「今日の目的地のエイブラの街が見えてきた」
「おお、予定よりも早いですね」
「スレプが頑張ってくれましたね」
アレフレアの街を出て2日目、まだ日が暮れる前だがスレプの引く馬車の先には街の壁が見えてきた。予定では今日の夕方ごろに到着する予定だったから、多少は予定よりも早い計算だ。
これも昨日と同様にスレプが頑張ってくれたおかげだな。最初は足が8本あることに違和感があったが、今ではほとんど気にならなくなって、むしろ可愛く見えるようになってきた。召喚獣とはいえ、やっぱり生き物は可愛いものである。
「当たり前だけれど、アレフレアの街並みとはだいぶ違うね。建物とかも大きな物が多いみたいだ」
「あそこは駆け出し冒険者達が集まってくる街だからね。このエイブラの街も冒険者がよく集まってくる街だよ。アレフレアの街と王都のちょうど間にある街だから冒険者が集まりやすいね」
「なるほど」
どうやらランジェさんもエイブラの街に来たことがあるらしい。この辺りにいる冒険者は最初アレフレアの街に集まり、そこから王都を目指して進むパターンが基本となる。スレプが普通の馬車よりも速いので、道中にあったいくつかの村や街を飛ばしてきている。
このエイブラの街はだいぶ王都に近付いてきたこともあって、Dランク冒険者だけでなく、Cランク冒険者もかなり集まっているらしい。そのため物価もアレフレアの街よりも高く、豪勢な造りをした建物などが多くある。
「テツヤ、予定通り冒険者ギルドに向かう」
「はい、フェリーさん。よろしくお願いします」
まずはエイブラの街の冒険者ギルドへ挨拶に行く。アウトドアショップの能力で購入した商品は王都だけでなく、この街でも卸す予定だ。自分の店の商品を扱ってもらうわけだし、しっかりとあいさつしておこう。ちなみに王都からの帰り道は別の街へ寄ってからアレフレアの街へ帰る。
街の門を通る際に、ベルナさんとフェリーさんが身分証である冒険者ギルドカードを見せたが、門番の人達が2人を知っていたようで、とても驚いて歓迎してくれていた。やはり2人は王都では有名な冒険者なので、この街の人にも広く知られているらしい。
「ここがエイブラの街の冒険者ギルドですね」
「ありがとうございます」
エイブラの街の中をしばらく進んでいき、冒険者ギルドの前までやってきた。この街の冒険者ギルドはアレフレアの街の冒険者ギルドよりも少し小さかった。やはり冒険者の数的にはアレフレアの街のほうがおおいのだろう。
「それじゃあ俺達は馬車の中で待っているぞ」
「ああ、ドルファ。悪いけれど、少しだけ待っていてくれ」
さすがにこれだけ大勢が冒険者ギルドの中に入ると迷惑になってしまうので、中に入るのはベルナさんとフェリーさん、俺とリリアの4人で、他のみんなには馬車で待っていてもらうことになった。
そういえば街の中で召喚獣のスレプは人々の注目をだいぶ集めていたな。召喚魔法自体アレフレアの街では使える人を見たことがないし、スレイプニルみたいな大きな召喚獣を召喚できる人はほとんどいないのかもしれない。
冒険者ギルドの受付で話をすると、すぐに冒険者ギルドマスターの部屋へと案内された。事前に俺達がここに来ることは連絡済みだ。
街中ではスレプが目立っていたが、冒険者ギルドに来てからのベルナさんとフェリーさんの注目度は半端じゃなかった。ほとんどの冒険者が2人を知っているみたいで、声を掛けてくる人こそいなかったが、あちこちから2人を噂する声が聞こえてきた。
「初めまして。このエイブラで冒険者ギルドマスターをしているアントムと申します」
アントムさんは物腰柔らかな30代から40代くらいの長身で細身の男性だ。こう言ってはなんだが、同じギルドマスターであるライザックさんとは全然違う印象だ。……まあライザックさんの見た目だけはちょっとアレだからな。
とはいえ、冒険者ギルドマスターには相応の強さが求められるらしいので、細く見えてもかなりの実力者らしい。
「初めましてアントムさん。アレフレアの街でアウトドアショップという店を開いておりますテツヤと申します」
「はい、もちろん存じておりますよ。この街の冒険者の間でとても有名ですし、実際にアレフレアの街からやってきた冒険者達のほとんどがアウトドアショップの商品を持っております」
「ありがとうございます」
アレフレアの街から普通の馬車なら4~5日くらいの道のりにある街なので、うちのお店で商品を買っていた冒険者も大勢いるらしい。アウトドアショップの評判が遠くの街にまで広がっているのは嬉しい限りである。
「この度はこの街にもテツヤさんのお店の商品を卸してくださるということで、本当にありがとうございます。方位磁石と浄水器を持つことによって、冒険者の生存率が上昇するという報告もアレフレアの街から上がっております。この街の冒険者もとても喜んでくれるでしょう」
「そう言っていただけて何よりです。今後ともどうぞよろしくお願いします」
アントムさんと握手をして、今後のことを少し話してから冒険者ギルドをあとにした。今日はこの街で一晩泊まる。宿のほうはアントムさんがすでに取ってくれていたので、みんなと合流してその宿へと向かった。
「こっ、これはとても立派な宿ですね……」
「フィアのおうちの何倍あるんだろう……」
アンジュやフィアちゃんが呆然としている気持ちがとてもよくわかる。間違いなく、俺もこの世界に来てから見た建物の中でも一番立派で華やかな建物だ。入り口にはキラキラとした装飾品などもあり、明らかに貧乏人は来るなというオーラが見える。
冒険者ギルドの人に案内されてやってきた宿はこの街で一番の宿らしい。普通なら貴族や大商人くらいしか泊まれないようなレベルの宿だ。
「……でも本当に費用は全部冒険者ギルド持ちでいいんだよね? あとで請求されたりしないかな?」
今回の旅の費用はすべて王都の冒険者ギルドが支払ってくれるはずだが、さすがにここまで高級な宿を取ってくれるとは思わなかった。一応従業員の分はこちらで出すと伝えたのだが、それも向こうが出してくれるとのことだった。
「ええ、もちろん大丈夫ですわ!」
「それだけ冒険者ギルドはテツヤに感謝している。あのダンジョンでも使える方位磁石にはこれだけの価値がある」
ベルナさんとフェリーさんがそう言ってくれるが、根っからの貧乏性である俺にこの宿は立派過ぎる気もする。普段はキャンプをしたり安宿に泊まっているくらいだからな。
この宿にある馬車を停める場所にいって馬車を置き、フェリーさんが召喚していたスレプの召喚を解除する。スレプのおかげで、かなりの早さでここまで来ることができた。また明日も馬車を引いてもらうことだし、ゆっくりと休んでもらうことにしよう。
「……外見だけじゃなくて、部屋の中もすごいな」
「僕もこのレベルの宿には数えるほどしか泊まったことがないね」
「もちろん俺は初めてだ。そもそもアレフレアの街にはこれほどの宿がないと思うぞ」
宿の受付をして案内された部屋の内装はとても豪華なものだった。俺が使っているものよりもはるかに大きくて柔らかいベッドが人数分あり、3人で使うには十分過ぎるほど大きく、キラキラとして装飾品がふんだんに使われた部屋だった。
この部屋には男3人で泊まり、隣の部屋には女性陣5人が泊まる。たぶん向こうの部屋もこの部屋と同じかそれ以上に豪華なんだろうな。
「この分だと今日の晩ご飯にも期待ができるね!」
「そうだね。このレベルの宿の食事がどれだけおいしいか楽しみだよ!」
今日の晩ご飯と明日の朝食はこの宿でいただいてから、この街を出発する。これだけ立派な宿の食事がどんなものかはとても気になるところだ。アレフレアにある高級な料理店へ行ったことはあるが、きっとそこよりもおいしいんだろうな。
本当はこのエイブラの街もゆっくり回って、おいしいものを食べ歩いたりしたいところだが、目的は王都へ行くことだからもう明日には出てしまう。今度来るときにはぜひゆっくりと回りたいところだ。
「さすが高級宿だけあって、料理もとてもおいしかったね」
「うん! とってもおいしくて、フィアはもうお腹がパンパンだよ!」
この高級宿の食事はどれもなかなかおいしかった。そもそも肉の味自体がワイルドボアよりも数段上で、噛めば柔らかく肉汁が溢れてきた。もしかしたらワイバーンと同じくらいおいしい肉だったかもしれない。
今は晩ご飯を食べたあと、少しだけ女性陣の部屋へお邪魔している。
「でも味付けはテツヤのほうが上」
「そうですね、私もそう思いますわ!」
「ああ、私もそう思うぞ!」
「ありがとう。でも味付けは俺の手柄じゃないからね。それにしてもアレフレアの街では食べたことのない、いろんな料理が食べられてとても満足だよ」
フェリーさん達やリリアがそう言ってくれるのはとても嬉しいが、基本的に味付けはアウトドアスパイスやインスタントスープや棒状ラーメンのスープの素などを使用している。唯一自分で試行錯誤をして作ったのは焼肉のタレくらいだからな。
しかし街が変われば使われる食材もまったく異なるようだ。アレフレアの街では見たことがない肉や魚などもいくつかあった。特に魚のほうはアレフレアの街では川魚くらいしか見かけないので、久しぶりに海で獲れた魚の味を楽しめたな。
「魚とか貝とかの料理も出ていたけれど、もしかしてこの辺りって海が近かったりするの?」
「うん、王都やアレフレアの街とはまた違う方向だけれど、海が近くにあるイブラルって街がこのあたりにあるんだよ」
さすがランジェさん、いろいろと旅をしてきただけあって、この辺りの地理には詳しいようだ。
「イブラルの街か。以前にアンジュと旅行に行ったことがあったな」
「ええ。数年前ですけれど、一度旅行で行ったことがありますね。海の街だけあって、新鮮な魚料理がとてもおいしかったです。今日の料理も同じくらいおいしかったですね」
「へえ~海が近くにある街か。おいしい食材がいっぱいありそうだね。今回は寄れないと思うけれど、別の機会にまた旅行へ行ってみてもいいかもしれないね」
「ああ、みんなでいろんな場所へ旅行にいくのは楽しいものな」
海の食材もおいしいものがたくさんあるだろうし、一度行ってみたいかもしれない。それにリリアの言う通り、大勢で旅行をしておいしいものを食べるのはとても楽しいものだ。
今回は王都への往復で精一杯だが、しばらくしたらまた店をしばらく休みにしてみんなと一緒にいろいろな場所へ旅行に行くとしよう。
「それではアントムさん、いろいろとありがとうございました。案内してくれた宿はとても快適でした」
「気に入っていただけて本当によかったです。またぜひともいらしてくださいね。今後ともどうぞよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ今後ともよろしくお願いします」
昨日泊まっていたエイブラの街の高級宿でおいしい朝食をいただき、今日も王都への道のりを進んでいく。エイブラの街を出発する際に、この街の冒険者ギルドマスターのアントムさんがわざわざ見送りに来てくれた。
今後は継続的に商品をこの街の冒険者ギルドに卸していくから、アントムさんとはこれからも長い付き合いになるだろう。今度この街に来るときはもう少しゆっくりとこの街を回れればいいんだけれどな。
「それにしてもアレフレアの街から離れると売っている食材が全然違うのは面白いな。市場のほうももう少しゆっくり回れたら良かったんだけれどね」
「アレフレアの街だと街の近くにある大きな森で多くの食材が取れるが、それ以外の食材はあまり流通していないからな」
なるほど、確かにリリアの言う通り、アレフレアの街にはあの大きな森で取れる食材が数多く並んでいるが、それ以外の食材はほとんど見たことがない。まあ、始まりの街なんてどこもそんなもんだよな。
朝エイブラの街を出発する前に食材を仕入れに市場を回った時に、見かけない食材や高価な食材が数多く店に並んでいた。いろいろと気になる食材はあったのだが、先を急ぐ旅でもあるので今回はやめておいた。
「王都の市場にはもっと多くのお店が並んでいますわ。この国一番の大きな市ですから、みなさんが見たことのない食材がいっぱいあると思います」
「王都にはいろんな場所から人や物が集まってくる」
「おお、それは楽しみだ!」
さすがにこの国の王都だけある。一応今回は王都の冒険者ギルドへ挨拶に行くという目的だが、数日間は王都に滞在する予定だ。王都の大きな市場というものはぜひ見にいかなければならないな。
ひとつ気になるのはエイブラの街の市場ですら、アレフレアの街の物価よりも結構高価なお値段だった。この分だと王都の物価はどれだけ高くなるんだろうな。
さて、予定通りいけば、今日の夕方ごろには王都まで到着する予定だ。普通の馬の脚ならこの倍から3倍はかかっていたはずなのだが、スレプのおかげでその道のりをだいぶ短縮することができた。
あまり店を離れることができなかったし、2人が護衛をしてくれるおかげでフィアちゃんも来られるようになった。ベルナさんとフェリーさんには感謝だな。
「やっぱりいつ食べてもこのラーメンという料理はおいしいね! しかもこれがお湯を沸かすだけですぐにできるんだから驚きだよ!」
「こっちのカレーという料理も本当においしいですわ! 少し辛いですが、とてもあとを引く味で独特の食欲を誘う香りと複雑な香辛料の味がたまりません!」
「王都にある高級店よりも間違いなくおいしい!」
今日のお昼ご飯は棒状ラーメンとレトルトカレーだ。というのも王都までは今日中に到着予定なのだが、結構な距離があるので日が暮れるまでに着けるか微妙なところである。そのため、お昼の休憩はなるべく早めに食べられるものにした。
こちらの世界では夜目の効く魔物も多く存在するため、日が暮れてからの移動はとても危険となる。ベルナさんとフェリーさんがいるとはいえ、できる限り暗くなってからの移動は避けたいところだ。
ラーメンとカレーとはいえ、ラーメンには炒めた肉と野菜を乗せて、カレーには燻製肉をトッピングしてある。野外で実際に作ってみたかったため、ラーメンとカレーを両方を作ったから、ひとり分は半分ずつにしてある。
「実際に野外で作るとこんなに早く簡単に作れるのだな。持ち運びが便利で味もおいしいし、確かにこれは冒険者にとって最高の携帯食みたいだ。私が冒険者だったころにこんな商品があったなら、間違いなく常用していただろうな」
「確かにあの臭みが強くて硬い携帯食に比べたらね……」
この世界に来てすぐのころにロイヤ達からもらったあの臭いの強い携帯食を思い出す。確かにあれはこの棒状ラーメンとインスタントカレーとは比較にならない。
お湯を沸かしている間に肉や野菜を炒めつつ、グレゴさんが作ってくれた保存パックに入っているレトルトカレーを温め、お湯が湧いたら棒状ラーメンを茹でてアルファ米にお湯を加えて完成だ。
保存パックもしっかりと密閉されているので、実用性は問題なさそうだな。お湯を用意するだけでこんなに簡単にラーメンとカレーが作れて、なおかつ保存性もあるんだから冒険者達に売れるのは当然だろう。
「やっぱりカレーとラーメンはおいしいね!」
「ああ、簡単に作れるし、ラーメンのほうはいろいろな味があって飽きないからな」
「ええ。どの味もとてもおいしいですよね!」
フィアちゃんやドルファとアンジュにはお店の商品を原価の値段で販売している。その辺りは従業員の特典ということになるな。やはり手軽にできておいしいカレーとラーメンはみんなに大人気のようだ。
昼食を食べて先を進む。幸いそのあとの旅路は順調で、大きな問題も起きることなく、日が暮れる前に王都の街の巨大な壁が見えてきた。
「……これはすごい大きさだね」
目の前に見える巨大な壁は冒険者の始まりの街であるアレフレアの門の倍くらいはありそうな代物だった。こちらの地域ではアレフレアの街とは異なり、大きくて凶暴な魔物も多く生息しているので、これくらい巨大で強固な壁が必要になるのかもしれない。
「当然ながら王都はこの国の街では一番大きな街ですからね」
「壁だけじゃなくて街の大きさもアレフレアとは桁違い」
わかっていたことだが、駆け出し冒険者が集まるアレフレアの街と王都はその規模がまったく異なるようだ。これは壁の中に入るのが楽しみだ!
王都の門でのチェックは一般の列とほとんど並ぶことなく通ることができる貴族や大商人用のチェックがあった。ベルナさんとフェリーさんはそちらのほうへ進んでいく。
どうやら王都の冒険者ギルドからすでに連絡をもらっているらしく、すぐにチェックを終えて門の中に入れてもらえた。今日はもう遅いので、王都の冒険者ギルドへ挨拶に行くのは明日になる。今日はすでに冒険者ギルドで取ってくれている宿へベルナさんとフェリーさんが案内してくれるようだ。
「うわ~道も広いし、おうちも全部大きいよ!」
「……こりゃ驚いた。確かにアレフレアの街とは道や建物の大きさが全然違う」
「それに街並みが規則正しくて、色も区画ごとに統一されていてとても綺麗です」
初めて王都へやってきたフィアちゃんとドルファやアンジュが王都の街並みに驚いている。当然ながら俺もとても驚いている。
アレフレアの街や昨日訪れたエイブラの街とはその規模がまったく異なるのだ。道や建物、そのすべてが大きい。そして色や建物の形が統一されているので、街全体に統一感があってより美しく見える。
「ふふ、初めて王都を訪れる人達はみなさん驚きますわ。明日はもっと大きな通りを通りますよ。そしてこの街の中心にあるあの大きくて白いお城が王城になります」
ベルナさんの示す先には王都の街に入ってすぐの場所であるここからも見えるほど巨大な城がそびえ立っていた。そうか、あまり考えていなかったが、王都ということは、この街にこの国の王族がいるんだよな。
「これまた立派過ぎる宿だな……」
「まさか昨日のエイブラの街の高級宿以上に立派な宿へ泊まれるとはな……」
「うん、僕もこんなに立派な宿に泊まるのは初めてだよ。どうやら王都の冒険者ギルドは本気でテツヤを歓迎してくれるみたいだね」
ベルナさんとフェリーさんに案内してもらった高級宿は昨日泊まったエイブラの街の高級宿よりもさらに大きくて立派な宿だった。俺達3人が泊まる部屋は倍以上の人が泊まれるくらいの大きさで、内装もかなり豪華な造りになっている。
こんな宿だとひとりあたり1泊いくらかかるんだろうという庶民的な考えが出てしまう。どうやら王都の冒険者ギルドは本気で俺達を歓迎してくれているようだ。
「晩ご飯に出た食事も本当においしかったな」
「そうだね。アレフレアの街では食べたことがない料理ばかりだったし。それに食材自体も見たことがない珍しい食材ばかりだったな」
「高級な食材がふんだんに使われていたよ。やっぱり王都は周りの街や村から珍しい食材なんかが集まってくるし、料理の技術のある人達も集まってくるからね。テツヤが作ってくれた料理とは違った味だけどおいしいよ」
晩ご飯はこの宿でいただいたのだが、本当においしい料理の数々だった。高級な食材が多く使われており、香辛料もふんだんに使われているため、アレフレアの街で食べられる料理よりも遥かにおいしかった。
ベルナさんとフェリーさんは俺の料理をおいしいと言ってくれるが、王都の料理に慣れてしまっているからこそ、新鮮な味でおいしかったと感じているのかもしれない。とはいえプロが作った料理と同等の味付けができるアウトドアスパイスはすごいものなんだなと改めて感心してしまう。
「さて、明日は朝から冒険者ギルドへ行って、王都の冒険者ギルドマスターへ挨拶にいくところからだな。……ちょっとその前にみんなに相談したいことがあるんだよね。ちょっと女性陣の部屋についてきてもらっていい?」
ドルファとランジェさんを誘ってリリア達が泊まっている部屋へと移動する。……なんとなくだが、女性陣が泊まっている部屋にいくのってちょっとドキドキするよね。
女性陣の部屋は俺達が泊まっている部屋よりもさらに広くて豪勢な造りとなっていた。単純に泊まる人数が5人だから当然と言えば当然だ。そのおかげで男性陣3人が部屋に入っても十分な広さがある。
「それで相談とはどうしたのだ?」
「ちょっとみんなの意見も聞きたくてね。これから話すことは他の人には秘密にしておいてほしいんだ」
「待って、今防音の魔法をかける。……これでこの部屋の外にここでの話し声は漏れない」
「あっ、ありがとうフェリーさん」
どうやら盗聴などを防ぐ魔法があるようだ。これほどの高級宿ならそのあたりの対策はしてそうだが、さらにフェリーさんが魔法を使ってくれるのならより安心できる。
「相談したいのは俺のストアで購入できる地図のことなんだ」
「……地図というと、テツヤの能力で購入することができるという例のアレか?」
「うん。ベルナさんとフェリーさんに説明すると、俺のストアの能力で地図を購入することができるんです。これがかなり詳細な地図で、このまま普通に販売すると悪用されてしまう可能性があるので、小さな村なんかを省いた簡易版の地図を冒険者ギルドで作ってもらって販売しています」
「そういえば冒険者ギルドで販売されていた。これのこと?」
「あっ、それです。フェリーさんも持っていたんですね」
「私達はいろんな街を移動することが多いですから、基本的に地図はいつも持ち歩いておりますわ。そうですか、安価で精巧な地図が新しく冒険者ギルドで販売されていると思っていましたら、これもテツヤさんが……」
フェリーさんが収納魔法から出した地図は冒険者ギルドで販売されている簡易版の地図だ。やはりAランク冒険者の2人であっても、地図は常備するのが当然と言えば当然なんだな。元々それほど重いものでもないし、フェリーさんの収納魔法があれば荷物にもならないもんな。
「アレフレアの街へいた時に地図を購入すると、アレフレアの街周辺の地図が描かれていたんですけれど、さっき試しに地図を購入してみたら……」
「なるほどねえ、確かにこれは王都を中心にした精巧な地図みたいだ」
「ああ、ここが王都でこっちが昨日通ったエイブラの街だな。なるほど、どうやら現在テツヤが地図を購入した地点を中心に描かれるということか」
「うん、多分リリアの言う通りだと思う。昨日泊まったエイブラの街でも試してみればよかったな。帰りの道のりでも、もう一度地図を購入してみるよ」
王都に到着してから思い出したのはこの地図の事だった。前々からアレフレアの街以外の場所に行ったら地図を新たに購入しようと思っていたのだが、すっかりと忘れていた。
「……これはすごいですね。川の位置や山の位置なども詳しく記されておりますわ。」
「私たちが知らない小さな村なんかもたくさんある」
この辺りを周辺に活動しているベルナさんやフェリーさんが知らない村なんかもあるみたいだ。もしかしたら隠れ里みたいな村もこの世界にはあるのかもしれない。
「それとちょっと大きいから荷物になると思って購入しなかったんだけれど、魔物図鑑と植物図鑑のほうも買ってみるよ」
アウトドアショップの能力を操作して魔物図鑑と植物図鑑のほうも購入してみる。移動の際はフェリーさんの収納魔法に入れてもらうとしよう。
「……やっぱり、アレフレアにいた時とは違う内容になっているみたいだ。ベルナさん、フェリーさん、確認してもらってもいい?」
王都周辺に生息している魔物や植物についてはさっぱり分からないので、2人に内容を確認してもらう。ただ、ちらっと見ただけでもアレフレアの街で出てくるゴブリンとかワイルドボアみたいな魔物よりもはるかに強そうな魔物ばかりだった気がする……
「オークジェネラルにレッドワイバーン……確かにこの辺りに生息する魔物ばかり」
うわあ……聞いただけで絶対にヤバそうな魔物ばかりだな……
この世界に転生してきて、アレフレアの街の近くにやって来れたのは本当にラッキーだったようだ。この付近に転生してきたら一瞬で死んでいただろうな。
「ええ、こちらの植物もこの辺りに生息する植物ばかりですね。……この植物にはこんな効能もあったのですね、初めて知りましたわ」
「その辺りも地図と同じみたいですね。どうしようかな、さすがにこのまま王都の冒険者ギルドの人に見せるのもちょっとなあ……」
「えっ、なんで? きっとみんな喜んでくれると思うよ!」
……うん、みんながフィアちゃんみたいな純粋な人ばかりならいいんだけどなあ。
「ええ~と、これだけすごい力がテツヤさんにあると分かれば、みんなテツヤさんを欲しがったりいろんな場所に行かせたりしようとするかもしれないということですね」
「あっ、そっか! テツヤお兄ちゃんがどこかに行っちゃうのは嫌だよ!」
「なるほど、さすがアンジュだ!」
アンジュがフィアちゃんにも分かりやすく説明してくれる。というかドルファもあまり分かっていなかったっぽいな。
あまりにも精巧な地図や図鑑などの情報はとても便利な情報であると共に、面倒なやつらを引き寄せてしまうことになるもんな。下手をしたらこの国の地図を作るために国中を歩きまわされたり、別の国へのスパイとして利用されてしまう可能性なんかもあったりする。
アレフレアの街の冒険者ギルドマスターであるライザックさんとパトリスさんには信用もあったから俺の能力について話したが、さすがに初めて会う王都の冒険者ギルドマスターに話すのはちょっと怖い……
「王都のギルドマスターはそんなことをしないとは思うがな……」
そういえばリリアも王都の冒険者ギルドで活動をしていたから、王都のギルドマスターは知っているんだよな。
「そうですね、あの方はそういった国同士のことに関しては無頓着だと思いますわ」
「基本的に国の政治には無関心」
「なるほど、ちょっと冒険者ギルドマスターについていろいろと教えて」
明日はいよいよ王都の冒険者ギルドに行くことだし、ギルドマスターのことについて、いろいろとみんなに話を聞いておくことにしよう。
「これが王都の冒険者ギルドか……大きいのもそうだけれど、とにかく豪勢な造りだね」
「この国で一番の冒険者ギルドですからね。対外的に冒険者ギルドの力を見せるためにも立派に作らないと駄目なのだと思いますよ」
「それにしても限度はあると思うがな。外見で驚いていたら、中に入ればもっと驚くと思うぞ」
王都に到着した次の日、リリアとアレフレアの街から護衛でついてくれたベルナさんとフェリーさんと一緒に王都の冒険者ギルドへとやってきた。他のみんなには宿で待っていてもらっている。
王都の冒険者ギルドはアレフレアの街の冒険者ギルドよりも少し大きく、何よりとても立派な建物だった。そもそも王都の建物自体がどれも立派な造りとなっていたが、それよりもさらに立派な造りである。
カランッカランッ
アレフレアの街の冒険者ギルドよりも立派で大きな扉を開くと、扉に設置されている鈴が冒険者ギルド内に鳴り響いた。中にいた冒険者達がこちらのほうに視線を送ってくる。
その鋭い威圧感のある視線はアレフレアの街にいる冒険者達と別物であるということは、戦闘の素人である俺にですらわかる。……というかここにいる冒険者達の装備は駆け出し冒険者とは段違いだな。
「おっ、Aランク冒険者の灼熱帝のベルナと蒼翠嵐のフェリーだ」
「相変わらずベルナ様はとても美しい! あっちの隻腕の女は初めて見るな」
「いや、前に2人と一緒にいたところを見たことがあるぞ。確かBランク冒険者だったはずだ」
冒険者ギルドの中にいた冒険者達がパーティ内でいろいろと話している声が聞こえてくる。ベルナさんとフェリーさんは王都で有名な冒険者らしいから、他の冒険者達にも知られているようだ。
それにリリアのパーティも2人と合同で依頼を受けていたらしいから、その関係で他の冒険者達にも知られているみたいだな。
「……あっちのしょぼい男は誰だ。まさかパーティを組んだとかじゃねえだろうな?」
「いや、知らねえな。冒険者の格好じゃねえし、ただの依頼者だろ」
……その通りだが、しょぼいはやめい! そりゃこっちの3人に比べてたら一般人のオーラしか感じられないのは分かるけどさ!
それにしてもリリアの言っている意味がよく分かった。確かに王都の冒険者ギルドは内装がとても豪華で、テーブルやイスなどの家具に至るまでそのすべてが立派なものであった。
そしてアレフレアの冒険者ギルドよりも冒険者の数はだいぶ少ないが、各々が良い武器や防具を揃えている。おそらくここにいるのは高ランクの冒険者ばかりなのだろう。なんと言うか、向こうの冒険者ギルドとは雰囲気がまるで違うな。
「ベルナ様とフェリー様ですね。お話は承っておりますので、ギルドマスターの部屋までご案内します」
受付にはとても美人な受付嬢さんがいた。化粧もしているようだし、服装もなんだかおしゃれな気がする。こういった細々したところにもアレフレアの街の冒険者ギルドとの違いを感じてしまう。
俺達が冒険者ギルドに来ることはすでに聞いているらしく、少しも待つことなく冒険者ギルドマスターの部屋の前へと案内された。
「やあ、君がテツヤくんか。遠路はるばるよく来てくれたね。私がこの冒険者のギルドマスターであるルハイルだ」
ギルドマスターの部屋に入ると、そこには机に両肘を立てて某司令官のように座っている30代前半くらいの女性がいた。様々な髪の色があるこの世界の中でもあまり見かけない銀色の髪をしており、凛とした雰囲気を醸し出している。椅子から立ち上がって右手を出して俺に握手を求めている。
何も知らなければ、王都の冒険者ギルドマスターを務めてるのが女性であるということにとても驚いていたと思うが、ルハイルさんが女性であるということはすでに昨日みんなから聞いていた。
「は、初めまして。テツヤと申します。ど、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む。ああ、私が女性ということで驚いているのか。そうだな、初めて会った人には良く驚かれるよ」
……いや、そのことについてはすでにみんなから聞いていたのだが、ルハイルさんの胸がこれほどまでに大きいということはさすがに聞いていなかったぞ! 女性の胸のサイズなんて俺には分からないがおそらくG……H……いや、もしかしたらその上もあるんじゃないのか!?
しかしそこは元ブラック企業の営業で鍛えてきた経験を活かして、これ以上ルハイルさんやみんなにその動揺をバレないよう努めた。
そしてなんとかルハイルさんの胸を意識しないように、視線をルハイルさんの目に固定する。当たり前だが、取引営業先のお客様の胸を注視したりするなんて完全に論外である。
ランジェさんを連れてこなくて良かったかもしれない。ルハイルさんが女性と知って、ランジェさんも冒険者ギルドに来たいと言っていたんだよね。まあ、ランジェさんが巨乳派かは知らないのだが。
ランジェさんとドルファには俺達がいない間、アンジュやフィアちゃんの護衛を頼んである。実際に王都でうちの店の従業員が狙われる可能性もゼロではないからな。
「ベルナ、フェリー。王都までの護衛の任務ご苦労だったな」
「いえ、普通の護衛依頼よりも楽しい依頼でしたわ」
「おいしい護衛だった」
「………………」
ご飯の意味かな? まあそう思ってくれたのなら何よりだ。
「リリアも元気そうで何よりだぞ。まさか冒険者を引退したリリアが噂の店で働いているとはな」
「ギルドマスターも相変わらず元気そうですね」
リリアはルハイルさんとも旧知の仲らしい。
「まずは先日のダンジョン攻略に協力してくれてありがとう。テツヤくんの提供してくれたこの魔道具のおかげで、王都近くにできた高難易度ダンジョンを迅速に攻略することができた。本当に感謝している」
机の上に置いてある方位磁石を指でいじりながら感謝の言葉を口にするルハイルさん。
机の上に目線を落とすと、見なくてもいいルハイルさんの巨大な胸まで目に入ってしまい、慌てて目線を上に戻した。
「ダンジョンのボスを倒して実際にダンジョンを攻略したのはベルナさんとフェリーさんだと聞いていますから、私の手柄ではありませんよ。とはいえ、少しでも当店の商品が攻略の役に立って良かったです」
「確かにダンジョンを実際に攻略したのはベルナとフェリーを含む冒険者たちだが、それでもテツヤくんが提供してくれた道具によって攻略が予想よりもずっと早く進んでくれ、時間や被害、攻略にかかる費用が大幅に削減されたのも事実だ。それにこの2人がなぜかいつも以上にやる気を出していたとも聞いているよ」
……そういえばベルナさんとフェリーさんに渡した食料やお菓子のおかげで、2人がものすごくやる気になったと言っていたな。
「こちらこそ商品の料金以外にも報酬をいただいて感謝しております。それに私だけではなく従業員を含めて、ここまでの旅費を出してくれてありがとうございます」
「なあに、テツヤくんが今回貢献してくれたことに比べれば大したことないさ。なにせ今回現れたダンジョンは王都から近すぎてね……その割にダンジョンで発生する魔物の素材には大きな旨みがなく、そのくせそれぞれの階層が広くて魔物を間引くだけで一苦労だった。早々に片付けたい案件だったから本当に助かったよ」
なるほど、どうやらこの王都の近くに現れたダンジョンは本当に面倒なダンジョンだったらしいな。
「それにテツヤくんの店の噂は今回協力を要請する前からこの王都にも届いていたよ。始まりの街であるアラフレアの街で、他では見たことがない便利な道具を非常に安く販売してくれる冒険者のための店とね」
「それはとても光栄ですね。私はあの街の冒険者に命を助けられたので、少しでもその恩を返せればと思い、あの店を始めましたから」
「そうなると我々もテツヤくんを助けたというその冒険者には感謝しなければならないな。そしてそんな商品を王都にまで卸してくれるというのだから、こちらもそれ相応の歓迎はさせてもらうさ。それにしてもこの方位磁石というものは本当に不思議な魔道具だ。どういう仕組みであのダンジョン内の一定の方向を指し示すのか不思議でしょうがないよ」
そう言いながら方位磁石を振るったり、宙に掲げたりしながら不思議そうにそれを眺めるルハイルさん。
……その動作の度にルハイルさんの大きな胸が揺れるので、それを意識しないように努めるのが地味に辛い。男の視線というものは、女性の大きな胸の引力の前には自然と吸い込まれてしまうものなのである。
「そうですね。よろしければ方位磁石の作成方法をお教えしましょうか?」
「……っんな!? テツヤくん、それは本気なのか!」
「はい。もちろん無償でとはいきませんし、うちの店では特殊な作り方をしているので、他で作れるかの保証はできませんけれどね」
元の世界のうろ覚えの知識だが、確か昔の羅針盤などに使われていた磁石は何らかの鉱物に落雷が落ちたり地磁気を浴び続けることによって、自然と磁力を持ったものを使用していたはずだ。さすがに何の鉱物なのかまでは覚えていない。もう少し科学の授業を真面目に受けておけばと少し後悔している。
ちなみに方位磁石の作り方を教えるということは事前にみんなとも相談してある。……決してルハイルさんの大きな胸に屈したというわけではないから、勘違いしないように!
「今回のダンジョン攻略で方位磁石がダンジョン内でも使用できるとわかりましたので、今後の需要はさらに増えるでしょう。となるとひとつの商店が方位磁石を扱うといろいろと問題が出てくると思います。その前に冒険者ギルドへ作り方を教えたほうがいいと思いましてね」
ダンジョン内でも使えるとなると、今まで以上にちょっかいを出してくるやつらが現れて、アレフレアの街の冒険者ギルドでは対応できなくなってしまうかもしれない。それならその前にもっと大きくて権力を持っていそうな王都の冒険者ギルドにその製法を譲渡しようと考えたわけだ。
アウトドアショップも初めて店を開いた時よりもだいぶ大きくなって、今では王都や他の街に商品を卸すほどになっている。
店を開いた時方位磁石は店の人気商品としてお客さんを大勢集めてくれたが、アウトドアショップの能力のレベルも上がって、今では他にも魅力的な商品がたくさんある。もう、うちの店で独占して販売する必要もないだろう。
もっとも磁力を持たせられる鉱石がこの世界にあるのかは分からないが、この世界には魔法があることだし、雷魔法によって人工的に磁石を作ることができる可能性も十分にある。
それと合わせて、この方位磁石に対し王都の冒険者ギルドマスターのルハイルさんがどう対応するのかを見て、もっとヤバそうな地図と図鑑についてを話すかどうかを決める予定だ。
「ああ、もちろん冒険者ギルドとしても最大限の報酬を約束しよう! 確かにこの方位磁石という道具はとてつもなく有益な代物だ。こちらでもいろいろと調べさせてもらったが、この方位磁石はダンジョン内だけでなく海の上でも使えるようだ。何の指針もない海の上ではこの道具がいかに素晴らしいものか、想像は難しくないだろう?」
すでにそこまで調べているのか。確かに方位磁石が一番活躍できる場は何の指針もない海の上である。確か元の世界でも昔は太陽の位置から方角を見極める道具があったようだが、あれは雲があって太陽の位置が分からない時には使えないという欠点があったからな。
俺も失念していたが、方位磁石を欲しているのは冒険者よりも海の商人だったのかもしれない。
「実はすでに大きな商店の一部はテツヤくんの店を調べ始めている。こちらとしても今後は大事な取引相手となるわけだし、テツヤくんが王都へ来た時に忠告しようと思っていたところだったよ」
おう……思ったよりも事態は深刻だったらしい。確かに一商店が扱うものとしては大きすぎる案件だもんな。大きな商店が相手だと貴族なんかが出てくる可能性もあるし、さすがにアレフレアの街の冒険者ギルドだけでは対応しきれない可能性がある。
それにしてもルハイルさんは冒険者ギルドマスターなのにこういった方面に関しても気が回るようだ。当然ルハイルさんも元は有名な冒険者だったとリリアたちから聞いている。同じ冒険者ギルドマスターでもライザックさんとはえらくタイプが違うもんだな……
「ご配慮ありがとうございます。私としてもちょうど良いタイミングだったかもしれませんね」
「商人や貴族というものは冒険者以上にお金には敏感のようだからね。そういえばテツヤくんも商人だったか。まあテツヤくんは商人という割に商人らしくはないようだ。おっと、これは誉め言葉だよ」
「ええ。自分で言うのもなんですが、私はあまりお金や地位には興味がありませんからね。私の命を救ってもらった冒険者たちの力になれて、のんびりとした生活が送れればそれでいいんですよ」
こちらはお金や地位などでは動かないことをルハイルさんにアピールしておく。俺は適度に働いてのんびりとした生活が送れればそれで満足だ。
「……なるほど、やはり実際にテツヤくんと会えてよかったよ。こういった人となりは実際に会ってみないと分からないものだからね。納得したよ、ライザックのやつが気に入るわけだ」
「ルハイルさんはライザックさんとは同じパーティだったらしいですね。みんなに聞いた時は本当に驚きましたよ!」
そう、王都の冒険者ギルドマスターであるルハイルさんとアレフレアの街の冒険者ギルドマスターであるライザックさんは元同じ冒険者パーティだったらしい。それを聞いた時はめちゃくちゃ驚いた。同じパーティのメンバーが、別の街の冒険者ギルドマスターを務めているってすごいことだよな。
以前にライザックさんはルハイルさんを知っていた風だったが、元パーティメンバーならそれも当然だ。
「ああ。ライザックのやつは相変わらず悪人面をしているのだろう?」
「いえ……まあ……」
なんともあいまいな言葉で返してしまった。確かにライザックさんと初めて会った時はどこのヤーさんかと疑っていたからな……
「まあ、あいつが顔に似合わず、いつも若手の冒険者のことを考えているやつだということは私も良く知っている。心構えは私よりもよっぽど冒険者ギルドマスターとして相応しいのだろうな……ただ、あいつは昔から考えなしに動くやつだったから少し心配でもあるんだ……」
さすが元パーティメンバーだっただけあって、ライザックさんのことを良く知っているようだ。顔に似合わずか……うん、申し訳ないが俺もそこは否定できない。
「その点は副ギルドマスターのパトリスさんがうまく手綱を握ってくれているみたいですよ。少なくとも今のアレフレアの街は駆け出し冒険者にとって、とても過ごしやすい街です」
「それはいいことだな。王都も近くの街から様々な人や物が集まる賑やかな街だが、その分いろいろとしがらみが多いことが欠点だ。とはいえ、観光する分にはとても楽しい街だから、テツヤくんたちもぜひこの街で楽しんでいってくれたまえ」
「はい、従業員のみんなも王都に来られてとても楽しそうにしていますよ。改めてこの度は王都まで招待していただきまして、本当にありがとうございます」
「こちらこそテツヤくんとは長い付き合いになりそうだよ。これからもよろしく頼む」
ルハイルさんと握手を交わした。まだ初見だが、ルハイルさんとはこれから長い付き合いになりそうな気がする。
そのあとは今後の取引についてルハイルさんと話を詰めていった。
方位磁石については他に漏らさないという条件で、うろ覚えの知識をルハイルさんに伝えた。この王都にはたくさんの鉱石があり、雷魔法を使える者もいるそうなので、まずはいろいろと試してみるらしい。
方位磁石の外側の部分は俺がストアで購入した物を参考にドワーフがいる鍛冶屋へ依頼するようだ。このあたりはさすが異世界だなと感心した。
方位磁石の作り方を教えた段階で、これまた結構な報酬をいただく。方位磁石が完成したら、ロイヤリティといった感じで売れれば売れた分だけ俺にも報酬が入ってくる契約となった。う~ん地図もそうだけれど、なんだかお金がものすごく入ってくるな……
「ふう~なんとか無事に交渉が終わって良かったよ」
「お疲れさまだな。無事に契約がまとまったようでよかったぞ」
王都の冒険者ギルドをあとにする。ルハイルさんと今後のことについて話し合い、契約が無事に結ばれた。
「さすがにテツヤの商品を置かないはずがない」
「ええ。あれだけおいしい携帯食なら、冒険者だけでなく、他の商人でも欲しがることは間違いありませんわ!」
方位磁石の件だけでなく、他の携帯食などの商品も王都の冒険者ギルドに置いてもらえるかを確認するために味を見てもらったが、ルハイルさんは二つ返事で了承してくれた。
特に保存パックに入れたようかんとチョコレートバーにはものすごく反応してくれていたな。やはりベルナさんとフェリーさんと同様に、王都でもこれほど甘いお菓子はそこまで味わえないようだ。……本来は栄養補給をするための携帯食なんだけれどな。
3人ともルハイルさんとの交渉がうまくいかないという考えはなかったらしい。正直なところ、俺もみんなの反応を見てたぶん大丈夫だと思っていたけれどな。
「予定通り例の件は今回の方位磁石のルハイルさんの対応を見てから決めるということにしよう」
今回は方位磁石の件について交渉しただけで、俺のアウトドアショップの能力によって出した地図や図鑑についてはまだルハイルさんに話してはいない。さすがに初めて出会った段階で、こちらの手札すべてを晒すようなことはしない。
とはいえ、今のところルハイルさんのこちらに対する対応はまったくもって問題なさそうだ。しっかりとこちらに対する配慮もあるし、ちゃんと商店や商業ギルドなどへの配慮もあった。……本当に同じパーティにいたとはいえ、ライザックさんとはタイプが違うな。
アレフレアの街に戻ったら、パトリスさんに相談するとしよう。
「そうだな、ルハイル殿の対応なら大丈夫だとは思うが、一応アレフレアの街にいるパトリス殿の意見は聞いた方がいいだろうな」
……あとライザックさんの意見もだね。俺もちょっと忘れかけていたけれど。
「あんなことを言っておりましたが、ギルドマスターも十分素晴らしいギルドマスターだと思いますわ。女性で王都の冒険者ギルドマスターになるのは生半可な実力では無理ですからね」
「私も一対一なら多分勝てない」
確かに女性ながらにして王都の冒険者ギルドマスターになるのはよほどの実力がなければ難しいだろう。というかあれだけの強大な魔法や召喚魔法を使えるフェリーさんでも勝てないのか……
「とりあえず、これで王都へやってきた一番の目的は達成したからほっとしたよ。今日と明日はみんなでゆっくりと王都を回ろう」
「ああ、私も王都に来たのは本当に久しぶりだ。いろいろと変わっているようだし楽しみだぞ!」
無事に王都の冒険者ギルドへの挨拶は終わった。これで王都へやってきた一番の目的は果たしたこととなる。今日の午後と明日はゆっくりと王都を観光して、明後日の朝にアレフレアの街へ向けて出発する予定だ。
「さあ、まずは宿に寄ってみんなと合流しよう」
と言いながら宿へ戻っている最中なのだが、まずは宿にいるみんなと早く合流したい。
……というのも先ほどから大勢の視線を一身に浴びているのだ。それもそのはず、ベルナさんとフェリーさんは王都では有名な冒険者でアイドルのような存在だ。冒険者ギルドでもそうだったが、冒険者ギルドを出てからも街の人たちの視線がものすごい……
しかもさらに今日は綺麗な女性であるリリアもいるわけだから、目立ってしょうがない。先ほどから美女たちに囲まれている唯一の男である俺に対しての視線の数が本気でヤバい……いや、もはや視線というよりも殺気だな、これは。
驚くべきことにその視線は男性だけでなく、女性からの視線もすごい……王都ではアイドル並みに人気があるとは聞いていたが、ちょっとなめていたな……
「テツヤさん、お帰りなさい」
「テツヤお兄ちゃん、お帰り!」
「アンジュ、フィアちゃん、ただいま」
宿へ戻るとみんなが待っていてくれた。ようやく周りの人からの視線を感じなくなって一息つけたよ。
「テツヤさん、お帰り。王都の冒険者ギルドとの交渉は大丈夫だったか?」
「ドルファ、ただいま。うん、無事に交渉が終わったよ。とりあえず予定通り、方位磁石が作れないかこっちで試してもらうことになったね。他の商品も王都の冒険者ギルドに卸してもらえることになったよ」
「おっ、それはよかったな!」
みんなに王都の冒険者ギルドとの交渉の結果を伝えると、みんなほっとした様子だった。どうやらみんなも王都の冒険者ギルドと交渉するとあって、いろいろと心配してくれていたみたいだ。
「無事に交渉できてよかったよ! テツヤ、そういえば冒険者ギルドマスターのルハイルさんはどんな女性だったの?」
そう聞いてくるのはランジェさんだ。ランジェさんも冒険者ギルドまで一緒についてきたがっていたもんな……
「……ええ~と、若い女性なのに、すごく仕事ができる女性のイメージだったね。ただ俺だとどれくらい強いかまではわからなかったな」
「なるほど、今度王都に来るときは僕もぜひ会わせてほしいね!」
「……そうだね、考えておくよ」
胸がものすごく大きいという情報は必要ないよね、うん……教えるにしても夜に男だけの部屋で教えるとしよう。
「それじゃあみんなで王都を観光しようか」