聖女召喚に巻き込まれて異世界に召喚されたけど、ギルドの受付嬢の仕事をみつけたので頑張りたいと思います!!

 コルザの話を私とグレイとムドルさんとメーメルは聞いていた。

「お前たちの思っている通り、今回の件は確かに私がしたことだ。だが、従うしかなかった。いや、知らなかったと言った方がいいか」

「それは、どういう事ですか? 知らなかった、従うしかない。どうやったら、そういう状況になるのか分からない」

「グレイフェズ、ティハイド様のことは知っているな」

 そう言いながらコルザはグレイに視線を向ける。

「ええ、国王陛下の叔父にあたる方のはず。それと今回のことと、何か関係があるんですか?」

「うむ、私はティハイド様を信じていた。だが、騙されたのだ。これは、言い訳になってしまうかもしれぬがな」

「いったい何があったのですか?」

 そうグレイに聞かれコルザは、つらそうな表情になった。

「最初はこの町で商売を始めたい者がいるから、ブレファス()に口添えをして欲しいと言われた」

「おかしい。普通なら直接、ブレファス様と商談するはず。それが、なぜコルザ様の所に」

 そう言うとグレイは首を傾げる。

「私もそう思って、聞いたのだ。なぜ兄の所ではなく、私なのかと」

「ティハイド様は、なんて言ったんですか?」

「返って来た言葉は……。直接、兄と話すよりも私を間に入れて、交渉した方が早く承認される。そう言っていた」

 コルザは、一点をみつめそう言った。

「それを鵜呑みにしたと言うことですか?」

「いや、全て信用した訳じゃない。だが、ティハイド様が嘘をつく訳もないと思ってしまったのだ」

「それで、承諾して保証人になったという事ですか?」

 そう問われコルザは溜息をつく。

「ああ、そうだ。だが、まさか商売が人身売買だとは思わなかった」

「書類の内容は、読まなかったのですか?」

「読んだ。ちゃんと確認した。兄も書類を確認している。だが、何がなんだか分からない。あとでみせられた書類には、そのこと……人身売買の文面と承諾のサインが……」

 そう言いコルザは、悔しそうな表情をしている。

「それはおかしい。すり替えられたなら、サインを真似たのか」

「いいや、あの筆跡は間違いなく私のものと兄のだ」

「なるほどですね。二重文章ですか」

 それを聞き私も含め全員がムドルさんの方をみた。

「ムドル、二重文章ってなんだ?」

 グレイは不思議に思い首を傾げる。

「知らないのですね。二重文章とは……。予め文章を書き、一時的に消える魔法で何もない状態にする。その上に特殊な魔法のペンで書きます。それとそのペンで書いた物は、あとで消すことが可能」

「ってことは、その二重に書かれた文章のせいで……」

「グレイ、恐らくそうだと思われます」

 それを聞いていたコルザは、苦虫を噛み潰したような表情になり遠くをみつめた。

「クッ、それが本当なら……」

「うむ……もしそれが本当ならば、魔族が関与しておるかも知れぬのじゃ」

「確かに、メーメル様の仰る通りですね」

 そう言われ私は、不思議に思う。グレイとコルザも首を傾げていた。

「どういう意味だ?」

 コルザがそう問う。

「その方法と魔法を知る者は、魔族以外いませんので」

「外部に、その方法が漏れたという事はないのか?」

「グレイ、それはあり得ぬのじゃ。その魔法は、魔族以外には使えぬのでのう」

 そう言われ私とグレイとコルザは納得し頷いた。

「そうなると、ティハイド様が魔族と手を組んでいる可能性が高い」

「クウッ、そんな方法で……騙されたというのか」

 悔しさのあまりコルザは、唇を噛み締める。

「そうなると、ティハイド様がこの件に関与している。それと……厄災の方も関係しているかもしれない」

「グレイ、それはどういう事ですか? まさか、厄災が人為的によるものだと」

「ああ、そういう事だ。ルイの能力で調べてもらったから間違いない」

 そう言いながらグレイは私の方を向いた。

「うん、間違いないと思う。厄災の発生源は、アクロマスグって所だった」

「ティハイド様の領地か。しかしなぜ、そのことが分かる?」

 そう聞かれ私は、どう答えた方がいいか悩んだ。

「コルザ様、そのことも踏まえながら話を進めます」

 そうグレイが言うとコルザは、頷き私の方に視線を向けた。
「これはコルザ様を信じて話す。ルイは、この世界の者じゃない」

 そう言いグレイはコルザを見据えた。

「なるほど、思った通りか。国で聖女召喚を行うと言っていたが……。もしや聖女さまなのか?」

 そう言われ私は首を横に振る。

「いいえ、聖女は清美(友達)の方です。私は、その召喚に巻き込まれてこの世界に来ました」

「巻き込まれて……そんなことがあり得るのか?」

「分からない。だが、実際に起きた」

 グレイは私の方に視線を向けた。

「私もなんで巻き込まれて、この世界に来たのか分かりません」

「巻き込まれたとしても、召喚されたことは事実。本当に、ただ巻き込まれただけなのでしょうか」

「ムドルもそう思うか? 俺もそう思っている。いや、召喚した神官カイルディ様も同じ意見だ」

 私はそれを聞き驚いた。


 もしそうだとしたら、何のためにこの世界に召喚されたの? それに……そもそも、聖女だけを召喚する儀式のはず。それなのに、どうして……。


 そう思考を巡らせる。

「本当に巻き込まれたのかのう。誰かが意図的に仕組んだように思えるのじゃ」

「誰かが……って、どういう事?」

 私はなんでメーメルがそう言ったのか理解できなかった。

「だがそうだとしても、そんなことできるのか?」

「神であれば、可能かもしれませんね」

「神がルイを召喚したっていうのか? それも聖女の召喚に紛れて……」

 グレイはつらそうな表情で私をみる。

「うむ、今の話を聞く限りだと……ないとも言えんだろう。そんな芸当ができるのは、恐らく神ぐらいだ」

「コルザ様……そうかもしれない。だが、なんのために?」

「それは分からぬ。そういえばルイ、なんらかの証は現れていないのかのう?」

 そう聞かれ私は、自分の体のみえる範囲を見回した。

「どうだろう? みえる範囲にはないよ」

「そうなると、分からない場所に証がある可能性も考えられる」

「そうなのかぁ。でもそうだとしたら、なんの証だろう?」

 私は思考を巡らせる。そうだとしたら……どこかに証があり、何か使命があるんだろうと思った。

「証の確認か。メーメル、ルイの体を調べてくれないか?」

「分かったのじゃ。ルイ、向こうの部屋に行こうかのう」

 そう言うとメーメルは、隣の部屋に向かう。私は、そのあとを追った。



 ――場所は移り、バールドア城のティハイドの部屋――


 ティハイドはソファーに座り考えている。

(まだ式は始まらぬのか? おかしい、どうなっている)

 そう思っていると左手の腕輪の魔石が光、魔法陣が展開された。

 それに気づきティハイドは、右手で魔石に触れる。

「何かあったのか?」

 “ティハイド、確認のための連絡だ”

「シュウゼルか、計画の通り決行する。ただ、気になることができた。式典が一向に始まらない」

 そう言い目を細め一点をみた。

 “私の方からそっちの様子は分からない。どうする? 本当にいいのか”

「問題ない。それよりも、タルキニアの町の方はどうなった?」

 ティハイドは窓の方に視線を向ける。

 “まだ分からん。連絡が来ていないからな”

「そうか、まぁ心配はないだろう。あとはお前に任せた。時刻になったら、迎えをよこせ」

 “ああ、分かっている”

 そう言うとシュウゼルは通信を切った。

 それを確認するとティハイドは考え始める。

(何か変だ。フウルリスクの連絡もまだこない。ちゃんと調べているのか?)

 ティハイドはそう思いながら険しい表情をした。

「まあいい。もし式典が中止になったとしても、計画は遂行されるのだからな」

 そう言いティハイドは「ワハハハハ――」と笑う。


 ――そして刻々と、その時が近づいていたのだった。
 ここは市場街の空き家。私とメーメルは、グレイ達が居る部屋の隣にいた。

「ルイ、何をやっておる。脱がなければ、調べられぬのじゃ」

「うん、分かってるんだけどね。なんかメーメルに、ジーっとみられているとさぁ」

「ハァー、分かったのじゃ。妾は、後ろを向いておる」

 そう言いながらメーメルは後ろを向く。

 それを確認すると私は急いで脱いだ。

「メーメル、脱いだよ。恥ずかしいから早くしてね」

 それを聞きメーメルは振り返る。そして私を、ジッとみた。

「うむ、思ったより育っておるのう」

「えーっと……メーメル、どこみてるの?」

 そう聞くとメーメルは、私のそばまできて胸を指差す。

「ルイの胸じゃ。それにくびれも……羨ましいのう」

 そう言われ私は顔が熱くなり……。

「な、って……きゃあぁぁぁあああああ――――!?」

 つい叫んでしまった。

 すると扉が開く。

「何かあったのか?」

「ルイさん、どうされました?」

 その声がする方を私とメーメルは向いた。出入口でグレイとムドルさんが私の方をみて固まっている。

「ちょ、出てけぇぇえええええええ――――。うわあぁぁん――――」

 そう言いながら服を持ち蹲る。メーメルは自分が着ている服を私に被せてくれた。

「二人共、何をやっておるのじゃ!」

 そう言いメーメルは、猛スピードでグレイとムドルさんの方に駆け出した。と同時に、二人を隣の部屋へ押し出す。

 その後メーメルは、私のそばに駆け寄る。

「二人は追い出したから心配ないのじゃ。それよりも大丈夫かのう?」

「ヒクッ……間違いなく……ヒクッ……みられた、よね? あーどうしよう……最悪、お嫁にいけないよ〜!!」

 そう言い私は泣きながらメーメルをみた。

「気持ちは分かるのじゃが。そこまで考えなくても、良いと思うがのう」

「うう……グスン……だって、真面にみられたんだよ」

「うむ、そうじゃな。それなら、こういうのはどうじゃ。二人にみた責任をとってもらうというのは?」

 そう問われ私は考える。


 責任、っていう事は……結婚? でも、やっぱりそういうのは……二人が愛し合ってするもんだよね。それにムドルさんまで巻き込むのは違うし。


 そう思い扉の方へ視線を向けた。

「ねぇ、メーメル。あの扉からみえたと思う?」

「みえたと思うのじゃ。特にムドルはのう」

「……そうなんだね。ハァ……」

 私は落ち込んだ。メーメルに慰めてもらっても、流石に立ち直れない。これからどうすればいいのかと自問自答した。だけど、思いつかず。

「ルイ、二人のこと嫌いなのかのう?」

「ううん、好きだよ。グレイのことが好き。ムドルさんも好きだけど多分、グレイに抱いている感情と違う。それにムドルさんはメーメルの……」

「前にもムドルにフラれたと言ったのじゃ」

 メーメルはそう言い私を覗き込む。

「うん、聞いた。だけどメーメルは、まだムドルさんのこと好きなんでしょ?」

「そうじゃな。今でも好きじゃ。でもムドルには、既に想い人がおる」

「そうかぁ。だけど、ムドルさんの想い人って誰だろう。でも、私の知らない人だよね」

 そう言いメーメルをみた。メーメルは溜息をつく。

「ルイの知ってる者じゃ」

「私が知ってる人? 誰だろう……んー、分からないよ」

「分からぬなら良い。そのうち、分かると思うのじゃ」

 そう言われ私は頷いた。

「そっかぁ、どんな人だろう」

「……ムドルも報われんのう」

 ボソッとメーメルが呟く。私はその言葉が、ハッキリ聞こえなかった。

「報われないって、何が?」

「なんでもない。ただの一人言じゃ。それよりも、落ち着いたようじゃな」

「んーそういえば、いつの間にか気持ちが楽になってる」

 それを聞きメーメルは、ニコリと笑みを浮かべる。

「良かったのじゃ」

「うん、ありがとう。だけど、真面に顔を合わせられるかだけどね」

「そうじゃな。それはそうと、早く調べるのじゃ」

 そう言われ私は、コクリと頷いた。そして立ち上がる。

 メーメルは私の体を調べ始めた。

「あったのじゃ!」

「えっ!? どこどこ……」

 それを聞き探すが見当たらない。

「右側の腰じゃ。後ろだからみえぬ」

「そうなんだね。どんな証だろう?」

「これは、下向きに交差した二本の剣と盾と竜じゃ。色は紫じゃな」

 そう言うとメーメルは考え始める。

「なんの証だろう? 雰囲気だけなら、勇者の紋章みたいだね」

「そうじゃな。その部分なら捲ればみせられるのじゃ」

「じゃあ、判断してもらうってこと?」

 そう問うとメーメルは頷いた。

「その方が良いのじゃ」

「そうだね。まだちょっと恥ずかしいけど……」

「服を着たら隣の部屋に行くのじゃ」

 そう言われ私は、急いで服を着る。

 そして服を着ると私は、まだちょっと恥ずかしい気持ちが残りながらも、メーメルと隣の部屋へと向かったのだった。
 ここは市場街にある空き家。グレイフェズとムドルとコルザが待機している部屋だ。

 時は――メーメルにより、二人が隣の部屋から追い出された所まで遡る。

 グレイフェズとムドルは扉の近くで心ここになく、ボーっとし上の空だ。おまけに二人共、タラリと鼻血が垂れている。――みていられない。

 そんな二人のことが気になりコルザはそばまでくる。

(これはいやはや、みてしまったようだな。まぁ、男なら仕方ない症状か。そのうち正気に戻るだろう)

 そう思い二人のそばで待機することにした。


 ――グレイフェズはルイの裸をみてしまい妄想、真っ最中である。

(ルイの……真面にみた。頭から離れねえ~……いや、却ってみれて良かったのか? そうそうみれないしな。いやいや、俺は何を考えてんだ!
 ……そういえば、怒ってたな。流石に、謝っておくか)

 デレデレ、納得をする、真剣な表情などの百面相を繰り返していた。どうみても異様な光景である。


 ――一方ムドルは顔を赤らめ、ボーっと無表情のまま妄想していた。

(真面にみてしまいました。どうしましょう……このままでは、感情が抑えきれません。いえ、もしかしてこれはチャンスでしょうか?
 でも、ルイさん怒っていましたし。まずは、謝った方がいいですよね。それが礼儀です……)

 そう考えるも、まだ症状は治まらないようである。


 そうこう二人は考えていたが、ふとあることを思いお互い見合う。

「ムドル……そういえば、お前もみたんだったな」

 そう言いムドルを睨む。

「そうでした。グレイもでしたね」

 ムドルは、キッとグレイフェズを睨んだ。

「忘れろ、いいな!」

「フッ、それは私のセリフですよ。忘れてもらいましょうか!」

 お互い見合い今にもバチバチとバトルが勃発しそうである。

 それをコルザは、なぜか笑いみていた。勿論、二人を止める気配はない。

「なるほど、引く気はねえってことか」

「ええ、元からそんなつもりはありませんので」

 そう言い二人は、お互い睨み合いながら立ち上がる。十センチの差のせいで、グレイフェズがムドルを見上げている状態だ。

「面白いじゃねえか」

「やり合うつもりですか? 私は構いませんが」

 お互い胸倉を掴み合う。そして、取っ組み合いの喧嘩になってしまった。

 グレイフェズが右拳でムドルに殴りかかる。それをムドルは避けるがグレイフェズの蹴りが腹部に直撃した。

「……やりますね」

 そう言いムドルはすかさずグレイフェズに目掛け回し蹴りをする。それをグレイは避けた。だがムドルは即座にグレイフェズを掴まえ反対側の壁まで投げ飛ばす。

 グレイフェズは壁に激突し意識がもうろうとするも、フラフラしながら立ち上がった。血が額を伝いポタポタと落ちる。

 すかさずムドルはグレイのそばにきた。そしてムドルは、グレイフェズの胸倉を掴む。

「これで、終わりですか?」

 そう言われグレイフェズは、ニヤリと笑みを浮かべる。

「クッ……んなわけねえだろう、がよっ!」

 そう言ったと同時にグレイフェズは、ムドルを素早く掴まえ腹部を蹴り上げ後ろに投げ飛ばした。

 ムドルは何もできないまま壁に激突する。フラフラしながら立ち上がった。額を血が伝い落ちる。

「ツウ……やりますね」

「お前もな。まだやる気か?」

「私は、どちらでも構いませんが」

 そう言いお互い鋭い眼光で睨み合う。

 再びバトルが展開されるかというその時……。

「二人共、何をやっておるのじゃあぁぁあああ!?」

 メーメルがそう言いながら猛ダッシュで二人のそばにくる。それと同時にグレイフェズとムドルを順に投げ飛ばした。――女とも思えないほどの力だ。流石は魔族である。

 泪が居る扉の前に飛ばされグレイフェズとムドルは、何がなんだか分からず辺りを見渡した。

 それと同時に二人は、泪が視界に入り青ざめ顔を引きつらせる。

 そんなグレイフェズとムドルをみた泪は、みてはいけない物をみたような表情で顔を引きつらせていた。
 なぜグレイとムドルさんが争っているのか、私には分からなかった。メーメルにより、投げ飛ばされて来た二人が目の前にいる。

「えっと……これって、どういう事なの?」

「ルイ、これは……。あ、そうそう……さっきは覗いて悪かった!」

 謝ってくれたけどグレイは、何か誤魔化しているみたいだ。

「ルイさん、先程は申し訳ありませんでした。これは……そうですね。とあることで意見が合わず、口論になり喧嘩に発展してしまいました」

 流石はムドルさん、ちゃんと謝罪したあと何があったか説明してくれた。

「そうなんだ。何があったか分からないけど、喧嘩はよくないよ」

 そう私が言うと二人は、ウンウンと頷いている。

「何をしておるのじゃ。いい大人が二人して取っ組み合いの喧嘩とは、流石の妾も呆れたのじゃ」

 そう言いながらメーメルはこっちに向かってきた。

「め、メーメル様。申し訳ありません」

「ムドル、まさかお前がなぁ。でも、今はこんなことをしてる場合じゃない。そのくらいは、分かっておるじゃろう」

 そう言われムドルさんは、メーメルに深々と頭を下げる。

「まぁ良い。グレイもじゃぞ」

「ああ、そうだな……悪かった。確かにメーメルが言うように、こんなことをしている場合じゃない」

「そういう事じゃ。さて、ルイのことなのじゃが」

 何もなかったようにメーメルは話し出した。

「分かったのか?」

 グレイフェズがそう問う。

「うむ、腰の方に紋章があったのじゃ」

 そう言いメーメルは、私の方にくる。

「ルイ、後ろを向くのじゃ」

 私はそれを聞き、ウンと頷き後ろを向いた。

 それを確認するとメーメルは、私の服を捲る。

「右側にあるのじゃ」

 私はメーメルに腰の右側を触られ、ゾクッとした。

「二本の剣が下向きに交差してる」

「剣の上に竜。剣の下に盾が描かれてますね」

「うむ、紫色の紋章か。この証は、何を意味しているのだ」

 そう言いコルザは考え込む。

 みんなが確認したのをみるとメーメルは、捲っていた私の服から手を離す。

「誰も知らないの?」

 そう言いながら私は、みんなの方を向いた。

「そうみたいだな。そうなるとこれを手掛かりに調べるしかない」

「そのようだな。そういえばルイ、君の能力について聞いていなかったが」

「私の能力……」

 コルザに聞かれルイは言ってもいいのか分からず、チラッとグレイをみる。

 それに気づいたのかグレイは、私の方をみた。

「ルイの能力は【見極め】です」

「見極め、か。名前からして、探索系のようだな」

 そうコルザに聞きグレイは首を横に振る。

「いいえ、それだけじゃないみたいです」

 そう言いグレイは、知っている限り私の能力について説明した。

「なるほど、使い方次第では攻撃スキルとしても使えるのか。中々面白い能力だな」

「コルザ様、そうですね。それはそうと、話は終わっていない」

「そうでした。ルイさんの能力で、厄災の発生源が分かったのでしたよね?」

 そう言われ私は、コクリと頷く。

「うん、それとデビルミストのことも分かったよ」

「人為的にって言ってたな。誰がやったか分かるか?」

「グレイ、覚えていることしか答えられないけど。デビルミストを召喚したのは【ベルベスク・マキュル】って言う魔族だよ」

 私がそう言うと、ムドルさんとメーメルは驚いた。

「ベルベスク……ですか。まさかマルべスウム国の魔道士が、この件に関与しているとは思いませんでした」

「そうじゃな。それに、あの者が単独で動いているとも思えぬのじゃ」

「二人共、ソイツのこと知っているのか?」

 そうグレイが問うと、ムドルさんとメーメルは頷く。

 そしてムドルさんは、そのことについて話し始めた。
「ベルベスク・マキュルは、マルべスウム国の魔道士。魔道士長シュウゼルの配下の者です」

「なるほど……そういえば、魔族の国は三ヶ国あるんだっだな」

 グレイがそう言うとムドルとメーメルは頷いた。

「うむ、妾の国はその中の一つ……ダークルスティ国じゃ。まさかマルベスウムが、この件に関与しておるとはのう」

「本当に、国絡みなのでしょうか。シュウゼルが、勝手に部下を動かしている可能性もあるように思えます」

「そうじゃな。あの国の王が戦を好むとは思えぬのじゃ」

 私はそれを聞いて不思議に思う。


 魔族ってもっと怖いイメージで、悪いことを平気でしているのかと思ってた。メーメルとムドルさんも魔族だけど、悪い人じゃないし。
 それを考えると人間と魔族の違いって能力の差だけで、そんなに私たちと変わらないんじゃないのかな。だけど、一部の人だけかもしれない。


 そう自問自答した。

「そうなると、その魔道士長がティハイド様と手を組んでるかもな」

「ええ、その可能性が高いと思います」

「もしこの町に現れたデビルミストが、ティハイド様の指示によるものなら」

 そうグレイが言うとコルザは真剣な表情で頷く。

「うむ、私の口封じと事が露見しないように町を破壊するのが目的化もしれんな」

「その可能性はありますね」

 なんかムドルさんの様子が変だ。それにメーメルも目だけをキョロキョロさせている。

「他の魔族がこの空き家におるのじゃ」

 小声でメーメルがそう言う。

「まさか、今までの話を聞かれたのか?」

「グレイ、それがおかしいのです。動く気配がなく、匂いはするのですが」

「その匂いって、どこからするの?」

 そう聞くとムドルさんは立ち上がり、さっき私が居た部屋に向かう。

「まさか、ルイが居た部屋に!?」

 グレイは立ち上がり、ムドルさんを追いかける。

「ちょっと待って、そうだとしたら……みられてたってこと?」

「そのようじゃな。恐らく、魔法か何かで自分の匂いと気配を消しておったのじゃ」

 それを聞き私は、恥ずかしくなった。そして蹲り、頭を抱える。


 うわあぁぁああ――――。他の人にもみられてた。無理無理、最悪だよ。


 私はそう考えたら涙が出てきた。

「ルイ、お前はメーメルとコルザ様とここにいろ! 俺とムドルでみてくる」

「そうですね。まぁ私だけでも大丈夫だと思います、が」

 それを聞き私は、グレイとムドルさんの方をみる。なぜかお互い睨み合っていた。

「う、うん……ありがとう……そうする」

 それを確認すると二人は、何か言い合いをしながら隣の部屋に入る。
 ここは市場街の空き家。そして泪とメーメルとコルザが居る部屋の隣の部屋だ。

 グレイフェズとムドルは、この部屋に潜んでいる者を探す。

 匂いを辿りながらムドルは、部屋の奥に進む。

 片やグレイフェズは、気配を探りながらムドルと同じ方へ向かう。

「グレイ、別に同じ方を探さなくてもいいのですよ」

「別にお前のあとを追いかけている訳じゃない。偶々同じ方に向かってるだけだ!」

 そうこう言い合いをしながら更に奥へと向かった。


 グレイフェズとムドルは、部屋の奥にある古びた机と壁の間をのぞきみる。

「いたな!」

「そうですね。恐らく魔法か何かで、気配を消していたのでしょう。ですが気絶して時間が経ち、効力がなくなった。そのため、気配と匂いを察知できたのかもしれません」

「なるほどな。それで、コイツがそうなのか?」

 そう問うとムドルは頷いた。

「ええ、この魔族の男は間違いなく……ベルベスク・マキュルです」

「会ったことがあるのか?」

 そう聞かれムドルは頷いた。

「昔、メーメル様のお供で、マルべスウム国を訪れた時に何度か話をしました」

「そうか。それで、どうする? 間違いなく、コイツはルイの裸をみている」

「そうですね……。このまま拘束し連れて行くのも、流石に……」

 そう言いながらムドルは両手の指を、ポキポキと鳴らす。

「その様子じゃ、お前も俺と同じ意見みたいだな」

 グレイフェズはベルべスクを睨む。

 その後、ベルべスクがどうなったのかを詳しく語るまでもなく……。二人に、ボコボコにされた。

「無抵抗なヤツを、殴ったり蹴ったりするのは嫌だが……コイツは別だ」

「私も同じ意見です。さて、拘束して向こうに連れて行きましょう」

 そうムドルが言うとグレイは、コクッと頷きベルべスクをロープで拘束する。

 その後ムドルは、ベルベスクを担ぐ。

 そしてグレイフェズとムドルは、隣の部屋に向かった。



 ――場所は変わり、バールドア城の用水路――


 あれから清美は、サクリスに嫌いな蜘蛛の巣を除去してもらいながら、出入口の前まで来ていた。

「キヨミ、ここを出れば外だけど……まだ城の近くだから用心しよう」

 それを聞き清美は、コクリと頷く。

 それを確認したサクリスは、錆びれた扉を手前に引いた。


 ギギギギギィィイイイ――そう音をたてながら扉が開く。


 サクリスは清美の方を向いた。

「ちょっと待って。外の様子を確認してくる」

「うん、分かった。気をつけてね」

 そう言われサクリスは、ニタアと笑い頷く。

 それをみた清美は苦笑する。

 サクリスは様子をみるため外に出た。

 その間、清美は周囲を警戒しながらサクリスを待つ……。

(大丈夫かなぁ。ここまで上手くこれたけど。ううん、ここまで来たんだから心配ないよ。それにもしもの時は、能力を使えば逃げ切れるはず)

 そう思いながら自分の右手をみる。

 そうこう思考を巡らせているとサクリスが戻ってきた。

「外は大丈夫みたい。誰も居なかったよ」

 サクリスはそう言うと、コッチだと清美に合図し外へと向かう。

 それをみた清美は、サクリスのあとを追った。
 ここは市場街の空き家。あれからグレイとムドルさんは、傷だらけの、んー……もっと酷いかな? ベルべスクを連れてくる。

 私はそのベルべスクから離れていた。だけどメーメルに言われ、仕方なくベルべスクのそばまでくる。

「えっと……今の話だと、この人がベルべスクって人なんだね」

「ああ、そうだ。ルイ、お前も一発殴るか?」

 そう言われ私は首を横に振った。

「ううん、やめとく。でも、なんでこんなに傷だらけなの?」

「そ、それは……。そうそう……ベルべスクが目覚めてしまい抵抗しましたので、二人でなんとか取り押さえたのです」

 明らかにムドルさんの仕草がおかしい。

「そう、そういう事だ。それより、このベルべスクをどうする?」

「そうですね。しばらく目を覚まさないと思いますので聞き出すのは無理かと」

「そのよじゃな。何もここまで、痛めつけなくても良かったと思うのじゃがのう」

 そうメーメルに言われグレイとムドルさんは苦笑する。

「これでこの件に、魔族が関与してると証明されました」

「ティハイド様と魔族が。それも厄災を……何のために?」

「うむ……今日、城で聖女さまのお披露目をする式典が行われる」

 それを聞きムドルさんは、険しい表情になった。

「嫌な予感がするのですが。式典が行われるとなると……」

「ティハイド様は、間違いなく参加する。……まさか!?」

「そのまさか、かもしれぬのじゃ」

 そう言いメーメルは険しい表情になる。

「ティハイド様は聖女ごと、この国を滅ぼすつもりじゃ。だとすれば、ここでこうしてる場合じゃない!」

「グレイ、待ってください。なんの策もなく乗り込むのは、無謀すぎます」

「ムドル、そうかもしれない。だが……」

 そう言いながらグレイは、どこか遠くをみていた。

「これは私の推測ですが。このベルべスクが何か知っているかもしれません」

「まさか、わざわざ叩き起こして聞き出すつもりか?」

「いいえ、可能か分かりませんが……ルイさんの能力で調べられないかと」

 そう言うとムドルさんは私をみる。

「どうだろう? 調べるだけなら【プローブ】で大丈夫かな」

「なるほど、その方がいい。だが、できれば特定できた方がいいだろう」

「うん、それなら【見極めレベル2】だと、内容の見極めだから合わせて使ってみるね」

 私はそう言い両手をベルべスクの頭に添えた。

 《プローブ!!》《見極めレベル2!!》

「厄災、ティハイド、今回の件に関係している全て知っていることを教えて!!」

 そう言い放つと両手が光る。その光が両手から放たれ、ベルべスクの頭を覆った。すると情報が私の頭の中に入ってくる。


 これって、まずい。早くしないと……。


 そう思いこのままの体勢で私は口を開いた。

「予想通りだよ。この国を、ううん……バールドア城からタルキニアの町までの範囲のみ壊滅させるつもりみたい」

「ちょっと待て! それって、どういう事だ? そもそも、どうやってその範囲のみだけを……」

「結界を張って行うみたい」

 そう私が言うとグレイは首を傾げる。

「そんな規模の結界が張れるのか?」

「可能ですね。数名の者が行った場合、それか……どこかに魔法陣を仕掛けて置けば結界は張れます」

「結界は魔族しか張れないのか?」

 そう聞くとムドルさんは首を横に振った。

「その知識と魔力が高い者であればできます」

「じゃあ、式典をみてる民衆に紛れていても気づかないな」

「そうなりますね。ですが、結界の中だけなら」

 グレイはそれを聞き口角を上げ笑みを浮かべる。

「ああ、却ってやり易い」

「ええ、あとは残りの情報を調べるだけです」

 そう言われ私は、ベルべスクが知っている情報を全て調べて伝えた。
 私はベルべスクの記憶から更に情報を探った。それをみんなに伝える。

「……ベルべスクの知っていたことは、今回の誘拐事件の一部。それとデビルミストの件に、結界のことぐらいか」

「まさか、厄災を起こしていたのが魔族。今まで起きた厄災も……」

「あり得るな。ルイ、厄災の正体は黒魔術だったんだよな?」

 そう聞かれ私は頷いた。

「うん、そうだよ。それに城で厄災の全てが解き放たれるみたい」

「城で……この町でじゃないのか?」

「んーこの町での厄災は、あのデビルミスト二体だけみたいだよ」

 そう答えるとグレイは考え始める。

「恐らくその二体で事が足りると、判断したのかもしれませんね」

「それなら、今のところこの町は大丈夫だな」

「そうですね。そうなると……」

 ふと私は思う。


 二人共、喧嘩してたのに何もなかったように会話してる。それに、それだけじゃない。草原でのデビルミスト退治の時もそうだった。
 それと、考え方が似てる。気のせいかもだけど、息もぴったりだ。


 そう考えながら私は、グレイとムドルさんを順にみた。

「グレイフェズとムドル……二人共、似ているな」

 そう言われグレイは、嫌な顔をする。

「ムドルと俺が似ている……って、どこがですか? どうみても違うかと!!」

 それを聞いたムドルさんの方は、なぜか下を向いていた。

「確かに……私も似ているとは到底、思えません!」

 そう言いお互い睨み合っている。

「妾も似ていると思うのじゃ」

「メーメル様。どこをどうみたら、そうなるのですか?」

「どうみたって、違うだろう!」

 その様子をみて私も似ていると思った。

「話し方は似てないけど。仕草や考え方、行動が似てる気がする」

 そう私が言うとムドルさんは、急に黙り込み下を向く。

「ムドル、どうしたのじゃ? そいえば、自分のことについて話すと言っておったが。そのことと関係があるのかのう」

「メーメル様……それは、話さないでも済むのならと思っていましたが……そうもいかないみたいですね」

「どういう事だ? まさか俺にも関係あることじゃねえよな」

 そう言いグレイはムドルさんを見据える。

「さあ、どうでしょうか。ですが、今このことを話している場合でもないかと」

「確かに、そうだな。それにその様子じゃ。まだ話す覚悟が、ちゃんとできてないんだろう?」

「グレイ、ええ……そうですね。やはり、もう少し時間を頂きたいかと」

 そう言いながらムドルさんは、どこか遠くをみるような目をした。

「うむ。その時がきたら、私にも聞かせてもらうぞ」

「はい、勿論です。本当に、申し訳ありません」

 ムドルさんはそう言い深々と頭を下げる。

「それはそうと、どうするこれから?」

「そうですね。すぐ城に行きたいところですが……」

「そうもいかないな。コルザ様とベルべスクを……。そうか、ベルべスクは使えるな」

 そう言いグレイは、ニヤリと笑みを浮かべた。

「……なるほど。なんとなくですが、何をしようとしているのか分かりました」

 二人は見合い笑っている。私はやっぱり二人共、似てると思った。