(やはりここはいつも話しているメイドのリアか)
メイドに最初の探りを入れることを決めた私は、そっとベッドの中で目を閉じて眠った──
【ちょっと一言コーナー】
今日のディナーのスープはコーンスープだったそうですよ。
お肉はもちろんビーフ!
【次回予告】
私の記憶がよみがえったユリエ。
誰が敵でだれが味方かわからない彼女はメイドから少しずつ切り崩していくことに。
そして新たな事実も判明して……!
次回、『第3話 調査』
翌朝、朝の支度のために世話役メイドであるリアが部屋に入って来る。
リアは椅子に座る私の髪を梳きながらいつものように「リーディア様の御髪はきれいですね~」と呟く。
私が昨日から「ただのわたくし」ではなくなったことに彼女は気づいていない。
私は早速探りをいれるために、リアに声をかける。
「王妃様ってどんな方なのかしら?」
「え?」
「いえ、いつも何をされていらっしゃるのかなと」
「え、えっと。その……」
(口ごもった)
私はその瞬間を見逃さず、そのまま話を続ける。
「王妃様もおしとやかな方だから、きっとお花を愛でたり昔みたいにお茶を楽しんでいらっしゃるのよね」
「え、ええ! そうですわね、そうとお聞きしております」
リアは確か王妃様のもとへも通っていたはずなのに、この落ち着きのなさ、慌て具合、そして「そうとお聞きしています」という他人事のような言葉。
(そうか、リアもグルなのか)
私は少しがっかりしたように一瞬唇を噛みしめるが、すぐにいつもの笑顔で「ありがとう」とリアに伝えて部屋を後にした。
◇◆◇
あれから周りに気を巡らせて観察していると、私は「なぜか」行ったことがない場所がいくつか存在していることに気づき、その一つである王宮書庫室へと向かった。
「おや、あなた様がいらっしゃるのは珍しい」
「少し調べたいものがありまして」
「元王妃様の代から仕えているこのような私のところにいらっしゃるなど王妃様に叱られますよ」
(元王妃様……? ──っ! なるほど、今の王妃様はいわゆる後妻か。つまり、このような口ぶりをすると、王妃様にあまりいい感情を持っていない。それにもう一つわかった。この王宮には派閥がある。王妃様側と元王妃様側の人間)
私はしばらく考え込んでしまったようで、目の前にいる書庫室の管理人のような人物に心配された。
「大丈夫ですか? 具合でもよろしくないのでしょうか?」
「いえ、少しめまいがしただけです」
「それは大変だ、こちらにお座りくださいっ!」
そう言って管理人は私に椅子に座るよう促す。
少し落ち着いたふりをして目の前にいる管理人にいくつか質問をしてみることにした。
「あなた様はこちらの書庫室に来て長いのですか?」
「元王妃様の代からですから二十年ほどになりますでしょうか。書庫室長を任されたのは元王妃様が亡くなる一年ほど前です」
(元王妃様はすでに亡くなっている……。すると、もしやユリウス様は元王妃様の息子か? そしてエリク様が現王妃様の息子。だから二人はユリウス様を冷遇している?)
「いろいろ教えてくださりありがとうございます。いくつか本を見させていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんです。ごゆっくりご覧ください」
(王妃様とエリク様は今日外出の予定。風邪でしばらく部屋には入らないでほしいとリアには言ってあるから少し時間は稼げるはず)
私は急ぎ足で王宮の歴史をまとめた本やこの国についての書物を片っ端から探し、ざっと目を通すことにした。
──書庫室の本を漁り、いくつかわかったことがいくつかあった。
もともとこの国は聖女の力で繁栄した国であり、初代国王の妃がその聖女だった。
そして聖女はこの国の生まれや育ちではなく、どこか異世界の人間であり召喚によってその聖女はやってきたのだという。
つまり、この国では「聖女」は特別な存在でありその聖女は転移によって来ている可能性が高い。
そしてもう一つ、記録書によれば現王妃はただの後妻ではなく、もともとは王の第二夫人の立場であった。
亡くなってる元王妃は今から19年前にユリウス様を出産した後すぐに亡くなっている。
「要するに正当な後継ぎが誰であるか、王位継承権の順位をエリク様、ユリウス様で争っている可能性が高い」
書庫室の分厚い本を抱えるのがしんどくなった私はそっと元あった場所に戻して階段を降りる。
すると、窓から見える裏庭のほうで若い男性とユリウス様が剣の稽古をしているのが見えた。
ユリウス様のその動きは素人目で見てもすごいことがわかる。
そういえば、エリク様は「王子に剣は必要ない」って前に言ってたな。
あまりにも対照的すぎて、思わずユリウス様のほうが次期国王に向いている、慕われるのかな?なんてふと思ってしまった。
そしてこの数日後、事態は大きく動いていくことになる──
【ちょっと一言コーナー】
リーディアことゆりえちゃんの髪は腰まであるストレートヘア。
パーマをかけようとしてもすぐに戻っちゃうくらいサラサラなんだそう。
羨ましい・・・
【次回予告】
王宮書庫室での新たな出会いはユリエにとって大きな成果となった。
そして、新たな人物も登場して。
その人は敵なのか、味方なのか、果たして?
次回、『第4話 一杯の紅茶とメッセージ』
ある日の午後、私はいつものように自室でアフタヌーンティーをして一息ついていた。
手慣れた手つきでリアが給仕をしていると、執事の身なりをした見慣れないご年配の方がそっと部屋に入ってきた。
「執事長っ!」
リアが驚いた声をあげてその執事の元へと向かう。
「本日はわたくしが王妃様の命で紅茶の準備をしにまいりました」
「……王妃様のご命令ですか」
そんなことは聞いていないといった様子でリアは顔をしかめながら執事長とやり取りをする。
「はい、聖女様に極上の一杯を召し上がってほしいと」
「わかりました、お願いします」
リアはしぶしぶ納得した様子で道を開けると、執事長という方が私のもとへと歩み寄ってくる。
(執事長? 初めて見る顔。それに聖女様? なんのことだ?)
そう考えているうちに執事長はメイドに背を向けながらソーサーの下に何か手紙を挟んできた。
(──? 手紙? 『あなたは第一王子を愛していますか? YESならため息をひとつ。NOならあくびをひとつ』? 第一王子……? まさか……)
この違和感には覚えがあった。
現王妃様側の人間は皆おそらく第一王子を「王太子」と呼んでいた。
つまり、エリク様を第一王子と呼んだということは元王妃様側の人間……。
私はそっと手を当てて一つあくびをした。
すると、さらに執事長は今度手紙を自分の身体の前で広げてそっと私に見せた。
(『王宮書庫室で明日お待ちしております』)
私はため息を一つ吐いてYESの合図をすると、満足そうに笑みを浮かべて執事長は去っていった。
明日は王妃様と第一王子が外出する日だった──
◇◆◇
翌日、私は何度かおこなっているようにリアの目を搔い潜って王宮書庫室に行くと、そこには書庫室長と昨日部屋に来た執事長、そしてユリウス様が立っていた。
「お待ちしておりました」
私はそこにいる者たちの瞳の奥に何か自分のまわりにいた者たちと違う雰囲気を感じた。
「リーディア、あなたはもしや何かの術にかけられていましたか?」
「──っ!」
「ここにいる者たちは皆私の近しい者。王妃に告げ口するような人間ではありません」
ユリウス様は、私を安心させるようにそう言った。
(本当に彼を信じていいの?)
不安そうな顔を自然と浮かべてしまったのか、ユリウス様は胸の前に手を当てて丁寧に頭を下げながら名乗った。
「改めて、私はこの国の第二王子ユリウス・リ・スタリーです。あなたがこの書庫室で調べていた内容の通り、今は亡き元王妃の息子です」
やはり、彼は元王妃の息子で間違いない。
いや、でもそれだけで信じるわけにもいかない。
どうする?
そんな私の考えを見抜いてか、ユリウス様は胸の内を語り始める。
「私はあなたを助けたい。まずは話を聞いてから信頼に足る情報か聞いてほしい」
そう言うと、ユリウス様は王妃や元王妃、そして自分自身の立場を語り出した。
──30年前、元王妃は王の元に嫁いで来たが、一向に子宝に恵まれずに苦肉の策で王は第二王妃を娶った。
その第二王妃が現王妃だった。
現王妃はすぐに子宝に恵まれ、エリク様を出産した。
やがて、エリク様に第一王位継承権が与えられる直前に元王妃は子宝を授かって王子を生んだ。
それが第二王子のユリウス様だった。
しかし、元王妃はそのまま病で亡くなり、王は憔悴して同じく床に臥せてしまった。