「え?」
 
 首を傾げる(はるか)の目の前に、自らの携帯電話を掲げて鈴心(すずね)は言う。
 
「私のこれは監視用として渡されたものです」
 
「!!」
 
「今の会話、筒抜けだったかもしれません」
 
 誰に、とは言わなくてもその場の全員が理解していた。
 
 途端に緊張が走る。蕾生(らいお)は鈴心に初めて会った時に鳴ったサイレンを想像した。永も身構えて部屋の隅々まで注視する。
 
 突然、外で激しく雨が降り始めた。ザアザア降る音が全てをかき消すように部屋中を満たしていく。
 
 数分経ったが屋敷の周りも部屋の中も静けさに満ちていた。ただ雨の音を除いては。

 
  
「別に何も起きねえな」
 
 蕾生が少し緊張を解いて言うと、永もそれに倣って一息吐いた。
 
「うん、この前みたいにサイレンでも鳴って、物騒な人が押し込んでくるかとも思ったけど……」
 
「だな。考え過ぎじゃねえか?」
 
「どうかな。さすがに銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)でもそれは短絡的だし、泳がせてるのかも」
 
 二人の会話の横で鈴心はまだ険しい表情を続けていた。そして三人とは別の理由で青ざめながら神妙な面持ちの者がいる。
 
「ねえ、すずちゃん。それ、兄さんが中学生になる年齢になったからって、お祝いにくれた携帯電話だよね」
 
 星弥(せいや)の声は少し低く震えていたが、今の鈴心はそれに気づく余裕がなかった。
 
「そうですが」
 
「贅沢品だから、お祖父様には内緒ねって兄さん言ってたよね?」
 
「ええ」
 
 鈴心の短い返答に、星弥は冷笑を交えて言う。
 
「つまり、すずちゃんは兄さんのことも信用してなかったってこと?」
 
「あ……」
 
 星弥の言わんとしていることにようやく気づいた鈴心は言葉を失った。星弥は明らかに落胆した表情で佇んでいる。
 
「……お兄様には良くしていただいているとは思っています。でも、あの人はお祖父様の言いなりですから」
 
「そう……」
 
 取り繕うことはせず、しかし幾ばくかの罪悪感を持って鈴心が答えると、星弥は悲しそうに頷いた。
 部屋に気まずい雰囲気が漂う。星弥は俯いて黙ったままで、鈴心も二の句を考えあぐねていた。