ここは村長の屋敷の外。その庭の木陰に人影がみえる。その人影は女性だ。
その女性は、赤紫色の短い髪をかき上げ村長の屋敷をみている。
(……なんでボスは……こんな依頼、受けちゃったんだろう。どうみても明らかに、依頼主の方が悪者だしさぁ)
そう思いながら俯いた。
この女性はサフィア・バグマ、二十三歳で冒険者である。
ここに来た理由は言うまでもなく、ドルムスを暗殺するためだ。
因みにサフィア以外の者も別の場所で待機している。
★☆★☆★☆
そしてここは、屋敷の中の客間。窓の外には泪が中を覗いていた。
(村長さんが帝都の王子様。それと……本当の名前がドルムス・A・ファルゼアで、今の姓はこの家の養子になったから違うってことか。なんか複雑だなぁ……)
そう思いながら二人の会話を聞いている。
「いい加減にしてください。なぜ城に戻りたくないのですか?」
「戻りたくない訳ではない。だが、今更……この村を捨てる訳にもいかぬ」
「そうですね。誰か代わりの者は居られないのですか?」
そう問われドルムスは首を横に振った。
「いない……だから、私が養子になり跡を継いで村長になったのだからな」
「なぜ貴方さまが跡を継がなければいけないのですか? そもそも、その理由が分かりません」
「話していなかった、か。そうだな……確かになんの縁もない私が跡を継ぐ必要はない。だが、私は助けられたのだ。あの日、城を出たあと……」
ドルムスはその時のことを語り始める。
……――ドルムスは弟に継承権を譲ったあと城を抜け出した。
それからひたすら旅を続けこのログロスの村を訪れる。
だがその頃には、所持金が底をつき村に辿り着いたと同時に倒れた。
そんなドルムスを、前の村長が助けたのである。
……――そんなこんなで恩もあり、村長が生前の頃に養子縁組をしたのだ。勿論、ドルムスが帝都の王子であることは知らずにである。
「そうだとしても……断れましたよね?」
「そうだな。だが、放っておけなかった。この村を治める者が居なくなる」
「村のためですか? それとも……前の村長に恩があったから」
そう言いセフィルディは、真剣な表情でドルムスを見据えた。
「両方だ。……もういいだろう、この話は」
「そうですね。ですが、ドルムス様の命を狙っている者をこのままにしておけません」
「確かに……そうだな。だが、城には戻らん。それは、変えるつもりはない」
それを聞きセフィルディは、ハァ~っと溜息をつく。
「どうしても、戻らないという訳ですね。ではこの村を任せることができる者を、新たに探して来ましょう。これでも、駄目でしょうか?」
「お前は、昔から食い下がらんな。うむ、確かに城の方も心配だ……分かった! だが、みつかったらになる」
「それでは、商談成立ですね。では、一刻も早くみつけて参りましょう」
そう言いセフィルディは、ニヤリと笑みを浮かべた。
それをみたドルムスは嫌な顔をする。
そしてその後セフィルディは、屋敷の外に出たのだった。
あれから泪はドルムスの屋敷の庭を飛び回っていた。
(このあとどうなるの? 今の私はみていることしかできない。だけど、気になる……)
そう思いながら枝から枝へと移っている。
(んーなんだろう? 至る所から視線が……)
泪は嫌な感覚に襲われその視線から逃げていた。
すると泪の目の前に一羽の青い鳥が現れる。
「ねぇ、あなたどこから来たの?」
「あーえっと……どこからかは覚えてないけど。さっきまで、向こうにある家にいたの」
そう言い泪は、美咲と司の家へ羽を向けた。
「ふーん、そうなのかぁ。じゃあ、人に飼われているのね」
「うん、あなたは違うの?」
「そんな訳ないでしょ。アタシは、自由主義なのよ。それはそうと、飼われてたなら知らなくて当然ね」
そう言われ泪は小首を傾げる。
「何が?」
「何って……流石に気づいてるわよね? あなたをみている者たちがいることを」
「ああ、そのことかぁ。でも、それがどうしたの?」
それを聞きその青い鳥は、ハァーと溜息をついた。
「縄張りよ。外の世界にはね、そういう争いが絶えないの」
「……縄張り。じゃあ、私をみているのって」
「あなたは他者の縄張りに居るってことね。それも、移動の度に違うヤツに睨まれてるわよ」
それを聞き泪は、体中から大量の汗が流れ出る。
「ど、どうしよう……。って、もしかして今私が居る所って……あなたの縄張り?」
それを聞き青い鳥は、コクリと頷いた。
「そう、ここはアタシの縄張りよ。だから、忠告に来たの」
「そうなんだね……ごめんなさい。でもどうしよう……あの家を監視してたいの」
「監視? なんで、そんなことしてるの」
そう言い青い鳥は首を傾げる。
「あ、それは……」
「んー……なんか訳ありみたいね。そうだなぁ……ちょっと待ってて、ダーリンに相談してみるから」
そう言うとその青い鳥は飛び立っていった。
(……ダーリンってことは、彼氏か旦那さんだよね。ヒョエー……)
そう考えると泪の顔は、茹蛸状態になる。
そうこう考えていると泪の目の前に大きめの青い鳥がとまった。その隣に青い鳥がとまる。
「お前か、オレたちの縄張りに無断で入って来たヤツは……。うむ……みたこともない種類だな」
「そ、そうなんですね……ハハハ……」
そう言い泪は苦笑した。
「ねぇ、ダーリン。さっき話した件だけど」
「ん? ああ、そうだな。まぁ問題ないだろう……居るだけなら。それに、悪いヤツにはみえない」
「あ、ありがとうございます。用が済んだら元の家に戻りますので……」
そう言い泪は頭を下げる。
「それと、何か聞きたいことがあったら言え。答えられることなら、教えてやる」
「分かりました。でも、今は大丈夫です」
「そうか……なら、あとで何かあったらオレかコイツに聞くといい」
大きな青い鳥は、青い鳥へ羽を向けた。
「そういう事。それと、偶に話をしましょうね」
そう言い青い鳥は、ニコリと笑みを浮かべる。
それを聞き泪は、ウンウンと頷く。
その後も泪は二羽の青い鳥と話をしていたのだった。
ここはログロス村にあるドルムスの屋敷。
あれから泪は青い鳥と話していた。その後、再びドルムスの居る部屋を探し屋敷の周囲を飛んでいる。
(あ、あそこにいた。何をしてるんだろう?)
そう思いながら二階にある部屋の窓にとまった。泪は窓から中を覗きみる。中は書斎みたいだ。
泪の頭の中にドルムスの考えていることが流れてくる。それを察知すると泪は、しばらくドルムスの様子を観察することにした。
▼△★△▼☆▼△
ここはドルムスの書斎。
机上の書類をみながらドルムスは考えごとをしている。
(さて、どうする? 私を狙う者、か。うむ、まだ死ぬ訳にはいかぬ。かといって、城に戻るのも……)
そう思いながら溜息をついた。
(セフィルディは、本当に連れてくるつもりか? フゥ~、そう簡単に村長を任せられる者が現れるとも思えんが……。
万が一という事もある……その時は、城に戻るしかないだろうな)
そう考えるとドルムスは嫌な顔をする。
(そういえばセフィルディは、今日この村の宿屋に泊まると言っていたな。なぜ、この屋敷に泊まらんのだ? 昔から、訳の分からんヤツだったが……今も変わらぬ)
そう思考を巡らせるとドルムスは、書類を置き立ち上がった。
そして窓際までくる。
「ん? もしかして、さっきの鳥か……なぜここに……。まぁ、偶々だろう……」
そう言いドルムスは外の景色を眺める。
「恐らく、みつけてくるだろう……そうなればこの村を出ていかないとな」
ドルムスは寂しげな表情で村を見渡した。
「この村が心配だ。セフィルディがみつけてくる者……大丈夫なのだろうか」
心配になり眉を下げる。
「まぁ、心配しても仕方ないのだがな」
そう言いドルムスは部屋へと向きを変えた。その後、椅子に座り机上に向かい書類をみる。
その様子を泪は、色々と考えながらみていた。
▼△★△▼☆▼△
ここは美咲と司の家。
あれから司は美咲と喧嘩をする。そう、司が泪を家から追い出したからだ。
「司、いくら頭にきたからって……追い出すことないでしょ!」
「あのなぁ、たかが鳥だろ! それに、戻って来たければ……勝手に戻ってくる」
「うう……戻ってこなかったらどうするのよ」
そう言い美咲は泣き出した。
「あーえっと……泣くことないだろ。分かった……余り外に出たくなかったけど、探してくる」
「司……ありがとう。でも、大丈夫なの?」
「ハァ~……まあ大丈夫だろう。別に俺たちの顔が知られてる訳じゃないからな」
司はそう言い玄関の方へと歩き始める。
「あ、私も行く!」
そう言い美咲は司のあとを追ったのだった。
ここはログロスの村。
あれから美咲と司は、村中を歩いて泪のことを探していた。
「どこに行ったんだろうね……もう帰ってこないのかな」
「ごめん、美咲。俺が外に追い出さなければ……」
「そうだね……司のせい。だけど、ルイも部屋で暴れたから」
それを聞き司は俯く。
「本当に、ごめん。とにかく、もう少し探す」
「司、そうだね……」
そうこう話しながら二人は、ドルムスの屋敷までくる。
「……!?」
司は殺気を感じ立ちどまった。
「……これって?」
そう小声で言い美咲も、殺気を感じ辺りを見回す。
「多分、俺たちが狙いじゃない」
そう言うと司は、目を閉じる。
「三人だな……あの屋敷付近に居る」
「それって……もしかして、村長さんを狙って?」
そう美咲が言うと司は頷いた。
「恐らくな。だが……なんのため?」
「そうだね。……普通じゃない」
「クソッ、駄目だ!! この状況、流石に……見過ごせる訳がない」
司はそう言い放つとドルムスの屋敷をみる。
そう司は元々お人好しの上に、こういう状況を見過ごせない性格なのだ。
「あ、えっと……司? バレるよ……やめよう」
「いや、ほっとけない。美咲は、家に戻っていろ……俺だけで十分だ」
そう言い司は歩き出す。
「あ、待って……心配だから行く」
美咲はそう言うと司のあとを追った。
▼△★△▼☆▼△
ここはドルムスの屋敷の外だ。あれからドルムスは、気分転換のために外にでる。
現在ドルムスは、玄関付近で考えごとをしていた。
(……誰かの視線を感じる……一人じゃないな。セフィルディが言っていた刺客か……ふぅ~、思っていたよりも早かったらしい)
そう思っていると三方向から、ドルムスを囲むように武器を持った三人が迫りくる。
「来たか……」
そう言いドルムスは、もしものために装備して来ていた剣を抜いた。そして、警戒しながら身構える。
その三人の中にはサフィアがいた。
サフィアはダガーを構えながら、他の二人よりも早くドルムスのそばまでくる。
それに気づいたドルムスは、サフィアを攻撃しようとした。
「待ってください。ここは、私に任せて!!」
「どういう事だ?」
「理由は、あとで話します」
そう言いサフィアはドルムスを庇うように前にでる。
「サフィア、裏切るきか?」
「裏切る? そんなつもりはない。だけど、この依頼……アタシは納得していないのよ」
「そうか……なら、お前も」
そう男が言いかけた。
すると二人の男に目掛け炎の塊が個々にあたる。
「サフィア、まさかお前が……ここに居るとはな」
そう言い司が駆けつけた。
そのあとから美咲がくる。
「あーなんで司と美咲が、ここに居るのよ。て云うか、二人は……」
「その説明はあとだ。俺はこの二人を始末する。サフィアは、美咲と屋敷の中に」
「司……」
美咲は心配な表情で司をみた。
「俺一人で、十分だ」
「待って……他にも居るわ」
「サフィア、マジか? 探ったが、見当たらなかった」
そう言うと司は気配を探る。
「なるほど……屋敷の中か」
司は屋敷の方をみた。
「どういう事かね。まさか使用人の中に……」
そうドルムスが言うとサフィアは頷く。
そうこうしている間にも二人の男は、攻撃体勢に入っている。
「中のヤツの方が、強いのか?」
「司、そうね……一応ボスだから」
「そうか……それなら、中は俺がやる。こっちは、二人で頼む」
それを聞きサフィアは頷く。
「因みにボスは、司が良く知ってる人よ。まぁ、本人の話じゃ……かなり昔に司にやられたって言ってたけどね」
「誰だ? んーまあいいか。それなら多分、向こうも気づくだろうな」
そう言い司は、屋敷の中へと入っていった。
それを確認すると美咲とサフィアは、目の前の二人の男を警戒し身構える。
そして泪は、その様子を屋敷の屋根からみていた。
ここはドルムスの屋敷付近の建物。その物陰からセフィルディはドルムスの屋敷をみている。
(これは……天の助けか。ああ、これでドルムス様は助かるだろう。ですが、あの男女の二人組……。男性の方は、無詠唱で炎を出していた。
いえ、アレは魔法ではありません。そうなると……あの二人は、異世界の者となりますね。……まさかと思いますが、勇者さまと聖女さま)
そう思いセフィルディは美咲をみた。
(そうだとすれば、ドルムス様と一緒に居る方が聖女さま。……屋敷に入っていった方が勇者さまですね。
んー確か、勇者さまは指名手配されていたはず。まぁ……一つの城を崩壊させてしまったのですから、当然でしょう。
さて、どうしましょうか? ……この働き次第では……。ドルムス様が、どう判断するかになりますけれども)
そう思考を巡らせている。
▼△★△▼☆▼△
ここは屋敷の中。
現在、司は目の前に居る男をみて顔を引きつらせていた。その男はエメラルドグリーンの髪で眼鏡をかけたゴツイ体格をしている。
「なぜ司、お前がここにいる!?」
そう言いその男は司をみて驚きビクついていた。
「それは俺の台詞だ! なんでラギルノが、生きている?」
そう司の目の前に居る男とは、かつてこの世界に来た頃にとある町の鉱山で戦い倒した相手だ。……それが一度目。
名前はラギルノ・ダルフェである。昔は帝国の四天王、そしてリーダーだった。だが司や美咲と協力国の者たちにより、大陸にあった帝国の領土は占領される。
その時、司と再戦するが倒された。その後なんども、司とやり合うも全敗だ。……生きているのが不思議なくらいである。
「おい、それは酷いんじゃないのか。まぁ、死にかけたのは確かだがな」
「そうか、相変わらず運がいいな。あーいや違うか……体力バカだった」
そう司に言われラギルノは、頭に血がのぼる。
「ウグッ……相変わらずだな。だが、今度こそお前を倒す!!」
そう言いながらラギルノは、司を指差した。
「あーハイハイ……それ、なんど聞いただろうなぁ」
司はジト目でラギルノをみる。
「ふんっ、まあいい。そんな口を聞けなくしてやる!」
そう言いラギルノは、異空間から斧を取り出した。
「そういや、ルナセアはどうした?」
「ルナセアか……国を裏切ってから、どこに行ったか行方不明だ」
「そうか……あれから、かなり経つからな」
そう司が言うとラギルノは、呆れた顔をする。
「お前は相変わらず、お人好しのようだな。そんなんだから、いいように利用されたんだろうが」
「ああ、そうだな。だが……ほっとけないんだ」
「まぁ……それがお前の、いいところなんだろうがな」
それを聞き司は首を傾げる。
「珍しいな。お前が、俺を褒めるなんて」
「褒める? いや、嫌みのつもりなんだが」
「あーそういう事か。まあ、そういう事にしといてやるよ。それはそうと……この件から手を引く気はないか? お前が、俺に勝てる確率はゼロだ」
そう言われラギルノは考えた。
(確かに今回の依頼料を考えると……割に合わん。んーよりにもよって、司がこの村にいるとはな。だがこれは……司とのリベンジをするまたとないチャンス)
そうこうラギルノは思考を巡らせる。
(考えてるな。上手くいけば、ここは戦わないで済むかもしれない。下手にラギルノとやれば、この屋敷が崩壊……いやそれだけで済めばいい方だ。……村が消し飛ぶ)
そしてラギルノの返答を待つ間、司は色々と考えていたのだった。
司はラギルノの返答を待っていた。
「どうしたんだ? 何を悩んでいる」
「悩ませているのはお前だろ! だがそうだな……お前と戦いたい気持ちはある」
「なるほど……んー、ここじゃなきゃ駄目か?」
そう問われラギルノは首を傾げる。
「うむ、ここじゃなくても構わん。だが、どういう事だ?」
「お前と戦うのは構わないが、この村を壊しかねないからな」
「本当にお前、嘘がつけんな……素直過ぎる」
そう言われ司は苦笑した。
「嘘をつくより、いいだろ?」
「まあ、そうだな。んー、どうだ! それなら、取引しないか?」
「なるほど……それもアリだな。だがまさか、ラギルノから持ちかけてくるとは思わなかった。それで、取引内容は?」
そう言い司はラギルノを見据える。
「至って簡単だ。俺は今回依頼料をもらっている……だから、その倍の金額を出してくれたらこの件から手を引く」
「確かに簡単だな。だが、いくらなんだ? 金額によっては無理だぞ」
そう聞かれラギルノはその金額を言った。
「……でどうだ?」
「んー、その倍か……ギリギリだな」
「無理なら、この村を破壊するだけだが」
そう言われ司はジト目でラギルノをみる。
「なんか足元みてないか?」
「どうだろうな。だが、悪い取引じゃないだろ?」
「ハァ~、そうだな……だがどうする? お金を渡すにも、お前を逃がすにしたって……」
それを聞きラギルノはその方法を司に教えた。
▼△★△▼☆▼△
ここはドルムスの屋敷の外だ。
あれから美咲とサフィアは二人の男と戦っていた。と云っても、戦っていたのはサフィアの方である。
美咲はドルムスを安全な場所へ避難させていた。
そして現在、二人の男はアッサリとサフィアに倒され地面に倒れている。
それをみた美咲とドルムスは、サフィアの方へ歩み寄った。
「相変わらずね、サフィアは……」
「美咲だって、能力を使えば強いでしょ」
「んー私の場合は、自分と同化できるものがないと無理だからな」
そう言い美咲は苦笑する。
「ゴホンッ、話している所すまない。……改めて、ありがとう」
ドルムスはそう言い頭を下げた。
「あ、頭を上げてください。それにまだ終わっていないので」
そう言い美咲はドルムスの屋敷を指差す。
「そうね、ボスは強いから……。でも、司なら倒せるだろうけど」
「そっかぁ……だけど、そのボスって誰なの?」
「んー美咲も知ってるかも……ラギルノ・ダルフェよ」
その名前を聞き美咲は青ざめる。
「……あの人、生きてたんだね。でも、それなら……ここで二人が戦ったら火の海になっちゃう」
「えっ!? どういう事なの」
「司は炎の能力でラギルノが炎系の魔法を使う……ってことは」
そう言われサフィアは、ゾッとした。
「それって……村の人たちを避難させないと」
そう話をしているとドルムスの屋敷から司とラギルノが出てくる。
それに気づき美咲とサフィアとドルムスは、司とラギルノの方を向き首を傾げた。
ここはドルムスの屋敷の庭。そこには、美咲と司とサフィアとラギルノとドルムスが居て話をしている。
あれから司とラギルノは、ドルムスの屋敷から出ると美咲たちの所まできた。
美咲たちは、ラギルノに対して警戒する。
それをみて司は訳を話した。
その後、美咲たちは話をするため庭までくる。
現在、美咲たちは話し合っていた。
泪は近くの枝にとまり、その様子をみている。
「恐らく隠しても、あとで分かってしまうと思いますので名乗っておきます。俺は久遠司、と言えば分かりますよね」
「ツカサ……勇者か、まさかこの村に来ていたとはな。という事は、貴女が聖女であるミサキ様ですね」
ドルムスの司と美咲への対応が、あからさまに違っていた。
それをみて司は複雑な心境になる。
(そうなるよな……恐らく、ドルムスにとって俺は厄介者でしかない。だからこの対応は……普通だ)
そう思い司は、つらい表情になった。
ミサキは司の表情をみて心配する。
「……はい、そうです。ですがドルムスさん、司と私とでの対応が……」
「やめろ、美咲! 俺なら大丈夫だ。それよりも、これだけは信じて下さい。さっきも話しましたが、ラギルノは雇われただけです」
「うむ。それは、さっき聞いた。それで私に金を出せとでも云うのかね?」
そう言われ司は、ムッとするが堪えた。
「いえ、違います。お金の方は、俺が払うことで話を付けました」
「それを信じろと? その証拠がどこにある」
「証明する物はありません。ですが……」
それを聞きドルムスは首を横に振る。
「話にならんな」
「ドルムスさん。証拠はありませんけど……この村が炎で焼かれなかったのって、司がラギルノに話を付けたからですよね?」
「聖……いえ、ミサキ様。そうかもしれませんが、私は勇者さまを信用するつもりなどない」
そう言いドルムスは司を睨んだ。
司はそう言われ、クッと唇を噛みしめ俯いた。
「どうしてですか? なぜそこまで司を嫌うの……」
そう美咲に問われドルムスは司を凝視する。
「ドルムス様、私も聞きたいですな。なぜ、勇者さまのことを嫌うのか」
セフィルディはそう言いながら、美咲たちの方へ歩み寄ってきた。
「なぜ、セフィルディ……お前がここにいる?」
「用を思い出し戻って来たのですが……」
「そうか……それで、どこかに隠れてみていたという訳か」
そうドルムスに言われセフィルディは、ニヤリと口角を上げ笑みを浮かべる。
「まぁ……そうですね。それで、どうなのでしょうか」
「セフィルディ……お前も勇者の噂は知っているだろう」
「ええ、ですが……アレは国のミスだと思っています」
それを聞きドルムスは首を傾げる。
「国のミス?」
「はい、ドルムス様はあの国の城が破壊された件を……どこまで知っているのですか?」
そうセフィルディに問われドルムスは考え始めた。
「どこまで……そういえば、理由はしらん」
「なるほど……では、噂だけで勇者さまを嫌っている訳ですね。以前のドルムス様なら、そういう事はなかったのでしょうが」
そう言いセフィルディは、ドルムスから目を逸らし溜息をつく。
「そうだな……だがセフィルディ、理由があるのか?」
「あると思いますよ……そうじゃなければ、勇者さまがあんなことをしないと思います。そうじゃありませんか、勇者さま?」
そう問われ頷き司は、その時のことを美咲と一緒に説明する。
「ミサキ様を守るため……そうか、すまない噂をうのみにしてしまい」
ドルムスはそう言い頭を下げた。
「いえ、慣れているので。それよりも、さっきの件ですが」
「そうだな……」
そう言いドルムスは、ラギルノの方へ視線を向ける。そして、どうしたらいいのかと考えていたのだった。
ドルムスは、どうしたらいいのかと考えている。その後、徐に口を開いた。
「うむ、そうだな……但し条件がある」
「それはどんな条件ですか?」
そう司が問うとドルムスはラギルノをみる。
「ラギルノと云ったか。そうだな……お前が誰に雇われたのかを話してもらう。それとミサキ様の話では、強いと聞いた。場合に寄っては私側に就け!」
「……それは構わない。だが、タダ働きになるのか?」
そう言いラギルノはドルムスを見据えた。
「そうだな……タダ働きじゃ、あとが怖そうだ。いいだろう、依頼料として出してやる」
「依頼料か。そうなると、何かあれば簡単に……首を切られるな」
「何が言いたい?」
そうドルムスに聞かれラギルノは、ニヤリと口角を上げる。
「俺は貴方の素性を知っている。そうだな……もし今回、貴方が王位に就くことができたら城で働かしてもらいたい」
「ふんっ、そんな話か……あり得んな。そもそもお前は、城勤めなどしたことなどないだろう?」
ドルムスにそう言われラギルノは、過去のこともあり返答できない。
「そういう事か。ラギルノは、また城の仕事をしたいという訳だな」
「それは……ああ、そうだ。ツカサ、お前のせいで国が滅んだからな」
「フッ、アレは帝都国が悪かったんだよな?」
そう言うと司は、ジト目でラギルノをみた。
「国ごと滅んだ……それも帝都国だと」
「ドルムス様、まさかとは思いますが……あの黒の帝都と云われていたブルゲスタ」
「ああ、それしか思いあたらん」
そう言いドルムスとセフィルディは、驚いた表情でラギルノをみる。
「ツカサ……どういうつもりだ?」
ラギルノは司を睨んだ。
「ここは、本当のことを言った方がいいと思ったんでな」
「余計なお世話だ。俺はな……あの国であったこと全て忘れたい」
「それは無理だろ。お前が忘れたくても、他のヤツらはどうだろうな?」
そう司に言われラギルノは俯き下唇を噛んでいる。
「言い合いをするのは待て! 本当なのか……ブルゲスタに居たという事は?」
「ええ、それは嘘じゃありません。ですが……」
そう言いラギルノは、ドルムスから目を逸らした。
「ラギルノ、言ったらどうだ。言えないなら俺が言ってやる。カリスワイブのブルゲスタ領土……」
「あぁぁあああークソッ、言えばいいんだろっ!」
ラギルノはそう叫び重い口を開き話し始める。
「俺は昔……カリスワイブ大陸にあったブルゲスタの領土アザミの城に仕えていた。そこで……」
「どうした? 仕えていただけという訳じゃないだろうな」
「いえ……違う。だが、自分の口からは恥ずかしくてな。あの頃であれば、その肩書は名誉だったのだが……」
そう言いラギルノは、つらそうな表情で俯いていた。
「情けないな……俺は失望したよ。あのブルゲスタの四天王、そしてそのリーダーだったお前が……そんなんじゃな」
「クッ、なんでそこまでお前に言われなければならん」
流石のラギルノも我慢ができず、司の胸倉を掴み殴りかかろうとする。
「まぁ待て……なるほど、あの国の中心首都とも云われていたアザミ城の四天王か。それも、悪名高いブルゲスタの怪物」
そう言いドルムスは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「確か噂では勇者さまに倒されたと聞きましたが……生きてますね」
そうセフィルディは言いラギルノをみて首を傾げる。
「ああ、運よく生きてたみたいですよ」
そう言い司は、半目でラギルノをみた。
「悪かったな、生きてて……そんなにやり合いたいなら受けてやってもいいが」
「だから待て……ラギルノ、お前がブルゲスタの怪物なら肩書として申し分ないな。だが、本物ならだ」
「ああ、本物だ。だが、それを証明するものはない」
ラギルノはそう言うと遠くをみつめる。
「それは問題ありませんよね、ドルムス様」
「うむ、そうだな……証明する手段はある。だが、それには帝都に向かわなければならん」
そう言われラギルノは首を傾げた。
ここはドルムスの屋敷の客間。窓の外では、泪が中を覗いていた。
あれから美咲たちは、屋敷の中で話そうという事になりここにくる。
美咲たちは現在、ソファに座り話をしていた。勿論、ラギルノとサフィアもいる。
「ドルムスさん、大事な話ってなんですか?」
「ツカサ様、貴方はどこまでドルムス様の素性を知っているのでしょうか?」
そうセフィルディに問われて司は首を傾げた。
「んー、ここの村長ってことぐらいです。もしかして、違うんですか?」
「ツカサ、まさか何も知らずに……って……いつものお節介か」
そう言いラギルノは、呆れた表情で司をみる。
「なるほど……では勿論、ミサキ様も知りませんね」
「はい、ですが……セフィルディさんのドルムスさんへの対応をみていると……偉い人なのかと思いました」
「そうですね。ドルムス様の本来の名は、ドルムス・A・ファルゼア。アドバルド帝国の第一王子であらせられます」
そうセフィルディが言うと美咲と司は驚いた。
「待ってください! なんで帝都の王子さまが、こんな村に居るんですか?」
「ツカサ様が驚かれるのは当たり前ですね。私も探しあてた当初は、なぜ? と困惑しましたので」
そう言うとセフィルディは、ドルムスのことについて詳しく説明する。
「……じゃあ、ドルムスさんは……王位を放棄して家でした。そしてこの村に辿り着いて、色々あって村長に……」
司はそう言いドルムスをみた。
「ああ、しかし……弟に譲ったのだが借金で国は傾きかけているらしい。……恥ずかしい話なのだがな」
「それで、ツカサ様にお願いがあるのです」
「俺に?」
不思議に思い司は首を傾げる。
「はい、ツカサ様にはドルムス様の代わりに村長をお願いしたいのですが」
「……」
それを聞き司は驚き過ぎて言葉にならず絶句した。
「待て、セフィルディ。私は、そんなことなど言っておらんぞ」
「ドルムス様、ですが……城に戻って頂かなければなりません。そうでなければ城は……」
「そうかもしれんが、ツカサ様にお願いするのは違うだろう」
それを聞きセフィルディは首を横に振る。
「いいえ、ツカサ様だから信用できるのです」
「ちょっと待ってくれ。なんで、俺が信用できると思うんだ?」
「それは、貴方は嘘を付けないと云うのが一つ。もう一つは、他人のことを第一に考えることができます」
そう言いセフィルディは、真剣な表情で司を見据えた。
「……買い被り過ぎだ。俺は、別に人のことを常に考えている訳じゃない」
「ああ、そうだな。ツカサ……ただお前は目の前で困っているヤツをみると、敵だって助けちまう。ただの馬鹿でお人好しだ」
「おい、それって褒めてんのか貶してるのか……どっちなんだよ!」
司はそう言い、ジト目でラギルノをみる。
「ん? 俺は褒めてるつもりだぞ」
そう言いラギルノは、ニヤッと笑った。
「そうですね……ラギルノの言う通り、だからツカサ様が適任なのですよ」
「セフィルディ、そういう事か。嘘はつけない……裏切らないとも捉えられるな。それなら任せても問題ない」
司はそう言われ悩んだ。だが、考えたあと口を開く。
「分かりました。ただ、条件があります」
「条件? うむ……聞けることであればいいが」
そうドルムスに言われ司は、その条件を話したのだった。