「その行動ってのを具体的に知りてえんだ。で、その後は?」
 
「その後、とは?」
 
 鈴心(すずね)が小首を傾げているので、蕾生(らいお)はもどかしくなって急かす。
 
「だから、(ぬえ)が出てきた後は?鵺を倒した時のことも教えろよ」
 
 すると鈴心の表情が途端に曇った。
 
「……貴方が止めを刺したことは聞いていますね?」
 
「ああ、だから俺が一番呪いを強く受けてるんだろ?」
 
「ならば、私から言えることはまだありません」
 
 突然の遮断だった。このまますんなり聞けそうだと思っていた蕾生はあてが外れて落胆する。
 
「えー、お前までそれかよ」
 
「それ以上はハル様がお話してくださるのを待ちなさい」
 
「いつまでだよ?」
 
「さあ、それは……」
 
 鈴心が言葉を濁していると、後方から永の声が聞こえた。
 
「おーい、そろそろ終わりにしようかー」
 
「──時間切れですね」
 
 それを受けて鈴心は立ち上がり、膝についた泥を払った。
 
「おい、結局たいした話は聞けてねえぞ」
 
 蕾生が不満をぶつけると、涼しい顔で鈴心は答える。
 
「そうですか? 私は一応満足ですが」
 
「くそぉ」
 
 悔しがる蕾生に、よく通る声で付け加える。
 
「時が来ればいずれ知ることになります。それまでにもっと強くなりなさい」
 
「はあ?」
 
「その時、貴方がどうするかで私達の運命が決まる」
 
「それ、どういう……」
 
 酷く抽象的な言葉の意味を蕾生が理解できるはずもなく、もっと聞き出そうと思った所で星弥がこちらに駆けてきた。
 
「すずちゃん、お疲れ様! お膝汚れちゃったね、着替えよ?」
 
星弥(せいや)、子ども扱いしないでください。草むしりしたんです、膝くらい汚れます」
 
 あからさまに嫌がる鈴心にも、星弥は動じずに笑顔でその肩を掴んで連れていこうとする。
 鈴心も結局は諦めているのだろう、それ以上文句を言うこともなく星弥に従った。
 
「うんうん、わかった。じゃあ(ただ)くん、また後でね」
 
「あ、ああ……」
 
 鈴心が連れ去られる姿を見送りながら呆けていると、永がニヤニヤしながら近づいてくる。
 
「有意義なおしゃべりはできたかな?」
 
「いや、全然」
 
「そう? リンは楽しそうだったよ?」
 
「あの仏頂面でか?」
 
 蕾生が憎まれ口を叩いても、永は笑顔で返す。
 
「うん、とっても」
 
「──俺にはわかんねえな」


  
 わからない。
 永を守るにはこれからどうしたらいいのか。
 鈴心が言う「強くなれ」とはどれくらいなのか。
 鵺は、どこまで近づいているのか。
 蕾生にはまだ何もわからない。