短いけどすっごくカタイ ~●●が短いけどすっごくカタイ主人公!?~

 再び4人がアースの4(すみ)のスタンバイエリアにそれぞれ入ると、
ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされる。

 と、パン!パン!と(りん)が上空に火球の魔法(まほう)を連射した。

 遅降弾(ラググレネードボンバー)だ。

「!」

 ボク、絶、脇名先輩(わきなせんぱい)はその行方を追って、バッ!と空を見上げた。

「(この感じは、たぶんアースの中央付近か!?)」

 ダダダ……!と正面に向き直ったボクと(りん)、絶と脇名先輩(わきなせんぱい)は走り始める。

 ブワワッ!

 メラメラッ!

 お(たが)い、合体(ジョイント)完了(かんりょう)だ。

 すぐさまボクは、(りん)遅降弾(ラググレネードボンバー)を利用すべく、
アースの真ん中を目指して走り始める。

 と、脇名先輩(わきなせんぱい)がそれを読んで、ドピュッ!ドピュッ!と水球を連射した。

「おっと!」

 ボクは、それを片手側転でバッ!と回避(かいひ)する。

 その回避(かいひ)した先を(ねら)って、
絶が聖剣(せいけん)をビュッ!と()き出した。

 ドビュッ!

「うっ!?」

 ビュッ!バシン!

 ボクは、すごいスピードで射聖(ショット)された水球に、ギリギリで聖剣(せいけん)を合わせた。

 チラリとボクは自分の聖剣(せいけん)を確認する。

 メラメラ。

「(火属性はまだ残ってる……!)」

 と、パン!パン!パン!パン!と(りん)が、
射聖(ショット)で早々に魔力(まりょく)を使い切った絶に向けて両手で火球の魔法(まほう)を連射した。

「くっ……!」

 絶はチラリと上空を確認すると、
ビュッ!バシン!と当たりそうな1発だけを(たた)き落としつつ、
残りをスイスイと回避(かいひ)する。

 ダダダッ!とボクが、そこに走り寄った。

「させない!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)が再びドピュッ!ドピュッ!と水球の魔法(まほう)をボクに連射する。

「うわっ!」
と言いながらも、ボクはズザッ!ズザッ!と左右に移動してそれを回避(かいひ)した。

 ボッ!ボッ!

 そこに、(りん)遅降弾(ラググレネードボンバー)が落下して来る。

 だが、今回は残念ながら、かなり手前の位置だ。

 と、それをブラインドに(りん)が、パボン!と加速する火球を発射する。

「!」

 ビュッ!バシン!

 絶が、それに聖剣(せいけん)を縦に()って合わせ、ギリギリで弾道(だんどう)()らした。

「(今だ!)」

 ボクは、動きの一瞬(いっしゅん)止まった絶に飛び()かるように聖剣(せいけん)()り下ろす。

「おっと!」

 絶は聖剣(せいけん)()り下ろした体勢のまま、
フッ!とボクから見て右に回避(かいひ)した。

 そこに、バンッ!とボクの聖剣(せいけん)から右方向に射聖(ショット)が行われ、
ボッ!と絶の右脇腹(みぎわきばら)に命中する。

「うわっ!?」

 絶は、(おどろ)いたのと命中した勢いで、そのままドサッ!と(たお)れた。



 通常、聖剣(せいけん)というものは、
先っちょから真っ直ぐにしか合体(ジョイント)した魔力(まりょく)射聖(ショット)というものができない。

 しかし、ボクの聖剣(せいけん)は出っ張った部分が無いためか、
なんと半球状の部分からならどの方向にでも好きに射聖(ショット)ができるのである。

 このことに気づいたのは、
以前のペアであった出来田さんが剣魔部(けんまぶ)を辞めてしまう直前だったので、
未だに大会では日の目を見ていないボクの必殺技の1つだ。



 ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴り、

2(ツー)-1(ワン)!」
とスコアがコールされる。

「やっぱりすごいですわよ!
 ムロさんの聖剣(せいけん)!」

「ありがとう!(りん)もナイスショット!」

 (りん)とボクは言いながら、パァン!とハイタッチを交わした。



 再び4人がアースの4(すみ)のスタンバイエリアにそれぞれ入ると、
ピー!と審判(しんぱん)のホイッスルが鳴らされる。

 と、
今度は脇名先輩(わきなせんぱい)が最初に動いた。

 ドビュルビュルーッ!とレベル5の巨大(きょだい)水球の魔法(まほう)を発射したのだ。

 水球は、脇名先輩(わきなせんぱい)の目の前にバリアのように()かぶ。

「くぅ……!」

 ボクはひとまず、合体(ジョイント)するために(りん)のほうへと走り出す。

 (りん)はパン!と、火球の魔法(まほう)を発射して絶のほうを牽制(けんせい)しつつ、
さらにパン!と上空に遅降弾(ラググレネードボンバー)を発射した。

「!」

 絶はスイスイと飛んで来た火球の魔法(まほう)回避(かいひ)しつつ、
上空をチラリと確認する。

 ボクと脇名先輩(わきなせんぱい)も上空を見た。

「(この感じは、脇名先輩(わきなせんぱい)の位置か……!?)」

「!」

 脇名先輩(わきなせんぱい)遅降弾(ラググレネードボンバー)(ねら)われていると気づいたらしく、
水球の後ろにそのまま居座らず、
水球ごと絶のほうへと移動し始めた。

 だがその動きは、ややゆっくりだ。

「(あの水球、そんなに素早く動かせないのか!)」

 そう見るや否や、ボクは(りん)のほうへ走るのをやめ、
ザッ!と絶のほうへと方向転換(てんかん)して走り出す。

「(絶が水球の後ろに(かく)れる前に間に合えば、
  ポイントが取れるかも!)」

 そうボクは思ったのだ。



 ちなみにミックスダブルスで、
このように合体(ジョイント)されなかった剣士(けんし)のことを
『放置された』と表現したり、
合体(ジョイント)しないでプレイすることを
『放置プレイ』と表現したりする。



 パボン!

 パボン!

 (りん)もボクと同じ考えらしく、絶への攻撃(こうげき)拍車(はくしゃ)をかけた。

「くっ……!」

 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!

 だが絶も、何とか(りん)の加速する火球を聖剣(せいけん)(たた)き落とす。

 そこにボクがダダダッ!と走り込んだ。

 絶が水球に(かく)れる前に間に合ったのである。

 しかも脇名先輩(わきなせんぱい)は自分の水球のせいで、
こちらへの射線がほぼ無い状態だ。

「(チャンス……!)」

 と、
ビュッ!と絶がボクの()み出そうとした足先を()るように、
しゃがみながら聖剣(せいけん)()った。

 だが、ボクが()み出そうとした最後の一歩はフェイントだ。

 先ほどのシングルスの、1ポイント目のプレイの再現である。

 ボクは再び、ダンッ!と両足でジャンプするように絶に飛びかかった。

 そこへ絶は、ギュルン!と先ほど聖剣(せいけん)()った勢いでそのまま体を回転させ、
ビュッ!と続けざまに聖剣(せいけん)()る。

 ガキィン!ボッキン!

「えっ!?」

 ボクと絶は、同時に口に出した。

 絶の聖剣(せいけん)の先っちょから3分の1あたり、
ボクの聖剣(せいけん)とぶつかった所から先が、折れ飛んでしまったのである。

 折れた先っちょの部分は、ヒュルヒュルヒュル……と風を切る音を(ひび)かせた後、
ザクッ!とボクと(りん)が居た側のベースライン付近に()()さり、
その直後にフワッと(けむり)のように消え去った。



 ピ……、ピー!と審判(しんぱん)の女子が(あわ)ててホイッスルを鳴らし、

「え、えーと……、この場合って……」
とキョロキョロする。

「ウォークオーバ~……。つまり~、棄権(きけん)よ~」

 下井先生が、アースの中にいるボク達に向けて声を()けた。

「ですわね……」

 (りん)もうなずく。



 剣魔(けんま)の試合中に剣士(けんし)聖剣(せいけん)が大きく折れた場合、
具体的には持ち手の部分を除いた長さの4分の1以上が折れた場合、
ルール上は競技続行不可能とされ、
聖剣(せいけん)が折れた側の選手は棄権(きけん)(あつか)いとなる。

 つまりこの場合、絶と脇名先輩(わきなせんぱい)棄権(きけん)となり、ボクと(りん)の勝利だ。



「ご、ごめん……!」

 ボクはハアハア息を切らせながら、すぐさま絶に謝る。

「いや……、大丈夫(だいじょうぶ)……。
 先っちょだけだから……。
 このぐらいなら……、そのまま夕方の部活もやれるよ……」

 絶もハアハア言いながら、左手と首を()ると、
シュン!と聖剣(せいけん)をなえて、

「でも、すごいよ!
 ボク、剣魔(けんま)中に聖剣(せいけん)が折れたのなんて初めてだもん!
 きっと、すっごく(かた)いんだね!
 ムロくんの聖剣(せいけん)!」
とボクの聖剣(せいけん)()でるように(さわ)ってきた。

「そ、そんなことないよ……」

 ボクは照れて頭をかき、

「(でも言われてみれば、プロ選手の剣魔(けんま)の試合なんか観てても、
  聖剣(せいけん)が折れてるところなんてほとんど見ないような……?)」
と思いながら、グリグリと(さわ)られている自分の半球状の聖剣(せいけん)を見つめた。
 キーンコーンカーンコーン……。



「えー……、月末には今年も体育祭があるぞぉ。
 黒板に種目を書いてくから、各自で参加したい種目に立候補するようにぃ。
 ……あっ、ダンスは全員参加、棒(たお)しは男子、
 玉入れは女子は全員参加だからなぁ?
 あと、立候補しなかった(やつ)は先生が適当に決めちゃうぞぉ?」

 益垣(ますがき)先生が帰りの会で言うと、体育祭の種目を順番に黒板へと書き出した。

 クラスの(みんな)はザワザワとしだす。

「(体育祭かー……。(いや)だなー……)」

 ボクは、かなり憂鬱(ゆううつ)な気分になった。



 走るのはどちらかと言えば速いほうなのだが、
友達がいないので団体種目はできればやりたくないのである。

 特にダンスとか棒(たお)しとか、
団体でやる種目なのに強制なものがあるというのが(つら)い。

 それにイケてない男子が、
クラス対抗(たいこう)リレーみたいな花形種目に出るわけにもいかないだろう。

 色々と制約が多いのだ。



「(かと言って残る種目は……?
  障害物競走は、個人種目だけど何となくやりたくないし……)」

 ボクが(なや)んでる間に、どんどん各種目の参加者が()まっていく。



「あのう……。
 ボク、クラス対抗(たいこう)リレーに出てもいいかな……?
 すっごく足が速いってわけじゃないんだけど……」

 絶がボクの(となり)で、おずおずと手を挙げた。

「オオー!」
(みんな)歓声(かんせい)を上げ、

「いいよー!」
と賛同する。

「えへへ……」

 絶は頭をかいた。

 このように、人気者なら花形種目に出ても全く問題ないのだ。

 それに、絶は少なくとも剣魔(けんま)競技で強いと証明されているわけなので、
運動神経が良いと見なされ、クラスメイトの期待も大である。

 益垣(ますがき)先生もニコニコしながら、
『本能』とクラス対抗(たいこう)リレーに書き()んだ。

「(しょうがない……。
  一緒(いっしょ)になる人には悪いけど、
  ムカデ競争あたりでお茶を(にご)すとするか……)」

 そう思いながらボクが手を挙げようとした、その時である。

「ムロくんも足が速いから、クラス対抗(たいこう)リレーに出たらいいのに」

 絶が言った。



 一瞬(いっしゅん)の静止。



 クラスはシーンと静まり返る。

「(絶……。何気ない感じで言ったが、それはかなりの爆弾(ばくだん)発言だ……)」

 ボクは、心の中で頭を(かか)えた。



 今のクラス対抗(たいこう)リレーのメンバーは、
クラスで一番足が速い野球部の下仁田、
足の速さはそこそこだが運動神経が良くて、
クラスではムードメーカー的な存在であるテニス部の江口(えぐち)
そして転校2日目にしてクラスの人気者で剣魔(けんま)では全国2位という絶である。

 そこに、特に期待値も人気も高くないボクなんかが入る余地など無いのだ。

 もっと言うと、たとえ足が速かろうが入らないほうが良いとさえ言えた。

 スクールカースト最下位のボクを、頑張(がんば)頑張(がんば)れと応援(おうえん)するなんて、
応援(おうえん)する側の気持ちというものが入らないだろう。

 勝ちを取るかどうかなんて以前の話になるわけである。



「いや……、ボクはムカデ競争やるからいいよ……」

 重苦しい空気の中、何とかボクは言った。

 我ながら、出来た人間である。

「ムカデ競争は、もう人数足りてるぞぉ?」

 益垣(ますがき)先生が言った。

「(あああ……!)」

 ボクは机に()()す。

 (おそ)かったのだ。

 クラスの(みんな)がクスクスと笑い出した。

「(穴があったら入りたい……!)」

 ボクは思いながらも何とか再び手を挙げ、

「じゃ……、じゃあ障害物競走……」
と顔を真っ赤にして言い直す。

「……いや、待て(みんな)

 江口(えぐち)が口を開いた。

「確かにムロは友達いないけど……」

「(うるさいぞ、江口(えぐち))」

 ボクは反射的にそう思った。

 思ったが、

「(『けど』……?)」
江口(えぐち)のほうを()り返って、次の言葉を待った。

「オレ、こいつとは同じ小学校だったんだけど、
 足は速いんだよ確かに。足は。
 だからオレもこいつをリレーに推薦(すいせん)する」

 江口(えぐち)腕組(うでぐ)みしながら言った。

 まさかの助け(ぶね)である。

 あるいはボクではなく、
絶が責任を感じるかもと思ってのことなのかもしれない。

 しかし、当のボクとしては、かなり複雑な心境だ。

「(足の速さを認めてくれて味方になってくれるのは(うれ)しい!
  (うれ)しいけど、本人であるボクの意志は!?
  障害物競走でいいんだってば!)」

 正直に言ってこんな感じである。

「じゃあこれで決定なぁ」

 益垣(ますがき)先生が、『木石』とクラス対抗(たいこう)リレーに書き加え、
まだどこにも参加表明していなかった数名のクラスメイト達の名前も、
適当に書き()んでいく。

「(あっ……)」
とボクは思ったが、

「やったね!ムロくん!」

 絶は無邪気(むじゃき)にボクの(となり)で喜んでいる。

「反対意見あるなら今のうちだぞぉ?
 (みんな)、早く帰りたいよなぁ?」

 益垣(ますがき)先生が言う。

 もはやボクは、何も言えなかった。

 (みんな)も何も言わない。

 喜んでいる絶と、早く帰りたい(みんな)の気持ちに
水を差すわけにもいかないだろう。



「……どういうつもりだよ?」

 帰りのあいさつを済ませた教室で、ボクは江口(えぐち)()め寄った。

「お?リレーの打ち合わせ?」

 下仁田もやって来る。

「ムロお前、昨日体育の前にグラウンド走ってたろ?」

 江口(えぐち)がボクを見て言った。

「あっ……」

 ボクは思い至る。

「(あれを見られてたからかー……!)」

 ボクは、心の中で頭を(かか)えた。

 そう。

 トレーニング室に絶が来て、気まずかったボクは、
筋トレを中断して教室に帰って体操服に着替(きが)えた後、
本当にグラウンドに走りに行ったのだ。

「マジに?やる気満々じゃん」

 下仁田がボクの顔を(のぞ)()むように見てくる。

「すごい!さすがだね!」

 絶も同調した。

「いや……、あれは(ちが)うんだけど……」

 ボクは口ごもる。

「(部活もろくに行かなくなっていた(やつ)が、
  『昼休みにやることが無いから走っていた』
  とか、
  『身体を(きた)えるために走っていた』
  とかの言い訳をするのは、ちょっと無理があるよなあ……)」
と思ってしまったからだ。

「やる気が無い(やつ)より、有る(やつ)のほうがいいじゃん?
 まあ体育祭に向けてじゃなくても、普段(ふだん)から走ってる(やつ)のほうがさ?
 それに実際速いしな。
 ウチのクラスって陸上部1人もいないし」

 江口(えぐち)が、そう言いながらボクの右肩(みぎかた)を左手でパンと(たた)いた。

「バトンの練習する?」

 下仁田が言い、

「あれって借りられるのかな?」

 絶が言うと、

「体育倉庫にあるから大丈夫(だいじょうぶ)だよ。体育の授業の前にやろうぜ」
と江口が仕切り、

「おう。ラジャー」

 下仁田が賛成。

「分かった!よろしくね!」

 絶も賛成だ。

「……分かったよ」

 ボクも、しぶしぶ折れた。

 今さら参加する種目を変えるというのも難しいだろう。

 かと言って、体育祭の当日に休んだりしてまで出たくないというほどでもない。

「(ハアアア……。
  なにも考えずに、ただただ全力で走ろう……)」

 ボクは心の中で、深い深いため息をつきながらそう決めた。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






「じゃあ、夕練も頑張(がんば)ってね……」

 下駄箱(げたばこ)まで一緒(いっしょ)にやって来ると、ボクは絶に向かって(つぶや)くように言った。

「本当に朝練だけで、夕練は来ないのかい?」

 絶は、とても不満げだ。

「あー……、うーん……」

 ボクは何とも言えない態度を取ってしまう。



 正直な話、部活はかなりやりたい。

 ボクは将来は剣士(けんし)になりたいし、
聖剣(せいけん)を大っぴらに()れる剣魔(けんま)という競技のことは大好きだし、
何より剣魔(けんま)はプレイしていてとても楽しい。

 何なら大会に勝てるかどうかとか、将来剣士(けんし)になれるかどうかとかより、
好きなこと楽しいことを今はしていたいだけとさえ言えるかもしれないのだ。



 しかし、剣魔(けんま)部には弟の(たてる)がいる。

 剣魔(けんま)はやりたいが、(たてる)の前ではボクの聖剣(せいけん)()きたくない。

 例えば、(たてる)が部活に参加せずに(なが)めているだけだとしても、
その状況(じょうきょう)でおいそれと剣魔(けんま)をプレイしていられる気分ではないのだ。



「(そう考えると……)」

 下駄箱(げたばこ)を出たところで、ボクは思い至った。

「立がいる限り、ボクは部活も大会も出る気分になれないから……」

 ボクは、そう口に出してしまう。

「それは(ちが)うと思う」

 絶が即座(そくざ)に言った。

 ハッとボクも気づく。

「その……、うまく言えないけどさ……」

 絶は、ボクを見つめたまま続ける。

「ムロくんの人生は、ムロくんの物だよ。
 ムロくんは、(たてる)くんに『死ね』って言われたら、死ぬのかい?」

 絶はそう言ってから、

「あっ……。
 いや、その……。
 例えと言うか……、極端(きょくたん)な話としてね……?」
(あわ)てたように首と両手を横に()った。

「う、うん……。分かってるよ……」

 ボクは言うが、

「分かってるけど……、とりあえず……、今日は帰る……。
 ホントにゴメン……」

 ボクはそう言ってから、くるりと校門のほうを向くと、そのまま歩き出した。

「……うん」

 絶は何か言いたげだったが、そのまま何も言わなかった。



「(『ボクの人生は、ボクの物』か……)」

 ボクは校門を出て歩きながら、絶に言われたことを考える。

「(でもボクは……)」

 ボクは思った。

「(でもボクは、(たてる)に『死ね』って言われたら、
  きっと死んでしまうと思う……)」



 自分でもおかしいと分かっている。



 分かってはいるが、それがどうしてなのかは、ボク自身にも分からなかった。



 ボクは夕暮れの中、家までの道のりをトボトボと歩く。



 ポコン!

 ふいにスマホの通知音が鳴った。



 絶からのインランだ。



(たてる)くん部活に来てないよ?』
 ガチャ……、バタン。

 ボクは、我が家の玄関(げんかん)に入った。

 (たてる)のクツがある。

「(まさか……)」

 ボクは、廊下(ろうか)をリビングへと向かい、
ガチャ……とリビングと廊下(ろうか)を仕切るドアを開けた。



 パジャマ姿の(たてる)が、テーブルでスマホをいじっている。



「……」

 ボクも(たてる)も無言だ。

 バタン。

 ボクはそのままリビングのドアを閉め、自分の部屋へと着替(きが)えに向かった。



「((たてる)が、(りん)聖剣(せいけん)を中断されて傷ついて、学校を休んだ……。
  それは、ボクの人生には関係ない……)」

 ボクは、制服から着替(きが)えながら思う。

「(関係ない……?
  ならどうして……、こんなにも悲しい気持ちになるのだろう……?)」

 ボクは、泣き出してしまいそうな自分の気持ちに気づいていた。



 着替(きが)えを終えたボクは、そのままベッドにうつ()せになってしまう。

 (なみだ)までは流れない。

 でも、とても悲しいのだ。

「(ボクより聖剣(せいけん)(めぐ)まれている(たてる)が、
  こんなつまらないことでつまずいているから、
  悲しいのだろうか……?)」

 ボクは自分がどうして悲しいのか、考えていた。

「(ボクが(たてる)の立場だったら……。
  聖剣(せいけん)(めぐ)まれているのに女の子に中断させられてしまったとしたら、
  (たてる)と同じように傷ついたのだろうか……?)」

 ボクは、(たてる)の気持ちを何とか理解してあげたかった。

「(理解なんてされても、きっと(たてる)迷惑(めいわく)だろうな……。
  フフフ……)」

 ボクは、自分で自分をバカにした。

「(でも……)」

 ボクはベッドの上で寝返(ねがえ)りをうち、仰向(あおむ)けになる。

「(聖剣(せいけん)(めぐ)まれた(たてる)は……、
  きっとフィクションの主人公になった気分だったんだろうな……)」

 ボクは、撲滅(ぼくめつ)ブレードの主人公である金太と、(たてる)を心の中で重ねた。

「(カッコイイ主人公……。
  才能に(めぐ)まれた主人公……。
  努力が必ず報われる主人公……。
  挫折(ざせつ)しそうになっても絶対に(あきら)めない主人公……。
  夢や目標を達成する主人公……。
  最後には必ず勝つ主人公……。
  女の子にモテモテな主人公……)」

 ボクは、都合の良い設定を並べてみる。

「(聖剣(せいけん)(めぐ)まれた(たてる)はきっと、
  自分がそんな完璧(かんぺき)な主人公になれると、
  勘違(かんちが)いしてしまったんだ……)」

 ボクは思った。

 ボクが聖通(せいつう)した時に味わった、大きな挫折(ざせつ)

 そして絶望。

 それを今、(たてる)が味わっているのかもしれない。

「(けれど……)」

 ボクは、こうも思った。

「(『聖剣(せいけん)(めぐ)まれていないボクの分まで頑張(がんば)れ』
  なんて言われても、
  (たてる)(はげ)まされないし、きっと頑張(がんば)れないよな……)」

 ボクはベッドの上で寝返(ねがえ)りをうち、再びうつ()せになる。

「(そう言えば、(たてる)の夢って何なんだろう……?)」

 ボクは思った。

「(子供が考えるような非現実的な夢じゃなくて、もっと現実的な
  将来なりたい職業とかやりたい仕事とかってあるのかな……?)」

 ボクはベッドにうつ()せになったまま、首をひねって考えてみる。

「(弟のことなのに、分かんないや……。
  ハハハ……)」

 ボクは、自分で自分を笑った。

「(考えてみれば、ボクは(たてる)の何を知っているのだろう……?)」

 ボクは、ふと疑問に思う。

 (たてる)には、今でこそ無視されているが、
それまではずっと仲が良く、
せいぜい子供の(ころ)にちょっとした口ゲンカをしたことがあるぐらいだった。

 暴力を使うケンカなんかした記憶(きおく)が無いし、
剣魔(けんま)の試合だってしたことが無かったのである。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






(たてる)の夢って何?」

 夕食のおかずの棒棒鶏(バンバンジー)が用意されたテーブルに着くと、
ボクはおもむろに(たてる)(たず)ねた。

「……」

 (すで)に夕食に手をつけていた(たてる)の返事は無い。

 モグモグと口を動かすのに(いそが)しそうだ。

 分かっていた。

「ボクは将来、剣士(けんし)になりたいんだ」

 ボクは、構わず続ける。

「!?
 ゲホッ!ゲホッ!」

 (たてる)が、ボクの不意打ちに()()んだ。

 これも分かっていた。

「(ボクの夢が一番現実的じゃない。
  そんなことは、ボク自身が一番よく分かっているんだ)」

「だからボク、明日から普通(ふつう)に部活行くよ。
 朝練も、夕練も」

 ボクは(たてる)の反応を気にせず、さらに続ける。

「無理だろ……。剣士(けんし)なんか……」

 (たてる)が口を開いた。

「『オレでさえ無理なのに』
 ってこと?」

 ボクは(たてる)に言う。

「!」

 (たてる)が、目を見開いてボクを見た。

「ボクは、(たてる)ならボクなんかよりずっと立派な剣士(けんし)になれると信じてるよ?」

 ボクは、大きくうなずきながら(たてる)に言う。

 ウソではない。

 ボクは心の底から、
(たてる)なら自分なんかより素晴らしい剣士(けんし)になれると信じていた。

「ならねーよ!剣士(けんし)になんか!」

 (たてる)が強い口調で言う。

「やっぱりそっか……」

 ボクは言った。

「悲しいけど、(たてる)の夢は別にあるんだね……」

 これもウソではなかった。

 聖剣(せいけん)(めぐ)まれている弟が、その聖剣(せいけん)を生かさない。

 それは、聖剣(せいけん)(めぐ)まれていないボクにとって、とても悲しいことだ。

「お前に、オレが剣士(けんし)になるかどうかなんて、関係ねえだろ……」

 (たてる)は、声こそトーンを(おさ)えたが、イラついている様子で言った。

「そうかもしれないね」

 ボクはうなずき、

「だから、ボクが剣士(けんし)を目指すのも関係ないかな?」
と続けて(たず)ねる。

「それは……」

 (たてる)一瞬(いっしゅん)、言葉を()まらせ、

「関係はねーよ……。
 関係はねーけど……。
 お前がカッコ悪いと弟のオレが迷惑(めいわく)と言うか……。
 世間体と言うか……」
と不満げに言った。

 普段(ふだん)無視しているボクに、
弁論で()り回されているのが気に食わないのだろう。

「じゃあ勝負しようよ」

 ボクが言うと、

「!?」
(たてる)は、また目を見開いてボクを見た。

「明日の部活でボクとシングルスで勝負してよ。
 ボクが勝ったら、ボクは部活を続ける。
 (たてる)が勝ったら、ボクは部活を辞める」

 ボクは、勝手なことを言っていると分かりながら言う。

「なんだよそれ……。
 勝ってもオレに大してメリットねえじゃねえか……」

 (たてる)がもっともなことを言った。

「じゃあ勝負はしない?
 ボクの不戦勝ってこと?
 ボクが普通(ふつう)に部活に行っても構わないかな?」

 ボクは、わざとニコニコしながら(たてる)に言う。

「……そんなに現実見てえなら教えてやるよ」

 そう言うと(たてる)は、残りの夕食を口にバッと放り()み、
(はし)をテーブルに(たた)きつけるようにバシッ!とおいて、
勢いよくイスから立ち上がると、
口をモグモグと動かしながらリビングを出て行った。



「……母さん、ケンカは感心しないな」

 (だま)ってテーブルに着いていた母さんが、ふいに口を開く。

「ケンカじゃないから大丈夫(だいじょうぶ)だよ」

 ボクは母さんを見て、

「男と男の勝負ってやつ。ハハハ……」
と笑い、ようやく夕食の棒棒鶏(バンバンジー)に手をつけ始めた。



「(そう……。
  この勝負は、ボクにしかメリットが無い……)」

 ボクは夕食を食べながら思う。

「(ボクが勝ったら、ボクは好きな剣魔(けんま)が続けられる。
  そしてボクが負けたら、
  (たてる)がそのままスムーズに部活に復帰できるはず……。
  そしてボクは……、(たてる)にきっと勝てない……)」
 翌日。

 今日もボクは、絶と(りん)一緒(いっしょ)剣魔(けんま)部の朝練に顔を出す。

 昨日とは打って変わって、部長の鬼頭先輩(きとうせんぱい)を筆頭に男子部員達の姿もあった。

 ボクと絶が男子部室に入ると、(みんな)一瞬(いっしゅん)静まり返った後、

「おはようございます!」
と一年生があいさつをしてくる。

「おはようございます!」

 3年生もいるので、ボクと絶も敬語であいさつをした。

 だが、(たてる)の姿は見えない。

 これは予想できたことである。

「(勝負は夕練の時だ……)」

 ボクは、静かに覚悟(かくご)を決めていた。



「ムロ……。
 お前……、(りん)ちゃんとダブルスのペア組むの……?」

 着替(きが)えを終えた鬼頭先輩(きとうせんぱい)が、ボクに声を()けてくる。

「そのことなんですけど……。
 ボク、今日の夕練で(たてる)とシングルスで勝負します」

 ボクは言った。

「勝負?」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)と絶が同時に(たず)ねる。

 絶にもまだ秘密にしていたのだ。

(たてる)に負けたら、ボクは部活を辞めます」

 ボクはキッパリと宣言した。

「えっ!?」

 絶が(おどろ)く。

「それは……。
 オレに止める権利は無いけど……。
 (りん)ちゃんと組めるならダブルスだけでもさ……」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)は、少し口ごもるように言った。

 ボクの聖剣(せいけん)に望みは無いが、(りん)一緒(いっしょ)ならばあるいは、というところだろう。

 昨日の朝練で、ボクが(りん)合体(ジョイント)できたこと、
絶と脇名先輩(わきなせんぱい)のペアに善戦していたことを、きっと(だれ)かから聞いているのだ。

(たてる)くんに何か言われたの!?」

 絶が、ボクの両肩(りょうかた)(つか)んで()さぶってきた。

「ちょっと(ちが)うかな……。
 ボクが何か言われたというより……、
 (たてる)剣魔(けんま)してもらわないとボクが(いや)というか……。
 ボクは勝負して(たてる)に認めてもらえたら、部活続けるよ……」

 ボクはうまく説明できないが、何とか言う。

「昨日も言ったけど、(たてる)くんは関係ないでしょ!」

 絶は、少し(おこ)ったような声を出した。

「関係あるんだよ!
 ボクだけが剣魔(けんま)するのは(ちが)うんだ!
 それに、ボクが剣魔(けんま)するのなら、(たてる)に納得してもらわないと(いや)なんだ!
 こんな聖剣(せいけん)でも勝てるってことを、(たてる)に見せつけないとダメなんだ!」

 ボクも語気を強める。

 ボクの意志は、すっごく固いのだ。

「そんなことないって……」

 絶は、ボクが大きな声を出したせいか、少しトーンダウンする。

「逆に聞くけど、ボクが(たてる)に勝てないなら、大会でも勝てないと思わない?」

 ボクは絶に(たず)ねた。

「それは……。
 でも、ボクには勝ったじゃないか……」

 絶が(つぶや)くように言う。

「ダブルスで、だし、聖剣(せいけん)が折れただけじゃないか……」

 ボクも(つぶや)くように返す。

「……」

 絶も鬼頭先輩(きとうせんぱい)も、もう何も言わなかった。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






 帰りの会も終わり、夕練の時間になる。

 顧問(こもん)の下井先生と美安先生にも、勝負については事前に話を通しており、

『ウォーミングアップと基本動作が終わってからなら~……』
という条件で勝負することを許してもらえた。



 ボクと(たてる)がアースに入り、真ん中の「*」マークの辺りに向かい合って立つと、

「家でも言った通り、ルールは剣士(けんし)シングルス。
 ボクが勝ったら、ボクは部活を続ける。
 ボクが負けたら、ボクは部活を辞める」
とボクが言う。

「……」

 (たてる)は何も言わず、こちらをジロリとにらむように見つめている。

「ちょっと待った」

 審判(しんぱん)を買って出てくれた鬼頭先輩(きとうせんぱい)が、口を開いた。

「その取り決めだと、(たてる)はあんまりやる気が出ないんじゃないか?」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)(たてる)を見ながら言う。

「それは……、まあ……」

 (たてる)が少しだけ、うなずきながら言った。

「だから、オレから追加ルールだ。
 (たてる)がムロに完勝したら、
 つまり1ポイントも取られずに勝ったら、
 (たてる)を団体戦のレギュラーにしてやるよ」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)が言い放つ。

「マジですか……!?」

 (たてる)の目の色が変わった。

「じゃあ、本気でやります!」

 (たてる)が、首をかしげるようにしてポキポキと首の骨を鳴らし、
続けて両手を組むようにしてポキポキと手の指の骨も鳴らす。

 そして、刀を()くようにビュッ!と聖剣(せいけん)を勢いよく()くと、
くるりと()り返り、頭のプロテクターを(かぶ)りながら、
アースの(すみ)にあるスタンバイエリアにスタスタと歩き出した。

「そうこなくっちゃ……!」

 ボクもそれを見てニコリとしながら、
刀を()くようにビュッ!と聖剣(せいけん)を勢いよく()くと、
(たてる)が向かったのと対角の位置にあるスタンバイエリアに、
頭のプロテクターを(かぶ)りながら小走りで向かう。

「(本気の(たてる)と勝負しなければ、意味が無い……。
  本気の(たてる)と勝負して、ボコボコにされて負けたのなら、
  ボクの夢も(あきら)めきれるというものだ……)」

 ボクは思った。

「(だが……)」

 ボクは、こうも思った。

「(当然、ボクだって本気でやらせてもらう……!)」

 ボクは、ワザと(たてる)に負ける気なんてさらさら無いのだ。

 なぜなら、ボクだってフィクションの主人公に(あこが)れているのだから。



 スタンバイエリアにボクと(たてる)が入って向かい合うと、
ピー!と審判(しんぱん)鬼頭先輩(きとうせんぱい)がホイッスルを鳴らした。

 試合スタートだ。

 ボクは、ダダダ……!と一直線にアースの真ん中へ向かう。

 (たてる)も同様である。

 (たてる)聖剣(せいけん)の間合いまで残り1歩というところで、ボクはフェイントをかけた。



 軸足(じくあし)にかかる走る勢いを、
その足で真後ろに向かって()ぶような要領で一気に殺し、
次の1歩を()み出す直前にピタリと静止するのだ。

 ふくらはぎと太ももの筋肉を痛くなるほど酷使(こくし)するが、
ボクが編み出した必殺技みたいなものである。

 この技を使うことで、大抵(たいてい)の相手は、
もうボクが間合いに入って来たと思い()んで、大きく空振(からぶ)りしてくれるのだ。

 ボクの半球状の短い聖剣(せいけん)を見れば、適当に()ってもガードは難しいだろうし、
最悪ガードされてしまったとしても、
リーチが(ちが)いすぎて反撃(はんげき)できないだろうと考えるからである。



 だが、(たてる)()らなかった。

 (たてる)は走る勢いそのままに、大きく()きを()り出していた。

 線ではなく、点で来る攻撃(こうげき)

 静止してしまったボクは、格好の的になった形だ。

 ガキィン!ズガッ!

 ボクは、何とか自分の聖剣(せいけん)(たてる)()きに合わせて直撃(ちょくげき)回避(かいひ)したが、
()らしきれなかった(たてる)聖剣(せいけん)が、
ボクの左脇腹(ひだりわきばら)の辺りのプロテクターに命中した。

 ピー!と鬼頭先輩(きとうせんぱい)がホイッスルを鳴らし、

1(ワン)-0(ゼロ)!」
とスコアをコールする。

「いいぞ!いいぞ!(たてる)
 行け!行け!(たてる)
 もう1本!」
とギャラリーから手拍子(てびょうし)声援(せいえん)が上がった。

「っしゃあ!」

 (たてる)も、左拳(ひだりこぶし)を高々と()り上げている。

 だが、ボクは『先手を取られた』とか『(くや)しい』とか、
そんなこととは別のことを考えていた。

「((たてる)……。
  お前……、もしかして……)」



 ボクと(たてる)が、先ほどとは逆の対角にあるスタンバイエリアに入ると、
ピー!と再び審判(しんぱん)鬼頭先輩(きとうせんぱい)がホイッスルを鳴らす。

 ボクと(たてる)は、それぞれ一直線にダダダ……!とアースの真ん中へと向かった。

 (たてる)の間合いに入る直前、ボクは(たてる)から見て左側に、
利き(うで)ではないほうにスッと移動してみる。

 (たてる)はそこに、利き(うで)側から大きく聖剣(せいけん)()り回すように、
ボクの上半身を(ねら)って攻撃(こうげき)()り出してきた。

 ボクは、自分の聖剣(せいけん)を構え、(たてる)聖剣(せいけん)に難なく合わせる。

 ガキィン!

 お(たが)いに聖剣(せいけん)(はじ)かれ、やや体勢を(くず)した。

 だが、(たてる)はその体勢を(くず)した状態から、体勢を(もど)しきらないまま、
再び大きく聖剣(せいけん)()り回すように、ボクの上半身を(ねら)ってくる。

 ボクは、バッ!と(たてる)聖剣(せいけん)をしゃがみ()んで回避(かいひ)すると、
(たてる)の大きく()み出された左脚(ひだりあし)()るようにビュッ!と聖剣(せいけん)()った。

 ゴッ!

 (たてる)左脚(ひだりあし)の、すねの辺りのプロテクターに命中する。

 ピー!と審判(しんぱん)鬼頭先輩(きとうせんぱい)がホイッスルを鳴らし、

1-1(ワンオール)!」
とスコアをコールした。

「オォ……!」
とギャラリーからどよめきが上がり、すぐさま

「いいぞ!いいぞ!夢路(ゆめみち)
 行け!行け!夢路(ゆめみち)
 もう1本!」
手拍子(てびょうし)声援(せいえん)が上がる。

 ボクは、アースの(すみ)のスタンバイエリアへと(もど)って行く。

 (たてる)は、
(たてる)呆然(ぼうぜん)としたように、アースの真ん中で立ち()くしていた。

「おい(たてる)。まだ試合終わってねーぞ」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)が声を()けると、
ようやく(たてる)は自分のスタンバイエリアへと(もど)って行く。

 ガックリと(かた)を落として。



 (たてる)は、
(たてる)はその後も()るわなかった。

 自分の巨剣(きょけん)の大きさに任せた、大振(おおぶ)りと()きが主体。

 分かってしまえば、ボクの聖剣(せいけん)でも何とか対処できる。

 ボクの聖剣(せいけん)は軽くて小回りが効くし、
折れる心配もボクは全くしていなかったのだから。

 (たてる)は、
(たてる)剣魔(けんま)を始めて、まだたった1ヶ月の素人そのものだった。



 そして、ゲーム数1(ワン)ゲームストゥ0(ゼロ)のポイント2(ツー)-0(ゼロ)

 ボクが大きくリードしての、マッチポイントだ。

 ピー!と鬼頭先輩(きとうせんぱい)がホイッスルを鳴らすと、
ボクと(たてる)は、ダダダ……!とアースの真ん中へと走る。



 (たてる)は、
(たてる)は泣いていた。



 大粒(おおつぶ)(なみだ)を頭のプロテクターの(すそ)からこぼしながら、
走る勢いそのままに、
ボクにはもう通用しない()きを()り出してくる。

 ガキィン!

 ボクは、()き出される(たてる)聖剣(せいけん)に自分の聖剣(せいけん)を合わせて(はじ)いた。

 だが、ここからではまだボクの聖剣(せいけん)のリーチの外だ。

 もう一度、(たてる)攻撃(こうげき)を防ぐか回避(かいひ)する必要がある。



 ところが、(たてる)が何とか(はじ)かれた聖剣(せいけん)を立て直して、
右腕(みぎうで)側から再び()ろうとしたその時だった。

 シュン!

 (たてる)聖剣(せいけん)突然(とつぜん)なえた。

「あっ……?」

 (たてる)は、涙声(なみだごえ)(つぶや)くように口に出す。

 聖剣(せいけん)の持久力の限界を(むか)えたのだ。



 実は、聖剣(せいけん)はずっと()いたままにしておくことができない。

 これも個人差があるが、一般(いっぱん)的には20分から30分程度、
短いと10分程度で聖剣(せいけん)が勝手になえてしまい、
その場合は10秒程度が経過しないと、再び()くことができなくなるのである。

 そして、その聖剣(せいけん)()いたままにしておける時間というのは、
持ち主の感情や体調などによっても大きく左右されるのだ。

 恐怖(きょうふ)緊張(きんちょう)などのストレスや、
心身の疲労(ひろう)影響(えいきょう)しているのだろうと考えられている。

 泣き出してしまうほどのストレスを(かか)えた(たてる)は、
聖剣(せいけん)維持(いじ)できなくなったのだ。



「(いや、あるいは……)」

 ボクは思った。

「((たてる)はそもそも、
  それほど長く聖剣(せいけん)()いていられないタイプなのかもしれない……)」



 なお、試合中に聖剣(せいけん)がなえたとしても、
それが意図的かどうかに関わらず、ルール上は特にペナルティは無い。

 聖剣(せいけん)が勝手になえただけなら、次のポイントまでには
大抵(たいてい)の場合、復活できるからだ。



 ボクは、(たてる)へと大きく1歩前進しつつ、
聖剣(せいけん)右脇腹(みぎわきばら)に引きつけるようにグッと構えた。

 (たてる)は、
(たてる)はもはや回避(かいひ)しようとも逃げようともせず、その場に立ち()くしている。

 ドスンッ!

 ボクは、(たてる)の左胸のプロテクターに、トドメの一撃(いちげき)()きを決めた。
 ピー!と審判(しんぱん)鬼頭先輩(きとうせんぱい)がホイッスルを鳴らして、

「ゲームセット!ウォンバイ夢路(ゆめみち)2(ツー)ゲームストゥ0(ゼロ)!」
と結果をコールする。

 ギャラリーの絶、(りん)をはじめとした部員達と先生達が、
パチパチ……!と大きな拍手(はくしゅ)をした。



「ありがとうございました……!」

 ボクは、頭に(かぶ)っていたプロテクターを()いで、(たてる)に右手を差し出す。

「……」

 (たてる)も、プロテクターを()いで、何とか右手を出して握手(あくしゅ)を交わした。

 (たてる)は泣き止んでこそいたが、その顔はグチャグチャだ。



「じゃあムロは、部活ちゃんと来いよな?」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)が、ボクの左肩(ひだりかた)を右手でパンパンと軽く(たた)いた。

(たてる)も……。辞めんなよ?」

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)が、続けて(たてる)のほうを見る。

「いや……、オレ……、もう……」

「勝負は最後まで分からない」

 (たてる)が言いかけた言葉を、ボクが(さえぎ)った。

「……えっ?」

 (たてる)がボクの顔を見る。

「勝負は最後まで分からないから、(あきら)めちゃダメだ」

 ボクは言った。

聖剣(せいけん)は、全部の指でギュッと(にぎ)ると手首が使いにくくなるから、
 親指と中指と薬指だけで(にぎ)って、
 当たる瞬間(しゅんかん)に小指にも力を入れる感じで()らなきゃダメだ」

 ボクは言った。

「走りながらの()きは、相手に回避(かいひ)されたりガードされたりすると、
 反撃(はんげき)されやすいから多用しちゃダメだ」

 ボクは言った。

「利き(うで)と反対の位置にいる相手にも利き(うで)側から大振(おおぶ)りすると、
 簡単に回避(かいひ)されたりガードされたりしちゃうから、
 もっとコンパクトに()るとか逆から()るとかしないとダメだ」

 ボクは言った。

空振(からぶ)りしたりガードされて(はじ)かれたりした時に、
 体勢を(くず)したままだと、正しいフォームで聖剣(せいけん)()れなくなって、
 相手に回避(かいひ)されたりガードされたりしやすくなっちゃうから、
 もっと体幹を(きた)えなきゃダメだ」

 ボクは言った。

聖剣(せいけん)の持久力が不安なら、ポイントの間に一度なえて、
 もう一度()き直しておくようにしなきゃダメだ」

 ボクは言った。

「勝負は最後まで分からない。
 分からないから、たとえ相手のマッチポイントだとしても、(あきら)めちゃダメだ」

 ボクは言った。

「それから、ボクは(たてる)を信じてる。
 (たてる)なら、ボクなんかよりずっと立派な剣士(けんし)になれるって」

 ボクは言った。



「オレは……」

 (たてる)が口を開いた。

「オレは……、こんな……、(いや)な思い……、するぐらいなら……、
 部活……、辞める……」

 (たてる)が再び大粒(おおつぶ)(なみだ)を流しながら、口に出す。

「それは『(いや)な思い』なんかじゃないんだよ」

 ボクは言った。

「!?」

「それはね、『(くや)しい』っていう感情なんだ。
 『(いや)』でも『苦しい』でも『悲しい』でも『恥ずかしい』でもないんだ」

 ボクは言った。

(たてる)だって、本当は分かっているはずさ。
 短小野郎(やろう)のボクに負けて、(くや)しいんだ」

 ボクは言った。

「……!」

 (たてる)は泣き止んだ。

「ボクだって、ウチの部内の試合や大会に出て、たくさん負けた。
 すごく(くや)しかった。
 だから、たくさん練習をした。
 実は、昼休みに毎日筋トレだってしてるんだ」

 ボクは言った。

(たてる)はどうする?」

 ボクは、(たてる)(たず)ねた。

「……」

 (たてる)は答えない。

「ボクは、たくさん負けた。
 (くや)しかった。
 けれど、(あきら)めずに頑張(がんば)って、ここまで強くなれた。
 (たてる)はどうする?」

 ボクは、(たてる)に再び(たず)ねた。

「……」

 (たてる)は、わずかに口を動かす。

「ボクは、(たてる)ならボクなんかよりずっと強くなれると信じてる。
 (たてる)には、ボクなんかに負けたままなんて似合わないさ。
 (たてる)はどうする?」

 ボクは、もう一度だけ(たてる)(たず)ねた。

「……勝ちたい」

 (たてる)が言う。

「オレ……、(くや)しい……、兄貴に……、勝ちたい……」

 (たてる)はそう言うと、右腕(みぎうで)のプロテクターでゴシゴシと(なみだ)()いた。

「(前は、『お兄ちゃん』って呼んでたのに……)」

 ボクはニッコリと笑いながら、成長した弟の右肩(みぎかた)をポンと(たた)いた。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






「兄貴。
 さっき借りたこれ、返すよ」

 寝入(ねい)る直前のボクの部屋に、
(たてる)が月刊プレイ剣魔(けんま)デラックスを持ってやって来た。

(たてる)と同じくらい巨剣(きょけん)のプロ選手のフォームを、参考にするといいよ』
と、ボクが部活から帰宅した後に貸してあげたものだ。

「もういいの?」

 ボクは(たてる)から、月刊プレイ剣魔(けんま)デラックスを受け取りながら(たず)ねる。

「スマホで()ったから」

 (たてる)が自分のスマホを持ち上げて答えた。

「あー、なるほどね。ボクもそうしようかな」

 ボクは、うなずきながら言う。

 確かに、スマホに画像として保存しておくほうが、
見たい時に見られて便利だ。



 (たてる)とは、すっかり元通りの関係に(もど)っていた。

 いや、元通り以上に(なつ)いているかもしれない。

 さっきなど、

一緒(いっしょ)風呂(ふろ)に入りたい」
突然(とつぜん)言われて、

「えっ……。
 きょ、今日だけね……?」
と仕方なく一緒(いっしょ)にお風呂(ふろ)に入った。

「((たてる)一緒(いっしょ)にお風呂(ふろ)に入るのなんて、いつ以来だろう……?)」
と思いながら。

 同性でしかも兄弟とはいえ、一緒(いっしょ)にお風呂(ふろ)に入るというのは、
思春期を(むか)えたせいなのか、何だか()ずかしかった。

「すげー!
 腹筋マジ割れてるじゃん!
 (うで)(あし)の筋肉もヤベー!」
(たてる)は、お風呂(ふろ)でボクの身体を見て、やたらはしゃいでいた。



「あっ、明日から朝練行くよね?」

 ボクは、部屋に来た(たてる)(たず)ねる。

「行く行くー。
 そんで、兄貴なんかすぐに()いてやんよ」

 (たてる)が、ニヤリと不敵な笑みを()かべて言った。

「十年……。いや、半年早いよ。
 フフフ……」

 ボクも不敵な笑みを返す。

「現実的かよー!アハハハ……!」

 (たてる)が大笑いした。

「ハアー……。
 あっ、オレの分も弁当早く作っておいてもらわないと。
 じゃあおやすみー」

 (たてる)は言いながら、ボクの部屋を出て行く。

「うん。おやすみ」

 ボクも(たてる)の背中に言った。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






 翌日。



「おはよう!ムロくん!(たてる)くん!
 今日から(たてる)くんも朝練一緒(いっしょ)なんだね!」

 絶は今日も朝から元気だ。

「おはようございます、ムロさん。(たてる)くんも」

 (りん)もあいさつしてくる。

「おはよう、絶、(りん)

 ボクも軽くうなずきながらあいさつした。

「ハヨーザイマス……」

 (たてる)も絶の手前、敬語であいさつをする。

 が、どうも聖剣(せいけん)を中断されてからというもの、
(りん)に対してかなり苦手意識があるらしい。

 明らかにテンションが下がっている。



 ちなみに、やっぱりと言うか、
(たてる)(りん)は同じ1年2組のクラスメイトだったのだが、
部活の時も(ふく)めて、ほとんど会話らしい会話はナシということだった。



「(何とか仲良くなってほしいな……)」

 ボクは歩きながら考えて、1つ思いつく。

「そうだ。
 絶と(りん)さ、(たてる)ともインラン交換(こうかん)してあげてくれない?」

 ボクは提案してみた。

「いいよー!」

 絶は即座(そくざ)了承(りょうしょう)

「ワタクシも構いませんわよ」

 (りん)了承(りょうしょう)してくれた。

「……!」

 (たてる)は若干、複雑な表情だ。

 早速、4人向けのグループの招待を送る。

 と、(たてる)がグループに参加しつつ、
ボクに個別でメッセージを飛ばして来た。

『ちょっと(りん)ちゃん(こわ)いからオレあんまりしゃべらないかも』

 ボクはそれを確認すると、そちらには返信せず、
4人のグループのほうにメッセージを書き()む。

 『今の3年生が引退したらボクと絶が、
  来年になってボク達が引退したら(たてる)(りん)が、
  きっと正甲中(せいこうちゅう)剣魔(けんま)部を引っ張って行く存在になると思う!
  みんなで頑張(がんば)って盛り上げて行こう!』

「おぉ……!」

 (たてる)が短く(つぶや)いた。

『オー!』

頑張(がんば)りますわ!』

 絶と(りん)がメッセージで返事してくれると、(たてる)

頑張(がんば)る!』

 とメッセージしてくれる。

「(半分は願望だけど……)」

 ボクは思った。
「は~い。
 来月の始めには新人戦が~、
 終わりには市の中総体があるわよ~」

 その日の剣魔(けんま)部の夕練が終わったところで、
下井先生が部員全員を集めて言った。

「新人戦は~、2日間かけて行われま~す。
 出場できるのは1、2年生だけ~。
 1人につきシングルスとミックスダブルスに
 それぞれエントリーできて~、
 団体戦は無いわ~。
 1日目がシングルス~。
 2日目がミックスダブルスの日程ね~」

 下井先生が1、2年生を順番に見つめていきながら言う。

「中総体のほうは~、全部で4日間~。
 最初の2日間は~、こちらも新人戦と同じよ~。
 1日目がシングルス~。
 2日目がミックスダブルス~。
 これも1人につきそれぞれエントリーできるわ~。
 全員出場できるわよ~」

 下井先生が、今度は3年生のほうも見渡(みわた)しながら言った。

「次の2日間は~、団体戦ね~。
 剣士(けんし)シングルス2試合~、
 魔法(まほう)シングルス2試合~、
 ミックスダブルス3試合の~、
 計7試合ずつ行われま~す」

 下井先生が、両手の指を折りながら言い、

「団体戦のオーダーでは~、
 シングルスとダブルスに同時に出ることは出来ませ~ん。
 つまり~、レギュラーは10人になる計算ね~。
 それから~、補欠に入れられるのは5人まで~。
 だから~、全部で15人がメンバーで~す」

 下井先生が、再び両手の指を折りながら言うと、
両手をパン!と(たた)く。

「そこで~、明日からの夕練では~、
 部内対抗(たいこう)戦として~、
 こちらで決めた色々な組み合わせで~、
 試合をどんどんプレイしてもらいま~す。
 いいわね~、(みんな)~?
 (だれ)が相手でも(だれ)がペアでも文句は言わないこと~」

 下井先生が再び全員を見渡(みわた)した。

「その結果を見て~、
 こちらでダブルスのペアとか団体戦のメンバーとかを決めるわ~。
 今のレギュラーと補欠のメンバーも~、
 負けてばかりだと入れ()えるわよ~?」

 下井先生がウィンクする。

「それと~、これは大会じゃないんだけど~。
 新人戦の翌週は~、今年も練習試合をやることが決定しました~。
 そこは~、中総体の出場オーダーで~、
 本番を想定してプレイしてもらうからね~?」

 下井先生が、再び両手をパン!と(たた)いた。

「本番の試合のほうは、全部トーナメント制だからな!?
 特に3年生!
 中総体は最後の試合だ!
 負けたらそこで引退だぞ!?
 分かってんな!?」

 美安先生が、ムチをパン!と地面に(たた)きつける。

「すみません先生方?
 1つよろしくて?」

 (りん)が、おもむろに挙手した。

「お?何かしら~?」

 下井先生が、(りん)のほうを向いて言う。

「ワタクシが普通(ふつう)挿入(インサート)すると、
 (みな)さんすぐに中断してしまう件については……?」

 (りん)が、下井先生に(たず)ねた。

「!」

 ボクと絶以外の男子部員が、一斉(いっせい)にビクン!と反応した。

「そうそう~、問題はそこよね~。
 なので~、中断しなかった夢路(ゆめみち)クン以外と組む時は~、
 手加減をお願いできる~?
 それでもダメかもしれないから~、
 念のため(りん)ちゃんのダブルスは~、
 翌日が部活お休みの土曜日にまとめてやりたいの~。
 それでもいいかしら~?」

 下井先生が両手のひらを合わせて、
『お願い』と言った感じのポーズを取りながら提案すると、
それを聞いた男子部員達も、一斉(いっせい)にホッとしたような様子を見せる。

「土曜日にまとめてやるのは一向に構いませんけど……、
 あれでも一応は手加減してたんですのよ……?」

 (りん)が首をかしげて見せる。

 再び男子部員達が、一斉(いっせい)にビクン!と反応した。






○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~






 部活終了(しゅうりょう)後。



 ボクは、(たてる)と少しだけ居残りして、
聖剣(せいけん)素振(すぶ)りをしたり、
(たてる)のスイングフォームをスマホで撮影(さつえい)してチェックしたりしている。

 と、
下井先生と何やら話していた絶、(りん)がこちらへやって来た。

「ちょっとごめん……。
 ムロくんてS?
 それともM?」

 絶がボクに質問してくる。

「ん……?
 ああ……。
 ボクはMだよ」
とボクは答えた。

 なぜか、(たてる)がひどく(おどろ)いたような顔をして、
ボクと絶を交互(こうご)に見てくる。

「じゃあワタクシは、Sで良さそうですわね」

 (りん)がうなずきながら言うと、(たてる)はさらに目をむいた。

「ボクはどうしよう……」

 絶が(なや)んでいるので、ボクは

「Lでいいんじゃないかな?
 ねえ、(たてる)
 (たてる)って、Lで注文してたんじゃない?」
(たてる)()り返りながら言った。

 絶と(たてる)は、身長がほぼ同じなのだ。

 (おどろ)いたような顔をしていた(たてる)は、

「えっ……?
 ああ……。
 ユニフォームのサイズの話か……」
と胸をなでおろしたような感じだ。

「(何の話だと思ったのだろう……?)」

 ボクは思った。

「うん。
 名前入りだと、届くまでに3週間ぐらいかかるらしいから、
 今から注文するんだって」

 絶が答える。

「自分、Lでちょうど良かったんで、Lで大丈夫(だいじょうぶ)かと思うスよ」

 (たてる)が、うなずきながら言う。

「ありがとー!」

 絶は元気にお礼を言うと、
(りん)と共に下井先生のところへと(もど)って行った。



 ちなみにウチの部では、毎年ユニフォームのデザインを変えている。

 今年のは、黒地を背景に、
大地の割れ目から()き出ている(ほのお)かマグマのような(がら)が、
サーモンピンクのカラーで(えが)かれているデザインだ。

 男女共に同じ、ユニセックスタイプのユニフォームである。

 選んだのは、脇名先輩(わきなせんぱい)と聞いている。

 と言っても、剣魔(けんま)の試合では、
その上からさらにプロテクターを装着してしまうので、
ユニフォームのデザインがはっきり見える機会は少ない。

 どちらかというと、そのプロテクターのほうが、
各校の伝統的な固定のカラーやデザインで、
名刺(めいし)代わりになっている感じである。

 正甲中(せいこうちゅう)の大会用のプロテクターは、
全体が明るめのイエローで、
右肩(みぎかた)と右太ももの辺りに『正』の文字が、
左肩(ひだりかた)と左太ももの辺りに『(こう)』の文字が、
それぞれ黒字で(えが)かれているデザインだ。

 ボク達自身がそう呼ぶことは滅多(めった)に無いのだが、
正甲中(せいこうちゅう)甲虫(こうちゅう)()けて、
『イエロービートルズ』という2つ名が、
一部では定着しているらしい。
 翌日の剣魔(けんま)部の朝練。

 ボク、(たてる)、絶が男子の部室に顔を出すと、
部室の(かべ)に人だかりが出来ている。

 部内対抗(たいこう)戦の試合の組み合わせが、紙で()り出されていたのだ。

 紙は全部で4枚。

 シングルスの2枚の紙は、
3人か4人をまとめた総当たり戦の表と、
その各試合がいつ行われるかのスケジュール一覧。

 ミックスダブルスの2枚の紙は、
ペアの組み合わせの一覧と、
その各ペアの試合がいつ行われるかのスケジュール一覧だった。



 ボクのシングルスの相手は、
3年生で部長の鬼頭先輩(きとうせんぱい)
2年生の申清、
1年生の陰舞(かげまい)
の3名だ。

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)と申清は、どちらも団体戦のレギュラーで、
ボクは過去の対戦では1度も勝てたことが無い。



 ダブルスのペアのほうは、
2年生の岩舌さん、
1年生の宇目さん、
1年生の(りん)
との組み合わせだった。

 ダブルスの相手のほうは、
岩舌さんとのペアでやるのは、2年生の倉見と2年生の慈亜(じあ)さんのペア。

 宇目さんとのペアでやるのは、1年生の鳥鼓(とりこ)と1年生の茂名須(もなす)さんのペア。

 (りん)とのペアでやるのは、
これまた2年生の申清と2年生の相武さんのペアだった。

 相武さんも団体戦のレギュラーである。



 結果から言ってしまうと、
なんとボクは団体戦の補欠としてメンバーに入ることができた。

 ダブルスは全勝。

 特に、(りん)とのペアで、レギュラーの申清と相武さんのペアを圧倒(あっとう)したのが
かなり大きかったらしい。



 絶、(りん)は、共に団体戦レギュラー。

 ただし、(りん)は基本的にシングルス専門になる形だ。

 結局、(りん)合体(ジョイント)できたのが、
ボク、絶、鬼頭先輩(きとうせんぱい)の3名だけだったためである。

 残念ながら(たてる)は、団体戦のメンバーになることはできなかった。

 と言うか、1年生で団体戦のメンバーになったのが(りん)だけだったので、
仕方ない部分もある。

 だが(たてる)は、

『3年生が引退していなくなったら、絶対レギュラー取る!』
と意気()んでいたので、今から楽しみだ。



 ここからは、ボクの試合について、かいつまんで述べようと思う。

 まずは、シングルスだ。

 シングルスの最初は、いきなり部長の鬼頭先輩(きとうせんぱい)との試合だった。

 鬼頭先輩(きとうせんぱい)聖剣(せいけん)は、
絶にはわずかに(およ)ばないが長くて太い片刃(かたば)で、
いわゆる巨剣(きょけん)に分類されるタイプだ。

 戦い方も絶にけっこう近い。

 ボクは大振(おおぶ)りを(さそ)って、それを回避(かいひ)しつつ攻撃(こうげき)する戦法で戦ったが、
前半に1ポイント取るのが精いっぱいだった。

「(ワンチャンス、
  ボクの聖剣(せいけん)(かた)さで鬼頭先輩(きとうせんぱい)聖剣(せいけん)を折れないか?)」
とも期待したのだが、そううまく行くはずもなく。

 結果は、3-1、3-0でボクのストレート負けだった。



 シングルスの次の相手は、初めて対戦する1年生の陰舞(かげまい)だった。

 陰舞(かげまい)聖剣(せいけん)は、普通の刀のような感じの片刃(かたば)聖剣(せいけん)で、
やや左に曲がっている。

 (たてる)と同様、剣魔(けんま)を始めたばかりでほとんど素人な(かれ)には、
ボクのフェイントを駆使(くし)した戦い方の相手はまだまだ厳しかったらしく、
最後までボクが試合を優位に進めた。

 結果は、3-0、3-1でボクのストレート勝ちだった。



 シングルスの最後の相手は、同じ2年生の申清だ。

 (かれ)聖剣(せいけん)は、なんと()が全く無い。

 木刀を全体的に長く、
さらに太さをかなり太くしたような感じの、
真っ直ぐな聖剣(せいけん)だ。

 巨剣(きょけん)に分類されるサイズではあるが、
()が全く無いということで、
ボクは一方的に(かれ)聖剣(せいけん)にシンパシーを感じている。

 申清は、身体のほうも(たてる)や絶よりも大きくてかなり太り気味で、
俊敏性(しゅんびんせい)や技術を使うよりは腕力(わんりょく)だけでねじ()せる感じの、
いわゆるパワープレイヤーである。

 (かれ)にリーチでもパワーでも(おと)るボクは、
(かれ)聖剣(せいけん)を何とかガードできたとしても、
そのパワーで大きく体勢を(くず)されてしまってなすすべがない。

 見た目的にも、他の聖剣(せいけん)ほど簡単には折れてくれそうになかった。

 ボクは、できるだけ(かれ)聖剣(せいけん)を受けないよう、
リーチギリギリのところで大振(おおぶ)りを(さそ)い、
それを回避(かいひ)して一気に接近戦に持ち()む感じの戦法で戦った。

 結果は、3-1、3-2でボクのストレート負け。

 後半に(かれ)がバテてきて、良い勝負になりかけたのだが、
1歩(およ)ばずという感じだった。



 続いて、ダブルスである。

 最初にペアを組んだ岩舌さんは、
脇名先輩(わきなせんぱい)と同じく水属性が得意な魔法(まほう)使いだ。

 対戦相手の倉見のほうは、
先の陰舞(かげまい)と同様、普通の刀サイズの片刃(かたば)のタイプの聖剣(せいけん)で、
こちらはやや右に曲がっている。

 対戦相手の慈亜(じあ)さんのほうは、
(りん)と同じく火属性が得意な魔法(まほう)使いだ。

 ウチの部の中で、
絶、(りん)鬼頭先輩(きとうせんぱい)脇名先輩(わきなせんぱい)のような部員達をガチ勢とするなら、
この3人はエンジョイ勢に属する部員達である。

 朝練にも顔を出していなかった。

 結果は、3-1、3-1でボクと岩舌さんのペアのストレート勝ちだった。

 ポイントはほとんどボクが(うば)ったものだし、
失点のほうもペアの岩舌さんが回避(かいひ)しそこねただけという感じで、
ボク的にはかなりの快勝である。



 次にペアを組んだ宇目さんは、
土属性が得意な魔法(まほう)使いだ。

 土属性は、合体(ジョイント)すると土が(かたまり)になって聖剣(せいけん)にくっつくので、
一時的とはいえ聖剣(せいけん)がかなり重くなるのがデメリットである。

 しかし、すっごく短い聖剣(せいけん)のボクの場合であれば、それほど問題にならない。

 対戦相手の鳥鼓(とりこ)聖剣(せいけん)は、
普通(ふつう)の刀ぐらいのサイズで、
真ん中辺りから先っちょまでだけが片刃(かたば)になった、
特に左右への曲がりは無い、真っ直ぐなタイプだった。

 茂名須(もなす)さんのほうは、
火と土属性が両方得意な魔法(まほう)使いと聞いていたが、
試合中に使ったのは火属性だけだった。

 その理由は4つある。

 理由の1つ目は、先ほど説明したように、
合体(ジョイント)すると聖剣(せいけん)が重くなるというデメリットがあるという点である。

 理由の2つ目は、土属性の発動というのは、
アースに手を付くようにしゃがんだ姿勢になる必要があるという点である。

 ダブルスの場合、合体(ジョイント)もその姿勢でやることになるので、
剣士(けんし)がその間は魔法(まほう)使いを守ってあげる必要があるわけだ。

 理由の3つ目は、土属性の(たま)はかなり重いので、
比較的(ひかくてき)(おそ)い水属性の水球よりもさらに弾速(だんそく)(おそ)く、
飛距離(ひきょり)も無いという点である。

 このため、土属性以外にも得意な属性がある場合は、
そっちの属性のほうが優先して使われやすいのだ。

 そして最後の最大の理由は、
1ゲーム目をボクと宇目さんのペアが(うば)った直後の、
2ゲーム目の1ポイント目で、
鳥鼓(とりこ)攻撃(こうげき)をボクがガードした際に、
(かれ)聖剣(せいけん)がボッキン!と折れてしまったことである。

 このため、3-1、0-0の時点で鳥鼓(とりこ)茂名須(もなす)さんのペアは棄権(きけん)となり、
ボク達の勝ちで試合が終了(しゅうりょう)してしまったのだ。



 最後にペアを組んだ(りん)は、

整理(ソート)がまだ来ないんですの」

 だそうで、火属性のみを使っていた。

 対戦相手の申清の聖剣(せいけん)は、シングルスのところで述べた通りである。

 相武さんのほうは、
(りん)と同様に火属性が得意な魔法(まほう)使いだ。

 これだけ聞くと、シングルスと同様にボクが不利に聞こえるかもしれない。

 しかし、申清の聖剣(せいけん)は素早く()るのには向かないし、
体型も相まって、
連続して(たま)防御(ぼうぎょ)したり回避(かいひ)したりするのは苦手なわけである。

 そこで作戦として、ボクの射聖(ショット)(りん)の火球で申清のほうを
集中して(ねら)()ちすることを徹底(てってい)したのだ。

 申清は、野球で言うバントのような構えをして、何とか食らいついてきたが、
ボクと(りん)は最終的に、(かれ)(はさ)()ちにするようなフォーメーションを組んで、
動きの(にぶ)(かれ)翻弄(ほんろう)した。

 この作戦が功を奏し、結果は3-1、3-0と、
ボクと(りん)のペアが大差で勝利することができたのである。
 5月も終わりに差し()かった日曜日。

 天気は快晴。

 今日は、できればやりたくなかった体育祭の日だ。

 とは言うものの、入退場の行進の練習はしっかりやった。

 棒倒(ぼうたお)しのほうも、勝てるかどうかはともかく、特に不安要素は無い。

 一番難関と思われていたダンスの()り付けは、
1週間前にはマスターしていた。

 懸念(けねん)があるとすれば、大トリの競技として(ひか)えている
クラス対抗(たいこう)リレーだけだった。



 午前の終わりのプログラムであるダンスが無事に終わると、
ボクと(たてる)は、父さんと母さんと共に校庭の片隅(かたすみ)でお弁当を食べ始める。

 内容は、ウィンナー、魚肉ソーセージ、いなり寿司(ずし)など
ボク達の好物ばかりだ。

 全体的に茶系の色合いだが、

『運動会の日ぐらいこういうお弁当も良いだろう』
という母さんの意向である。

 デザートにバナナまで食べると、すっかりお腹いっぱいになった。



 と、

「ムロくん!(たてる)くん!」
と絶の声がした。

 ()り返ると、絶が(りん)も連れてこちらへ向かって来ている。



「あっ。夢路(ゆめみち)くん達のお父さんお母さんですね?
 はじめまして、本能絶と言います。
 こっちは妹の(りん)です」

 やってきた絶は、ボク達の父さんと母さんに向かってあいさつして、
深々とお辞儀(じぎ)をする。

「やあ、どうもはじめまして……」

 父さんが言い、母さん共々立ち上がって同じように頭を下げると、

「まあまあ。本能くん達ってあれでしょう?
 最近、朝練いつも一緒(いっしょ)に行ってる、あの。
 こんな美少年と美少女だったのねえ」
と母さんが感激したように、電話で話す時のような高い声を出している。

 それを聞いた父さんは、

「ああ、そうなのか。
 いつもバカ息子達がお世話になりまして……」
とまた頭を下げた。

「いえいえ、ボク達のほうこそいつもご迷惑(めいわく)をお()けしているぐらいで……」

 絶はそう謙遜(けんそん)しながら、両手と首を横に()る。

「なんか用事スか?」

 (たてる)が、父さんと母さんに構わず(たず)ねた。

「うん。
 グラウンドのあっちに(かざ)ってある、各クラスが作った応援旗(おうえんき)あるでしょ?
 あれを見に行かないかって(りん)と話してて……」

 絶がニコニコしながら言うと、(りん)

「そうなんですの」
とニコリとした。

「ああ……。
 ウチのクラスの力作だもんねえ……」

 (たてる)面倒(めんどう)くさそうに言いながら立ち上がった。

「(それってもしかして……)」

 ボクも立ち上がり、絶、(りん)(たてる)と連れ立って歩き出す。



 (たてる)(りん)の1年2組の応援旗(おうえんき)は、撲滅(ぼくめつ)ブレードだった。

 主人公である金太とライバルであるエインが、
(たが)いにガッチリと握手(あくしゅ)した絵柄(えがら)を背景に、
撲滅(ぼくめつ)』の力強い文字が入っている。

「(何を撲滅(ぼくめつ)するんだろう……?)」

 ボクは思った。

「ワタクシが主導で()いたんですの。
 素晴らしい出来栄えだと自負しておりますわ」

 (りん)が、ボクと絶の反応を確かめるようにこちらを見る。

「なるほど。
 ヒロインの真祖子じゃなくて、
 ライバルのエインを持ってくる辺りが(りん)らしいね。
 絵もすっごく上手だし」

 ボクが言うと、(りん)は鼻高々という感じで胸を張る。

「そうそう。
 パンストにも上げましたら、けっこうバズったんですのよ」

 (りん)が言いながら、スマホでパンストグラマーに上げた
投稿(とうこう)画面を見せてくる。

「すごい!1000いいね()えてる!」

 (のぞ)き込んだボク、(たてる)、絶は、驚いて口に出す。

「(いやはや、行動力と才能のあるオタクほど(おそ)ろしい者は無い……)」
とボクは(うらや)ましいの半分、あきれ半分の複雑な気持ちだ。

 まあ、ボクと絶の2年4組が()いた、
波打ち際に上がる潮のしぶきを背景に
『ガチンコ!
 ~全力を()くす~』
と書かれただけの応援旗(おうえんき)では、
ここまでバズることはまず無いだろう。

 何しろ担任の益垣(ますがき)先生にすら、

「コンセプトがよく分からない……」
と言われてしまったのだから。

 ボクもまったく同意見である。



 と、

「間もなく午後のプログラムが始まります。
 玉入れに参加する女子の(みな)さんは、入場門に集まってください。
 ()り返します……」
という放送が入った。

「あら?
 もうそんな時間ですのね。
 それではワタクシは行って参りますわ」

 (りん)が言い、

「うん。頑張(がんば)って」
とボク達も言う。

 (りん)が入場門横の集合場所へと向かうのを見送ると、

「ボクらも(もど)ろうか」
と、ボクと絶、(たてる)はそれぞれのクラスの席へと(もど)った。



 (りん)の玉入れは、残念ながら2位だった。

 しかし、1位も白組の4組だったので、大勝利である。

 この結果、午前のプログラムまででわずかに赤組に負けていた白組が、
点数を逆転した。

 ちなみに、今回の体育祭では、
1年生から3年生まで1組と3組が赤組、2組と4組が白組という組分けだ。

 つまり、ボクと絶の2年4組も白組なので、
4人全員が白組のチームということになる。



 さて、続いてのプログラムは、男子の棒倒(ぼうたお)しである。

 ボク達4組の対戦相手は、赤組の3組だ。

 事前に話し合っていたボク達のクラスの棒倒(ぼうたお)しの作戦は、
攻撃(こうげき)組と防御(ぼうぎょ)組に半分ずつ人員を割くオーソドックスなものだが、
攻撃(こうげき)組はさらに、
先に()()む前衛組と、
後から()()む後衛組に分かれている。

 ボクは防御(ぼうぎょ)メンバーで、
絶は攻撃(こうげき)メンバーの後衛組だ。



 パ ァ ン !

 棒倒(ぼうたお)しの開始を告げるピストルの音が鳴らされた。

 開始と同時に双方(そうほう)攻撃(こうげき)組がすごい勢いで走り出す。

 ドガッ!ドガッ!と
3組の攻撃(こうげき)組が勢いよく()り出す体当たりを、
ボクは頭を防御(ぼうぎょ)するようにして構えた両腕(りょううで)で、
何とか()し返すようにして()える。

 と、ボク達4組の攻撃(こうげき)メンバー前衛組が、
ラグビーのスクラムのようなフォーメーションを組んで、
棒を取り囲む3組の防壁(ぼうへき)をグイグイと()し広げるように、
棒に向かって()()み始めた。

 そうして(くず)れた3組の防壁(ぼうへき)をさらに()(つらぬ)くように、
絶達の後衛組が束になってグイグイと棒に向かって()()むと、
何人かが3組の棒に(さわ)れるレベルまで侵入(しんにゅう)を果たす。

 作戦大成功だ。

 3組の棒がグインと(かたむ)き、
棒の先端(せんたん)に1人乗った『上乗り』というポジションの男子が、
あわててグッ!グッ!と体重を移動し、
棒の(かたむ)きを修正しようとする。

 と、
そこにダダン!と身軽に飛び()かった者がいる。

 絶だ。

 登らせまいと(つか)みかかる3組の防御(ぼうぎょ)を物ともせず、
その身体能力を生かして(かたむ)いた棒を()け上がるように登ると、
上乗りの男子の()攻撃(こうげき)すらもスイとかわし、
その男子と()み合うようにしばらく争うと、
逆にドゴ!と蹴落(けお)としてしまった。

 そうして、あっという間に3組の棒の先っちょに達すると、
ブラブラとぶら下がるようにして一気に体重をかける。

 そこに、絶に気を取られて浮足立(うきあしだ)つ3組を出し()くように、
他の攻撃(こうげき)メンバーも次々に棒に飛び()かった。

 秒も持たずに3組の棒は撃沈(げきちん)され、

 パ ァ ン !
と勝負ありを告げるピストルの音が鳴らされる。

 ボク達4組の勝利だ。

「わああああ!」

「イエエエイ!」

「うおおおお!」

 4組の男子達と応援(おうえん)席から大きな歓声(かんせい)が上がり、
負けた3組の男子達はガックリと(かた)を落とす。

 江口(えぐち)や下仁田をはじめとしたクラスのイケてる男子達が
絶に向かって一斉(いっせい)に集まり、
胴上(どうあ)げまでしだした。

 もはや、白組が優勝したかのような空気だ。



 ボク達のクラスの勝利もあって、
白組がリードしたまま体育祭のプログラムは進む。

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