説明義務のある話も終わり、理由をつけて柿原を追い出した僕は、いよいよ真奈美さんの“想い”の背景に迫ることとなった。
手がかりとなるのは、勉強机から感じる“恐怖”の念。
しかし、“想い”が残るほど真奈美さんにとって重要な物であるアレには、容易に手が出せない。
慎重に、けれど容赦なく、話を聞き出すとしよう。
「まだ話していませんでしたが、“引き受け屋”は“想い”の背景を理解せねば、“想い”をちゃんと引き受けることができないのです。ですから、真奈美さんにはあなたの“想い”について話していただきます」
「え、と……」
やはりと言うべきか、真奈美さんは僕の言葉を聞いて顔を曇らせた。
視線が俯きがちになり、迷うように右へ左へと移ろっている。
「柿原から昇華して欲しいと依頼されたのは、真奈美さんが抱く“外への恐怖”です。どうやら去年から学校に行けず、外にも出れなくなってしまったようですね」「は、はい……」
「ご家族には、学校に行けなくなった理由も、外に出れなくなった理由もお話できていないとか」
「……そう、です」
先ほどまでと比べると、極端なほどに声が弱々しくなっている。
もう顔も上げられないようだ。
その姿は多少良心が痛むが、相手のためなのだから手を抜いてはいけないと、兄上に言われている。
「ご家族には、どうして話せないのですか?」
「……その……」
「柿原やご両親が信用ならない?」
「そっ、そんなことありません! お兄ちゃんも、お母さんもお父さんも優しくてっ、だから……っ」
彼女は“いい子”だと思ってわざとマイナスな理由を挙げたのだが、予想通り引っかかってくれたようだ。
勢いよく顔を上げて弁解しながらも、その視線は僕から逸れ、段々と俯きがちになっていく。
今日話してみて感じた彼女の気質と、柿原から“想い”を感じ取った時に流れ込んできた彼女のイメージを踏まえて、詰まった言葉の先を考えてみる。
「だから、言いづらい?」
「…………心配を、かけたくないんです……」
「理由が分からない今も、ご家族は真奈美さんのことを心配していると思いますが」
「……分かって、います……でも……」
「話したら、もっと心配させてしまう、と」
「……はい」
真奈美さんが抱える“想い”について分かったかと言えば、進展はないが。
少なくとも、家族に話せない理由は明かすことができた。
ならば、こういったアプローチができるのではないだろうか。
「でしたら、家族ではない僕には話せませんか? もちろん、ここでお聞きしたことを他の誰かに話すことはありません」
「……でも……」
渋りながらも、これまでとは違った様子を彼女が見せる。
ちらちらと視線を向けて気にしているのは、勉強机?
先ほどまでは何かを堪えている様子だったのに、怯えが見え始めたのも気になる。
あそこに、彼女が恐怖を抱く元凶があるのか?
「……実は、真奈美さんのお部屋に入った時から、気になっていることがあるんです」
「え……?」