ここは、願望の宝玉が創りし世界。辺りには、暖かな光が差している。

 クライスは気を失い、その光に包まれ宙を漂っていた。

 すると、どこからともなく女性の声が聞こえてくる。


 『--あなたのその望みを叶えましょう。ですがそれが叶った暁には、その代わりの物をもらい受けます--』


 そう告げるとその謎の声は、クライスをどこかに転移させた。__



 __ここは、願望の宝玉が創り出したクライスの思い描く世界。

 クライスは目を覚ますと辺りを見回した。

 (ん? なんでこんなとこにいる! 確かアイツらとこの国をでたはず。それなのに、どうなってるんだ)

 そう思い首を傾げる。


 そう現在クライスが立っている場所とは、ダインヘルム国にあるムウル闘技場の入場門付近だ。


 クライスは、なぜここにいるのか不思議に思いながら自分の身なりをみる。

 「……」

 (おい!? なんで、国で使っていた装備に変わってるんだ!
 それに、ここは闘技場。いや待て。その前に、確か洞窟にいたはず。ん〜夢でもみてるのか?)

 そう思い自分の左手の甲を思いっきりつねってみた。

 「イデェェーー!!」

 余りの痛さに大声で叫んだ。

 (夢じゃない。じゃ、今までリュー達と旅をしたこと自体が夢だったのか? だが、そうだとしても変だ)

 そうこう考えるも納得がいかず、余計に分からなくなりイライラし始める。

 「あー分からねぇぇ〜!!!」

 そして頭をかきむしり大声で叫んだ。

 そう思い悩んでいるとクライスの背後から、コツコツと通路を歩く足音が聞こえてくる。

 「クライス。何を騒いでいる。まさか怖気付いたのではないだろうな?」

 そう声をかけられクライスは振り返った。するとそこには、クライスの父親のナファスが立っている。

 「父上!? これはどういう事なんですか? それに、なんで俺は闘技場に」

 「うむ。これはどうしたものか。もしや余りにもあり得ない快挙を成し遂げ、ここまで勝ち上がってきたために頭が混乱しておるのか?」

 そう言われるもクライスは、ナファスが言っている事が理解できずにいる。

 「快挙? 勝ち上がる? ま、まさか!? これから行われようとしているのって。決勝って事はないですよね?」

 一瞬そう考えたあと、まさかと思いナファスに問いかけた。

 「その通りだ。だがクライス、どうしたのだ? 今日のおまえは、すこしおかしいぞ」

 「決勝戦、誰と誰の。って、まさか俺なんですか?」

 まさかと思いクライスは、自分を指差し聞きかえす。

 「ああ、そうだ」

 「それじゃ、この先にリューセイがいるんですね」

 リューセイと正式に剣を交えることが出来ると思い、クライスは喜び笑みを浮かべる。

 「何を言っている! やはり、今日のおまえは変だ。あの者たちは既に、」

 ナファスは、険しい顔になり何があったのかを話し始めた。

 「ちょ、待ってください!? それって。じゃ俺は、みんなを見捨てて国に戻ったと言うんですか!」

 「いや、おまえは彼らを見捨てたわけではない」

 「ですが! 今の話を聞く限り。アイツらが魔物に襲われているというのに助けることもできず。自分だけが生き残り国に戻ってきてしまった」

 クライスは頭を抱え、項垂れるように座り込んだ。

 「おまえが悪いわけではない。それに、今更それを悔いても仕方がないだろう。さぁ、そろそろ決勝戦が始まる。クライス期待しているからな!」

 そう言いナファスは客席へと向かった。

 (どうなってる? 俺が生き残り、リュー達がやられたっていうのか? だが、もしそうだとしてもだ。
 あの三人はともかく。俺よりも強いリューが、そう簡単にくたばったなんて信じられん。なんか変だ。どうもしっくりこない。
 それに今から決勝って、いきなりすぎねぇか? それに記憶がないっていうのもなぁ)

 そう思いながらクライスは、この先にある試合会場に視線を向ける。そして、試合会場へと歩き出した。

 すると観客席から「わぁー」と歓声が湧き、クライスは周囲を見渡してみる。

 (んー何か違う。確かに、強くなって称号を得たいと思っていた。
 だが、こんな形じゃなく。あくまで、リューセイに勝つという前提でだ。だが、今ここには)


 『欲するままに。さぁ、それを手にするのです!』


 謎の声はそう言い誘導するも、その声はクライスには聞こえていない。

 だがクライスの体が、自分の意思とは関係なく動き出した。

 「これは!?」

 なんで体が勝手に動くのかと不思議に思いながら、必死で自分を制御しようとする。

 (クッ、やはりな)

 そう思うも既に対戦相手の前まで来ていた。

 対戦相手はクライスをみるなり眉をひそめる。

 「クライス。私を待たせるとは、どういう料簡だ! それとも、怖気付いたのか?」

 そう言われクライスは、対戦相手の方を向いたと同時に驚いた。そうそこには、桃色のグラデーションで銀髪の美しい女剣士が立っていたからである。

 「女? ていうか、おまえは誰だ! なぜ名前を知っている?」

 「はあ? 何わけの分からないことを。確かに会うのは初めてだが、今日の試合はみせてもらった。おまえは確かに強い。だが私が勝つ!」

 そう言い女剣士は剣を抜き刃先をクライスに向ける。

 だがクライスは眉をピクッとさせるも動じなかった。

 「うむ、なるほどな。もしこれが夢だとしても。この好機を逃すわけにはいかんだろう」

 「フッ、やっと、やる気になってくれたようね!」

 女剣士はそう言い剣を持ち直し身構える。そして開始の合図を待った。

 「いや、君と戦うつもりはない」

 「戦うつもりがない? 何を言っているの」

 そう問いかけられクライスは、女剣士の方へと歩みよる。そして目を輝かせながら、女剣士の手を握りあり得ない言葉を発した。

 「言葉の通りだ。どんな状況であっても、女を傷付けるつもりはない。それに、美しい君には華やかなドレスの方が似合うはずだ」

 そう言うとクライスは女剣士の手の甲にキスをする。

 そう昔から美しくて気の強い女性を好きになる傾向があり、自分の目の前の女性もそうだったからだ。

 女剣士は、ぼうぜんとしその場にたたずむ。だがすぐに我にかえり、クライスを払うと後退りする。

 クライスは女剣士の方へ近づこうとした。

 「ちょ、ちょっと待て。おまえ、ふざけているのか?」

 「いや俺は、本気だ!」

 クライスは女剣士の手を取ろうとする。だが女剣士は、ビクッとし後ろの方に逃げた。


 するとこの世界の空間のどこかで、「ピキッ!」と音がして徐々に亀裂が入り始める。


 その後クライスは、女剣士を口説き落とそうとひたすら追いかけた。片や女剣士は、半泣き状態で逃げる。


 『これはどういうこと? あの者の願望は、優勝し称号を得ることのはず。ですが、亀裂が入ってしまいました。考えている余裕はなさそうですね』

 謎の声は、この空間を維持することが困難になり術を解き姿を消した。


 その後女剣士が姿を消すと、この世界は崩壊し始める。

 「うわぁぁぁ〜!? なんなんだぁ〜!」

 そしてクライスは、この場からもとの場所へと飛ばされたのだった。