ここは古びた倉庫の中。グレイフェズは、向かってくる男たちの方へ猛突進する。
男たち四人は、グレイフェズを囲み一斉に攻撃を仕掛けた。
一人はナイフ、もう一人が剣で攻撃。あとの二人が素手で殴りかかる。
それをいとも簡単にグレイフェズはリズムカルに避けていく。
(こいつら然程、戦闘の経験がねえな。ってことは……)
そう思い剣を鞘に収まったままの状態で持ち身構えた。
即座に、向かいくるナイフを持つ男の懐に入る。すかさず鞘に収まったままの剣を腹部に思いっきりあてた。
ナイフを持った男は、余りにも速くて何もできずその攻撃を真面に受け気絶しその場に倒れる。
休む間もなく、向かいくる剣を持つ男に攻撃を仕掛けた。
男は剣を振り上げる。
それをみてグレイフェズは、素早く懐に入ろうとした。
だが、二人の男が殴りかかってくる。
それに気づきグレイフェズは、殴りくる二人の方を向きながら剣を持つ男に目掛け回し蹴りをし自分から引き離す。
すかさず向かいくる二人の男の腹部に、鞘に収まったままの剣を渾身の力であてていく。二人の男はそのまま気絶しバタバタと床に倒れていった。
グレイフェズは素早く体勢を立て直し、剣を持つ男の方を向き見据える。
男は剣を持ちながら体勢を整えた。と同時に、グレイフェズの方に向かおうとする。
それをみたグレイフェズは、素早く剣を鞘から抜いた。と同時に振り上げ、男の持つ剣に目掛け刃をあてる。
男の持つ剣は手から離れ宙を舞う。
すかさずグレイフェズは、剣を鞘に収めたあと男の懐に入った。その後、即座に右手の拳で男の顔を渾身の力を込めて殴る。
殴られ男は壁の方まで飛ばされた。そして男は、壁に激突し気絶する。
グレイフェズはそのまま壁へときた。
(これで、片づいた。思ったよりアッサリだった、な)
そう思いながら拘束しようとリーダー風の男の方に視線を向ける。
するとリーダー風の男の頭付近に、モコモコした漆黒の霧状の物が現れた。
「まさか、あれは!?」
そう言いグレイフェズは、リーダー風の男からその霧状の物を遠ざけるため動こうとする。
だが間に合わず、その霧状の物はリーダー風の男の体内へ侵入していった。
「クソッ、まずい。だが、なぜアレがここに現れた?」
リーダー風の男の体から漆黒のオーラが放たれる。
それと同時にリーダー風の男の体は、異常なまでに強化され至る所の筋肉が盛り上がっていった。
(どうする。まだ、完全にアレに支配されていない。今ならやれるか? でも、ここじゃ被害がでる……。
仕方ない、場所を変えた方が良さそうだ。コイツが完全体になるまでに時間はあるし。このことを、今のうちにルイ達に知らせておいた方がいいな)
そう思いバッグから便箋とペンを取り出す。その後、簡単に訳を書き記した。そして泪の名前を書くと、便箋の魔法陣に魔力を注ぐ。すると便箋は、パッと消える。
(これでいい。だがなぜアレがここに……。ここまで厄災が、かつて俺がいた国のように……)
そう思い俯き唇を噛んだ。
「ああ、クソッオォォォ! コイツは、もう戻れない……ってことは、やるしかねえよな」
そう気持ちを入れ替えるとグレイフェズは、変わりゆくリーダー風の男の方を向き行動に移したのだった。
ここは市場街。私はメーメルと商人の娘さんと市場街を駆け抜ける。
本当にグレイ、大丈夫なのかな?
そう思い立ちどまり、後ろを振り返った。
「ルイ、何をやっておる。早くここから離れるのじゃ」
立ちどまったことに気づいたメーメルがそう私を促す。
そう言われ私は、駆け出そうとする。すると目の前に、パッと便箋が現れた。それに気づき便箋を取る。
「メーメル、待って!」
呼び止めるとメーメルと商人の娘さんは、立ちどまり私の方をみた。
「いったい、どうしたのじゃ?」
メーメルはそう言いながら私の方に歩み寄る。そのあとから、商人の娘さんがきた。
「今、グレイから手紙が届いたの」
「グレイから……何があったのじゃ」
「どうだろう。とりあえず読んでみるね」
私はグレイから届いた便箋を読んだ。
そこには……今、倉庫で起きていること。これからどう行動し何をするのかが書かれていた。
それらを私は、二人に読み伝える。
「そのようなことが起きておるとは……」
「うん、グレイは草原の方にその男の人を転移させるって」
「転移……どうやってするつもりじゃ?」
そう問われ私は首を傾げた。
「ここに書かれてないから分からない」
「人間が容易に転移させるのは無理なはずじゃ。そうなると、なんらかのアイテムを使うつもりかのう」
「どうなんだろう。草原……どの辺だろう? 私もグレイの……」
そう考え私は、どこに居るかも分からないグレイを思い遠くをみつめる。
「グレイの所に向かうとしても。今はとりあえず、マスターに倉庫のことを伝えるのと……この娘を依頼人の所に連れて行くのが先じゃ」
「……そうだね」
そう言い私は気持ちを切り替えた。
その後、メーメルはギルマス宛てに手紙を書き送る。
それから私たちは、急ぎ依頼人の泊まる商店街にある宿屋に向かった。
――場所は移り、ゴルザの屋敷の書斎――
現在、コルザとトゼルが机を挟み話をしている。
ムドルはそこから離れた場所で二人をみていた。
そうコルザは、トゼルとの会話を聞かれたくないのと、この部屋から出して変に勘繰られたくなかったからである。
だがムドルは魔族だ。耳はかなり良い。そのため、このぐらいの距離ならば聞こえる。
(攫った少女とは、ルイさんですね。あとはグレイが助け出すだけ……)
そうこう考えながら、更に二人の話に耳を傾けていた。
「……!?」
するとムドルは、嫌な気配を感じる。そしてトゼルの方に視線を向けた。
(これは……なぜアレがここに?)
ムドルは咄嗟に体が動く。そうトゼルの近くに、漆黒の霧が現れていたからである。
即座に机の方に向かったムドルは、間に合わないと判断しトゼルじゃなくコルザへと飛んだ。
そして、素早くコルザをトゼルから引き離した。
「ここから離れた方がいい」
「これは、どうなっている? あの黒い霧は、いったいなんだ!」
「それは、あとで話す。ここに居ては危険だ」
そう言われるもコルザは、何がなんだか分からない。だがムドルの慌てようをみて、危険な物なのだと思い頷く。
その後ムドルとコルザは部屋から出て、廊下側で警備をしているユウムとビスガスにここから離れるように伝える。
そしてムドルは、ユウムとビスガスにコルザを任せたあと、また書斎へと戻って行ったのだった。
ここは商店街にある宿屋。そして商人の泊まる部屋である。
私とメーメルは、依頼人に娘さんを引き渡した。その後その部屋のテーブルを挟み私とメーメルは、依頼人の真向かいのソファーに座っている。
そして事情を話すと私とメーメルは、部屋をあとにし宿屋から商店街に出た。
「これで、依頼の方は大丈夫だね。あとは、グレイの居場所を探すだけ……」
私はそう言いながら辺りをキョロキョロする。
「うむ、でもどこに居るか分からぬ。ただ草原と書いてあるだけじゃ」
「そうだね。だけど……」
そう思い遠くをみつめた。
「……転移すれば可能じゃ。しかし、闇雲に探してものう」
「転移、できるの?」
「できる。できるのじゃが……」
メーメルは明らかに嫌な顔をしている。
「できるなら……ここに居るより」
「そうなのじゃが……本来の姿にならないと駄目なのじゃ」
「それって、魔族の姿?」
そう問うとメーメルは、コクリと頷き私を見据えた。
「ここで魔族になる訳にもいかぬ」
「そうだね。でも、どこか目立たない所なら大丈夫なんじゃ?」
「そうじゃな。でも、間に合うかじゃ」
そう言われ私は、確かに闇雲に転移しながら探したとしても間に合わないと思う。
「だけど……それでも……」
そう思うも諦めきれない。
「うーむ。仕方ない、やってみるかのう」
メーメルは観念しそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべる。
「メーメル、ありがとう」
感謝しそう言い私は頭を下げた。
その後、私とメーメルはこの場から離れる。
グレイ、大丈夫だよね? 私が行って何ができるか分からない。だけど……傍に居たいの。
こんな気持ちになったのは初めて。これって、なんなんだろう。凄く胸が苦しいよ。
私はそう思いながら、メーメルと駆けずり回り目立たない場所を探し歩いた。
――場所は変わり、バールドア城の地下にある用水路――
清美とサクリスは、慎重に先へ先へと進む。
曲がり角の壁に寄りかかりながらサクリスは、警備が居ないかを確認する。
「今なら大丈夫、行こう」
そう言われ清美は、サクリスの後ろで「うん」と小声で言った。
その後、二人は周囲を警戒しながら左に曲がり更に先へと進み歩く。
サクリスは曲がり角がある場所で静止する。
誰も居ないことをサクリスは確認した。その後、清美に「こい」と促す。そして曲がらずに、目の前の橋を渡り先に進む。
(ここまで、なんとかみつからずにこれたけど……大丈夫かな。本当に……泪の所に、無事に辿り着けるの?
ううん、今はそんなことを考えている場合じゃない。辿り着けるのじゃなくて、辿り着かないとね)
そう思いながら清美は、サクリスのあとを追った。
ここはコルザの屋敷の書斎。
ムドルは机の前に居るトゼルの側まできた。
「やはり……この黒い霧は、デビルミスト。ですが、なぜ……ここに」
そう言いトゼルをみる。
トゼルの体からは、漆黒のオーラが放たれ筋肉がミルミル隆起していく。
「今は、それを考えている余裕がありません。そうなると……いやですが、致し方ありませんね」
そう思いムドルはトゼルから少し離れた。その後、左手の腕輪を外す。
(この男をこの場から遠ざけるには、どこかに転移させるしかありません。それをやるには、私が魔族の姿になる必要があります。
……今は、ここに誰もいない。仕方ありませんね……やりますか)
一瞬、気持ちが揺らいだ。あれこれ思い悩む。だが目の前で体を変化させ苦しんでいるトゼルをみていて、このままここで手をこまねいていても仕方ないと思い決心する。
ムドルは眼前に両手を翳す。そして魔族語で詠唱した。
すると魔法陣が展開していき、そこから黒い光が放たれる。その黒い光は、ムドルを覆い包んだ。
黒い光が消えると魔族の姿へと変わる。
その姿は然程の変化がない。しかし肌の色は黒みがかっている。額の左側には、銀色の小さなツノが一本。耳の形が少し尖っていた。
ムドルは自分のみえる範囲を見回す。
「はぁ、この姿はいつ以来でしょうか? それはそうと……」
そう言うとトゼルの方に歩み寄る。
「ササッと移動しましょう」
トゼルに向け両手を翳した。その後、魔族語で詠唱し始める。
《大地の精 現の地と別の地 異空の狭間 その扉を開き 我と彼の者 我、思う場所へ転移されたし!!》
そう言いながらこの町から少し離れた草原を思い浮かべた。
するとムドルとトゼルの真下に、大きな魔法陣が展開されていく。
魔法陣が展開し終え二人は、スッと消える。
――場所は、市場街にある空き家――
私とメーメルは、人通りの少ない場所にある空き家に来ていた。
「メーメル、ここなら大丈夫だね」
「そうじゃな。だが、気がのらぬ」
そう言いながらメーメルは、部屋の中央に向かい歩く。
それを私は、ジッとみつめる。
メーメルは目の前に手を翳し聞きなれない言葉を発した。
……魔族語かな? それに、これって詠唱なの?
そう思いながら私は、その場で待機する。
するとメーメルの目の前に魔法陣が現れた。その後、黒い光が放たれメーメルを覆い包む。
黒い光が治まるとメーメルの姿が、少しだけ変わっていた。
「うわぁ、可愛い~。羊の獣人みたい!」
そう私が言うとメーメルは、明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
「だから嫌なのじゃ!! この姿になるのは……」
「えっ? こんなに可愛いのに……」
「そう言ってくれるのは嬉しい。でものう……これでは、魔族としてどうなのかと思うのじゃ」
そう言うとメーメルは、ハァーっと息を漏らした。
「そういう事かぁ。でも、怖がられなくていいと思うけどなぁ」
「ふぅ、そうじゃな。そう思えば、少しは気が楽かもしれぬ」
メーメルはそう言いニコッと笑う。
「うん、そうそう。それでいいと思うよ」
「うむ。……それはそうと、転移せねばな」
そう言われ私は、コクリと頷く。
その後、メーメルの転移の魔法で町の外の草原へと向かった。
ここはタルキニアの町から南東側にあるタータム草原。そして、町から遥か数十キロと離れた場所にグレイフェズはいた。
地べたに蹲り苦しそうに唸りながら変貌していくリーダー風の男を、グレイフェズは見下ろしている。
(さて、ここからどうする?)
グレイフェズのその姿は容姿以外、見間違いそうだ。
――時は少し遡り、ここは市場街にある古びた倉庫。漆黒の霧デビルミストが体内に入り込んだリーダー風の男の方に、グレイフェズは歩み寄った。
『ここで暴れられては困る。やはり、草原に転移させるか。だが、まさかここで使うことになるとはな』
そう言うと周囲をグルッと見回す。
『ヨシッ、だれも居ない』
グレイフェズはリーダー風の男から少し離れる。その後、左の小指に嵌めている指輪に右手を添えた。
《古の鎖 現と古 あるべき姿 封印されし力 我、願う 真の姿を解き放たれたし!!》
そう詠唱すると両手を頭上に掲げる。
すると指輪がキランッと光った。と同時に、指輪から眩い光が真上に放たれ魔法陣が展開していく。
その魔法陣が展開し終えるとグレイフェズの真下に、スッと降下する。そして、徐々にグレイフェズの姿が変化していった。
白銀から黒に銀が混じった髪色へ変わっている。髪型と容姿はそのままだ。明らかに違うのは、尋常じゃないほどの膨大な能力である。
魔法陣が地面まで到達すると激しい光を放ち消えた。
『何年ぶりだ? この能力を解放したのは……まぁ見た目は、髪色ぐらいしか変わってないがな』
そう言うとバッグの中からプレートを取り出しみる。
(……流石に、なぁ。プレートも、ちゃんと機能しねえよな。だが、なんで俺なんだ? ご先祖……隔世遺伝か。最悪だ、ホントに……)
グレイフェズは不機嫌な表情を浮かべた。
『まあ、考えてたってしょうがねえ。さて、サッサと終わらすか』
そう言いながらリーダー風の男の方へと歩み寄る。
リーダー風の男の近くまでくると眼前に両手を翳した。
《大地の精 現の地と別の地 異空の狭間 その扉を開き 我と彼の者 我、思う場所へ転移されたし!!》
そう詠唱しながら、この町から少し離れた草原を思い浮かべる。
するとグレイフェズとリーダー風の男の真下に、大きな魔法陣が展開されていく。
その後、魔法陣が展開し終えると二人の姿は残像と共に消えた。
――そして現在。グレイフェズはこの草原に居て、リーダー風の男を悩みながらみている。
そう、このあとどう行動するか悩んでいたのだ。
(うむ、完全体になる前に処理するか? それとも待つか……いや、それはないな。そうなると、今やるしかない。動けない者を痛めつけるのは性に合わないが)
そう思いながらリーダー風の男を見据えた。
ここはタータム草原。辺りに居たみたこともないような色々な虫たちは、グレイフェズとリーダー風の男から遠ざかっていく。風は然程、吹いていない。
グレイフェズは変貌していくリーダー風の男をこれ以上みている訳にもいかず、今のうちに処理することにした。
(今は力を解放している。どうする? 恐らく所持している武器は使えねえ。具現化するしかないか……だが、自信がない)
そう思い遠くをみつめる。
「あー、クソッオォォォ!!」
そう叫ぶと一か八かやってみるかと思い行動に移す。
両手を翳すと脳裏に浮かんだ剣をイメージした。
(ヨシッ、いい感じだ。あとは……)
すると翳した両手の付近に剣が、ボンヤリと浮かび上がってくる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ……」
グレイフェズは頭を抱え叫びながら蹲った。
勿論、剣の具現化は失敗である。
(……やっぱり、まだ無理か……)
ハァハァと少しずつ息を整えた。その後、ブルッと頭を横に振る。
(覚醒遺伝と言っても、不完全だからな。さて、どうする……この能力をまた封印するか?)
そう思いながら立ち上がった。
「……!?」
その時、グレイフェズの背後から強い魔族の気配を感じる。と同時に警戒し、そのままの体勢で後ろの気配を探った。
(魔族か? この気配、どこかで……。それともう一人、こっちの気配は……トゼル。だが、様子が変だ。
どうなっている? 確かトゼルは、ムドルが……って! まさか……)
そう思うと額にダラダラ汗をかきながら、チラッと自分の後ろをみる。確認すると瞬時に前を向いた。そして、顔全体から異常なまでに汗が湧き出る。
そうグレイフェズの背後には、ムドルと地べたに蹲っているトゼルが居たからだ。
(間違いない。あの後ろ姿は、ムドル。それと、もう一人はトゼルか。でも、なぜここに? その前にどうする……ムドルは魔族だ。恐らく気づかれる)
そう思考を巡らせると、更に顔中から汗が出てくる。
一方ムドルは、身動きが取れずにいた。
そうここに転移して来た直後、自分の背後に誰かが居ることに気づいたからである。
(まさか、転移して来た場所に人がいるとは……。これは、困りました。別の場所に移動も、流石に無理。ですが、この匂いは……どこかで?)
そう思いチラッと後ろをみた。その後、前を向き小首を傾げる。
(ハテ? 誰でしょう。後ろ姿と装備は、グレイに……そうそう匂いも似ています。
ですが、髪色とこの途轍もない威圧感は……人間のものじゃない。いえ、人間なのでしょうが……あり得ません。
それに先程の能力は、いったいなんでしょう? 失敗したみたいですが)
そう考え思い悩む。
(恐らく、真面にやり合えば勝ち目はありませんね。さて、どうしましょうか?)
そうこうムドルは考えた。
そんな中ムドルの後ろでは、グレイフェズがバレるんじゃないのかとヒヤヒヤしている。
その間にもトゼルとリーダー風の男は、徐々に姿を変えていくのだった。
ここはタータム草原。私はメーメルと色んな場所に転移し続けていた。
「メーメル、ここにも居ないね」
そう言いブローチをみる。
「そのようじゃな。まだ探すのかのう」
メーメルは疲れた表情で私をみた。
「ごめんね。だけど、もう少しだけ……お願い」
「仕方ないのう。じゃあ、あと一回だけじゃ」
「うん、ありがとうメーメル」
それを聞きメーメルは、ニコリと笑う。
その後メーメルは、転移の魔法を使う。そして私とメーメルは、別の場所へと転移する。
――場所は移り、グレイフェズとムドルが居るタータム草原――
グレイフェズとムドルは、互いに警戒していた。
お互いに背を向け探り合っている。
グレイフェズは自分の姿と素性がバレるのが嫌だった。片やムドルは、かつて感じたことのないプレッシャーに襲われ対処法を模索している。
そんな中、二人はふと思った。
そうこのままでは、デビルミストの犠牲者が増えると……。
恐る恐るグレイフェズは、ムドルに声をかける。
「ムドル、薄々気づいてるんじゃないのか?」
そう言われムドルは振り返りグレイフェズの方を向いた。
「その声は……グレイ。やはりこの匂いは、そうだったのですね。ですが、これはどういう事ですか? 普通の人間とは思えない」
そう問われグレイフェズは、ムドルに背中を向けたまま口を開く。
「詳しく話せば長くなる。それに、今は余裕がない」
「確かに……。今は、デビルミストをどうにかしなければなりません。では、このこと……あとで理由を聞かせてもらいますよ」
「分かった。それと、このままの姿だと持っている剣が使えない。だから、また封印する」
ムドルはそれを聞き不思議に思い首を傾げる。
「どうしてかは、分かりませんが。あとで、そのことも踏まえて教えて頂きます」
そう言われグレイフェズは頷いた。
グレイフェズはこの場で今の姿を封印することにする。
その後、左の小指に嵌めている指輪に右手を添えた。
《古の鎖 現と古 仮初の姿 此処ある内なる力 我、願う 真の姿を封印されたし!!》
そう詠唱すると両手を頭上に掲げる。
すると指輪がキランッと光った。と同時に、指輪から眩い光が真上に放たれ魔法陣が展開していく。
その魔法陣が展開し終えるとグレイフェズの真下に、スッと降下する。そして、徐々にグレイフェズの姿が変化していった。
その後グレイフェズの姿は、以前の白銀の髪へと変化している。それだけではなく、体から放たれていた途轍もない威圧感も消えていた。
「これでいい。あとは……」
そう言いながらグレイフェズはムドルの方を向く。と、その時……。
「グレイ、これってどうなってるの?」
そう言いながら泪は、グレイフェズとムドルの方へ歩み寄る。そして、メーメルがそのあとを追う。
それを聞きグレイフェズとムドルは、恐る恐る声がした方に視線を向ける。と同時に、顔を引きつらせた。
時は少し遡り――私はこの転移を最後と思い、メーメルとタータム草原の別の場所に降り立った。
今度こそは……。
そう思いながらブローチの反応を確認する。
するとブローチが微かに光った。
「メーメル、ブローチが……」
「そうなると、この辺に居るのじゃ」
私は、コクリと頷く。
「どこに居るのかな?」
ブローチを持ちながらゆっくりと右に向きを変えていった。すると大体、百八十度ぐらいの辺りで少し反応が強くなる。
「こっちみたい」
そう言いながら私は歩き出す。メーメルは無言のまま私のあとをついてきた。
少し先に進んだ辺りで四人の姿がみえた。
二人は地面に伏せている。あとの二人は、その中央に立っていた。
「立っている一人は、ムドルじゃ」
「じゃあ、もう一人は?」
「うむ、誰かの匂いに似ておる。しかし、これは……。かなり強者の威圧感。ここまで伝わってくる。いったい何者じゃ」
そうこう言いながら私とメーメルは、恐る恐る近づいていく。
「でも、ブローチの反応……強くなってるよ」
「髪色は違うが、装備など……グレイの物と似ておる」
「……まさか、でも……」
私はグレイに似た男の人に視線を向ける。
ブローチの反応また強くなった。でも、目の前にいるのは……。
そう思いながら四人の姿が大体、確認できるぐらいの位置まで来て立ちどまった。
するとグレイに似た男の人が何か詠唱している。それを私は、ジーっとみていた。
メーメルが私の右隣りにくる。そして、難しい顔をしながらグレイに似ている人の方をみていた。
どうしたんだろうと思った。だけどグレイに似た男の人の方が気になり、そっちに視線を戻す。
グレイに似た男の人が詠唱し終えると魔法陣が現れる。その後、姿を変えた。
「えっ!?」
それをみた私は、視線の先で何が起きたのかと自分の目を疑う。
そう視線の先には、グレイが立っているのだ。
「なるほどのう」
そう言いながらメーメルは納得している。
私は何が起きているか理解できずにグレイの方へ駆け出した。そのあとをメーメルが追ってくる。
そして現在――私は、グレイとムドルさんのそばまで来て問いかけた。
グレイのこと、今の状況などを聞く。
「ルイ……どこからどこまで、みていた?」
「詠唱している辺りからだけど……どういう事なの?」
そう問うとグレイは険しい表情になる。
「そうか……隠せないな。このことは後で話す。これを、どうにかしないとならないからな」
グレイは蹲って苦しんでる二人を順にみた。
「デビルミスト、じゃな」
「メーメル様。ええ、そうです」
「ムドルさん、デビルミストって何?」
そう私が聞くとグレイとムドルさんとメーメルは、そのことを簡単に説明し始めた。
私は三人からデビルミストについて簡単に聞いた。
デビルミストとは、かつてグレイが居た国に現れた厄災の一部。それに憑依された者は、怪物のようになる。
そして目の前に居る二人は、それが体内に入り込んでいるらしい。
……って、こんなことしてる場合じゃ!?
そう思いながら苦しんでいる二人を順にみた。
他にも厄災は存在するみたいだけど、それはあとで話してくれるらしい。
「早く、あの二人を助けないと」
「いや、あの二人は……もう助からない」
グレイは私から目を逸らし下を向き難しい顔をする。
「そんな……じゃあ……」
そう言われ私は悲しくなった。そう、この二人を始末しないといけないと思ったら涙が出てきたのだ。
「……。やらなきゃならない。誰かがな」
グレイは一度、私をみたあと背を向けた。
どうしたんだろう?
この時、グレイが何を考えていたのか分からない。だが、なぜかグレイの背中から悲しみが伝わってきた。
もしかしたらグレイも、こんなことをしたくないのではと思う。だけど、誰かがこれをやらないといけないから……。
「……そうだね。誰かが、やらないと犠牲が増えちゃう」
そう言うと私は涙を手で拭った。
「そうですね。さて、行動に移しますか」
ムドルさんはそう言いながら、苦しんでる二人の方を向く。
「妾にやれることはなさそうじゃな」
「はい、メーメル様の手を煩わすほどではないかと」
「うむ、任せたのじゃ」
メーメルとムドルさんの会話を聞いていて凄いと思った。主人とそれに仕える者、そうだとしてもここまで信頼し合えるのかと……。
恐らく私には無理だ。
そう思いながらグレイをみる。
なぜかグレイがこっちを向いた。それと同時に、目が合う。見つめ合った。空気が重い。間が……。
「……待ってくれムドル」
何を思ったのかグレイは、私をみたままムドルさんを静止させた。
「待て、とは……どういう事ですか? この状況下で」
「試したいことがある。ルイ、お前の能力……何を覚えている?」
それを聞きムドルさんは振り返り私をみる。
「なるほど……そういう事ですか」
「能力……どうだったかな? プレートみてみるね」
「頼む。その間、俺とムドルはトゼルとあの男を監視している。だが、間に合わない時はやるしかない。だから、なるべく急いでくれ」
そう言うとグレイは、リーダー風の男の人の方に向かった。
ムドルさんは、トゼルとかいう人の所に歩み寄る。
コクリと私は頷いた。
その後、私は左手首に嵌めている腕輪をみる。その腕輪の紫の魔石に右手を添えた。すると魔法陣が描かれ空間に亀裂が入る。そこからプレートを取り出し異空間を閉じた。
そして私は、急いでプレートを持ち直しみる。