五勇戯貴族〜俺たちは勇者に憧れ冒険者になった。だけど英雄になれと言われたので、勇者になる夢を抱いたままその道を進もうとおもう〜*願望の宝玉編*

 ホワンとはかなげな小さな光が、

 『この能力はもともと--』

 そうリューセイの耳元でささやく。そして、その能力について話し始めた。__


 __五人が身につけている装備には、特別な術が施されている。

 そして各々に見合った能力が、ある一定のレベルに達すると発現するように細工されていた。

 そう、リューセイの装備にも同じような細工がされているのだ。

 だがその能力は、ある程度の経験を積んでからでないと、かなりの体力を消耗するため今のリューセイじゃ使いこなせない。

 そのためその光の主は、ある条件を付与したうえでリューセイの能力を解放すると告げる。

 その能力とは……。__


 『解放後、この能力を使うことができます。それと、ここはあなたの望む幻の世界。ですので、』

 さらに淡々と説明する。だがそんな中、暴れていた黒竜は徐々に正気を取り戻しつつあった。

 それに気づいた光の主は、急ぎ話を進める。

 リューセイはその話に耳を傾けていた。

 (やっぱり、この世界は幻。それに話を聞く限り。この世界で能力を使えば、俺が望むような展開になる。
 だけどそれだと願望の宝玉、イヤこの宝玉に細工した者の思うツボになるとも声の主が言っていた。
 って事は、俺がこの状況をどう切り抜けるかで。この世界から抜け出せるか決まるってことか。
 だがそもそも今、俺に話しかけているのは誰だ? それになんのために、)

 そう思考を巡らせ始める。

 『--説明は以上です。ここからは、あなたの腕次第となり試練の場になるでしょう。その能力を、この世界でどう使うか楽しみです。--期待していますよ』

 そう告げその光は、リューセイのまわりを時計回りに旋回し始めた。それと同時に、緑色に発光しながら魔法を唱えリューセイの回復をする。

 すると、リューセイの傷と体力が回復した。

 (回復してる!?)

 そう思い起き上がり、無造作に地べたに座り込んだ。

 だが謎の声の主はその異変に気づいた。

 『これは……。いったい何が起きている? 自力で回復したとも思えません』

 この世界で何が起きているのかと、くまなく探り始める。

 だがリューセイとその光の主は、謎の声の主が気づき始めた事を知らない。

 そんな中その光は、リューセイに左手の甲を上向きにするように指示する。

 リューセイは、立ち上がり言われた通りにした。すると左手の甲の上にその光がとまる。

 そして詠唱すると、右手の甲に魔法陣が浮かび上がってきた。

 それと同時にリューセイは、言われた通り左手の甲に描かれた魔法陣に右手を添える。

 (よしっ! 黒竜を倒せるぐらいのすごい剣を--)

 そう頭の中でイメージした。すると、リューセイの左手に描かれた魔法陣が光りだす。

 そして、左手に添えた右手で剣を抜くようにイメージする。すると魔法陣から、目がくらむような光が放たれ辺り一面に広がった。

 それと同時にリューセイは、右手に柄頭があたるのを感じ取るとおもむろに剣をぬく。

 そして謎の声は、その光景を目の当たりにし驚くのだった。

 『これは、どうなっている!?』
 謎の声の主が気づき監視する中リューセイは、光の声に言われるまま左手に描かれた魔法陣に右手を添える。

 そして頭の中で、黒竜を倒せるぐらいのすごい剣と願いながら思い浮かべた。

 すると左手の魔法陣が光りだし、添えている右手で剣を抜くようにイメージをする。

 そのあと目がくらむような光が、辺り一面に魔法陣から放たれた。

 それと同時に柄頭が右手にあたるのを感じ、おもむろにひき抜くと剣の形になっていく。

 そして、完全に抜き構え直すと剣が大きくなる。

 それを見て一瞬だけ驚いた。だがそのあと剣を見据える。

 (ちょっと待て!? こんなに大きな剣。俺に使いこなせるのか? だけど、持った感じだと全然重くない。どうなっているんだ)

 そう思っていると、その光の主がリューセイの耳元でささやいた。

 『なかなか良い剣ですね。あとは、あなた自身の魔力と思いをその剣に注いでください。そのあと名前を付ければ完成です』

 少し間を置くと、ふたたび話しだす。

 『それとその剣の重さが感じないのは、もともとあなたの幻想から生みだされた剣だからです』

 「そっか。……って! なんで口に出してないのに、」

 『今は口を閉じてください。気づかれてしまいます。なぜ分かったのかは、あなたの脳内にアクセスし思考を探りながら話しているから』

 そう言われリューセイは、納得しうなずいた。

 『では話を続けますね』

 そう言いその光の主は話し始める。

 リューセイはその話を聞いていた。

 (現実の世界でこの能力を使えば、かなりの体力を消耗する。それに、今の俺のレベルじゃ使いこなすのがやっと。
 そのためにこの声の主が、さっきこの能力に条件を付与した。この世界でのみ、フルで使いこなせるようにと。
 あと現実の世界では、いざという時に発動し使える。だけど体力は、体内にあるだけ消耗するのかぁ。
 でも、扱えるレベルに達すれば。体力がわずかに消耗するものの、好きな時にこの能力が使えるとも言ってたな)

 光の主の話を聞きながらリューセイは、いろいろと思考を巡らせる。

 そうこうしていると黒竜が落ち着きを取り戻し、大きな口を開け自分の手に刺さった剣をくわえようとしていた。

 『黒竜が、正気を取り戻しました。これは、急がなければなりませんね。では、その剣に思いと魔力を注ぎ命を吹き込んでください』

 そう言われリューセイは、大剣を両手で握り締め目の前にかざしみつめる。

 そしてその大剣に、自分の思いと魔力を注いだ。

 (あとは名前だけかぁ。ん〜、幻想から生まれた剣。それに強そうな名だと。そうだ! あの本の勇者が持っていた剣に似た名前にしよう)

 そう思い大剣を両手で掲げながら、

 「幻ノ大剣エクニスカイザー!!!!!」

 と大声で叫んだ。

 それと同時に、剣全体が虹色にそまる。そしてまばゆい光を放ちその剣は、徐々に完全な姿へと形成された。

 その剣が形成されると柄頭から刀身の途中まで、青、白、黒、紫、緑、五体の竜が四方八方に巻きついていく。

 (よし! これならいける。あとは頭に浮かんだ技名を言えばいいんだよな)

 『さらに良い剣になりましたね。では私は、いったん身を隠します』

 そう言いその光の主は、パッとリューセイの目の前から姿をけす。

 そしてリューセイは、エクニスカイザーを構え直すと黒竜を鋭い眼光でにらみ付けた。



 そんな中謎の声の主は、その光景を目のあたりにし驚き何が起きているのかとさぐった。

 そうこうしている内に、リューセイが大剣を完成させてしまい考えている余裕はないと判断する。

 すると自分の魔法を付与し、さらに黒竜を強くした。

 『これなら大剣を使う前にあの者を、』

 そう言うとあたかも勝利したかのように、『アハハハ、』と高笑いする。

 そしてその後リューセイと黒竜は、互いににらみ合っていたのだった。
 謎の声に黒竜は強化魔法を付与され、「グオォォォォー!!!」と鳴きさけんだ。

 その後、すぐ落ち着きをとりもどすと変化に気づく。

 (うぐ。なんだこれは!? 体の奥底から力がみなぎってくる!
 誰がこの力を付与したというのだ。だが、まぁ誰でもよいわっ。このワレに味方する者なのだろうからな)

 そう思うと黒竜は、リューセイを鋭い眼光でにらんだ。

 強化されその目は黄色から赤に染まり血走っている。

 黒竜は「ガオォォォォー!!」と、おたけびを上げリューセイを威嚇した。

 リューセイは一瞬ビクッとする。

 (大丈夫。た、多分。それにここは俺の夢の世界だしな)

 心の中で自分にそう言い聞かせた。



 その時、謎の声はというと。

 『さぁ黒竜よ! 思う存分あばれなさい。この幻想世界に彼を永久に閉じこめるのです』

 そう言いながら謎の声は、『アハハハハッ……』と高笑いをする。

 そして、リューセイと黒竜の戦いをみていた。



 そんな中リューセイは、なんとか落ち着きをとりもどす。

 そして体勢を立て直すと、幻ノ大剣エクニスカイザーを目の前にかざした。

 「よし! あとは頭に浮かんだ技名を叫ぶだけだ」

 そう言いリューセイは、黒竜を鋭い眼光でにらんだ。

 「ほう。まだそんな気力が残っているとはな。勇気だけは認めてやろう。だがその余裕すらないほどに、おまえを消し去るのみ」

 そう言い黒竜は、魔法を唱え始めると大きな口をあけた。

 それを見てリューセイは、急ぎ技名を思い浮かべようとする。

 「……ん?」

 だが、なぜか技名が頭に浮かんでこない。

 (いったいどうなっている? なんで技名が思い浮かんでこない!)

 そう思いリューセイは悩み始める。

 しかし黒竜がそれを待つわけもなく。既に紫色の大きな魔法陣が、黒竜の目の前に浮かび上がっていた。

 リューセイはそれに気づいたがそんな余裕すらない。そしてどうこの場を切り抜けようかと、ありったけの思考をフル回転させる。

 (クッ、このままじゃ)

 魔法陣が完成すると黒竜は大きく息を吸いこんだ。そしてすかさずリューセイへと目掛け、凍てつくような紫色の息を勢いよく吐きだした。

 リューセイは間に合わないと思い、とっさにエクニスカイザーを目の前にかざす。すると大剣を覆いつくすように光りだした。

 すると、その大剣に黒竜が放った魔法があたる。

 必死にリューセイは、その魔法を大剣で押し返そうとした。だが、その魔法の威力がありすぎて耐えるのがやっとだった。

 (これじゃもたない! それに、このままじゃやられる)

 リューセイは、その魔法に耐えていたが力つきる。そして後ろへと弾き飛ばされ、思いっきり地面にたたきつけられた。

 「グハッ、」

 (な、なんなんだ! あの光の主が言った通りにしたはず。それなのに、なんで技名が浮かばない。だけど、なぜか剣が守ってくれた。どうなっている?
 んー……ん? そういえば黒竜を倒したとして。そもそも、本当にこの世界から解放されるのか?
 それに、そこまでは言っていなかったよな。って事は、もしかしたら黒竜を倒す以外に方法があるんじゃないのか)

 そう思いリューセイは、エクニスカイザーのおかげで先程よりダメージがなく、よろけながらも立ち上がる。

 そしてあざ笑うかのように黒竜は、そんなリューセイを見おろしていたのだった。
 リューセイは、よろけながらも立ちあがった。そして大剣を構えなおすと、黒竜を警戒しながらどう切り抜けたらいいのかと考えはじめる。

 (ハァハァ、黒竜を倒す以外の方法があるとして。それが、なんなのか分かればいいんだけどなぁ)

 だが、そんなことを考えている余裕すらない。

 そう黒竜がドスドスと地面を踏みならしながら、とてつもなく大きな音を辺りに響かせリューセイのほうへと向かって来ていたからだ。

 それを見てリューセイは、とっさに体がうごき黒竜から遠ざかると近くの岩陰にかくれる。

 そう、むやみに黒竜に挑むのは無謀だと思ったからだ。

 「ムッ、なぜ逃げる!? まさか怖気付いたのではないだろうなっ!」

 そう言うと黒竜は、「ガオォォォォーン!」とおたけびをあげた。

 リューセイは驚き身をすくませるも、大丈夫だと言い聞かせ気持ちを落ち着かせる。

 「クッ、いったいどうしたらいいんだ」

 そうこう考えるが、いっこうに何も思い浮かばない。そして気持ちばかりがあせる。

 片や黒竜は右手を大きく振りあげ、天井から突き出ているとがった岩に思いっきり振りおろす。すると、とがった岩にあたりくずれおちる。

 そのとがった岩は、リューセイが隠れている岩壁にあたった。

 だがしかしその岩壁がくずれるも、そこにリューセイはすでにいない。

 そうリューセイは危険を察知し、黒竜の死角をつきこの場から遠ざかる。そして、別の岩陰に隠れて身をひそめていたのだ。

 (ふぅ〜、危なかった。でも、このまま逃げてばかりもいられない。だけど、ん? あーそういえばっ! ほかにも倒す相手がいるじゃないか。
 そもそもこんな目にあっているのも、ソイツ(謎の声)のせいだしな)

 そう思いリューセイは、ニヤリと笑みを浮かべる。そして体勢を整えると、大剣(エクニスカイザー)を構えなおした。

 そしてリューセイは、恐る恐る黒竜の前に姿をあらわす。

 黒竜はリューセイがおらず、イライラしながらキョロキョロと周囲を見まわしていた。

 するとリューセイが目の前に立っていたため、コケにされたと思い怒りをあらわにする。

 「グヌヌヌヌッ、よくもワレをコケにしてくれたなっ!」

 「へっ? って、おいっ!」

 リューセイは、黒竜が言っていることが理解できず困惑した。

 だが、今はそんなことを考えている余裕がないと言い聞かせ体勢を立てなおす。そして、大剣を両手で握りなおすと頭上にかかげた。

 (今度こそ、)

 それと同時に、倒すべき相手(謎の声)のことを思い浮かべる。

 (この幻想の世界を壊すためには--)

 そう思い両手で大剣をつよく握りしめる。すると大剣をおおうように光りだした。

 「ほう。面白い!」

 怒りをあらわにしていた黒竜だったが、それを見て冷静さをとりもどす。そして魔法を展開しようと詠唱を唱えはじめる。

 だが時すでにおそし。リューセイの脳裏に技名が浮かんだ。

 (よしっ! これならいける)

 《幻竜秘剣 水渦の刃!!》

 そう叫ぶと、さらに大剣が光りはじめる。そして大剣から光が上空に放たれると、青い大きな魔法陣が真上に描かれた。

 そこから青い竜が姿をあらわし、渦をつくるように旋回しながら下降する。

 するとまわりが大きく揺れ、ゴオォォッとうなり辺りに響きわたった。

 青い竜は旋回していたが、急降下し大剣に吸い込まれるように姿をけす。

 その直後、大剣が青くまばゆい光を放った。

 それを確認すると、リューセイは大剣を握りなおす。そして謎の声に攻撃するべく黒竜に目掛け思いっきり大剣を振りおろした。

 すると大剣から青い竜が放たれる。

 「いけぇー!」

 その青い竜は粒子となり鋭い水の刃になる。そして回転しながら大きな水の渦へと変わっていった。

 黒竜は、魔法を唱えていたためにうごけない。

 (グッ、これは……まずい、)



 その頃、謎の声はと言うと。

 『フフッ、まぁいいでしょう。この世界が壊されたとしても。この私が、彼の息の根をとめればいいのですからね』

 そう言い余裕な表情でその戦いをみていた。



 場所はもどり。鋭い刃とかした水の渦は、だんだんと大きくなるにつれて鋭さが増していった。そして、その鋭い水の渦は動けない黒竜に勢いよくあたる。

 黒竜は何もできず激痛と悔しさのあまり、「ギャオォォォォォォーン!!!!!」と鳴き叫んだ。

 その鋭い水の渦が黒竜の体をつらぬき、さらに速度を増していった。そしてその鋭い水の渦は、そのまま天井へと急に上昇しはじめる。

 天井を切り裂くように鋭い水の渦は回転し続けた。そして、何かを察知したかのようにその場で静止する。

 すると、さらに渦をつくるように横に大きく回転しはじめた。

 「ん? これって!」

 とその時、リューセイの脳裏になぜかある言葉が浮かんだ。そしてその言葉をさけぶ。

 《幻水竜爆殺!!》

 そう言うと、天をつらぬくように大剣を高くかかげる。すると大剣から青い光が水の大渦に向かい勢いよく放たれた。

 その青い光は、大きな水の渦の中央をつらぬき吸いこまれるようにきえる。と同時に、その水の渦に電気がはしった。

 そして水の渦が、一気に凝縮されたと思った瞬間。

 「バアァァーン!」

 弾けるような大きな爆発音が、地響きとともに辺りに響きわたる。すると、激しい爆風とともにこの幻想の世界が吹きとばされた。

 そしてリューセイは、そのまま現実の世界へととばされる。



 その頃、願望の宝玉がある洞窟の最深部では__

 リューセイが放った攻撃は、謎の声……いや、余裕をぶっこいていた謎の影にあたる。そして、そのまま近くの岩壁に激突した。

 「クッ、……。ま、まさか--」

 すると謎の影は、リューセイの攻撃をモロにうけ術が解けてしまい姿をあらわす。

 それに気づき、この場を離れようとした。だが自分の目の前に、リューセイ達が立っていることに気づきこの場から動けなくなる。

 そしてリューセイ達は、身動きがとれずにいるその者(謎の影)のことを見おろしていたのだった。
 ここは、願望の宝玉がある洞窟の最深部。リューセイ達は、ここに戻ってきていた。


 あれからイシスは、母親の魔法で転移させてもらい。四人は、宙に浮いた宝玉から光とともに現れる。

 そして五人は横一列に並び、その足元付近に宝玉が無造作にポタッと落ちる。


 五人の目の前には、傷だらけの緑髪の女性(謎の影)が岩壁に寄り掛かりながら座り込んでいた。

 (クッ、まさか不覚にもこの私が……。このままでは、非常にまずいですね)

 そう思い考えるもこの場を切り抜ける方法がみつからない。

 (うむ。彼女はいったい)

 緑髪の女性を見てクライスは、何者なのかと小首をかしげる。

 アベルディオとユリエスとイシスは、ケガをしているその女性をみて心配していた。

 (この人が。だけどなんのために)

 リューセイはその女性がケガをしていたため、光の主の言っていた者だとわかり鋭い眼光でにらむ。

 そうその傷は、自分が負わせたものに間違いないと確信したからだ。

 緑髪の女性は、自分に向けられたその鋭い殺気を感じとりその視線の先にいる者をみる。

 (あの四人は気づいていない。だけどコッチの彼は、)

 そう思い下を向いたまま、上目づかいでリューセイをキッとにらんだ。

 だがリューセイからは、その緑髪の女性の表情がみえない。しかし、その鋭い殺気だけは感じとっていた。

 (なんて殺気だ。今にも体が射抜かれそうだ)

 そう思いその女性のほうに歩み寄ろうとする。

 四人もまたその殺気に気づいた。

 「待て!! 何があったのか知らないが、相手は女性だ」

 そう言い放つとリューセイの手をつかみ行く手をさえぎる。

 「 放せっ! アベルディオ。あの女は、俺たちをハメタ張本人だ!!」

 そう言いその手を払いのけた。

 「それはどういうことだ?」

 「クライス。この女は、俺たちを殺すつもりだった。宝玉に細工してな!!」

 それを聞き四人は、驚きその女性のほうをむく。

 「クッ、」

 (どうしたら……そうですね。私を攻撃した彼は、厄介ですが。この四人ならだませそうですねぇ)

 そう思いニヤリと笑みを浮かべる。

 「あのぉ。私があなた方を、なぜ殺害しなければいけないのですか?」

 そう問われリューセイは、どう返答したらいいのかと戸惑った。

 その様子を見てその女性は、これならばうまくいくと思いさらに話し始める。

 「ここへは、村で宝玉のうわさを耳にしどんな物なのかと拝見したく赴きました。ですが、なぜか彼に攻撃され」

 泣いているフリをしながらリューセイを指さす。

 そう言われリューセイは、ムッとした表情になり言い返そうとする。

 「俺は、」

 「おい待てっ!」

 クライスは、リューセイが反論しようとするのを遮りとめる。

 「なんでとめる?」

 「いいからコッチに来い!」

 リューセイは、そう言われ渋々うなずく。

 するとクライスはアベルディオに小声で、

 「どうも状況が把握できん。それに、彼女の言っていることを信じたい。だが、リューがウソをつくとも思えんしな」

 そしてその後、緑髪の女性を見張るように伝える。

 すると無表情のままアベルディオは軽くうなずいた。

 それを確認したクライスは、ついて来いとリューセイに合図をする。そして二人は、アベルディオ達から離れた場所に移動した。

 (どういう事? まさか、信用されなかったとでもいうの。ですが、まだそうとは限らない)

 そう思い悩み思考を巡らせる。



 リューセイとクライスは、緑髪の女性が目視できるぐらいの位置までくると話しだした。

 「ここまで来れば大丈夫だろう。それで、いったい何があった?」

 「実は、」

 幻想世界で何があったのかを事細かに説明した。

 それを聞きクライスは事情がわかり納得する。

 「そんな事が。んーでもなぁ」

 「ねぇ、二人とも」

 そうこうしているとユリエスが、いつのまにかそばに来ていて二人の話しに割って入った。

 「ユリエス。なんでここに」

 そうリューセイが問いかけるとユリエスは、ニカッと笑い話し始める。

 「アベルディオが、二人だけじゃ不安だからって」

 そう言いアベルディオの伝言をつたえた。

 「なるほど、確かにな。こんな手の込んだことを、彼女一人で企てたとも思えん」

 「他にもいるってことか」

 「うん、多分ね。だけど、ここじゃないどこか別の場所に」

 そう言いユリエスは、いつになく真剣な顔で二人をみる。

 「んー、そうなると。ソイツをあぶり出すために」

 「ああ。しばらく泳がせたほうがいいだろうな」

 そう言うと口角を上げユリエスとリューセイをみた。

 その後三人で話し合ったあとクライスは、リューセイに罵声を浴びせると思いっきり顔をなぐる。

 アタフタしながらユリエスは、それをとめようと二人の間に割って入った。

 だがこれは、勿論あくまで緑髪の女性をだますための演技だ。

 その後クライスは、怒ったような面持ちでアベルディオがいるほうへと歩きだす。

 「っう、痛え……」

 (ここまで本気でなぐらなくてもいいじゃないかぁ)

 涙目になり痛い頬をさすりながら、ユリエスと一緒にクライスのあとを追った。



 その光景を目の当たりにしその女性は、伏せたままニヤリと笑った。

 (いいですねぇ。これなら。クスッ)

 クライスは、アベルディオのそばまでくると小声で耳打ちをする。

 「なるほど。了解だ」

 その様子を見てイシスは、黙って見ていることにした。

 そしてその後アベルディオは、緑髪の女性の了解を得たあと回復の魔法を使い傷の手当てをする。

 「これは、なんとおわびしたら。リューセイの勘違いで、あのようなキズを負わせてしまい。友人代表として、謝らせていただきたい」

 アベルディオは、深々と頭を下げると同時に緑髪の女性の手をとり口付けをした。

 その女性はキスをされ顔を赤らめる。

 「あーえっと、そうねぇ。本来なら、本人に謝罪してもらいたいところですが」

 チラッとリューセイを見たあと、アベルディオのほうに視線をもどす。

 「いいでしょう。あなたに免じて許します。ですが今後、このようなことのないように気をつけてください」

 そう言うと軽く会釈をしたあと、そそくさとこの場から去っていった。

 それを確認するとリューセイ達は、ふぅ〜っと息をもらし肩の荷をおろす。

 「行ったみたいだな」

 クライスがそう言うと四人は、コクリと軽くうなずいた。そして五人は、この場を離れようと歩きだす。

 すると足元にある宝玉が光を放ち、五人の目の前まで浮かび上がってきた。それと同時に宝玉がアクセサリーへと変化する。

 そうそのアクセサリーとは銀色の竜翼でできている、指輪、腕輪、髪飾り、ペンダント、ブローチだ。

 そのアクセサリーには宝玉がはめ込まれている。

 五人はそのアクセサリーを手に取って眺めた。

 「わぁ、きれいな髪飾りですねぇ。あれ? リューセイの腕輪の宝玉は青なのですね。私のは透明なのに」

 そう言われリューセイは、三人の宝玉を順にみた。

 「ん? って! なんで俺の宝玉だけ青いんだ? みんなのは透明なのに」

 不思議に思い首をかしげる。

 そう一時的に能力が覚醒したため、リューセイの宝玉だけ青く染まっていたのだ。

 ちなみにクライスが指輪で、アベルディオはペンダント。そしてブローチがユリエスである。

 「そういやそうだな」

 そう答えるとクライスは、小さな指輪を左の小指にはめ魅入っていた。

 「そろそろ、ここを出ないか? あとのことは宿屋で話そう」

 そうリューセイが提案すると四人はウンとうなずく。

 そしてその後、この洞窟をあとにし草原へと向かった。
 あれから緑髪の女性は、転移魔法で王都ロゼレイヴィアに戻りとある貴族の屋敷の書斎にいた。

 その書斎は、周囲からみえないように閉め切っていて暗い。明かりといえば、机上の二カ所にロウソクが置かれているだけだ。

 その大きめの机の前には、険しい表情をした三十代後半ぐらいの赤いメッシュで金髪の男性が立っている。この男性は、この屋敷の当主だ。

 「なんという失態。まさか何もせず、逃げてきたのではないだろうなっ!?」

 緑髪の女性は、床に座り膝を曲げ顔を伏せていた。

 「ヒィッ! ですが、あの状況では、」

 そう言い洞窟で何があったのかと、リューセイ達のことを含め説明し始める。

 「なるほど、宝玉がなぁ。面白い、」

 そう言うとその男性は、リューセイ達を見張り邪魔をしろと緑髪の女性に指示をだす。

 それを聞き緑髪の女性は、立ち上がり一礼をするとホッとした表情で部屋をあとにする。

 そして緑の髪の女性は、ふたたびリューセイ達のいる村へと転移の魔法を使い向かった。



 そのころタイガとメリューサは、船に乗っていた。というか、正確にいえば船のキッチンの掃除をしている。

 「おいっ! なんで俺が、掃除なんかしなきゃならない!?」

 タイガはイライラしていたため、持っていたモップのような物を床にたたきつけた。

 「タイガ様。そう言われましても。乗ってきた船があの状態ではどうにも」

 そうあれから二人は、最果ての地下層から地上に出ると船をとめていた場所までいく。だが船は、海の魔生物により破壊されていたのだ。

 そのため二人は、近くを通りかかった船に乗せてもらう。だがお金をさほど持っておらず、船の掃除をするという条件で乗せてもらったのである。

 そして二人は、船の掃除をしながら次の大陸へと向かった。



 場所は移りここは、ランズベール村の北東側にある草原。あのことから二日が経過していた。


 そして二日前。あれからリューセイ達が洞窟を出ると既に外は暗くなっていた。そのため、急ぎ草原へと向かう。

 するとルルカは、安全のため魔法で結界を張り大きな木に寄り掛かり眠っていた。

 そんなルルカを起こし五人は宿屋に向かう。

 その翌日。ルルカを宿屋に残し五人は、ギルドに行きルドフにクエストの報告とルルカのことを話した。

 そしてルドフと今後のことを話し合い、数日この村である程度のクエストをこなしたら旅立つことにする。


 現在リューセイ達は、草むらに寝そべりながら仰向けになり話をしていた。

 「宝玉のこともだけど。まだいろいろと分からないことばかりだ」

 「リュー、確かにな。あの緑髪の女性が、何者なのか」

 「ああ。それに俺たちをなぜ狙ったのか」

 そう言いアベルディオは、クライスをチラッとみる。

 「だけどさぁ。昨日リューセイが言ってた、その小さな光ってなんだろう?」

 ユリエスは、いつになく真剣な顔で考えていた。

 「そうですねぇ。確か、女の人の声だったんですよね?」

 「イシス。うん、そうなんだ。でも、あのあとから姿をあらわさない」

 そうこう話をしながら五人は立ち上がり、草原の魔物を倒しながら目的のアイテムを採取し始める。

 そして五人はその後、この村にしばらく滞在したあとルルカとともに村を出て旅立った。

 だがその話しは、違う機会にということで。__

 では、今回のリューセイ達の物語はここまでですが、五人の冒険はまだ終わらず。また会える時まで………。【願望の宝玉編〜完〜】

作品を評価しよう!

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

表紙を見る
表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア