【完結】王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~

 私は抗議の意味を含めてレオのほうを見るが、彼はにやりと笑うだけ。

「レオ様、私は婚約はまだ……」
「いいだろ? どうせ遅かれ早かれそうなるからな」

 どうやら彼の中私の負けは確定しているらしい。
 そう思ったら耳元で彼に囁かれる。

「国王にはまだ正式な婚約ではないことは伝えてある。安心しろ」
「でも、皆さんが……」
「これだけ俺が言えばある程度の王宮の人間がお前に危害など加えることはないだろう。王族に不満を持つ者も大っぴらには動かないだろうしな」
「レオ様……」

 そこまで考えていて言ってくれたの?
 まあ、かなり強引なんだけども……。

 じっと彼の顔を見つめてしまっていたために、がしっと顔を掴まれて顔を近づけられる。

「もしかしてもう惚れた?」
「──っ! 惚れてません!!」

 私はそのまま彼の手を払いのけて廊下をぷんすかしながら歩く。



◇◆◇



 レオの言葉が効いたのか、王宮では陰口もほとんど言われなくなったし過ごしやすくなった。
 それよりもなんだか王宮の外が騒がしいような気がして、私はそっちのほうが気になっていた。

「ディアナ?」
「なんでしょうか、ユリエ様」

 相変わらず可愛らしいお人形さんのような幼い見た目の彼女は、私にメイド服の裾をもってちょこんと挨拶をする。

「外がなんだか騒がしい気がするんですが、今日は何かの日ですか?」
「今日は『魔法祭』でございます」
「まほうまつり?」
「はい、この国の魔法に関する歴史を忘れないようにするための一年に一度のお祭りです」

 なにそれ、もしかしたらお祭りだからヒントはないかもだけど、何かあるかも?

「ありがとうございます」

 私はその足でこっそりと街へ出てみることにした。
 王宮の外への許可はもらってないから、カーテンを使って窓から降りてそこから変装して門を通って出た。


 王宮をうまく出て街に差し掛かったところで、何人かの男たちに囲まれた。

「その髪と目の色……まさか伝承の聖女様じゃないか?」
「ああ、『裏切者』の聖女様だ!」

 まさか、街の外でも聖女は歓迎されないの?!

 私はひとまず彼らから逃げようとするが、男の一人に腕をねじるように強く掴まれる。

「いたっ!」

 すると、騒ぎを聞きつけた人々がやってきて私に石やゴミを投げつける。

「聖女なんかいなくなれ!」
「お前のせいで魔法はなくなったんだ!」

 まずい……。
 これだけの人数から逃げられる方法は何かない?!

 まわりを見渡しても人、人、人。
 道の真ん中だから何もないし、元来た道も隠れる場所なんてないし……。

「──っ!」

 目のあたりにあたった石で傷ついたのか、目尻と頬に血が流れる。
 どうしよう、走って逃げるしか……。


「やめろ」


 考えを巡らせる私の耳に低い声が届くと、急に優しく抱き寄せられた。
 私はその感触に覚えがあった──

「レオ……様……」




******************************



【ちょっと一言コーナー】
聖女の扱いがこれほど違うとは、厳しい……。
未来の妃と言われてしまったユリエちゃん。
心の中ではそろそろユリウスに会いたいななんて思ってる頃。


【次回予告】
聖女というだけで王宮でも街でも虐げられる聖女。
そんなピンチを救ったのはレオだった。
そしてレオと魔法祭をまわることになって……。
次回、『コーデリア国魔法祭』。



「レオ……様……」

 私を守るように抱き寄せると、民衆に鋭い視線を向ける。
 皆、第一王子が現れたことによりひれ伏し、その顔を真っ青にした。

「皆、お前たちを責めるつもりはない。だが、この人は私の大切な人だから傷つけるのはよしてくれないか?」

 その言葉に民衆がさらにばつが悪そうに俯く。

「レオ様、あなた様の大切な方とは……知らなかったとはいえ大変申し訳ございませんでした!」
「いい、皆の『聖女』への思いも理解しているつもりだ。かく言う私も最初は聖女を非難しており、また疎ましく思っていたからな」
「恐れ多いことにございます。レオ様、この方は聖女様でいらっしゃいますか?」
「ああ、クリシュト国が召喚した聖女だ。わけあってこちらに来ている」

 民衆のリーダーのような人が私のほうにさっと身体を向けると、皆付き従うように同じように向けて言う。

「聖女様、この度は誠に申し訳ございませんでした。どんな罰でもお受けいたします」
「そんなっ! 私の存在が皆さんにとって不愉快であったのならば、私が謝るべきです。申し訳ございませんでした」

 私の謝罪をこれまた恭しく礼をしながら受け取ると、民衆の皆さんはそっと去っていく。

 その場に私とレオの二人になった瞬間、彼は急に怒鳴り出した。

「バカかっ! あれほど外には出るなと言っただろう!」
「申し訳ございませんでした……」

 私は目をぎゅっとつぶりながら頭を思いっきり下げる。
 ああ、これはもう怒られるだけじゃすまないな……拷問? いや、地下牢への幽閉?

「何してる」
「え?」
「行くぞ」
「怒っているのでは……?」
「怒ってほしいのか?」
「い、いえ!」

 街の方へと歩き出すレオに急いでついていくように小走りで駆け寄る。

「ふん、俺はお前を俺の女だと見せびらかせて満足だ」
「へ?」
「来い、一緒に祭を回ってやる。どうせここに来たかったんだろう?」

 一生懸命追いつくことに必死だった私は街に到着していたことに今まで気づかなかった。
 レオのほうへ顔を向けると、その後ろには風船や飾りつけで彩られた門があり、その向こうには皆が楽しそうに屋台のような店を巡って楽しんでいる。
 大人、子供、おじいちゃん、おばあちゃん。
 まさに老若男女問わず祭を楽しんでいるよう……。

「す、すごい……」
「うちで一番でかい祭だからな。今日は祝日で皆はしゃぐ」
「これが……コーデリア国魔法祭……」

 ぼうっと呆けている私の手を取り、レオは屋台があるほうへと向かう。

「──っ! 手っ!!」
「ん? いいだろ? 婚約者なんだし」
「だ・か・ら! まだだって!!」
「お、まだってことはこれからなる気満々だな。よし、今から教会行って式挙げるか」
「ちがーう!!」

 ふん、とレオは笑うとそのまま私の手を取って歩いていく。
 なんか、強引なのにこの手は優しい。
 これが世にいう『ギャップ』ってやつ?

 そんな風に考えていると、屋台のほうから声を掛けられる。

「さあ、お嬢ちゃん……──っ! 聖女……? レ、レオ様っ!」
「ああ、気にしないでくれ。デートしてるんだ」
「そ、それは失礼しました」
「このいちごバナナクレープをもらえるか?」
「レオ様……良いのですか?」

 屋台のおばちゃんは目をパチクリさせながら困惑している。
 そりゃそうだろうね、王子が自分の作ったもの食べるなんて、ほら、作るおばちゃんの手が震えてる……。

「毒見しましょうか?」

 こっそりとレオの耳元で私は呟くが、その言葉を鼻で笑う。

「うちの国の人間がなんか入れるわけねーだろ。大丈夫だよ」
「でも」
「一応近くから護衛が見てる」
「──っ!」

 気づかなかった……。
 周りをそーっと見渡すけど、全然どこにいるかわからない。
 ほんとにいるの?

「お、お待たせいたしました。いちごバナナクレープでございます」
「ああ、これ」
「──っ! ありがとうございます!」

 お金を渡したレオはクレープを受け取ると、食べ始める、と思いきや私の方に差し出してきた。

「え?」
「ほら、食え」
「え、でも……」
「お前いちご好きなんだろ?」
「あ……」

 確かにディアナにだけは少し話した気がするけど、なんでそれを……。
 盗聴……?

「ちなみに盗聴はしてない。ディアナから聞いた」
「なんで考えてることわかったの?!」
「やっぱり考えてたのか」
「あ」

 しまったーーー! 墓穴を掘ってしまった……。
 クリームが溶けそうだったので、急いで口にクレープを運ぶと、甘い味が口に広がる。
 これ……現代のクレープとそっくりだ……。
 現代の……。

「来い」
「──っ!」

 私は強引に手を引かれると、屋台が立ち並ぶところから離れた小さな公園っぽい場所に連れていかれる。

「どうしたの?」

 その言葉に何も言わずに、レオは私の目元を拭った。

「──っ!」
「そんなに辛かったか? 聖女として非難されたのが」

 それを言われて初めて自分が涙を流していたことに気づいた。

「違うの! その、クレープって私の国にもあって、そっくりだったから思い出して、その……」
「恋しくなったか?」
「はい……」

 レオはすぐそばにあったベンチに座ると、横に座るように促してくる。
 私も同じように腰かけると、レオは向こうのほうを見ながら話し始める。

「元々世界には魔法があふれていた」
「え?」
「今でこそ魔術師とごく一部の人間になったが、普通に皆魔法が使えてたそうだ。だがやがて魔法は廃れて、魔法を使う者も減っていった。やがて生き残った魔法使いたちが自分たちの国を作った。それがコーデリア国だ」
「魔法使いの生き残り……」
「もうこの国でも魔法が使えるのはごく一部の魔術師のみだ。皆は魔法の恩恵を忘れないよう、そしてこの国のはじまりを忘れないようにとできた祭が『コーデリア国魔法祭』だ」

 ディアナも確かそんなこと言ってたな。
 魔法ってこの国で大事なことなんだ。
 じゃあ、聖女は?
 聖女も特別な存在? でも私はなんにも魔法も使えない。
 クリシュト国で聖女様って呼ばれたけど、いまだに私は自分の力がわからない。
 私はホントに聖女で特別な存在なの?

 考え込む私の頭にポンと手が置かれる。

「レオ様?」
「昔、王宮を抜け出して一緒に祭に行った子がいた。そして……」

 レオは言わなくていいことをいったように口元をぎゅっと結びながら立ち上がる。

「いや、とにかく、お前は特別だよ。力が今はなんなのかわからなくても」
「レオ様……」

 クレープを急いで食べるように私に促すと、また手を取って屋台の方に連れて行ってくれる。
 ああ、なんかこの人は口は悪いけど優しい人なんだな。
 感覚的だけどそんな感じがする。
 ほら、こうやって屋台にある自分の国の名産とか珍しいものとかいろいろ説明してくれる。