アースの対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、
審判の倫がピー!とホイッスルを鳴らした。
試合スタートだ。
ボクはダダダ……!と、一直線に絶に向かって走り出した。
絶もスルスル……と、ほぼ足音を立てずにボクに向かって走って来る。
剣士同士の試合では飛び道具が無いし、
剣魔にはアース場外に出ると失点となるルールもあるので、
基本的にはこのようにアース中央へ真っ直ぐ向かうのがセオリーだ。
そのまま、絶の聖剣のリーチまでお互いに走り寄る。
と、ビュッ!と絶がボクの踏み出そうとした足先を刈るように、
しゃがみながら聖剣を振った。
聖剣は、その大きさに比例して重量を増す。
両手で振っているとはいえ、
巨剣、
つまり巨大な聖剣の絶の場合、かなりの重量のはずなのに、
ものすごいスイングスピードである。
だが、ボクが踏み出そうとした最後の一歩はフェイントだ。
ボクは軸足に、踏み出しかけた足を引き付けるように戻している。
絶の聖剣は、紙一重で空を切った。
ボクはそのまま、ダンッ!と両足でジャンプするように絶に飛びかかる。
そこへ絶は、ギュルン!と先ほど聖剣を振った勢いでそのまま体を回転させ、
ビュッ!と続けざまに聖剣を振ってきた。
「(速っ!)」
ボクは振りかぶりかけていた聖剣をすぐに振り下ろし、
絶の聖剣に何とか自分の聖剣を合わせる。
ガキィン!
「!?」
すごい威力だ。
空中にいたボクの体全体が、
グイッ!と押されるように動かされた。
ゴロゴロと横に転がるようにして着地したボクは、すぐさま体勢を立て直す。
と、そこへ絶が素早く横から斬りかかる。
「うひ!」
ボクは思わず口に出しながら、それに何とか聖剣を合わせた。
ガキィン!
ボクの体勢が再び崩される。
絶は再びそのまま回転する。
体勢を立て直し、ボクは再び聖剣を合わせる。
ガキィン!
絶はさらに回転して、再び聖剣を振る。
ガキィン!
絶はどんどん加速していく。
ガキィン!
さらに加速した。
ガキィン!
「(マズイ!)」
バッ!
ビュッ!
ボクは絶の聖剣をくぐるように前転し、
聖剣を振った絶の右側面に移動した。
「!?」
聖剣を空振りした絶は、わずかに体勢を崩す。
ボクが聖剣を右の裏拳を繰り出す要領で振る。
ビュッ!
が、体勢を崩した絶の体が前方に流れたので、
ボクの短い聖剣は届かず、空を切った。
「くっ……!」
ボクは絶に一歩踏み出しながら再び聖剣を振りかぶった。
ビュッ!ドッ!
振り向きざまに絶が振った聖剣が、
ボクのプロテクターを付けた左腕にヒットした。
「ぐあっ!」
ボクは思わず悲鳴を上げる。
プロテクター越しだというのに、かなり痛い。
ピー!と倫がホイッスルを鳴らし、
「1-0ですわ!」
とスコアをコールする。
アースの最初とは逆の対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、
審判の倫がピー!とホイッスルを鳴らした。
ボクと絶はお互いに走り出す。
絶の間合いに入る直前、絶が右腕側に一瞬タメを作ったかと思うと、
ものすごいスピードでビュッ!と聖剣を斜めに振ってきた。
ガキィン!
「(!?
しまった!)」
ボクの聖剣が弾かれてしまう。
間合いの外のはずだった。
だが、1ポイント目の一撃を脳裏に刻まれていたボクの身体は、
無意識にガードしようと反応し、腕を伸ばしてしまったのだ。
絶がその隙を見逃すはずがない。
振り抜いていく聖剣の勢いを一瞬で殺し、
すかさず両腕を大きくひねるようにして、
ボクに向かって一歩踏み込みながら、
今度は逆から斜めに聖剣をに振り下ろす。
ビュッ!
ゴロッ!
バックステップで回避するのは無理と咄嗟に判断したボクは、
地面を横転するように絶の左腕側に向かって回避した。
「!」
ビュッ!
立ち上がりながら、ボクは左腕だけで絶に向かって聖剣を振る。
ズザッ!ビュッ!ズドッ!
が、絶のほうが一枚上手だった。
振り抜いた聖剣ごとそのまま回転しつつ距離を取り、
ボクの聖剣のリーチの外からカウンターで胴を薙ぎ払われてしまった。
「うっぐ!?」
ボクはその勢いでズザッ!と半歩ぐらい身体を持っていかれる。
プロテクターが無かったらケガでは済まないような重い一撃だ。
ピー!と倫がホイッスルを鳴らし、
「2-0ですわ!」
とスコアをコールする。
アースの最初にいた対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、
審判の倫がピー!とホイッスルを鳴らした。
ボクと絶はお互いに走り出す。
絶の間合いに入る直前、1ポイント目でそうしたように、
ボクはフェイントをかけ、一歩踏み込むフリをして立ち止まった。
が、絶はそれを読んでいたのかさらに一歩踏み込んで
絶の右腕側から聖剣を振る。
ボクはそれに自分の聖剣を合わせるようにガードの構えをした。
ビュッ!ガキィン!ゴッ!
「!?」
ガードしたはずなのに、
ボクの左ヒジの辺りのプロテクターに絶の聖剣がヒットする。
その原因はすぐに分かった。
なんと絶は、普通に斬るようなイメージで聖剣を振ったのではなく、
右腕をしならせるようにして聖剣の先っちょ側を先走らせたのだ。
ヒジを真っ直ぐ伸ばし、途中から右の手首だけで聖剣を振って、
右腕と聖剣が『く』の字になるようにした感じである。
腕側が先で聖剣側が後になるようなスイングを『ハンドファースト』、
逆に聖剣側が先で腕側が後になるようなスイングを『ハンドレイト』と呼ぶが、
それをさらに極端にしたわけだ。
これではボクの短い聖剣で普通に受けてしまうと、ガードにならない。
だが、こんな巨剣でそれをやってのけるとは、
ものすごい手首の強さと言わざるを得ないだろう。
ピー!と倫がホイッスルを鳴らし、
「ゲーム!お兄様!1ゲームストゥ0ですわ!」
とスコアをコールする。
その後も、ボクは振るわなかった。
絶の巨剣の前に防戦一方で、
何度かあったチャンスも聖剣の短さで、ものにできずじまい。
結局、絶に3-0、3-0のストレートで敗れた。
「ありがとう……ございました……」
アースの中央の『*』マークの上で、
絶がハアハア言いながらボクに手を差し出した。
「ありがとう……ございました……。
やっぱり……、さすがに……強いね……」
ボクもハアハア言いながら手を差し出し、絶と握手を交わす。
「いや……、フゥー……。スコア的には……、」
絶が息をついて言いかけたところに、
「スコア的には大差ですけども、白熱してましたわね!」
倫が嬉しそうに声をかけてきた。
絶も大きくうなずき、
「ムロくんの聖剣が長かったら厳しかったよ」
と言ってから、『しまった』という顔になる。
「そうかもね……。
聖剣が長かったらね……。
ハハハ……」
ボクは気にしていないフリをして笑った。
「(たら、ればの話ならいくらでもできる……。
でも、実際問題としてボクの聖剣は短いんだ……。
配られた手札、
つまりこの聖剣で勝てるようにならなければ意味が無いんだ……)」
ボクはそう思いながら、うつむく。
「その点は、ワタクシにお任せあそばせ!」
倫が、自分の胸に右手を当てて言った。
「本当にボクとダブルスを……?」
ボクは、まだ半信半疑だ。
「もちろんですわよ!」
倫は、自信満々といった表情である。
「は~い!それじゃあ次はダブルスよ~!」
下井先生がパンパンと両手を叩いて、皆に声を掛け、
「しょうがないから~、今日だけ女子同士で魔法ダブルスね~!」
と続けてから、
「あっ、脇名ちゃ~ん。
今だけ絶クンと組めるかしら~?」
と脇名先輩に声を掛けた。
脇名先輩は、普段は部長の鬼頭先輩とミックスダブルスのペアだが、
今はいないためだ。
「ラジャーです!」
脇名先輩が元気に返事をする。
「お相手はどうしましょうか~?
夢路クンは~、さっき0、0で負けちゃってたわよね~?」
下井先生がボクをチラリと見て、少し残念そうに言った。
ボクはギクリとする。
「仕方ないから~、アタシと倫ちゃんあたりで組んでみる~?」
下井先生が言う。
「(確かに下井先生の言う通りだ……。
実力差が有り過ぎては、絶の練習にならないだろう……)」
ボクが思っていると、
「先生、ちょっとお待ちになって!」
と倫が挙手して叫んだ。
「お?何かしら~?」
下井先生が尋ねると、
「ワタクシ、夢路先輩とダブルス組んでみたいんですの!」
倫は、大声で宣言した。
一瞬の静止。
クスクスと女子の一部が笑い出した。
ボクは、少し顔を伏せる。
「ごめんね~?
たぶん倫ちゃんの魔力じゃ~、
夢路クンの聖剣もきっと中断しちゃうから~……」
下井先生も申し訳なさそうに言うが、
「そこは抜かりございませんわ!」
と、倫は一歩も引かない。
「そう~……?
どうしてもって言うなら止めないけど~……。
中断したら試合のほうも中断するわよ~……?」
下井先生が、しぶしぶ折れた。
「レロレロ……。フフフ……。
絶くんの大きいね……。レロ……。
鬼頭くんのよりも大きい……。レロレロレロ……」
脇名先輩は絶の聖剣の前にヒザをついて、
もうオーラルコミュニケーションをしている。
「さあムロさん!
ワタクシ達も負けていられませんわ!
勝負はもう始まってましてよ!」
倫もボクの前にヒザをついた。
「う……、うん……」
ボクは、なえていた聖剣をビュッ!と抜くと、
倫の前に差し出す。
チュッ!
倫が、音を立ててボクの聖剣にキスをした。
「!?」
ボクは、それを見て目を丸くする。
「レローレロー……。
ああ……、やっぱりかわいいですわ……。レロレロ……。
こんなかわいい聖剣を舐められるなんて……。レロー……。
たまりませんわよ……。レロレロレロ……。
ツルツルじゃなくてザラザラなのも趣き深いですわ……。レローレロー……」
倫は、長い舌をボクの聖剣に器用に這わせ、
だ液を塗り込むように念入りに舐めていった。
「(ボクなんかの聖剣に、
こんな情熱的にオーラルコミュニケーションしてくれるなんて……!
嬉しいけど、なぜだかすごく恥ずかしいいい……!)」
ボクは、顔を真っ赤にしてしまう。
「……さあ!準備万端ですわ!」
倫が立ち上がった。
すっかりボクの聖剣はベトベトで、ヌラヌラと光を反射している。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたしますわ」
ボクと倫、絶と脇名先輩がアースに入り、
中央の『*』マークの上でそれぞれ握手を交わした。
審判の倫がピー!とホイッスルを鳴らした。
試合スタートだ。
ボクはダダダ……!と、一直線に絶に向かって走り出した。
絶もスルスル……と、ほぼ足音を立てずにボクに向かって走って来る。
剣士同士の試合では飛び道具が無いし、
剣魔にはアース場外に出ると失点となるルールもあるので、
基本的にはこのようにアース中央へ真っ直ぐ向かうのがセオリーだ。
そのまま、絶の聖剣のリーチまでお互いに走り寄る。
と、ビュッ!と絶がボクの踏み出そうとした足先を刈るように、
しゃがみながら聖剣を振った。
聖剣は、その大きさに比例して重量を増す。
両手で振っているとはいえ、
巨剣、
つまり巨大な聖剣の絶の場合、かなりの重量のはずなのに、
ものすごいスイングスピードである。
だが、ボクが踏み出そうとした最後の一歩はフェイントだ。
ボクは軸足に、踏み出しかけた足を引き付けるように戻している。
絶の聖剣は、紙一重で空を切った。
ボクはそのまま、ダンッ!と両足でジャンプするように絶に飛びかかる。
そこへ絶は、ギュルン!と先ほど聖剣を振った勢いでそのまま体を回転させ、
ビュッ!と続けざまに聖剣を振ってきた。
「(速っ!)」
ボクは振りかぶりかけていた聖剣をすぐに振り下ろし、
絶の聖剣に何とか自分の聖剣を合わせる。
ガキィン!
「!?」
すごい威力だ。
空中にいたボクの体全体が、
グイッ!と押されるように動かされた。
ゴロゴロと横に転がるようにして着地したボクは、すぐさま体勢を立て直す。
と、そこへ絶が素早く横から斬りかかる。
「うひ!」
ボクは思わず口に出しながら、それに何とか聖剣を合わせた。
ガキィン!
ボクの体勢が再び崩される。
絶は再びそのまま回転する。
体勢を立て直し、ボクは再び聖剣を合わせる。
ガキィン!
絶はさらに回転して、再び聖剣を振る。
ガキィン!
絶はどんどん加速していく。
ガキィン!
さらに加速した。
ガキィン!
「(マズイ!)」
バッ!
ビュッ!
ボクは絶の聖剣をくぐるように前転し、
聖剣を振った絶の右側面に移動した。
「!?」
聖剣を空振りした絶は、わずかに体勢を崩す。
ボクが聖剣を右の裏拳を繰り出す要領で振る。
ビュッ!
が、体勢を崩した絶の体が前方に流れたので、
ボクの短い聖剣は届かず、空を切った。
「くっ……!」
ボクは絶に一歩踏み出しながら再び聖剣を振りかぶった。
ビュッ!ドッ!
振り向きざまに絶が振った聖剣が、
ボクのプロテクターを付けた左腕にヒットした。
「ぐあっ!」
ボクは思わず悲鳴を上げる。
プロテクター越しだというのに、かなり痛い。
ピー!と倫がホイッスルを鳴らし、
「1-0ですわ!」
とスコアをコールする。
アースの最初とは逆の対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、
審判の倫がピー!とホイッスルを鳴らした。
ボクと絶はお互いに走り出す。
絶の間合いに入る直前、絶が右腕側に一瞬タメを作ったかと思うと、
ものすごいスピードでビュッ!と聖剣を斜めに振ってきた。
ガキィン!
「(!?
しまった!)」
ボクの聖剣が弾かれてしまう。
間合いの外のはずだった。
だが、1ポイント目の一撃を脳裏に刻まれていたボクの身体は、
無意識にガードしようと反応し、腕を伸ばしてしまったのだ。
絶がその隙を見逃すはずがない。
振り抜いていく聖剣の勢いを一瞬で殺し、
すかさず両腕を大きくひねるようにして、
ボクに向かって一歩踏み込みながら、
今度は逆から斜めに聖剣をに振り下ろす。
ビュッ!
ゴロッ!
バックステップで回避するのは無理と咄嗟に判断したボクは、
地面を横転するように絶の左腕側に向かって回避した。
「!」
ビュッ!
立ち上がりながら、ボクは左腕だけで絶に向かって聖剣を振る。
ズザッ!ビュッ!ズドッ!
が、絶のほうが一枚上手だった。
振り抜いた聖剣ごとそのまま回転しつつ距離を取り、
ボクの聖剣のリーチの外からカウンターで胴を薙ぎ払われてしまった。
「うっぐ!?」
ボクはその勢いでズザッ!と半歩ぐらい身体を持っていかれる。
プロテクターが無かったらケガでは済まないような重い一撃だ。
ピー!と倫がホイッスルを鳴らし、
「2-0ですわ!」
とスコアをコールする。
アースの最初にいた対角のスタンバイエリアにボクと絶がそれぞれ立つと、
審判の倫がピー!とホイッスルを鳴らした。
ボクと絶はお互いに走り出す。
絶の間合いに入る直前、1ポイント目でそうしたように、
ボクはフェイントをかけ、一歩踏み込むフリをして立ち止まった。
が、絶はそれを読んでいたのかさらに一歩踏み込んで
絶の右腕側から聖剣を振る。
ボクはそれに自分の聖剣を合わせるようにガードの構えをした。
ビュッ!ガキィン!ゴッ!
「!?」
ガードしたはずなのに、
ボクの左ヒジの辺りのプロテクターに絶の聖剣がヒットする。
その原因はすぐに分かった。
なんと絶は、普通に斬るようなイメージで聖剣を振ったのではなく、
右腕をしならせるようにして聖剣の先っちょ側を先走らせたのだ。
ヒジを真っ直ぐ伸ばし、途中から右の手首だけで聖剣を振って、
右腕と聖剣が『く』の字になるようにした感じである。
腕側が先で聖剣側が後になるようなスイングを『ハンドファースト』、
逆に聖剣側が先で腕側が後になるようなスイングを『ハンドレイト』と呼ぶが、
それをさらに極端にしたわけだ。
これではボクの短い聖剣で普通に受けてしまうと、ガードにならない。
だが、こんな巨剣でそれをやってのけるとは、
ものすごい手首の強さと言わざるを得ないだろう。
ピー!と倫がホイッスルを鳴らし、
「ゲーム!お兄様!1ゲームストゥ0ですわ!」
とスコアをコールする。
その後も、ボクは振るわなかった。
絶の巨剣の前に防戦一方で、
何度かあったチャンスも聖剣の短さで、ものにできずじまい。
結局、絶に3-0、3-0のストレートで敗れた。
「ありがとう……ございました……」
アースの中央の『*』マークの上で、
絶がハアハア言いながらボクに手を差し出した。
「ありがとう……ございました……。
やっぱり……、さすがに……強いね……」
ボクもハアハア言いながら手を差し出し、絶と握手を交わす。
「いや……、フゥー……。スコア的には……、」
絶が息をついて言いかけたところに、
「スコア的には大差ですけども、白熱してましたわね!」
倫が嬉しそうに声をかけてきた。
絶も大きくうなずき、
「ムロくんの聖剣が長かったら厳しかったよ」
と言ってから、『しまった』という顔になる。
「そうかもね……。
聖剣が長かったらね……。
ハハハ……」
ボクは気にしていないフリをして笑った。
「(たら、ればの話ならいくらでもできる……。
でも、実際問題としてボクの聖剣は短いんだ……。
配られた手札、
つまりこの聖剣で勝てるようにならなければ意味が無いんだ……)」
ボクはそう思いながら、うつむく。
「その点は、ワタクシにお任せあそばせ!」
倫が、自分の胸に右手を当てて言った。
「本当にボクとダブルスを……?」
ボクは、まだ半信半疑だ。
「もちろんですわよ!」
倫は、自信満々といった表情である。
「は~い!それじゃあ次はダブルスよ~!」
下井先生がパンパンと両手を叩いて、皆に声を掛け、
「しょうがないから~、今日だけ女子同士で魔法ダブルスね~!」
と続けてから、
「あっ、脇名ちゃ~ん。
今だけ絶クンと組めるかしら~?」
と脇名先輩に声を掛けた。
脇名先輩は、普段は部長の鬼頭先輩とミックスダブルスのペアだが、
今はいないためだ。
「ラジャーです!」
脇名先輩が元気に返事をする。
「お相手はどうしましょうか~?
夢路クンは~、さっき0、0で負けちゃってたわよね~?」
下井先生がボクをチラリと見て、少し残念そうに言った。
ボクはギクリとする。
「仕方ないから~、アタシと倫ちゃんあたりで組んでみる~?」
下井先生が言う。
「(確かに下井先生の言う通りだ……。
実力差が有り過ぎては、絶の練習にならないだろう……)」
ボクが思っていると、
「先生、ちょっとお待ちになって!」
と倫が挙手して叫んだ。
「お?何かしら~?」
下井先生が尋ねると、
「ワタクシ、夢路先輩とダブルス組んでみたいんですの!」
倫は、大声で宣言した。
一瞬の静止。
クスクスと女子の一部が笑い出した。
ボクは、少し顔を伏せる。
「ごめんね~?
たぶん倫ちゃんの魔力じゃ~、
夢路クンの聖剣もきっと中断しちゃうから~……」
下井先生も申し訳なさそうに言うが、
「そこは抜かりございませんわ!」
と、倫は一歩も引かない。
「そう~……?
どうしてもって言うなら止めないけど~……。
中断したら試合のほうも中断するわよ~……?」
下井先生が、しぶしぶ折れた。
「レロレロ……。フフフ……。
絶くんの大きいね……。レロ……。
鬼頭くんのよりも大きい……。レロレロレロ……」
脇名先輩は絶の聖剣の前にヒザをついて、
もうオーラルコミュニケーションをしている。
「さあムロさん!
ワタクシ達も負けていられませんわ!
勝負はもう始まってましてよ!」
倫もボクの前にヒザをついた。
「う……、うん……」
ボクは、なえていた聖剣をビュッ!と抜くと、
倫の前に差し出す。
チュッ!
倫が、音を立ててボクの聖剣にキスをした。
「!?」
ボクは、それを見て目を丸くする。
「レローレロー……。
ああ……、やっぱりかわいいですわ……。レロレロ……。
こんなかわいい聖剣を舐められるなんて……。レロー……。
たまりませんわよ……。レロレロレロ……。
ツルツルじゃなくてザラザラなのも趣き深いですわ……。レローレロー……」
倫は、長い舌をボクの聖剣に器用に這わせ、
だ液を塗り込むように念入りに舐めていった。
「(ボクなんかの聖剣に、
こんな情熱的にオーラルコミュニケーションしてくれるなんて……!
嬉しいけど、なぜだかすごく恥ずかしいいい……!)」
ボクは、顔を真っ赤にしてしまう。
「……さあ!準備万端ですわ!」
倫が立ち上がった。
すっかりボクの聖剣はベトベトで、ヌラヌラと光を反射している。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたしますわ」
ボクと倫、絶と脇名先輩がアースに入り、
中央の『*』マークの上でそれぞれ握手を交わした。