「お姉ちゃん、気分はどう?」
男の子が言う。
「すすむ、ありがとう。毎日来てるけど大丈夫なの?」
女の子が返す。男の子はすすむと言うらしい。
「僕は大丈夫。ねぇ、この人にお菓子とジュースあげたい。」
「いいよ。好きなのだして。」
「あっ…?あ、お構いなく…」
咄嗟に返す。女の子は、ふふふと笑って
「大人みたいな返し。」
と言った。女の子は俺と歳が近そうなので、おそらく14歳くらい。確かにちょっと緊張しすぎた返事かもしれない。すすむくんはジュースとお菓子をだしてくる。お礼と言ってくれてるし、もらうことにした。ジュースを受け取りチラリと女の子を見ると目が合った。吸い込まれそうな黒目が俺を映す。
「ねぇ、お名前は?」
「俺はましろ。真っ白って書いて真白だよ。」
「外国人さん?」
女の子は聞いてくる。『真白』という名前だけだと日本人と思われるけど、女の子の言う通り、俺は外国人の血が入っている。
「そう。ハーフだけどね。」
「髪は私と同じ黒だけど、目が青色なのね。」
「そう。珍しい?」
見られるのには慣れているけど、相手は可愛い女の子。少し緊張した。女の子はまるで宝物を覗き込むように俺の目を見る。
「海みたいな青で素敵。私ね、海って名前なの。」
「二人とも反対みたい。」
すすむくんが言った。海ちゃんもきょとんとするので、何が反対なのかと聞くと
「真白くんは夏みたいで、お姉ちゃんは冬みたいだから。」
なるほど。俺は確かに肌が褐色で『真白』と言う名前が似合ってるとは言われたことがない。逆に海ちゃんは肌が真っ白で長い黒髪。夏というよりは冬をイメージする。
「私、海って名前だけど、本物を見たことがないの。でも、写真で見た海は真白くんの目みたいに綺麗な青だったから。」
海ちゃんは小さい頃から病院にいて、あまり外に出られないらしい。すすむくんは海ちゃんに毎日会いに来ているようだ。部屋に飾っている花は花屋さんで売ってるもの以外に摘んできたんだろうなって花があった。あれは多分、すすむくんが公園で花を摘んでたんだ。
「すすむがお友達を連れてくるの初めてなの。嬉しい。」
少し照れたようにいう海ちゃんが可愛いかった。すすむくんと病室を出てからも、ぽわぽわとする俺をすすむくんが少し嬉しそうに見ていた。
「お姉ちゃん、お姫様みたいでしょ。可愛くて優しくて。僕はクラスの子と遊ぶより、お姉ちゃんが笑ってるのを見たいから。…今日は来てくれてありがとう。」
すすむくんが言った。海ちゃんのことが大好きなんだ。
「俺も楽しかったよ。お菓子もありがとう。」
帰りにまた公園を通る。花が咲いている。
お城のような病室にいるお姫様のような海ちゃんに、すすむくんが摘んできた花を渡す姿が思い浮かんだ。