったことのない秘密を打ち明けることがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。
血人族はつまりは吸血鬼的なものである。
吸血鬼的な翼のイメージといったらコウモリ的な翼。
そのコウモリ的な翼の小さいのが背中に生えている。
想像してみると可愛いかもしれない。
「……リューちゃんのエッチ」
「えっ!?」
想像したとしても背中だし、可愛らしいと思っただけ。
ジトっとした目でルフォンが想像を膨らませていたリュードを見ていた。
確かに想像はしたけどとちょっと焦る。
でも言われてみれば背中に翼が生えた想像をするということは一瞬でも上半身が裸の想像をしたということになる。
エッチと言われたらエッチなのかもしれない。
「それはそれはキュートな翼でございますぞ」
「じ、じい!」
「ほっほ、小さい頃なんて『ほら見て! ほら!』と小さい翼を動かして私に見せてくださったものです」
「いつの話してるの!」
ヴィッツが穏やかな笑みを浮かべてラストの恥ずかしい話を披露して怪しくなりかけた空気を変えてくれた。
ラストは恥ずかしそうだけどほっこりエピソードでいいものである。
ルフォンも想像したのかクスクスと笑い、エッチ疑惑は消えてしまった。
リュードは一瞬ヴィッツと目があったような気がした。
「そ、そういえばリュードはなんの魔人族なの?」
話題を変えようとラストが切り出す。
ラストは前々から気になっていた。
角が生えた魔人族は存在する。
しかしリュードのような角の生え方をした魔人族は聞いたことがなかった。
魔人族と言っても幅広く色々な人が存在するのでラストも全てを把握しているわけではない。
いつか聞こうと思っていた質問を勢いでぶつけてみた。
「私も気になっておりました」
「そういえば言ってなかったな」
人生経験がラストよりもはるかに豊富なヴィッツでさえもリュードの種族が分からないでいた。
常に角があるので獣人族の1種族かと思ったけど、当てはまるような種族もない。
それに身体能力は高くても魔力は強くないことが多い獣人族にしては魔力も強い。
なんの種族だろうともう信頼は置いているが気になるものは気になるのだ。
「俺たちはそんなにひた隠しにするほどのことじゃないけど吹聴して回るつもりもないからな。言っていいか、ルフォン?」
「もっちろん。私はむしろ知ってもらいたいかな」
ルフォンはきっと獣人族だと思われていると分かっていた。
だから獣人族ではないことを知ってもらいたい気持ちがあった。
「そっか、じゃあ。俺の種族は竜人族だ。そしてルフォンが」
「人狼族だよ」
「竜人族と人狼族……? でも…………」
「これだろ?」
リュードが頭の角を軽く触る。
リュードの頭には立派な角がある。
意外と滑らかな表面をした角は撫でると気持ちがいい。
ラストもヴィッツも竜人族や人狼族という種族のことは知っていた。
詳しくはないけれど人の姿をしている時に角やケモミミがあるイメージがなくてラストは困惑した。
「そうだな……そっちが秘密を明かしてくれたし、俺たちも秘密を教えるよ」
ちょっとだけもったいぶってみる。
話の流れとリュードの能力からヴィッツは秘密がなんなのかすでに予想していた。
けれどラストはまだ秘密がなんなのか分からず秘密の教え合いってなんだかすごい友達みたいだ、なんて考えていた。
ラストはドキドキした表情でリュードの言葉を待つ。
リュードが体を前屈みに倒すとラストも体をリュードに近づけて言葉を聞き漏らすまいとする。
「俺たちも先祖返りだ」
少しだけ声のボリュームを下げて、秘密っぽくラストに教えてやる。
「えええー!」
打てば響くリアクション。
ありがたい限りだ。
でも同年代、同時代、同じ場所に別々の種族の3人の先祖返りが集まっている。
あっさりとラストには教えてしまったけれど実はとてもすごいことなのではないかと今更思えてきた。
体を変化させる魔人化のできる種族の先祖返りはその魔人化の特徴の一部が体に出てしまう。
リュードが以前から考えていた仮説がより現実味を帯びてきた。
「だから俺は角が、ルフォンはケモミミや尻尾があるんだよ」
リュードがポンとルフォンの頭に手を乗せて撫でてやるとルフォンは嬉しそうに尻尾を振っている。
「は、はぇー……なんだかスゴいね」
ビックリしすぎて言葉を失うラスト。
「先祖返りのお二人とは、またすごい方をお味方にしましたな」
「ふふ、ラストちゃん変な顔ー」
「だ、だって2人も先祖返りってそんなことある!?」
「ふふん、あるだなーこれが」
「そーだけどさ!」
ラストは運がいい。
見舞われた境遇だけ見ると不幸なのであるが、これまでそれを上手く乗り越えてきた。
これまてまどんな時でも明るく努力を重ねてきた。
兄姉の嫌がらせにもめげずに立ち向かって、ダメになりそうな時はどこからか救いの手が差し伸べられる。
それだけでなく乗り越えた暁にはラストはちゃんと利益も手に入れてきた。
死にそうな目にあった時もそれをなんとか乗り越えて、結果として大領主になったのである。
できれば大きな幸運はもういいので、幸せが小さくとも穏やかな人生がラストに訪れればいいのにとルフォンと笑い合うラストを見てヴィッツは思っていた。
いくら警戒しても事前に相手の動きを知ることはできない。
起こった出来事に対処していくしかリュードたちに方法はないのである。
やるならさっさと手を出して諦めてくれた方が楽になるぐらいにリュードは考えていた。
「そうだけど…………」
ただラストはプジャンが卑怯な手を考える人物であると知っているだけに不安は拭えない。
「話は変わるけどさ、1つ聞いていいか?」
「なに?」
空気が重たくなったので話題を変えてみる。
プジャン云々はまだラストの領地にいるし心配しすぎてもしょうがない。
「ラストは先祖返りって言ってたよな? その、なんかそれが分かる特徴とかあるのか?」
リュードは自分とルフォン以外の先祖返りを知らない。
今のところリュードもルフォンも先祖返りの影響で魔人化した姿の特徴が残ってしまっている。
血人族のことはリュードも良く知らない。
竜人族や人狼族のように魔人化した姿があるのかも知らないのである。
もし魔人化した姿があって、先祖返りの影響があるならそうした特徴があるのかどうか気になったのである。
血人族って言うし魔人化した姿が血が吸いやすくなるように犬歯がニョキッと伸びるとかだったら可愛いなとか思ったり、なんの特徴や兆候もなく先祖返りがあるのかとか本には載ってないので聞けるなら聞きたい。
「えっと、それは……」
ラストがチラリとヴィッツを見る。
「領主様がよろしいのでしたらお教えしてもよろしいと思いますよ」
先祖返りであることをリュードたちに打ち明けはしたけれど、一応他には隠している話となる。
先祖返りかどうか判断できてしまうことを教えてもいいものかラストは迷った。
ダメそうならヴィッツが止めたり咎めるはずだけどむしろ好きに話して良いとお墨付きをもらった。
「うん、血人族は魔人化しても全く別の姿になることはないんだ。でも魔人化はあって、私たち血人族は翼が生えてくるの」
「翼?」
「天使とかそんな綺麗なものじゃないだけどね。それで私なんだけど、先祖返りのせいなのか魔人化しなくても背中にちっさい翼があるんだ」
秘密だから、そして少しだけ恥ずかしいからと声をひそめてラストは秘密を打ち明けた。
「は、恥ずかしいから見せらんないけど、こう背中にちょこんってあるんだ」
ラストの耳がみるみると赤くなっていく。
人に言ったことのない秘密を打ち明けることがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。
血人族はつまりは吸血鬼的なものである。
吸血鬼的な翼のイメージといったらコウモリ的な翼。
そのコウモリ的な翼の小さいのが背中に生えている。
想像してみると可愛いかもしれない。
「……リューちゃんのエッチ」
「えっ!?」
想像したとしても背中だし、可愛らしいと思っただけ。
ジトっとした目でルフォンが想像を膨らませていたリュードを見ていた。
確かに想像はしたけどとちょっと焦る。
でも言われてみれば背中に翼が生えた想像をするということは一瞬でも上半身が裸の想像をしたということになる。
エッチと言われたらエッチなのかもしれない。
「それはそれはキュートな翼でございますぞ」
「じ、じい!」
「ほっほ、小さい頃なんて『ほら見て! ほら!』と小さい翼を動かして私に見せてくださったものです」
「いつの話してるの!」
ヴィッツが穏やかな笑みを浮かべてラストの恥ずかしい話を披露して怪しくなりかけた空気を変えてくれた。
ラストは恥ずかしそうだけどほっこりエピソードでいいものである。
ルフォンも想像したのかクスクスと笑い、エッチ疑惑は消えてしまった。
リュードは一瞬ヴィッツと目があったような気がした。
「そ、そういえばリュードはなんの魔人族なの?」
話題を変えようとラストが切り出す。
ラストは前々から気になっていた。
角が生えた魔人族は存在する。
しかしリュードのような角の生え方をした魔人族は聞いたことがなかった。
魔人族と言っても幅広く色々な人が存在するのでラストも全てを把握しているわけではない。
いつか聞こうと思っていた質問を勢いでぶつけてみた。
「私も気になっておりました」
「そういえば言ってなかったな」
人生経験がラストよりもはるかに豊富なヴィッツでさえもリュードの種族が分からないでいた。
常に角があるので獣人族の1種族かと思ったけど、当てはまるような種族もない。
それに身体能力は高くても魔力は強くないことが多い獣人族にしては魔力も強い。
なんの種族だろうともう信頼は置いているが気になるものは気になるのだ。
「俺たちはそんなにひた隠しにするほどのことじゃないけど吹聴して回るつもりもないからな。言っていいか、ルフォン?」
「もっちろん。私はむしろ知ってもらいたいかな」
ルフォンはきっと獣人族だと思われていると分かっていた。
だから獣人族ではないことを知ってもらいたい気持ちがあった。
「そっか、じゃあ。俺の種族は竜人族だ。そしてルフォンが」
「人狼族だよ」
「竜人族と人狼族……? でも…………」
「これだろ?」
リュードが頭の角を軽く触る。
リュードの頭には立派な角がある。
意外と滑らかな表面をした角は撫でると気持ちがいい。
ラストもヴィッツも竜人族や人狼族という種族のことは知っていた。
詳しくはないけれど人の姿をしている時に角やケモミミがあるイメージがなくてラストは困惑した。
「そうだな……そっちが秘密を明かしてくれたし、俺たちも秘密を教えるよ」
ちょっとだけもったいぶってみる。
話の流れとリュードの能力からヴィッツは秘密がなんなのかすでに予想していた。
けれどラストはまだ秘密がなんなのか分からず秘密の教え合いってなんだかすごい友達みたいだ、なんて考えていた。
ラストはドキドキした表情でリュードの言葉を待つ。
リュードが体を前屈みに倒すとラストも体をリュードに近づけて言葉を聞き漏らすまいとする。
「俺たちも先祖返りだ」
少しだけ声のボリュームを下げて、秘密っぽくラストに教えてやる。
「えええー!」
打てば響くリアクション。
ありがたい限りだ。
でも同年代、同時代、同じ場所に別々の種族の3人の先祖返りが集まっている。
あっさりとラストには教えてしまったけれど実はとてもすごいことなのではないかと今更思えてきた。
体を変化させる魔人化のできる種族の先祖返りはその魔人化の特徴の一部が体に出てしまう。
リュードが以前から考えていた仮説がより現実味を帯びてきた。
「だから俺は角が、ルフォンはケモミミや尻尾があるんだよ」
リュードがポンとルフォンの頭に手を乗せて撫でてやるとルフォンは嬉しそうに尻尾を振っている。
「は、はぇー……なんだかスゴいね」
ビックリしすぎて言葉を失うラスト。
「先祖返りのお二人とは、またすごい方をお味方にしましたな」
「ふふ、ラストちゃん変な顔ー」
「だ、だって2人も先祖返りってそんなことある!?」
「ふふん、あるだなーこれが」
「そーだけどさ!」
ラストは運がいい。
見舞われた境遇だけ見ると不幸なのであるが、これまでそれを上手く乗り越えてきた。
これまてまどんな時でも明るく努力を重ねてきた。
兄姉の嫌がらせにもめげずに立ち向かって、ダメになりそうな時はどこからか救いの手が差し伸べられる。
それだけでなく乗り越えた暁にはラストはちゃんと利益も手に入れてきた。
死にそうな目にあった時もそれをなんとか乗り越えて、結果として大領主になったのである。
できれば大きな幸運はもういいので、幸せが小さくとも穏やかな人生がラストに訪れればいいのにとルフォンと笑い合うラストを見てヴィッツは思っていた。