ここはランズベール村の北東側にある草原。その近くには森があり、その奥に願望の宝玉があるとされる洞窟がある。
あれからリューセイ達は冒険者登録をすませ登録証の使い方を聞いた。
その後ルドフから、なんのクエストをするのかを聞きこの草原にくる。
リューセイ達五人は森を目の前にし、どうするかと話し合いをしていた。
「まさか、いきなり宝玉を取ってくるクエストとはな」
地べたに座りアベルディオは、そう言い森のほうに視線を向ける。
「ああ。マスターに言われた時は、まさかって驚いた」
リューセイは自分の剣と盾のチェックをしながらそう言った。
「そうですねぇ。本当に、今の私たちの力で、宝玉を手に入れる事が出来るのでしょうか? それに、どのくらい魔法が使いこなせるか分からないのですが」
「イシスの言う通りだね。僕も、まだこのクロスボウの使い方も分からないしなぁ」
そう言いながらユリエスは、背負っていたクロスボウを両手で持つとみる。
「確かにな。それに無策で動くのも得策じゃない」
「珍しいですねぇ。クライスが冷静に物事を考えているなんて。雨が降らなければいいのですが」
イシスは両手を前に出すと、雨が降らないかと心配そうな表情で空を見上げた。
そう言われクライスはイシスの腕をつかんだ。
「おい! イシス。俺をなんだと思っている!?」
「ちょ、離してください! なんだと聞かれましても。そうですね……。今のほうが、いつものクライスらしいと思いますが」
そう言い返されクライスはイシスを離すと疲れた面持ちになる。
「はぁ、なるほどな。俺は、イシスにそんなふうに思われてたってことか」
「クライス。僕もだけど。多分、みんなもそう思ってると思うよ」
ユリエスはニカッと笑いながらそう言いきった。
するとクライスは、リューセイとアベルディオのほうに視線を向ける。
「リュー、アベル。おまえらもそうなのか?」
そう聞かれリューセイとアベルディオも、そう思っていたが口に出せなかった。そして、どう返答したらいいのかと困惑しその場で固まる。
「……おい、二人とも。なんでそこで黙る! って、まぁいいか。それより、どうする?」
「そ、そうだな。んーこの際だが。お互いフォローし合いながら、行ける所までトライしてみるっていうのはどうだろう」
そう提案するとアベルディオは四人を見まわした。
「ほう。さすがはアベル。それはいい案だ。確かに、おまえが言うように、ここで議論しているよりもそのほうがいいかもな」
クライスはそう言いニヤリと笑みを浮かべる。
「じゃ、役割を決めないとな。そうなると。俺の装備はこの剣と盾だ。って事は、前線で魔獣と戦ったほうがベストか」
「ああ。リューはそのほうがいいだろう。んー俺はこの大剣だが。盾がない分、思いっきり剣をぶん回せる。だが、魔獣の攻撃をモロに受けやすいのがネックだ」
「そうなると。クライスはリューセイのあとか、一緒に前線でってのがいいのかもしれない」
アベルディオは、真剣な面持ちで考えながらそう言った。
「そうだな。まぁ、状況に応じてにはなるが。その時、どっちにするか判断して行動するつもりだ」
「それがいいだろう。そうなると俺は……」
アベルディオは回復を優先するか、付与系のほうに重点を置き行動したほうがいいのかと悩んでいる。
「アベルディオ。私はどうしたら?」
「イシス。そういえば、おまえは攻撃の魔法を実際に使った事がなかったんだったな」
「ええ。ですので、どうしたらいいのかと」
イシスは不安な表情で問いかけた。
「そうだなぁ。クエストの前に、俺が教えてもいいが」
「それは助かります」
そう言いイシスはアベルディオに軽く頭を下げる。
「ん〜僕はどうしよう?」
「ユリエス。使い方が分かればいいのか?」
「うん。リューセイ、この使い方って知ってるの?」
ユリエスはそう言いリューセイのほうを向いた。
「使った事はない。だけど、父さんが使っているのを見てたから。ある程度なら分かる」
「そうなんだねぇ。じゃ教えて!」
そうユリエスが言うとリューセイは、うんと首を縦にふる。
「じゃ、俺は……。そうだな、素振りでもしてるか!」
そう言いクライスは、リューセイ達からすこし離れると大剣を構え素振りを始めた。
その後リューセイ達は、各自クエストを受けるための準備を始める。
「……みんな。気づいてるよな?」
リューセイが小声で言うと四人はうなずいた。
そうその時五人は、自分たちを監視するある気配を察知する。だが、わざと気づかないフリをした。
一方ルルカは、草原にそびえる大きな木に隠れながら、そんなリューセイ達を目を輝かせながら見ていた。
(いよいよね。彼らが願望の宝玉がある、あの洞窟に……。って! せっかく私がうわさを流したのに。結局は父様が依頼してしまったみたい。
でも、まぁいいわ。これで彼らの活躍が見られるし)
そう言い五人に熱いまなざしをおくる。
そしてルルカは、五人がその場から動くまでずっとこの木に隠れていたのだった。
ここは、ランズベール村の北東に位置する森の近くにある草原。
あれからリューセイ達は、ルルカが監視していることを知っていたが、気づかないフリをし魔獣と戦うための準備をしていた。
そうもう一つのクエストとは__
必ずルルカは五人を尾行するから、それに気づいていないフリをして近づき仲間となり一緒に行動する。
__という内容だ。
だがなぜルドフは、そのように言ったのかというと。
ルルカをムリにどうこうしようとしても、自分が納得しないかぎり、すんなり言うことを聞かない。と思ったからである。
それと、一人で行動させておくのは危険だと判断したからだ。__てか、ただ単に過保護なだけである。
アベルディオは、イシスに初歩の攻撃魔法の使い方を教えていた。
つえを構えるとイシスは魔法陣を描き唱える。
そして魔法陣から、大きな炎の球体が現れると勢いよく放たれた。すると、狙ったようにクライスのほうに向かう。
それを見たイシスは、どうしようかと思いオロオロとする。
アベルディオもまたこれはまずいと思い、水晶をかかげると魔法陣を描き詠唱し始めた。
一方クライスはそれに気づき、とっさに両手で大剣を大きくふりかぶる。
そして、自分のほうに勢いよく向かってくる、大きな炎の球体に狙いを定め力一杯ふりきった。と同時に、大剣の刃が大きな炎の球体をとらえる。
そしてその大きな炎の球体は、はるか遠くのほうに飛んでいき落下すると爆発した。
「イシス!? どういうつもりだ。俺を殺すつもりか!!」
クライスはイシスを鋭い眼光でにらみ付ける。
「クライス、ごめんなさい。そんなつもりはなかったのです。ですが、この魔法って一番よわいはずでは?」
クライスにあやまったあとイシスは、つえに視線を向けた。
『ハァ〜』とため息をつきクライスは、軽く手を上げ「仕方ない。次は気をつけろよ」と言いふたたび大剣をかまえるとスブリを始める。
イシスとアベルディオは、それを確認すると『ホッ』と胸をなでおろした。
「イシス。もうすこし魔力をおさえられないのか?」
「アベルディオ。そう言われましても。魔力の加減がわからないのです」
どうしたらいいのかとイシスは困惑する。
「なるほど。そうなると。本当に、初歩から教えないとムリそうだな」
そう言われイシスは苦笑した。
その後アベルディオは、一から魔法についての説明をする。
そしてイシスは、それを真剣な面持ちで聞いていたのだった。
片やリューセイは、ユリエスにクロスボウの使い方を教えていた。
「んーこのクロスボウは、珍しい仕組みのものみたいだ」
目を輝かせながらリューセイは、クロスボウを念入りにチェックしている。
「それじゃ。それの使い方ってわからないの?」
ユリエスは大丈夫なのかと思い不安な表情を浮かべた。
「あっ、いや心配ない。多少だけど使い方ぐらいならわかる」
「よかったぁ。で、どう使うの?」
そう聞かれリューセイは、クロスボウの説明をする。
__このクロスボウの形は、普通とあまり変わらない。だがクロスボウの中間に、大きなクリスタルが埋め込まれている。
そのクリスタルに魔力をためておき、攻撃をする時にその魔力を使い矢を放つ。
攻撃方法は……。普通の矢をクロスボウに軽くのせ、スコープをのぞきながら敵に狙いを定める。
台座に描かれている魔法陣に手を添えながら、《シューティング!!》と唱え矢を放ち的にあて攻撃するのだ。
だがクロスボウには欠点がある。
・近い距離の攻撃ができない。
・いちいち矢を置き攻撃するため時間がかかる。
・手持ちの矢がなくなると何もできない。
その他にもあるが、今はこのぐらいで__
リューセイは話を終えると、ルルカのことが気になった。そのため、気づかれない程度にチラッとルルカのほうを見やる。
(まだいるみたいだ。このまま洞窟までついてくるつもりか?)
そうリューセイが思っているとユリエスは、クロスボウの使い方を聞き使ってみたくなった。
「ねぇ、リューセイ。--ん〜なんか別のことを考えてるみたい。どうしよう」
そう思いながらクロスボウを持ち、スコープをのぞくとクライスをみる。
矢は説明の時にリューセイが装着したままであり、なおかつ水晶に魔力がすこしだけたまっていた。
ユリエスは矢が装着しているかどうかも確認せずに、いつものノリでクロスボウの台座に描かれた魔法陣に手を添える。
《シューティング!!》
そう唱えると、矢が勢いよくクライスのほうへ放たれた。
「え!?」
ユリエスは驚きクロスボウを地面に投げおき、どうしようかとあたふたする。
ユリエスの声を聞いたリューセイは、その光景をみて間に合わないと思いつつも、体が反射的に動きかけ出していた。
アベルディオとイシスは、「あー!?」と叫び互いに魔法を放とうとする。
だがその時クライスは、眉を『ピクッ』と動かし顔を引きつらせながら瞬時に大剣を持ち振り上げた。と同時に、大剣を並行にすると思いっきり振りおろす。
そして、飛んでくる矢をあっさりとたたき落とした。
四人はそれをみると、よかったと思い『ホッ』と胸をなでおろす。
だがクライスは、ユリエスのほうを向くなりにらみ付ける。
「ユリエス!? なんのつもりだ。俺になんのうらみがある!」
「あーえっと。ごめん。べ、別にうらみはないんだ。ただ、間違っちゃってさ」
ユリエスはビクビクしながらうしろに退いた。
「なるほどな。間違ってか、」
「う、うん。そうそう。だから、ホントにごめん!」
手を合わせながらユリエスはあやまる。
「て、おい! すんなり。はい、そうですか、って言うわけないだろうがぁ!!」
クライスは怒りをあらわにし、ユリエスのほうに歩みよった。
それをみたユリエスは、「ヒッ!?」と声をあげうしろを向くと猛ダッシュで逃げる。
「おい待て、ユリエス。逃げるんじゃねぇ!」
そう言いながらクライスはユリエスを追いかけた。
リューセイとアベルディオとイシスは、二人をとめるかほおっておくか、どうしたらいいのかと悩んでいる。
片やルルカはそんなリューセイ達をただ眺めみているだけだ。
その後クライスは、すばしっこいユリエスをつかまえるのに時間がかかり洞窟にいくにも時間に余裕がなくなる。
そしてリューセイ達は、今日はあきらめ日を改めることにして宿屋に戻ったのだった。
ここは暗くジメジメした、はるか最果てにある地底の最下層。
そこには異様なほどの悪しき空気が漂い、「ウゴオォォォォーン!」と奇妙な鳴き声が辺りに響き渡っていた。
その鳴き声はこの最下層の奥深くにある、いかにも魔物が潜んでいそうな建物の中から聞こえてくる。
その建物に誰もはいれないよう扉が固く閉ざされていた。
そう二枚の魔法陣が描かれた大きな呪符が、扉にバッテンに貼られている。そのため、この建物全体が封印されていた。
いかにもヴィジュアル系よりのパンクのような黒い衣装を着た男性と黒髪の魔族の女性が、じーっとこの建物を眺めたたずんでいた。
「おい、メリューサ。まさかここまで来て、足止めってことはねぇだろうな!」
そう言い鋭い眼光でにらみ見る。
この男性はタイガ・スターナイツ。銀色に紫メッシュのショートヘア。
貧しい村の生まれではあるが、ある本がきっかけで魔王に憧れる。
タイガは、ベルゴーグ大陸からはるか北西に位置する、ラダル大陸の西北西にあるルーベルの村で生まれ育った。
その村は、ラダル大陸の中央に位置する王都ネルファスの領地である。
この王都ネルファスは、自国が支配する領地に重税をかけていた。そうもちろん、ルーベルの村も例外ではない。
そのためか村人たちは、毎日のくらしがやっとだった。
そう小さなころからタイガは、このくらしをもっと豊かにできないのかと思っていたのだ。
そんな時__そう約五年前。村のある家の掃除を手伝っていた時に勇者と魔王のことが書かれた物語の本をみつける。
そして物語に興味を持ち、その本を持ち主にもらい家に戻り読んだ。
タイガはその本を読み終えると、なぜか勇者ではなく魔王に憧れる。
そうその物語を読み、今の世界を変えたいと思ったからだ。
だがなぜ魔王なのか。それは世界を救う立場の勇者じゃ、世界を変えることができないと思ったからである。
その後タイガは、魔王となるために村を出て各国を転々と旅をしながらひたすら剣と魔法の勉強をした。
そして約二年前。この世界の南西に位置する小さな孤島バギルで、魔族がひっそりと隠れ住む村を発見する。
タイガはそこで二年もの間。その魔族たちに自分の強さを示し信頼を得ると、魔帝と呼ばれるようになった。
だがタイガは魔王になりたいため、この呼び名を嫌っている。
その後この場所のことを知り、自分の側近であるメリューサとともにここに来ていた。
「タイガ様。申し訳ございません。まさか魔族の帝都が、こんな地下にあるとは思いもよらず。それにこんなに厳重に封印がされているなんて」
メリューサは申し訳なさそうにうつむいている。
この魔族の女性はメリューサ・サキュア。魔族と人間とのハーフだ。そのため、普段は人間に姿を変えタイガとともに行動している。
「ああ。おまえだけが悪いわけじゃない。俺も、ちゃんと調べてくるべきだった。だが、クッ、」
悔しさの余りタイガは、唇をかんでしまいそこから血がにじみ出てきた。
「それはそうと。これからどうなされますか?」
「ふぅ〜、そうだな。ずっとここにいてもしょうがない。……出直してくるか」
そう言われメリューサがうなずくと、二人はこの場を離れる。
そしてその後二人は、帝都の封印を解くための方法を歩き調べるのだった。
場所は移り__ここはダインヘルム国。
数名の年配の男女が、ハルジオン公爵邸の客間に集まり話をしていた。
そうリューセイ達の家の者たちである。
「うむ。やはりアベルディオ達はみつからぬか」
そう言いながらアベルディオの父親は、どうしたものかと頭を抱えていた。
このうす紅色の髪の男性は、アゼリオス・ハルジオンと言いアベルディオの父親である。
「アゼリオス様。わが愚息が、とんでもない事をしでかしてしまい。本当に申し訳ございません」
そう言いうす紫の髪の男性は、冷や汗をかきながらペコペコとアゼリオスに謝っていた。
この男性はナファス・ピオーネ。クライスの父親ではあるが、さほど似ておらず弱々しく見え痩せている。
「ナファス様が、あやまる必要などありませんわ。あやまるべきは子供たちのほうです」
その女性はイライラしていた。
この黄色の髪のキレイな女性は、リリア・アルキオと言いユリエスの姉である。
「その通りです。本当に、わが子ながら--何を考えているのか……」
そう言うと桃色の髪の男性は、あきれ果て「はぁ〜」っと息をもらす。
この男性は、イディルス・レインロット。イシスの父親だ。
「それを言うなら。うちのリューセイも、」
片手で頭を抱えながら茶髪の男は、どうしたものかと頭を悩ませる。
この男性は、リオス・ランベルン。リューセイの父親だ。
「これだけ探しても見つからないと言うことは……。もう既に国の外へ出たかもしれんな」
アゼリオスは窓の外へ視線を向ける。
「ええ。間違いなくそうかと、」
そうリリアが答えるとアゼリオスは、何かを決心し『よし!』と納得した。
「子供たちだけでこの国を出て旅立った。それも勇者になると置き手紙を残してな。ましてや四日も戻って来ていない」
そう言いアゼリオスは、ニヤリと笑みを浮かべまた口を開き話し始める。
「それでだ。どうだろう。あの子供たちがどこまでやれるか見届けるというのは?」
「ですが。本当に大丈夫でしょうか?」
イディルスは心配で不安な表情になった。
「確かに、そうかもしれない。アゼリオス様の言うように……。それにこの国で、ただ過ごしているより。子供のためにも良いのかもしれん」
そうリオスは言いみんなを見まわす。
それを聞きアゼリオスがうなずくと、他の三人はすこしためらったが「そうだな、」と言い納得する。
そしてその後アゼリオス達は、今後どうするかを話し合っていた。
あれからクライスはユリエスをやっとの思いで捕まえる。だが疲れ果ててしまい責め立てる気力をうしなう。
そのためと暗くなってきたのもあり明日、改めて準備と作戦を練り直したうえでまた来ようと言い宿屋にもどる。
そしてルルカは、相変わらず五人のあとをつけ同じ宿屋に泊まるのだった。
___そして翌日。再びリューセイ達は、願望の宝玉を探すべく森へと向かった。
ルルカは五人のストーカーをまだ続けている。
ここは、ランズベール村の近くにある森。
リューセイ達は、願望の宝玉を手に入れるために森の中を歩き洞窟に向かっていた。
すると、五人の目の前に数十体ものゴブリンが現れる。そしてよだれを垂らしながら、今にもリューセイ達を襲おうとしていた。
「おい、って。やっぱ、そうやすやすと行かしてくれそうにないな」
そう言いながらクライスは大剣を構えると、ゴブリンがどう動くか様子を伺っている。
「クッ、まさかこんなとこにゴブリンが」
リューセイは盾と剣を持ち構えると、クライスの前に立ち守りの体勢をとった。
「リュー!? 俺は、心配ない大丈夫だ。それよりもアベル達の方を」
「いや、こっちは問題ない。かえってクライスの方がキケンだ。ゴブリンは凶暴なうえに素早い。だから大剣だと、ヤツらの攻撃を防ぎきれないはずだ」
アベルディオはそう言いながら、いつでも対応できるように水晶を持ち構える。
「それもそうなんだが。リューが近くにいると、攻撃しにくい」
「確かにな。じゃ俺は、少し離れた所から攻撃する」
リューセイはそう言いながら、クライスから少し遠ざかった。
それを見計らったようにゴブリンは、一斉にリューセイ達に襲いかかる。
それを見たクライスは、とっさに剣を斜めに振り上げると思いっきり振り下ろした。
すると、ゴブリンを吹き飛ばす。だがそれをすり抜けたゴブリン達が、怒り狂いクライスに飛びかかった。
ゴブリンを自分から引きはがそうと、クライスは大剣を無我夢中で必死に振りまわす。
「クッ、なんで俺のとこばっかりくる!?」
そばにいたリューセイは、すばやく盾でガードしながら、剣で攻撃していきゴブリンを一体二体と倒していく。
「クソッォォ〜! クライス、今そっちに行く」
だが数が多すぎて、クライスの方までは手がまわらない。
(このままじゃ、クライスが危ない)
そう思うも一体倒すだけでもやっとだ。
クライスは、ゴブリンの攻撃を受けながら必死で抵抗している。
(クッ、まずい。クソッ!!)
一方アベルディオは、どうしたらいいのかと悩んでいた。
(運良くゴブリン達の視界には、リューセイとクライスだけしか入ってない。だけどこのままじゃ、クライスがゴブリンの餌食になる。
……そうなると、強化魔法を付与した方が良さそうだな)
そう思うと、即クライスの方に水晶を向け詠唱する。
《大地を守りし地の精霊よ 岩石の如き強靭なる魂 その一部を分け与えたまえ--肉体強化魔法 ロバスト ソリッド!!》
そう唱えると、コハク色に水晶が染まった。と同時に眩い光を放ったと思った瞬間。その光は、クライスの体を覆いつくす。
クライスはキズを負いながらゴブリンにひたすら抵抗している。だが、いきなり自分の体に魔法が掛かり驚いた。
(これは……。アベルの仕業か? だが、そのおかげで力がみなぎってくる。それに、大剣がそれほど重く感じない。
ん〜それだけじゃないみたいだ。体が強化されているせいか、多少ゴブリンの攻撃を受けてもダメージが軽減されている。
これなら、思いっきり攻撃できそうだ)
そう思いクライスは、大剣を無造作に思いっきり振りまわす。そして、自分にまとわりつくゴブリンを薙ぎ払いながら立ち上がった。
リューセイはそれを見るなり、これなら大丈夫だと安心する。そして、自分の方に向かってくるゴブリンを倒していった。
その様子をみるとアベルディオは、『ホッ』と胸をなでおろす。と同時にユリエスとイシスのことが気になり警戒しながらうしろを向きチラッとみた。
「はぁ?」
アベルディオはユリエスとイシスの方を向くなり、ポカンと口を開けたままその場で固まる。
そうイシスが、大きめの木にビクビクしながら隠れていたからだ。
(イシス……。おまえのその気持ちは、すごく分かる。だけどなぁ、それじゃ意味がないだろうが)
アベルディオは、そう思いながら頭を抱える。
片やユリエスは、いつの間にか木に登っていた。
そしてなぜかワクワクしながらクロスボウを構え、いつでも攻撃できるようにゴブリンに狙いを定めている。
(やっと、この武器が使える。そうだなぁ。リューセイやクライスのそばにいるゴブリンだと、矢が間違って二人にあたっちゃうと危ないし)
そう思いスコープを覗きながら、リューセイ達より先の方に視線を向けてみる。
(ん? って! なんだろう? 似てるけど、ゴブリンより体が大きくって黒っぽい緑色をしてる。ん〜、もしかしてあれがボスなのかな?)
__そう、ソイツはゴブリンキングだ。って! いきなり、こんなの相手にして大丈夫なのだろうか?
ユリエスは、そのことをリューセイ達に伝えようと思った。
だが、ふと思いとどまる。そうここで声を出したら、ゴブリン達に気づかれると思ったからだ。
(どうしよう? リューセイ達は気づいていないみたいだし。このまま、ほおっておけない。って、やっぱヤルしかないよね)
そう考えがまとまると、なぜか不敵な笑みを浮かべる。
そんな中ルルカは、自分に魔法を付与すると光のベールを纏い結界を張った。そして、ドキドキしながらリューセイ達をみている。
(あらら。いきなりゴブリンが相手かぁ。だけど、あの五人なら心配ないよね。
ん〜でも、あの桃色の髪の彼。木に隠れて、おびえているけど大丈夫かな?)
そう考えながらルルカは、心配に思い少し考えていた。だがやはり気になり、イシスのそばへと向かうことにする。
そしてその後リューセイ達は、ゴブリンとさらなる戦いを繰り広げていくのだった。
リューセイ達がゴブリンらと戦っている最中。願望の宝玉があるとされる洞窟の最深部では、その様子を透視しながら監視している者がいた。
だが現状では黒い霧で姿を隠しているため、表情やしぐさ以外何者なのか確認できない。
「クスッ。この宝玉を求める愚かな者が、やっと現れたようですね」
すこし考えたあと再び語り始める。
「ですが。--この程度の魔物に苦戦しているようでは、この者たちも本命ではないという事でしょうか? ……まぁいいですわ。それならそれで、」
そう言い不敵な笑みを浮かべた。
(--フフッ。もし仮に、たどり着いたとしても。彼らにとって、ここには絶望しかないのですから……)
そう思いながら再びリューセイ達の様子をみる。
「さてその前に、この場をどう切り抜けるのでしょう。フフフフッ……さぁ、どうなるか楽しみですわ」
場所は移り、ここは森の中。
リューセイとクライスは、襲いくるゴブリン達の攻撃をまともに受けながらも必死で倒していた。
そんな中リューセイは、ふとゴブリンの数が増えているような気がし疑問におもう。
(さっきよりも、数が増えてる気がする。もし仮にそうだとして、いったいどこから湧いてくるんだ?)
そう思い攻撃しながら、ゴブリンが現れる方向をよく観察してみる。
(ん? これって! ほとんどのゴブリンが同じ場所から現れている。って事は--なるほどそういう事か。
もしかしたら、この先にボスがいるかもしれない。ん〜だけどちょっと待て。もしそうだとしたら、どうやって現れているんだ?)
そう納得するも、どうやって現れているのか分からず悩んでしまった。
一方クライスは、どんなに倒してもゴブリンがあとからあとから湧いてくるためイラッとしている。
(クソッ、、……。なんなんだこの数は? 吹きとばした数より、間違いなく増えている。だが、そもそもなんでだ?)
そう思うが、それ以上かんがえる能力……あーいや、そんな余裕もなくただひたすらゴブリンを倒していった。
そのころイシスは、大きな木の陰に隠れながらブルブルと震えていた。
(まさか、こんなにゴブリンが現れるなんて。--ですがいつまでも、ここで身を隠しているわけにもいきませんし)
そう思いリューセイとクライスのほうに視線を向ける。
「ヒッ!?」
だがゴブリンの大群をみるなり、怖くなり再び木の陰に身を潜めた。
(やはり私ではムリです。あんな恐ろしい生き物を相手にするなど)
身を震わせそう思っていると、そこにルルカが現れイシスをのぞきみる。
「ねぇ、みんなが必死に戦ってるのにさぁ。あなたはここで何をしているの? 見た目はそんなだけど、一応男なのよね?」
そう言われイシスは、ムッとした表情でルルカをみた。
「な、なんなんですか!? いきなり現れたと思ったら。見ず知らずのあなたに、そこまで言われる筋合いはありません!」
「ふぅ〜ん。確かにそうだね。じゃぁさぁ、言われたくないなら戦ったらどうかなぁ」
そう言いルルカはジト目でイシスをみる。
「そ、そう言われましても、」
イシスはルルカに言われるも、どうしたらいいかと悩みモジモジし始めた。
それを見たルルカは、イライラし始める。そして、『プチッ』と何かが切れた音がした。
「あーいい加減イライラする。男ならもっとシャキッとしなさいよ!」
そう言いイシスの顔に、パシッ! とビンタを食らわす。
「ちょ、いきなり何を!?」
イシスはビンタされ一瞬、泣きそうになる。だが、怒りのほうが勝りルルカの手を強く握った。
「へぇ、意外と力があるじゃない。てかさぁ、私に食ってかかる気力がそんだけあるなら。仲間を助けたらどうなの?」
そう言いルルカは、リューセイとクライスのほうを指さす。
イシスはルルカにそう言われ、ハッとする。
(確かにこの人のいう通りです。私がここでゴブリンを恐れ隠れているあいだも。リューセイ達はキズを負いながら必死に戦っている。なのに私は、)
「ありがとうございます。確かにあなたのいう通り。私は恐ろしさのあまり、あやうく仲間を見捨てるところでした」
イシスはそう言うと軽く頭をさげたと同時に、キリッとした表情へと一変させた。
「ふぅ〜ん。やっとやる気になったみたいだね。それに、今のほうがまだ男らしくみえるよ」
そう言いルルカは、ニカッと満面の笑みを浮かべる。
「はぁ、そうでしょうか……」
イシスはそう言うと顔を赤らめた。そう男らしくみえると言われた事と、ルルカの笑顔が余りにも愛らしく思えたからである。
(えっと。この胸の高鳴りは……。まさか、この私が彼女を?)
自分がいだいている今の気持ちに対しイシスは、信じられないと思いボーっとルルカを見つめた。
それを見たルルカは、再びジト目でイシスをみる。
「なんで、急にほうけてるのよ!」
「あっ! そうでした」
ルルカに急かされイシスは、リューセイ達のほうを向きつえを持ち身構えた。
「じゃせっかくだから、私も加勢するわね!」
「いえ、木の陰に隠れていてください。私があなたを守ります!」
イシスがそう言うとルルカは、一瞬「……」となる。その後、われに返り苦笑した。
「ハハハ、あ、ありがとう。そうねぇ、あなたの実力もみたいし。でも、ムリと判断したら私も加勢するからね」
そう言うとルルカは木の陰に隠れる。
「ええ、その時はお願いします。ですが、あなたの前で、」
(いえ、これは今は言わないでおきます。まだこの気持ちが本物かも分かりませんので……)
そう思いイシスは、いだいているこの気持ちをグッとこらえ胸の奥にしまった。
片やアベルディオはその光景を見ていた。
(あの人は、確か俺たちのあとをつけてきていたルルカ。ん〜あの様子だと、イシスの事が見ていられず出てきたみたいだな。
ってかイシス。おまえ……。はぁ、女の趣味をとやかく言うつもりはないが。よく相手を選んだほうがいいと思うぞ)
そう思い頭を抱えると「ハァ〜」と息を漏らす。
(まぁいいか。状況がどうあれ、イシスがやる気になったのならな)
アベルディオはニヤリと笑い、再びリューセイ達のほうをみる。
そしてその後アベルディオは、何が起きてもいいように臨戦態勢をとるのだった。
リューセイとクライスは、ゴブリンの大群に攻撃されながらもひたすら戦っていた。
そんな二人の様子をみながらアベルディオは、いつでも対処できるように身構えている。
(すまない、二人とも。魔法で攻撃することができれば、俺もおまえ達と一緒に戦えるのに、)
アベルディオは、そんな自分に対しはがゆく思えた。
一方ユリエスは、木の上からクロスボウを構えていた。そして、ゴブリンキングに狙いを定めている。
(ふぅ〜。下で二人が話をしてたから。ゴブリンに気づかれないかって、ヒヤヒヤしたけど心配ないみたい。
今はリューセイとクライスだけしか、眼中にないってことは……。これなら、もしかしたらなんとかいけそうかも!)
そう思いながら、クロスボウの台座に描かれている魔法陣に手を添えた。
《シューティング!!》
そう唱えユリエスは、ゴブリンキングの方へと矢を発射する。
「イケェー! あたれぇぇ〜」
ユリエスはスコープ越しからそう願い矢の向かう先をみた。
そのころイシスは、つえを構えながら考えていた。
(ゴブリンを攻撃するにも、これではリューセイとクライスを巻き添えにしてしまいます。ですが、こうやって考えている間も二人は)
「……ハッ! そうでした。こんなことを考えてる場合じゃありません。それに、そもそも選択肢は一つしかないのですから」
そう思いイシスは、つえを斜め前に翳すと詠唱し始める。
《天を制する聖なる光よ 雷鳴を轟かせ 暴れまわれ--ライトニング バースト!!》
そう唱えると、つえが金色の光を発した。それと同時に、つえから魔法が空へと放たれる。
すると空が急に暗くなり、辺り一面に雷鳴が響き渡った。そう思った瞬間、稲妻がゴブリンの大群に落ちながら爆発していく。
リューセイとクライスは、それに気づき慌ててその場から離れようとする。だが時既に遅く、その爆発に巻き込まれた。
それをみたアベルディオは、急ぎ防御魔法を放ち二人を結界で覆いつくす。
「クッ、少し遅かったか。まぁ、あの二人なら大丈夫だろう。だがイシス、やりすぎだ!」
そう言いアベルディオは頭を抱えた。
それと同時ぐらいに、ユリエスが放った矢はゴブリンキングの方に向かっていた。
その矢は途中、イシスが放った魔法をかすめる。
だがその矢に魔法が当たるも減速するでもなく、そのままゴブリンキングの方へとまっしぐらに向かっていった。
そしてその矢は、イシスの魔法が付与された状態でゴブリンキングの胸を貫く。
「グオォォォォ〜!!!」
ゴブリンキングは驚きと痛さのあまり、大きな声を張り上げ泣き叫びながら暴れだす。
そしてドカドカと地響きをたてながら、猛スピードでリューセイとクライスの方へと駆けだした。
それを見たリューセイ達とルルカは、どうしようかとアタフタする。
「って、おい! なんで、あんなのが森の奥にいる!?」
そう言いクライスは、逃げようとしたが結界が張られているためにそこから出られない。
「……この結界は! アベルの仕業か? これじゃ逃げられん。おい、結界を解いてくれ!」
それを聞きリューセイは、結界をコンコンと叩いてみる。
「なるほど、結界か。クライス、ここから出ない方がいい」
そう言いニヤリと笑みを浮かべた。
「リュー。それって、どういう事だ?」
「さすが、アベルディオだ。この結界なら、ゴブリンの攻撃を防げる。ただ攻撃はできないけどな」
「なるほどな。そういう事か。それなら大丈夫そうだな」
そうクライスが納得すると二人は、魔法が解けるまでのあいだ結界の中で戦況を伺うことにする。
片やアベルディオは、自分のほうに向かってくるゴブリンの大群に戸惑っていた。
「これはまずい。どこかに逃げなければ」
そう言うと辺りを見まわす。
「って! この状況では、どこにも逃げられない。どうしたら、」
アベルディオはそう思うが、気持ちばかりが焦り考えがまとまらない。
そうこうしているとゴブリンキングは、リューセイとクライスの約五百メートルぐらい離れたあたりで立ちどまる。
そしてゴブリンキングの胸を貫いたその矢は、そのままの状態で激しい光を放ち始めた。
それと同時に、空から稲妻が落ちゴブリンキングを直撃する。
そしてその直後、胸に刺さった矢が『バァーン!!』と暴発しゴブリンキングは森の奥へ吹きとばされた。
近くにいたゴブリンは、その爆発に巻き込まれ四方八方に吹き飛ばされる。
その爆風は、リューセイとクライスの方まで及んだ。だが、結界のおかげで難を逃れた。
生き残っているゴブリン達は、何が起きたか分からずその場に佇みキョトンとする。
そして我に返り、一斉にゴブリンキングが出てきた方角をみた。すると、なぜか森の奥へと歩きだし姿をけす。
それを確認するとアベルディオは、リューセイとクライスにかけた結界を解いた。そして、二人の方へ歩みよる。
そのあとを、イシスとルルカが追った。それを追うようにユリエスは、木から降りリューセイ達の方へと向かう。
その後五人とルルカは、リューセイとクライスのキズを癒すために、少しここで休むことにした。
ここは願望の宝玉がある洞窟の最深部。
透視しながら謎の影は、リューセイ達の動きを監視していた。
「フフフ……。これは思っていたよりも、各々その装備にみあう能力を持っているようですね。ですが、まだです」
そう言い不敵な笑みを浮かべる。
「そうここにたどり着いた時、彼らを英雄になる者とし認めましょう。しかしながら。それはここで絶望し、すべてが夢まぼろしとなり潰えるのですがね」
謎の影は、ふとあることに気づいた。
「これは、なんてことでしょう。イレギュラーが一人。あの女、邪魔ですわね。さぁどうしましょうか」
そう言うと考え始める。
(そうですねぇ。彼女が洞窟に踏みいったら、森の外に転移するようにワナを張っておいたほうが良さそうですね)
そう思い謎の影は、その場を離れ洞窟の入口へと向かう。
そしてワナを張るとこの場所に戻ってきたのだった。
場所は移り、ここは洞窟の入口付近。
あれからリューセイとクライスは、アベルディオとルルカの魔法で回復してもらった。
魔法を使ったアベルディオとイシスとルルカは、洞窟で何が起きるか分からないのでメマの実を食べ魔力を回復する。
__ちなみにメマの実とは、見た目がブルーベリーに似ている。だが味は美味しいと言い難く、苦いので誰も好きこのんで食べない。
それと硬いため、飲み込むしかないのだが実が小さいのでなんとか飲み込める。
リューセイ達は、休んだあとその場を離れた。そして現在、この洞窟の前にいる。
「いよいよだな!」
リューセイはワクワクしながら、暗くて見えない洞窟の内部をみつめていた。
「ああ。この洞窟の中に、」
クライスは、はやく宝玉がみたくてウズウズしていた。
「そうだな。この奥に俺たちの求める物がある!」
アベルディオもまた、はやく中に入りたくて気持ちが落ち着かない。だが顔には出さなかった。
「ねぇ、はやく入りましょうよ」
ルルカはそう言いみんなをせかす。
「待ってください。本当にルルカさんも、洞窟にいくのですか?」
そう言いイシスは心配そうにルルカをみる。
「大丈夫! 問題、ありませ〜ん」
ルルカがそう言うもイシスは、本当に大丈夫なのかとよけい不安になった。
「ねぇねぇ! ルルカが言うようにさぁ。はやく宝玉をみてこよ〜」
そう言いユリエスは、ウキウキしながら洞窟の中へと勝手に向かう。
「待てユリエス! まだ話が、」
アベルディオに言われユリエスは、立ちどまると振り返りチラッとみる。
だがニコッと笑顔をみせるとユリエスは、ふたたび歩きだし洞窟の中に入っていった。
「どうする?」
「アベルディオ。どうするって、追うしかないだろう!」
リューセイはユリエスのあとを追いかける。
「確かに追わないと。中でユリエスが、何をしでかすか分かったもんじゃない!」
そう言いクライスもユリエスのあとを追った。
「そうですね。急ぎませんと、ユリエスのことですから、」
ユリエスがなにかやらかさないかと、ヒヤヒヤしながらイシスは洞窟に入っていく。
そしてその後ルルカとアベルディオは、『しかたないなぁ』と思いながらみんなのあとを追いかけた。
あれからリューセイ達五人は、ユリエスを追いかけ洞窟内部へと入った。
だが洞窟に入るや否やルルカは、謎の影が入口に仕掛けた魔法陣により、森の外の草原へと転移させられる。
それを見たリューセイ達四人は、何が起きたのかわからなかった。
四人は心配するも、もしかしたら洞窟のどこかにいるかもしれないと思い先に進むことにする。
この時イシスは、ルルカを思い「どうか無事でいてください」と願っていた。
一方ルルカはと言うと、草原に転移させられ困惑している。
「えっと……。いったい何が、」
そして何がなんだか分からず、しばらくその場にたたずみボーっと森を眺めていたのだった。
そのころリューセイ達四人は、ユリエスにやっとの思いで追いつき先へとすすむ。
その間ユリエスは、四人にこっぴどく叱られる。
だが「ごめ〜ん」と謝るも、相変わらず反省しているのか分からない表情で、ヘラヘラと笑いながらだ。
アベルディオは、そんなユリエスに対し怒るもさほど効き目がなかった。それなので、これ以上言っても疲れるし無駄だと思い諦める。
その後リューセイ達は、洞窟内を迷いながらも、宝箱を見つけアイテムなどを手に入れていった。
だがその中には、宝箱を真似た魔物やワナなどが含まれている。
そうこうしながらリューセイ達は、洞窟の最深部近くまできた。
「今度こそ間違いないんだよな?」
クライスは、疲れた表情でそう言った。
「どうだろうな……」
リューセイもまた、すごく疲れているらしくフラフラである。
「そうだな。いい加減、ここがそうであってほしいものだが……」
今にも倒れそうにヨタヨタしながらアベルディオは、リューセイとクライスに追い着きそう言った。
そのあとからイシスとユリエスが追いかけてくる。
「本当ですね。それに、もしかしたらここにルルカさんが」
なぜかイシスは、疲れた様子もなくルルカの心配をしている。
「イシス。いつもより元気みたいだけど大丈夫なの?」
そう言うとユリエスは、イシスの顔をのぞいた。
「ええ、だいじょ……」
そう言いかけイシスは、バタンと倒れる。
そうただ単に、実際には疲れていたがムリをしていたため表情に出していなかっただけだ。
それを見たアベルディオは、急ぎ魔法で回復する。
イシスの治療が終わるとアベルディオは、みんなと自分の回復をした。
その後アベルディオとユリエスは、メマの実を食べ魔力を回復する。
ちなみにメマの実で回復できるのは一日五粒だ。それ以上食べても回復することができない。
だがそれだけならまだ良い方で、下手をすればお腹を壊すからである。
そして五人は、洞窟のさらに奥へと向かった。
場所は移り、ここは願望の宝玉がある洞窟の最深部。
謎の影は、五人のここまでの勇敢なる様を見て喜んでいた。
「いいですねぇ。まさか、ここまでの力があるとは思いませんでした。そうですね。では、彼らを歓迎するための準備をしなければ」
すると、何やら聞きなれない言葉で詠唱を唱え始める。
「さぁ、どうなるのかしらねぇ」
そしてその後、謎の影は含み笑いをしその場から姿を消した。
ここは洞窟の最深部付近。
リューセイ達は、扉の前までくると開けて中に入った。
辺りは他の場所よりも、あきらかに明るい。それに、さほどジメジメした感じがなく広い空間だ。
「ふぅ。やっとだな」
そう言いクライスは辺りを見まわす。
「ああ。なんとかここまでこれた」
リューセイはそう言うと、心の中で『よし!』と気合を入れる。
「そうだな。ここまでくるのに、思っていた以上に苦戦した。--ん? あれはもしや!?」
周囲を見渡しアベルディオは、奥の方に何かあるのが見えたためその場所へ向かい歩き出した。
そう石の台座の上には、五つの宝箱が並べられていたのだ。
他の四人もその事に気づき石の台座の方へと駆けよる。
「うわぁ、宝箱だ! それに、今まで見たのよりも小さくてキレイだなぁ」
そう言いユリエスは、宝箱を触ろうとした。
「まだ開けるのは待ってください。どうせなら、みんなで一斉に開けませんか? それに、私は一人で開ける勇気がないので」
そう言われユリエスは宝箱から離れる。
「ん〜そうだね。確かにイシスの言う通り、みんなで開けた方がいいかも」
「そうだな。そうしよう」
ユリエスとリューセイがそう言うと三人は頷いた。
そして改めて五人は、各自どの宝箱を開けるか悩みその場所の前までくる。
「僕は、この緑のにする」
「それなら俺は、この黒い宝箱にするか」
「ユリエスとクライスが決まったとなると。ん〜、この三つの中から選ぶわけか。そうなると、俺はこの白い方にしておく」
そう言いアベルディオは、白い宝箱の前に立った。
「じゃ、俺はこれにする」
リューセイは青い宝箱の方へと向かう。
「そうなると私は、最後に残った紫の宝箱ですね。そういえばよく見ると、みんなの装備と宝箱の色が同じです」
「確かにそうだな」
そう言われリューセイは、宝箱をみながら考え始める。
(ん〜もしかして、この装備と何か関係があるのか?)
だがそう思うも、何も考え付かずそれ以上は悩まないことにした。
「確かにな。だが何か意味があるなら、なおさら開けた方がいいだろう!」
「ああ。クライスの言う通りだ」
アベルディオがそう言うと四人は、ウンと首を縦にふる。
その後五人は、アベルディオの掛け声のもと、ワクワクしながら一斉に宝箱を開けた。
それと同時に五人の宝箱が、各々の色で光りを放つ。
するとその光は、周囲を覆い尽くし__
「「「「「うわぁぁー!?」」」」」
__そしてその光は、五人をのみ込んでいった。
一方謎の影は、五人が光にのみ込まれたことを確認すると姿を現す。
「クスクス……。いいですよ! いいですねぇ。まさかこんなにもあっさり、ワナにかかってくれるとは思いませんでしたが」
歓喜のあまり高笑いをした。その笑い声は洞窟内に響き渡る。
(ですが彼らは、自分の欲望に囚われ自らを破滅へと--そして、あの装備と共に消え去るのです!
そうこれで、英雄など生まれなくなるのですよ。では、彼らが生き絶えるのを待つとしましょう。
--多分あり得ないとは思いますが、もしもという事も考えておきませんとね。
それに、確認もせずに王都に帰りでもしたらあのお方に叱られてしまいます。いえ恐らく、それだけではすまないと思いますが、)
そう思った瞬間、身をブルっと震わせた。
「ふぅ……。嫌な想像をしてしまいました。--まぁ、余計なことを考えずに様子を伺うことにしましょうか」
謎の影は透視をするために、水晶を持ちながら聞きなれない言葉で詠唱する。すると、宙に五つの空間が開きリューセイ達五人を映しだす。
そして謎の影はその後、不敵な笑みを浮かべるのだった。