風車の羽根部分の調整はなかなか思うように行かず、夕方には撤去を繰り返していたので完成には8日間かかってしまいました。
今回はリンも僕がほとんど働いていないために「ウィンディが無茶をしてなければよし!」という判断になったそうです。
今度はもう一基同じ風車小屋を造り、その上に屋根を乗せて完成した木材の羽根をきっちりとした角度で乗せてみました。
そして、今度は新たな問題が……。
「羽根、動かないね……」
『申し訳ありません。羽根の重さが……』
「ですよね。どうしましょうか?」
『この大きさでもここまで回らないとなると、大きくしたときはもっと回りません。なにかいい案は……』
「うーん、シント。クリスタルって普通に作っちゃうと重いんだよね? 中身をくりぬくとかは?」
「海族館のトンネルや美術館の水を張った壁みたいなものですか。ちょっと作ってみましょう」
僕は試しに穴の開いた丸い棒を作ってみました。
強化魔法をかけておいたのでリンが全力で攻撃してもびくともしません。
「ウィンディ、これで羽根を作ってみませんか?」
『これは……よろしいのですか?』
「たいした手間ではないですよ。それじゃあ羽根を入れ替えてみます」
僕は取り付けてあった木製の羽根を消し去り、今度はクリスタルの羽根をつけてみました。
ただ、それでもうまく回ってくれません。
なぜでしょうか?
『先ほどよりは少ない風でも回るようになりました。回るようになりましたが……』
「やっぱりもう一押しほしいですよね」
「シント、もっと薄くすることはだめ?」
「これでも限界だと思えるくらいまでは削っているんです。さすがにこれ以上削ってしまうと、ウィンディの強風で折れてしまいます」
『耐久性テストもよろしいですか?』
「そうですね。今回はクリスタル。折れると危ないですから僕とリンは離れた場所から見ています」
「気をつけてください、ウィンディ様」
『はい。では、行きますよ!』
ウィンディの強風を受けて羽根が勢いよく回り始めました。
折れる気配もないですし、羽根は問題ないですね。
羽根は。
『……申し訳ありません。〝屋根部分〟が壊れました』
「クリスタルの強度が高すぎましたか……」
「屋根もクリスタルで作ろう?」
「それが一番早いですね」
『契約者にはたびたびお手間を……』
「この程度、アクエリアの時に比べれば手間ではないです。さて、屋根と羽根を取り付け直します」
今度は屋根と羽根の部分をクリスタルで作り直しました。
次はどうなるのでしょう?
『では、始めます』
「ええ、どうぞ」
ウィンディの強風を受け風車がくるくると回り続けます。
屋根もそれに耐えきってくれていますし、屋根と台座部分の接合もうまくいっているので屋根が吹き飛ばされるような心配もありません。
とりあえずこれで〝強風対策〟は完璧でしょう。
そうねると問題は……〝弱風対策〟なんですよね……。
『契約者。強風には耐えました。ただ……』
「わかっています。弱風で回らないんですよね?」
『はい。いまも微弱な風を送り続けているのですが、一向に回る気配がありません』
「多少、髪がなびいたり、梢が揺れたりする程度では回らないのは承知済みです。でも……」
「そこまで弱い風でもないよね……」
『はい。そこまで弱い風でもありません。ですが、羽根がびくともしないというのは……』
さて困りましたね。
どうすればよいのでしょうか?
こういうときに頼りになりそうなのは……物作り関係者の総元締め、土の五大精霊マインですね。
「ウィンディ、あなたはここで実験兼見張りをお願いいたします」
『わかりました。契約者と守護者はどちらに?』
「マインのところに行ってきます。彼ならなにかいいアイディアが出てくるかもしれません」
『マインですか。確かに彼は物作りを得意とする五大精霊。すっかりそのことを忘れていました』
「今回はいろいろと頼りになりそうな方がいて助かります」
「そうだね。前回はほんっとうに大変だったから」
『アクエリアにはほかの五大精霊総出で罰を言い渡してありますのでご心配なく』
「……それはそれで不安ですが、不安がってばかりもいられせん。行ってきますね」
『はい。間違っても風関係者がこの風車を回そうとして怪我を負わないように見張っておきます』
ウィンディと一度分かれてマインの鉱山へ。
そこでは相変わらず鉱山掘りと鍛冶、お酒造りが並行して行われていました。
ドワーフってよくわかりません。
『おう、契約者と守護者。鉱山までなんのようじゃ?』
「今日はマインの知恵を拝借したく」
『儂の知恵? 具体的には?』
「あのね、いまウィンディ様と一緒に風車小屋を造っているんだけど……風車がうまく回ってくれないの。マイン様ならなにかいいアイディアがないかと」
『風車小屋か……儂も作ったことはない。作ったことがないからこそ燃えてくる! 少し待っておれ! ドワーフたちに指示を出したらともに行くぞ!』
よかった、マインも一緒に来てくれるようです。
乗り気で上機嫌なマインを引き連れて風車小屋まで戻ると、やはり困り顔のウィンディがいました。
僕たちがいない間にもいろいろと試していたんでしょうね。
『ウィンディ、来てやったぞ』
『ありがとう、マイン。早速だけど力を貸してもらえる?』
『おう。だが儂も風車小屋の仕組みを知らん。説明してもらえるか? 口頭だけで十分じゃ』
『それでは説明するね』
ウィンディはマインに風車小屋の設計や仕組み、現状抱えている問題点などを次々と話していきました。
そして、マインから出た一言は。
『まず、小屋の部分か。そこから作り直すべきじゃな』
『そうなの? マイン?』
『天井をクリスタルにしたのじゃろう? そうなると内部にかなりの熱がたまっているはずじゃぞ』
『熱……そこまで考えていなかった』
『まあ、燃えやすいものもないから大した問題ではなかろうが、クリスタルも〝熱膨張〟は起こすはず。冷やすためと思い小屋にも開けっぱなしの窓をいくつか用意せよ』
「マイン、〝熱膨張〟とは?」
『ものが熱くなり膨らむことじゃ。誤差程度しか変わらぬもの多いが、話を聞く限り、風車の軸ではそれが致命的になるじゃろう? ならば不安の種は取り除け』
「わかりました窓はどの程度作ればいいのでしょう?」
『このサイズなら4つじゃな。同じ場所に作るのではなく段違い、方向違いに4つ配置してみよ』
僕は指示通り小型の窓を4つ作ってみました。
するとその中から熱風が……。
『どうじゃ、かなり熱くなっていたじゃろ?』
『はい。かなり熱くなっていました』
『これでは動くものも動かぬよ。ウィンディ、試して見よ』
『わかりました。あ、先ほどよりも回しやすい』
『やはり中空にした結果、熱膨張の影響も受けやすくなっていたか。次じゃな。見た限りじゃと羽根を屋根にそのまま取り付けているようじゃな』
「はい、その通りです」
『羽根は斜めになってもいい。このように作れ』
マインが土で作ってくれた模型は羽根と屋根の繋がっている部分が伸び、羽根の土台部分まで設置しているものでした。
それによって羽根も傾いてしまいますが……試してみましょうか。
「ウィンディ、この形通りに直してもいいですか?」
『もちろんです。物作りの専門はマイン。私が口を挟めない分野ですから』
「では形を変えます。でも、そうなると屋根の部分全体がクリスタルの方がいいのかな?」
『次の改良のためにもそうしろ。まずは屋根の土台と羽根の作り直しだ』
「わかりました……このような感じでしょうか?」
『儂には見えぬな。ウィンディ、抱きかかえて空まで運べ』
『お安いご用です。これなら見えますか?』
『ああ、見えた。そして設計も合っている。ウィンディ、儂を一度下ろしてくれ』
『はい。次はどうすれば?』
『とりあえず風を当ててみろ。そうすればわかりやすい』
『では失礼して……これは、回りやすい!』
『風車の形ばかりに気をとられていた結果じゃな。奥まで支点を伸ばすと回しやすくなるのじゃ。今回は作用点がないのだがな』
「〝支点〟に〝作用点〟ですか?」
『契約者と守護者はまだ覚えなくともよい。物作りでは大切な要素になるが、いまはまだそれを覚えなくとも大丈夫じゃ。そういう言葉だけあると覚えておけ。〝力点と支点、作用点〟がセットになっている程度の知識で十分じゃよ』
マインがそう言うということはいまはまだ覚えておかなくても大丈夫な知識……なのかもしれません。
僕もリンもまだまだ知識は足りていませんからね。
『さて、次の改良じゃ。契約者よ、いまは床の部分に棒が支えを持って突き立っているだけだろうが棒の先端を球状にはできぬか? もちろん、受け口も同じように玉を受け止められるような形状に。それからその先端と小屋か突き出している部分、ここをなめらかに回るようにしてもらいたい。イメージは送る。創造魔法でその通りにしてもらいたい。もちろん、長年使っても削れていかないようにな』
「削れないようにするのは簡単です。なめらかにするためのイメージも受け取りました。早速試してみます」
僕は棒の先端を球状に、それから、そこと屋根から出てくる支柱部分にも同じようになめらかにする仕組みを施しました。
そして、ウィンディに風を送ってもらうといままでよりも弱い風で風車が回り始めましたよ!
『……すごいですね。マインが加わっただけでこれだけ前進するとは』
『物作りは儂の出番だ。問題は……羽根の重さじゃな』
「やはりそこに行き着きますか」
『このサイズの風車を量産するならば問題ないじゃろう。だが、風の者たちのことだ、もっと大きなものを要求しているのではないか?』
『……はい。森の木々の倍はあるものがほしいと』
『それでは羽根が重すぎる。クリスタルで中空構造、それで耐久性と軽さを兼ね備えてはいるがもう一押しほしい。さすがに儂もこれ以上はお手上げだな。ヒト族の風車など見たことがない』
「そうですよね。僕たちだってありませんから」
「うん。でも、見たこともないのにこれだけ改善点があげられるのはすごいことですよ、マイン様」
『この手のものは基本が一緒だからな。さて、どうする? これ以上は本当に儂でもお手上げだぞ?』
『……わかりました。私がヒト族の風車を確認して参ります』
『その方がいいじゃろう。内部構造はともかく、羽根の参考にはなるはずじゃ』
『メイヤ様に許可を取り、1日ほど里を空けますがお許しを』
「僕たちは構いませんよ」
「ウィンディ様こそお気をつけて」
『はい。それでは』
ウィンディはまた一陣の風となって飛び去っていきました。
彼女も動くことを決めたら早いことなんの。
『それで、シント。この風車小屋はどうする?』
「このまま出しっぱなしにしておきましょう。風関係の者たちが遊び場にするでしょうが耐久性テストにはなります」
「そうだね。その程度で壊れたらやり直しだもん」
『それもそうか。儂は帰る。今日は面白いものを手伝わせてもらった』
「こちらこそ。いいアイディアをありがとうございます」
「本当に助かりました、マイン様」
『気にするな。ではまたなにか物作りがあったら呼べ』
マインが去っていき、僕たちもちょっと早いですが神樹の元へ行きメイヤに報告です。
そのまま夕食を食べて眠り、翌朝風車小屋の様子を見に行ってみると想像通りの光景でした。
「風関係の精霊や妖精たちが楽しそうに回して遊んでるね」
「回っている風車の間をくぐり抜けようとして失敗し地面に叩きつけられている者もいますが大丈夫そうです」
「あとは、羽根の重さ問題さえ解決できれば巨大風車小屋作りだね」
「はい。とりあえず、ここはこのまま遊び場として開放しておきましょう」
「賛成。遅くならないうちに朝食に行こう」
朝食を食べ風車小屋が問題ないか眺めているとウィンディが帰ってきました。
フロレンシオのあるクエスタ公国まで行ってきたようです。
確かにあそこなら風車もたくさんあるでしょう。
風車の羽根についてもヒントがわかりましたし、明日はヒントとなったものを発注して準備ができたら巨大風車造りですね!
今回はリンも僕がほとんど働いていないために「ウィンディが無茶をしてなければよし!」という判断になったそうです。
今度はもう一基同じ風車小屋を造り、その上に屋根を乗せて完成した木材の羽根をきっちりとした角度で乗せてみました。
そして、今度は新たな問題が……。
「羽根、動かないね……」
『申し訳ありません。羽根の重さが……』
「ですよね。どうしましょうか?」
『この大きさでもここまで回らないとなると、大きくしたときはもっと回りません。なにかいい案は……』
「うーん、シント。クリスタルって普通に作っちゃうと重いんだよね? 中身をくりぬくとかは?」
「海族館のトンネルや美術館の水を張った壁みたいなものですか。ちょっと作ってみましょう」
僕は試しに穴の開いた丸い棒を作ってみました。
強化魔法をかけておいたのでリンが全力で攻撃してもびくともしません。
「ウィンディ、これで羽根を作ってみませんか?」
『これは……よろしいのですか?』
「たいした手間ではないですよ。それじゃあ羽根を入れ替えてみます」
僕は取り付けてあった木製の羽根を消し去り、今度はクリスタルの羽根をつけてみました。
ただ、それでもうまく回ってくれません。
なぜでしょうか?
『先ほどよりは少ない風でも回るようになりました。回るようになりましたが……』
「やっぱりもう一押しほしいですよね」
「シント、もっと薄くすることはだめ?」
「これでも限界だと思えるくらいまでは削っているんです。さすがにこれ以上削ってしまうと、ウィンディの強風で折れてしまいます」
『耐久性テストもよろしいですか?』
「そうですね。今回はクリスタル。折れると危ないですから僕とリンは離れた場所から見ています」
「気をつけてください、ウィンディ様」
『はい。では、行きますよ!』
ウィンディの強風を受けて羽根が勢いよく回り始めました。
折れる気配もないですし、羽根は問題ないですね。
羽根は。
『……申し訳ありません。〝屋根部分〟が壊れました』
「クリスタルの強度が高すぎましたか……」
「屋根もクリスタルで作ろう?」
「それが一番早いですね」
『契約者にはたびたびお手間を……』
「この程度、アクエリアの時に比べれば手間ではないです。さて、屋根と羽根を取り付け直します」
今度は屋根と羽根の部分をクリスタルで作り直しました。
次はどうなるのでしょう?
『では、始めます』
「ええ、どうぞ」
ウィンディの強風を受け風車がくるくると回り続けます。
屋根もそれに耐えきってくれていますし、屋根と台座部分の接合もうまくいっているので屋根が吹き飛ばされるような心配もありません。
とりあえずこれで〝強風対策〟は完璧でしょう。
そうねると問題は……〝弱風対策〟なんですよね……。
『契約者。強風には耐えました。ただ……』
「わかっています。弱風で回らないんですよね?」
『はい。いまも微弱な風を送り続けているのですが、一向に回る気配がありません』
「多少、髪がなびいたり、梢が揺れたりする程度では回らないのは承知済みです。でも……」
「そこまで弱い風でもないよね……」
『はい。そこまで弱い風でもありません。ですが、羽根がびくともしないというのは……』
さて困りましたね。
どうすればよいのでしょうか?
こういうときに頼りになりそうなのは……物作り関係者の総元締め、土の五大精霊マインですね。
「ウィンディ、あなたはここで実験兼見張りをお願いいたします」
『わかりました。契約者と守護者はどちらに?』
「マインのところに行ってきます。彼ならなにかいいアイディアが出てくるかもしれません」
『マインですか。確かに彼は物作りを得意とする五大精霊。すっかりそのことを忘れていました』
「今回はいろいろと頼りになりそうな方がいて助かります」
「そうだね。前回はほんっとうに大変だったから」
『アクエリアにはほかの五大精霊総出で罰を言い渡してありますのでご心配なく』
「……それはそれで不安ですが、不安がってばかりもいられせん。行ってきますね」
『はい。間違っても風関係者がこの風車を回そうとして怪我を負わないように見張っておきます』
ウィンディと一度分かれてマインの鉱山へ。
そこでは相変わらず鉱山掘りと鍛冶、お酒造りが並行して行われていました。
ドワーフってよくわかりません。
『おう、契約者と守護者。鉱山までなんのようじゃ?』
「今日はマインの知恵を拝借したく」
『儂の知恵? 具体的には?』
「あのね、いまウィンディ様と一緒に風車小屋を造っているんだけど……風車がうまく回ってくれないの。マイン様ならなにかいいアイディアがないかと」
『風車小屋か……儂も作ったことはない。作ったことがないからこそ燃えてくる! 少し待っておれ! ドワーフたちに指示を出したらともに行くぞ!』
よかった、マインも一緒に来てくれるようです。
乗り気で上機嫌なマインを引き連れて風車小屋まで戻ると、やはり困り顔のウィンディがいました。
僕たちがいない間にもいろいろと試していたんでしょうね。
『ウィンディ、来てやったぞ』
『ありがとう、マイン。早速だけど力を貸してもらえる?』
『おう。だが儂も風車小屋の仕組みを知らん。説明してもらえるか? 口頭だけで十分じゃ』
『それでは説明するね』
ウィンディはマインに風車小屋の設計や仕組み、現状抱えている問題点などを次々と話していきました。
そして、マインから出た一言は。
『まず、小屋の部分か。そこから作り直すべきじゃな』
『そうなの? マイン?』
『天井をクリスタルにしたのじゃろう? そうなると内部にかなりの熱がたまっているはずじゃぞ』
『熱……そこまで考えていなかった』
『まあ、燃えやすいものもないから大した問題ではなかろうが、クリスタルも〝熱膨張〟は起こすはず。冷やすためと思い小屋にも開けっぱなしの窓をいくつか用意せよ』
「マイン、〝熱膨張〟とは?」
『ものが熱くなり膨らむことじゃ。誤差程度しか変わらぬもの多いが、話を聞く限り、風車の軸ではそれが致命的になるじゃろう? ならば不安の種は取り除け』
「わかりました窓はどの程度作ればいいのでしょう?」
『このサイズなら4つじゃな。同じ場所に作るのではなく段違い、方向違いに4つ配置してみよ』
僕は指示通り小型の窓を4つ作ってみました。
するとその中から熱風が……。
『どうじゃ、かなり熱くなっていたじゃろ?』
『はい。かなり熱くなっていました』
『これでは動くものも動かぬよ。ウィンディ、試して見よ』
『わかりました。あ、先ほどよりも回しやすい』
『やはり中空にした結果、熱膨張の影響も受けやすくなっていたか。次じゃな。見た限りじゃと羽根を屋根にそのまま取り付けているようじゃな』
「はい、その通りです」
『羽根は斜めになってもいい。このように作れ』
マインが土で作ってくれた模型は羽根と屋根の繋がっている部分が伸び、羽根の土台部分まで設置しているものでした。
それによって羽根も傾いてしまいますが……試してみましょうか。
「ウィンディ、この形通りに直してもいいですか?」
『もちろんです。物作りの専門はマイン。私が口を挟めない分野ですから』
「では形を変えます。でも、そうなると屋根の部分全体がクリスタルの方がいいのかな?」
『次の改良のためにもそうしろ。まずは屋根の土台と羽根の作り直しだ』
「わかりました……このような感じでしょうか?」
『儂には見えぬな。ウィンディ、抱きかかえて空まで運べ』
『お安いご用です。これなら見えますか?』
『ああ、見えた。そして設計も合っている。ウィンディ、儂を一度下ろしてくれ』
『はい。次はどうすれば?』
『とりあえず風を当ててみろ。そうすればわかりやすい』
『では失礼して……これは、回りやすい!』
『風車の形ばかりに気をとられていた結果じゃな。奥まで支点を伸ばすと回しやすくなるのじゃ。今回は作用点がないのだがな』
「〝支点〟に〝作用点〟ですか?」
『契約者と守護者はまだ覚えなくともよい。物作りでは大切な要素になるが、いまはまだそれを覚えなくとも大丈夫じゃ。そういう言葉だけあると覚えておけ。〝力点と支点、作用点〟がセットになっている程度の知識で十分じゃよ』
マインがそう言うということはいまはまだ覚えておかなくても大丈夫な知識……なのかもしれません。
僕もリンもまだまだ知識は足りていませんからね。
『さて、次の改良じゃ。契約者よ、いまは床の部分に棒が支えを持って突き立っているだけだろうが棒の先端を球状にはできぬか? もちろん、受け口も同じように玉を受け止められるような形状に。それからその先端と小屋か突き出している部分、ここをなめらかに回るようにしてもらいたい。イメージは送る。創造魔法でその通りにしてもらいたい。もちろん、長年使っても削れていかないようにな』
「削れないようにするのは簡単です。なめらかにするためのイメージも受け取りました。早速試してみます」
僕は棒の先端を球状に、それから、そこと屋根から出てくる支柱部分にも同じようになめらかにする仕組みを施しました。
そして、ウィンディに風を送ってもらうといままでよりも弱い風で風車が回り始めましたよ!
『……すごいですね。マインが加わっただけでこれだけ前進するとは』
『物作りは儂の出番だ。問題は……羽根の重さじゃな』
「やはりそこに行き着きますか」
『このサイズの風車を量産するならば問題ないじゃろう。だが、風の者たちのことだ、もっと大きなものを要求しているのではないか?』
『……はい。森の木々の倍はあるものがほしいと』
『それでは羽根が重すぎる。クリスタルで中空構造、それで耐久性と軽さを兼ね備えてはいるがもう一押しほしい。さすがに儂もこれ以上はお手上げだな。ヒト族の風車など見たことがない』
「そうですよね。僕たちだってありませんから」
「うん。でも、見たこともないのにこれだけ改善点があげられるのはすごいことですよ、マイン様」
『この手のものは基本が一緒だからな。さて、どうする? これ以上は本当に儂でもお手上げだぞ?』
『……わかりました。私がヒト族の風車を確認して参ります』
『その方がいいじゃろう。内部構造はともかく、羽根の参考にはなるはずじゃ』
『メイヤ様に許可を取り、1日ほど里を空けますがお許しを』
「僕たちは構いませんよ」
「ウィンディ様こそお気をつけて」
『はい。それでは』
ウィンディはまた一陣の風となって飛び去っていきました。
彼女も動くことを決めたら早いことなんの。
『それで、シント。この風車小屋はどうする?』
「このまま出しっぱなしにしておきましょう。風関係の者たちが遊び場にするでしょうが耐久性テストにはなります」
「そうだね。その程度で壊れたらやり直しだもん」
『それもそうか。儂は帰る。今日は面白いものを手伝わせてもらった』
「こちらこそ。いいアイディアをありがとうございます」
「本当に助かりました、マイン様」
『気にするな。ではまたなにか物作りがあったら呼べ』
マインが去っていき、僕たちもちょっと早いですが神樹の元へ行きメイヤに報告です。
そのまま夕食を食べて眠り、翌朝風車小屋の様子を見に行ってみると想像通りの光景でした。
「風関係の精霊や妖精たちが楽しそうに回して遊んでるね」
「回っている風車の間をくぐり抜けようとして失敗し地面に叩きつけられている者もいますが大丈夫そうです」
「あとは、羽根の重さ問題さえ解決できれば巨大風車小屋作りだね」
「はい。とりあえず、ここはこのまま遊び場として開放しておきましょう」
「賛成。遅くならないうちに朝食に行こう」
朝食を食べ風車小屋が問題ないか眺めているとウィンディが帰ってきました。
フロレンシオのあるクエスタ公国まで行ってきたようです。
確かにあそこなら風車もたくさんあるでしょう。
風車の羽根についてもヒントがわかりましたし、明日はヒントとなったものを発注して準備ができたら巨大風車造りですね!