出会いは突然だった。
聳え立ったビルを物珍し気に見上げる、白いパーカーを着た少女。
頭をすっぽりと覆い隠すように、懸命にフードを引っ張る手は、白く白く、透き通るような肌をしていた。
それが人通りの多い駅前でなければ、僕も気にせず通り過ぎていただろう。
けれど、立ち止まっている彼女を迷惑そうに避ける人々を見て、僕は足を進めていた。
いや、それは周りの人が迷惑そうにしているから、という理由からではなかったのだけど。
「あの……」
そこに立っていると、危ないですよ。
そう告げるはずだった声は、ビクリと肩を跳ねさせた彼女を見て止まった。
振り返った彼女の顔も、驚きでフードを離してしまった手と同じくらい白い。
真っ直ぐ僕を射抜いた丸い瞳は、空を閉じ込めたような青色をしていて、目を奪われた。
パサッと滑り落ちたフードから現れたのは、陽の光を反射するような白銀の髪。
間違いなく、日本人じゃない。彼女と僕は見つめ合った。
一拍の後、彼女は慌てた様子でフードを深く被り直して、「ゴメンナサイ」と小さく告げる。
それはまだ不慣れな日本語だった。
何か言葉を返す前に走り去ってしまった彼女を、数日経っても記憶に残していた僕は、もう一目惚れというものをしていたのかもしれない。
次に彼女と会ったのは、ホームルームが始まった朝の教室だ。
彼女は転校生として紹介され、背後の黒板にエステル・ケルヴィネンという見慣れない名前を背負っていた。
その時の彼女は黒髪のウィッグを被っていたから、青い瞳がさらに映えていたっけ。
彼女の本当の姿を知っていた僕は、クラスメイトの中でも特異な存在だったと思う。
意図せずして秘密を共有する間柄から、恋心を共有する恋人へと転じたのは、数か月の内のことだった。
それまで「小瀧クン」と呼んでいた彼女も、今では「世那」と呼んでくれるようになっている。
「ん~、美味しい!」
薄いベージュ色の皮に包まれたクリームを頬張るエステルは、青い瞳を細めていてなんとも幸せそうだ。
僕も手に持ったクレープを一口食べて、もちっとした皮とふわふわの甘いクリームを味わった。
「放課後にクレープを買い食いしてる女子高生が、実はさる国の王女様なんてねぇ」
「あ~、信じてないでしょう!? もう、本当なのよ? わたしは継承権を持ったちゃんとした王女ではなかったけれど」
頬をぷくっと膨らませて、エステルは僕を見上げる。
今日も黒いウィッグの下に隠された白銀の髪は、輝きを放つほど綺麗なのだろう。
「だって……あー、なんだったっけ? 聞いたことのない国だったし」
「仕方ないでしょう? 日本とは比べ物にならないほど小さな国だもの。わたしは凄いのよ? 妖精の血が……」
ころころと鈴が鳴るような高い声で語っているエステルの肩に、どこからか現れた半透明な蝶が止まった。