「じゃあどうしろと……」
語気が弱くなった。
「俺たちも行こう」
ルフォンはこんな会話の間リュードをジーッと見ていた。
行かないの?という視線だ。
リュードもこんな事態放ってはおけない。
アリアセンに行ってはいけないと言っているのではない。
1人で勝手に突っ走るなと言っているのだ。
リュードの言葉を聞いてルフォンがニッコリと微笑む。
「しかし……」
先程も言ったけれど巻き込む訳にはいかないとアリアセンは渋い顔をした。
危険なことはアリアセンも重々承知なのだから首を突っ込ませてはいけない。
「……じゃあこうしよう。俺たちが勝手に行くんだ。アリアセンはそんな俺たちを放っておけずについてきたんだ」
アリアセンが行ったのではなくリュードたちが行った。
職務放棄しちゃいけないアリアセンに対する大義名分とでも表現すればいいのだろうか。
依頼に期限は言われてないが、もうデタルトスには連絡は行っているだろう。
あまり遅れると案内人であるアリアセンの責任を問われる。
あまり日数が経ちすぎて勝手に寄り道をしましたなんて言い訳できることでもなく、責任を追求されることは目に見える。
1人で勝手に行かすわけにもいかず、なおかつアリアセンに責任がないようにする。
その責任をの矛先をズラすのは簡単なこと。
案内人しなきゃいけないリュードたちが行ってしまったのでアリアセンも行ったとしてしまえばいいのである。
リュードの配慮を感じてアリアセンは段々と冷静さを取り戻してくる。
「エミナたちはその人のことを頼む。俺たちはその間に村の様子を確認してくるから」
「わかりました!」
ピシッとヤノチは姿勢を正す。
突発的な事態に慣れていないヤノチはアリアセンをたしなめるために声を荒らげたリュードの雰囲気に飲まれていた。
正確に決めたことはないけどこの5人の中でリーダー的な役割を果たしているのは誰がどう見てもリュード。
経験不足なことは自覚しているのでヤノチはリュードに従うのが適正だと考えてもいた。
「俺たちがいない間のリーダーはお前だ、エミナ」
ポンとエミナの肩に手を置く。
何かを言いたそうにしていたので先に手を打つ。
任せたぞと目を見てうなずかれては一緒に行くと言い出せなくなってしまう。
まだまだ心配な面はあるもののエミナは意外と周りをよく見ているし無茶な判断はしない。
3人での活動も慣れてきているので多少の相手なら対処もできる。
一緒に行くより待っていてもらう方が安心だ。
「ケガしないで、すぐに帰ってきてくださいね?」
止めても無駄。
2人の実力はわかっているけど心配なものは心配である。
リュードは笑みを浮かべてエミナの頭を撫でる。
「任せて! ちゃちゃっと倒して来ちゃうから!」
ルフォンは自身満々で心配そうなエミナの視線に答える。
そうこうしている間にルフォンは必要な荷物を片付けて移動する準備を整えていた。
「ハラヤ村だっけ? 案内たのむぞ、アリアセン」
とりあえず女性が走ってきた方に向かって歩き出す。
「行かないのかー?」
「えっ、い、行きます!」
最初はいくのだと意気込んでいたアリアセンだが、いつの間にかリュードとルフォンにアリアセンが付いていく形になっていたのであった。
ーーーーー
「これはヒドイな」
エミナたちを連れてこなくて良かったと思う。
リュードたちがハラヤ村に着いた時にはもう全てが終わっていた。
火を放たれて未だにくすぶる家々、槍や剣、中には鍬を持って倒れている男たち。
村は壊滅していた。
生きている者がいない惨状にアリアセンの握りしめた手が怒りに震えている。
ルフォンも同じ気持ちで目が怖い。
「一体誰がこんなことを……」
「奴隷商……」
「奴隷商?」
「見てみろ」
凄惨な現場で生きている者もいないので誰がこんなことをしたのかヒントはないように見えるが、リュードはしっかりと現場を見ていた。
目も背けたくなる死体をよく見てみるとほとんどが一定以上の年齢の者。
多くの人が切り倒されているので全員を確認することは出来ないのでパッと見だけど若い男性は少なく、武器を持った男性か年配の人の死体しかない。
若い女性、それに子供の死体はない。
少ない情報から誰がこんなことをした犯人なのか必死に頭を回して推測した。
いくら田舎の村とはいえ、誰も若い女性や子供がいないなどということはあり得ない。
ならばいなくなった理由があるはず。
リュードは女子供、それに一部の若い男性は連れていかれたのだと考えた。
盗賊の可能性もあるけど人の誘拐は面倒な行為だし、村を潰して火を放つなんてことをしたら今後その地域で活動していくのは難しくなる。
盗む相手がいなくなるし重罪すぎて国から追われる。
奴隷商にしてもやりすぎではあるが、根こそぎ女子供がいないことを考えると盗賊よりも可能性はある。
村一つ襲ってさらっていくこともあり得ない話ではない。
少なくとも人をさらっていくことを考えるに魔物に襲われたのではないと断言はできる。
「……! 2人とも隠れるんだ」
ルフォンの耳が動き、リュードもそれに気づいた。
3人は身を低くして燃え残った家の壁裏に身を隠す。
「へっへ〜、他の奴らに見つかる前に隠せてよかったな」
小柄で小汚い、前歯の出たブサイクな男がトコトコとやってきた。
周りに誰もいないと思っていて大声で独り言を発している。
男は1度キョロキョロと周りを見回すと腰から剣を外して鞘をそのままに地面を掘り出した。
「俺が行く。2人は逃げないように回り込んでくれ」
声を潜めて2人に指示を出す。
2人が移動を開始したのでリュードも気配を消して男の背後に近づく。
「おい」
「はっ!? な、なんだテメェ!」
「黙れ」
せっせと穴を掘っている男は全くリュードに気がつくこともない。
あっさりと男の後ろまでやってきたリュードが声をかけると男が驚いたように振り返った。
リュードの顔を認識する前にリュードの拳が男の腹に突き刺さる。
「ぐっ、うえええ!」
男がリュードの強力な一撃に嘔吐する。
危うくゲロを被りかけたが、素早く腕を引いてなんとかセーフだった。
「ぐ、ぐぞ! お前一体何者なんだよ!」
「うるさい、質問するのは俺だ」
一通り胃の中のものを吐き出して涙目で顔を上げた男にリュードは剣を突きつける。
「な、何がしたいんだ!」
「村をこんなにふうにしたのはお前か?」
「村? ……ああそうさ、俺と俺の仲間がやったのさ! まだ近くに俺の仲間がわんさかいる。こんなことをしてただで済むと……」
「関係ないことを話すな」
「ぎゃああああ!」
男の体に電撃が走る。
リュードが放った魔法である。
くだらない脅し文句なんて聞いてやる暇はない。
周りに人の気配はない。
つまりどこかに男の仲間はいるのかもしれないが、今すぐ来れるような距離にいるわけではないということだ。
来たところで返り討ちにしてやるけれど浅い脅しなのは見え透いていた。
「お前たちは奴隷商か?」
「誰がそんなことを……そ、そうだ! 俺は奴隷商人に雇われて働いている!」
リュードが手に電撃を走らせて脅すと男はあっさりと口を割る。
「仲間は本当に近くにいるのか?」
「……いや、もう拠点に帰っているだろうよ」
やはり仲間は近くにいないようだ。
「お前は何してたんだ?」
「見つけたもん他の奴に取られんのが嫌で隠してたんだ。それを取りに来てた」
「お前たちの拠点はどこにある?」
「そんなもん言うわけ……ぎゃああああ!」
「言え」
もうわざわざ脅してやることなんてない。
意地を張るなら容赦なく魔法を叩き込む。
再び電撃を食らって男はフラフラと膝をついた。
「クソっ……死ねぇ!」
好き勝手にやられてたまるか。
そんな思いで男は剣を抜いてリュードに切りかかる。
だがこんな程度の速度では遅すぎるとリュードは思った。
奇襲されたとしても対処が出来そうな鈍い攻撃だった。
それなのにリュードが抜き身の剣を持って目の前にいる状況で男が敵うはずもなかった。
話を聞き出したいからあえて殴打で対応したり手加減した魔法で攻撃したりしていた。
なのに仲間がいると脅しかけたり反撃までしてくる。
もはやリュードの中に男に対する慈悲の心はない。
男とは比べ物にならない早さで剣を振ったリュード。
「はぁ……腕? 腕がァァァ!」
剣を持っていた右腕の先が消えた。
ドサリと腕が地面に落ちる音が聞こえたがそれがなんの音なのか男には分かっていない。
状況が理解もできないままに男は痛みにのたうち回る。
「これが最後のチャンスだ。拠点はどこにある?」
あまりの素早さに血すらついていない黒い剣の切っ先を男に突きつける。
「分かった、案内する! だから命だけは助けてくれ!」
「……いいだろう。2人とも出てくるんだ」
ルフォンとアリアセンがそれぞれ男の後ろの方から出てくる。
仮に男が多少の手練でリュードの隙をついて逃げ出せたとしても2人が待機していた。
どの道捕まっていたことになる。
むしろリュードより容赦のない2人だから捕まえるのではなくそのまま切り捨てられていたかもしれない。
リュードの対応はまだ優しい方なのである。
男は完全に弄ばれていた状況を察してさらに顔を青くした。
男の腕の止血だけをして敵の拠点に向かう。
「こ、この先にある館を拠点にしています」
「あれか……なんでこんな森の中にあんなデカい洋館が?」
「俺たちが建てたものではなく元々あったものでして、利用させてもらってました」
男の案内で進んでいくと森の中に大きな洋館があった。
「この国は戦争で急激に大きくなった過去があるから、以前にはここら辺の領主でも住んでいたのかもしれないな」
アリアセンが軽く説明してくれる。
それにしても大きく立派な洋館だなとリュードは洋館のことを観察していた。
ただ新しいものではなく古くなっていて廃墟と呼べる雰囲気がある。
まるでお化け屋敷のような見た目をしている。
「本当にここに入るのか?」
洋館を見てアリアセンの勢いが減じる。
あんなに怒りに震えていたのにいきなりどうしたというのだ。
「……怖いのか?」
「怖かなーいやーい……」
しりすぼみになる言葉尻。
アンデッド系の魔物、いわゆるお化けを苦手とする人は少なからず存在する。
実際にスケルトンを見た時リュードもギョッとした。
ルフォンは全くの平気みたいだけどアリアセンはそうでもないようである。
確かに洋館はおどろおどろしい雰囲気がある。
夜はいつの間にか明けてきて朝日が差しているのだがそれでもさわやかに見えない。
リュードだって用事がなければ避けて通りたいほどの重たい雰囲気が漂っている。
だからこそ悪人たちに目をつけられて使われているのだろう。
「おい、誘拐した人たちはどこに閉じ込められてるんだ」
顔色の悪いアリアセン以上に血の気の無くなっている男に剣を突きつける。
もちろん顔色が悪いのはアリアセンとは異なる理由。
腕を切られて簡易的な治療しか受けられていない。
このまま解放したとて、この男生きていられるだろうかというぐらいに出血していた。
「この屋敷、地下がありまして、そこに閉じ込められているはずです。奥の部屋に階段がありまして、そこから地下に行けまして、そこの地下の部屋にいると、思います」
地下に閉じ込められているとは厄介な話だなとリュードは顔をしかめた。
どこかの部屋ならこっそりと助け出せる可能性もあるが、地下にいるなら見つからずに助け出すのはまず不可能だ。
言葉すら怪しくなってきた男はかなりうつろな目をしている。
「中には何人ぐらいいる?」
「3、40人ほど……」
段々と男の反応が悪くなっていく。
限界が近い。
「分かった。もう行け。治療の当てがあるなら早くするんだな」
「ありがとうございます」
これ以上付き合わせると本当に目の前で死んでしまう。
このまま仲間に知らせに行く可能性もあるが拠点場所までバラしている男は裏切り者になる。
リュードたちを上手く片付けられたとしてもその後責任は追求されることになる。
そうなったら男はタダではすまない。
きっと戻ることなどないと踏んで逃してやる。
運が良く生き延びられてたならどこかに逃げ去るはずである。
片腕もなければ大それた犯罪ももうできやしない。
屋敷の様子をうかがいながらリュードは考える。
40人がいっぺんに襲いかかってきたら無傷で切り抜けるのは難しい。
多少のケガを覚悟しなきゃいけないし、リュードとルフォンはともかくアリアセンの無事は保証出来ない。
洋館の中の1ヶ所に固まっているとは考えにくいが一人一人別々に洋館の中にいるとも考えにくい。
よほど運良く上手くやらないと結局集まってきてしまうことになる。
集まってくるだけならいいが問題は誘拐された人たちである。
人質にされたり、証拠隠滅を図って皆殺しや火を放たれるなんてことがあるとリュードたちでは対応しきれなくなる。
被害を出さないようにしながら奴隷商たちを屋敷から追い出す方法はないかと考える。
アリアセンとルフォンも頭をひねってくれればいいのに、どうにも考えるのが苦手なのか2人はリュードからいい考えが出てくるのを待っている。
「うーん……本当はこんなことのために使うもんじゃないんだけどな」
作戦は思いついた。
この場で考えたにしては悪くない作戦だと思う。
リュードが作戦を2人に伝える。
ルフォンがリュードの発言に対して珍しく渋い顔をした。
ダメとか不可能な作戦ではない。
ならどうしてルフォンが嫌な顔をするのか。
リュードはそれを荷物から取り出してニヤリと笑う。
「まあ、使える時に使う、それが1番の使い道だからな」
ーーーーー
人が来るだなんて考えてもいない連中は見張りを立てることもしない。
攻略する側としてはありがたい話なのだが不用心すぎる。
あるいは40人もいてそんな役割の人がいないわけもないので、見張りをサボっているのかもしれない。
3人はそれぞれ分かれて洋館に接近していた。
気配を消して窓から中を覗き人がいないことを確認する。
そして中に人がいなければ鍵もかかっていない窓を開けて、それを投げ入れる。
窓はちゃんと閉めてグルリと1周3人で手分けして投げ入れられるところ全てに同じく投げ入れた。
玄関には太い木の枝を取手に挟み込んで開かないようにしておいた。
効果はすぐに出始めた。
玄関のドアを叩く音と何かしらの怒号が聞こえてくる。
やがて玄関が開かないと分かると玄関から出ることを諦める。
別に鍵もかかってないから開けりゃいいのに窓から椅子が飛び出してくる。
そうして開けた窓から男たちが我先にと飛び出してきた。
涙目で酷く咳き込み、慌てて新鮮な空気を求めて大きく息を吸う。
リュードたちが家の中に投げ込んでいたのは村を出る時に村長に貰った魔物避けの臭い玉だった。
何もしなくても普段から強烈な臭いを放っている魔物避けであるが、火をつけて煙を出してやるとより効果的に魔物を遠ざけることができる。
火をつけて臭いをより拡散させると広い範囲で魔物が逃げ出す代物を閉鎖的な家の中に何個も火をつけて放り込んだのだ。
魔物が逃げ出す臭いと銘打っているけれど普通に人でも裸足で逃げ出したくなる臭いがしている。
ただただ臭い。
1個使えば結構な範囲が数日大丈夫になるぐらいなものをいくつも洋館の中に投げ込んだ。
あっという間に臭い玉の強烈な臭いが洋館の中に充満して、たまらず男たちは家の中から飛び出してきたのである。
「行くぞ」
顔に布を巻いてリュードたちは洋館から出てきた男たちに襲いかかる。
顔に布を巻いたのは何も顔を隠すためだけではない。
少しでも臭いを防ぎたい、そんな考えの方が強かった。
特に臭いに敏感なルフォンはリュードがポーション作りなどの時になんかに使うゴーグルまで付けている。
まずは洋館に向かって左側から飛び出してきた男たちを相手取る。
半泣きで前もよく見えていない男たちには武器すら持っていない者もいる。
「な、なんだ!」
先に武器を持った者から倒していき、瞬く間に男たちはリュードたちに倒されてしまった。
この騒ぎなのだ、多少叫ばれたところで他の連中は気づかない。
これで7人を倒した。
次は洋館の後ろに回り込む。
後ろも同様の状態で2階から飛び降りたのか足をひねってしまっている者もいた。
「おい、敵襲だ!」
異臭騒ぎの原因に気づいた男が声を上げたもう遅い。
涙でややにじむ目で腰を見たけれど異臭のために慌てて窓から飛び出した男は武器を身に付けていなかった。
どの道涙目で咳き込んでいたら武器を持っていても対応することは出来なかっただろう。
マトモな状態でもリュードに勝てるはずがないのに絶不調といってもいい状態では何もできなかった。
リュードたちはさらに10人を片付けて、今度は後ろ側から右側へと回っていく。
「誰だ!」
左と後ろを片付けていれば多少時間も経つ。
呼吸を整えて落ち着いてきた男たちには右側へと回り込んだ瞬間にバレてしまった。
しかし武器を持っているのは3人だけで多くが何も持っていない。
「オラァ!」
男が斧を振り下ろす。
リュードがそれをギリギリまで引き付けて回避すると男の腕を切り落とす。
命をかけた戦いの時に相手に慈悲をかけるなら苦しまず逝かせてやることだ。
叫び声をあげる暇も与えずに剣で男の首を切り飛ばす。
ルフォンも1人を片付け、アリアセンも奴隷商の下っ端ごとき全く問題がなかった。
仲間が倒されていく中で武器を持たない何人かは逃げ出してしまった。
しかし今はわざわざ追いかけて倒すこともない。
「さて、最後だ」
20人ほどを倒した。
事前に聞いていた人数からするとおよそ半分をこの騒動に乗じて倒すことが出来た。
前側に回ってみると相手はすでに警戒をしていた。
脱出のために一旦玄関に集まってしまったので前側から出てくる人が多かった。
「死ねぇ!」
角を曲がってきたリュードに待ち伏せしていた男が剣を振り下ろす。
「バレバレなんだよ!」
角を曲がる前から影が見えていた。
剣を防御してリュードは男に切り返す。
「お前ら一体何者だ!」
悪臭ばらまかれた挙句、仲間が大勢やられたことに青筋を立てた偉そうな男が剣をリュードに向けた。
リュードたちは顔に布を巻いているし怪しさ満点。
ひどい悪臭を使うという回りくどいやり方に男は怒りの頂点。
「私はヘランド王国第3騎士団副団長アリアセン・マクフェウスだ! 大人しく降伏しろ、悪人どもめ!」
バカ正直にアリアセンが名乗る。
別に悪くないのだけれどリュードたちは目立ちたくないので名乗らないでほしかったところではある。
倒した後最終的には名乗ることにはなるけれど敵に余計な警戒感を与えて良いことなどない。
ただ名乗ってしまったものは仕方がない。
「騎士団だと!?クソっ……だから村ごと襲うのはやめとけって言ったのに……しかし他に騎士を連れちゃいないところを見ると訳ありみたいだな! お前ら、国に知られる前にやっちまうぞ!」
各々武器を構えてリュードたちに襲いかかってくる。
けれども武器を持っているのはその場にいる半数だけ。
若そうな男女3人なら簡単に倒せると思っていた男たちだったのだがあっという間にやらてしまって、武器を持たない男たちは呆然としていた。
お飾りなどと言っていたアリアセンもいい動きをしている。
盾を上手く使い、堅実に相手を倒している。
ガイデンの戦い方の片鱗を感じる。
後は偉そうな男と武器を持たない10人にも満たない男たち。
武器を持っていても勝てなかったのに武器を持っていない男たちが素手でかかっていっても勝てるわけがない。
命を捨てて戦うことなんてしない。
男たちはあっさりと降参した。
悪臭で追い出すという作戦が功を奏して武器も持たずに洋館から逃げ出したので戦える人数が思っていたよりも少なくて楽な戦いになった。
リュードたちも死ぬほど臭いけど分かっていれば我慢はできる。
ルフォンはかなり辛そうだったので男たちの監視を任せてリュードとアリアセン捕まっていた人たちを助けに向かった。
聞いていた通り地下にさらわれた人たちは捕われていた。
男たちのリーダーが持っていた鍵で地下牢の鍵を開けて臭いに苦しんでいた誘拐されていた人たちを助け出した。
なんとかみんなを連れて外に出たが、この洋館は臭いが染み付いてしばらく使うことが出来ないだろうなとリュードは思った。
「あれを使おう」
村は全壊していた。
証拠隠滅などの目的もあったのだろうがもはや帰れるような状況でもない。
洋館横に停めてあった荷馬車があったのでそれに誘拐された人たちを乗せて移動させることにした。
幸いデタルトスまでは近かったのでそこまで向かうことにした。
捕まえた奴隷商の男たちも拘束して連れていく。
人数が多かったので歩きの人も出たけれど交代交代で馬車に乗せて運ぶことにした。
想像以上の大所帯になってしまった。
「何をしてきたんですか?」
「まあ色々あったんだよ……」
リュードたちの無事を喜びながらも何をしているんだという表情をエミナがしていた。
誘拐された人たちは精神的にも肉体的にも弱ってしまっていたので急いだ。
デタルトスに着いた時荷馬車に多くの女性や子供を乗せて、縄で繋がれた男たちを引き連れたリュードたちは大いに目立っていた。
異常な集団を見て飛んできた町の衛兵にアリアセンが事情を話す。
さすがに騎士団の副団長ともなると話が通るのは早い。
あっという間に兵士が集まってきて男たちを連行していき、村の人たちを保護した。
事後の説明や処理はアリアセンと集まってきた兵士たちに任せてリュードたちはこっそりとその場を離れた。
アリアセンは何か言いたげだったけれど説明に追われて引き止められずリュードたちは隠れるように宿を探しに行った。
面倒なことは避けたいので後で話を聞きたいというならいいけど、みんなが見ている中で大人しく最後まで付き合う気にはなれない。
宿を取り荷物を置いたら次は飯。
大人数をいきなり抱えることになったのでどうしても食料問題があった。
若くて元気なリュードたちは節制して子供たちに多く食料を分け与えた。
空腹までいかなくとも全員に食べさせるには満足な量を与えることはできなかったのだ。
港湾都市なので魚が上手いと聞いていたが、体力的にも店を吟味する余裕もなくとりあえずで食事をとった。
だからあえて魚料理は食べず肉料理を中心に食べてお腹を満たした。
「ちかれたー」
ヤノチがベッドに倒れ込む。
肉体的疲労と言うよりも精神的疲労が大きい。
さすがのリュードやルフォンも気疲れしてしまった。
まあ護衛的な動きも経験することが出来たし良かったと前向きに考えてもみる。
「とりあえず今日明日は休んでそれから活動しようか」
「はーい」
ーーーーー
次の日はちゃんとお店を探すことにした。
美味しい魚料理の店はどこですかと宿の受付で軽い気持ちで聞いた。
そうしたら大論争が巻き起こった。
宿の店員数名と出入りの業者まで混ざってあのお店、このお店とお店の名前が増える。
最終的に15店舗ほどに絞ってもらい、簡単な地図とともにお勧めいただいた。
ただもらった地図を見ると15店舗だけでなく、途中途中で他にもいろいろ書き込まれている。
リュードはまるで道の駅に置いてあるオススメスポットの地図みたいだなと思った。
どうせなら色々楽しんでみよう。
お勧めされたお店を中心に巡っていくことにした。
焼き、揚げ、煮る、様々な料理を堪能した。
生で出しているところもあったのだがみんなに難色を示されてしまったのでリュードは生魚のお店は断念した。
基本的に海に近いところでないと生魚を食べる文化はない。
トキュネスもカシタコウも海に接しない内陸国なので魚を食べないことはなくても生魚は食べない。
リュードたちがいた村も海から遠かった。
川はあったけれど泥臭くて生では食べることはなかった。
だからみんな生で魚を食べることにやや抵抗がある
お醤油のようなものがあるか分からないし生魚は行けたら1人で行くことにした。
「さてと今後の方針だけど」
そうしてのんびりとして次の方針を考えることにした。
と言ったけど具体的な目標はない。
神様からされたお願いはあるけれど、それなりに時間があるし大分北まで行くことになるので急いで行くのは惜しい。
「エミナたちはどうするんだ?」
「どうするってなんですか?」
「そもそもお前たちが俺たちに付いてきたのも活動する拠点を見つけるためだったじゃないか」
建前はそうだった。
「そういえば、そうでしたね……」
ハッとした顔をするエミナ。
本来はトキュネスかカシタコウで活動するつもりだった。
けれども有名になりすぎて活動することが難しいので他国で活動することにした。
たまたま他に行くつもりだったリュードたちがいたので同行させてもらっていた。
というのがエミナたちの今の状態である。
エミナの仲間を見つけなきゃいけないと思っていたけれどヤノチとダカンという仲間が出来た。
もっと仲間がいてもよいけど、どこかに腰を据えて活動するにも十分なパーティーだと思う。
一緒に旅がしたいというならそれを拒む理由もまたない。
結局どうしたいかはエミナたち次第、ということなのだ。
多少海で遊んだり魚料理をまだ堪能したいのですぐに出ていくつもりはない。
その間にリュードも次にどこに行くのか決めるつもりなのでそれまでにどうするのかエミナたちにも決めて欲しかった。
「3人でよく話し合って決めておいてくれ」
ヘランドならトキュネスやカシタコウからも近く、魔物の活動も活発なので冒険者にとっても良い活動拠点になる。
まだトキュネスやカシタコウでの話が伝わってくる可能性もあるけれど、最終的に国に戻って活動するつもりがある3人のことを考えると離れすぎても良くないだろう。
「とりあえずこの国の冒険者の感じを見るためにしばらくここで依頼をやっていこうか」
冒険者ギルドの雰囲気とか分からないことの方が多い。
国によっても雰囲気が異なってくるので合わないとなったら別の国に行けるのも冒険者という職業だ。
ヘランドは縦に長い国で今のところエミナやヤノチの噂が聞こえてきてはいない。
雰囲気を掴んでおこうというリュードの提案にエミナたちも頷いた。
首都のザガーの方でもいいし冒険者の拠点は何も大都市だけとは限らない。
選択肢が多いのはいいことだけど多すぎてもまた困りものである。
「魔物の討伐系依頼は多いな」
リュードたちは冒険者ギルドを訪れた。
魔物の活動が活発なだけあって魔物に関する依頼が冒険者ギルドには多く張り出されていた。
酒場もレストランもやっているギルドでレストラン味が強い。
出入りしている冒険者の数も多い。
国が変わると魔物も変わる。
ここは特に海が近いので他では見られない魔物の討伐依頼もあった。
他にも交易船に帯同しての護衛依頼や魚取りの手伝い依頼なんてのもある。
海系の依頼はリュードたちが受けることはないのだが、危険が伴うためか高めに依頼料が設定されていたのでお金に困っているなら受けてもいいかもしれない。
「おい、どうして私を置いて行った!」
ボーッと依頼を眺めていると後ろから近づいてきた女性に肩を掴まれる。
「んっ? ああ、アリアセン、元気だったか?」
「何を呑気にのたまっているのだ! 私1人に面倒を押し付けて勝手に去っていくとは許せないぞ!」
ざわざわとしていたギルドの中の注目がリュードとアリアセンに集まる。
ざわざわの内容がこれまでの会話から騒ぎ立てる2人がどんな関係かに変わるのはあっという間であった。
「子供もいて私1人では対応しきれなかったのだぞ、お前も手伝うべきだろう!」
怒り心頭のアリアセン。
確かに逃げるようにその場を離れたことは悪いのだが、場所か言葉を選んでほしい。
「あいつ子供を女に押し付けて逃げたって?」
「うわっ、やるだけやって逃げたのか、若そうな好青年に見えても最低のゲス野郎だな」
早くも始まる曲解。
おそらく最初は冗談のようなものが始まりだった。
だが冗談が伝播して、誰もそんなこと言っていないのに言葉を繋ぎ合わせて想像力をミックスさせると頭の中で面白いようにストーリーが展開されてしまう。
「ちょっとまて……」
毎回毎回なぜリュードをピンポイントでターゲットに絞って突っかかってくるのか。
ヒソヒソと聞こえてくる話ではダカンは皆の視界から消え、ルフォンとエミナとヤノチのハーレムパーティーを連れて妊娠した女を捨てたリュードの修羅場ということになり始めている。
どこかに吟遊詩人でもいるのか、人々が噂話に飢えているのか。
ダカンが視界から消えるとリュードは多くの女の子と行動を共にしているように見える。
ちょっとした嫉妬心もあるのかもしれない。
「分かったから……ちょっと別の場所に移ろうか」
「ふん、逃さないぞ!」
また逃げようとしているのか、アイツ。
そんな声が聞こえてきて思わず何人か手を出してもいいような気がしてしまう。
アリアセンが絡むとどうにも良くない。
最初に噛みついてきた時からそんな感じがしていたけれど頭に血が上りやすすぎて会話が通じない時がある。
戦い方は優秀だったのにカッとなりやすい性格をしている。
なんとかなだめすかしてアリアセンをギルドから連れ出す。
しばらく活動するつもりだったのにこれでは女を捨てたとして顔を指されることになってしまう。
「……ほんとウソだろ」
せっかく休んで疲れを取ったのにまたドッと疲れた気分になった。
ーーーーー
ハーレムパーティーのすけこまし野郎。
もうずっと竜人化した姿でいようかと思えるほど不名誉なあだ名を頂いた。
人の噂が広まるのは早い。
同じパーティーの女を妊娠させた挙句出産するまで放置、パーティーを切り捨てて逃げ出したクズ野郎がいると驚くほどの早さで話が広まった。
面白半分、というかほとんど面白いから誇張して話された噂話。
人を渡るたびに誇張されていき、リュードは各地に妻と大勢の子を抱えることになった。
話が伝わる中でリュードの容姿についてはボヤけていって黒髪長身のイケメンという薄い表面的なものになったのだが、リュードの特徴としては間違っていない。
つまりはリュードを見ては、あの話知ってるか? なんてリュードが異国の姫とねんごろになっているような話をヒソヒソとされることになった。
冒険者ギルドという場所がよくなかった。
暇で下世話な話が好きな人が集まる場所で、ちょっと嫉妬されてしまうような条件の下に騒ぎ立ててしまった。
おそらくあの場で真面目にアリアセンの言葉を聞いていた人はいない。
酒を飲みながら片手間に言葉の断片だけを切り取って面白おかしく話していただけなのだろう。
「くそ……なんでこんなとこに……」
リュードの顔が良いことも癪に触ったのかもしれない。
どこの世の中でも顔が良い男がルフォンのような美少女といたら嫉妬の対象になってしまう。
噂が変容しながら広まるのは仕方ないことであるとはいっても、生まれて初めて女性に手を上げたくなった。
そんな気持ちをリュードに初めて抱かせたアリアセンに引き連れられてリュードはデタルトスのお城に来ていた。
デタルトスにもお城があった。
これは元々海からの侵攻に対する防衛城で、今ではデタルトスの政治の中心として使っているものである。
村の生き残りの人々はここに連れてこられていた。
村や家族を失った精神的なショックはあるものの体は無事なので、心の方をゆっくりと時間をかけて治していくことになった。
王国のほうで保護して、村の再建をするなり他で暮らすなり当人たちの希望を聞いて今後を決めていくらしい。
「ありがとうございます……あなたがいなかったら僕は売り飛ばされていた」
残された村人の中で新たにリーダーに選ばれたのは若い男性だった。
村長の息子で、若くて顔も悪くないからと連れて行かれたから生きていた。
デタルトスのお城であった村人たちはリュードとルフォンに深々と頭を下げてお礼した。
「強く生きるんだ。これからもっと大変かもしれないけどきっと乗り切れるから」
奴隷商の男たちが元々活動していたのはこのヘランド王国ではなかった。
元々の活動拠点はトキュネス。
金さえ払えば悪いことでも見逃してくれる領主がいて、そこを中心に活動していた。
しかし最近になってその領主が色々な罪で処刑となり、犯罪に対する取り締まりが非常に激しいものとなった。
なので少しでも敏感なものはいち早くトキュネスを抜け出していた。
奴隷商の男たちも上の判断に従ってトキュネスからヘランドに逃げてきた悪人たちだった。
逃げたのはいいけれど前金で奴隷の引き渡しを受けていた奴隷商は村を襲うという強硬手段に出た。
森の洋館も仮拠点であって長居はするつもりはなく、奴隷の引き渡しに行くついでに引き払うつもりであったという話だったのである。
たまたまリュードたちが通りかかっていなかったら、村が壊滅させられて女子供が誘拐されたことにいつ気付いたのだろうか。
おそらく気付いたとしてもかなり後になっていた。
国王に報告は上げたので何かしらの動きはあるだろうとアリアセンは言っていた。
ひとまずデタルトスの城を訪れたのは依頼を終えるためだった。
遺品を置くためのスペースも確保したし早く案内の仕事を終えたいアリアセンにせっつかれた。
せっせと遺品を出しながらアリアセンが奴隷商についてのことを話してくれたのだ。
村人たちの今後はともかく犯罪者が流れてきているなんてよそ者に言っちゃダメじゃないかと思ったけれど、気になっていたことでもあるのでちゃっかり聞いてしまった。
まさかトキュネスでの出来事がこんな影響を与えているとは思いもしなかった。
そして改めてキンミッコがどんな人間だったのかもよく分かった。
前払いで村1つ分の奴隷が必要な相手とは何者か。
妙な引っ掛かりを感じたけれど奴隷商たちの調査は続いているし、アリアセンが直接の担当ではないのでこれ以上の情報はなかった。
「よいしょ……」
そんなに大変なことではないが一つ一つ丁寧に荷物を出していくとちょっと疲れる。
デタルトス周辺の人が多く亡くなったというのはウソではなかった。
全体の7割ほどの遺品がデタルトスに運ばれた。
血縁者や子孫などが見つかった人は連絡が行って遺品を受け取るか聞かれる。
家が断絶してしまっていたり血縁者が見つからなかった人の遺品は国の方で供養してくれる。
「ありがとう……。私は国の代表ではないけど、きっとみんなあなたに感謝してると思うから、代わりに感謝を伝えさせて」
「俺はただ遺品を届けただけさ」
依頼書に完了のサインをもらう。
報酬は国からもらうことになっているのでそのままアリアセンからお金の入った袋を貰った。
依頼書は冒険者ギルドに持っていけば依頼遂行の実績になる。
「いろいろあったけどあなたたちとの時間、楽しかったわ。冒険者と国の騎士は立場が違うからもう会うこともないと思うけどこれからも冒険者として頑張ってね」
「ああ、アリアセンもおじいちゃんに追いつけるように頑張れよ」
俺はあんまり楽しくなかったという喉元まで出かかった言葉を抑え込んでリュードはアリアセンと別れの握手を交わした。
敗北感。
久々に味わった感覚。
焼けた肌、極限まで絞った筋骨隆々な体、際どいブーメランパンツ。
己の肉体美を見せつけるかのようにポージングを取るスキンヘッドのナイスガイにリュードは負けた。
「はっ、はーん! それじゃダメだぞ、ボウヤ」
「コイツ……ムカつく!」
どうしてこうなったのか、話は遡ること1日前のことだった。
ーーーーー
港湾都市であるデタルトスはもちろん大きな港を構えた都市なのであるが、港の横には大きなビーチが広がっていた。
観光地でもあり、もちろん泳いで遊ぶこともできた。
海を見てみたいというエミナとヤノチの要望を受けて、どうせ見に行くなら港から眺めるよりもビーチで遊ぼうとなった。
ルフォンだけ少し難色を示したのだが、リュードが水着になるというのを聞いて行くことにした。
男女逆転の考えではないかという気もするけど行く気になってくれたのだから何も言わない。
ということでまずは水着を買いに行った。
今後着ることはまずない。
とは思いつつも安物になると水で透けてしまうものもあると聞いた。
そうしたプレイでもしたいなら話は別だが公衆の面前で濡れ透けを晒すつもりはない。
しっかりした品質のものを買う必要がある。
もうすでによく分からない噂話が広まっているのに恥部まで見せてはいけないのだ。
間違いがないように大きくて評判の良い店を選んだ。
いっても男物の種類は多くなく、ブーメランタイプのものも選べるわけがないので選択肢はさほど多くない。
対して女性物は結構力を入れているようで種類もあって選べる選択肢が多かった。
女子の方は店員も混じって4人でワイワイと水着を選んでいた。
リュードとダカンは早々と水着を選んでしまったのでその間に他のアイテムを見ていた。
魔物の皮で作ったビーチボールやパラソルなんてものもあったし、海があり波があるのでサーフィンのようなものもあった。
海中用の銛や槍もあったり、シュノーケリングの道具みたいなものまであって意外とこうしたものを見ているだけでも飽きない。
プラスチックみたいな物はなくても魔物の素材を上手く使って似たような製品は生み出されている。
男の店員に聞きながらリュードとダカンも買い物をする。
更衣室的なところは混み合うと聞いたので縦長の更衣室代わりになるテントをだったり、水着の上からそのまま羽織れるローブだったりを購入した。
「長いですね、アニキ」
「そういうな、女性の買い物なんてそんなもんだから」
「それにしても……ヤノチの……水着か……」
ダカンはいつからかリュードのことをアニキと呼んでいた。
いつから呼んでいたのかはっきり分からないし呼ばれているうちに慣れてきた。
一通り買い物を終えてもまだ女性陣は水着選びを続けていた。
海で遊ぶ機会なんてこの先いつ訪れるか分からないので本気で水着を選んでいた。
ダカンは待ちくたびれたようなゲンナリとした顔をしているけれど同時にヤノチの水着姿を想像してソワソワもしている。
リュードは前世での記憶があるので女性の買い物が長いことにも多少我慢はできた。
女性付き合いが豊富な方ではない、というかあまりなかったのだが女性がそういうところもあるという認識はダカンよりも出来ていた。
まだ時間がかかりそう。
そう思ったリュードたちが適当にお昼を買ってきてようやく買い物が終わった。
まだ日は高いので海に行くかは悩みどころであったのだが、なんだかんだ楽しみなってきたみんなの意見で次の日に行くことになった。
長めに楽しみたいということなのだ。
「これが……海」
海ならチラチラ見えていたなんて野暮なことは言わない。
「わぁー! すごいですね!」
みんな感動したように海を見ている。
リュードも海は見たことあるのでなんてことはないと思っていたのに、いざ久々に海を見るとちょっと感動した。
人はそこそこの人数がいて海の家的なものもある。
どこまでも広がる海は日を反射してキラキラと輝き水平線がどこまでも伸びている。
初めて見る海にルフォンも感動した様子で尻尾が激しく振られている。
着替え用のテントと休憩用の小さめのテントを立てて、まずはリュードたちが着替えて、それからルフォンたち女子が着替える。
3人いっぺんに着替えるにはちょっとテントは小さい気がするけど、3人いっぺんに着替えた方がいいのでキャイキャイと3人で着替える。
「お待たせ!」
「どう、ですか?」
「似合ってるかな?」
ルフォンとエミナが恥ずかしそうにリュードに尋ねる。
「……2人とも可愛いよ」
リュードが照れて視線を逸らす。
ほんの一瞬前まで直視できないことないだろうと思っていたのに、実際に目の当たりにそんなこと言っていられなかった。
エミナは明るい色をしたワンピースタイプの水着。
体型に自信がなくてあまり大きく露出することが躊躇われたので服っぽく服面積の大きいこのタイプの水着を選んだ。
ヤノチはビキニタイプの水着で腰にパレオを巻いている。
没落していたとはいっても貴族の娘なので上品さがあった。
こちらはダカンに意見に求めていてダカンは恥ずかしさでデレデレとしながらまともに言葉が出てこなくなっている。
「ちゃんと、見て?」
そしてルフォンは黒のビキニ。
照れ隠しに顔を背けたリュードの腕に手を回して顔を見上げる。
ルフォンもルフォンで恥ずかしく、頬がほんのりと赤い。
せっかく勇気を出したのだから見てほしい、そんな思いでリュードに近づいたルフォンなのだが近づかれると逆に見れなくなってしまう。
これまでのルフォンの印象は可愛いとかそういったものだった。
「ごめん……もうちょっとだけ待って」
「どうして?」
「その、綺麗……だから」
可愛くもある。
けれどルフォンはいつもに比べて綺麗だった。
普段とは違う格好なだけなのにルフォンはなぜだか艶っぽくいつもとは違って見えた。
知ってるけど知らないルフォンにドキドキする。
もう少し落ち着かなきゃルフォンのことをまともに見られない。
リュードはきらめくような波を眺めながらどうにか気を落ち着かせようとしていた。
「へへっ、ありがとう、リューちゃん」
チラッと視線を落としたら嬉しそうに笑うルフォンがいて、リュードは空を見上げた。
耳まで赤くなったリュードは心の中で神様に感謝していた。
こうした光景が拝めるのは転生したおかげである。
「えいっ!」
「あっ!」
「えへへっ、ルフォンちゃんだけずるいですよ!」
リュードの逆の腕にエミナが抱きつく。
海の開放感からだろうかエミナも勇気を出して積極的に攻めてみた。
「私はどうですか?」
「エ、エミナも可愛いぞ」
「見てないじゃないですかー」
「いや、さっき見たから……」
こんな動揺をするリュードは珍しい。
2人は顔を赤くして空中に視線を彷徨わせるリュードにクスリと笑った。
「おいっ、あれってまさか……」
「女の方見てたから気づかなかったけどまさか、あの?」
「あぁ……うわぁ、本当に可愛い子連れてんだ、ハーレム王」
そんな時聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
ルフォンたちは顔の良さから周りの注目を集めていた。
2人に挟まれるリュードも見られていたわけだが、とうとう気付く人も出てきてしまった。
アリアセンのせいで広まった噂は未だに落ち着くところを知らない。
方や女の子を無理矢理パーティーに引き込む変態だったり、方や女の子が自ら付いてくるハーレムパーティーの長だったりと日々人の噂は愉快に変化していた。
黒髪のイケメン男性が女の子を連れている。
あれがもしかして噂の、とリュードを見て周りの数人がヒソヒソと会話し出して、ハーレム王とまで呼ぶ人がいた。
原型もないにもあったものではない。
リュードの顔がさらに赤くなる。
静まると思っていた噂は変に面白おかしくなってしまったがために未だに形を変えながら広まっていた。
誰なんだ、ハーレム王なんて馬鹿みたいなこと言い出したのはと思わざるを得ない。
「みなさん、何してるんですか? 海、行きましょうよ!」
「もう1人増えたぞ……」
「いいなぁ、俺もなりてえよ、ハーレム王」
あいつら殴ってやろうかと思っていたところにヤノチから声をかけられてリュードたちはそそくさとその場を離れて海に向かった。
何もしてないから周りの目が気になって噂話に耳を傾けてしまう。
周りの声なんて遊び始めれば気にならなくなる。
「ルフォンちゃーん、おいでよー!」
エミナは初めての海でも臆することなくバシャッと入っていき、ルフォンに手を振っている。
対して恐る恐るといった感じでルフォンは打ち寄せる波に足をつけた。
さあーっと流れてくる海水にちょっとビクッとして波が来る範囲から逃げる。
そんなことを数回繰り返してようやくルフォンは海の中へと進んでいった。
エミナはそれを不思議そうな顔をして見ている。
何を隠そうルフォンはカナヅチであるのだ。
村の近くにも川はあったので大人が泳ぎを教えて、簡単に泳ぐ練習をする。
みんな身体能力もいいのですぐに泳げるようになる中でルフォンだけはいつまで経っても泳げるようにならなかった。
村では重くて直ぐに水に沈む黒重鉄からとって、泳げない人のことを揶揄して“こっくー”なんて呼んだりしていた。
こっくーこっくーと言われるのがイヤでルフォンは必死に泳ぐ練習をしていたのだが、上手くならずいつしか泳ぐ練習もやめてしまった。
つまりはこっそり練習していたのではない限り今もルフォンは泳げないのである。
水嫌いまでいかなくてもルフォンは水に対してやや苦手意識を持っている。
顔を洗うとかお風呂は平気なのだが海になると流石にまだ怖さがあるみたいだった。
真面目な顔をして海を進むルフォンはようやくエミナのところまで行くことができた。
「来たよ!」
「う、うん!」
エミナの手をとってホッと一安心したルフォンはニパッと笑う。
2人のいる地点での海の高さはせいぜい膝の高さであった。
ビーチは一大観光産業なので徹底的に近くの魔物は排除されている。
今も沖合に目を向けてみると魔物を警戒してボートで巡回しているので一応それなりの距離まで泳ぐ事もできる。
しかし今日は浜辺で遊ぶつもりなのであまり本格的に泳ぐつもりはない。
時間が経つにつれてルフォンもなんだかんだ海に慣れてきたし、みんなで遊び始める。
水をかけあったりビーチボールで遊んだり、ちょっと魔法を使ったりして砂で城を作ったりと童心に帰って遊ぶ。
「海って楽しいね!」
最初のイヤイヤな態度は何処へやら、ルフォンは楽しそうにニコニコしていた。
浅いところ限定とはいってもルフォンの海に対する警戒心はだいぶ薄れてきている。
みんなで遊んでいて時間を忘れていたけれど、いつの間にかお昼も過ぎていたので海の家的なところにお昼を買いに来ていた。
結構人が並んでいたのでリュードたちとエミナたちで分かれて買い物することになった。
並ぶのは面倒だけれどこうした時間も醍醐味だと思うことにした。
こんな風に2人きりで会話するのも久しぶり。
たわいない会話をして折角の時間を楽しもうとする。
けれどもルフォンはやはり美人である。
並んでいると周りの男たちの視線がチラチラとルフォンに向いていることに気づいてしまった。
ちょっとだけ大胆めな水着だし普段は隠している尻尾も見えている。
リュードも周りにいる男と同じ立場ならルフォンを見てしまうだろう。
でもみんなにルフォンが見られるのは少しだけ嫉妬みたいな嫌な気分もある。
何かされたわけではないので文句をつけるわけにもいかない。
こうしている間だけでも体を隠すのに上着のようなものを持ってくるべきだったなとリュードは思った。
若干モヤモヤした不快感を感じつつもルフォンは周りの視線に気づいておらず、ルフォンはルフォンで女性の視線がリュードに向けられていることに気づいていた。
竜人族は基本的に鍛え上げても一定以上に体が大きくならない。
それは身長的な意味ではなく見た目上筋肉がつかないのだ。
しかしそれがむしろいい感じのところで体をキープしてくれるのである。
顔も良く体つきもいい。
人の目を引くは当然である。
「ルフォン、どうかしたか?」
「別にぃ」
ルフォンは周りを牽制するようにピタリとリュードのそばに寄った。
リュードとしても同じく周りを牽制できるから文句はないけど、肌が直接触れ合うというのは少し気恥ずかしさもある。
互いが互いに似ているけど別のことを気にしていて、それぞれが気になっていることに気づいていない。
だが気づいてなくとも利害は一致していた。
リュードとルフォンがペアなのは見て分かるので声をかけてくる猛者もいなかった。
「ねえリューちゃん、あれ見て!」
突然何かを発見したルフォンがグッと腕絡ませて体を寄せてきた。
腕に当たる柔らかな感触にドキッとなったリュードだが、慌ててルフォンが指差した方を見て顔を見られないようにする。
「スナハマバトル?」
ルフォンが指差したのは海の家に貼られた一枚のポスターだった。
真ん中にデカデカとスナハマバトルと書かれている。
何かしらの物騒なイベントなのかと思って良く内容を読んでみる。
どうやら血を見る系の激しいバトルではなくて平和的な競技系のものでバトルする内容のイベントであった。
「私これに出たい!」
「これに?」
珍しいこともあるものだ。
ルフォンはあんまりこのようなイベントに興味を示す方じゃないと思っていた。
まさかルフォンが出たいと言うなんてとリュードは驚いていた。
「…………ははぁ」
何がルフォンをそんなに惹きつけたのか、よーくポスターを見てみる。
「香辛料1年分……」
スナハマバトルは単なるイベントなだけではなくて優勝者にはちゃんと賞品が出た。
それは香辛料1年分。
すぐにピンときた。
「これが目当てだな?」
「へへ、バレた?」
ルフォンの趣味は昔から変わらず料理である。
旅の道中の料理番はルフォンが進んでやっている。
村では手に入る調味料や香辛料は限られていたのでこうして旅に出て珍しい調味料や香辛料を集めるのもルフォンの趣味の一部であった。
そんなルフォンにとって香辛料1年分とはかなり魅力的な景品である。
普段はしないようなイベントにも参加しちゃうほど魅力的なのである。
香辛料1年分もさらに細かく見ていくとただありふれた香辛料だけではない。
船での交易が盛んな港湾都市らしく輸入物の珍しい香辛料もいくつかある。
リュードでは名前も知らない香辛料も沢山ある。
これは競争率も高そうだとリュードは思った。
ルフォンは単純に香辛料としてみているけれどこの世界の香辛料はまだ高いものの部類に入るものが多い。
1年分の量ともなると売ればかなりの金額になる。
そのままデタルトスで売っても良い値段になるだろうし、ちょっと頑張って海から離れた大都市に持ち込めばさらに金額は高く売れる。
分かるものにとっては単純な金一封よりも価値があるものになるのだ。
「ね、一緒に出よ?」
「一緒に?」
そしてこのスナハマバトル、参加者の要件は男女のペアであること。
「お願い、リューちゃん」
下から潤んだ瞳に見上げられては断れない。
申し込みは今日まででスナハマバトルの開催は明日。
「後で申し込みに行こうか」
折角ルフォンがこうしたイベントにやる気になっているのだから行くしかない。
負けても失うものもなく、勝ったら道中のご飯がおいしくなる。
やるだけやってみよう。
ルフォンは勢いに任せて腕を組んだ。
けれどせっかくならこのまま歩くことになり、周りの殺気のこもった視線を受けながらリュードたちは昼食を買ってエミナたちと再び合流して遊んだのであった。
ーーーーー