「皮肉にも、TNDHが一番ミク奪還に近い道筋だったからな。襲撃に乗りはしたが、お前を殺させはしない」

「お、お前……本当に、なんなんだ……」


 訳が分からない。
 オレの部屋に乗り込んできたくせに、ショットガンを向けてきたくせに、本当に何もしないどころか、拘束具を解いてくれた。

 コウメイはまた前を向いて歩きながら、父ちゃんに似た口調で言う。


「マモルに拾われて、育てられた孤児だ。マモルがミクを必死に助け出そうとしてたのは、俺が一番よく知ってる」

「父ちゃん……」

「あぁ……今分かった。ミクのその口調は、マモル譲りか。通りで女らしくないと思った」

「なっ!? いいだろ、別に! お前だって父ちゃんそっくりじゃねーか!」

「俺が? ……まぁ、長いこと一緒に暮らしてたからな。そうか、俺にもマモルに似てるとこがあったんだな」


 笑いが滲んだ声は、どこか嬉しそうで、どこか寂しそうに感じた。
 人の父ちゃんを呼び捨てにしておいて……なんなんだ。


「マモルが亡くなった今、その遺志を継げるのは俺だけだ」

「は……亡く、なった……?」


 どういうことだ。

 オレの足が止まった時、曲がり角からショットガンを持った男が出てきた。


「お前は……」


 男の声がした後、近くでドンッと低い銃声がする。
 後ろにのけぞって倒れたのは、曲がり角から出てきた男の方だ。

 コウメイが、撃ったのか……?


「な……」


 にを、と、そう言おうとした。


「ミクの命を狙う奴らだ、生かしておく必要はない」


 そう言ったコウメイの声は、冷たかった。
 倒れた男に視線を囚われる。

 あいつ、死んだの、か……?


「……嘘だよ。この銃は特殊でな、人の記憶を失くす変わった弾丸を放つんだ。ついでに撃たれた奴は気絶する」

「気絶……」


 そうか、死んだわけじゃないのか。

 肩に入った力が抜けて、ホッと息を吐く。
 オレを横目に見ていたコウメイは「起きないうちに行くぞ」と言って、歩き出した。

 オレも、コウメイから離れないように慌てて付いて行く。


「……マモルは、流行り病だった。最期まで、ミクを助けることだけを考えていたよ」

「……! いつ、亡くなったんだ……?」


 尋ねる声が震える。
 唯一の家族が、オレが研究施設に連れて行かれる時、最後まで抗ってくれた父ちゃんが、死んだなんて。

 コウメイは、前を向いたまま答える。


「4ヶ月前」

「っ……そう、か……」


 唇を噛んで、ギュウッと拳を握りしめる。

 オレ、父ちゃんが死んだことも、知らなかったんだな。


「――、――」

「――、――?」


 後ろの方から、誰かの話し声が聞こえる。