♢♦♢
その昔、この世界は多種族が共存する平和な世界が確立されていた――。
しかし。
人類、エルフ族、竜族。
そして他にも多岐に渡る種族や生命が平和に暮らしていた筈のこの世界はある日、突如世界を一変させる“終焉”を迎えたのだった。
まるで神の怒りと言わんばかりの獄炎が大陸を飲み込んだのは約666年前。世界はたちまち大火災となり、ほぼすべての種族や生命が絶滅寸前にまで壊滅する程に。
世界はいつからかこの出来事を『終焉の大火災』と名付け、後世に2度と同じ事が起きないようにと多くの書物にその歴史を記したと言われる。
**
「へぇ~。リューティス王国にはそんな歴史がねぇ……」
「本当に無知だなお前は」
いつものテンションで、代わり映えのない会話をしているエレンとアッシュ。
「この“終焉の大火災”の後、このリューティス王国が建国されたそうです。それに今では俄に信じ難いですが、エルフや竜族の他にも、人間と魔物達も元は平和に共存していたとも言われています。
しかし残念な事に、この終焉の大火災が世界の秩序を全て狂わせてしまったのです」
淡々と話し終えた後、エドはテーブルに置いてあった紅茶を一口飲んだ。
どうやらエドがエレンにリューティス王国の歴史について簡単に説明していたようだ。
「実に興味深い話でした」
「おいおい、こんな歴史は誰でも知っている常識だぞ。どんな育ち方すりゃそうなるんだよ」
アッシュの言い方が相変わらず癪に障るエレンは眉間に皺を寄せて言い返す。
「君だってどんな育ち方をすれば“この仕上がり”になるのか教えてもらいたいね」
「なんだとコラ。テメェは弱いくせに知識もねぇのか。だからそんな女みたいな女々しい軟弱野郎になったんだな」
「うわ、最悪な人間。だから君は嫌われて友達の1人もいないのか」
「全然関係ねぇだろその話はよ!」
「そっちが毎回毎回馬鹿にしてくるからだろ! それにムキになったって事はやっぱ友達いないんだ! ハハハハ、笑える」
「ぶっ殺す! 表出ろ!」
ゴホン。
2人のしょうもないやり取りを遮るように、エドが小さく咳ばらいをした。
「……それで? そもそも何でその終焉の大火災ってやつが起きたの?」
「知らねぇよ」
当たり前の如く答えたアッシュにエレンは度肝を抜かれた。
「嘘でしょ? 散々偉そうにしておいて自分も知らないとかあり得ないんだけど」
「うるせぇな、だから分かってねぇのはテメェだ。歴史はそこまでしか記されてないんだよ」
「え、そうなの?」
予想外のアッシュ答えに、エレンは正解を求めるべく無意識にエドの方を向いていた。
「本当ですよエレン君。それ以上の事は誰にも詳しく分からないのです。強いて言えば、終焉の大火災によってエルフ族と竜族だけは完全に滅びてしまったそうですが」
「エルフ族と竜族……。それだけは僕もどこかで聞いた事があります」
エルフ族――それは人間や動物や魔物ともまた違う、とある1つの種族。エルフ族は人間よりも格段に寿命が長く、優れた叡智や“魔力”といった不思議な力も備えている。耳が尖っていたり羽が生えたりしているなど、その見た目も特徴的。
竜族――それはまたエルフ族と同様、人間とはまた違う1つの種族。竜族は先祖に“ドラゴン”を持つという特殊な血統の種族であり、屈強な肉体と高い戦闘能力を備えている。また、見た目は非常に人間に近く、強いて違いを上げるとすれば、ドラゴンの血を引く竜族は緑色の瞳を持つ者が多い。
このエルフ族と竜族は終焉の大火災によって絶滅し、現代を生きるエレン達の時代ではその名前と存在だけが語り継がれていた。
「あくまで私の知る限りですが、古来よりエルフは格式の高い神聖な存在だと崇められていたそうで、このエルフ族という存在があったからこそ世界は平和であったとされています。
しかし、多くの者達がこの歴史を紡いで謎を追ってきたある時、どこかの研究者がどういう訳か“終焉の大火災が起こった原因もまたエルフ族なのでは”という1つの仮説を立てたらしいのです。
ですがその仮説は決定打になる証拠もなければ、現代に至るまでその仮説や新たな謎が紐解かれる事もまたないそうですよ」
エドはそこまで話し終えると、再び紅茶を口にした。
「そうなんですね。未だに謎が明かされてないのか~。凄い話だなぁ。
でも何で人間より賢くて強そうなエルフ族や竜族が全滅しちゃったんだろう……。人間の方が単純に数が多かったのかな?
それにしても怖いね、その終焉の大火災って。生命をほぼ消しちゃうなんて」
「全くですね。そしてそれがエルフ族が原因と言われるとなると、最早一般人には理解不能な領域です」
――コンコンコン。
「いるか?」
エレン達が部屋でそんな話をしていると、扉の向こうからノック音とダッジ団長の声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
「待たせたな。護衛隊の連中が帰って来た。支度が出来たら1階に来てくれ。皆に紹介するからよ」
扉の間から顔を覗かせたダッジ団長は、それだけ言うとまた扉を閉めて行ってしまった。
「する支度なんてねぇっつうの。やっとこの退屈な時間から解放されるな」
エレン達が部屋問題で揉めてから早2日が過ぎていた。
マリア王女の護衛任務までは後2日――。
その昔、この世界は多種族が共存する平和な世界が確立されていた――。
しかし。
人類、エルフ族、竜族。
そして他にも多岐に渡る種族や生命が平和に暮らしていた筈のこの世界はある日、突如世界を一変させる“終焉”を迎えたのだった。
まるで神の怒りと言わんばかりの獄炎が大陸を飲み込んだのは約666年前。世界はたちまち大火災となり、ほぼすべての種族や生命が絶滅寸前にまで壊滅する程に。
世界はいつからかこの出来事を『終焉の大火災』と名付け、後世に2度と同じ事が起きないようにと多くの書物にその歴史を記したと言われる。
**
「へぇ~。リューティス王国にはそんな歴史がねぇ……」
「本当に無知だなお前は」
いつものテンションで、代わり映えのない会話をしているエレンとアッシュ。
「この“終焉の大火災”の後、このリューティス王国が建国されたそうです。それに今では俄に信じ難いですが、エルフや竜族の他にも、人間と魔物達も元は平和に共存していたとも言われています。
しかし残念な事に、この終焉の大火災が世界の秩序を全て狂わせてしまったのです」
淡々と話し終えた後、エドはテーブルに置いてあった紅茶を一口飲んだ。
どうやらエドがエレンにリューティス王国の歴史について簡単に説明していたようだ。
「実に興味深い話でした」
「おいおい、こんな歴史は誰でも知っている常識だぞ。どんな育ち方すりゃそうなるんだよ」
アッシュの言い方が相変わらず癪に障るエレンは眉間に皺を寄せて言い返す。
「君だってどんな育ち方をすれば“この仕上がり”になるのか教えてもらいたいね」
「なんだとコラ。テメェは弱いくせに知識もねぇのか。だからそんな女みたいな女々しい軟弱野郎になったんだな」
「うわ、最悪な人間。だから君は嫌われて友達の1人もいないのか」
「全然関係ねぇだろその話はよ!」
「そっちが毎回毎回馬鹿にしてくるからだろ! それにムキになったって事はやっぱ友達いないんだ! ハハハハ、笑える」
「ぶっ殺す! 表出ろ!」
ゴホン。
2人のしょうもないやり取りを遮るように、エドが小さく咳ばらいをした。
「……それで? そもそも何でその終焉の大火災ってやつが起きたの?」
「知らねぇよ」
当たり前の如く答えたアッシュにエレンは度肝を抜かれた。
「嘘でしょ? 散々偉そうにしておいて自分も知らないとかあり得ないんだけど」
「うるせぇな、だから分かってねぇのはテメェだ。歴史はそこまでしか記されてないんだよ」
「え、そうなの?」
予想外のアッシュ答えに、エレンは正解を求めるべく無意識にエドの方を向いていた。
「本当ですよエレン君。それ以上の事は誰にも詳しく分からないのです。強いて言えば、終焉の大火災によってエルフ族と竜族だけは完全に滅びてしまったそうですが」
「エルフ族と竜族……。それだけは僕もどこかで聞いた事があります」
エルフ族――それは人間や動物や魔物ともまた違う、とある1つの種族。エルフ族は人間よりも格段に寿命が長く、優れた叡智や“魔力”といった不思議な力も備えている。耳が尖っていたり羽が生えたりしているなど、その見た目も特徴的。
竜族――それはまたエルフ族と同様、人間とはまた違う1つの種族。竜族は先祖に“ドラゴン”を持つという特殊な血統の種族であり、屈強な肉体と高い戦闘能力を備えている。また、見た目は非常に人間に近く、強いて違いを上げるとすれば、ドラゴンの血を引く竜族は緑色の瞳を持つ者が多い。
このエルフ族と竜族は終焉の大火災によって絶滅し、現代を生きるエレン達の時代ではその名前と存在だけが語り継がれていた。
「あくまで私の知る限りですが、古来よりエルフは格式の高い神聖な存在だと崇められていたそうで、このエルフ族という存在があったからこそ世界は平和であったとされています。
しかし、多くの者達がこの歴史を紡いで謎を追ってきたある時、どこかの研究者がどういう訳か“終焉の大火災が起こった原因もまたエルフ族なのでは”という1つの仮説を立てたらしいのです。
ですがその仮説は決定打になる証拠もなければ、現代に至るまでその仮説や新たな謎が紐解かれる事もまたないそうですよ」
エドはそこまで話し終えると、再び紅茶を口にした。
「そうなんですね。未だに謎が明かされてないのか~。凄い話だなぁ。
でも何で人間より賢くて強そうなエルフ族や竜族が全滅しちゃったんだろう……。人間の方が単純に数が多かったのかな?
それにしても怖いね、その終焉の大火災って。生命をほぼ消しちゃうなんて」
「全くですね。そしてそれがエルフ族が原因と言われるとなると、最早一般人には理解不能な領域です」
――コンコンコン。
「いるか?」
エレン達が部屋でそんな話をしていると、扉の向こうからノック音とダッジ団長の声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
「待たせたな。護衛隊の連中が帰って来た。支度が出来たら1階に来てくれ。皆に紹介するからよ」
扉の間から顔を覗かせたダッジ団長は、それだけ言うとまた扉を閉めて行ってしまった。
「する支度なんてねぇっつうの。やっとこの退屈な時間から解放されるな」
エレン達が部屋問題で揉めてから早2日が過ぎていた。
マリア王女の護衛任務までは後2日――。