五勇戯貴族〜俺たちは勇者に憧れ冒険者になった。だけど英雄になれと言われたので、勇者になる夢を抱いたままその道を進もうとおもう〜*願望の宝玉編*

 ここは冒険者ギルドの建物の中。

 冒険者ギルドといっても、さすがに小さな村にあるだけあってあちこちツギハギだらけだ。

 もちろん椅子やテーブルもいうまでもないだろう。

 だが意外にもチラホラと冒険者らしい者たちがいて、酒を飲んだり食事しながら話をしている。


 リューセイ達は建物に入り中を見渡した。

 「ほう。これが冒険者ギルドか!」

 クライスはそう言い視線をカウンターの方に向ける。

 「うわぁ〜。なんかレトロな雰囲気があって。すごくいいよねぇ」

 そう言い満面の笑みで見まわした。

 「ユリエス。それってほめているのか、けなしているのか分からないように思えます」

 「イシス。そうかなぁ? ほめてるつもりなんだけど。ふぅ〜ん。そう聞こえるのかぁ」

 リューセイ達は、そうこう話をしながらカウンターに行こうとする。

 と同時にギルド内が急にざわつき始め、リューセイ達の目の前に一人の体格のいい男が立ちはだかった。そして、クライスの前に立つと見おろす。

 「フッ、珍しい。こんな田舎の村に、若い冒険者とはなぁ」

 「そんなに、珍しいのか?」

 クライスはそう言いその男と目線を合わせる。

 「ああ。特に、おまえ達のような冒険者はな!」

 そう言い鼻で笑った。それを見たクライスはムッとしその男をにらみ付ける。

 「ほう。いっちょまえに、いい面構えをするじゃねぇか」

 そう言われクライスは、その男に飛びかかろうとした。

 ケンカになったらまずいと思いリューセイは、とっさにクライスの腕をつかんだ。

 「クライス! 挑発にのるな。こんなところでケンカなんかしたら大変なことになる」

 「ああ。そうだな」

 クライスは、うなずきリューセイの手を払いのける。

 するとその男は、リューセイが発した言葉に対し怒りをあらわにした。そして、リューセイの胸ぐらをつかんだ。

 「おい、待ちやがれ! すずしい顔しやがって。おまえが一番、気にいらねぇんだよ!」

 「ちょっと、離してくれませんか。なんで俺たちにからんでくるんだ?」

 リューセイは、その男の腕をつかむと力をこめ自分から引きはがそうとする。だが、その男の腕力が上でびくともしない。

 「ふんっ。なんでかだと。おまえらのようなガキが、こんな美人を連れて歩いてりゃなぁ。ムカつくんだよ!」

 そう言うとその男はリューセイを解放しイシスを指差した。

 イシスは自分のことだと思わず後ろをキョロキョロとみる。

 四人は一瞬その男が言っていることが分からず、誰のことなのかと指差すほうに視線を向けた。

 「「「「あー!?」」」」

 するとそれがイシスだと気づき、四人はふきだしそうになる。

 「えっ! それって、もしかして私のことなんですか?」

 リューセイ達に『うん』とうなずかれイシスは、自分が女だと思われ嫌な気持ちになる。だが言い返せず、頭を抱えため息をついた。

 「おい! おまえら。なんで笑いをこらえてやがる?」

 「なんでって。ぷっ。なあイシス」

 そう聞かれ答えるもアベルディオは、笑いをこらえるのが精一杯でイシスに話をふる。

 「アベルディオ。笑わないでください。不愉快です!」

 そう言いムッとした。

 「イシス、悪い。俺も笑いをこらえるので精一杯だ」

 「クライスまで……はぁ、」

 そう言うとイシスは息をもらす。

 そんな中リューセイは、口と腹をおさえ無言のまま心の中で笑っている。

 (ま、マジかよ! 笑える。女と間違われるとはな。確かに、話し方もあんな感じだし。んーだけど、イシスどうするつもりだ?)

 片やユリエスは、両手で口をふさぎ今にもふき出しそうになっていた。

 (ちょっと、これって……すごくウケるんだけど)

 急にイシスが不機嫌になり四人が笑いをこらえていたため、リューセイ達の目の前にいる男は不思議に思い首をかしげる。

 そしてイシスは、四人を見たあとその男に視線を向けにらみ付けた。
 イシスは体格のいい男をにらみ詰め寄った。

 「すみませんが、私のどこが女性だと?」

 そう言いイシスはすごむが、話し方と表情が柔らか過ぎてその男に通用しない。

 そしてその男は首をかしげる。

 「女じゃねぇって、どういう事だ! まさか男なのか? だとしても、女にしか見えねぇ」

 「……。ハァ、もういいです」

 そう言われイシスは、怒るというよりも逆に落ち込んだ。

 それを見ていたリューセイ達は、さすがに耐えられなくなり腹を抱え笑いだす。

 「ぷはっ! なるほど。俺たちは、昔っから一緒だったから、なんとも思ってなかったが。確かに、言われなきゃ女だと思うかもな」

 そう言いながらクライスは、イシスから視線を逸らした。

 「そんなに笑わなくても。ふぅ、もういいです! 私は宿に戻りますので」

 イシスはここにいるのが嫌になり扉のほうへと歩きだす。

 それを見て即座にその体格のいい男は、イシスを追い近くまでくると左手をつかんだ。

 「おい! 待て」

 イシスはいきなり手を握られ驚き振り向いた。

 「な、何するんですか!?」

 そして、何をするんだと言わんばかりにその男を凝視する。

 その様子を見ていた四人はまずいと思う。だが、三人はその様子を見ているだけで、リューセイだけが行動に移しイシスのほうに向かおうとした。

 それと同時にクライスは、リューセイの行く手を阻んだ。

 「リュー、待て!」

 「離せ! このままじゃイシスが」

 クライスの体をつかみ「どけ!」と言い、思いっきり力を込め跳ね除けようとする。

 するとクライスは、リューセイの両腕をつかみ自分から引き離した。

 「まぁ待て。ああ見えて一応アイツも男だ。それにイシスはそれ程ヤワじゃない」

 「確かにそうかもしれない。だけど、」

 そうリューセイは言いかける。

 「クライスの言う通り。僕も大丈夫だと思うよ」

 ユリエスはリューセイを見て、ニコニコと笑いながらそう言った。

 「そうだな。アイツはあんな感じだけど。怒らせると、うるさいくらいに口が達者だしなぁ」

 このあとどうなるのかと思いながらアベルディオは、イシスと体格のいい男のほうを見ている。

 「まぁ確かに、そうかもな。だが、まずいと思ったら、」

 リューセイがそう言うと三人は、うなずきイシスのほうに視線を向けた。

 一方イシスは、その体格のいい男に手を握られ嫌な顔をする。

 首をかしげながら体格のいい男は、イシスの顔をマジマジとみた。

 「んー、なるほどなぁ。だが、男にしておくにはもったいない容姿にいい声をしていやがる」

 そう言うとイシスの品定めを始める。

 「ほほう。それにだ! 見た限りだと、温室育ちのようだが。おまえ、どこぞの御曹司か?」

 そう言われイシスは一瞬ビクッとした。

 「い、いえ。とんでもありません。そんな大層な身分では、」

 「いやいや。そうでなければ、これほど、高貴なオーラを持つ者などいない!」

 イシスはそう言われ困惑する。

 「ですが、」

 「あっ、なるほど! そういう事か」

 何を思ったのかその男は勝手に納得した。

 「あ、あのですねぇ。何を納得されたのかは分かりませんが」

 「いやいや、皆まで言わなくても。おそらくは、隠さなきゃならねぇ事情があるんだろう。そうでなきゃ、あんなお供を連れてはいないはず」

 イシスはそう言われ、どう答えたらいいかと悩んだ。と同時に、なぜかとてつもなく嫌な視線を感じリューセイ達のほうをみる。

 すると四人は、イシスのほうをにらみ顔を引きつらせていた。

 (これはかなり、四人とも怒ってますね。どうしましょう? あの様子ではアベルディオが一番、怒っているようです。
 どうにかしないと、大変な事が起きる予感がしてきました。さてどうしたら、)

 そう思い『よし』とうなずき、体格のいい男をみる。

 そしてイシスは、真顔になり話し始めた。
 リューセイ達は、イシスをムッとにらみ付ける。そう体格のいい男が四人のことを、『あんなお供』と言ったからだ。

 「なぁなんで俺たちが、イシスの付き人なんだ!?」

 メラメラと怒りのオーラを全身にまとい、アベルディオは顔を引きつらせイシスをにらみ付けている。

 「それならまだマシだ。あの男は俺たちを、あんなお供って言ったんだぞ!」

 クライスもまた怒りをあらわにしていた。

 (なんでイシスの家来なんだ!? あークソッ! なんか悔しい。確かにアイツは、俺たちなんかより上品だが)

 そう思いリューセイは、ムッとした面持ちになる。

 「ふ〜ん。僕がイシスのねぇ」

 そう言いユリエスは、いつになく嫌な顔をし半目でイシスに視線を向けていた。

 そんな四人の鋭い視線を浴びイシスは、ここでちゃんと説明しないとあとで何をされるか分からないと思い、自分に気合を入れ話しだす。

 「先程も言いましたが、そんな高貴な生まれではありません。それにアベルディオよりも身分が上だと思われては、みんなに怒られてしまいます」

 イシスはそう答えると、アベルディオのほうをチラッとみる。

 それを聞いたアベルディオは、一時的に気持ちが落ち着いた。だがイシスが、なんでそんな事を言ったのかと首をかしげる。

 またリューセイ達も、イシスの意図が分からず考え込んだ。

 片や体格のいい男は、それを聞き四人へと視線を向ける。

 「ちょっと待て!? まさか! もっと高貴なお方が、あの中にいるっていうのか?」

 体格のいい男は驚き、リューセイ達のほうをみた。そして、誰がアベルディオなのかと探しみる。

 イシスが何をしたいのか分かり、どう対処したらいいのかと思考を巡らせた。

 (どうしたらいい? 素直に本当の性を名乗れば、おそらく国に通報され家に連れ戻されかねない。
 だがこのままでは、いつまでたっても話が先に進まないだろう。んー何かいい方法でもあればなぁ)

 そう思っていると、その男がリューセイ達のほうへと歩みよる。

 「んー、」

 そして四人を順に見まわした。

 「この中にいるとすれば。そうだなぁ」

 体格のいい男は、ユリエスのそばまでくるとじーっとみる。

 「意外におまえが、」

 そう体格のいい男が言いかけた。

 「ううん。僕じゃないよ」

 するとユリエスは、首を思いっきり横に振りアベルディオを指さす。

 一瞬アベルディオは、指を差され驚きユリエスをみる。

 「ユリエス!? ……はぁ、まぁいいかぁ。俺がアベルディオですが」

 そうアベルディオが言うと体格のいい男は、んーと考えたあと口を開いた。

 「なるほど。確かに、賢そうな顔をしている。だがそうだとして。どこの国の貴族様で?」

 そう言いその男は、アベルディオを疑いの目でみる。

 アベルディオは、不機嫌な顔をした。そうその男の態度が、イシスと自分とでは明らかに違っていたからだ。

 (いったい何を考えている? それに、明らかに俺に対する態度がやけに素っ気ない。
 まぁ、ここで食ってかかっても仕方がないし)

 そう思うと軽く深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。

 「……。ふぅ、どこの貴族ですかぁ、か。そうだな。教えてもいいのですが。ただ、おそらく言っても、分からないと思いますよ。小さな国ですのでね」

 「なるほどな。まぁいい。だが貴族の坊ちゃんが。なんで、冒険者のまね事なんかしている?」

 「確かに、そう思われても仕方がないのだろう。だが申し訳ないが、その理由を教える事はできない」

 アベルディオは、堂々とそう言い切った。すると体格のいい男は、ニヤリと笑みを浮かべたあと、わっはっはと急に豪快に笑いだす。

 「コリャ、思ったより度胸があるみてえだな。それに五人ともに、ってところか。まぁいい、なんか事情があるんだろうからな」

 「まさかとは思うが。俺たちを試したんですか?」

 アベルディオは小首をかしげ、そう問いかける。

 「ああ、そんなところだ。まぁ貴族だろうとなんだろうと、冒険者には違いねぇ。それにこれからも、それを隠し冒険者として旅を続けるつもりなんだろ?」

 そう言われリューセイ達はうなずいた。

 「って事は、冒険者登録をするんだよな?」

 「もともと、そのつもりです」

 アベルディオがそう言うと体格のいい男は、リューセイ達を見まわしたあと、「着いてこい」と言い受付のカウンターへと歩きだす。

 リューセイ達は、体格のいい男が何をしたいのかと疑問に思ったが、
 これ以上余計おかしな事になるのも面倒だったのでそのあとを黙って着いていった。

 (何をしたいんだ? それにこの男は何者だ)

 そうリューセイは思いながら、みんなのあとを追いかけたのだった。
 ここはギルドマスターの部屋。なぜかリューセイ達は、体格のいい男の案内でここに来ていた。

 中は多少ツギハギはあるが、さすがにマスターの部屋だけありキレイに整っている。

 所々小さな穴のあいたソファに五人は座っていた。

 片や体格のいい男は、机のひきだしの中から書類と巻物を取りだしている。そして、それを持つとリューセイ達のほうへ歩きだした。

 「おう。おまえ達、待たせて悪かったな。余りにも久しぶりだったんで、書類とか探すのに手間取った」

 そう言いながら体格のいい男は、リューセイ達の真向かいに座る。

 「すみませんが。これはどういう事なのですか? なぜ私たちをこのような場所に。……それにあなたは、いったい」

 イシスがそう言いかけると体格のいい男は、ニヤリと笑みを浮かべた。

 「ああ、そうだった。ちゃんと説明しねぇとな。って。その前に俺は、ここのマスター兼冒険者をしてるルドフだ。姓はあるが、悪いが省略させてもらう」

 ルドフはそう言いながら、なぜか照れている。

 それは、なぜかと言うと。__ルドフの姓がベルフラワーといい。かなり自分のイメージとかけ離れているからだ。

 「なるほど。それで、なんで俺たちを試した?」

 リューセイはそう言いルドフをじーっとみる。

 「その事か。実は、今おまえたちが着ている服について聞きたかったからだ。それを、どこで手に入れた?」

 「これですか。この街の武器と防具の店ですが」

 アベルディオは、なんでそんな事を聞くのかと首をかしげた。

 「そうか。じゃ、おまえたちぐらいの歳の女からじゃないんだな?」

 「女性? いえ、ちゃんと店で購入しました。それに会ってもいません。ですが、なぜそのような事を聞くんですか?」

 「そうか。その装備をこの街の店でか。って事はだ。アイツは、まだこの街にいるみてぇだな」

 あきれた面持ちでルドフは、頭を抱え「はぁ〜」と息を漏らす。そして、その理由を話しだした。



 一方ここは、ギルドの真向かいにある建物の物陰。

 謎の占い師のような女性が、ビクビクしながら辺りを見まわしている。

 「彼らを追って来たけど。まさか、ここに来るとはねぇ」

 そう言い気まずそうな表情でギルドの建物を見つめた。

 (はやく出て来てくれないかなぁ。じゃないと見つかっちゃうよ。それに、私の計画が水の泡になっちゃう)

 そう思いながらリューセイ達が出て来るのを待っている。


 実はこの女性、ルルカ•ベルフラワーといい、ルドフの娘だ。


 (やっと予言通り、英雄になれそうな五人が現れたのにぃ。
 このままじゃぁ。せっかく父様の目を盗んで、伝説の装備を倉庫から持ち出して。
 バルバドさんの店に、お父様にはナイショでって事で置いてもらったのにさぁ。これじゃ意味がないよぉ。
 どうしよう。さすがに、多分もうバレたよね)

 ルルカはさらに物陰に身を潜め悩み始める。

 (てかここにいたら、見つかる可能性のほうが高い。そうだ! 今日は、彼らが泊まっているアレンさんの宿屋で、)

 そしてその後ルルカは、ここにいても仕方がないと思い宿屋に向かった。
 ここはギルドマスターの部屋。

 リューセイ達は、ルドフからいろいろと話を聞いていた。

 「じゃ、俺たちが今身につけている装備って」

 そう言いリューセイは、自分が身につけている装備に目をやる。

 「なるほど。もともと、ここの倉庫に眠っていた伝説の……って!? じゃあ!」

 クライスはそう言いかける。

 「もしかして!? それって、勇者の装備ってことだよね!」

 だがユリエスは、クライスが言い切る前に割って入り、身を乗りだしながらそう言った。

 「いや、すまん。勇者ではなく、英雄の装備なのだが。まぁ、似たようなもんか」

 「だが、なんでこの村にある? それもギルドの倉庫に」

 リューセイは、不思議に思いそう問いかける。

 「詳しく話せば長くなる。だが、おまえ達はその装備を纏うことができた。そうなると、ちゃんと教えておいた方が良さそうだな」

 思い出しながらルドフは説明し始めた。


 __約七百年前。かつて、この世界がそれほどまだ発展していなかったころ。

 この村に王都ロゼレイヴィアから、一人の神官が伝説の装備をたずさえ派遣されてきた。

 そうそれは、ある予言をこの村に伝えるためである。

 その者は、村の皆を集めると話しだした。

 『これは、神ルビス様からのお告げです。主は、この世界の終わりと始まりを告げる時。五人の英雄がいにしえの装備を纏い王都に現れる。……と仰せになられました』

 それを告げるとその者は、手に持っていた五つの装備を村長にあずける。

 そしてその者は、ここがその始まりの地になるだろうと言い王都に戻っていった。

 数百年がたちその五体の装備は、いつしか冒険者ギルドができギルドマスターの手に渡る。

 そう力のある者が、英雄を見極め渡した方がいいだろうという事になったからだ。

 なぜそうなったのか。それは、かつて英雄の装備の噂を聞きつけた強者たちがこの村に押し寄せた。

 だが誰一人として、その装備を着こなす事ができない。それに、その英雄の装備には透明な宝玉がセットになっていた。そう、それが願望の宝玉だ。


 この英雄の装備を託した神官は、当時の村長にこう言い残した。

 『もし装備できる者が現れた時、この宝玉が反応しその者に試練を与える。それを乗り越える事ができた者こそが英雄となる者です』

 その事を代々村長に語られる。


 そのため仮に装備できたとしても、この宝玉に選ばれ尚且つ試練を乗り越えた者でなければならないのだ。

 この村にギルドができたころの村長は、強者が集う場所で、強くて信用できる者であるならばこの装備を預けても大丈夫だろうと思った。

 そういう経緯があり、英雄の装備はギルドで管理することになる。

 願望の宝玉は、それだけを狙う輩が多く、当時のギルドマスターが洞窟に封印した。

 そして、神官が残した予言を忘れないためにこの村には、代々そのことを語り継ぐ習慣が根付いた。__


 ルドフは話し終えると、はぁ〜と溜息をつく。

 「……ってことだ。だがそれを、あの予言者かぶれがぁ。わが娘ながら、さすがにイタ過ぎるわい。あきれて怒る気力さえ失せた」

 「そうだったんですね。ご心労、お察しします」

 軽く頭を下げるとアベルディオは、視線をルドフに向ける。


 __って。勇者かぶれの一人である、あんたがそれを言うんかい!


 「ああ、いや大丈夫だ。まぁ、それよりも。状況がどうあれ、おまえ達はその装備を手に入れた」

 ルドフは一呼吸おき五人を見回した。

 「これで、英雄となる第一歩を踏み出すことになる。だがおまえ達には、冒険者登録をすませたあと、二つほどクエストを受けてもらいてえ」

 「クエストって。依頼のことですよね」

 そう言うとリューセイは、真剣な面持ちになりルドフに視線を向ける。

 「ああ、そうなる。ってことで、早速だがおまえ達の登録をしなきゃな」

 そう言いルドフは、登録に必要な書類を五人の目の前に一枚ずつ並べると、説明しながらテーブルの上に置いてある巻物を持った。

 「それは、なんの巻物でしょうか? 見たことのない色ですが」

 イシスはしろみがかったキレイな巻物をみて魅入っている。

 「これか。この巻物は、水晶を加工してつくったものだ」

 「水晶を加工って!? そんなことが、可能なんですか!」

 信じられないと驚き、アベルディオはそう問いかけた。

 「まぁ、驚くのもムリねぇか。これは冒険者ギルド連盟が、冒険者の能力を測定するために特注でつくったものだからな」

 「冒険者ギルド連盟って!?」

 クライスは驚き身を乗りだすとそう問いかける。

 「そうか。その様子じゃおまえ達、何も知らねえみてぇだな」

 そう言うとルドフは、冒険者ギルド連盟のことについて話し始めた。

 「……そうなると。その連盟に属しているギルドなら、どこでも報酬がもらえる」

 「いや、アベルディオ。それだけじゃない。登録証(水晶のペンダント)があれば身分証明になり、水晶の色で階級が分かる!」

 リューセイは、今までの不安がウソのように消え急にワクワクし始める。

 そして五人は、さらにルドフからいろいろと聞き手続きを始めたのだった。
 ここはランズベール村の北東側にある草原。その近くには森があり、その奥に願望の宝玉があるとされる洞窟がある。


 あれからリューセイ達は冒険者登録をすませ登録証(水晶のペンダント)の使い方を聞いた。

 その後ルドフから、なんのクエストをするのかを聞きこの草原にくる。


 リューセイ達五人は森を目の前にし、どうするかと話し合いをしていた。

 「まさか、いきなり宝玉を取ってくるクエストとはな」

 地べたに座りアベルディオは、そう言い森のほうに視線を向ける。

 「ああ。マスターに言われた時は、まさかって驚いた」

 リューセイは自分の剣と盾のチェックをしながらそう言った。

 「そうですねぇ。本当に、今の私たちの力で、宝玉を手に入れる事が出来るのでしょうか? それに、どのくらい魔法が使いこなせるか分からないのですが」

 「イシスの言う通りだね。僕も、まだこのクロスボウの使い方も分からないしなぁ」

 そう言いながらユリエスは、背負っていたクロスボウを両手で持つとみる。

 「確かにな。それに無策で動くのも得策じゃない」

 「珍しいですねぇ。クライスが冷静に物事を考えているなんて。雨が降らなければいいのですが」

 イシスは両手を前に出すと、雨が降らないかと心配そうな表情で空を見上げた。

 そう言われクライスはイシスの腕をつかんだ。

 「おい! イシス。俺をなんだと思っている!?」

 「ちょ、離してください! なんだと聞かれましても。そうですね……。今のほうが、いつものクライスらしいと思いますが」

 そう言い返されクライスはイシスを離すと疲れた面持ちになる。

 「はぁ、なるほどな。俺は、イシスにそんなふうに思われてたってことか」

 「クライス。僕もだけど。多分、みんなもそう思ってると思うよ」

 ユリエスはニカッと笑いながらそう言いきった。

 するとクライスは、リューセイとアベルディオのほうに視線を向ける。

 「リュー、アベル。おまえらもそうなのか?」

 そう聞かれリューセイとアベルディオも、そう思っていたが口に出せなかった。そして、どう返答したらいいのかと困惑しその場で固まる。

 「……おい、二人とも。なんでそこで黙る! って、まぁいいか。それより、どうする?」

 「そ、そうだな。んーこの際だが。お互いフォローし合いながら、行ける所までトライしてみるっていうのはどうだろう」

 そう提案するとアベルディオは四人を見まわした。

 「ほう。さすがはアベル。それはいい案だ。確かに、おまえが言うように、ここで議論しているよりもそのほうがいいかもな」

 クライスはそう言いニヤリと笑みを浮かべる。

 「じゃ、役割を決めないとな。そうなると。俺の装備はこの剣と盾だ。って事は、前線で魔獣と戦ったほうがベストか」

 「ああ。リューはそのほうがいいだろう。んー俺はこの大剣だが。盾がない分、思いっきり剣をぶん回せる。だが、魔獣の攻撃をモロに受けやすいのがネックだ」

 「そうなると。クライスはリューセイのあとか、一緒に前線でってのがいいのかもしれない」

 アベルディオは、真剣な面持ちで考えながらそう言った。

 「そうだな。まぁ、状況に応じてにはなるが。その時、どっちにするか判断して行動するつもりだ」

 「それがいいだろう。そうなると俺は……」

 アベルディオは回復を優先するか、付与系のほうに重点を置き行動したほうがいいのかと悩んでいる。

 「アベルディオ。私はどうしたら?」

 「イシス。そういえば、おまえは攻撃の魔法を実際に使った事がなかったんだったな」

 「ええ。ですので、どうしたらいいのかと」

 イシスは不安な表情で問いかけた。

 「そうだなぁ。クエストの前に、俺が教えてもいいが」

 「それは助かります」

 そう言いイシスはアベルディオに軽く頭を下げる。

 「ん〜僕はどうしよう?」

 「ユリエス。使い方が分かればいいのか?」

 「うん。リューセイ、この使い方って知ってるの?」

 ユリエスはそう言いリューセイのほうを向いた。

 「使った事はない。だけど、父さんが使っているのを見てたから。ある程度なら分かる」

 「そうなんだねぇ。じゃ教えて!」

 そうユリエスが言うとリューセイは、うんと首を縦にふる。

 「じゃ、俺は……。そうだな、素振りでもしてるか!」

 そう言いクライスは、リューセイ達からすこし離れると大剣を構え素振りを始めた。

 その後リューセイ達は、各自クエストを受けるための準備を始める。

 「……みんな。気づいてるよな?」

 リューセイが小声で言うと四人はうなずいた。

 そうその時五人は、自分たちを監視するある気配を察知する。だが、わざと気づかないフリをした。



 一方ルルカは、草原にそびえる大きな木に隠れながら、そんなリューセイ達を目を輝かせながら見ていた。

 (いよいよね。彼らが願望の宝玉がある、あの洞窟に……。って! せっかく私がうわさを流したのに。結局は父様が依頼してしまったみたい。
 でも、まぁいいわ。これで彼らの活躍が見られるし)

 そう言い五人に熱いまなざしをおくる。

 そしてルルカは、五人がその場から動くまでずっとこの木に隠れていたのだった。
 ここは、ランズベール村の北東に位置する森の近くにある草原。

 あれからリューセイ達は、ルルカが監視していることを知っていたが、気づかないフリをし魔獣と戦うための準備をしていた。


 そうもう一つのクエストとは__

 必ずルルカは五人を尾行するから、それに気づいていないフリをして近づき仲間となり一緒に行動する。

 __という内容だ。


 だがなぜルドフは、そのように言ったのかというと。

 ルルカをムリにどうこうしようとしても、自分が納得しないかぎり、すんなり言うことを聞かない。と思ったからである。

 それと、一人で行動させておくのは危険だと判断したからだ。__てか、ただ単に過保護なだけである。


 アベルディオは、イシスに初歩の攻撃魔法の使い方を教えていた。

 つえを構えるとイシスは魔法陣を描き唱える。

 そして魔法陣から、大きな炎の球体が現れると勢いよく放たれた。すると、狙ったようにクライスのほうに向かう。

 それを見たイシスは、どうしようかと思いオロオロとする。

 アベルディオもまたこれはまずいと思い、水晶をかかげると魔法陣を描き詠唱し始めた。

 一方クライスはそれに気づき、とっさに両手で大剣を大きくふりかぶる。

 そして、自分のほうに勢いよく向かってくる、大きな炎の球体に狙いを定め力一杯ふりきった。と同時に、大剣の刃が大きな炎の球体をとらえる。

 そしてその大きな炎の球体は、はるか遠くのほうに飛んでいき落下すると爆発した。

 「イシス!? どういうつもりだ。俺を殺すつもりか!!」

 クライスはイシスを鋭い眼光でにらみ付ける。

 「クライス、ごめんなさい。そんなつもりはなかったのです。ですが、この魔法って一番よわいはずでは?」

 クライスにあやまったあとイシスは、つえに視線を向けた。

 『ハァ〜』とため息をつきクライスは、軽く手を上げ「仕方ない。次は気をつけろよ」と言いふたたび大剣をかまえるとスブリを始める。

 イシスとアベルディオは、それを確認すると『ホッ』と胸をなでおろした。

 「イシス。もうすこし魔力をおさえられないのか?」

 「アベルディオ。そう言われましても。魔力の加減がわからないのです」

 どうしたらいいのかとイシスは困惑する。

 「なるほど。そうなると。本当に、初歩から教えないとムリそうだな」

 そう言われイシスは苦笑した。

 その後アベルディオは、一から魔法についての説明をする。

 そしてイシスは、それを真剣な面持ちで聞いていたのだった。



 片やリューセイは、ユリエスにクロスボウの使い方を教えていた。

 「んーこのクロスボウは、珍しい仕組みのものみたいだ」

 目を輝かせながらリューセイは、クロスボウを念入りにチェックしている。

 「それじゃ。それの使い方ってわからないの?」

 ユリエスは大丈夫なのかと思い不安な表情を浮かべた。

 「あっ、いや心配ない。多少だけど使い方ぐらいならわかる」

 「よかったぁ。で、どう使うの?」

 そう聞かれリューセイは、クロスボウの説明をする。


 __このクロスボウの形は、普通とあまり変わらない。だがクロスボウの中間に、大きなクリスタルが埋め込まれている。

 そのクリスタルに魔力をためておき、攻撃をする時にその魔力を使い矢を放つ。

 攻撃方法は……。普通の矢をクロスボウに軽くのせ、スコープをのぞきながら敵に狙いを定める。

 台座に描かれている魔法陣に手を添えながら、《シューティング!!》と唱え矢を放ち的にあて攻撃するのだ。

 だがクロスボウには欠点がある。


 ・近い距離の攻撃ができない。

 ・いちいち矢を置き攻撃するため時間がかかる。

 ・手持ちの矢がなくなると何もできない。


 その他にもあるが、今はこのぐらいで__


 リューセイは話を終えると、ルルカのことが気になった。そのため、気づかれない程度にチラッとルルカのほうを見やる。

 (まだいるみたいだ。このまま洞窟までついてくるつもりか?)

 そうリューセイが思っているとユリエスは、クロスボウの使い方を聞き使ってみたくなった。

 「ねぇ、リューセイ。--ん〜なんか別のことを考えてるみたい。どうしよう」

 そう思いながらクロスボウを持ち、スコープをのぞくとクライスをみる。

 矢は説明の時にリューセイが装着したままであり、なおかつ水晶に魔力がすこしだけたまっていた。

 ユリエスは矢が装着しているかどうかも確認せずに、いつものノリでクロスボウの台座に描かれた魔法陣に手を添える。

 《シューティング!!》

 そう唱えると、矢が勢いよくクライスのほうへ放たれた。

 「え!?」

 ユリエスは驚きクロスボウを地面に投げおき、どうしようかとあたふたする。

 ユリエスの声を聞いたリューセイは、その光景をみて間に合わないと思いつつも、体が反射的に動きかけ出していた。

 アベルディオとイシスは、「あー!?」と叫び互いに魔法を放とうとする。

 だがその時クライスは、眉を『ピクッ』と動かし顔を引きつらせながら瞬時に大剣を持ち振り上げた。と同時に、大剣を並行にすると思いっきり振りおろす。

 そして、飛んでくる矢をあっさりとたたき落とした。

 四人はそれをみると、よかったと思い『ホッ』と胸をなでおろす。

 だがクライスは、ユリエスのほうを向くなりにらみ付ける。

 「ユリエス!? なんのつもりだ。俺になんのうらみがある!」

 「あーえっと。ごめん。べ、別にうらみはないんだ。ただ、間違っちゃってさ」

 ユリエスはビクビクしながらうしろに退いた。

 「なるほどな。間違ってか、」

 「う、うん。そうそう。だから、ホントにごめん!」

 手を合わせながらユリエスはあやまる。

 「て、おい! すんなり。はい、そうですか、って言うわけないだろうがぁ!!」

 クライスは怒りをあらわにし、ユリエスのほうに歩みよった。

 それをみたユリエスは、「ヒッ!?」と声をあげうしろを向くと猛ダッシュで逃げる。

 「おい待て、ユリエス。逃げるんじゃねぇ!」

 そう言いながらクライスはユリエスを追いかけた。

 リューセイとアベルディオとイシスは、二人をとめるかほおっておくか、どうしたらいいのかと悩んでいる。

 片やルルカはそんなリューセイ達をただ眺めみているだけだ。

 その後クライスは、すばしっこいユリエスをつかまえるのに時間がかかり洞窟にいくにも時間に余裕がなくなる。

 そしてリューセイ達は、今日はあきらめ日を改めることにして宿屋に戻ったのだった。
 ここは暗くジメジメした、はるか最果てにある地底の最下層。

 そこには異様なほどの悪しき空気が漂い、「ウゴオォォォォーン!」と奇妙な鳴き声が辺りに響き渡っていた。

 その鳴き声はこの最下層の奥深くにある、いかにも魔物が潜んでいそうな建物の中から聞こえてくる。

 その建物に誰もはいれないよう扉が固く閉ざされていた。

 そう二枚の魔法陣が描かれた大きな呪符が、扉にバッテンに貼られている。そのため、この建物全体が封印されていた。


 いかにもヴィジュアル系よりのパンクのような黒い衣装を着た男性と黒髪の魔族の女性が、じーっとこの建物を眺めたたずんでいた。

 「おい、メリューサ。まさかここまで来て、足止めってことはねぇだろうな!」

 そう言い鋭い眼光でにらみ見る。


 この男性はタイガ・スターナイツ。銀色に紫メッシュのショートヘア。

 貧しい村の生まれではあるが、ある本がきっかけで魔王に憧れる。

 タイガは、ベルゴーグ大陸からはるか北西に位置する、ラダル大陸の西北西にあるルーベルの村で生まれ育った。

 その村は、ラダル大陸の中央に位置する王都ネルファスの領地である。

 この王都ネルファスは、自国が支配する領地に重税をかけていた。そうもちろん、ルーベルの村も例外ではない。

 そのためか村人たちは、毎日のくらしがやっとだった。

 そう小さなころからタイガは、このくらしをもっと豊かにできないのかと思っていたのだ。

 そんな時__そう約五年前。村のある家の掃除を手伝っていた時に勇者と魔王のことが書かれた物語の本をみつける。

 そして物語に興味を持ち、その本を持ち主にもらい家に戻り読んだ。

 タイガはその本を読み終えると、なぜか勇者ではなく魔王に憧れる。

 そうその物語を読み、今の世界を変えたいと思ったからだ。

 だがなぜ魔王なのか。それは世界を救う立場の勇者じゃ、世界を変えることができないと思ったからである。

 その後タイガは、魔王となるために村を出て各国を転々と旅をしながらひたすら剣と魔法の勉強をした。

 そして約二年前。この世界の南西に位置する小さな孤島バギルで、魔族がひっそりと隠れ住む村を発見する。

 タイガはそこで二年もの間。その魔族たちに自分の強さを示し信頼を得ると、魔帝と呼ばれるようになった。

 だがタイガは魔王になりたいため、この呼び名を嫌っている。

 その後この場所のことを知り、自分の側近であるメリューサとともにここに来ていた。


 「タイガ様。申し訳ございません。まさか魔族の帝都が、こんな地下にあるとは思いもよらず。それにこんなに厳重に封印がされているなんて」

 メリューサは申し訳なさそうにうつむいている。


 この魔族の女性はメリューサ・サキュア。魔族と人間とのハーフだ。そのため、普段は人間に姿を変えタイガとともに行動している。


 「ああ。おまえだけが悪いわけじゃない。俺も、ちゃんと調べてくるべきだった。だが、クッ、」

 悔しさの余りタイガは、唇をかんでしまいそこから血がにじみ出てきた。

 「それはそうと。これからどうなされますか?」

 「ふぅ〜、そうだな。ずっとここにいてもしょうがない。……出直してくるか」

 そう言われメリューサがうなずくと、二人はこの場を離れる。

 そしてその後二人は、帝都の封印を解くための方法を歩き調べるのだった。



 場所は移り__ここはダインヘルム国。

 数名の年配の男女が、ハルジオン公爵邸の客間に集まり話をしていた。

 そうリューセイ達の家の者たちである。

 「うむ。やはりアベルディオ達はみつからぬか」

 そう言いながらアベルディオの父親は、どうしたものかと頭を抱えていた。


 このうす紅色の髪の男性は、アゼリオス・ハルジオンと言いアベルディオの父親である。


 「アゼリオス様。わが愚息が、とんでもない事をしでかしてしまい。本当に申し訳ございません」

 そう言いうす紫の髪の男性は、冷や汗をかきながらペコペコとアゼリオスに謝っていた。


 この男性はナファス・ピオーネ。クライスの父親ではあるが、さほど似ておらず弱々しく見え痩せている。


 「ナファス様が、あやまる必要などありませんわ。あやまるべきは子供たちのほうです」

 その女性はイライラしていた。


 この黄色の髪のキレイな女性は、リリア・アルキオと言いユリエスの姉である。


 「その通りです。本当に、わが子ながら--何を考えているのか……」

 そう言うと桃色の髪の男性は、あきれ果て「はぁ〜」っと息をもらす。


 この男性は、イディルス・レインロット。イシスの父親だ。


 「それを言うなら。うちのリューセイも、」

 片手で頭を抱えながら茶髪の男は、どうしたものかと頭を悩ませる。


 この男性は、リオス・ランベルン。リューセイの父親だ。


 「これだけ探しても見つからないと言うことは……。もう既に国の外へ出たかもしれんな」

 アゼリオスは窓の外へ視線を向ける。

 「ええ。間違いなくそうかと、」

 そうリリアが答えるとアゼリオスは、何かを決心し『よし!』と納得した。

 「子供たちだけでこの国を出て旅立った。それも勇者になると置き手紙を残してな。ましてや四日も戻って来ていない」

 そう言いアゼリオスは、ニヤリと笑みを浮かべまた口を開き話し始める。

 「それでだ。どうだろう。あの子供たちがどこまでやれるか見届けるというのは?」

 「ですが。本当に大丈夫でしょうか?」

 イディルスは心配で不安な表情になった。

 「確かに、そうかもしれない。アゼリオス様の言うように……。それにこの国で、ただ過ごしているより。子供のためにも良いのかもしれん」

 そうリオスは言いみんなを見まわす。

 それを聞きアゼリオスがうなずくと、他の三人はすこしためらったが「そうだな、」と言い納得する。

 そしてその後アゼリオス達は、今後どうするかを話し合っていた。
 あれからクライスはユリエスをやっとの思いで捕まえる。だが疲れ果ててしまい責め立てる気力をうしなう。

 そのためと暗くなってきたのもあり明日、改めて準備と作戦を練り直したうえでまた来ようと言い宿屋にもどる。

 そしてルルカは、相変わらず五人のあとをつけ同じ宿屋に泊まるのだった。



 ___そして翌日。再びリューセイ達は、願望の宝玉を探すべく森へと向かった。

 ルルカは五人のストーカーをまだ続けている。



 ここは、ランズベール村の近くにある森。

 リューセイ達は、願望の宝玉を手に入れるために森の中を歩き洞窟に向かっていた。

 すると、五人の目の前に数十体ものゴブリンが現れる。そしてよだれを垂らしながら、今にもリューセイ達を襲おうとしていた。

 「おい、って。やっぱ、そうやすやすと行かしてくれそうにないな」

 そう言いながらクライスは大剣を構えると、ゴブリンがどう動くか様子を伺っている。

 「クッ、まさかこんなとこにゴブリンが」

 リューセイは盾と剣を持ち構えると、クライスの前に立ち守りの体勢をとった。

 「リュー!? 俺は、心配ない大丈夫だ。それよりもアベル達の方を」

 「いや、こっちは問題ない。かえってクライスの方がキケンだ。ゴブリンは凶暴なうえに素早い。だから大剣だと、ヤツらの攻撃を防ぎきれないはずだ」

 アベルディオはそう言いながら、いつでも対応できるように水晶を持ち構える。

 「それもそうなんだが。リューが近くにいると、攻撃しにくい」

 「確かにな。じゃ俺は、少し離れた所から攻撃する」

 リューセイはそう言いながら、クライスから少し遠ざかった。

 それを見計らったようにゴブリンは、一斉にリューセイ達に襲いかかる。

 それを見たクライスは、とっさに剣を斜めに振り上げると思いっきり振り下ろした。

 すると、ゴブリンを吹き飛ばす。だがそれをすり抜けたゴブリン達が、怒り狂いクライスに飛びかかった。

 ゴブリンを自分から引きはがそうと、クライスは大剣を無我夢中で必死に振りまわす。

 「クッ、なんで俺のとこばっかりくる!?」

 そばにいたリューセイは、すばやく盾でガードしながら、剣で攻撃していきゴブリンを一体二体と倒していく。

 「クソッォォ〜! クライス、今そっちに行く」

 だが数が多すぎて、クライスの方までは手がまわらない。

 (このままじゃ、クライスが危ない)

 そう思うも一体倒すだけでもやっとだ。

 クライスは、ゴブリンの攻撃を受けながら必死で抵抗している。

 (クッ、まずい。クソッ!!)



 一方アベルディオは、どうしたらいいのかと悩んでいた。

 (運良くゴブリン達の視界には、リューセイとクライスだけしか入ってない。だけどこのままじゃ、クライスがゴブリンの餌食になる。
 ……そうなると、強化魔法を付与した方が良さそうだな)

 そう思うと、即クライスの方に水晶を向け詠唱する。

 《大地を守りし地の精霊よ 岩石の如き強靭なる魂 その一部を分け与えたまえ--肉体強化魔法 ロバスト ソリッド!!》

 そう唱えると、コハク色に水晶が染まった。と同時に眩い光を放ったと思った瞬間。その光は、クライスの体を覆いつくす。

 クライスはキズを負いながらゴブリンにひたすら抵抗している。だが、いきなり自分の体に魔法が掛かり驚いた。

 (これは……。アベルの仕業か? だが、そのおかげで力がみなぎってくる。それに、大剣がそれほど重く感じない。
 ん〜それだけじゃないみたいだ。体が強化されているせいか、多少ゴブリンの攻撃を受けてもダメージが軽減されている。
 これなら、思いっきり攻撃できそうだ)

 そう思いクライスは、大剣を無造作に思いっきり振りまわす。そして、自分にまとわりつくゴブリンを薙ぎ払いながら立ち上がった。

 リューセイはそれを見るなり、これなら大丈夫だと安心する。そして、自分の方に向かってくるゴブリンを倒していった。

 その様子をみるとアベルディオは、『ホッ』と胸をなでおろす。と同時にユリエスとイシスのことが気になり警戒しながらうしろを向きチラッとみた。

 「はぁ?」

 アベルディオはユリエスとイシスの方を向くなり、ポカンと口を開けたままその場で固まる。

 そうイシスが、大きめの木にビクビクしながら隠れていたからだ。

 (イシス……。おまえのその気持ちは、すごく分かる。だけどなぁ、それじゃ意味がないだろうが)

 アベルディオは、そう思いながら頭を抱える。



 片やユリエスは、いつの間にか木に登っていた。

 そしてなぜかワクワクしながらクロスボウを構え、いつでも攻撃できるようにゴブリンに狙いを定めている。

 (やっと、この武器が使える。そうだなぁ。リューセイやクライスのそばにいるゴブリンだと、矢が間違って二人にあたっちゃうと危ないし)

 そう思いスコープを覗きながら、リューセイ達より先の方に視線を向けてみる。

 (ん? って! なんだろう? 似てるけど、ゴブリンより体が大きくって黒っぽい緑色をしてる。ん〜、もしかしてあれがボスなのかな?)


 __そう、ソイツはゴブリンキングだ。って! いきなり、こんなの相手にして大丈夫なのだろうか?


 ユリエスは、そのことをリューセイ達に伝えようと思った。

 だが、ふと思いとどまる。そうここで声を出したら、ゴブリン達に気づかれると思ったからだ。

 (どうしよう? リューセイ達は気づいていないみたいだし。このまま、ほおっておけない。って、やっぱヤルしかないよね)

 そう考えがまとまると、なぜか不敵な笑みを浮かべる。



 そんな中ルルカは、自分に魔法を付与すると光のベールを纏い結界を張った。そして、ドキドキしながらリューセイ達をみている。

 (あらら。いきなりゴブリンが相手かぁ。だけど、あの五人なら心配ないよね。
 ん〜でも、あの桃色の髪の彼。木に隠れて、おびえているけど大丈夫かな?)

 そう考えながらルルカは、心配に思い少し考えていた。だがやはり気になり、イシスのそばへと向かうことにする。

 そしてその後リューセイ達は、ゴブリンとさらなる戦いを繰り広げていくのだった。