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~城~

「緊張するなぁ……」
「ジーク様でも緊張するものなのですね」
「それにしても無駄に広いわね。国王様はまだかしら?」
「お宝一杯ありそうだよな。1つくらい取ってもバレないよな」
「ダメに決まっていますよ」

 モンスター討伐会から数日後。
 僕達は優勝者に贈られるという“英雄の指輪”を貰う為に王国の城に招待されている。

 本来であればモンスター討伐会の時に国王のレイモンド様から授与される予定だったのだが、グリムリーパー騒動でバタバタした為また後日日を改めてという事になったのだ。

 そしてそれがまさに今。

「フフフ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。レイモンド様もジークさん達に会える事を楽しみにしているわ」
「そうですかね。ならいいんですけど……。エミリさんはレイモンド様に何度かお会いした事あるんですよね?」
「ええ。一応エスぺランズ商会は王族御用達なの。だから私も毎回ではないけれど、レイモンド様とお話しする時があるわ」

 僕達はエミリさんとそんな会話をしながら、長くて複雑な廊下をどんどん進んで行く。

 エミリさんは本当に凄い人だな。
 僕達と大して年齢が変わらないのに、王国一のエスぺランズ商会のトップを務めているんだから。

「さぁ、着いたよ。扉開けるけどいい?」

 徐に1つの扉の前で止まったエミリさんは、扉の取っ手に手を掛けながら僕達にそう言った。

「大丈夫よ。レイモンド様はとても気さくで素敵な方だから」
「うわぁ、やっぱ緊張するな」

 僕達が緊張するのを他所に、エミリさんは慣れた手つきで扉を開く。

 すると、大きな扉の向こう側にはとても広い空間が広がっており、中は如何にも高価そうな家具や敷物が敷かれて部屋の最も奥には玉座に鎮座する国王レイモンド様の姿があった――。

 もう十数年前だろうか。
 この王国は少し前、今程平和で治安が良いとは決して言えない国だった。特に奴隷や人身売買の違法商会が多く何かと被害やトラブルが起こっていたらしいが、それを改変させたのがレイモンド様だと言われている。

 お陰で今はとても治安が良くて暮らしやすくなったんだ。

「おお、来てくれたか。元気そうだねエミリ君。皆わざわざ足を運ばせて悪かったね」

 治安の悪い国を改変させた方だからきっと威厳があって少し怖い人なんだろうと勝手にイメージしていたが……。

「ほらほら、そんなとこに立っていないでどうぞ腰を掛けてくれ。皆冷たい飲み物でいいかな?」

 思っていたイメージとは大分違った。確かにエミリさんが気さくな方だとは言っていたけど、それでも思った以上にフランクだ。

「ご無沙汰しております、レイモンド様。早速ですが、こちらが先日のモンスター討伐会で優勝したジーク・レオハルトです」
「あ、は、初めまして……! ジーク・レオハルトと申します」
「フハハハ。そんなにかしこまらなくてもいい。成程な、君があのグリムリーパーを討伐して民の命を救ってくれたという英雄か。民を救ってくれた事、国王として礼を言いたい。ありがとうジーク君!」
「え、え、英雄だなんてそんなッ……! やめて下さい! ぼ、僕全然大した事していませんので。はい!」

 レイモンド様からのまさかのお言葉に焦った。何て言ったのかも覚えてない。今僕お礼を言われた? 国王様に?

「実力も然ることながら謙虚さがあって良いな。とてもあのレオハルトの一族とは思えないね」
「え、家を知っているんですか?」
「勿論。君の家は代々勇者を輩出している名のある一族だからね。でも、先代と君の父には私も数回お会いしたことがあるが、少し傲慢でどうも他者を下に見ていてねぇ。
……っていかんいかん。こんな事をジーク君に言うのはとても失礼で場違いだったな」
「いえ、とんでもないです。本当の事なので」

 やっぱりそう思っていたのは僕だけじゃなかったんだな。実の父親の事を言われているのに不思議と何も思わない。非情になったのだろうか僕は。 

「湿っぽくしてしまったな。今日はモンスター討伐会の優勝祝い、めでたい席だったね。フハハハ! モンスター討伐会優勝おめでとうジーク君。そしてそんな君の実力を見込んで早速頼みがあるんだ」

 レイモンド様は穏やかながらも少し真剣な顔つきで僕に言ってきた。

「頼みですか?」
「ああ。実はねジーク君、君の実力は以前から知っていて何時か話す機会がないかとずっと思っていたんだ。何せあの大賢者イェルメスさんの推薦となれば間違いない。だから私から直々に依頼を頼みたいんだよ」

 成程、そう言う事か。
 確かに魔王を倒した勇者やイェルメスさんならばレイモンド様と繋がりがあっても何も可笑しくない。寧ろ普通だよね。

 って、ポイントはそこじゃない。
 レイモンド様から直々の依頼と言ったか今。
 勇者スキルを持っている訳でもない僕に……⁉

「え、あの~、レイモンド様。国王様の依頼を僕が……ですか?」
「ああ。是非信頼出来る君に頼みたい」
「で、でも確か……国王や王族の依頼を受けられるのは実力ある勇者かSランクの冒険者の筈ですよね? いや、レイモンド様から直々に頼まれるなんてとても光栄で嬉しいですけど……僕は勇者でもなければSランクでもないですし」

 僕が困りながらそう言うと、レイモンド様は懐から何かを取り出してそのままそれを僕に渡してきた。

「じゃあはいコレ」

 レイモンド様から受け取った物を確かめようと自分の両手に視線を落とすと、そこには英雄の指輪があった。

「英雄の指輪を手にした者は当然実力者という事になる。だから君をAランクからSランクに昇格させる。私に実力を認められたSランク冒険者となれば依頼も受けてくれるかな?」
「――ッ⁉」

 人間は驚き過ぎると声が出なくなる。
 レイモンド様が何を言っているのか直ぐには呑み込めなかった。

「凄いわねジークさん。レイモンド様直々のご依頼なんて」
「やはりジーク様は真の勇者です! ジーク様の優しき強さが遂に国王様にも認められましたね」

 エミリさんとレベッカが声を掛けてくれてたが、僕はまだ全然実感が無くてフワフワしている。

 僕がSランク冒険者……しかもレイモンド様から直々に依頼を頼まれている……。何がどうなっているんだ僕の今は。

「レイモンド様が答えを待ってるんよ。Sランク冒険者のジークさん」
「あ! え、え~と、そのッ……!」
「テンパり過ぎだわジーク。貴方の実力ならこれぐらい当然よ」
「はい! ぼ、僕なんかで宜しければ、是非受けさせていただきます!」
「フハハハ。ありがとう」

 緊張でガチガチながらもレイモンド様に返事をすると、レイモンド様はまた懐から何かを取り出して僕達に見せた。

「では早速依頼の話をさせてもらうが、ジーク君。君は“コレ”を知っているかな?」
「それは……!」

 レイモンド様が手にしていた物。
 それは僕が何度も目にした事のある、あの赤い結晶だった――。