「何よ、そんなに部屋をじろじろ見て」
「いや、ううん。なんでもない」

 あまりの懐かしさと嬉しさで台所、リビング、テレビ、タンス……様々なものを見てしまう。
 向こうとはまるで違ったその全てに、なんだか不思議な気分。
 こっちが今まで私が馴染んでいた世界だっていうのに、なんだかそうじゃない気がして。

 テレビの前にあるローテーブルの横に置かれた座布団に腰かけると、落ち着いてため息が漏れる。

「何よ、そんなおっさんみたいな声だして」
「ごめん、ごめん! なんだか懐かしくて」
「今朝までいたじゃないのよ」
「そうだよね……そうなんだよね」

 私は面白おかしくなって大きな声で笑ってしまう。
 ああ、いつものお母さんだ……。

 お茶を入れて私の目の前に置くと、その足でせわしなく台所に戻る。
 目の前のそれに視線を移すと、氷が3つ入ってあった。
 私が冷たいものが好きでいつも入れてくれる、そんなお母さんの優しさを感じてちょっと微笑む。

 ありがたくそのお茶を飲むと、先程まで飲んでいた紅茶とは違うなんというか庶民的で慣れた味。