「おい、敵襲だ!」

 異臭騒ぎの原因に気づいた男が声を上げたもう遅い。
 涙でややにじむ目で腰を見たけれど異臭のために慌てて窓から飛び出した男は武器を身に付けていなかった。

 どの道涙目で咳き込んでいたら武器を持っていても対応することは出来なかっただろう。
 マトモな状態でもリュードに勝てるはずがないのに絶不調といってもいい状態では何もできなかった。

 リュードたちはさらに10人を片付けて、今度は後ろ側から右側へと回っていく。

「誰だ!」

 左と後ろを片付けていれば多少時間も経つ。
 呼吸を整えて落ち着いてきた男たちには右側へと回り込んだ瞬間にバレてしまった。

 しかし武器を持っているのは3人だけで多くが何も持っていない。

「オラァ!」

 男が斧を振り下ろす。
 リュードがそれをギリギリまで引き付けて回避すると男の腕を切り落とす。

 命をかけた戦いの時に相手に慈悲をかけるなら苦しまず逝かせてやることだ。
 叫び声をあげる暇も与えずに剣で男の首を切り飛ばす。

 ルフォンも1人を片付け、アリアセンも奴隷商の下っ端ごとき全く問題がなかった。

 仲間が倒されていく中で武器を持たない何人かは逃げ出してしまった。
 しかし今はわざわざ追いかけて倒すこともない。

「さて、最後だ」

 20人ほどを倒した。
 事前に聞いていた人数からするとおよそ半分をこの騒動に乗じて倒すことが出来た。

 前側に回ってみると相手はすでに警戒をしていた。
 脱出のために一旦玄関に集まってしまったので前側から出てくる人が多かった。

「死ねぇ!」

 角を曲がってきたリュードに待ち伏せしていた男が剣を振り下ろす。

「バレバレなんだよ!」

 角を曲がる前から影が見えていた。
 剣を防御してリュードは男に切り返す。

「お前ら一体何者だ!」

 悪臭ばらまかれた挙句、仲間が大勢やられたことに青筋を立てた偉そうな男が剣をリュードに向けた。
 リュードたちは顔に布を巻いているし怪しさ満点。
 
 ひどい悪臭を使うという回りくどいやり方に男は怒りの頂点。

「私はヘランド王国第3騎士団副団長アリアセン・マクフェウスだ! 大人しく降伏しろ、悪人どもめ!」

 バカ正直にアリアセンが名乗る。
 別に悪くないのだけれどリュードたちは目立ちたくないので名乗らないでほしかったところではある。

 倒した後最終的には名乗ることにはなるけれど敵に余計な警戒感を与えて良いことなどない。
 ただ名乗ってしまったものは仕方がない。

「騎士団だと!?クソっ……だから村ごと襲うのはやめとけって言ったのに……しかし他に騎士を連れちゃいないところを見ると訳ありみたいだな! お前ら、国に知られる前にやっちまうぞ!」

 各々武器を構えてリュードたちに襲いかかってくる。
 けれども武器を持っているのはその場にいる半数だけ。

 若そうな男女3人なら簡単に倒せると思っていた男たちだったのだがあっという間にやらてしまって、武器を持たない男たちは呆然としていた。
 お飾りなどと言っていたアリアセンもいい動きをしている。
 
 盾を上手く使い、堅実に相手を倒している。
 ガイデンの戦い方の片鱗を感じる。

 後は偉そうな男と武器を持たない10人にも満たない男たち。
 武器を持っていても勝てなかったのに武器を持っていない男たちが素手でかかっていっても勝てるわけがない。

 命を捨てて戦うことなんてしない。
 男たちはあっさりと降参した。

 悪臭で追い出すという作戦が功を奏して武器も持たずに洋館から逃げ出したので戦える人数が思っていたよりも少なくて楽な戦いになった。
 リュードたちも死ぬほど臭いけど分かっていれば我慢はできる。

 ルフォンはかなり辛そうだったので男たちの監視を任せてリュードとアリアセン捕まっていた人たちを助けに向かった。
 聞いていた通り地下にさらわれた人たちは捕われていた。

 男たちのリーダーが持っていた鍵で地下牢の鍵を開けて臭いに苦しんでいた誘拐されていた人たちを助け出した。
 なんとかみんなを連れて外に出たが、この洋館は臭いが染み付いてしばらく使うことが出来ないだろうなとリュードは思った。

「あれを使おう」

 村は全壊していた。
 証拠隠滅などの目的もあったのだろうがもはや帰れるような状況でもない。

 洋館横に停めてあった荷馬車があったのでそれに誘拐された人たちを乗せて移動させることにした。
 幸いデタルトスまでは近かったのでそこまで向かうことにした。
 
 捕まえた奴隷商の男たちも拘束して連れていく。
 人数が多かったので歩きの人も出たけれど交代交代で馬車に乗せて運ぶことにした。

 想像以上の大所帯になってしまった。
 
「何をしてきたんですか?」

「まあ色々あったんだよ……」

 リュードたちの無事を喜びながらも何をしているんだという表情をエミナがしていた。
 誘拐された人たちは精神的にも肉体的にも弱ってしまっていたので急いだ。
 
 デタルトスに着いた時荷馬車に多くの女性や子供を乗せて、縄で繋がれた男たちを引き連れたリュードたちは大いに目立っていた。
 異常な集団を見て飛んできた町の衛兵にアリアセンが事情を話す。
 
 さすがに騎士団の副団長ともなると話が通るのは早い。
 あっという間に兵士が集まってきて男たちを連行していき、村の人たちを保護した。
 
 事後の説明や処理はアリアセンと集まってきた兵士たちに任せてリュードたちはこっそりとその場を離れた。
 アリアセンは何か言いたげだったけれど説明に追われて引き止められずリュードたちは隠れるように宿を探しに行った。
 
 面倒なことは避けたいので後で話を聞きたいというならいいけど、みんなが見ている中で大人しく最後まで付き合う気にはなれない。
 宿を取り荷物を置いたら次は飯。
 
 大人数をいきなり抱えることになったのでどうしても食料問題があった。
 若くて元気なリュードたちは節制して子供たちに多く食料を分け与えた。
 
 空腹までいかなくとも全員に食べさせるには満足な量を与えることはできなかったのだ。
 港湾都市なので魚が上手いと聞いていたが、体力的にも店を吟味する余裕もなくとりあえずで食事をとった。
 
 だからあえて魚料理は食べず肉料理を中心に食べてお腹を満たした。

「ちかれたー」

 ヤノチがベッドに倒れ込む。
 肉体的疲労と言うよりも精神的疲労が大きい。

 さすがのリュードやルフォンも気疲れしてしまった。
 まあ護衛的な動きも経験することが出来たし良かったと前向きに考えてもみる。

「とりあえず今日明日は休んでそれから活動しようか」

「はーい」

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