冒険者の始まりの街でキャンプギアを売ってスローライフ〜アウトドアショップin異世界店、本日オープン!〜

「……というわけで、俺はこことは別の世界からやってきたんだ」

「………………」

「今見せたように、お金と引き換えに俺の元の世界の物を取り寄せることができる能力を持っている。ここのお店で売っている商品は俺の能力で出した物なんだ。ランジェさんには商品を仕入れるフリをしてもらっているだけだ。今まで秘密にしていて悪かったな、ドルファ」

「………………」

 アウトドアショップの能力のレベルが4に上がり、扱う商品が増えたということもあって、ドルファにも俺の秘密を話すことに決めた。

 今日のお店の営業も無事に終わり、閉店作業を始める前にドルファに俺のことを話した。

 すべて話したのはいいが、ドルファは黙ったままだ。実際にドルファの前で金貨をチャージして、商品を購入して見せたのだが、ドルファは黙ったまま何も話さない。

 やはり別の世界から来たなんていう荒唐無稽な話は信じることができないのだろうか。あるいは、そのことを信じてくれた上で、なにか考えているのだろうか。

「……このお店で売っている商品が、見たこともない物ばかりだったのはそういう理由か。なるほど、よくよく考えてみれば納得もいくな。リリアもフィアちゃんもそのことは知っていたみたいだな」

「2人にはドルファを雇う前から話していたんだ。ドルファにすぐに話さなかったのは悪いと思っているよ」

「いや、そんな大事なことをすぐに話せないのは当然だ。むしろ、よくただの従業員である俺に話してくれたのは嬉しく思う。

 ……しかし別の世界か。頭では分かっているんだが、あまり想像ができないな。テツヤさんも普通の人族に見えるし、あまり実感がわかないぞ」

「……まあすごく遠い国から来たと思ってくれればいいかな」

 ぶっちゃけ外国も異世界も似たようなものである。文明がそれほど進んでいないこっちの世界ならなおのことだな。

「とりあえず了解した。俺を信用して話してくれたんだ、金を積まれても絶対に誰にも話さない……と言いたいところだが、アンジュに何かあった場合に限っては約束できない。どうやら俺はアンジュにかんしては()()過剰に反応してしまうことがあるからな」

「………………」

 ……うん、あの反応が少しなのかはこの際置いておこう。

「その場合はもちろんアンジュさんを優先してくれて構わないよ。俺の秘密なんかよりも、みんなやみんなの家族の身の安全の方が大事だからね。

 少なくとも俺の秘密が知られても、利用するように考えるのが普通だから、遠慮なく話していいからね」

 ぶっちゃけ俺も拷問なんてされたら、秒で秘密をしゃべってしまう可能性が高い。最悪拘束されたり監禁されたりするかもしれないが、殺されることはないだろう。

「……可能な限り話さないことは誓う!」

「ぜ、絶対にしゃべらないよ!」

「ああ、命に懸けても話さないと誓う!」

「いや、だから話していいってば……」

 たとえ監禁されたり拘束されたとしても、今では俺の味方をしてくれる人達も大勢いる。その人達を信じて助けが来るのを待てばいい。



「2人ともお疲れさま。明日もまたよろしくね」

「お疲れさまです!」

「ああ、また明日」

 ドルファに俺の事情を説明したが、どうやら納得してくれたみたいだ。そのあとはみんなでいつも通りの閉店作業を終えて、ドルファにフィアちゃんを送ってもらう。

「ちょっと待って。はい、2人にお土産だよ。アンジュさんとレーアさんと一緒に食べてね」

「ああ、ありがとうな」

「テツヤお兄ちゃん、ありがとう!」

「新しく買えるようになった俺の世界の甘いお菓子だよ。みんなで楽しんでね」

 2人にはチョコレートバーとようかんを包みに入れて渡してあげた。ランジェさんもリリアも気に入っていたから、きっとみんなも気に入ってくれるだろう。

 さて、それじゃあこのまま、さらに味方を増やしにいくとしますかね。敵になってしまう可能性もゼロではないところが怖いところでもあるがな……



「おう、テツヤにリリア。どうしたんだ?」

「ちょっと用事がありましてね。パトリスさんもお久しぶりです」

 2人に話があると受付で伝えたところ、すぐにギルドマスターの部屋に案内してくれた。ある程度はこちらを信用してくれているようだ。

「お久しぶりです、テツヤさん、リリアさん。先日いただいたワイルドボアの燻製肉はとても美味しかったですよ。ありがとうございました」

「喜んでいただけたならなによりですよ」

 ドルファとフィアちゃんを見送ったあと、俺とリリアは冒険者ギルドを訪ねた。

 リリアとランジェさんにも相談したのだが、俺の能力のことを冒険者ギルドマスターのライザックさんと副ギルドマスターのパトリスさんには話すという結論に至った。

 俺のアウトドアショップの能力がレベルアップして、方位磁石や浄水器以外の様々な商品を購入できるようになった。今後はより一層面倒な輩が現れるかもしれないし、いろいろと協力してもらいたいこともある。

 ……もしかしたらこの2人が敵になる可能性だってなくはない。短い付き合いだが、2人がそんな人ではないことはわかっているのだが、それでももしかしたらという気持ちはゼロにはならない。

 リリアも万が一の場合には2人に敵対してでも俺に味方してくれると言ってくれたのはとても嬉しかった。俺も覚悟を決めるとしよう!
「ライザックさん、パトリスさん、大事なお話があります」

「ん、なんだ改まって?」

「……テツヤさんがなにをお話しするのかわかりませんが、この部屋は声が漏れないような細工がしておりますので、安心してお話し下さい」

 ……パトリスさんは俺の能力で出した商品のことについて何か察しているのかもしれないな。とはいえ、まさか異世界の商品とは思っていないだろうけど。

「実は俺は別の世界からこの世界にやってきました」

「「………………」」





「なるほど、気付いたら全然知らない世界に迷い込んでしまった……か」

「テツヤさんが販売している商品は特別な物だとは思っておりましたが、まさか別の世界とは……」

 みんなと同じようにこの世界にやってきてからのことや、俺の能力についてを2人に説明した。

「俺以外に別の世界からやってきたという話は聞いたことがありませんか?」

 一番気になっていたことを2人に聞いてみる。リリアやランジェさんにも聞いてみたのだが、2人とも心当たりはなかった。冒険者ギルドの偉い2人ならもしかしたらなにか知っているかもしれない。

「いえ、申し訳ないですが、心当たりはありませんね」

「ああ、俺もねえな」

「そうですか……」

 2人とも心当たりはないようだ。やはりそのあたりの情報はないか……

「もしもですが、そんな情報が入ってきたら、俺に教えてくれると嬉しいです」

 ダメ元ではあるが、同じような境遇の人がいないかは気になるところである。

「おう、テツヤには世話になっているからな。もしもそういった情報が入ってきたら教えるぜ!」

「この街だけでなく、王都のほうでもそのような情報がないか確認してみましょう。この街よりも王都のほうが情報が集まりますからね!」

「ライザックさん、パトリスさん、ありがとうございます!」

 どうやら、俺の話を信じてくれて、情報集めにも協力してくれるようだ。やはり方位磁石や浄水器だけでなく、ライトやバーナーは別世界から来たということを証明するのに十分に役立ったようだ。

「それで、ここからが本題なのですが……」

「今のでも十分すぎるほどに驚いたんだがな……」

「ここからが本題なんですね……」

 2人ともとても驚いている。まあ異世界から来たなんてこと以上に驚くことはもうないから大丈夫だろう。

「実は俺の能力で買える商品の中にこんな物がありまして……」

 持ってきたリュックの中から、例の植物図鑑と魔物図鑑、そして地図を取り出した。

「……こ、これは!?」

「こいつはすげえじゃねえか!!」

 ……俺が別の世界から来たという事実よりも驚いていないか?

 まあ異世界から来たなんて非現実的なことよりも、実際に目の前にある便利なものに反応するのはある意味普通の反応なのかもしれない。

「この付近に生息する魔物や植物の図鑑となっている。ランジェとも確認したのだが、私達の知っている内容に間違いはなさそうだ」

 リリアが図鑑の内容について補足してくれる。

「ものすごく精巧な絵ですね! まるで本物みたいです」

「それは写真といって、見たままの光景を絵にするという機械……魔道具みたいなものですね」

「文字はこっちの世界の言葉みてえだが、テツヤの世界でも共通語を使っていたのか?」

「いえ、なんで言葉が通じるのかわからないですが、みんなの言葉や文字も俺の世界の言葉に変換されて聞こえているんですよね。この図鑑の文字も、購入したら勝手にこちらの世界の言葉に訳されていたんですよ」

 この点についてはよくわからないが、この世界に来てからなぜか言葉も通じるし、文字の読み書きも不思議とできるんだよな。

 そもそも不思議といえば、どうやってこっちの世界に来たのかも、俺のアウトドアショップの能力についても不思議なんだけど。

「……ざっと見たところ、俺の知っている情報にも合致しているな。しかも俺が知っているよりも詳しい情報が載っているようだ。マダラナヘビの好物がアグタヤガエルなんて初めて知ったぜ」

 最初はそんな情報何の役に立つんだとも思ったが、好物がわかれば罠を仕掛けたりすることができるかもしれないからな。

「こちらの植物図鑑のほうも正確なようですね。見分けのつきにくいハシナカ草とヤナカミ草の区別方法まで載っておりますよ!」

 植物図鑑のほうには見分けのつきにくい植物の区別方法やその植物の利用方法までが載っている。特に利用方法については、駆け出し冒険者だけではなく、ポーションを作成する人達にも役に立ちそうである。

「こいつはまた便利な代物だな……」

「ええ。でもみんなと話し合った結果、これをそのまま販売するといろいろと問題が起こりそうで……」

「そうですね……情報についてもそうですが、これほど精巧な絵である写真というものについてはいろいろと嗅ぎ回ってくる輩も多そうです。それにこの紙もかなり上質な物なので、そちらについても問題が起こりそうですね」

 ……なるほど、言われてみると確かにこちらの世界にも紙はあるのだが、この図鑑に使われている紙ほど良いものではない。

 それについてもいろいろと追求されるかもしれない。さすがパトリスさんである。

「パトリスの言う通り、こいつを売るとなるといろいろと問題が起きそうだな。とはいえこんな便利なもんを使わねえのも勿体ねえしどうすっかな……」

「……それでしたらテツヤさん、こちらの図鑑というものを写本したものを売っていただけないでしょうか?」

「写本ですか?」
「はい。テツヤさんの能力で出してくれたこの図鑑というものを、口が堅くて絵の描ける信頼できる者へ依頼し、複製した図鑑を冒険者ギルドに置かせていただけないでしょうか?」

 ……なるほど、この図鑑をこちらの世界の紙とインクで写せば、他の人に見せても問題はないわけだ。

「冒険者ギルドでも魔物の情報については無償で公開しているのですが、こちらの方がより正確でわかりやすいようです。こちらを写させていただき、冒険者ギルドで公開と販売をさせていただければと思います。

 植物図鑑のほうは特に情報を精査させていただき、必要な情報だけを公開させていただければと思います。そうですね、写本させていただく権利とあわせて、テツヤさんの情報によって得た利益もテツヤさんに還元するという誓約書も書きましょう」

「……うむ? 情報によって得た利益とはどういうことだ?」

 リリアがパトリスさんに質問している。なるほど、そっちのほうも考えなければならないのか。

「魔物図鑑の情報のほうは冒険者しか使用しないと思われますが、こちらの植物図鑑のほうは冒険者だけでなく、ポーションを作る者や木材を扱う職人などにも需要がありそうです。

 テツヤさんの情報によって新しい発見や発明もあるかもしれません。それによって得た利益はテツヤさんに還元されなければなりませんからね」

 言われてみると、魔物図鑑よりも植物図鑑のほうが新しい発見や発明があるかもしれないな。

 それにしてもさすがパトリスさんだ。写本のことや情報によって得られる利益のことをわかっている。そしてなによりそれをちゃんと俺に教えてくれた。パトリスさんはこちらのこともちゃんと考えてくれているようだ。

 やはりライザックさんだけでなく、パトリスさんにも俺のことを話したのは正解だったらしい。

「なるほどな、さすがパトリスだぜ! 俺じゃそんなところまで気付けねえからな。ガハハッ!」

「「「………………」」」

 ……やっぱり正解だったらしい。





「あとはこちらの地図ですね。う〜ん、街どころか村の位置まで正確に記載されているようです。こちらの地図が現在冒険者ギルドでも使われている地図ですが、比べてみると断然こちらのほうがわかりやすいですね」

 図鑑に続けて地図の検証へと移る。パトリスさんが持ってきてくれたこちらの世界の地図というものを見せてもらったが、わかりやすさが格段に違った。

 測量士なんかもいないだろうし、当然といえば当然か。この時点ではどちらの地図が正確かなんて言うことはできないが、こっちの世界の地図はどう見てもアバウトな感じで街と街を繋げているようにしか見えないんだよなあ……

「もしかしてこっちの赤いマークが方位磁石の赤い方向だったりするのか?」

「ええ。さすがライザックさんですね、正解ですよ」

「だろ!」

 うん、ライザックさんも決して頭が悪いというわけではない。パトリスさんが優秀すぎるというだけだ。

「……なるほど、本来はこちらの地図と方位磁石をあわせて使うものだったようですね。この地図と方位磁石があれば、移動で道に迷うことはなくなりそうです。これは素晴らしいですね!」

 そしてそのさらに上をいくパトリスさん。この地図と方位磁石の有用性をすぐに理解したようだ。

「こちらの地図についても写させていただきたいのですが、村などの集落の情報は外しておいたほうが良いでしょう。盗賊や悪人達の手に渡ってしまうと、悪用されてしまうかもしれませんからね」

「それは俺も思っていました。必要があれば、また購入することもできますから、写し終わったら処分したほうがいいかもしれませんね」

 精巧な地図というものは悪用されてしまえば、普通の武器以上に厄介な代物となる。街ならば防衛体制はある程度整っているから問題ないが、小さな村や集落などは大勢の悪党に攻められたらひとたまりもない。

「それにしてもこうしてみるとやっぱりあの森は大きいですね」

「ええ。さすがにこの地図でも森の細かいところまでは書かれていないですね」

 例の大きな森についても地図に載ってはいたが、すべて緑色で塗り潰されている。この街の大きさと比較しても相当な大きさだ。そりゃこんな大きな森で方位磁石がなければ、遭難する人が出てきても不思議じゃない。

「……だが逆に言うと、今までよくあれだけしか遭難者が出なかったものだな」

「俺達の活動も無駄じゃなかったのかもしれねえな」

「ええ、きっとそのおかげですよ」

 確かに森の中のあちこちにある目印の布や、遭難者が出た時の救助隊の働きも大きかったのだろう。

「今はランジェさんにお願いをして、一応この地図の精度を確認してもらっています」

 今回ランジェさんがこの街を離れる際に、この地図の精度を確認してもらうようにお願いしてある。ここにある地図は正確だとは思うが念のためだ。

「なるほど。そちらが確認でき次第、主要な街と地形のみを記載した簡易版の地図を作成したいと思っております。もちろんその地図の販売で得た利益はテツヤさんにお渡しするということでいかがでしょうか?」

「はい、それでお願いします」
「……ではこちらでよろしくお願いします」

「はい、今後ともよろしくお願いします」

 冒険者ギルドとの契約が無事に完了した。

 まず地図についてはランジェさんがこの地図は正しいのかを確認して戻り次第、冒険者ギルドに所属している口の堅い者に依頼をして簡易版の地図を作成してもらう。

 そしてその地図は駆け出し冒険者に安値で販売されることになる。依頼費や材料費、販売のための経費と冒険者ギルドへ少し利益を渡して、残りの利益の大半は俺に入ることとなった。

 とはいえ、駆け出し冒険者が購入しやすいように販売金額はたった銀貨5枚ほどなので、利益は銀貨1枚あるかどうかだ。そもそも紙やインクなどの材料費などで銀貨3〜4枚分だからな。

 それでも副収入があるということは嬉しいことである。不労所得バンザイだ! ……あまりに嬉しくて心の中でバンザイしてしまったぜ。

「魔物図鑑のほうは依頼できる者が見つかり次第、写本を始めさせていただきます。とはいえかなり時間はかかると思いますが」

「ええ、植物図鑑もありますし、ゆっくりでいいので確実にいきましょう」

 印刷技術なんてものはないこの世界だから、1ページずつ手書きで写していかなければならない。当然1日や2日程度で終わる量ではない。元々時間のかかる作業なので焦って情報を漏らさないように着実に進めていきたいところである。

 植物図鑑のほうは冒険者向けの図鑑とそれ以外の用途の図鑑に分けるそうだ。写本する人以外に情報を漏らさないようにするため、副ギルドマスターであるパトリスさん本人が確認しながら情報を精査していくらしい。

 効率を優先すると、どうしても俺の情報が漏れてしまうからな。パトリスさんには申し訳ないが、よろしくお願いするとしよう。

「ええ。テツヤさんの情報が漏れないようにすることを最優先とします。それに地図のほうは1枚写してしまえば、それを元に複製できますからね」

 そう、地図のほうは俺の能力で出した精巧な地図を簡易版の地図に写したら、それを元に別の人が写して、できたものをまた複製と人を雇っての量産が可能だ。

 簡易版に写した地図なら秘密もなにもないからな。もちろんこの地図の大元を俺が提供したことはライザックさんとパトリスさんだけの秘密である。

「それではもろもろよろしくお願いします」

 他にもアウトドアショップのお店や俺の周りを嗅ぎ回るやつがいたら、いろいろと対処してくれるそうだ。冒険者や商人が何か因縁をつけてきたらすぐに冒険者ギルドに連絡するようにも伝えられた。

 俺が異世界から来たことや、俺の能力を伝えたところ、全面的にこちらに協力してくれることになって本当に助かった。

 今まで駆け出し冒険者のために貢献してきたおかげでもあるんだろうな。うむ、やっぱり信用は大事である。



「テツヤ、あれを渡すのだろう?」

「あっ、そうだった。完全に忘れていたよ!」

 無事に契約も終わって帰ろうとしたところで、リリアに言われて思い出した。そういえばライザックさんとパトリスさんにお土産を持ってきていたのをすっかりと忘れていた。

 なんだかんだで、俺の説明やら契約やらでかなりの時間が経過していたからな。たぶん外はもう真っ暗だろう。

「今度うちのお店で販売しようと思っているお菓子です。これも俺の故郷の食べ物なんでお試しにどうぞ」

「おお! テツヤの世界の食い物か! 興味あるな!」

「インスタントスープもテツヤさんの世界の食べ物なんですよね。とても期待してしまいます!」

 ドルファやフィアちゃん達みたいにようかんとチョコレートバーを持ってきた。

 ……賄賂ではないぞ、あくまでも試供品だからな。食べてもらって感想をいただきたいだけである。……いろいろと便宜を図ってもらいたいだなんて思惑は、ほんのちょっぴりしかないよ。

「ぬおっ!? なんだこりゃ! 甘すぎる!」

「これは甘くて本当に美味しいですね!」

 どや、あっちの世界のお菓子は甘くてうまいだろう?

 反応は上々のようだ。たとえ男性2人であっても、ようかんとチョコレートバーはこちらの世界の人に受け入れられている。

 あんまり美味しそうに食べるから、つい心の中でドヤ顔を決めてしまったぜ。やっぱりこっちの世界の人は甘いものに飢えているようだ。

「こいつはすげえな! こんな甘いもん初めて食ったぜ!」

「こっちのほうは不思議な甘さですね。ちょっとほろ苦いような甘いような……ですがとても美味しいですよ!」

「どちらもカロリー……エネルギーがとても豊富なので、行動食としても優秀ですよ。それとこっちのやつは非常食としても優秀ですね。味はまあそれほどといったところですが」

 そして2人にブロック状のクッキーを渡す。いわゆるカロリーの栄養補給食である。確か5大栄養素をバランスよく摂取できるんだよな。

 こっちのほうはようかんやチョコレートバーよりも水分が少なく日持ちするだろうから、非常食としても優秀なはずだ。とりあえず1週間後に昨日出したものを食べてみて体調が悪くならなければ、問題ないだろう。

 ちなみにこっちの世界には賞味期限なんてないからな。基本的にはすべて自己責任である。

「……まあさっきのに比べれば味は普通か」

「いえ、非常食として味は優秀ですよ。さっきのは行動食というよりはお菓子として売れそうですね。こっちのは口の中がパサつくのが少し欠点でしょうか……」

 ……そうね、非常食としてはとても優秀だが、それが唯一の欠点である。そしてチョコレートバーやようかんほど甘くはないので、衝撃もそれほどではなかったようだ。どうやら渡す順番を間違えたらしい。
「さあ、そろそろ店を開けようか」

「す、すごいお客さんです……」

「……この店をオープンする時よりも並んでいるな」

 フィアちゃんやリリアの言う通り、ここのお店を開く時もかなりのお客さんが並んでくれていた。しかしその時よりも大勢のお客さんが、列を作ってアウトドアショップの開店を今か今かと待っている。

「こりゃすごいな……この店が開いた時もこんなに客が並んでいたのか……」

「僕は従業員をやるのは初日なんだけどなあ……やばっ、高ランクのクエストを受ける時よりも緊張してきたよ……」

 さすがのドルファもランジェさんも、これだけのお客さんを前に驚いている。でもさすがに高ランクのクエストを受けるよりは全然マシだと思うぞ。

「この店をオープンした時や、そのあとこのお店に来てくれたお客さんが、新製品を販売するって告知を見て大勢来てくれたみたいだね」

 先週俺のアウトドアショップの能力がレベルアップしてから1週間が過ぎた。それまでに新しく能力で買えるようになった商品の精査、今日から新商品を販売する旨の広告を冒険者ギルドやこのお店に貼って準備をしてきた。

 図鑑や地図については冒険者ギルドのライザックさんとパトリスさんに一任しており、信頼のおける写本が可能な人に依頼をして、現在は地図を写しているところである。

 そしてその地図をさらに一般的に雇った人に写してもらい販売をする予定だ。地図のほうは来週にでも販売できそうだが、図鑑のほうはまだまだ時間が掛かりそうである。

 写本をしてもらう人は冒険者ギルドでも信頼のおける人らしいが、地図や図鑑の出所が俺であるということを伏せているため、実際に会うことはなさそうだ。まあ地図はこの店でも販売する予定だから、向こうは察する可能性はあるかもしれない。

「とりあえず、開店と同時にまずは新商品の説明をするから、全員で表に出てお客さんに挨拶をしよう。新しいこのお店の制服のお披露目もしたいからね」

 そう、俺達は全員同じ黒色のウインドブレーカーを羽織っている。アウトドアショップの能力がレベルアップして購入することができるようになったウインドブレーカーを制服として使用するようにした。

「なんだかみんなで同じ服を着るっていうのはいいね!」

「ああ、いつもより気合いが入る気がするぞ!」

 ランジェさんやドルファは軽めの防具の上からウインドブレーカーを着ている。確か元の世界でもユニフォームや制服も同じ服を着ることによって、仲間との連携意識を上げたり、仕事のオンオフを切り替える目的もあったりしたはずだ。

「後ろのマークが格好いいです!」

「うむ、みんなで考えた甲斐があるな!」

 そう、ウインドブレーカーをそのまま普通に使ってしまうと、今後このウインドブレーカーを販売した時にお客さんと従業員の区別がつかなくなってしまうため、従業員用のウインドブレーカーの背中にはこのお店のロゴの刺繍が入っている。

 このお店の看板を考えた時と同じで、やはりこのお店で最初に売り始め、看板商品である方位磁石を入れようという話になった。

 そしてアウトドアショップということもあり、今後販売する予定にもなっているテントを表す三角形の中に方位磁石というロゴが完成した。それに合わせて看板もこのマークに変更してある。

 ちなみに刺繍を入れてくれたのはフィアちゃんのお母さんのレーアさんとドルファの妹のアンジュさんである。以前のバーベキューやチョコレートバーとようかんのお礼ということで、快く引き受けてくれた。

「それじゃあお店を開けるよ。忙しくなると思うけれど頑張っていこう!」

「「「おお!!」」」



「みなさま、大変お待たせしました! 本日は朝早くから並んでいただきまして、誠にありがとうございます! 開店の前に、本日より販売する新製品について、簡単に説明したいと思います!」

「「「おお〜!」」」

 何度かこのお店で新商品を販売した際の実績があるため、お客さんも期待しているようだ。

「さあさあここに取り出しましたるは、細い棒状の乾燥させた麺でございます。こちらは棒状ラーメンといって、これをお湯に入れて茹でてたったの3分! お湯さえあればたったの3分で完成する優れもの!」

「へえ〜そんなすぐにできるのか!」

「最近はお湯を沸かすのも楽になってきたからな。お湯を沸かせてすぐに食えるのは便利だな!」

 実際に草原や森でお湯を沸かすのは結構時間が掛かってしまう。早いのはお湯さえあればだからな。お湯を沸かすのは時間が掛かるけれど、お湯さえ沸かせばすぐだから嘘は言っていない。

「これならどんなに忙しい冒険者であってもすぐに食べることができます! それに難しい作業は一切なし! お湯で茹でたら、インスタントスープと同じこの魔法の粉を入れるだけなので、料理ができない冒険者でも簡単につくることができます!」

「「「おお〜!」」」

 そして棒状ラーメンの利点はもうひとつ。誰でも簡単に作れることだ。お湯で茹でて粉末スープを入れるだけ。これなら普段料理を作ることができない冒険者でも、簡単に食事を作ることができる。

「今回は醤油味と豚骨味の2種類を用意しました。こんな朝早くからわざわざ並んでくれたお客様のために、少しだけ試食分を用意しましたので、ぜひ味を見てください!」
「そしてこちらの今回は棒状ラーメンの他にもうひとつ新商品がございます! こちらは栄養食品といって人が生きていく上で、必要な栄養をバランス良く摂ることができる保存食となっております」

「「「おお〜!」」」

 確かこの栄養食品には身体に必要な五大栄養素であるタンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルが手軽にバランスよく補給できるようになっていたはずだ。さすがにカロリーをメイトする商品名だとアレなので、栄養食品として販売することにした。

「お湯を沸かして3分も待てないというあなた! これまでの固くて臭い干し肉にうんざりとしていたそこのあなた! この栄養食品なら手軽で簡単に補給ができる上に、味も少し甘くてとても美味しいですよ。さらにさらに、こちらの商品は日持ちもするので、非常食としてとても優秀なんです」

「「「おお〜!」」」

 口の中が多少パサつくという欠点もあるが、こちらの世界でよく食べられている保存食や非常食として扱われている干し肉に比べたら断然美味しい。

 ちなみに購入できる味はチーズ味とメープル味である。甘い物が少ないこっちの世界では、たぶんメープル味のほうが人気があると思っている。実際に従業員のみんなもメープル味のほうが好きだった。

「こちらも棒状ラーメンと同様に、朝早く並んでくれたお客様に試食分をご用意しておりますので、ぜひ試してみてくださいね」

 そしてこの栄養食品はかなり日持ちする。もちろん個別包装している元の世界の賞味期限には敵わないが、それでも水分が少なく、日持ちすることは間違いない。

 同様に棒状ラーメンやアルファ米も日持ちするのだが、ようかんやチョコレートバーについてはそれほど日持ちしないので、販売しても数日しか持たない行動食として販売する予定だ。

「うおっ! こりゃうめえ!」

「なにこれ!? こんな美味しい麺料理は初めて食べたわ!」

「温かくて最高だ! これは寒い夜に食べたら絶対うまいに違いない!」

「おおっ、これは甘いな! あの干し肉と比べたら雲泥の差だ!」

 どうやら試食品はお客さんに大盛況のようだ。

 棒状ラーメンは作るところから見せたかったが、店頭でお湯を沸かしたり、取り分けたりするのが大変だから、ちょうど開店直前で作って小皿に取り分けてある。

「おっす、テツヤ!」

「おはよう!」

「2人ともおはよう! フィアちゃん、その新しい服はとっても似合っているわよ!」

「おはようございます! ニコレお姉ちゃん、ありがとうです!」

「きゃあああ、やっぱりフィアちゃんは可愛いわ!」

「ロイヤ、ファル、ニコレ。朝から並んでくれてありがとうな」

 フィアちゃんと一緒に試食品を並んでいるお客さんに配っていくと、見知った顔を見つけた。ロイヤ達も朝から並んでくれていたようだ。ニコレのいつも通りの言動はスルーしておこう。

「前回のインスタンスープはとても便利で美味しかったからな。今回も期待しているぞ」

「すごくいい匂いがするわね! 朝ごはん食べてないからお腹空いちゃった!」

「前回は試食があったと聞いていたからな。今回は頑張って早く並んだよ」

「前回のインスタントスープに負けないくらいうまいと思うぞ。棒状ラーメンは醤油味と豚骨味、栄養食品はチーズ味とメープル味があるけれど、どっちにする?」

「どう味が違うんだ? チーズ味しか聞いたことがないぞ」

「う〜ん、どれも実際に味を見てもらわないと説明が難しいな。醤油は穀物からできている調味料で少ししょっぱくて、豚骨は動物の骨から取った出汁だね。メープル味は樹液で少し甘い味がするぞ」

「へえ〜じゃあ俺は醤油味とチーズ味にするかな」

「それじゃあ私は豚骨味とメープル味にするわ」

「そしたら俺は豚骨味とメープル味にするかな。少しずつ分けようぜ」

「オッケーだ。相変わらず購入制限はあるけれど、気に入ったらぜひ買ってみてくれ」

「はい、こちらです!」

 ロイヤ達はパーティだから、パーティ内で試食品を試せるのは大きいな。インスタントスープと同様に今回販売する商品にも購入制限を付けている。転売防止対策にはこれが一番いい。

「うわっ、なんだこれ!?」

「んん、おいし〜!」

「おお、これはうまい!」

 ロイヤ達の驚きの声を聞きつつ、試食品を配っていった。



「……大変申し訳ありません。ここまでになりますね」

「うおっ!? 目の前ってマジかよ!」

 一応試食用の棒状ラーメンは50人分以上作ったのだが、それでもお店に並んでいるお客さんのほうが多かったようだ。

「栄養食品のほうはまだあるので、こちらのチーズ味かメープル味のどちらかをお選びください」

「うう……それじゃあメープル味でお願いします」

「はい、こちらです!」

「ああ……ありがとう」

 まだ若くて装備品もロイヤ達と同じくらいのだから、たぶんこの人も駆け出し冒険者だろう。フィアちゃんから栄養食品を受け取るが、目の前で終わってしまった試食品である棒状ラーメンをうまそうに食べている前の人を羨ましそうに見つめている。

「うわっ!? こんなにうまいのか!」

「こんな美味しいものが簡単にできるのか! こりゃ買うっきゃないな!」

「うう……」

 そう、ラーメンの美味しそうな香りはこの辺り一面に漂っている。屋台ではないのだが、ラーメンの香りに誘われて通行人がこのお店を見ている。

 たぶん飯屋と勘違いして新しく並び始めた人もいるだろうな。うん、試食品は今日だけだから。この香りは飯テロとなって周りのお店にも迷惑をかけてしまいそうだ。

 ……そしてラーメンを食べれなかったその後ろのお客さん達も、とても羨ましそうに前の列の人達を見ている。早くお店をオープンしてあげるとしよう。
「大変お待たせしました、ただ今よりお店を開きます! 店内はそれほど広くありませんので、店内への入場制限をさせていただきますので、従業員の指示に従ってください。何かありましたら、この黒い服を着ている従業員にまで、お気軽にお声をおかけください」

 さて、いよいよお店のオープンである。さすがに店内に何十人も入りきらないので、15人くらいでいったん区切らせてもらい、ひとり退店したらひとり入店するようにさせてもらった。

「みなさん、押さないでくださいね〜! はいごめんね、ここで少しだけ待っててね」

 お店の入り口でお客さんを順番に入れるのはランジェさんにお願いした。

 ランジェさんは今日がお店で接客をする初日だから、いきなりこの数のお客さんのお会計を相手にするのは難しい。夕方くらいになって、お客さんの数が減ったら会計を任せてみるつもりだ。

 先週言っていたように、新商品の販売を始めるこの数日は忙しくなるので、ランジェさんにも手伝ってもらっている。

 昨日と一昨日の休日で俺とリリアでランジェさんに接客を教えた。言葉遣いは少し軽いかんじだが、ランジェさんの明るい雰囲気に合っているので、お客さんもそれほど気にはしないだろう。

「待っている間に何か質問があったら答えるからね! このお店の商品のことから、冒険者についてでも質問があったら遠慮なく聞いてよね!」

「あ、あの。さっきの棒状ラーメンなんですけれど……」

「はいはい。えっとそれはねえ……」

 そう、そしてランジェさんはこの街には数少ないBランク冒険者だ。知名度はこの街で駆け出し冒険者のために活動していたリリアよりもないかもしれないが、その実力は冒険者ギルドマスターのライザックさんも認めている。

 そんな冒険者のランジェさんにいろいろと話を聞くことができるため、待っているお客さんも有意義な時間を過ごせるだろう。

 通常営業の時も、リリアのアドバイス目的でお店に来てなにか買ってくれるお客さんもいるからな。珍しいエルフの高ランク冒険者に話を聞ける機会なんてそうそうないし、ランジェさんは美形だから、女性冒険者にも人気が出そうだ。現に今話している女冒険者の人なんか顔が真っ赤である。……ちっ。



「はい、お待たせしました。銅貨3枚のお釣りになります!」

「銀貨2枚と銅貨1枚のお釣りだ。またのご利用をお待ちしております!」

 店の中ではフィアちゃんとドルファに会計を任せている。ドルファもだいぶお店での仕事に慣れてきて、計算もだいぶ早くなったし、言葉遣いも丁寧になってきている。

「こちらの棒状ラーメンはお湯で少し茹でて、お湯に付属の木筒に入っている粉を入れるだけで完成するぞ。お湯の量は麺が浸かるぐらいだが、こっちのシェラカップという物があれば、正確な量が計れるようになっている。そのまま火にかけたりもできるし便利だぞ」

「なるほど。リリアさん、ありがとうございます」

 リリアは店内を回って、お客さんの質問を受けたり、商品が少なくなってきたら補充をしたり、怪しい人物がいないかを見回ってもらっている。

 新しい商品についても詳しい説明ができるし、別の商品を勧めてくれたりと完璧な接客である。リリアの冒険者のころを知らないが、今の接客の仕事のほうが天職だと思ってしまうな。

 そして俺は店を見回って会計をしたり、お客さん対応をしたり、店の外のランジェさんの様子を見たりと店全体を見ている感じだ。ひとりずつ休憩する時も空いた仕事を交代していく。



「さっき試食で食べた棒状ラーメンってのはいくらするんだ?」

「はい、5回分がセットになって銀貨3枚となっております。次回以降に木筒と入れ物を返却してくれれば、銀貨2枚となります」

「てことは次からは一食あたり……銅貨4枚ってわけか。量にもよるけれど、それくらいであのうまさなら十分安いな!」

 棒状ラーメンはアウトドアショップで一人前銅貨2枚で購入できる。約200円だから元の世界で買うより少し割高なようだ。

 それを5人分で銀貨1枚。木でできた入れ物と粉末スープを入れるための小さな木筒が合わせて銀貨1枚、銀貨1枚が利益というわけだ。

「量は少し少ないかもしれませんね。野菜を入れたり、1.5人分くらいにしたほうがいいかもしれません」

 棒状ラーメンは普通の男性が食べると少し足りないかもしれない。冒険者として行動するなら、なおのこと一食分では足りないかもしれないな。

「なるほどな。もうひとつの栄養食品ってやつはいくらだ?」

「こっちは10本セットで銀貨1枚です。入れ物は別売りとなっていますね」

 栄養食品は2本で銅貨1枚、10本で銅貨5枚の仕入れ値だ。元の世界では4本入りで150円くらいだったかな。こちらは木の入れ物ではなく、こちらの世界で使っている抗菌作用があるらしい包みに入れている。

「こっちも安いな。一本くらいじゃ腹一杯にはならなそうだけれど、軽くつまめそうでいいかもしれない。それに甘くてうまかったから、いいおやつにもなりそうだ。1セットもらうよ」

「ありがとうございます」

 ようかんやチョコレートバーと比べればそこまで甘くないが、こちらの世界では十分なお菓子になるようだ。

 今週は棒状ラーメンと栄養食品とシェラカップを新しく販売する。他にもレベルアップしたことにより販売できる商品はたくさんあるが、すべての商品を一気に販売すると、お客さんだけでなく俺達がパンクしてしまう。

 これから時間を空けつつ、少しずつ新商品を販売していく予定である。
「「「ありがとうございました!」」」

 パタンッ

 無事に本日の営業が終わり、最後のお客さんが帰っていった。

「ふう〜みんなお疲れさま。いやあ、今日は疲れたね。もしかしたら今までで一番お客さんが来てくれたかもしれないよ」

「接客業って本当に疲れるんだねえ……下手な高難度クエストよりも疲れたかもしれないよ。みんなよく平気だね?」

「いや、いつもよりお客が多くて疲れている。ただ多少は仕事にも慣れてきたから、ランジェよりは疲れてないだけだと思うぞ」

 ドルファの言う通り、なんだかんだでこの仕事にも慣れてきたからな。接客業が初日のランジェさんよりは慣れているのだろう。

「ランジェさんは初日なのに接客は問題なさそうだったね。今日はお客さんが多かったから、臨時で手伝ってくれて本当に助かったよ」

「それならよかったよ。普段からいろんな場所に行って人とはよく話すから、こういうのは得意なんだ。それに可愛い女の子とも知り合えるから、この仕事も悪くないかもしれないね!」

「「「………………」」」

「ランジェは相変わらずだな。頼むから女関係のトラブルをこの店には持ち込まないでくれよ」

「大丈夫だよ、リリア。そのあたりはこれまでもうまくやってきたからね!」

 ……どうやらランジェさんはプレイボーイらしい。美形のエルフだし、高ランク冒険者だしモテそうだもんなあ。

 でも頼むから、ストーカーとか冒険者パーティの女性関係とかで、他の従業員に迷惑をかけるのは勘弁してほしい。まあランジェさんは結構軽そうな性格をしていそうだが、そのあたりの分別はありそうだし、ランジェさんを信じるとしよう。

「そのあたりはほどほどにね。フィアちゃんも今日はお疲れさま」

「お疲れさまです! お客さんがいっぱいきてくれたよ。新しい商品がいっぱい売れて良かったね、テツヤお兄ちゃん!」

「うん。用意していた分は昼過ぎには全部売れちゃったからね。たぶん今日の噂を聞いて明日の朝もお客さんが大勢並ぶんだろうなあ……」

 今回棒状ラーメンと栄養食品は前回店をオープンした時のインスタントスープと同じ数を用意しておいた。前回は夕方くらいにその日の分が完売したが、今日は昼過ぎには用意していた分がもう完売してしまった。

 この店を開いてからしばらく経って、よく商品を買いに来てくれる常連のお客さんもできてきたし、冒険者ギルドに方位磁石や浄水器を置いてもらえて、この店の知名度も上がってきた結果だろう。

 それに今回の棒状ラーメンは試食の時にだいぶ美味しそうな香りを振り撒いていたからな。道を歩いていた人も気になって買ってくれたようだ。

「あのラーメンという食べ物は本当にうまかった。日持ちもするし、お湯で茹でるだけとなれば、冒険者は重宝するに違いないからな」

「とっても美味しかったです!」

 もちろんドルファやフィアちゃんにも新商品の試食をしてもらっている。2人とも棒状ラーメンの味を気に入ってくれたようだ。

「こちらの栄養食品も他の保存食と比べれば、甘くてとてもうまいからな。冒険者に人気が出るだろう」

 栄養食品も棒状ラーメンほどではないが、冒険者によく売れた。とはいえ、一番人気があったのは棒状ラーメンであった。

 5食分のセットになっているから、おひとり様ひとつまでとしたが、醤油味と豚骨味の両方がほしいという人も多くいた。こういう時にパーティだとシェアできるのが強いよな。

「棒状ラーメンと一緒にシェラカップも売れてくれたのは大きいな。やっぱり普通に売るよりも、棒状ラーメンと一緒に売るのが正解だったみたいだ」

 棒状ラーメンと合わせて、沸かすお湯の量を正確に計れるシェラカップもかなり売れてくれた。シェラカップも便利なのだが、普通に売っても今日ほどは売れないだろうからな。

 とはいえ、シェラカップは計量カップとして使えるだけでなく、直接火にかけて調理もできるし、取り皿やインスタントスープなどを入れる器にもなる。いろいろと万能なので、ひとつくらい持っておいて損はないと思う。

「このカップも丈夫だし、便利そうだものな。たぶん明日は今日買うことができなかったお客さんや、別の味を購入したいというお客さんが大勢並ぶだろうな」

「たぶんリリアの言う通り、明日は朝からお客さんが大勢くると思う。列の並びとかで揉めるお客さんとかいるかもしれないから、気をつけようね。ランジェさんはどうする? 計算もできるみたいだし、列の整備の役割を変わろうか?」

 新商品が完売したあとは、お客さんも減ってきたので、ランジェさんにも会計をやってみてもらったが、こちらも問題なくこなせていた。

「ううん、外でお客さんと話しているほうが面白いから大丈夫だよ。明日も来てくれるって約束した子もいるからね!」

「「「………………」」」

 まあ、たまに様子を見ていたけれど、女の冒険者の人だけでなく、男の駆け出し冒険者の質問にもちゃんと笑顔で答えていたから大丈夫だろう……たぶん。

「とりあえずみんな今日はお疲れさま。それじゃあ早く閉店作業をして明日に備えようか」
「やっぱり閉店作業も5人いると早いね」

「いつもお店が終わった後にこんな作業をしていたんだ。やっぱりお店を営業するのは大変なんだね」

 いつもお店が終わったあとは、売り上げの計算、お店の掃除、明日の商品の品出し、返却された木筒の洗浄、営業中に倉庫からすぐに商品を出せるように商品を整理するなどといった閉店作業をおこなっていく。

 いつもは4人で閉店作業を行うのだが、今日はランジェさんがいるので、5人で閉店作業をおこなった。やはり一人増えるだけでもだいぶ楽になる。

「それじゃあドルファはフィアちゃんをお願いね。あとこれは制服のウインドブレーカーにアウトドアショップの刺繍を入れてくれたお礼だよ。アンジュさんとレーアさんにお礼を伝えておいてね」

 1週間という短い時間に5人分の刺繍を入れてくれたふたりにはとても感謝している。お土産はまだお店では販売していないようかんとチョコレートバー、それと棒状ラーメンにアルファ米などを入れておいた。

「テツヤさん、ありがとうな。前にようかんとチョコレートバーをもらった時に、アンジュはとても喜んでいたから、今回もきっと喜ぶよ」

「テツヤお兄ちゃん、ありがとう!」

「うん、それじゃあまた明日ね」

 ドルファとフィアちゃんを3人で見送った。明日も昨日と同じくらい忙しくなるだろうし、2人には明日も頑張ってもらわないとな。



「2人ともお待たせ。今日の晩ご飯の肉野菜炒めとチャーハンだよ」

「おお、良い香りだな!」

「うん、こっちのチャーハンっていうのは、見たことがない料理だけれど、とても美味しそうだね!」

 ランジェさんがこの街にいる時は基本的にこのお店に泊まっていく。2階の居間にはスペースがあるので、そこにマットと寝袋を敷いて眠っている。同様にご飯もリリアと一緒に3人で食べることが多い。

「ふっふっふ、しかしこれはただの肉野菜炒めとチャーハンではないぞ! なんと味付けにはラーメンのインスタントスープを使っているんだ!」

 そう、今日の晩ご飯である肉野菜炒めとチャーハンには例の棒状ラーメンのスープの素を使っている。インスタントスープと同様に、ラーメンの粉末スープは調味料の代わりとして使うことができる。

 肉野菜炒めは醤油味の方を使ってみた。実際に醤油を使った味とは少し違うが、それでもなんちゃって醤油味くらいにはなっているはずだ。

 ちなみに麺のほうは前回ラーメンを2人前食べた時に、いわゆる替え玉としてスープはそのままで、麺だけ2人分使っているから、スープは少し余っている。その分を調味料として使ったわけだ。

「へえ〜このラーメンってやつはそんなふうにも使えるんだね!」

「そういえば以前もインスタントスープの素を同じように使っていたな」

「そうそう。チャーハンのほうは米を炒めた料理だよ。こっちのほうは豚骨味のスープの素を使っているんだ」

 チャーハンのほうは白米のアルファ米を使って従来のチャーハンを作り、味付けとして棒状ラーメンの豚骨味のスープの素を使ってみた。

「おお、ただの肉野菜を炒めただけなのに美味しいな! 確かにあのラーメンという料理の味がするな」

「俺の故郷だと、この醤油という調味料をよく使っているんだ。ラーメンのスープの味とはちょっと違っているけれど似たような味を付けることはできそうだね」

「うん、こっちのチャーハンって料理もすごいよ! この前食べた米っていうのを炒めるとこんな味になるんだね。肉と野菜と米の味が香ばしい味と一体となっていて、とっても美味しいね」

「うん、チャーハンも我ながらうまくできたよ。ご飯をパラパラにする技みたいなのがあっていろいろと試したりもしてたな」

 元の世界でもチャーハンはよく作っていたが、米をパラパラにする技もいくつかあって試してみた。ご飯にマヨネーズをかけてから炒めたり、ご飯を水洗いしてから炒めるなどいろいろやってみたな。

 個人的に一番良かったのは、先にご飯と卵を混ぜておく技だったな。卵を多めに使って、半分くらいを先にご飯と混ぜて卵かけご飯にしてからチャーハンを作ると、米がパラパラになって美味しいんだよね。

「相変わらずテツヤが作ってくれるご飯は美味しいよね。僕はこれまでにいろんな街を旅してきたけれど、これだけ美味しい料理はなかなかないよ」

「嬉しいことを言ってくれるね。でもこれはランジェさんが持ってきてくれた肉が美味しいおかげでもあるからなあ」

 今回使っている肉はランジェさんが狩ってきてくれた魔物の肉を使っている。ダナマベアの肉ほど高級な肉ではないが、普段街で買っている肉よりもランクが数段上だ。

 肉野菜炒めにも使っているし、チャーハンのほうはわざわざチャーシューを作っている。燻製肉でも簡単で十分にうまいけれど、チャーシューとはまた違った味だからな。

 ちなみにチャーシューを作る時も醤油ラーメンのスープの素を使っている。先日ラーメンにのせた時も2人には好評だったな。

「いや、私もこれまでにいろんな料理を食べてきたが、その中でもテツヤの料理は群を抜いているぞ。それに単純に焼くだけじゃなく、揚げたり蒸したり煮込んだりと、初めて見るものも多くて新鮮だ」

「そう言ってくれると、俺も作った甲斐があるよ。2人ともおかわりはいる?」

「うん、おかわり!」

「私も少しいただこう」

 こうして作った料理をみんなで食べるのは、やっぱりいいもんだな。ソロキャンプもいいが、みんなでワイワイやるキャンプもいいのはこういうことである。

冒険者の始まりの街でキャンプギアを売ってスローライフ〜アウトドアショップin異世界店、本日オープン!〜

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