我ながらなんとなく直球すぎたな、と反省したが、彼の反応を見る限り当たっていたらしい。
ユリウス様は窓の外を少し見ながら私から視線を逸らすと、目を何度かパチパチしてがばっと私の両手を取り上げた。
「え……」
「私と、街に出かけないか?」
顔を少し赤らめながら、ユリウス様は私にそう告げる。
もしかして、これは、デートのお誘いというやつでは……?
私は久々にユリウス様と過ごせることにとても嬉しくなって満面の笑みで返事をした。
「いらっしゃい、坊ちゃん」
「だから、坊ちゃんは……」
「ふふ、可愛い」
「ユリエ!」
もう顔なじみになってしまったカフェの店主と目を合わせて笑いあう。
いつまでも「坊ちゃん」と呼ばれることに、ユリウス様だけものすごく居心地が悪そうにしていた。
先日も飲んだ紅茶を飲みながら、テラスでゆっくりと過ごす。
「また君を連れて来られてよかった」
「はい、私もユリウス様と一緒にまた来ることができて嬉しいです」
ちょうど昼食時だったため、サンドウィッチを頼んだ私はそれをほおばる。
新鮮な野菜がたくさん入っていて、心地よい食感に口が包まれた。
近くの壁にあった看板には、日替わりのおすすめメニューが書かれており、このサンドウィッチも今日のおすすめ。
野菜もどうやら近くの農場でとれたものらしい。
「美味しい?」
「はい! ユリウス様も食べますか?」
そういって私は持っていたサンドウィッチを彼の口元に持っていく。
いわゆるあ~んの状態になっていることに気づいた。
少しずつ羞恥心が心を占拠してきたため、慌てて私はその手を引っ込めようとしたが、それは叶わない。
ユリウス様が私の手を掴んで、サンドウィッチを食べたからだ。
「ここのはやっぱり美味しいな」
「その、あの、ごめんなさい。急にはしたいない真似をして」
「そんなことないよ。私は嬉しかった。はしたなくもない」
そんな風に言われるとまたしたくなってしまう。
でも、その場合恥ずかしさとも闘わないといけないから、もう少し修行が必要かもしれない……。
カフェの後で仕立て屋に寄って、頼んでいた新しいドレスを受け取って王宮に戻る。
すると、急いだ様子で私とユリウス様のもとにアルベルト様が駆け寄って来た。
「どうした、アルベルト」
「レオ様から伝言を頂戴しました」
アルベルト様はしばらくコーデリア国とのつなぎ役としていたけど、何かあったらしい。
少し小声で、それでも早口で私とユリウス様を交互に見る。
「レオ殿下が?」
「はい、ユリエ様が元の世界に戻れるかもしれない方法が見つかったと」
「「──っ!!」」
私が元の世界に戻れる……?
思わず横にいたユリウス様と目を合わせた──
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【ちょっと一言コーナー】
第三部『故郷帰還編』がスタートしました!
少し短めですが、お付き合いいただければと思います!
【次回予告】
レオより元の世界に戻れるかもしれないと連絡を受けた二人。
急いでコーデリア国に向かうが……。
次回、『揺れる心と、決意(1)』。
アルベルト経由でレオからの伝言を聞いた私たちは、国王より遠征許可をもらってコーデリア国へと向かった。
私は向かう馬車の中でもそわそわして落ち着かなかった。
でも、それがどうやらユリウス様にも伝わっていたようで、「大丈夫だよ」と声をかけられる。
彼の声は優しくて、私を安心させてくれるような、そんな気がした。
コーデリア国の王宮に着くと、盛大な出迎えをもらった。
以前さらわれてきたときとは待遇が違って、正式な国賓──正しくは第一王子の友人としての招きとして、歓迎を受ける。
国賓をもてなすであろう少し広めの部屋に通され、私達は席に着く。
「よく来てくれた」
「こちらこそ、お招きいただき感謝いたします」
「ディナーでもないし、大したもてなしもできなかったが、気に入ってくれただろうか」
「すごくおいしかったです!」
ここの着いたときにまずは、といった様子で食事を出された。
少し早めの晩餐会といった感じでフルコースが提供されたのだが、クリシュト国とはまた違う海鮮をふんだんに使った食事。
スープは季節柄か冷製スープで、甘味のある野菜のスープという感じで私は気に入った。
メインのお肉料理は、もうそれは舌がとろけるような脂身の強いお肉のステーキで、たまらなく美味しい!
ちょっと酸味の効いたソースがまたお肉と合っていた。
……なんて食事の思い出に浸っていた時に、ユリウス様が口を開く。
「レオ殿下、ユリエを元の世界に戻せるかもしれないというのは本当でしょうか?」
レオは一つ頷くと、テーブルにあった分厚い本をこちらに見せる。
またしても私には読めない文字で書かれているのだけど、なんとなく地下室の書庫にあった古い文献の文字とよく似ている。
「ユリエ、お前が聖女について探していた地下の書庫室にあった本だ」
どうやら私の予想は当たったらしく、私も調べていた書庫室の本の一つらしい。
レオは挟んでいた栞の部分を広げて、本の記述の一部分を指さす。
「これは元々王宮書記の記録で約100年前のものだが、ここを見てほしい」
私達は身を乗り出してその部分を見てみる。
「100年前の聖女の話ですか?」
「ああ」
どうやらユリウス様はその文字が読めるらしく、内容が把握できたみたい。
私は何が書かれているのかわからず、二人を交互に見ながら話に耳を傾ける。
「ここに、100年前の聖女が一度クリシュト国に行ったことと、元の世界に帰還したことが書かれている」
「クリシュト国にも聖女がいたことは確かに伝わっている」
「おそらくその人物がこの聖女だ」
「では、彼女は戻ったと……?」
「ああ、当時まだ魔術師が多くいたこの国で王宮に仕えていた魔術師が、召喚元に聖女を戻す薬を作ったそうだ」
聖女を召喚元、つまりは元の世界に戻す薬を作れたってことよね?
でも100年前の話だし、確か今はコーデリア国に魔術師はあんまりいないよね。
じゃあ、どうやって……。
私の疑問が顔に出ていたのか、私の心の中での質問にレオが答える。
「王宮に一人、その薬を作った子孫がいた。そいつに作ってもらったのが、これだ」
本の傍にあった頑丈そうな小さい箱を手繰り寄せる。
鍵の仕掛けをはずすと、中には小さな小瓶が入っていた。
「これが」
「ああ、元の世界に戻れる薬だ。100年前から伝わる作り方でおこなった」
触ってもいいかというように顔を見ると、レオは静かに頷いた。
瓶自体に色がついているのか、薬の色なのか、少し青碧っぽい。
ちょっとだけ瓶を傾けると、中に入った液体がさらっと動く。
「お前にやる。これは好きにしていい。これを応用してこちらに戻って来れる薬も作った。その中に入っているはずだ」
よく見ると、箱は二重構造になっており、下の方にもう一段何か入るスペースがあった。
それをはがしたら、同じような瓶が見えてくる。
「これがあれば、元の世界に戻れる……」
「ユリエ」
ユリウス様は私の名を呼ぶと、そっと手を握り締めてくれる。
「俺は席を外す。あとはお前たちが決めていい」
レオはそう言い残すと、次の仕事があるといって部屋をあとにした。
たぶん、仕事なんて嘘で、私達二人にしてくれようとしている。
それから、きっと私の中にある「迷い」もバレてる……。
「ユリエ、私は君の幸せを一番に考えたい。その薬で元の世界に戻ってもいい。それでも、君が楽しく、生きていてくれるならば」
その言葉は私の胸を打った。
彼は私がずっと元の世界に戻りたいと思っていたことを、傍で見ていた。
だからこそ私の背中を押してくれようとしている。
けど、私は、この世界であなたという好きな人に出会ってしまった。
この薬で元の世界に戻れたとして、こちらに帰って来れる保証もない。
「ユリウス様。母は……いえ」
私はお母さんの状態を言おうとしてやめた。
だって、この世界に来る数日前に母は倒れたばかりで、最近も少し病気がちになっていた。
一度病を患ってから、その病は治りはしたが、お母さんはよく体調を崩すように……。
そんな様子を伝えたら、絶対に元の世界に戻れと言われる。
今、私、最悪だ……。
家族と好きな人を天秤にかけて、迷って……。
私の小瓶を握る手は少し震えていた。
私はどうすればいい……?
そう小瓶に問いかけても教えてはくれなかった──
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【ちょっと一言コーナー】
ユリエちゃんは異世界で海鮮料理が好きになってきています。
元の世界ではあまり食べたことがない子でした。(お母さんが肉料理メインに出す人だったので)
【次回予告】
二つの小瓶をもらったユリエ。元の世界と異世界の迷う彼女にユリウスは……。
次回、『揺れる心と、決意(2)』。