絶対零度の瞳だった。


「陳腐な台詞だな。程度が知れる」

「……は……?」


 綺麗な花には棘があると言うが、どうやらあれは本当のことらしい。
 涼しげな美男子の口から飛び出したのは、随分と棘のある言葉で、俺は呆気にとられた。

 そんな俺の肩を、友人が掴んで引き寄せる。
 男は、何事も無かったかのようにテーブルに向き合って、やたらと綺麗な所作で食事を摂り始めた。


「噂のイケメンだよ。毒舌で有名な。関わらない方がいいぜ」


 小声で囁かれ、ようやく思い出す。
 そういえば、そんな話を聞いたことがあった。

 学年は俺と同じ、1年。
 文武両道で礼儀正しい反面、気安く声を掛けると今のように冷水を浴びせられる。

 どっかのお坊ちゃんっていう噂だったり、はたまた貧乏で節約の鬼っていう噂だったり、その実態は謎に包まれている。
 名前は確か、カナセ、とか何とか。


「それよりも恭介(きょうすけ)、都市伝説なんて興味あったんだな」

「んぁ? まー、全くないことはないけど……“引き受け屋”はそういうので調べたわけじゃないぞ?」

「はぁ? じゃあ本気にしてたってのか? 恭介が忘れたい想いって何だよ、盛大にやらかした時の羞恥心とかか?」

「いやいや、そんなん頼まなくても1日で忘れるって、俺。そうじゃなくて、妹になんかしてやれないかなって」

「妹? 失恋でもしたのか?」

「失恋だったらとっくに俺は役に立ってる。何せ振られまくりだからな。……あ、やべ、自分で言ってて悲しくなってきた……」


 彼女はできても、いつも「恭介とは友達でいたいから」とお決まりの台詞で振られてきた思い出が蘇って、胸が痛くなる。
 本当に、示し合わせたのかってくらい同じ理由で振られるから若干トラウマになってるんだよな。


 って、そうじゃない。「妹がさ、ずっと学校に行けてないんだよな。前はすっげー楽しそうだったのに、今は友達と遊ぶのも無理みたいで」

「へー、不登校ってやつ? 恭介(きょうすけ)の妹とは思えないな」

「おいっ! まぁ、俺も思うけど。うちの妹ほんと可愛いんだよな~」

「シスコンかよ」


 茶化す友人の言葉も気にならない。
 真奈美(まなみ)と話せば、誰だって俺みたいになるからな。

 2つ下の俺の妹は、1年前から家に引きこもっている。
 家族の前では笑顔を見せてくれるけど、一歩でも家の外に出ようとすると、途端に震えだして異常なくらい怯えてしまうのだ。

 何かあったのかと聞いても、「なんでもないの。ごめんなさい」とばかり言って、学校に行けなくなった理由さえ俺達家族は分からない。

 今時わざわざ手紙を書いてポストに入れてくれる友達が居るみたいだし、真奈美もその手紙を楽しみに待っているくらいだから、友達との関係がこじれているわけじゃないだろう。