五勇戯貴族〜俺たちは勇者に憧れ冒険者になった。だけど英雄になれと言われたので、勇者になる夢を抱いたままその道を進もうとおもう〜*願望の宝玉編*

 そのころユリエスは__


 __ここは願望の宝玉が創りユリエスが願い思い描く世界。

 なぜかユリエスは屋敷の自分の部屋にいた。

 部屋の中はキレイに整えられ、机上に書類や本などが置かれている。


 ユリエスは、なんで自分の部屋にいるのか不思議に思い考えた。そして、歩きだし周囲をキョロキョロしながら室内を見渡してみる。

 (えっと。ここって僕の部屋だよね? だけど、なんでぬいぐるみが一つもないのかなぁ。まぁ、ない方がいいけどね)

 机のそばまでくると、置いてある書類が気になり手にした。

 (この書類って。確か姉さんが、忙しい父様の代わりにやってたはず。なんで僕の机の上に……。それに、どうしてこんなに山積みになってるんだろう?)

 そう思い悩んでいると、扉をノックし白髪の男性が部屋に入ってくる。そして、そばまでくるとユリエスに一礼をした。


 この男性はこの屋敷の執事でターバスという。


 「ユリエス様。そろそろ着替えをなされませ。ハルジオン公爵邸のパーティーに遅れてしまいます」

 そう言われユリエスはターバスの方をみる。

 「えっと、ターバス。パーティーって? それに、なんで僕の部屋がこんなに変わってるのかな」

 「何を言っておられるのです。今日はアベルディオ様の婚約披露パーティー。それと部屋が変わっていると言われましたが--」

 そう言いターバスは、なぜ部屋の雰囲気が変わっているのかを説明した。

 「えっ!? それって本当なの? でもまさか、あの姉さんが」

 ガクッと肩を落としユリエスは、そのまま項垂れ床に座り込んだ。

 (どういう事? 病気なんてした事がなかった姉さんが。だけど、なんでそんな大切な事を忘れてるんだ?)

 なんで姉のリリアが亡くなった事を覚えていないのかと疑問に思った。

 「どうされました。お気持ちはわかります。ですが。これからユリエス様がこの屋敷の次期当主として社交の場に、」

 「ああ。分かってるよ。だけど、」

 (だけど、急すぎる。でも、急じゃないんだよな。ただ僕が覚えてないだ、け……!?)

 そう思い納得しようとする。だが、よく考えてみると矛盾していることに気づく。

 (そういえば。そもそも、なんで家に戻って来てるのかな? さっきまで、洞窟にいたと思ったんだけど。
 それに、どう考えても変。これって現実じゃない気がする。
 ……確かに、僕が姉さんの代わりにって思った時もある。でも、それはあくまで姉さんが大変そうだったからだし。こんなの僕は望んでない!)

 そうユリエスが思うと、この世界の空間のどこかで微かに亀裂が入った。


 『これはどういう事!? 気づくのが早すぎます。いえ、その前にこれはあの者の望み--ですが、まだ手はあるはず』

 すると謎の声は、ターバスにある行動をするように指示する。


 「まさかとは思いますが、アベルディオ様に先を越されすねているのでは?」

 「す、すねてなんかない!」

 そう言われユリエスは、なぜか動揺してしまった。

 「はぁ、その様子だと図星ですね。ですが、ユリエス様も明日お見合いをされる予定になっております」

 「僕が見合い。誰と?」

 そう言われユリエスは聞きかえす。

 「リビア・セルティール様です。その様子では、やはり忘れておられたようですね。この前、御当主様がお話をされていたはずですが」

 「ちょっと待って!? 僕がリビアと?」

 驚きユリエスは、ターバスの腕を右手でつかんだ。そして、顔を赤らめながら左手で胸をおさえる。


 そうユリエスは、ずっとリビアの事が好きで遠くからみていたのだ。


 (リビアと見合いをする。この僕が……。でも、これは現実じゃない。それは分かっている。だけど、)

 そう思いユリエスは自問自答している。だがこれは……。


 『さぁ思い悩まず心の赴くままに、その望みを叶えるのです』


 「ユリエス様。何を悩んでおられるのですか。既に決められた事ですので」

 「うん、そのぐらい分かってる。だけどそれは、これが現実だった場合だよね」

 そう言いユリエスは、いつになく真剣な表情でターバスを睨みみる。

 「これは驚きました。ユリエス様がそのような表情をされるとは。ですが、現実ではないとはどういう事でしょう?」

 「そのままの意味だよ。確かにリビアの事が、今でも好きだ! だけど僕は一度、昔フラれている。それなのに、リビアが会ってくれるわけない!」


 __そうリビアとは、同級生で好きだった女性だ。

 黒髪の二箇所で纏めた三つ編みで可愛らしい雰囲気。そして、頭がよく成績は女子の中でも上位の方である。

 ユリエスは、いつも遠くからリビアをみていた。そんなある日の事リビアに告白をするも、既に婚約者がいて見事にフラれたのだ。__


 「……」

 そう言われターバスは、何も言えなくなり目が泳ぎ始める、それと同時にこの世界が崩れだす。

 (やっぱりそうだったんだ! もしかしたら、僕がリビアの事を思えばそうなるような気がした。だから、わざと考えたんだけどね。クスッ、)

 ユリエスはそう思っただけじゃなかった。もしかしたら、問い詰めれば夢から覚めると思いそう言ったのだ。


 __だが実際は、願望の宝玉が創り出した世界だったのだが。まぁそこは、結果オーライという事で__


 『まさか、わざとだと!? クウッ、してやられました。なんとズル賢い者なのでしょう。このままこの空間ごと始末を、』

 「ゴゴゴゴゴォー」と音がして、この世界がさらに崩れ始める。

 『ですが、今の状態を保つのは困難。仕方がありません。ここは、撤退した方がよさそうですね』

 そう言いその謎の声は消えた。


 「あっ! パーティーだけでも、出ておけばよかったかなぁ。美味しい物が食べられたかも。でも、まぁいっか」

 そしてその後ユリエスは、早く目が覚めないのかと思いながら待っていたのだった。
 イシスはそのころ__


 __ここはイシスが望む願望の宝玉により創り出された世界と言いたいが、なぜかイシスだけ現実のある場所に来ていた。

 イシスは、どこかの森の中にいる。その森はまるで幻想的な雰囲気を醸し出し、カラフルな花が咲き虫が飛んでいた。


 目を覚ますとイシスは、ここがどこなのかと思い辺りを見渡している。

 「ここは……。なぜか懐かしい気がします。昔、お母様と来た記憶が」

 そう思いキョロキョロしながら、恐る恐る森の奥へと歩き進んだ。

 (ここは、どこなのでしょう。ここに来たのは、幼いころだったはず。そのせいなのか、はっきり思い出せません)

 さらに奥へ奥へと向かった。すると、目の前にこぢんまりとした家が見え立ちどまる。

 (……。見覚えがあります。それなのに、やはり思い出せません)

 イシスは気になり、その家に行ってみる事にした。

 そして、玄関の前までくると扉をノックする。すると、「はーい。どちら様ぁ?」と返事が聞こえ扉が開いた。

 「えっ!? お母様、なぜこんな所にいるんですか?」

 「あらぁ、イシスじゃないの。よく、ここにいるって分かったわねぇ」

 ニコニコしながらイシスの母親は、ゆっくりな口調でそう答える。


 この銀色の髪で白く透きとおる肌のキレイな女性は、フェルシェ・レインロットといいイシスの母親だ。


 「いえ、なぜここにいるのか分からないのですが。ここは、いったいどこなんですか?」

 「そっかぁ。ここに連れて来た時は、まだ小さかったから覚えていないのねぇ。ここは、ハーフエルフが住む国の森の中よぉ」

 そう言われイシスは驚き仰け反る。

 「待ってください!? それってどういう事ですか? なぜお母様が、ハーフエルフの国に。確か、病で倒れたおばあ様の看病で里帰りされているはずでは」

 「ええ、その通りよ。ここがママの生まれ故郷ですもの」

 「へ? それって、もしかしてお母様は、」

 と言いかけるがイシスは、フェルシェをよく見るとすこしいつもと違う事に気づき一瞬話が途切れた。

 「そういえば、その耳はエルフのもの。という事は、お母様は……」

 そう聞かれフェルシェは、ニコリと笑みを浮かべる。

 「そう、ハーフエルフよぉ」

 「じゃ、それを今まで隠していたんですか?」

 「そうねぇ。人間の国にいる時は、魔法で姿を変えてたから。だけどパパは、ママがハーフエルフだって知ってるわよ」

 そう言われイシスは、戸惑い混乱し始めた。

 「ええと。それでは、この事を知っているのはお父様だけなのですか?」

 「いいえ、屋敷だとイシス以外は知ってたはずだけどぉ。確か、国では一部の人かしら?」

 「そうなのですね。それを聞き納得しました。私の魔力が、アベルディオよりも……いえ、普通ではあり得ない数値だった理由が」

 そう言うと手のひらに視線を向ける。

 「あらぁ、そうなのねぇ。そうなるとイシスは、エルフの血が濃いのかもしれないわ」

 「そうですね。そうでした。おばあ様の容体は、どうなのですか? せっかくですので、お会いしたいのですが」

 そう言い中をのぞこうとした。


 『クスッ。いい感じですねぇ。ですが、なぜ現実? 何か特別な力が働いたような。それにハーフエルフとは、』

 すこし間をおくとまた話し始める。

 『これは、慎重に魔法を使ったほうが良さそうですね。-- さぁ、あなたの望みはあとすこしでかないます。それを手に入れるのですよ』


 だがこの時、既にフェルシェは気づいていた。

 (これは、なんらかの力を感じます。イシスは気づいていないみたい。そうなると、この力によりここに飛ばされて来たみたいね。
 それはそれで嬉しいけど。んー、でもこのままじゃダメな気がするわ)

 そう思いフェルシェは、外に出ると扉を閉める。

 「おばあ様は大丈夫よ。だいぶ良くなってきてるから。それよりもその装備って、まるで魔道士ねぇ」

 「あっ、えっとこれは、」

 そう答えるとここまでの経緯を話した。

 「なるほどねぇ。クスッ、イシスが家出かぁ。それもお友達と」

 「怒らないのですか?」

 フェルシェの反応が意外だったためそう問いかける。

 「怒るわけないでしょ。男の子なんだから、そのぐらいじゃないとねぇ。そうなるとイシス。お友達のところに戻らなくて大丈夫なのぉ?」

 「あっ! そうでした。ですが、どうやってもといた洞窟に戻ればいいか分かりません」

 イシスはどうしたらいいか分からず悩み出した。

 「そうなのねぇ。それじゃ、ママが手伝ってあげるわ」

 そう言いフェルシェは、頭上に両手を掲げる。そして、聞こえるか聞こえないくらいの小声で詠唱し始めた。

 (お母様は、何を考えているのでしょう? 先程の行動といい、今の発言にしてもですが。まるで、私以外の誰かを意識しているように思います。
 私がこの場所に飛ばされて来たことと、何か関係があるのでしょうか)

 イシスはフェルシェのその行動に困惑する。


 『まさか!? あの女。気づいたというのですか? これはまずいですね。この世界を撤去したいのですが。ここは現実世界、』

 フェルシェの行動に焦りをみせ謎の声は、どう対処したらいいのかと思考を巡らせた。

 『止むを得ません。こうなったらあの者をここに残し、撤退したほうが良さそうですね。それだけでも、五人がそろう事はなくなります』

 そう言い謎の声は、その場から撤退した。それと同時にフェルシェは、掲げていた両手をイシスに向ける。

 すると、フェルシェの目の前に魔法陣が現れた。

 「イシス、お別れね。もっとゆっくり話したかったわ。だけどあなたは、ここにいてはいけないのです」

 そして、イシス目掛け魔法をはなつ。すると、その魔法のまばゆい光がイシスを覆いつつむ。

 「これは、もしかして転移の魔法!」

 フェルシェがしようとしている事が分かり納得する。

 「イシス。今度は違う方法で、お友達とここにくるのよ」

 「はい! 分かりました。お母様もお元気で、」

 そう言い互いに、いっぱいの涙を目に浮かべ別れを惜しむ。だが、生きていればまた会えると思い手を振りニコッと笑った。

 その後フェルシェは、イシスから聞いた洞窟の場所を言うとパチンと指を鳴らす。と同時に、イシスの姿がその場からパッと消えた。

 フェルシェはイシスがその場から消えたあと、謎の声の存在がなくなった事を確認すると疲れた表情へと変わる。

 「ああは言ったけど。あの子、大丈夫かしら? 誰に似たんだか。男の子なのに、おっとりしすぎてるのよねぇ」


 __誰に似てるって。どう見ても、あの性格はフェルシェだと思いますよ__


 「まぁでも。お友達と一緒なら大丈夫かなぁ」

 そしてその後フェルシェは、イシスの事を心配しながら家の中へと入っていった。
 そのころリューセイは__


 __ここは願望の宝玉が創り、リューセイが望む世界。いや、よく見るとどうも違うようだ。これはどちらかといえば、妄想の世界のようである。

 リューセイは、いかにもラスボスが出てきそうな雰囲気の地底の洞窟らしき所に立っていた。

 辺りは、地面の隙間から噴き上がる地下のマグマの熱によりシャク熱地獄である。


 リューセイは目を覚ますとなぜか剣を構えていた。

 (ここはどこなんだ? それに、この異様で脅威的な重圧感は……。てか、なんで剣なんか構えて、)

 するとどこからともなく、「グオォォォォー!」とおたけびが周囲に響きわたる。

 それと同時に、ドカドカと地響きがしリューセイのほうへと近づいてきた。

 リューセイはそれを見ると、

 「う、ウソだろぉぉ〜!?」

 と驚き叫び後退りする。

 そう巨大な黒竜が目の前までくると、リューセイを見おろしにらみ見ていたのだ。

 (なんなんだ! これじゃまるで、物語に出てくるラスボス。
 だけど……ん〜、っていうか。確か俺はみんなと一緒にいたはず。それなのに、なんでこんな所に)

 そうこう思考を巡らせながら黒竜を警戒する。

 「人間風情が、このワレを倒そうなど片腹痛いわ! 立ち向かって来たはいいが、仲間がやられるや否や逃げるとはな」

 「……俺が? やられたみんなを置き去りに逃げた、っていうのか?」

 リューセイは信じられずそう問いかけた。

 「フンッ、何を戯けたことをほざいている。それとも恐怖のあまり、その記憶さえも吹き飛んだか!」

 「……みんながやられた。それも俺は--」

 うつむきリューセイは、なんでこうなったのかと考える。

 (アベルディオ達を見捨て逃げた。……どう記憶をたどっても思い出せない。それにあの時、俺はみんなと宝箱を開けたはず。
 それなのに、なんでこんな所に? んー、今は考えても分かりそうにないし。
 その事については、黒竜を倒せば分かるかもしれない。って事は、やるべき事は一つだけだ!)

 そう思い下を向いたまま、ニヤリと笑みを浮かべた。

 「なぜ笑う? ワレに追い詰められ、恐怖のあまりおかしくなったのではないだろうな」

 「さぁな。だが、おまえの言う通り。みんなを見捨て逃げたとしてもだ。今の俺は、もう逃げるつもりはない!」

 そう言い持っている剣を黒竜に向ける。

 「フンッ! まぁいい。このまま、おまえが逃げたとしても同じことだ」

 そう言い大きな右手を振りかざす。するとそのすごい風圧により、ブオンッ!と周囲にとどろき渡った。

 リューセイは、一瞬その風圧により吹き飛ばされそうになる。

 だが、とっさに持っていた盾で、なんとかガードし数メートル後ろに飛ばされただけですんだ。

 「つぅ……。痛みが感じる。って、やっぱり現実なのか? クソッ! それなら、なんで何も覚えていないんだ」

 そう言い剣を持ち直し身構えた。


 __『これは、思っていた以上に手応えがありそうですね。さぁ自分が欲するままに、その思いを--』

 そう言い謎の声は慎重にリューセイの動きを監視する。


 そしてその後リューセイは、アベルディオ達のかたきを打ち取るべく黒竜に挑むのであった。
 リューセイは剣を構えながら黒竜がどう動くか見ていた。

 (なんてすごい威圧感なんだ。それにスキがない。どこをどう攻めたら……)

 そう思いながら、攻撃するタイミングをはかるためにいったん黒竜との間合いをとる。

 それと同時に黒竜は、逃げるなとばかりに掲げていた巨大な右手をリューセイへと目掛け振りおろす。

 それを見てリューセイは、このままじゃやられると思い、とっさに持っていた剣を目の前に迫る黒竜の右手に目掛け突き刺した。

 すると黒竜はあまりの痛さに、

 「ギャオォォーン!!!」

 と泣き叫び、ドカドカと暴れだす。


 そう黒竜は、リューセイを叩き潰そうとしていたために、思いっきり右手に力を込め振りおろしていた。

 そこにリューセイが剣を突き刺したために、通常攻撃するよりも効果があったのだ。


 黒竜が暴れだし洞窟内がグラグラと大きく揺れている。

 現在リューセイは、黒竜の右手に突き刺した剣を持ったままだ。

 そして黒竜が暴れているためリューセイは、あっちこっちに振り回された揚げ句に近くの岩壁にたたきつけられた。

 「グハッ! ……クッ、」

 リューセイは岩壁にたたきつけられ、そのまま地面にドタっと落下する。

 (っう……。クッ、いてぇ。って。ハァハァ。体が、動かない。ハァハァ。このままじゃアイツ(黒竜)にやられる。だけど--)

 そう思うも、思いっきり岩壁と地面に全身をたたきつけられ、かなりの傷を負い痛くて動けなかった。

 それに剣は、まだ黒竜の巨大な右手のひらに刺さったままである。

 (痛くて体が動かないし。剣は黒竜の右手に刺さったままだ。どうしたらいい。このままじゃ、)

 そう思い悩んだ。

 するとほわんとはかなげな小さな光がいつのまにか現れ、リューセイのまわりをふわふわと交差するように漂っていた。


 だがその光のことは誰も気づいていない。

 そうその光の主は、誰にも気づかれぬようにリューセイに近づいて来たからである。


 そしてその光はリューセイの右肩あたりに静止した。

 『……。この方が英雄となる者の一人。ですが、このままではこの世界にのまれてしまいます』

 どうも声の主は女性のようだ。それもキレイな声をしている。

 またその光はリューセイのまわりをふわふわと漂い始めた。

 『これは、まだ能力が発現されていないようです。そうなると私が手を貸すしかないみたいですね』

 その光の主はそう言いリューセイの耳元でささやきだす。

 『今から特別な力を授けます。ですが、この能力は一時的にしか使えません。それに現状のあなたでは使いこなすのも困難。ですので--』

 そう言いリューセイに説明する。

 (これって。助けてくれるのか? でも、誰が。だけど、俺が能力に目覚める、って。今、教えてくれている事が事実なら、)

 そしてリューセイは、耳元でささやくその光の主の言うことに耳を傾けていたのだった。
 ホワンとはかなげな小さな光が、

 『この能力はもともと--』

 そうリューセイの耳元でささやく。そして、その能力について話し始めた。__


 __五人が身につけている装備には、特別な術が施されている。

 そして各々に見合った能力が、ある一定のレベルに達すると発現するように細工されていた。

 そう、リューセイの装備にも同じような細工がされているのだ。

 だがその能力は、ある程度の経験を積んでからでないと、かなりの体力を消耗するため今のリューセイじゃ使いこなせない。

 そのためその光の主は、ある条件を付与したうえでリューセイの能力を解放すると告げる。

 その能力とは……。__


 『解放後、この能力を使うことができます。それと、ここはあなたの望む幻の世界。ですので、』

 さらに淡々と説明する。だがそんな中、暴れていた黒竜は徐々に正気を取り戻しつつあった。

 それに気づいた光の主は、急ぎ話を進める。

 リューセイはその話に耳を傾けていた。

 (やっぱり、この世界は幻。それに話を聞く限り。この世界で能力を使えば、俺が望むような展開になる。
 だけどそれだと願望の宝玉、イヤこの宝玉に細工した者の思うツボになるとも声の主が言っていた。
 って事は、俺がこの状況をどう切り抜けるかで。この世界から抜け出せるか決まるってことか。
 だがそもそも今、俺に話しかけているのは誰だ? それになんのために、)

 そう思考を巡らせ始める。

 『--説明は以上です。ここからは、あなたの腕次第となり試練の場になるでしょう。その能力を、この世界でどう使うか楽しみです。--期待していますよ』

 そう告げその光は、リューセイのまわりを時計回りに旋回し始めた。それと同時に、緑色に発光しながら魔法を唱えリューセイの回復をする。

 すると、リューセイの傷と体力が回復した。

 (回復してる!?)

 そう思い起き上がり、無造作に地べたに座り込んだ。

 だが謎の声の主はその異変に気づいた。

 『これは……。いったい何が起きている? 自力で回復したとも思えません』

 この世界で何が起きているのかと、くまなく探り始める。

 だがリューセイとその光の主は、謎の声の主が気づき始めた事を知らない。

 そんな中その光は、リューセイに左手の甲を上向きにするように指示する。

 リューセイは、立ち上がり言われた通りにした。すると左手の甲の上にその光がとまる。

 そして詠唱すると、右手の甲に魔法陣が浮かび上がってきた。

 それと同時にリューセイは、言われた通り左手の甲に描かれた魔法陣に右手を添える。

 (よしっ! 黒竜を倒せるぐらいのすごい剣を--)

 そう頭の中でイメージした。すると、リューセイの左手に描かれた魔法陣が光りだす。

 そして、左手に添えた右手で剣を抜くようにイメージする。すると魔法陣から、目がくらむような光が放たれ辺り一面に広がった。

 それと同時にリューセイは、右手に柄頭があたるのを感じ取るとおもむろに剣をぬく。

 そして謎の声は、その光景を目の当たりにし驚くのだった。

 『これは、どうなっている!?』
 謎の声の主が気づき監視する中リューセイは、光の声に言われるまま左手に描かれた魔法陣に右手を添える。

 そして頭の中で、黒竜を倒せるぐらいのすごい剣と願いながら思い浮かべた。

 すると左手の魔法陣が光りだし、添えている右手で剣を抜くようにイメージをする。

 そのあと目がくらむような光が、辺り一面に魔法陣から放たれた。

 それと同時に柄頭が右手にあたるのを感じ、おもむろにひき抜くと剣の形になっていく。

 そして、完全に抜き構え直すと剣が大きくなる。

 それを見て一瞬だけ驚いた。だがそのあと剣を見据える。

 (ちょっと待て!? こんなに大きな剣。俺に使いこなせるのか? だけど、持った感じだと全然重くない。どうなっているんだ)

 そう思っていると、その光の主がリューセイの耳元でささやいた。

 『なかなか良い剣ですね。あとは、あなた自身の魔力と思いをその剣に注いでください。そのあと名前を付ければ完成です』

 少し間を置くと、ふたたび話しだす。

 『それとその剣の重さが感じないのは、もともとあなたの幻想から生みだされた剣だからです』

 「そっか。……って! なんで口に出してないのに、」

 『今は口を閉じてください。気づかれてしまいます。なぜ分かったのかは、あなたの脳内にアクセスし思考を探りながら話しているから』

 そう言われリューセイは、納得しうなずいた。

 『では話を続けますね』

 そう言いその光の主は話し始める。

 リューセイはその話を聞いていた。

 (現実の世界でこの能力を使えば、かなりの体力を消耗する。それに、今の俺のレベルじゃ使いこなすのがやっと。
 そのためにこの声の主が、さっきこの能力に条件を付与した。この世界でのみ、フルで使いこなせるようにと。
 あと現実の世界では、いざという時に発動し使える。だけど体力は、体内にあるだけ消耗するのかぁ。
 でも、扱えるレベルに達すれば。体力がわずかに消耗するものの、好きな時にこの能力が使えるとも言ってたな)

 光の主の話を聞きながらリューセイは、いろいろと思考を巡らせる。

 そうこうしていると黒竜が落ち着きを取り戻し、大きな口を開け自分の手に刺さった剣をくわえようとしていた。

 『黒竜が、正気を取り戻しました。これは、急がなければなりませんね。では、その剣に思いと魔力を注ぎ命を吹き込んでください』

 そう言われリューセイは、大剣を両手で握り締め目の前にかざしみつめる。

 そしてその大剣に、自分の思いと魔力を注いだ。

 (あとは名前だけかぁ。ん〜、幻想から生まれた剣。それに強そうな名だと。そうだ! あの本の勇者が持っていた剣に似た名前にしよう)

 そう思い大剣を両手で掲げながら、

 「幻ノ大剣エクニスカイザー!!!!!」

 と大声で叫んだ。

 それと同時に、剣全体が虹色にそまる。そしてまばゆい光を放ちその剣は、徐々に完全な姿へと形成された。

 その剣が形成されると柄頭から刀身の途中まで、青、白、黒、紫、緑、五体の竜が四方八方に巻きついていく。

 (よし! これならいける。あとは頭に浮かんだ技名を言えばいいんだよな)

 『さらに良い剣になりましたね。では私は、いったん身を隠します』

 そう言いその光の主は、パッとリューセイの目の前から姿をけす。

 そしてリューセイは、エクニスカイザーを構え直すと黒竜を鋭い眼光でにらみ付けた。



 そんな中謎の声の主は、その光景を目のあたりにし驚き何が起きているのかとさぐった。

 そうこうしている内に、リューセイが大剣を完成させてしまい考えている余裕はないと判断する。

 すると自分の魔法を付与し、さらに黒竜を強くした。

 『これなら大剣を使う前にあの者を、』

 そう言うとあたかも勝利したかのように、『アハハハ、』と高笑いする。

 そしてその後リューセイと黒竜は、互いににらみ合っていたのだった。
 謎の声に黒竜は強化魔法を付与され、「グオォォォォー!!!」と鳴きさけんだ。

 その後、すぐ落ち着きをとりもどすと変化に気づく。

 (うぐ。なんだこれは!? 体の奥底から力がみなぎってくる!
 誰がこの力を付与したというのだ。だが、まぁ誰でもよいわっ。このワレに味方する者なのだろうからな)

 そう思うと黒竜は、リューセイを鋭い眼光でにらんだ。

 強化されその目は黄色から赤に染まり血走っている。

 黒竜は「ガオォォォォー!!」と、おたけびを上げリューセイを威嚇した。

 リューセイは一瞬ビクッとする。

 (大丈夫。た、多分。それにここは俺の夢の世界だしな)

 心の中で自分にそう言い聞かせた。



 その時、謎の声はというと。

 『さぁ黒竜よ! 思う存分あばれなさい。この幻想世界に彼を永久に閉じこめるのです』

 そう言いながら謎の声は、『アハハハハッ……』と高笑いをする。

 そして、リューセイと黒竜の戦いをみていた。



 そんな中リューセイは、なんとか落ち着きをとりもどす。

 そして体勢を立て直すと、幻ノ大剣エクニスカイザーを目の前にかざした。

 「よし! あとは頭に浮かんだ技名を叫ぶだけだ」

 そう言いリューセイは、黒竜を鋭い眼光でにらんだ。

 「ほう。まだそんな気力が残っているとはな。勇気だけは認めてやろう。だがその余裕すらないほどに、おまえを消し去るのみ」

 そう言い黒竜は、魔法を唱え始めると大きな口をあけた。

 それを見てリューセイは、急ぎ技名を思い浮かべようとする。

 「……ん?」

 だが、なぜか技名が頭に浮かんでこない。

 (いったいどうなっている? なんで技名が思い浮かんでこない!)

 そう思いリューセイは悩み始める。

 しかし黒竜がそれを待つわけもなく。既に紫色の大きな魔法陣が、黒竜の目の前に浮かび上がっていた。

 リューセイはそれに気づいたがそんな余裕すらない。そしてどうこの場を切り抜けようかと、ありったけの思考をフル回転させる。

 (クッ、このままじゃ)

 魔法陣が完成すると黒竜は大きく息を吸いこんだ。そしてすかさずリューセイへと目掛け、凍てつくような紫色の息を勢いよく吐きだした。

 リューセイは間に合わないと思い、とっさにエクニスカイザーを目の前にかざす。すると大剣を覆いつくすように光りだした。

 すると、その大剣に黒竜が放った魔法があたる。

 必死にリューセイは、その魔法を大剣で押し返そうとした。だが、その魔法の威力がありすぎて耐えるのがやっとだった。

 (これじゃもたない! それに、このままじゃやられる)

 リューセイは、その魔法に耐えていたが力つきる。そして後ろへと弾き飛ばされ、思いっきり地面にたたきつけられた。

 「グハッ、」

 (な、なんなんだ! あの光の主が言った通りにしたはず。それなのに、なんで技名が浮かばない。だけど、なぜか剣が守ってくれた。どうなっている?
 んー……ん? そういえば黒竜を倒したとして。そもそも、本当にこの世界から解放されるのか?
 それに、そこまでは言っていなかったよな。って事は、もしかしたら黒竜を倒す以外に方法があるんじゃないのか)

 そう思いリューセイは、エクニスカイザーのおかげで先程よりダメージがなく、よろけながらも立ち上がる。

 そしてあざ笑うかのように黒竜は、そんなリューセイを見おろしていたのだった。
 リューセイは、よろけながらも立ちあがった。そして大剣を構えなおすと、黒竜を警戒しながらどう切り抜けたらいいのかと考えはじめる。

 (ハァハァ、黒竜を倒す以外の方法があるとして。それが、なんなのか分かればいいんだけどなぁ)

 だが、そんなことを考えている余裕すらない。

 そう黒竜がドスドスと地面を踏みならしながら、とてつもなく大きな音を辺りに響かせリューセイのほうへと向かって来ていたからだ。

 それを見てリューセイは、とっさに体がうごき黒竜から遠ざかると近くの岩陰にかくれる。

 そう、むやみに黒竜に挑むのは無謀だと思ったからだ。

 「ムッ、なぜ逃げる!? まさか怖気付いたのではないだろうなっ!」

 そう言うと黒竜は、「ガオォォォォーン!」とおたけびをあげた。

 リューセイは驚き身をすくませるも、大丈夫だと言い聞かせ気持ちを落ち着かせる。

 「クッ、いったいどうしたらいいんだ」

 そうこう考えるが、いっこうに何も思い浮かばない。そして気持ちばかりがあせる。

 片や黒竜は右手を大きく振りあげ、天井から突き出ているとがった岩に思いっきり振りおろす。すると、とがった岩にあたりくずれおちる。

 そのとがった岩は、リューセイが隠れている岩壁にあたった。

 だがしかしその岩壁がくずれるも、そこにリューセイはすでにいない。

 そうリューセイは危険を察知し、黒竜の死角をつきこの場から遠ざかる。そして、別の岩陰に隠れて身をひそめていたのだ。

 (ふぅ〜、危なかった。でも、このまま逃げてばかりもいられない。だけど、ん? あーそういえばっ! ほかにも倒す相手がいるじゃないか。
 そもそもこんな目にあっているのも、ソイツ(謎の声)のせいだしな)

 そう思いリューセイは、ニヤリと笑みを浮かべる。そして体勢を整えると、大剣(エクニスカイザー)を構えなおした。

 そしてリューセイは、恐る恐る黒竜の前に姿をあらわす。

 黒竜はリューセイがおらず、イライラしながらキョロキョロと周囲を見まわしていた。

 するとリューセイが目の前に立っていたため、コケにされたと思い怒りをあらわにする。

 「グヌヌヌヌッ、よくもワレをコケにしてくれたなっ!」

 「へっ? って、おいっ!」

 リューセイは、黒竜が言っていることが理解できず困惑した。

 だが、今はそんなことを考えている余裕がないと言い聞かせ体勢を立てなおす。そして、大剣を両手で握りなおすと頭上にかかげた。

 (今度こそ、)

 それと同時に、倒すべき相手(謎の声)のことを思い浮かべる。

 (この幻想の世界を壊すためには--)

 そう思い両手で大剣をつよく握りしめる。すると大剣をおおうように光りだした。

 「ほう。面白い!」

 怒りをあらわにしていた黒竜だったが、それを見て冷静さをとりもどす。そして魔法を展開しようと詠唱を唱えはじめる。

 だが時すでにおそし。リューセイの脳裏に技名が浮かんだ。

 (よしっ! これならいける)

 《幻竜秘剣 水渦の刃!!》

 そう叫ぶと、さらに大剣が光りはじめる。そして大剣から光が上空に放たれると、青い大きな魔法陣が真上に描かれた。

 そこから青い竜が姿をあらわし、渦をつくるように旋回しながら下降する。

 するとまわりが大きく揺れ、ゴオォォッとうなり辺りに響きわたった。

 青い竜は旋回していたが、急降下し大剣に吸い込まれるように姿をけす。

 その直後、大剣が青くまばゆい光を放った。

 それを確認すると、リューセイは大剣を握りなおす。そして謎の声に攻撃するべく黒竜に目掛け思いっきり大剣を振りおろした。

 すると大剣から青い竜が放たれる。

 「いけぇー!」

 その青い竜は粒子となり鋭い水の刃になる。そして回転しながら大きな水の渦へと変わっていった。

 黒竜は、魔法を唱えていたためにうごけない。

 (グッ、これは……まずい、)



 その頃、謎の声はと言うと。

 『フフッ、まぁいいでしょう。この世界が壊されたとしても。この私が、彼の息の根をとめればいいのですからね』

 そう言い余裕な表情でその戦いをみていた。



 場所はもどり。鋭い刃とかした水の渦は、だんだんと大きくなるにつれて鋭さが増していった。そして、その鋭い水の渦は動けない黒竜に勢いよくあたる。

 黒竜は何もできず激痛と悔しさのあまり、「ギャオォォォォォォーン!!!!!」と鳴き叫んだ。

 その鋭い水の渦が黒竜の体をつらぬき、さらに速度を増していった。そしてその鋭い水の渦は、そのまま天井へと急に上昇しはじめる。

 天井を切り裂くように鋭い水の渦は回転し続けた。そして、何かを察知したかのようにその場で静止する。

 すると、さらに渦をつくるように横に大きく回転しはじめた。

 「ん? これって!」

 とその時、リューセイの脳裏になぜかある言葉が浮かんだ。そしてその言葉をさけぶ。

 《幻水竜爆殺!!》

 そう言うと、天をつらぬくように大剣を高くかかげる。すると大剣から青い光が水の大渦に向かい勢いよく放たれた。

 その青い光は、大きな水の渦の中央をつらぬき吸いこまれるようにきえる。と同時に、その水の渦に電気がはしった。

 そして水の渦が、一気に凝縮されたと思った瞬間。

 「バアァァーン!」

 弾けるような大きな爆発音が、地響きとともに辺りに響きわたる。すると、激しい爆風とともにこの幻想の世界が吹きとばされた。

 そしてリューセイは、そのまま現実の世界へととばされる。



 その頃、願望の宝玉がある洞窟の最深部では__

 リューセイが放った攻撃は、謎の声……いや、余裕をぶっこいていた謎の影にあたる。そして、そのまま近くの岩壁に激突した。

 「クッ、……。ま、まさか--」

 すると謎の影は、リューセイの攻撃をモロにうけ術が解けてしまい姿をあらわす。

 それに気づき、この場を離れようとした。だが自分の目の前に、リューセイ達が立っていることに気づきこの場から動けなくなる。

 そしてリューセイ達は、身動きがとれずにいるその者(謎の影)のことを見おろしていたのだった。
 ここは、願望の宝玉がある洞窟の最深部。リューセイ達は、ここに戻ってきていた。


 あれからイシスは、母親の魔法で転移させてもらい。四人は、宙に浮いた宝玉から光とともに現れる。

 そして五人は横一列に並び、その足元付近に宝玉が無造作にポタッと落ちる。


 五人の目の前には、傷だらけの緑髪の女性(謎の影)が岩壁に寄り掛かりながら座り込んでいた。

 (クッ、まさか不覚にもこの私が……。このままでは、非常にまずいですね)

 そう思い考えるもこの場を切り抜ける方法がみつからない。

 (うむ。彼女はいったい)

 緑髪の女性を見てクライスは、何者なのかと小首をかしげる。

 アベルディオとユリエスとイシスは、ケガをしているその女性をみて心配していた。

 (この人が。だけどなんのために)

 リューセイはその女性がケガをしていたため、光の主の言っていた者だとわかり鋭い眼光でにらむ。

 そうその傷は、自分が負わせたものに間違いないと確信したからだ。

 緑髪の女性は、自分に向けられたその鋭い殺気を感じとりその視線の先にいる者をみる。

 (あの四人は気づいていない。だけどコッチの彼は、)

 そう思い下を向いたまま、上目づかいでリューセイをキッとにらんだ。

 だがリューセイからは、その緑髪の女性の表情がみえない。しかし、その鋭い殺気だけは感じとっていた。

 (なんて殺気だ。今にも体が射抜かれそうだ)

 そう思いその女性のほうに歩み寄ろうとする。

 四人もまたその殺気に気づいた。

 「待て!! 何があったのか知らないが、相手は女性だ」

 そう言い放つとリューセイの手をつかみ行く手をさえぎる。

 「 放せっ! アベルディオ。あの女は、俺たちをハメタ張本人だ!!」

 そう言いその手を払いのけた。

 「それはどういうことだ?」

 「クライス。この女は、俺たちを殺すつもりだった。宝玉に細工してな!!」

 それを聞き四人は、驚きその女性のほうをむく。

 「クッ、」

 (どうしたら……そうですね。私を攻撃した彼は、厄介ですが。この四人ならだませそうですねぇ)

 そう思いニヤリと笑みを浮かべる。

 「あのぉ。私があなた方を、なぜ殺害しなければいけないのですか?」

 そう問われリューセイは、どう返答したらいいのかと戸惑った。

 その様子を見てその女性は、これならばうまくいくと思いさらに話し始める。

 「ここへは、村で宝玉のうわさを耳にしどんな物なのかと拝見したく赴きました。ですが、なぜか彼に攻撃され」

 泣いているフリをしながらリューセイを指さす。

 そう言われリューセイは、ムッとした表情になり言い返そうとする。

 「俺は、」

 「おい待てっ!」

 クライスは、リューセイが反論しようとするのを遮りとめる。

 「なんでとめる?」

 「いいからコッチに来い!」

 リューセイは、そう言われ渋々うなずく。

 するとクライスはアベルディオに小声で、

 「どうも状況が把握できん。それに、彼女の言っていることを信じたい。だが、リューがウソをつくとも思えんしな」

 そしてその後、緑髪の女性を見張るように伝える。

 すると無表情のままアベルディオは軽くうなずいた。

 それを確認したクライスは、ついて来いとリューセイに合図をする。そして二人は、アベルディオ達から離れた場所に移動した。

 (どういう事? まさか、信用されなかったとでもいうの。ですが、まだそうとは限らない)

 そう思い悩み思考を巡らせる。



 リューセイとクライスは、緑髪の女性が目視できるぐらいの位置までくると話しだした。

 「ここまで来れば大丈夫だろう。それで、いったい何があった?」

 「実は、」

 幻想世界で何があったのかを事細かに説明した。

 それを聞きクライスは事情がわかり納得する。

 「そんな事が。んーでもなぁ」

 「ねぇ、二人とも」

 そうこうしているとユリエスが、いつのまにかそばに来ていて二人の話しに割って入った。

 「ユリエス。なんでここに」

 そうリューセイが問いかけるとユリエスは、ニカッと笑い話し始める。

 「アベルディオが、二人だけじゃ不安だからって」

 そう言いアベルディオの伝言をつたえた。

 「なるほど、確かにな。こんな手の込んだことを、彼女一人で企てたとも思えん」

 「他にもいるってことか」

 「うん、多分ね。だけど、ここじゃないどこか別の場所に」

 そう言いユリエスは、いつになく真剣な顔で二人をみる。

 「んー、そうなると。ソイツをあぶり出すために」

 「ああ。しばらく泳がせたほうがいいだろうな」

 そう言うと口角を上げユリエスとリューセイをみた。

 その後三人で話し合ったあとクライスは、リューセイに罵声を浴びせると思いっきり顔をなぐる。

 アタフタしながらユリエスは、それをとめようと二人の間に割って入った。

 だがこれは、勿論あくまで緑髪の女性をだますための演技だ。

 その後クライスは、怒ったような面持ちでアベルディオがいるほうへと歩きだす。

 「っう、痛え……」

 (ここまで本気でなぐらなくてもいいじゃないかぁ)

 涙目になり痛い頬をさすりながら、ユリエスと一緒にクライスのあとを追った。



 その光景を目の当たりにしその女性は、伏せたままニヤリと笑った。

 (いいですねぇ。これなら。クスッ)

 クライスは、アベルディオのそばまでくると小声で耳打ちをする。

 「なるほど。了解だ」

 その様子を見てイシスは、黙って見ていることにした。

 そしてその後アベルディオは、緑髪の女性の了解を得たあと回復の魔法を使い傷の手当てをする。

 「これは、なんとおわびしたら。リューセイの勘違いで、あのようなキズを負わせてしまい。友人代表として、謝らせていただきたい」

 アベルディオは、深々と頭を下げると同時に緑髪の女性の手をとり口付けをした。

 その女性はキスをされ顔を赤らめる。

 「あーえっと、そうねぇ。本来なら、本人に謝罪してもらいたいところですが」

 チラッとリューセイを見たあと、アベルディオのほうに視線をもどす。

 「いいでしょう。あなたに免じて許します。ですが今後、このようなことのないように気をつけてください」

 そう言うと軽く会釈をしたあと、そそくさとこの場から去っていった。

 それを確認するとリューセイ達は、ふぅ〜っと息をもらし肩の荷をおろす。

 「行ったみたいだな」

 クライスがそう言うと四人は、コクリと軽くうなずいた。そして五人は、この場を離れようと歩きだす。

 すると足元にある宝玉が光を放ち、五人の目の前まで浮かび上がってきた。それと同時に宝玉がアクセサリーへと変化する。

 そうそのアクセサリーとは銀色の竜翼でできている、指輪、腕輪、髪飾り、ペンダント、ブローチだ。

 そのアクセサリーには宝玉がはめ込まれている。

 五人はそのアクセサリーを手に取って眺めた。

 「わぁ、きれいな髪飾りですねぇ。あれ? リューセイの腕輪の宝玉は青なのですね。私のは透明なのに」

 そう言われリューセイは、三人の宝玉を順にみた。

 「ん? って! なんで俺の宝玉だけ青いんだ? みんなのは透明なのに」

 不思議に思い首をかしげる。

 そう一時的に能力が覚醒したため、リューセイの宝玉だけ青く染まっていたのだ。

 ちなみにクライスが指輪で、アベルディオはペンダント。そしてブローチがユリエスである。

 「そういやそうだな」

 そう答えるとクライスは、小さな指輪を左の小指にはめ魅入っていた。

 「そろそろ、ここを出ないか? あとのことは宿屋で話そう」

 そうリューセイが提案すると四人はウンとうなずく。

 そしてその後、この洞窟をあとにし草原へと向かった。