「ユリエ、私は今から王とこの事について話してきます。部屋までお送りしますので、また後日お話しましょう」
「私は大丈夫です。急いで王のところへ」
「……ありがとう。ではそうさせてもらいます」
そう言ってユリウス様は部屋から出て行かれた。
王妃様のことも仕組まれたことだった……。
まだこの裏には何かあるのかもしれない。
数日後、私はユリウス様伝いで王に呼び出されて謁見の間にいた。
「ユリウスから聞いていると思うが、我が国の王宮魔術師、今回の事件の首謀者だった一人は隣国のスパイであり、すでに出国したと見られる」
「父上、アルベルトの報告によりますと、現在コーデリア国は頻繁に他国への侵略をしており、領土を急速に広めております。また、王宮内の動きもかなり騒がしく、何か仕掛けてくる可能性があるかもしれません」
「ああ、私の妹が嫁いだことで最近は友好的になっていたが、何かあったのかもしれんな」
「アルベルトの部下が今王宮内に潜伏してより詳しく調べているところですので、わかり次第すぐに報告いたします」
「ああ、頼んだ」
隣国の脅威がこの国に迫っている。
私が聖女召喚されたことももしかして隣国が関係しているのかしら?
そう深く考え込んでいたところ、王が突然私とユリウス様の名を呼んだ。
「ユリウス、それにユリエ」
「「はいっ!」」
「お前たち、婚約しないか?」
「「…………え?」」
私だけじゃなくユリウス様も虚を突かれたようにちょっとへんぴな声が出る。
「父上、あの……確かに私には長らく婚約者がいませんでしたが、なぜ今……?」
「理由の一つはコーデリア国へのけん制。エリクがいなくなって王子がユリウスのみとなったこの状況で次期国王に婚約者がいないのはまずい」
「それはそうですが……」
「それに二人ともお互いのことがまんざらでもないそうじゃないか」
「──え?!」
王はニヤニヤと笑いながら、頬杖をついて私たちを眺める。
確かに、私ここまで皆さんによくされているのに何もできてないし、もし役に立てるのならいいのかもしれない。
「ですが、ユリエはいつか帰らなければならないお方です。その方を我が国の事情で縛ってしまうのは……」
「ユリウス様がよろしいのであれば、私は構いません」
「ユリエ?!」
「私もこの国のお役に立ちたいです。正直なところ、私は今現代に帰りたい気持ちとこの国に残りたい気持ちの両方あります。この国が私を必要としてくださるのであれば、いくらでもこの身、使ってくださいっ!」
この国に残りたいのは本当で、ユリウス様への想いを自覚したことで益々迷っている自分がいて、もしかしたらそんなフラフラで曖昧な気持ちでいるのは迷惑かもしれない。
でも、今できることがあるのならば、役に立ちたい。
だから……!
「私はユリウス様との婚約をお願いしたく存じます」
こうして私とユリウス様は結婚日未定の婚約者となった──
【ちょっと一言コーナー】
二人がお互いのことをまんざらでもないと報告したのは、じいじです(笑)
王もなんとな~く気づいていたようですが・・・
【次回予告】
ついに婚約することになったユリエとユリウス。
以前の約束通り、王宮から自由に出てお忍びデートをすることに!
次回、『お忍びデートは甘く切なく』
「ユリエ、デートをしませんか?」
「へ……?」
思わず私はユリウス様の綺麗なお顔を見つめながら情けない声を出してしまった。
それは、婚約したからそういう仲でまわりは見るのだけれど、でも、その……いきなりというかなんというか……。
と言いながら私は顔を真っ赤にしてもじもじとする。
すると、私の手を取ると、眩い笑顔で玄関の方へと私を連れて行く。
「あなたを自由にするとサクラの下で約束をしました。だから王宮の外に出て遊びましょう」
「いいのですか?」
「もちろん、この格好では目立つので少し着替えていただきますが……」
こうしてユリウス様と私はお忍びデートをすることになった。
◇◆◇
馬車が市場の近くに到着すると、私の目の前には見たこともない活気のある街の景色が広がっていた。
「わあ~すごい」
「ここは普段は民衆たちの憩いの場になっていますが、休日にはマーケットと呼ばれる市場が開かれます。そこでは──」
ユリウス様が説明をしてくださっていた気がするけど、私はもう街の凄さと久々の解放感に圧倒されていた。
絵本や漫画で見た世界のような素敵な街並みで、石畳の地面に建物はレンガをメインに作られている。
それにみんな可愛い民族衣装のような服を着ている。
「ママ~待って~」
はあ~! 子供たちの服もフリフリで可愛い~!!
なんて素敵な街! そして国なの?!
「気に入ってくれたようですね」
「はいっ!」
「あそこのテラスで紅茶でもいかがですか?」
「ぜひっ!」
そう言って二人で店主の人に紅茶をお願いする。
すると、店主がユリウス様にこそっと耳打ちした。
「久々じゃないか、坊ちゃん」
「その呼び方はやめてください」
「今日も抜け出してきたのか?」
「はい、今日は彼女を連れて」
「ほお? ついに婚約者でもできたか?!」
「え、その──」
ユリウス様は少し顔を赤らめると、からかわないでくださいと言い残して私をテラスへと案内する。
「ここはやはり落ち着きます」
「はい、海も見えてとても綺麗ですね」
紅茶を一口飲むと、心地よい風に乗って紅茶の香りもふわりと漂う。
「昔から母上と王宮を抜け出してはここで紅茶を飲んでいたんです」
「あ、だからさっき坊ちゃんって」
「その呼び方はやめてください。僕はその、もう坊ちゃんではなく一人の男だ」
「あっ! なんかその雰囲気いいですね」
「え?」
「なんというか、いつも敬語だったのでなんとなく距離があったんです」
「けいご?」
「あー、えっと。丁寧でその気を遣われているといいますか……」
「ふふ」
ユリウス様はいつもよりなんだか砕けた表情で私を見つめて言う。
「わかった。君はもう婚約者だからね。どうだい? 僕をもっと意識してくれるかい?」
「──っ!」
急に大人の男といった感じの雰囲気や色気が漂って、私の頬が熱くなるのを感じる。
「効果あったみたいだね」
「破壊力抜群です……」
「あはは」
そうしてお皿に乗ったドーナツのような丸い穴が開いたケーキを食べる。
「これ、うちの母もよく作ってくれたんですけど、なんていう名前ですか?」
「これかい? バーボフカだよ」
「ばーぼふか?」
「この国でよく作られているお菓子なんだ」
「美味しいですね! うちの母のはもう少し甘さ控えめでした」
「そうか、私も母上も甘さ控えめのが好きでね、よくメイド長に作ってもらっていたんだ」
「へえ~今度作ってみたいな~」
「僕にもくれるかい?」
眩しい笑顔で懇願されると、断れるわけない……。
もちろん、ユリウス様にも食べていただきたいな。うまくできたらだけど。
ユリウス様はテーブルに頬杖をついて私にぐっと近寄った。
「僕はね、君と婚約できて本当に嬉しいよ。夢みたいだ」
「はいっ! 私もです」
「でも、君が元の世界やお母上を思う気持ちもわかる」
「……」
「だから、僕としては君を返したくないけれど、元の世界に戻れる方法を僕の一生をかけて探すよ」
正直、この淡い恋心とお母さんに会ってぎゅってしたい気持ちと両方が混ざってる。
好きに行き来できるようになったらいいのにな、なんて今は思ってる。甘い考えだろうけど。
でも、確かに今私は目の前にいるこのサファイアブルーの瞳が輝く彼に心惹かれていて、傍にいたいと思うのも事実。だから……。
「ありがとうございます。私もあなたの傍になるべくいたいんです」
【ちょっと一言コーナー】
名前から気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、このお話はチェコの名称などをお借りすることが多いです。
お菓子とかもそこから・・・
【次回予告】
さて、切りよく12話というアニメの1クールのような話数になりました。
これで『王宮内乱編』は終わりになります。
次回からは『隣国陰謀編』に突入します!
早めに書ければ更新しますが、少し書き溜めてから再開する予定です。
なので、もし王宮内乱編の感想などあればいただけますと嬉しいです!
他作業もありますので、少しお休みいただく可能性もあります。
少し隣国陰謀編のお話をすると、新たな重要人物(イケメン設定ですよ)が登場します!!
ぜひお楽しみに<m(__)m>
私がユリウス様と婚約した半月後、ユリウス様は正式に王太子となり次期国王となることが決まった。
このことは隣国を含めて各国に知れ渡ることとなり、クリシュト国は「これからも安泰だ」という評判がついた。
一方、私の聖女召喚を含めた元王妃であるアンジェラ様の所業が隣国のスパイの手引きがあったことを知り、王宮内には緊張が走っていた。
そのことについて私を含めた、ユリウス様、国王、そしてユリウス様の側近でいらっしゃるアルベルト様が謁見の間で話しあっていた。
すると、ユリウス様は私のほうを見て一瞬微笑むと、アルベルト様を私に紹介する。
「ユリエ、会うのははじめてだったね。この者はアルベルトという。私の側近で密偵なども兼ねている」
「アルベルトでございます。よろしくお願いいたします」
「アルベルト様、はじめまして。ユリエと申します」
深い青色の髪色にサファイアのような美しい瞳、そして長いまつ毛に私は息を飲んだ。
ユリウス様も王子様らしく見目麗しいけど、彼もまた違った品格の良さがあって、そして何よりユリウス様への敬意を感じられる。