本当の「私」でいられる、その日まで。

「えっ,本当に!?やった!」

(人と関わるのは正直苦手だけど,せっかく「友達になろう」って言ってくれたし,断るわけにもいかないし…………まぁ,大丈夫だろう………多分)

「じゃあ,これからよろしくね!私の名前は吉本佳奈!「佳奈」でも「佳奈ちゃん」でも,好きな呼び方で良いよ!」

「じゃあ佳奈ちゃんって呼ぶね。私は瑠璃川純麗。私も好きな呼び方で構わないよ」

「じゃあ純麗ちゃんって呼ぶね!っていうか名前も名字も綺麗な漢字だね!「瑠璃川」って名字も,「純麗」って漢字も,初めて見たかも!」

「確かに,あまり見かけないかもね」

「いいな〜〜!綺麗な漢字ばっかで羨ましい!」

「そう?「佳奈」って漢字も,可愛らしくて私は良いと思うけど」

「本当!?ありがとう!」
 佳奈ちゃんは,可愛らしい笑顔をしていた。

(こういう子,絶対惚れる人多いでしょ………)

 改めて,佳奈ちゃんの見た目を確認してみる。

 綺麗に内巻きされた,ブラウンのショートヘアに白い肌,ぱっちりとした二重の目。

 まるでお人形さんみたいで,とても可愛らしい。

(それに比べて,私は…………)

 真っ黒のロングヘアに少し日焼けした肌,一重の吊り目………まるで彼女とは正反対だった。

(佳奈ちゃんみたいにもう少し可愛いかったら……)

―――ちょっとは,自分に自信が持てたのかな…



「ねぇ,大丈夫?さっきからボーってしてるけど」

「え?あっ,あぁ。うん,大丈夫だよ」
「本当に?も〜!心配なんだけど!」

 心配そうな顔をしたと思えば,今度は怒ったような顔をした。

 佳奈ちゃんは,見るたびにコロコロと表情が変わっていく。「私には出来ない事だ」と思った。

「ごめんごめん。けど,大丈夫だから」

「そう?なら良いんだけど。あっ,そういえばさ………純麗ちゃんって中学の時,何か部活してた?」

「部活?どうして急に……」

「いや,この後の入学式が終わった後,続けて部活紹介もするらしくて………」

「え?そうだったの?知らなかった……」

「私も今日知ったんだよね。それで,純麗ちゃんが中学の時,何部だったのか,ちょっと気になって」
「そういうことね。私は中学の時はバスケ部だったよ」

「バスケ!?なんか意外かも」

「え,そう?逆に何部だと思ってたの?」

「いや,運動部だとは思ってた!バレーとか!」

「あぁ,なるほどね。じゃあ逆に聞くけど,佳奈ちゃんは何部だったの?」

「私?私は軽音楽と美術を兼部してた!」

 少し意外だった。見た目的に美術部だろうと思ってはいたが,軽音楽部も兼部しているとは思わなかった。

「軽音楽?美術と兼部してるって珍しい」

「実は私のお兄ちゃんが軽音楽部なんだけど,「もしよかったら来ないか」って誘われてね。けど,私は美術部に入りたくて。その事を話したら,「じゃあ兼部したらいいじゃん」って言われてね。それで兼部してるの」
「なるほどね」
 
 そんなことを話している時,チャイムの音が教室に鳴り響いた。談笑していた周りの人も,自分の席へと着いていった。

―――ガラララッ。

 教室の扉が開き,中に入ってきた若い青年。恐らく,これから担任となる先生だろう。

「皆さん始めまして。これから1年間,このクラスの担任となる中島です。よろしくお願いします」

(良さそうな人だな………)

 雰囲気的には安心出来そうな感じだった。

「ではまず,これからの流れについて―――」


―――・―――・―――・―――・―――・――

「やっと終わった〜〜!」
「佳奈ちゃん元気だね」

「そりゃそうじゃん!今日色々ありすぎて疲れたよ〜〜!早く帰って漫画の続き読みた〜い!」

 無邪気に笑うその姿に,私もつい笑ってしまう。

「あっ,純麗ちゃんって漫画好き?」

「漫画?好きだよ」

「もしよかったら私の家に来ない?」

「えっ,えっと………」

(どうしよう………)

 朝,玲紬さんに帰りの事を聞き忘れていたせいで,返答に悩む。

(玲紬さんの教室に行ってみる?でも2年の教室って,なんか怖そう………)

 そんな事を考えていると,
「純麗〜」

 突然,私を呼ぶ声が聞こえた。慌てて声がした方を見ると,そこには玲紬さんがいた。

(玲紬さん!?なんで!?)

「ごめん佳奈ちゃん,ちょっと待ってて」

 戸惑いながら佳奈ちゃんにそう伝え,玲紬さんのもとへ向かった。

「玲紬さんどうしたの急に?何か用事あるの?」

「いや,特に用事は無いんだけど………」

「けど?」

「その……一緒に帰らないかって誘いに来た」

「誰に?もしよかったら呼んでこようか?」

「そうじゃなくて……あ〜〜!もう!純麗と一緒に帰りたくて来たんだけど!」
「……………えっ?私?」

 言葉の意味が理解できなかった。確かに,一緒に帰りたいとは思っていた。

(けど,まさか玲紬さんも同じことを考えていたとは思わないじゃん!)

「で,どうする?帰るの?帰らないの?」

 悪戯っ子のような顔でこちらを見る玲紬さんに,不覚にもドキッとしてしまう。

「え,あっ,帰る!一緒に帰る!」

「じゃあ決まり。早く荷物取って一緒に帰ろっか」

「う,うん。分かった。荷物取ってくるね」

 私は佳奈ちゃんからの誘いを断る為にも,急いで佳奈ちゃんのもとに向かった。

「佳奈ちゃんごめん。今日一緒に帰る約束してた人いたの忘れてた。また今度誘って」

「あっ,もしかしてさっき純麗ちゃんのこと呼んでた人?」

「うん,そうだよ」

「先に約束してたならしょうがない!別に気にしないで!私とはいつでも遊べるんだし!」

「ありがとう,佳奈ちゃん」

「ほら早く行ってあげなよ!約束してる人待たせちゃ悪いでしょ!」

「うん,そうだね。じゃあ,また明日」

「また明日!」

 私はスクールバッグを手に取り,急いで玲紬さんのもとへ駆け寄った。

「玲紬さん,待たせてごめんね」

「全然大丈夫。別に気にしてないよ。じゃあ,行こっか」