聖女召喚に巻き込まれて異世界に召喚されたけど、ギルドの受付嬢の仕事をみつけたので頑張りたいと思います!!

 泪は眼前の光景と脳裏に映し出されていることをみながら考えていた。

 (いつまで私は過去に起きたことをみていなきゃいけないのかな。でも今は、みていないといけないんだよね。二人のイチャイチャ光景も……ハハハ……)

 そうあれから美咲と司は草刈りを全て終えたあと、ハバス達と屋敷の中の掃除を始める。その後、各部屋の簡単な片付けなどを済ませた。


 そして現在に至る……――……ここは美咲と司の寝室だ。因みに夜である。

 そのため泪は目のやり場に困っていた。そう泪が入っている籠が、ベッドの脇にある小さなテーブルの上に置かれていたからである。

 (あー後ろ向いても聞こえてくるし……恥ずかしいよ。でも、もしグレイと両想いになれたとしたら……。えっ! なんでムドルさんの顔が浮かんだの?)

 不思議に思い泪は考えた。

 (私って本当にグレイのことが好きなの? なんかよく分からなくなっちゃった。グレイはデビルミストの一件から以前より構ってくれなくなった。
 どちらかと云えば、ムドルさんの方が……。グレイは私のことをどう思ってるんだろう)

 そう思い泪は、つらい表情を浮かべる。

 (考えない方がいいかな。それよりも、ここで起きたことをみていなければいけない)

 そう考えがまとまると泪は急に眠くなり寝てしまった。

 そして泪は夢をみている。それはまるでグレイフェズの心の中を覗いているかのようだ。

 夢の中のグレイフェズは泪のことを常にみていた。

 (……ルイ、お前のことが好きだ。出逢った、あの日から……ずっとお前のことをみている。だが、お前は別世界の人間……帰る方法を探してやらないとな。
 俺の祖先のように帰れないなんてなったら、つらいだろう。……つらい思いはさせたくない。
 だけど今こうして一緒に居られるだけでも……俺はいいと思っている。……偶にあの日のように抱きしめたくなるけどな)

 そんなグレイフェズをみていた泪は『そうだ……元の世界に帰らなくちゃならないんだった』そう言い目が覚める。

 (……寝てたのか。でも今の夢って……もしあれが本当にグレイの気持ちなら。私とグレイは両思いだよね。
 でも……私は清美と元の世界に帰らないといけない。……グレイも私たちの世界に、ムドルさん……は無理かな。
 だけど元々は二人共、美咲さんと司さんの子孫だよ。美咲さんと司さんは元の世界に戻れなかった。それならグレイとムドルさんを……。
 やっぱり無理だね。グレイとムドルさんは、この世界で産まれたから。でも……だけど……)

 そう考えながら泪は、ツイうっかりと美咲と司の方をみてしまい顔を真っ赤に染めた。そして慌てて後ろを向く。

 (う…………刺激が強すぎるってば。ハァー……そもそも夢だし、それがグレイの本当の気持ちだとは限らないよね。
 でも……もしかしたらってこともあるし、あとで確認してみよう)

 そう思い今は、そのことを考えないことにする。

 (そういえば明日は何するのかな? 私なら部屋の模様替えするけど……)

 泪は辺りを見回した。

 (アッチコッチ……ボロボロだね。これを綺麗にするの大変だろうなぁ)

 そう考え泪は自分じゃ無理と思い苦笑する。

 そして泪は、その後も眠くなるまで色々と思考を巡らせていたのだった。
 ――……翌朝。


 ここは傭兵詰所だ。辺りには、この城の警備などの仕事をしている者たちが集まっている。

 そしてここにはラギルノとガルディスが居て睨み合っていた。と云っても二人の距離は離れている。

 因みに二人が、ここに居る理由は今日の持ち場の指示をもらうためだ。

 ガルディスは自分の持ち場を聞いたあとラギルノを、キッと睨みこの場から出ていった。

 その後ラギルノも指示をもらい持ち場へと向かうため、この場をあとにする。

 傭兵詰所を出るとラギルノは持ち場である王の書斎がある二階の通路へと向かい歩き始める。

 (これから毎日のようにガルディスと顔を合わせるのか……ああ、最悪だ。どうもアイツとは馬が合わない。まあ……昔の俺が悪いんだろうけどな)

 そう思い苦笑した。

 (さて、これからどうなる。本当にドルムス様を王位に就かせることができるのか?
 セフィルディ様の話では俺とガルディスとツカサの連携が上手くいけばと云っていた。だが、どう考えても……最悪なメンバーと思うんだが)

 そう考えながら歩いている。


 ▼△★△▼☆▼△


 ここは司と美咲の屋敷だ。

 二人は現在、屋敷の修理や模様替えをしている。

 司は壊れている所の修理をするため外にいた。

 屋敷の中には美咲が居て、どう模様替えをしようか悩んでいる。

 「んー……この部屋は子供部屋っぽいね。でも……私にはいない。それにここには、ずっと居る訳じゃないし……」

 そう言い美咲は、とりあえず必要な物と必要ない物の選別を始めた。

 その様子を泪は籠の中からみている。因みにタンスの上に鳥籠は置かれていた。

 (子供部屋かぁ。そうなると、この屋敷には子供が居たんだね。……それにしても美咲さんって……不器用だったんだ。私も人のこと言えないけど……)

 そう思い溜息をつく。

 そう美咲は現在、壁紙を貼り替えている。だが、どうみても隙間だらけで模様もバラバラである。……まあこれはこれで個性的でいいのだろうが(汗)

 「もっと派手にしようかな? 司に出してもらった壁紙の中にあればいいけど」

 そう言いながら美咲は床に置かれた無数の壁紙をみている。

 (美咲さん……趣味も悪い。って、わざとバラバラな模様で貼ってるの? なぜ……いや、絶対変になるって……)

 そう思い泪は心配になってきた。

 そんなことを泪が思っているとも知らず美咲は、薔薇の模様の壁紙を選んだ。……まあ知らないのは当たり前なんだけどね(汗)

 壁紙を適当な大きさに切ると壁に貼っていった。

 それをみて泪は突っ込みを入れたくなってくる。

 (あーあ、貼っちゃったね。でも、まあ……これでいいのかも。美咲さんにとっては、これがいいんだろうし。私なら嫌だけど……)

 そう思い苦笑した。

 そしてその後も泪は、ハラハラしながら美咲をみていたのだった。
 ここはサイアル城の二階。そして通路だ。

 あれからラギルノは通路の見回りをしながら時折、聞こえてくる会話を物陰に隠れて聞いていた。


 そして現在、ラギルノは通路の窓から外を眺めている。

 (今のところは有用な情報が聞こえてこない。昔は俺も上司が何をしていようと逆らわず指示通り動いていた。まあ、それが当たり前だと思っていたからな)

 そう思いながらラギルノは遠くをみていた。

 (さてと、ずっとこの場所には居られない。そろそろ巡回するか……遊んでいると思われたくないしな)

 ラギルノはそう考えると歩き出し周囲を警戒する。

 しばらく通路を歩いているとラギルノは偶然ガルディスと遭ってしまった。

 「ラギルノ……お前もこの階か?」

 「ああ、そうだが……悪いか」

 「いや、上が決めたのなら何も言うつもりはない。だが、お前と馴れ合うつもりはないからな」

 そう言いガルディスはラギルノを睨みつける。

 「安心しろ俺も、その気はない」

 「そうか、それならよかった。じゃあ俺は行く……まだ見回りが終わっていないんでな」

 ガルディスはそう言いこの場を離れていった。

 それを見送るようにラギルノは目で追っている。

 (相変わらずだな……ガルディスは……)

 そう思いラギルノは再び見回りを始めた。


 ▼△★△▼☆▼△


 ここは司と美咲の仮の屋敷。

 美咲は現在、部屋の壁紙を貼り終えたあと次することを考えている。

 「この部屋の壁は、これでいいかなぁ。あとは……移動できる物を動かすか」

 そう言い美咲はソファやテーブルに椅子、家具類などを好きな所に移動していった。

 (大丈夫かな? なんかみてるとヒヤヒヤするんだけど……でも、すごいなぁ。誰にも頼らずに一人でやってる。多分……私じゃ無理だね)

 そう思いながら泪は美咲をみている。



 ――場所は変わり、屋敷の外側――


 司は壁の修理をしていた。

 「フゥー……結構、至る所に穴が開いてる。塞ぐだけで一日、終わりそうだ」

 そう言い司は能力で出した物で、ひたすら穴を埋めたりして補修をしている。

 (引き受けたはいいけど……本当に大丈夫なのか? 考えても仕方ないのは分かっている……だけど、どうしても不安だ)

 そう考え司は空を見上げた。

 「不安だけどやらないとな。さてと……屋根の修理でもするか。壁の修理ばかりじゃ疲れるし」

 司はそう言うとハシゴを創造し具現化させる。

 「……それにしても相変わらず俺の頭の中ってどうなってるんだ? いつも思った以上の物が現れるよな」

 そう言い司は地面に置かれている、カラフルな鉄のハシゴをみていた。

 (カラフル……意味不明。鉄でできている……そこまで丈夫な物が必要か? それに、これを立てかけるとなると……一苦労だ。んー……どうする?)

 そう悩み司は思考を巡らせる。

 そして司は、その後なんとか息を切らせながらもハシゴを立てかけ屋根に登ったのだった。
 ――……あれから三日後。

 司と美咲は椅子に座り庭に置かれているテーブルを挟み話をしていた。
 テーブルの上には鳥籠が置かれている。その中には泪が居て二人をみていた。

 「やっと片付いたな」

 「うん、もっと時間がかかると思ってたけど早く終わったね」

 「ああ、あとは内職をしないとな」

 そう言い司はテーブルの上に置いてある依頼書へ視線を向ける。この依頼書はハバスが持ってきた物だ。

 「結構あるね。みんな創りだす物ばかりなの?」

 「そうだな。殆ど俺にしかできない依頼だ」

 「そっか……私にできる依頼ないのかなぁ」

 そう言い美咲は悲しい表情で俯いた。

 「……美咲、まだ全部に目を通してない。もしかしたら……みていない依頼書の中にあるかも」

 「そうだね。その中にあるといいなぁ」

 「じゃあ探してみるから待ってろ!」

 そう言い司は依頼書を一枚一枚じっくり読み進める。

 それを美咲は、ワクワクしながらみていた。

 片や泪は鳥籠の中から二人の様子をみて色々と考えている。

 (前から思ってたけど……司さんって美咲さんのことを本当に好きなんだね。わがままを嫌な顔せず聞いてるし……。
 そういえばグレイも……私のわがままを聞いてくれた。ううん……ムドルさんもだ。
 でも……だからって、グレイが私のことを好きだって証明にならないよね。ムドルさんは……そうなんだろうけど)

 そう考えると泪はグレイフェズ達のことを思い出してしまい涙ぐんだ。

 “泪……もう少し我慢してください。これらは後に必要なことなのです……”

 (それは前に言われて分かってます……でも……。そういえば前から思ってたんですけど……私は本当に巻き込まれて召喚されたんですか?)

 “どうでしょう……貴女が、そう思うのであれば……そうなのでしょうね。全てを話す訳にはいかないのです”

 そう言われ泪は、コクッと頷いた。

 (分かりました。自分で見聞きして調べるしかないんですね)

 “そうなります……では、あと少し過去の光景をみていてください”

 泪はそれを聞き再び司と美咲を交互にみる。

 (なぜ過去をみせられているのか……それはあとで分かる。それならみせられている光景を、ちゃんとみていよう)

 そう思い泪は目の前のことだけじゃなく脳裏に流れ込む光景を集中してみた。

 ▼△★△▼☆▼△

 ここはサイアル城内。この城の二階にあるバイゼグフ王子の部屋の前だ。

 この扉の前にはラギルノとガルディスが両脇に立っている。

 二人はなるべくみないようにしていた。そう喧嘩になるからである。

 なんでこんな組み合わせにしたのかと二人は考えていた。

 (最悪だ。なぜ今日に限ってラギルノと同じ場所に配置された?)

 そう思いガルディスは戸惑っている。

 (うむ……堪えるのがキツイ。だが、そもそも……今更なんで喧嘩をする必要がある? それにこれは同じ依頼主から言われたことだ)

 ラギルノはそう考えるとガルディスの方を向いた。

 「ガルディス、よく考えてみたんだが……ここは休戦しないか?」

 「休戦? どういう事だ。今更……昔のことを何もなかったことにするつもりじゃないだろうな」

 「いや、そんなつもりはない。ただ……このままじゃ、いざという時に連携がとれないんじゃないかと思った」

 そう言われガルディスは思考を巡らせる。

 「…………確かにそうだな。じゃあ仕事が終わるまでの間でいいか? そうでなければ耐えられないからな」

 「ああ、それでいい」

 そう言うとラギルノは再び正面をみた。

 それを確認するとガルディスは、なぜか笑みを浮かべている。

 そしてその後も二人は時間まで、ここの警備をしていたのだった。
 ――……あれから私は目の前で起きていることと脳裏に流れ込む映像を分析しながらみていた。

 司さんは美咲さんのために必死に束の依頼書の中から探している。

 それをみて私は、どうして厄災のようなものを創り出したのか疑問に思った。


 それだけ酷いことを司さんと美咲さんは、この世界の人たちにされたってことなの? だけど……まだ信じられない。
 そうだとしても……そうだとしたら、この過去じゃなくて……もっと過去の方をみた方がいいんじゃ。

 そう思考を巡らせるも分からない。

 それだけじゃない別の場所に居るラギルノさんやガルディスさんのこともだ。

 なんでこっちまでみせられているのか疑問だ。

 ラギルノさんの方は上手く潜り込めたらしい。それとガルディスさんとも喧嘩しなくなった。


 だけど……司さんと美咲さんは、まだ城に潜り込めてないんだよね。これで本当に大丈夫なのかな?
 なんか不安なんだけど……このまま何もなくて解決なんてことないよね。


 そう考え私は嫌な予感が当たらないことを願い祈った……――


 そうこう泪は考えている。

 「あ、あった!」

 そう言い司は依頼書の中から一枚を抜き取りテーブルの上に置いた。

 「わぁ~良かったぁ……どんな依頼だろう」

 そう言い美咲は胸を躍らせながらテーブルに置かれた依頼書へ視線を向ける。

 美咲はそこに書かれていた依頼内容をみて目を輝かせて喜んだ。

 「これ……本当に私がやっていいの?」

 「ああ、美咲にあった依頼だろ」

 「うん、物語が書ける。何年ぶりだろう……この世界に来てから全然書いてないよ。でも、ちゃんと書けるかな? それに子供向けの物語が……」

 不安になり美咲は俯いた。

 「美咲なら書けるさ……ブランクって云っても約三年だろ。そのぐらい、すぐに挽回できる。伊達にオタクをやってた訳じゃないよな?」

 「あーうん、あの頃……アニメや漫画や小説。そういえばコスプレにも興味を持って挑戦しようと思ってたんだよね。だけど……結局できなかったけど」

 「そうか……そういう事か。美咲はコスプレに興味があったから、それに似た能力になったんだな」

 そう意地悪気味に言い司は目を細め美咲をみる。

 「ムッ、多分……違うと思うんだけど」

 「そうか? まあそういう事にしておく」

 「なんか嫌な言い方だね。んーでも、そうかもしれないし……いいか」

 そう言い美咲は、ニコッと笑った。

 「どうするんだ? この依頼を受けないなら俺がやるぞ」

 「あ、待って! やるやる……私がやります!!」

 美咲はそう言うと依頼書を取られないように手で押さえる。

 「そこまでするか? まあそこが美咲らしくていいんだけどな」

 そう言うと司は優しく微笑んだ。

 その後も二人は依頼書をみていた。

 泪はその様子を羨ましくみている。

 (いいなぁ……私もグレイとイチャイチャ……ハッ!? 私は何を想像しているの。駄目だ……司さんと美咲さんの影響で、とんでもないことを妄想してしまったよ)

 そう思い泪の顔は赤くなり涙目になっていた。
 ここはサイアル城内。そしてバイゼグフ王子の部屋だ。

 泪は現在、ここで起きていることをみている。

 ここにはバイゼグフ王子と大臣ベンデア・グリューンが居て話をしていた。

 因みにベンデアは三十四歳で女性だ。

 ベンデアは机の前に立ち椅子に座るバイゼグフをみている。

 「戴冠式までには時間がある。だが、それまでに早く兄上をみつけて殺せと言ったはずだ」

 「バイゼグフ様、手配はしたのですが依頼した者と音信不通になってしまったらしく……申し訳ありません。ですが、他の手段も考えております」

 「それならよい。しかし兄上を押す者が、このまま黙っているとも思えん」

 それを聞きベンデアは不敵な笑みを浮かべた。

 「それならば監視役を強化いたしましょう」

 「うむ、そうだな……その方がよいだろう」

 「では……手筈を整えて参りますので」

 そう言いベンデアは一礼をすると部屋をでる。

 それを確認するとバイゼグフは机上の一点をみつめた。

 (国民は未だに兄上のことを支持している。クソッ……なぜだ! 私と何が違う? ただ年齢が上か下かの違いじゃないか)

 そう言いバイゼグフは、ドンと机上を思いっきり両拳で叩く。

 その後バイゼグフは机上の書類を嫌々目を通していた。


 ▼△★△▼☆▼△


 場所は変わり、ここは司と美咲の屋敷の庭だ。

 「ねぇ、そろそろ……書き始めたいんだけど」

 「そうだな……美咲のやる内職も決まったし家の中に入るか」

 そう言うと司は立ち上がり依頼書の束を持った。

 美咲も依頼書と泪が入っている籠を持ち立ち上がる。

 「待って……私も一緒に行くっ!」

 それを聞き司は立ちどまり振り返った。

 「慌てなくても置いていく訳ないだろ」

 「そ、そうかもしれないけど……なんか不安になって」

 「そうか……でも、俺が美咲を好きだって知ってるよな」

 そう言われ美咲は頷き顔を赤らめる。

 泪はその言葉を聞き自分のことのように恥ずかしくなった。

 (司さん……前から思ってたけど、超ストレートに言っちゃうんだよね。それも……爽やかな笑顔で……。
 私もグレイに言われたい……ん? なんでムドルさんの顔が浮かんだの? んーこう云うところって……ムドルさんに似ているからかな)

 そう思い泪は、マジマジと司をみる。

 その後、司と美咲は屋敷の中に入っていった。


 ▼△★△▼☆▼△


 そして場所は、セフィルディの屋敷にある書斎に移る。

 勿論ここで起きていることも泪はみているのだ。

 この場所には、セフィルディとドルムスが居てソファに座り話をしていた。

 「……本当に私が王位につかねばならんのか」

 「今更、何をおっしゃっているのです。ことは着々と進んでいるのですよ」

 「セフィルディ……それでも私でなければ駄目なのか?」

 そう言われセフィルディは頭を抱える。

 「いい加減にしてください。ドルムス様でなければバイゼグフ様が王位についてしまう。そうなれば……この国は終わってしまいます」

 「そうだな……だが、やはり王になるのは嫌だ。バイゼグフ以外の誰かに譲ることは無理なのか?」

 「ハァー……呆れましたね。それほどまでに王になりたくないとは……。ですが……ないことはありませんが……」

 それを聞きドルムスは身を乗り出した。そしてセフィルディの顔の近くまでよる。

 「あるんだなっ! それはどんな方法なんだ?」

 「ええ……ですが、それをやると恐らく本人たちが怒るかと」

 「と、いう事は……見知った者か。それは誰なんだ?」

 そう問われセフィルディは説明した。それをドルムスが聞いている。


 ――……それらのことが泪の頭の中へ流れ込んできた。そのため泪の顔は一瞬で青ざめる。

 (これが本当に行われたなら……でも、これって成功したの? 成功したとしたなら……グレイが、なぜログロス村で産まれて育ったのかな?
 なんか……よく分からない。それに、このことを知ったら恐らく依頼を断ると思うよ。
 ううん……それよりも知らないまま行われたとしたら絶対に怒る。でも……まさか流石に、こんなことしないよね)

 そう思考を巡らせながら泪は美咲をみたあと司へ視線を向けた。
 ここは司と美咲の屋敷。

 あれから建物の中へ入った美咲は自分の部屋に向かった。そして部屋に入るなり机の上に泪が入った籠と依頼書と司に創ってもらった紙を置いたあと椅子に座る。

 その後、束の紙の中から一枚とると自分の目の前に置き近くにあるペンを持った。

 「さて……何を書こう」

 そう言い美咲は思考を巡らせる。

 その様子を泪は籠の中からみていた。

 (真剣に悩んでるなぁ。どんな物語が完成するんだろう……楽しみ。ん? これが完成したのなら、どこかに残ってるのかも)

 そう思い泪は美咲に視線を向ける。

 美咲はペンを指で回しながら考えていた。

 (そうだなぁ……子供向けなら冒険ものがいいかも。でも、この世界の子供って……そう云うの日常茶飯事なんじゃ。そうなると……)

 あれやこれや悩み過ぎて美咲は頭が痛くなってくる。

 「すぐには書けそうにないなぁ。どうしよう……んー、少し気分転換した方がいいか」

 そう言いながら美咲は泪をみた。

 「ルイは白い小鳥だったね。そういえば……体の色がくろずんでる?」

 美咲はそう言い泪のそばへ顔を近づける。

 「臭うかも……洗った方がいいね。よく考えたら、ずっと水浴びさせてなかった」

 そう言い美咲は立ち上がり泪が入っている籠を持った。その後、シャワー室へと向かう。

 (そういえば…………クチャい……)

 そう思い一滴の汗が泪の顔を伝い流れ落ちる。


 ▼△★△▼☆▼△


 ここは脱衣室。美咲は泪の籠を低い棚の上に置いた。

 「んー、私もシャワー浴びようかな」

 そう言い美咲は服を脱ぎ始める。

 (……!? 美咲さんの背中に傷がある。そんなには大きくないけど……ここまでに色々あったんだろうなぁ)

 そう思い泪は美咲をみつめていた。

 「さて……ルイ、入るよ」

 そう言い美咲は籠を持ちシャワー室へと向かう。

 シャワー室に入ると美咲は泪を籠から出した。

 「逃げないでね」

 それを聞き泪は緊張しながら、その場に待機する。

 (なんか、ドキドキしてきた……大丈夫だよね?)

 そう思い泪は不安になってくる。

 栓を開けると、シャアーっと勢いよく水が出た。

 「冷たいっ! 相変わらず、お湯が出ないかぁ。司に言ってはあるけど……まだお風呂を創ってくれないのよね。まあ……その内かなぁ」

 そう言いながらシャワーの水を弱めに調整する。その後、シャワーの水を泪にかけた。

 「ピイィィー!? (冷たいっ!?)……」

 余りにも冷たかったため泪は暴れる。

 (これ風邪引くよ……ううん、絶対死ぬ)

 今にも泣きそうだ。

 「あっ、ルイ! 暴れないで石鹸で洗うからー」

 そう言い美咲は泪を捕まえた。

 「フゥー、落ち着いてくれたか」

 美咲はそう言い石鹸を手にし泡をつくると泪を洗い始める。

 洗われ泪は最初なんか変な感じだったが段々気持ちよくなってきた。

 泪を洗い終えるとシャワーで体の泡を流し始める。

 (……冷たい。だけど気持ちいいかも)

 そう思い泪は眠りそうになった。

 その後、美咲は泪を洗い終えると持って来た小さなタオルで軽く包み籠に入れる。

 そして美咲は自分もシャワーを浴びたのだった。
 ――……一週間後。

 ここは司と美咲の屋敷だ。

 あれから美咲は、いくつか簡単なプロットを書いた。そして悩んだ挙句、自分たちのことを題材にした物語を書くことにする。勿論、色々盛ってだ。


 そしてここは美咲の部屋である。

 昼間だというのに美咲は机に向かい物語を書いていた。

 その近くでは机上に置かれた籠の中から泪が美咲をみている。

 「んー……読み直してみるか」

 そう言い美咲は最初から読み始めた。


 ――【とある世界からこの地に若い男女が降り立つ……。その男女は、とある城の庭で目覚める。その後この城の兵士たちにみつかり問い詰められた。
 そのため、その男女は訳を話すが兵士たちに信用してもらえず牢に入れられてしまう。
 しかし、この城の王が興味を持ち別世界から来た男女に会いたいと言った。
 その後、異世界から来た男女は謁見の間で王と大臣と話をする。そして話を終えると異世界から来た男女は部屋を用意してもらった。勿論、別々の部屋だ。
 因みに異世界の男女は好き合っていない。どちらかといえば男性の方が一方的に女性のことをストーカーまがいをするぐらい好きなのだ。
 異世界の男女は数日後、庭を歩いていると兵士に呼び止められ大臣が呼んでいると言われ向かった。
 そして異世界の男女は大臣が待つ部屋にくると話を聞きたいと言われる。
 そのため自分たちのことを話しながら置かれていたお菓子を食べたり飲み物を飲んだ。
 だが、そのあと異世界の男女は途轍もない眠気に襲われ眠ってしまう。そう、飲食物に眠り薬が入れられていたのである。
 眠ったことを確認すると大臣は異世界の男性を縄で縛り拘束した。その後、兵士を呼び用意していた部屋に運ばせる。
 それが済むと大臣は異世界の女性を抱きかかえ部屋をでた。そして儀式が行われる祭壇がある山の麓へと向かう。
 そう毎年この時期に龍神祭が行われ女性を生贄に龍神に差し出すことになっているのだ。
 そのため偶然この世界に来た異世界の女性を生贄にと考えたのである。要は自分の国の者を生贄にしたくないという事なのだ。最低である。
 龍神祭が行われるとされる山の麓では祭壇の準備が整っていた。そこに異世界の女性を抱えた大臣が姿を現せる。
 一方城では異世界の男性がベッドの上で目覚めた。そして自分におかれている状況を把握し拘束している縄を解こうと暴れる。だが解けない。
 そうこうしていると部屋の外から見張りの兵士たちの声が聞こえてくる。その兵士たちは龍神祭のことと異世界の女性のことを話していた。
 それを聞き異世界の男性は必死で拘束の縄を解こうとする。その時、偶然に異世界の男性の手に炎が現れた。
 そうこの時、最初の能力である炎の具現化が発現したのである。
 異世界の男性は、その炎のお陰で縄を焼き切ることができた。
 その後、異世界の男性は部屋の扉を焼き壊すと通路へでる。そして通路に居た兵士を殴り倒すと急ぎ山の麓へと駆け出した】――

 書いたところまで読むと美咲は再び考えながら書き始める。

 (凄いね。まだ途中だけど……これが本当なら美咲さんは生贄にされた。でも今ここに居るってことは……助かったんだよね? んー……でも、どうやって助かったんだろう)

 そう思いながら泪は美咲へ視線を向けた。
 あれから泪は机上に置かれた籠から美咲の執筆をみていた。

 (何度か読み返しているのを聞いてたけど……異世界の女性は、あのあと龍神に食べられそうになった。
 だけど目覚めて眼前の龍神に恐怖し偶然に能力が発動する。その能力で龍神を体内に吸収しそうになった。
 体内に吸収されそうになり竜神は、このままじゃ異世界の女性ともども消滅すると考える。そのため一時的に時間を止め異世界の女性の意識に話しかけた。
 そして龍神は、お互い消滅を避けるために契約を交わそうと提案する。異世界の女性は消滅が避けられるのならと承諾した。
 その後、再び時間が進み異世界の女性は龍神と契約を結んだ。それと同時に龍神を体内へ吸収した。だがその時、吸収した影響で全身に激痛が走る。
 そのため異世界の女性は能力を抑えられなくなった。そして全身から龍神の能力が漏れて辺り一帯を破壊つくしてしまう。
 しばらくして異世界の女性は、なんとか龍神を自分の体になじませることができた。だが自分の体の一部をみた異世界の女性は絶望し泣き叫んだ。
 そう龍神を取り込んだせいで数ヶ所に竜の皮膚が現れていたのである。そこに異世界の男性が駆けつけてきた。
 その様子をみて異世界の女性を抱き寄せなだめる……それが司さんだよね? この時って美咲さんは、どう思ってたんだろう?)

 そう思いながら泪は美咲へ視線を送る。

 「んー……この時って、どうしたらいいのか分からなくなってた。バウギロスと同化して……でも、あの時は司がいてくれたから堪えられたんだよね」

 そう言い美咲は目を潤ませ自分が書いた文章をみていた。

 (大変だったんだね。でも龍神と同化して美咲さんは、その後どうしたんだろう? 今は同化していないし)

 そう考え泪は首を傾げる。

 「さて……今日は、このぐらいにしておくかな。そろそろご飯にしないとね」

 そう言い涙を拭いながら美咲は立ち上がった。その後、部屋を出てキッチンに向かう。

 その間、泪は机上の籠の中でお留守番だ。

 いや美咲は泪を連れて行くのを忘れていただけである。

 そのためか泪は、ムッとしていた。

 (多分……私のこと忘れてったよね。偶に、こういう事あるんだよなぁ)

 そう思い泪は、ハァーっと溜息をつき頭に流れてくる映像をみることにする。



 ――場所は移り地下にある隠し部屋――


 ここは主に内密なことをする時に利用している部屋だ。

 そして、ここにはバイゼグフ王子と大臣ベンデアが居て数人の商人と話をしている。

 「ほう……今日は、いつもよりもいい品が揃っておるな。それもみたことのないような物まである」

 「バイゼグフ様、これらの一部は町の外の屋敷に住まう者が造った者でございます」

 「待て、あの屋敷は誰も住んでいなかったはずだ」

 そうベンデアが言うと商人の一人が待っていたかのように口を開いた。

 「はい、今まではそうでしたが最近どこからか流れて来たらしく住み始めたみたいです」

 「なるほど……これだけの物をつくるとはな。一度は会ってみたいものだ」

 そう言いバイゼグフは小さめの壺を手にする。

 そしてその後もバイゼグフは、ベンデアと共に商人から町の近隣に住む者ことについて聞いていたのだった。