翌日。
「おはようムロくん!」
絶は朝から元気だ。
「おはようございますムロさん」
倫は昨日より少しテンションが低めかもしれない。
「(寝不足とか低血圧とかだろうか……?)」
と思いつつ、
「おはよう。じゃあ行こうか」
何とか起きられたボクも、家まで迎えに来てくれた絶、倫にあいさつして、
3人で並んで登校しだす。
「こっちの森のほうから抜けると近道なんだ。
たまーにモンスターが出るんだけどね……」
とボクは絶、倫を案内しながら歩いて行く。
「へー、そうだったんだ。
確かに、あっちのほうに校舎がチラッと見えてるね」
絶が言う。
「昨日、あの後にワタクシ少し考えたんですの……」
森を抜けた頃、ふいに倫が口を開いた。
「お……?何を考えたの?」
ボクが尋ねる。
「ワタクシ、次の整理が来たら、
風属性を取り入れますわ」
倫が言った。
『整理』というのは、
思春期に魔法が使えるようになる初恵を迎えた女性に、
その後毎月のようにやってくるある現象のことである。
女性の覚えていた魔法がリセットされたり、
魔法を覚えておくための魔力の器量が変化したりする、
大事な働きだ。
毎月のようにと説明したが、
実際のところは月の満ち欠けの周期のほうが近しいらしい。
それになぞらえて、『月恵』とも呼ばれている。
『昔の人は、魔法を神様からのお恵みだと考えていたのだろう』
と義務教育では習った。
整理について簡単に説明すると、
例えばここに5ブロック分の魔力の器量を持つ女性がいたとする。
(あくまで例である。
実際の女性の器量はもっと多いことがほとんどだ。)
その女性は、
レベル1の魔法を5個覚えておくことか、
レベル5の魔法を1個だけ覚えておくことが可能なのである。
あるいは、
レベル2を1個とレベル3を1個という組み合わせで覚えておくことも可能だ。
そして、一度魔法を使用して覚えた状態になった魔力の器量というものは、
時間が経って消耗した魔力が回復した後も、
同じ魔法にしか使用できなくなるように固定化される。
先ほどの例の女性であれば、
レベル5の魔法を覚えてしまうと、
それで全ての器量が埋まってしまうため、
レベル1やレベル2の魔法を使用することが不可能になるわけだ。
これが、女性の魔力の器量の概念である。
そして、女性が整理を迎えると、
覚えていた魔法は全てリセットされるのだ。
先ほどの例の女性であれば、
レベル5の魔法を1個だけ覚えていた状態から、
レベル1の魔法を5個覚えた状態に、
切り替えるということが可能なわけである。
同じ魔法を複数個覚えたい場合は、
魔法を使用して消耗した魔力が時間経過で回復する前に、
繰り返し同じ魔法を使用する感じである。
そして、整理が来るたびに、
女性の魔力の器量というものは、わずかずつだが変化していく。
例えば、前回まで魔力の器量が5ブロック分ぐらいだった女性が、
成長する年齢で整理を迎えると6ブロック分ぐらいに増えたり、
逆に老化する年齢で整理を迎えると4ブロック分ぐらいに減ったり
と変化するわけである。
こういった変化が起こるためか、整理を迎えた女性は、
魔力の発生源とされている下腹部を中心に不調をきたすことが多い。
腹痛や腰痛、人によっては頭痛や肩こりなんかまで起こすそうだし、
イライラしたり怒りっぽくなったり、涙もろくなったりもする。
そのストレスで、さらに体調を崩すという悪循環になる場合も少なくない。
さらに、特に剣魔競技にいそしんでいる若い女性ともなると、
『次に覚える魔法どうしよう……』
と悩みに悩むことになる。
なので、女性が整理の時期を迎えたら、
そっと察して支えてあげるべきだ。
時に女性のストレスのはけ口として理不尽に攻撃を受ける場合もあるが、
それも含めてである。
リセットされている間にモンスターに襲われでもしたら、
覚えたい魔法と違う魔法が固定化されてしまうような事態になりかねない。
ちなみに魔法の覚え方は、
魔法を自由に使用してもよい『美殿』と呼ばれる
バッティングセンターのような広い施設が、
町の色んなところに設置されているので、
そこで覚えたい魔法を実際に使用する感じである。
あるいは剣魔競技の選手であれば、練習中などでも構わない。
ただし、覚えられる魔法の種類というものにも個性や資質の影響がある。
人によって、各属性への向き不向きというものがあるのだ。
例えば、
『火属性と風属性は使用できるけど水属性と土属性はレベル1すら使用できない』
とか、
『火属性はレベル5まで使用できるけど風属性はレベル3までしか使用できない』
とか、そんな感じである。
その他にも、
整理の周期だったり、
器量のブロック数だったり、
消耗した魔力の回復速度だったり、
魔力の放出速度だったり、
魔法の連発可能な間隔だったり、
魔法の精度だったりと、
個性が影響する要素は多い。
例えば、挿入ですぐ聖剣を中断してしまう倫の場合であれば、
魔力の放出速度が極端に速いのだろうと言えるわけだ。
「えっ?エインと同じ火属性じゃなくていいの?」
ボクは倫のほうを振り返って尋ねる。
「火属性も残したまま、風属性も入れたいんですの。
ワタクシ、一応は風属性も覚えられますから」
倫は、うなずきながら答えた。
「一体どうして?」
絶も不思議そうに尋ねる。
ボクも疑問だった。
「(倫と言えば、
火属性の火球や爆発を
パンパンボンボンと連射していたイメージが強い……)」
ボクは、以前にユーバイブやエックセで
チラリと観た倫の試合風景の動画の内容を思い出す。
「ミックスダブルスをやるのであれば、
ペアにふさわしい魔法を覚えないといけませんから」
倫が言いながらボクを見つめてきた。
「……えっ!?ボク!?」
ボクは驚いて立ち止まってしまう。
「他に誰がおりますの?」
倫も立ち止まり、不思議そうな顔をしている。
「いやいや!
剣魔部には大勢部員がいるし!
ボクなんかあんな聖剣だし!」
ボクは言いながら首と両手を振った。
「他の部員の方の聖剣でしたら、昨日全員折ってしまいましたが……?」
倫は首をかしげる。
「全員折った!?」
ボクは思わず、すごい大声を出してしまった。
「あら?お伝えしていませんでしたかしら?」
倫は涼しい顔をして髪をかきあげる。
「(立の聖剣ばかりか、
男子の部員全員が被害にあっていたのか……!)」
ボクは愕然としつつ、ある疑問を恐る恐る口に出した。
「……ん、あれ?
でも男子って三年生もまだいるから20人近くいるはずだよね……?
倫って魔法何発ぐらい撃てるの……?」
聖剣の挿入は、魔法をそのまま使用するのと同じで、
込めた量に応じて魔力を消耗する。
中学生の聖剣とはいえ中断させたということは、
最低でもレベル2の魔法を使用するぐらい、
つまり1人あたり2ブロックは魔力を消耗するはずだ。
「器量のことでしたら、60とちょっとですわよ?」
倫がさらりと言う。
「ろ……!?」
ボクは開いた口がふさがらなくなった。
「(中学生女子の器量の平均って確か30ぐらいだよな!?
軽くその倍!?
プロの魔法使いのトップでも70とかだから、
ほとんどプロ並みじゃないか!
まだ中学1年生なのに!?
器量が良いにもほどがある!」
「えっ……?
ちょっと待ってよ……?」
ボクはあることに思い至る。
「今日の朝練って、もしかして……」
「おはようムロくん!」
絶は朝から元気だ。
「おはようございますムロさん」
倫は昨日より少しテンションが低めかもしれない。
「(寝不足とか低血圧とかだろうか……?)」
と思いつつ、
「おはよう。じゃあ行こうか」
何とか起きられたボクも、家まで迎えに来てくれた絶、倫にあいさつして、
3人で並んで登校しだす。
「こっちの森のほうから抜けると近道なんだ。
たまーにモンスターが出るんだけどね……」
とボクは絶、倫を案内しながら歩いて行く。
「へー、そうだったんだ。
確かに、あっちのほうに校舎がチラッと見えてるね」
絶が言う。
「昨日、あの後にワタクシ少し考えたんですの……」
森を抜けた頃、ふいに倫が口を開いた。
「お……?何を考えたの?」
ボクが尋ねる。
「ワタクシ、次の整理が来たら、
風属性を取り入れますわ」
倫が言った。
『整理』というのは、
思春期に魔法が使えるようになる初恵を迎えた女性に、
その後毎月のようにやってくるある現象のことである。
女性の覚えていた魔法がリセットされたり、
魔法を覚えておくための魔力の器量が変化したりする、
大事な働きだ。
毎月のようにと説明したが、
実際のところは月の満ち欠けの周期のほうが近しいらしい。
それになぞらえて、『月恵』とも呼ばれている。
『昔の人は、魔法を神様からのお恵みだと考えていたのだろう』
と義務教育では習った。
整理について簡単に説明すると、
例えばここに5ブロック分の魔力の器量を持つ女性がいたとする。
(あくまで例である。
実際の女性の器量はもっと多いことがほとんどだ。)
その女性は、
レベル1の魔法を5個覚えておくことか、
レベル5の魔法を1個だけ覚えておくことが可能なのである。
あるいは、
レベル2を1個とレベル3を1個という組み合わせで覚えておくことも可能だ。
そして、一度魔法を使用して覚えた状態になった魔力の器量というものは、
時間が経って消耗した魔力が回復した後も、
同じ魔法にしか使用できなくなるように固定化される。
先ほどの例の女性であれば、
レベル5の魔法を覚えてしまうと、
それで全ての器量が埋まってしまうため、
レベル1やレベル2の魔法を使用することが不可能になるわけだ。
これが、女性の魔力の器量の概念である。
そして、女性が整理を迎えると、
覚えていた魔法は全てリセットされるのだ。
先ほどの例の女性であれば、
レベル5の魔法を1個だけ覚えていた状態から、
レベル1の魔法を5個覚えた状態に、
切り替えるということが可能なわけである。
同じ魔法を複数個覚えたい場合は、
魔法を使用して消耗した魔力が時間経過で回復する前に、
繰り返し同じ魔法を使用する感じである。
そして、整理が来るたびに、
女性の魔力の器量というものは、わずかずつだが変化していく。
例えば、前回まで魔力の器量が5ブロック分ぐらいだった女性が、
成長する年齢で整理を迎えると6ブロック分ぐらいに増えたり、
逆に老化する年齢で整理を迎えると4ブロック分ぐらいに減ったり
と変化するわけである。
こういった変化が起こるためか、整理を迎えた女性は、
魔力の発生源とされている下腹部を中心に不調をきたすことが多い。
腹痛や腰痛、人によっては頭痛や肩こりなんかまで起こすそうだし、
イライラしたり怒りっぽくなったり、涙もろくなったりもする。
そのストレスで、さらに体調を崩すという悪循環になる場合も少なくない。
さらに、特に剣魔競技にいそしんでいる若い女性ともなると、
『次に覚える魔法どうしよう……』
と悩みに悩むことになる。
なので、女性が整理の時期を迎えたら、
そっと察して支えてあげるべきだ。
時に女性のストレスのはけ口として理不尽に攻撃を受ける場合もあるが、
それも含めてである。
リセットされている間にモンスターに襲われでもしたら、
覚えたい魔法と違う魔法が固定化されてしまうような事態になりかねない。
ちなみに魔法の覚え方は、
魔法を自由に使用してもよい『美殿』と呼ばれる
バッティングセンターのような広い施設が、
町の色んなところに設置されているので、
そこで覚えたい魔法を実際に使用する感じである。
あるいは剣魔競技の選手であれば、練習中などでも構わない。
ただし、覚えられる魔法の種類というものにも個性や資質の影響がある。
人によって、各属性への向き不向きというものがあるのだ。
例えば、
『火属性と風属性は使用できるけど水属性と土属性はレベル1すら使用できない』
とか、
『火属性はレベル5まで使用できるけど風属性はレベル3までしか使用できない』
とか、そんな感じである。
その他にも、
整理の周期だったり、
器量のブロック数だったり、
消耗した魔力の回復速度だったり、
魔力の放出速度だったり、
魔法の連発可能な間隔だったり、
魔法の精度だったりと、
個性が影響する要素は多い。
例えば、挿入ですぐ聖剣を中断してしまう倫の場合であれば、
魔力の放出速度が極端に速いのだろうと言えるわけだ。
「えっ?エインと同じ火属性じゃなくていいの?」
ボクは倫のほうを振り返って尋ねる。
「火属性も残したまま、風属性も入れたいんですの。
ワタクシ、一応は風属性も覚えられますから」
倫は、うなずきながら答えた。
「一体どうして?」
絶も不思議そうに尋ねる。
ボクも疑問だった。
「(倫と言えば、
火属性の火球や爆発を
パンパンボンボンと連射していたイメージが強い……)」
ボクは、以前にユーバイブやエックセで
チラリと観た倫の試合風景の動画の内容を思い出す。
「ミックスダブルスをやるのであれば、
ペアにふさわしい魔法を覚えないといけませんから」
倫が言いながらボクを見つめてきた。
「……えっ!?ボク!?」
ボクは驚いて立ち止まってしまう。
「他に誰がおりますの?」
倫も立ち止まり、不思議そうな顔をしている。
「いやいや!
剣魔部には大勢部員がいるし!
ボクなんかあんな聖剣だし!」
ボクは言いながら首と両手を振った。
「他の部員の方の聖剣でしたら、昨日全員折ってしまいましたが……?」
倫は首をかしげる。
「全員折った!?」
ボクは思わず、すごい大声を出してしまった。
「あら?お伝えしていませんでしたかしら?」
倫は涼しい顔をして髪をかきあげる。
「(立の聖剣ばかりか、
男子の部員全員が被害にあっていたのか……!)」
ボクは愕然としつつ、ある疑問を恐る恐る口に出した。
「……ん、あれ?
でも男子って三年生もまだいるから20人近くいるはずだよね……?
倫って魔法何発ぐらい撃てるの……?」
聖剣の挿入は、魔法をそのまま使用するのと同じで、
込めた量に応じて魔力を消耗する。
中学生の聖剣とはいえ中断させたということは、
最低でもレベル2の魔法を使用するぐらい、
つまり1人あたり2ブロックは魔力を消耗するはずだ。
「器量のことでしたら、60とちょっとですわよ?」
倫がさらりと言う。
「ろ……!?」
ボクは開いた口がふさがらなくなった。
「(中学生女子の器量の平均って確か30ぐらいだよな!?
軽くその倍!?
プロの魔法使いのトップでも70とかだから、
ほとんどプロ並みじゃないか!
まだ中学1年生なのに!?
器量が良いにもほどがある!」
「えっ……?
ちょっと待ってよ……?」
ボクはあることに思い至る。
「今日の朝練って、もしかして……」